シナリオ詳細
ド派手に戦え!新春大鏡餅討伐戦
オープニング
●意外! それは鏡餅!
迎春。
澄んだ青空の下、雪化粧した山や野原は眩しいほど輝いている。
ここは幻想、山間にある小さな村。鄙びた村だけれど、今時期だけは活気づく。
村をあげて『ゆきまつり』が行われるためだ。
「はー、なかなか賑やかダスなぁ!」
ゆきまつりの取材に訪れた獣種の『駆けだし記者』ポンタローネは、太い縞尻尾をふりふり案内役の村長についていく。村長は先立って歩きながら、
「そうでしょう? 数年前に村おこしとして始めたんですが、お陰様で近隣の村や町から観光客が来てくれるようになりましてな」
村外れの休耕地を利用した会場へやって来ると、そこには工夫を凝らした様々な雪像が並んでいた。
どれも人の背丈を優に越える大作ばかりで、動物や偉人の雪像に加え、雪のドームや滑り台などもある。
ポンタローネは人気の雪像や滑り台で遊ぶ子どもたちをカメラに収めていく。カメラは初任給を全部叩いて人伝手に入手した宝物だ。
一通り撮り終えた時、ふとある物が目についた。会場奥、雑木林の木々の上からぽっこり丸い白いものが覗いていたのだ。
「あの雪像は随分大きいダス!」
「はて、あんな会場の外に?」
訝しみながらふたりして雑木林に分け入ってみる。少し先の開けた場所に聳えていたのは、見上げるほど巨大な、少し潰れた雪だるまのようなナニカだった。上段には海苔を貼っつけたような顔らしきものが見える。
「こんな大きな雪だるま、よく作ったダスな!」
「いえ、こんなものを作ったという話は聞いておりませんが」
「雪だるまじゃないなら……あっ、正月に飾る鏡餅というやつダスな?」
「ですから我々が作った物では、」
次の瞬間、その巨大なナニカが動いた。
上段の顔を動かしてふたりを見下ろし、ぱかっと口を開けたかと思うと、白い物体をいくつも吐き出す!
「危ないダス!」
思わず村長を突き飛ばしたポンタローネに、白い物体が降り注ぐ!
もっちゃぁ。
「うわわっ動けないダスー! おまけにほんのりあったかいし美味しそうな匂いがするダス!」
「ポンタさん!」
駆け寄ろうとする村長を制し、ポンタローネは鏡餅の後方を視線で指した。雪の上にくっきりと太い溝が伸びている。この鏡餅が移動してきた跡だ。
「コイツ村の方に向かってるみたいダス! 皆を避難させて、ローレットに連絡するダスよ!」
村長は弾かれたように村へ駆け戻る。その後を追うように、巨大鏡餅はポンタローネを無視してずずっと移動し始めた。といってもその動きは遅く、傍らで見ているポンタローネには「動いたかなー?」程度ではあるのだが。それでもこうして人に危害を加えてくるのなら大問題だ。ゆきまつりがめちゃくちゃにされかねない。
もちもちに絡め取られながら、パンタローネはきらんと両目を輝かせた。
「イレギュラーズによる巨大モンスター退治……これは特ダネの気配ダス!」
……もっとも、無事に救出されればのお話だ。
●酒場にて
「――というワケなのです。巨大鏡餅モンスターにおまつりを台無しにされないよう、急いで向かって欲しいのです」
集まったイレギュラーズを前に、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が告げる。
何故鏡餅が? とイレギュラーズは内心首を捻ったが、ここは混沌である。考えるのをやめた。
「高さは10メートルくらいなので、大体3階建ての建物くらいですかね?
お餅らしくもちもちした攻撃で動きを封じてくるらしいです、見た目によらず強敵なのですよっ」
それから、と資料をめくる。
「敵のそばに、もちもちで身動きとれなくなった雑誌記者さんがいるです。そちらの救助もマストなのです。雑誌は地元密着ローカル紙みたいですが、無事に全部済んだらきっと皆さんの活躍を記事にしてくれると思います。ローレットの評判が上がること間違いなしなのです!
