シナリオ詳細
ウルグリフ争奪戦
オープニング
●一発逆転の一手
「最近、そこらの盗賊共が手を組んだり潰されたりしている」
とある町はずれの隠れ家でいかにも盗賊風な男が言う。
男の言葉を聞くのもこれまた盗賊然とした若い男衆。
しかしながら大して強そうにも見えない彼らは、実際大した盗賊ではない。
「だが俺達と組んでくれる盗賊はいなかったし、だと言うのに足がついちまった」
このままでは俺達は終わりだ。男の言葉に周囲がざわめき立つ。実に情けない。
しかしここで男は声を大にして宣言した。
「そこで俺はこいつを盗んだんだ! 見ろ! このお宝を!」
掲げた両手には、一抱えもある巨大な球体。
盗賊達は歓声を上げ、勝利の確信と共にフラグまみれの言葉を飛び交わしたのである。
●足がついたので
「盗賊討伐依頼が来たのです」
やや震えた声で『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が依頼書を持ち込んだ。
盗賊討伐は珍しくないが、ユリーカのその様子は珍しいとイレギュラーズが集まってくる。
子供をあやす様にユリーカをなだめるイレギュラーズにまんまとなだめられつつ、ユリーカが広げた依頼書の内容はこうだ。
【ヴンドルノ盗賊団から宝を獲り返せ】
ヴンドルノ盗賊団の隠れ家が発覚しました。
これを襲撃し、彼奴等が奪った『ウルグリフ』を回収して下さい。
ヴンドルノ盗賊団は必ず全員捕まえるか殺すかして下さい。
ウルグリフに関しては、最悪失われても構いません。しかしこれが人に危害を加えないよう対策して下さい。
また、ウルグリフは別のウルグリフが回収に来る恐れがあります。この場合も上記の通り対処して下さい。
「……ウルグリフってなに?」
依頼書を読んでいたイレギュラーズの一人が顔を上げる。
「魔獣なのです」
さらりと言うユリーカ。
「いや待て」
「魔獣? 魔獣盗んだの?」
「正確には魔獣の卵、なのです」
説明するのですよー、と依頼書を捲り始める。
指し示したのはまんまるとした球体の図。その横に立つ人間とのサイズ比からして、かなり大きなものだ。
「これがウルグリフの卵。今回盗まれたお宝なのですが、ヴンドルノ盗賊団はこれをウルグリフの巣から盗んだのです」
その際に利用した情報網や協力者の狩人などから足がついて隠れ家が見付かったらしい。
「それで、ウルグリフは別名ウルフグリフ、上半身が大鷲で下半身は大狼、ヒッポグリフの亜種と言われる魔獣なのです」
さらに捲った依頼書には、鳥の頭、前足、翼を持ち、犬の後ろ足と尾を持つ怪物だ。サイズ比から見ると人より大きく、軍馬ほどはありそうだ。
「本来は大人しく数も少ない魔獣なのです。刺激しなければ人に寄ってくることもないのですが、この魔獣、インプリンティングがあるのです。つまり刷り込み、それも『生まれて初めて見た動いて音を発するものを親だと思う』っていう一番簡単で厄介なやつなのです」
「はあ」
「その上腐っても魔獣なので、鍛えれば強くなりますし、仕込めば色々と覚えるのです。ぶっちゃけ盗賊が育てればとんでもない強盗魔獣に育つのです」
「はあ!?」
だから奪い返せ、そして潰せ。それが依頼だった。
「親鳥が取り返しに来て襲われるかも知れないので、依頼がローレットに来たのです。盗賊団自体はイレギュラーズ一人で殲滅できるくらい弱いのですよ」
「はあ……」
相変わらず厄介な依頼ばかり来る。それがギルド・ローレットだ。
「どうするかはもろもろ全部皆さんに任せるのです。このおっかない魔獣をどうにかしてください」
- ウルグリフ争奪戦完了
- GM名天逆神(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年03月23日 21時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●盗賊の事情
