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シナリオ詳細

大海の真珠は水底に

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●序
 とある世界の話をしよう。
 絡繰りと呼ばれる蒸気機関によって発達したテクノロジーが世界を動かし、軋む歯車の音が耳慣れたものとなったその世界。大昔は魔法に頼っていた人々も今では絡繰りの恩恵に預かって日々を送っていて。
 しかして魔法の名残というのも世界に残ったまま。幻獣と呼ばれる多くの魔法生物が人と交わらずひっそりと棲んでいた。
 さぁ、物語を始めよう。蒸気と魔法に彩られた世界の物語を。

●水底の少女
 ーーくらい、くらい、ここはどこ……?
 ごぽり。口の端から零れた泡が水面へと向かっていく。周りにいたはずの彼女の仲間たちは今や一人も見えない。ひとりだ。さびしい、さびしい。水中の彼女は魚のような下半身を腕の中に抱え込んで縮こまった。
 地上には多くの人の気配がする。きっと捕まったら自分は殺されてしまうのだろう。人と人魚は違う生き物で、人は異物を排除したがる性質だと姉たちからよく言い聞かされていた。
 ーーかえらなきゃ……。どうしよう、どうしたらいい……?
 千歳を生きる人魚といえど、彼女は他の姉たちよりまだずっと幼い。じわり、珊瑚色の瞳に真珠のような涙が浮かんでは、水に溶けた。
 ーーまもらなきゃ、わたしを。

 夕暮れに差し掛かろうかというとある街の水路の上に。ぶわりと深い濃霧が広がった。


「街に突然、深い霧が発生したそうでね」
 そこまでならいいのだけど、とカストルは微笑を浮かべて言葉を繋いだ。
「それが人魚伝説が残る街でさ。人魚の仕業じゃないか、なんて噂が流れてるんだって。もしそうなら宥めてあげてくれないかな?」

NMコメント

 初めまして、凍雨と申します。
 初めてのライブノベルはスチームパンク風世界で人魚と交流するハートフルシナリオ(予定)でございます。
どうぞよろしくお願いします!

●依頼内容
 人の街に迷い込んだ幻獣「人魚」が自己防衛の為に濃霧を発生させているようです。かつては幻獣狩りのあったこの世界でも、それも昔の話。彼女とあらゆる方法で交流・宥めてあげてください。参加者様には霧の発生元、つまり人魚の居場所はわかっているものとします。
 なお成功条件は「人魚の少女を宥め、濃霧を失くしてもらうこと」。けれどそれ以降の彼女がどうするかも参加者様次第、物語次第となります。

●人魚の少女
外見年齢16歳ほどの人魚。白い肌に珊瑚色の瞳、淡い水色の髪をした臆病な少女です。実はずっと人間に興味があったらしくいつか人間の街に行ってみたいと思っていました。しかし急に人間の街に流れ着いてしまい今はむしろ戸惑っているようです。本来は優しいとてもいい子です。あと美少女です。
 人間の街のものや音楽、歌なども気に入ってくれるかもしれません。

●舞台
 運河と水産業で栄えた水の都と呼ばれる街です。町中に水路が張り巡らされて迷路のような様相を呈しており、もちろん海へつながる水門もございます。人魚伝説が残る街でもあり、その為幻獣に対しては寛容かつ友好的です。

●人魚伝説
 人魚の彼女が迷い込んだ街には以下の人魚伝説が残っています。参加者の皆様があらかじめ知っている情報として扱っていただいて構いません。
「昔々人魚の少女と交流した人間の青年がおりました。人魚の歌声は美しく、その瞳は澄んでいて。けれども人魚の少女は一度たりとも笑いませんでした。それでも青年は来る日も来る日も彼女と話し続けて……初めて彼女が笑顔を見せた時。街には人魚の祝福が訪れ、その街は水の都と成ったのです」

……以上となります。それではご参加お待ちしています!

  • 大海の真珠は水底に完了
  • NM名凍雨
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年01月28日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

リプレイ


 こぽり。泡の浮かぶ音が静かに聞こえる。
 時折ゴンドラの影が水底に落ちるけれど、濃霧の影響かその数も少ない。
 それが人魚の魔法とは、本当にいろんな方がいらっしゃるのだなと『言祝ぎの祭具』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は思う。
 事実、この世界において人魚は御伽話のようなもの。そんな物語の登場人物のような少女と邂逅できるとあっては『嗤う陽気な骨』ボーン・リッチモンド(p3p007860)の上機嫌も頷ける。まして美少女となれば尚のこと。
「カッカッカ! ぜひとも俺の演奏で綺麗な歌声を聴かせてもらいたいもんだぜ!」
 こくりと『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が同意を示す。
「音楽や、食べ物など、|陸《そら》のことを、知っていただきたいですの。そうすれば、怖がる必要なんてないと、きっと分かって下さいますの」
 人魚の先輩として教えられることがあるはずだと、ノリアは意気込んでいた。
「人魚さん……助けられるといいな」
『そうだな、パニックになっているだろうからまずは落ち着かせることだな』
 酸素ボンベで顔が隠れた状態で『穢翼の死神』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)が呟く。応えるようにティアの口から紡がれたのは彼女を操る魂の声だ。
 睦月も「まずはお話できるといいですね」としっかりと頷く。
 奇しくも見目は万別なれど、想いは同じに。