村人や観光客の避難は済んでますが、皆さん不安でこっそり覗いてると思うので、ばばーんとカッコよく退治して安心させてあげるといいのです」
寒いからあったかくして行ってくださいと、ユリーカはひらひら手を振った。
- ド派手に戦え!新春大鏡餅討伐戦完了
- GM名鮎川 渓
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年01月23日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●それはTHE・鏡餅
イレギュラーズ達が村に到着すると、屋内から窺っている人々は歓声をあげた。この窮地に駆けつけてくれただけでも拍手喝采ものなのに、8人はいずれも見目麗しい美男美女だったのだから。
一行は木々の上から頭を覗かせている白い物体を見上げた。
「鏡餅……?」
つと首を傾げる男装の美女。ウェーブした髪が白い頬をふうわり撫でる。『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)の呟きに、『黒曜魔弓の魔人』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)は肩を竦めた。薄着の胸元がたゆんと揺れる。
「うん……デカいわねあの鏡餅。流石は混沌世界、何でも有りだわ」
もう鏡餅の形をした鏡餅の怪獣ねと半ば呆れ顔だが、それすら悩ましげに見えるのは何故なのか。もとい。
「あのびろーんと伸びるお餅の一種で御座いますか」
「その餅だな。何故餅が自立歩行しているんだ?」
『それ考えたらダメなやつだぜ』
幻の言葉に応じたのは稔と虚――『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)。ひとつの身体にふたつの意識が収まっているが故か不思議な魅力を醸す彼(等)、稔の当然の疑問に虚が尤もな返事をした。
「人に被害は出てるけど……なんだろう、緊張感が今一つ……」
柳眉を寄せて困惑するのは、「見た目は」豊かな銀髪の乙女『天京の志士』鞍馬 征斗(p3p006903)。脱力するのも致し方ない。大きさからして強敵には違いないだろうが、餅なのだから。
こうしている間にも鏡餅はもの凄くゆっくり、けれど確実に村へ迫ってくる。『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)は拳を握り気合を入れた。
「やっつけて、お祭りと人々の平和を護りきるんだぞ!」
正義の海賊としては放ってなんておけないと意気込む卵丸に、フィーゼは目を細め頷く。
「それじゃあ、はりきっていくわよ」
各々持ち場につくべく白い大地を蹴った。
ところがTricky・Starsはすぐに足を止めた。機敏なターンで足許の雪を舞い上げ、屋内からの視線をたっぷり惹きつけてから声を張る。
『俺達イレギュラーズが来たからにはもう大丈夫。さぁ、ここから先は瞬き厳禁だよ!』
まずは"大丈夫"の言葉で安心を。次いで興行めかして謳うことで、この非日常的な光景に対するショックを和らげようというのだろう。演劇ユニットである彼等らしい魅せ方だ。
「お気をつけて!」
「頑張ってー!」
声援を背に受けて、8人は今度こそ雑木林へ駆け込んだ。
●いざ"開演"
派手な羽織を翻し、鏡餅の元へ馳せた『呪刀持ちの唄歌い』紅楼夢・紫月(p3p007611)は、うんうん唸る声を聞きつけた。結った黒髪を揺らし首を巡らせると、鏡餅の向こう、雪の上に倒れている獣種の少年が。うつ伏せに倒れた背にこんもり餅を背負い、足と尾をバタつかせている。
「あれが件の……仕事熱心なんはええんやけど、まずはちゃんと生き残ってもらわんとねぇ」
いくら良い写真を撮ろうと持ち帰らねば話にならない。命あってのトクダネだ。紫月は妖刀『不知火』に手をかけ、唄うように呟く。
「無茶するんはまだええけど無理するんはあかんからねぇ」
「ボクの方は準備ばっちりだよ! 鏡開きにはちょっと遅いかな? でも福の代わりに厄を届けるような縁起物にはさっさと退場してもらわないとね!」
制服姿が眩しい『ハム子』主人=公(p3p000578)、季を弁えた言の端に教養を覗かせつつ、気合たっぷり、愛嬌たっぷりに片目を瞑る。
「ふ、御目出度い見た目だが生憎季節感を楽しむ人間でもないのでね」
『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は、長身に纏ったコートの裾をはためかせ鏡餅と相対した。傍には四足竜型ゴーレム『ゴリアテ』の姿もある。
皆が臨戦態勢に入ったことを確認し、紫月は鯉口を切った。キンと澄んだ金属音が響く。
「――トザイ、トーザイ。新春大捕物、始めるとしようかねぇ」
刹那、刃が纏う青白い妖気が剣筋に合わせたなびいた。見る者を惑わす魔性の切っ先は、そうと気付かせぬ内に餅にめり込み、裂く! 変幻邪剣の『落首山茶花』。餅を恍惚状態に至らしめた。
ラルフは血色の弾丸を撃ち出す。餅の硬い表面にめり込んだ弾丸と彼とが赤い鎖で繋がれ、凄まじい電流が迸る。鏡餅はムッとしたように彼を見下ろした。しかし彼は怯むどころかしたり顔で、
「今だ!」
叫ぶが早いか幻が飛び出す! ラルフが引きつけている内に後方のポンタの元へ。ラルフの命でゴリアテがその後を追った。
「ポンタローネ様でいらっしゃいますね」
黒真珠の瞳に見据えられ、ポンタは赤い頬でこくこく頷く。背中の餅はカチカチに冷え固まってしまっていた。
「今しばらくご辛抱を」
幻が告げた途端、ポンタの背の餅にぱしゃぱしゃと湯が!