「兄貴ぃ、これで俺らぁ自由になれますかねぇ」
不安げな声。
兄貴と呼ばれた盗賊はウルグリフの卵を背中に背負い、布とロープで括り付ける作業の手を止める。
「心配すんな」
に、と笑った。
彼は幾度となく、仲間に、部下に、その笑みを向けてきた。
ある盗賊一家に拾われた孤児たちは、少年時代の彼に手を引かれて逃げ出した。
盗みと殺ししか知らない彼らは殺しはしたくないからと盗みで生きて行く事を決め、ヴンドルノ盗賊団を名乗るようになる。
そして今日まで細々と活動してきた。
時に孤児を拾い、時に命を落としながら。
「今度はよお、足を洗えるかもしれねえ。こいつを使って荒稼ぎしてよお、稼いだ金を幻想貴族に握らせるんだ」
男は語る。盗賊とは思えないほど甘い夢を。
常日頃から言っていた。盗賊なんてどうせ長くは続かない、いずれ足を洗うか、それか大組織の上に立たなきゃ、歳食って衰えた盗賊が生きていけるわけがないと。
てめえ一人ならそれでいい、だが部下にはそんな末路は辿らせたかねえ、と。
「ローレットに頼んで隣国に高跳びするんでも良い。なんならこいつと一緒に森で暮らすのでも良いぜ?」
卵に触れる。
どうせお前らは育てる内に情が移りそうだしな、と揶揄えば、違えねえと笑い声が返る。
「いつかこいつの嫁さん探してやってよ、俺ら全員、養ってもらおうぜ」
「ご飯だーつって、虫とか取って来ないスかねえ」
「それも仕込みゃあいい。美味い飯食わせてやろうぜ」
「そんなら料理も仕込みませんとね」
「ははは! そいつぁいいな!」
「まずは俺らが覚えなきゃダメだろ」
「それな」
不安が笑い声の中に解けていく。
ヴンドルノ盗賊団、一発逆転の一手。
その希望は卵のまま、生まれる時を待っていた。
●イレギュラーズの事情
「やれやれ、卵を孵して無垢な子供に悪事を教えようとは呆れた輩だな。後先考えない無謀というのだ、そういうものは」
かっぽらかっぽらと歩く『魔法の馬』シフカ・ブールカ(p3p002890)はブルブルルルと首を振る。見るからに馬であるシフカは獣種のようでもあるが、火花が散る両の目ともうもうと煙を吐く鼻は旅人の証だ。
「盗賊も褒められたことではないですが、生まれてもいない者を利用するのは駄目ですね」
シフカと同じく『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)もそう口にした。
もちろん混沌にも家畜は居る。人のために生まれ人のために死ぬことを決定付けられた命は数えきれないだろう。
それでもシフカとフロウはそれを是とはしない。
他の面々も主義主張はともかくとして、平和的な解決を望んでいた。
プランA、卵を死守しつつ盗賊を迅速に制圧し、親鳥に卵を返す。彼らはその作戦を選んだ。
いや、彼等が本当に選んだのは、盗賊も殺さずに捕らえた上で卵も保護し親鳥に返す、全てを守る選択肢だ。
最高の結末を求めるには最善を尽くさねばならない。
イレギュラーズの顔付きはいずれも真剣そのもの。いよいよ目的地の小屋が見えてくると更にその顔は引き締まった。
「それじゃあ、平和的にイきましょう?」
長い黒髪をかき上げながら『夢幻泡影』鏡・胡蝶(p3p000010)が静かに言うと、イレギュラーズは一様に頷き、二手に分かれて行動を開始した。
●成功、成功、失敗
「ごおおおおおおおお!!!」
「うわあぁぁぁああ!!?」
唐突に現れたゴリラが雄叫びを上げながら窓をぶち破って小屋へ侵入してきた。
「ひひいいいいいいん!!!」
「ひええぇぇぇええ!!?」
そのゴリラに並んで馬までもが突入してくる。
小屋の中は悲鳴と嘶きとドラミングが大音量で鳴り響き馬の鼻からは煙幕まで放出され小屋中に立ち込めるまさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
しかしこれも作戦の内だ。