●水底
 街の中心から外れた水路の底に人魚の少女はいた。
 白い肌に大きな瞳、波打つアクアブルーの髪は艶やかに。けれど彼女は突然現れたイレギュラーズに恐れの瞳を向け、小さく震えているのが見て取れた。
 そんな様子を見てか、ボーンは丁寧な口調で彼女に語り掛ける。
「初めまして、素敵なレディー。俺は怪しい者ではないし、ましてモンスターでもない。しがない骨野郎なボーンさ。もし良ければ少しお話しないかな?」
 その言葉は優しく、そして何故か強く心惹かれて聴こえた。
 人魚の珊瑚色の瞳が微かに揺れて、恐れの色が薄らぐ。
「はじめまして、ノリア・ソーリアと申しますの。わたしも人魚ですので、あなたの不安を取り除く、お手伝いができると思いますの」
 ノリアがくるりと輪を描くように泳ぎ、透き通る尾を見せた。同族であることを知り、少女の肩からゆるゆると力が抜けていく。
 ティアも安心できるようにと酸素ボンベを外し素顔を見せた。
「こんにちは、初めまして。私はティアというよ。見ての通り君と同じで人じゃ無いんだ。君の名前はなんていうのかな?」
 ティアの微笑みは天使の如く穏やかで、人魚の少女に敵でないことを十分に伝えるもの。
「……コーラル、です」
 小さく、囁くように少女が名を呟く。
「コーラル。可愛い名前だね、珊瑚色の瞳によく似合ってる」
 初めて聞く少女の声にティアが顔を綻ばせて。
 怖がらせないようにゆっくり手を回し優しく抱きしめ、よしよしと頭を撫でた。
「ずっとひとりで寂しかったよね。大丈夫、私達が一緒にいるよ。そしたら、心強いんじゃないかな」
 孤独な水の世界に流れ着いて初めて感じるぬくもり。
 暖かくて、安心して。緊張の糸が切れたようにコーラルの体から力が抜けた。
 途端に瞳からぼろぼろと大粒の涙が溢れる。
「わた、わたし……ひとり、で」
 えぐえぐと泣くコーラルにティアが慌てると、睦月がゆっくりと近づいた。
「お初にお目にかかります、冬宮の者です。よければ花束はいかがですか」
 手短に自己紹介をするとと、持っていた花束のリボンを緩やかに解いていく。
 鮮やかな花弁が暗い水底に色を灯して、水底に咲く花園のように広がった。
 コーラルは目を見開いて水中の花を眺める。
 香りは水に溶けてしまうけれど、それはどんなに馨しい香りなのだろう。
 伸ばした指先が桃色の花びらに触れる。
 それを見た睦月が桃色の花をコーラルの髪に飾り、にっこりと笑みを向けた。
「どうか泣き止んでください、可愛らしい人魚さん」
「きれい、です。……ありがとうございます」
 ぱちくりと瞳を瞬かせた人魚の彼女は、ようやく落ち着いた表情を見せるのだった。

●人街探訪
 コーラルが発生させる濃霧だが、どうやら彼女の『怯え』に比例するようだと水面から様子を伺ってノリアは告げた。
「霧の量はずっと少なくなっていますけれど、まだ残っているようですの」
 怯えをなくすにはどうすればいいのだろう。
 そうだ、と声を零したのは誰からともなく。
「散歩へ行きましょう。この街は水の都と呼ばれるほどたくさんの水路があるそうです。そこから人間の暮らしを覗いてみませんか」
 睦月が様子を伺うと、コーラルはおずおずと頷いた。
「皆さんと一緒でしたら。私、行ってみたいです……!」
 イレギュラーズ達が笑って顔を見合わす。そうと決まれば出発だ。
 水中を泳ぎながら、やはりコーラルが不安そうに視線を彷徨わせていると、ボーンが彼女の隣に進み出る。その姿が見る間に精悍な男性の姿へと変わった。
 コーラルが瞳を瞬かせると、彼は恭しく彼女の手を取る。
「俺もこの街を見るのは初めてでね。初めて同士、デートと洒落こむのは如何かな? 俺たちにレディーをエスコートさせてくれるかい」
 御伽話の一幕の様に手の甲へ柔らかなキスが落ちて。コーラルの頬が赤く染まる。
 ティアも大丈夫だよと笑いかけた。
「人は人じゃ無い相手を嫌う場合もあるけど、ここはそんなことないみたいだから安心して良いと思う。何かあれば守ってあげるね」
 ノリアが「お任せください」と胸に手を当てる。
「わたしも陸で気づいたことを、教えて差し上げますの。そうですの、陸には未知の食べ物が溢れていますので、まずはお食事にするのは、いかがでしょうか?」
 もう片方の手を取ってたおやかに微笑んだ。