「何ダスかー!?」
「お餅はお湯でふやけて溶けると聞いております」
「どこからお湯が!?」
「奇術師で御座いますので」
魅惑的な微笑で煙に蒔き、幻は餅が半ばふやけたところでめりっと剥がした。溶かしすぎるとまた絡まってしまいそうで。そうしてポンタをゴリアテに乗せていると、背後からズドンと重い音がした。
鏡餅を引きつけていたラルフが攻撃されたのだ。しかし体力に富む彼はダメージを気にした風もなく、身体にねっとり絡む生温かい餅に溜め息をつく。
「痛みより不快さが勝る攻撃とはね」
『そうは言ってもすげー音したじゃんか、ズドンッて。待っててくれ、今その餅取っ払うから!』
Tricky・Starsは自律戦闘アーティファクト『マグダラの罪十字』を媒体に治癒術を構築し始めた。しかしまだ鏡餅の怒りはラルフから逸れずにいる。
フィーゼはゴリアテに目をやった。鏡餅の射程から逃れきれていない。
「こっちだよ!」
鏡餅の気をどちらからも逸らすべく、大弓型の魔具から放つは槍の如き一矢! 被矢の瞬間と前後して公が仕掛ける。
「さあデカブツ! ボクの一撃でぶっ飛べー!!」
狙い澄まして放ったのは何と『衝術』。仰ぎ見るほどの巨体を果たして後退させることができるのか、それは公にとっても挑戦であり賭けだった。魔力の衝撃が鏡餅の腹に炸裂!
「さあ、どうかな?」
ごくりと唾を飲んで見つめていると――鏡餅がズズッと後ろへ下がっていく!
鏡餅の背後に伸びている移動の痕跡。その部分の雪は巨体の重みで踏みしめられ、氷のように固くなり滑りやすくなっていたのだ。思わぬ形で自然の後押しを受けた公は、見事賭けに勝った。
ヒトの身でありながら巨大なバケモノを弾き飛ばした公に、村からは興奮した声があがる。
いよいよ怒った餅は触手を伸ばし、辺り構わず振り回す姿勢をみせたが、その視界に船長服の中性的な少年が割り込んだ。背に背負いしは『蒼い蘭と錨』のマーク。鉄帝国工房の新兵器『キルデスバンカー』を凛々しく構え、
「蒼蘭海賊団団長、湖宝卵丸参上!! お前の相手は卵丸だっ」
堂々たる名乗り口上をあげた。
鏡餅、もう激おこ。頬をぷくっと膨らせて、ならまずお前からだとばかりに卵丸を睨み、餅弾を拵え始める。だがしかし次の瞬間、
「力を貸せ、砂迅騎の王……虚空を引き裂きここに示せ……!」
鈴の音のような声とともに、別の方向から無数の斬撃が! 刃が直接触れた感覚は皆無。しかし硬い表面に幾筋もの傷が刻まれていく。思わず振り向いた鏡餅が目にしたのは、こちらもまた美少女と見紛う二本差しの美男子・征斗。
けれど結構痛いことをしておきながら、征斗は鏡餅には見向きもせず、抜身の魔剣を見てしみじみと吐息を零す。
「こんなのは、流石に直接刃じゃ斬りたくないしな……初めて剣抜いたけど……」
確かに、初めて斬るものが餅では魔剣もちょっと切なかろう。
けれど餅にしてみれば聴き逃がせない一言だった。
『こ ん な の』
激おこぷんぷん天元突破した鏡餅はますます頬を膨らせると、触手をヤケクソ気味に振り回し辺り一帯を薙ぎ払った。
●慄きを驚きへ