馬とは即ちシフカであり、ゴリラは即ち『GORILLA』ローラント・ガリラベルク(p3p001213)である。
家屋にヒグマが侵入してもこうはなるまいと言う大混乱の中、入り口のドアを蹴破るようにして残りのイレギュラーズも雪崩れ込む。
「ふ……ッ!」
小屋へ入るや否や、『野良犬』ヘレンローザ(p3p002372)はすぐ隣に立っていた盗賊の側頭部に回し蹴りを叩き込んだ。
そこへ杖を構えた美少女『契約済み』獄ヶ原 醍醐(p3p004510)が追い打ちをかける。
「大丈夫。貴方達も死なせないから……ごめんっ! 魔力の刃よ――お願い! リッパー!」
願いと共に紡がれた術式は魔法の刃となり、蹴り倒され呻く盗賊を深々と切り刻む。
盗賊は血だまりに倒れ込んだが、願いが届いたのか、息はあるようだ。
「通してください……です」
入り口でごたつく仲間を押し割って『ルゥネマリィ』レウルィア・メディクス(p3p002910)は奥まで進み、卵を持った盗賊を探す。その男は壁際に立って窓を見ていたが、入り口側からの強襲にも気付いて振り返った所で目が合った。
「奇襲いきます!」
男が目を見開いた瞬間、レウルィアの背後から『悪い人を狩る狐』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)が飛び出し、宙を蹴ってそのまま男の左肘へ浴びせ蹴りを見舞う。
「ぐあ……ッ!?」
有り得ない軌道に不意を打たれ、容易く攻撃を受ける男。痛打を叩き込んだ手応え。男は左腕をだらりと垂らしたが、背負った卵は右手とロープのおかげで滑り落ちはしなかった。
「これは……ロープを切らないといけません……です」
「あら……厄介ね」
初動は卵奪還を目的に動いていたレウルィアと胡蝶、ルルリアが顔を曇らせる。誰かが持っている所までは予想していたが、固定しているとまでは思わなかった。
重い物を運ぼうと思ったら背負うにしろ台車とかを使うにしろ、固定はするよなー、などと今更ながらに思う。もっと言えば入り口でつっかえなければロープを切る余裕もあったかもしれない。
「兄貴ぃ! 囲まれてます!」
「わあってる! てめえら、こっち来い!」
そうこうしている内に右往左往したり硬直していた盗賊達が正気に戻り始めた。
卵を背負った団長を中心に、手下が四人。入り口傍に倒れているのが一人。
対するイレギュラーズは壊した窓側に二人、入り口に三人、部屋中央まで踏み込んだ三人。
総勢14名(内ゴリラ1、馬1)が小屋の中で一堂に会した。
「誰だ、てめえ……!」
壁際に追い詰められ、汗を垂らす男が言う。
その言葉に待ってましたとばかりに一歩前へ出て、叫ぶ。
「私、鳴海ほのか。魔法少女です!」
完全無欠の美少女っぷりを振り撒き、ポーズを取る醍醐。
数舜の間を置いてその場の全員から「いや誰だよお前」とツッコミが炸裂した。
●逆鱗
奇襲は成功した。
盗賊の一人はほぼノータイムで沈められたし、息も有る。なおかつ生殺与奪の権利も得ている。
他の盗賊も混乱の中で手傷を負わせた上で退路は完全に封じた。
卵の奪還までは至れなかったが、しかしそれの対策も練ってきた。
それは交渉。
いや、脅迫だ。
悠長に説き伏せている暇は無い、親鳥が来る前に卵を保護し盗賊を全員捕縛する為にはこれしかない。そう考えたイレギュラーズの行動は早かった。
「投降してください」
杖を構えてフロウが言った。その杖先には魔力が渦巻き、盗賊達の手足を油断無く狙い続けている。
実力差は先の奇襲で思い知った。
人数差も有る上に、退路が無い。
不利は歴然。いや、敗北は必至だろう。
だが盗賊達は誰も直ぐには頷かない。その理由は、
「彼はまだ生きている」
ローラントがそう言ってヘレンローザに視線を飛ばす。
「大人しく捕まる場合は減刑してやる、断れば少なくともコイツは殺す」
彼は足元に転がる盗賊を示して言う。その言葉には年に似合わぬ凄味が有った。