「わたしが驚かされたのは、甘い果実や、火を使った熱々の料理……海では味が流れて、消えてしまう、儚くて美味しい、芸術品ですの」
「芸術品、ですか?」
 不思議そうにコーラルが聞き返すと、頷いたノリアが香ばしい匂いに気付いた。
 街のベーカリーでパンが焼きあがる匂いらしく、ノリアは瞳を輝かせる。
「ちょうどいいですの。わたしが行って、お買い物してきますの!」
 ノリアのギフトは陸でも水中の様に泳げるものなのだ。
 ティアがそれなら、と。
「私も一緒にいくよ。持ちきれないかもしれないから」
 二人が買い物から戻ると、差し出したのは焼きたてのアップルパイ。
 皆に大丈夫だからと促され、コーラルが恐る恐る一口齧る。
 サクリ。パイが気持ち良い音を立て、りんごの甘みが口いっぱいに広がった。
「熱いです!熱くてあまくて、おいしいです……!」
 嬉しそうにはしゃぐコーラルにボーンが明るく笑う。
「カッカッカ! パンみてェな火を使った食いもんは初めてだよな。頬張る顔も可愛いぜ!」
「ええ。火は料理以外にも、いろんなことに使いますの。魔法を使わずとも夜の海に灯りがともるのは、火のおかげですの」
 人にとって火は夜闇を照らし、日々の安心を得るもの。
 人魚が水を求めるのと同じに。人の暮らしになくてはならないものなのだ。
「太陽が水を、消すように。霧も、火を消しますの。霧を無くすことで、わたしたちが、怖いものではないことを、証明できますの」
 証明できればむやみに攻撃してくる人などいないはずだから。
 人魚が人を恐れるならば、逆もまたしかり。
 けれど互いを理解し合うことができたなら、きっと大丈夫だとノリアは笑った。

 夕方。コーラルは水面から人の世界を覗き見る。
 夕日に煌めく街並みと、活気ある人々のざわめき。
「すごいです。聞いていた世界が目の前に……」
 コーラルの瞳が濡れているのは、憧れた世界を目にしたから。
 いつの間にか濃霧は影もなく水は静かにせせらいでいた。
「きっとコーラルの見たことないもの、まだたくさんあるよ」
「食べ物もいっぱいあります。和菓子が美味しいですよ」
 ティアと睦月が言う。それは海では知りえない宝物の様な景色のはずだから。
 夢中で眺めていたら人が近づくのにも気づかなくて、大慌てで水中に隠れたり。くすくすと笑みがこぼれ、誰からともなく笑いあうのだった。

●さよならとバルカロール
「コーラルさん、この街の人魚伝説を知っていますか?」
 人差し指を立てて睦月が微笑む。謎めく秘密を明かすように。
 ふるふるとコーラルが首を振ると、睦月は水路から上がって道行く男に声をかけた。
 人魚伝説を話してくれるかと問うと、気の良い男は「おうよ」と快諾して話し始める。
 それはコーラルの耳に優しく触れる物語。
 男は尚も続ける。
「そうさな。もし本当に人魚がいたら、まずは祝福に感謝を。そんで街のうめー料理食って観光してもらってさ。来てよかったって思ってもらえたら最高だよな!」
 じわり。泣き虫な人魚の瞳に透明な涙が浮かんだ。
 ーーこの街は遥か昔、仲間が愛した街なのですね。
 目を閉じれば鮮やかに蘇る、この街の美しい景色の数々が。
「ありがとうございます。私、ここに来られてよかった。皆さんのことも、この街のことも、絶対忘れません」
 すべてきらきら輝く宝物となって人魚の胸に刻まれている。
 大海の真珠が輝くように、コーラルは笑った。
 四人のイレギュラーズも優しく微笑むのだった。
 
 日も傾き、海へ繋がる水門はすぐそこ。
 人魚の姉たちがきっと探しに来てくれているだろう。
 お別れの時間だ。
「皆さん!最後に私の歌を聴いていただけませんか」
 人魚の歌声は海を征く旅人への祝福となるのだ。
 コーラルの提案にボーンが嬉しそうに声を上げる。
「お、なら俺のヴァイオリンを伴奏にしてくれるかい?」
 彼の演奏の腕前は一級品。早速ヴァイオリンを構え、弦を震わせた。
 夜の水の都に美しい旋律と透き通った歌声が響き渡る。
 優しく、そして甘やかに。
 それは奇跡のような出逢いを言祝ぐ歌。

成否

成功

状態異常

なし

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