「ふわーっ、シャッターチャンスが押し寄せてくるダス! あっ、征斗殿ーできたら目線こっちに……はい、いただきましたっ! Stars殿も目線をー……もーう役者ダスなッ、ナイススマイル!」
救出されたポンタの大興奮の叫びとシャッター音が喧しく響く。周囲は吐き出されたり投げつけられた餅が散乱している酷い有様だが、時間の経過とともに村から聞こえる歓声は徐々に大きくなっていた。
しかしイレギュラーズ達にとっては喜んでばかりもいられない状況だ。
カメラを向けられ咄嗟に笑顔で応えたTricky・Starsだったが、稔は己の魔力の残量を冷静に見極める。
(「およそあと半分。いざという時のためにも温存しておかないとな……『ウィズダムギフト』の使用は控えるか」)
戦闘が長引いてくると、懸念されるのは魔力切れだ。派手な大技を繰り出すには相当な魔力を消費しなければならないが、充填や吸収でまかないながら継戦し続けるのは難しい。そろそろ皆が魔力の残りを案じ始める頃合いだった。
さらに、敵は血が出るでもなく喚くでもない鏡餅。今一体どれだけダメージを与えられているのか――あとどれだけ叩き込めば倒れるのか全く窺えないことが、じわりと嫌な焦燥を生む。
餅の表面には既にいくつもの傷がついているし、阻害術などの掛かりも悪くない。さっきからずっと怒髪天状態であることを思えば、確実に効いてはいるのだろうが。
――何か、あとひと押し。
しかし村人達にそうと悟られ不安にさせるわけにはいかない。幻はモルフォの翅をはためかせ村の方へ向き直る。
「皆様、ローレットと怪物との闘いをお楽しみいただけておりますか? 瞬きを忘れるあまり御目を痛めることなど御座いませんよう……、」
そこで思わず言葉を止めた。
「負けるなー!」
「きっとあともう少しだ!」
釣られて村の方へ目をやった一行の目に飛び込んできたのは、窓を開け身を乗り出す人や、屋外へ出て物陰から声援を送る人々の姿だった。
一行の力強い戦闘が、華やかな活躍が、人々の心に火を灯したのだ。哀れな被害者から一等席の観客となった人々の顔はいずれも明るい。
意外な事態に皆が暫時動きを止める中、Tricky・Stars稔はさらりと前髪を払い、
「俺の美しさを讃えたくなる気持ちは良くわかるが、スタンディングオベーションにはまだ早いな」
『ちげーよ』
虚が秒でツッコんだ。
「危なくはないかねぇ」
気持ちが上向いたのはええんやけど、と思案げな紫月に、
「大丈夫だよ!」
公は盾についていた餅の欠片をぺりっと剥がし、果敢に鏡餅を見据えた。
「折角のおまつりを台無しにされて、悔しさもあったんじゃないかな。村へは絶対に攻撃させない、届かせないよ! 何度でもボクが退けてみせるから!」
またゆるゆると前進し始めた鏡餅へ、公は再び衝撃を放つ! 後退する巨体を追いフィーゼが駆けだした。狙うは一点。白一色の巨体へ目を凝らす。
「あと少し、もう少しのはずなのよ」
そうして見い出した一点――餅の硬い表面へ、彼女が最初に魔弓で穿った小さな孔。フィーゼは攻撃の度、可能な限りこの一点へ狙いを集中させてきた。今や孔は拳程に広がり、周囲に細かな亀裂が走り始めている。
「今度こそ、砕けなさいッ!」
格闘術と魔術を融合させた強烈な一打を叩き込む!