狼狽える盗賊達。彼等は自分の命だけではなく、仲間の命も大事に思っている。だからこの脅迫の為に人質を取ったのだ。
全員で逃げようとする可能性をまず第一に潰した。その上での脅迫だ。
「えと、仲間を失いたくなければ、大人しくこちらの指示に従ってください……です。ウルグリフの親鳥もまもなく来ます……です」
「親鳥が!?」
「ここであなたたちが皆殺しにされるか、否かは……皆さん次第……です」
「ああ、そうだ。なので判断までの時間は長くは与えられない。このままでは君らはともかく、そこに倒れている者は間違いなく犠牲となるだろう」
レウルィアの言葉をローラントが補強し、詰め寄る。
「大人しく降伏すれば傷の手当ても行おう。そして卵も無傷で返還したなら、この騒動も未遂とし、君達の罪が軽くなるよう尽力することを誓おう」
卵を奪えなかった分、ここでの交渉は少し引かざるを得ない。
しかし時間は無い。今直ぐにも頷かせ、卵を取り戻さねばならない。
イレギュラーズの内心には焦りが有るが、必死なのは盗賊も同じだ。助かるのなら是非もないが、だからこそ確証を欲して問うた。
「そ、そういう話なら乗るぜ! だっ、だけどよお、減刑っつってもお前らにそんな権限あんのか?」
「我々はイレギュラーズ、ギルド・ローレットから派遣されてきた。ギルド条約によって便宜は図れるはずだ」
シフカの答えに、盗賊は皆口を閉ざす。
ギルド・ローレットのイレギュラーズはギルド条約によって保護される。多少の問題が有ろうと見逃され、更に必要とあれば各国などから支援を受けられるというものだ。
幻想では特に予言やイレギュラーズを信じる者が多く、受けられる支援も大きいはずだが、しかしそれはイレギュラーズやギルドのための条約であって、イレギュラーズの我がままを認めるものではない。
故に、迷う。
「お願い……これ以上の争いは無駄だと思う……だからこれ以上は……! 仲のいい貴方達を傷つけたくはないの!」
脅迫の最中に懇願する醍醐、否、ほのか。その真摯な態度に盗賊も胸打たれ、更に迷う。
「名誉や金なんかより……命があればもうけもの、そう思わない?」
胡蝶もここは色仕掛けではなく、真っ直ぐと言葉を投げた。命あっての物種、特に仲間の命に代えられないことは分かっていた。
「ぐ……!」
遂に盗賊の一人が前に出て、背負っていた卵を胸の前へと抱え直した。
その後ろ姿を、他の盗賊達が見守る。
「さ、最後に聞かせてくれ……依頼人とギルドに、もう話はついてるのか……?」
「………」
誰も、答えなかった。
男は気になったのだ。ギルド条約が効くのかどうか、そんなことは先に根回しすれば分かる事だ。男に判断がつかなくとも、例えば嘘だったとしても、イレギュラーズの口から確約を貰いたかっただけ。
ただ返ってきた期待外れの沈黙に、男も立ち止まってしまった。
「え――」
バキッ。
男が疑問を投げ掛けようとした瞬間、床に転がっていた盗賊から鈍い音がした。
それはヘレンローザが瀕死の盗賊を蹴り飛ばした音だった。
血を吐き、意識が無いままに呻く盗賊。息はまだ有るが骨が幾らか折れたのだろう、嫌な形になっていた。
「依頼主からのオーダーはお前らの壊滅。生死は問わない、だ。卵は別にどっちでもいいって話なんだよ。だから、この勧告は厚意だよ」
先程以上に凄んで見せるヘレンローザ。
その言葉に嘘は無く、仲間を殺すと言った宣言にも偽りは無い。
しかし、さっきより盗賊達の動きは遅い。
「生死問わず、か。んなもん刑もクソもねーなあ……話も通してねえし努力はしますってなあ……こちとら命かかってんだぞ……?」
ゆらりと、卵を持った男が一歩前に出る。
ぶつぶつと何かを呟きながら。
そして卵を差し出して、
「わかった。卵は返す」
不気味なほど素直に、降伏の意を示した。
●襲来
卵を受け取るためにレウルィアが前へ出た。
その細い両腕に卵を慎重に受け取ろうとする彼女へ、男が言う。
「親鳥が来るんだろ? ちんたらしてんなや」