――ビキッ
放射状に深いヒビが広がっていく。だが剥落させるにはあとひと押しか。フィーゼが唇を噛むと、
「任せて!」
卵丸の声が飛んできた。信頼を寄せる卵丸の意図を察したフィーゼは素早く身を翻す。卵丸はデスバンカーの狙いを定めた。
「固くなった餅なら、貫き通して砕けばいい……喰らえ! これが卵丸の海賊魂の一撃だっ!」
荒々しいまでの勢いで射出された杭は亀裂を押し広げ、硬い表面を貫いて餅の内部へ深々刺さる!
衝撃でフィーゼが打ち砕いた餅の表面がボロボロと剥落し始めた。中から現れたのは、まだわずかに湯気の立つ柔餅。鏡餅は急ぎ卵丸を捕まえようとする。けれどそれをするりと逃れ、
「皆、今のうちにっ」
「装甲と化してる表面部分を砕いたら、きっとダメージが通りやすくなる筈よ!」
鏡餅が慌てたように卵丸へ触手を伸ばしたのがその証左だろう。
幻が即座に動く。
「では、冷えて固まりません内に……さぁ、この何もないシルクハット。シルクハットから不思議なことが起こりましたら、ご喝采願います」
優雅な所作で翻したシルクハットから出てきたのは、淡く煌めく無数の蝶。蝶の群れは鏡餅を夢幻に誘うよう陽炎の如く舞い踊り、最後には大きな槌の形を成して鏡餅へ激突した。
露出した柔餅部分を杵ならぬ槌で打たれた鏡餅は、ぶるぶると震え始めた。これまでに皆が刻んできたいくつもの傷から硬い表面の崩落が始まり、中の柔餅が露わになっていく。それを見たラルフは掌に時空の歪みを生じさせる程の魔力を集め叩きつける! 呪縛に混乱、狂気に麻痺といった夥しい阻害術が鏡餅を捕えた。
「よく粘ってくれたものだが、これで終いだ」
そうしてラルフはポンタに呼びかける。
「記者殿。特攻に付き合う覚悟はあるかね?」
「くふふ、餅だけに……って、何ダス?」
装甲のようだった硬い表面は剥がれ落ち、寒空の下に暴かれた柔餅は幾多の阻害術に囚われただ震えるのみ。
各々が持てる技を魅せつけるべく魔力を滾らせていく。
「介錯は任せろ」
演劇用語で手伝いを買って出たTricky・Stars、温存していた魔力を今とばかりに解き放つ。ウィズダムギフトは新雪よりも眩く、粉雪よりも柔らかに仲間たちへ降り注ぎ、更なる力を与えていく。
「念の為もうちょっと下がってもらおっか!」
公の衝術で問答無用で一段と村から遠ざけられた鏡餅。その耳に鏡餅にとっては恐ろしい口上が届く。
「皆様、間もなく閉幕で御座います。何卒今一度大きな拍手を。ご声援と拍手が御座いましたら、もっと面白いものをご覧にいれましょう」
村人達は手の平が赤くなるほど拍手を送る。幻は深々と一礼しステッキ『夢眩』を振った。ステッキの動きに合わせるよう、何と巨大な花弁が一片、また一片と現れ鏡餅を包んでいく! 再びシルクハットから飛び出した蝶の群れは、花の蜜を吸うように軽やかに飛び回りながら、確実に敵の体力を奪っていった。
続いて鏡餅へ突進していく影があった。ゴリアテだ! その背にはラルフの姿もある。ゴリアテは減速せぬまま鏡餅へ突っ込む! ラルフは鏡餅の天辺に引っ掛けたワイヤーに吊り下がり縦横無尽に飛び回る。そうして木影で待機していたポンタを掻っ攫い小脇に抱えると、
「さあ、記者殿。ベストショットの瞬間だ、努々逃すなよ?」
「はいダス!」
戦闘中にちょいと邪魔な枝を払っておいた木をジャンプ台にし、一際大きく飛び上がる。義手から吹き上げる爆炎はさながら炎の剣。頭上から足許へ一刀両断振り下ろす!