言葉と共に、卵が放られる。
ヘレンローザに向かって。
「くぅ……ッ!?」
誰もが立ち尽くす中、卵をじっと見守っていた胡蝶だけが反応し、ヘレンローザの前へと飛び出した。
全身をクッションにし、自分が床に転がりながらも卵を守ろうとする。
それと同時に盗賊達は雄叫びを上げて駆け出していた。
攻撃かと身構えたイレギュラーズを無視して、全員が、倒れ伏した瀕死の盗賊へ覆い被さる。
直後、
「ここだあ!!!! ウルグリフッ!!!! てめえの子供はここにいるぞおおおおおおおおッッ!!!!!!」
卵を投げだした男が、命を吐き出すかのような絶叫を上げた。
「ックソ、こいつ……!」
親鳥がやってくる。
それはすでに退路を断たれていたヴンドルノ盗賊団にとって何よりも危険だが千載一遇のチャンスでもあった。
やられたと、そう思った時にはもう遅い。
なんの前触れもなく小屋の天井が吹き飛び、木片が突風と共にイレギュラーズを襲った。
その中でヴンドルノ盗賊団だけが動き出し、半壊した壁板を蹴倒して逃げ始める。
「逃がすわけにはいかない!」
「待って! ウルグリフが……!」
後を追おうとするシフカをほのかが呼び止め、天を指す。そこには憤怒と心配とで狂い始めているウルグリフが羽ばたいていた。
その怪鳥の視線は、真っ直ぐに胡蝶を見下ろし――
「……!」
唐突に振り下ろされたかぎづめを割って入ったレウルィアが受け止める。
ディフェンドオーダーで高めた防御を上から捩じ伏せる剛腕に苦悶の声を漏らしながらも耐えきり、振り返る。
「卵は……!」
「無事よ!」
胡蝶は大事に抱えた卵を示す。ヒビは入っていたが、割れてはいない。中から聞こえる音からも雛が無事なのが分かる。
あとは返すだけ。しかし、
「追う余裕はない」
追えば間に合うだろう。
ヴンドルノ盗賊団は全員手負いで、瀕死の仲間を抱えていて、なおかつ逃げ足も速くはない。
だが、二兎を追えば確実に全てが台無しになる。
「……プランAだ。卵を返し、親鳥を宥めるぞ」
ローラントが声に出して、ウルグリフへと歩み寄る。
苦渋の決断だった。
だがそれでも、全てを投げ出すわけにはいかない。
「壁になる。その間に、返してやってくれ」
筋肉を隆起させ、立ちはだかるローラント・ガリラベルク。今回ばかりは胸を叩かず、ただその背中に仲間を守る。
ウルグリフが甲高い声で鳴けば、突風が衝撃となって全員を襲う。
更には卵を持った胡蝶へと襲い掛かろうとするのを、ローラントとレウルィアが血を流しながら喰い止める。
「余計な刺激はしないように……!」
咄嗟に攻撃態勢に入ろうとする仲間へフロウが注意を飛ばす。
ここからは根競べだ。
戦闘の余波から卵を守り、そしてウルグリフに敵意が無い事を伝えて許してもらう。
それが出来なければ――
「待ってくれ! 我々は味方だ! 君の雛は必ず君のもとへ届けよう!」
シフカが嘶くように叫ぶ。
卵はこちらの手にあるが、今返しても人への敵意が消えなければ後の問題に繋がる。
それに、このままでは他ならぬ親鳥自身が卵を破壊しかねない。
「ダメです! 話を聞いて……!」
ほのかには動物疎通は無い。言葉は通じないだろう。それでも前に出て攻撃に身を晒し、敵意が無いことは示せた。
同じように耐え続け反撃をしないイレギュラーズは、それだけでウルグリフへの説得となる。
狂いかけの親だが、幾度となく攻撃を繰り返すうちに、イレギュラーズが『奪った宝を離さない敵』ではなく『奪われた卵を守っていてくれる味方』だと気付き始める。
そして、自分の攻撃こそが我が子を脅かしていると気付き、遂に攻撃の手を止めた。
「わたし達は……親鳥さんの、あなた、に……卵を返すべく……やって、きま、した……です」
息も絶え絶えに、血に濡れたレウルィアが両手を広げて語り掛ける。
その後ろから、今までずっと守られていた胡蝶が卵を抱えて歩み出た。
「この通り卵は無事……なので、どうか落ち着いてください……です」
レウルィアの言葉に合わせて、胡蝶が卵を差し出す。
その時、卵の中で雛鳥が小さく鳴いた。
小さな声。
意味の無い声。
でも、無事を伝える確かな声が、親鳥に最後の理性を取り戻させた。
「……無事に済んだか」
ヘレンローザが息を吐く。
彼はウルグリフと戦うつもりは一切なかった。しかしそれは最悪の場合全滅も有り得たということ。
そうはならず、無事に卵を返せたことに、彼も皆も安堵していた。
ウルグリフが感謝を示すようにイレギュラーズへと頬をすり寄せる。
ふわふわの羽毛がくすぐったく、卵の中でぴいぴいと鳴く雛鳥が、守れた命の温かさを示していた。
成否
失敗
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした。
依頼自体は失敗判定ですが、守れたものも有ります。
ヴンドルノ盗賊団がどうなったかはまた別のお話ですが、ウルグリフは元いた森へと帰って行きました。
卵を奪われたので人間を信用することは有りませんが、卵を守って貰えたので積極的に人を襲うことも有りません。
これまで通り、平和に暮らしていると思います。
あと、雛鳥は無事に親鳥を親だと認識しました。
それではお疲れ様でした。
GMコメント
子宝争奪戦です。
以下詳細です。
●依頼詳細
・ヴンドルノ盗賊団の壊滅(生死問わず)
・人数は団長含めて6人
・メチャクチャ弱いが一般人くらいには動ける
・意外と仲良し、全員で一致団結して逃げようとする
・ウルグリフの卵
・すごく重い(持つと行動が大きく制限されます)
・わりと生まれそう
・ウルグリフの親鳥
・周辺の狩人の情報から、隠れ家へ向かって移動中とのこと
・人に無関心ですが子を奪われれば敵対します
●提示された作戦案
プランA:盗賊団を即座に叩きのめし、卵を親鳥に返す
結末は最も平和になります
卵を守りつつ盗賊団を全て倒すのは工夫なくして成功しません
時間をかけ過ぎると親鳥が到着して台無しになります
プランC:全てを破壊する
盗賊団も卵も親鳥も全てを打ち倒します
戦闘以外での作戦は要りませんが、親鳥はかなりの強敵です
早期に盗賊団を倒し切れれば多少親鳥を迎え撃つ支度が出来、勝率が上がります
プランD:漁夫の利を狙う
親鳥、または盗賊に加勢し、もう一方を倒します
どちらにせよ信頼を得る工夫が必要です
乱戦になるため卵は非常に守りにくくなります
プランE:全く新しい作戦
お任せします
●戦闘データ
・盗賊×6
全員短刀装備、弱い
それなりの火力が有れば一撃で沈みますが、卵持っている者を倒すとそのまま落とします
基本、逃げの一手です
・ウルグリフの親鳥
巨体と飛行による移動阻害無効化能力を持ち、かつパワーもスピードもかなりのものです
登場時には既に怒っていますが、更に激怒して戦闘力が向上する可能性もあります
ウルグリフの卵を持っているものを最優先して狙います
犬より高い知能を持ちますが、人ほど賢くはありません
・ウルグリフの卵
敵対はしません
落とすと割れますが、中身の雛まで死ぬかは未知数です
動いて音を発するものを親だと思い込み、離れなくなります
殺そうと思えば赤子の手をひねるように殺せます
●シチュエーション
隠れ家は森の入り口にたつ木製の小屋
窓は一つ、入り口も一つ、地下無し、二階無し
部屋一つだけの素朴な小屋です
ウルグリフの親鳥が来ると一撃で解体されます
森は木々がまばらでウルグリフの行動に支障ありません
森とは逆側は草原が広がっています
周囲に人はいません
●描写について
ステータスやプレイングに「アドリブ可」等の言葉があると
特に戦闘描写が見栄えを優先して派手になります
そうでない場合は判定の結果から描写を行うことが多くなります
それではよろしくお願いします
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