そこへ、雪景色に朱を添えるような艷やかな唄声が。
「冬の景色は白が良い 雪霜に椿 浜姫榊 ――餅では一寸、無粋だねぇ」
舞の足捌きで躍り出た紫月は、二連の『五月雨』で柔餅を斬っては突き、鏡餅の身体がぐらりと前のめりになったところで、フィーゼと卵丸が迫りくる顔目がけ地を蹴った。
「この魔槍は堅牢な防御をぶち抜くとっておきよ。喰らいなさい、『咆穿魔槍』――!」
「皆が愉しむお祭りを滅茶苦茶になんてさせないんだからなっ……貫け音速の一撃、これが蒼海式鏡開きだっ!!」
ドンッと重低音が二つ重なり轟くと、鏡餅の上段、顔だった部分に風穴が穿たれた! それでもしぶとく蠢く下段を、征斗が放った氷の華が取り巻く。
「さっきは怒らせちゃったのかな? ……ごめんね。でも鏡餅さんが人に危害を加える以上、討伐せざるを得ないんだ」
征斗が小さく呟くと、氷の華が一斉に鏡餅を刺した。
すると次の瞬間、鏡餅がぶるぶる震えて大きく膨らんだかと思うと――ぱぁんっと盛大に弾けた。同時に大量の鏡餅がばらばらと降り注ぐ。
「な、何?」
ラルフはその内のひとつをキャッチすると、ギフトで鏡餅の記憶を紐解く。見えてきたのは、鏡開きの時にほんの少しカビていたからと捨てられた鏡餅。餅は食い飽きたからと捨てられた鏡餅。開き忘れられた鏡餅――
「食われず捨てられた鏡餅の怨念、か?」
その呟きを聞いた幻は餅を拾い始める。
「でしたら尚の事、集まったお客様に提供したいもので御座います」
「あ、ボクゆきまつり見物したかったんだ! 拾って届けてあげよっか」
そうして餅のお土産をたんと携えた一行が広場に戻ると、人々は割れんばかりの喝采で出迎えた。餅はその場で焼かれて振る舞われ、皆の冷えた身体をほかほかと温めたのだった。
数日後。一行の華やかな写真を表紙に用いた雑誌は飛ぶように売れた。
読者が押し寄せたゆきまつり会場には新たな雪像がお目見えしていた。村人達が総出で作り上げた、討伐戦の一幕を象った雪像だ。その傍らにはラルフの提案でポンタの写真も飾られ、ゆきまつりは例年にない賑わいをみせたということだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。様々な魅せ方、堪能させていただきました。
鏡餅の「表面は乾いて固い」「吐き出された餅は温かくもちもち」といった所から攻略法を見出されたであろうお二人に称号を贈ります。
GMコメント
●目的
ゆきまつり中の村近くに現れた、巨大鏡餅モンスターの討伐
及びその傍で身動きできなくなっている記者・ポンタローネの救出
様子を窺っている人々を勇気づけ誌面映えするような戦いを披露するとモアベター
●ロケーション
ゆきまつり会場から約100m離れた雑木林の中
雑木林は3m~7mほどの木がまばらに生えています
落葉樹なので葉の影に隠れることはできませんが、太い木を選び足場にすることは可能です
天気は晴れ。辺りは一面雪に覆われています
●敵
『巨大鏡餅』 高さ約10m、直径約15m、高HP餅
2段重ねの丸餅で、表面は乾いて硬いです
上段には顔らしきものがあり、下段からはもちもちした触手が2本生えています
足はなく、邪魔な木を倒しながら村へと進行中ですが、時速50m程と鈍足です
攻撃方法
・「ちから餅」 …近単。近くの者を掴んで高く持ち上げ、地面に叩きつける
・「口からぼた餅」…近扇。口から餅を散弾銃のように吐く。ぼた餅言えど別に餡はついていない
・「餅大乱舞」 …自範。伸ばした触手を振り回し全周攻撃。範囲内の木も倒れるので要注意
・「おとし弾」 …超遠単。餅弾をひとつ全力投球
全ての攻撃で呪縛・停滞BSを付与
●他
・ポンタローネ
要救助者の駆けだし記者。鏡餅の斜め後方で餅に絡まっており動けません
救出された後はイレギュラーズの活躍をカメラに収めるべくハッスルします
「撮影ヤメテ」以外の指示には従います
・村人や観光客
屋内に避難完了していますが、様子が気になり窓や物陰から窺っています
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●GMより
新米GMの鮎川と申します。
デカブツをヒロイックに退治して魅せてください。
倒れてなお立ち上がる姿も良いと思います。駆けだしさんでもお気軽に挑んでくださいね。
ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。
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