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シナリオ詳細

<痛みの王国>生きているはずのない人

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●痛みの王国<ペインフルキングダム>
「痛みがわかる人はいい人になるんだよ」
「大丈夫。痛いのはちょっとだけだ。殺されはしないよ」
 生きるのに必要な痛みを与えようと、我が子を押さえつける両親。
 その子供の指に鋭い刃物が落とされると、耳をつんざく悲鳴が響き渡った。

 そこは、誰もが不治の痛みを抱える世界。
 ある者は、不治の頭痛。ある者は、不治の腰痛。
 またある者は、不治の心の痛みを。
 この世に生を受けた時は何も痛くなくとも、成人するまでには必ず何かしらの痛みを負わねばならない世界だ。
 痛みなく、成人してしまった者がいたとしたら――その者は死ぬまで、『生きているはずのない者』として扱われてしまうから。

●『生きているはずのない者』
 新たな世界『痛みの王国<ペインフルキングダム>』の説明を聞いたイレギュラーズ達の反応は様々だった。
 理不尽を覚える者がいたかもしれない。ただ不思議な世界だと感じたかもしれない。
 あるいは、特に何の感慨も抱かなかったか。
 彼ら一人一人の反応を見届けた上で、境界案内人であるカストルは『生きているはずのない者』について、もう少し詳しい説明を加えた。

 曰く。彼らは列に並んでも『いない者』として扱われたり、買い物に来ても物を売ってもらえなかったりするらしい。『生きていないはず』なのだから。
 無論、そのような扱いでは真っ当な生活はまず送れない。殺人や盗みなど、悪事に手を染めてしまう者も少なくない。そうなってしまった『生きているはずのない者』が警察組織に捕まった場合は、どのような軽微な罪であろうとその場で殺されてしまう。そうする事で、『正しく生きていない状態』にするのだ。

「成人までに痛みを知った人は『カインドマン』、そうじゃない『生きているはずの無い者』は『デッドマン』と呼ばれていて。成人した瞬間に『デッドマン』は頬に印が出ちゃうから、隠しにくいんだって。包帯とか、化粧とかで隠す人が多いみたい。逆に、それが目印になっちゃってる場合もあるみたいだけどね……」
 少しばかり目を伏せた後、カストルは改めて今回の『目標』について告げた。
「皆には、この『デッドマン』と呼ばれている人達と接触して、彼らが悪事に手を染めないで済むようにして欲しいんだ。できればその場限りじゃなくて、今後も自分達で最低限、生きていける切っ掛けを作ってあげて欲しい。
 例えば、警察から目を付けられてるような人は別人のようにしてあげたり、とか。印のうまい隠し方を教えてあげたり、とか。『カインドマン』相手に商売を始めてみたりとか、かな? うまく共存できる方法を探してみると、いいと思うよ」
 今回だけで、全ての『生きているはずのない者』に接することは不可能だろう。それでも、彼らの中の何人かだけでも希望を見出すことができれば。そこから、伝播させることができれば、あるいは。
「読みたいのは、やっぱりハッピーエンドだからね」
 にこりと笑んで、カストルは期待を込めた眼差しでイレギュラーズ達を見つめた。

●ある『デッドマン』の母子
 成人の誕生日まで、あと30秒。
 あと30秒で、この子の人生が決まってしまう。
 『デッドマン』の親から生まれた子でも、それまでに痛みさえ与えれば、この子だけは『カインドマン』として生きていける。人並みに生きていける。
 私達みたいに、警察や理不尽な密告に怯えなくて済む。
 けれど、けれど。どうして。目に入れても痛くない、命を差し出しても惜しくないこの子に、痛みを与えなければいけないのか。この子が、何をしたというのか。

 痛みを知らないことが、それほど重い罪なのか――!
 

NMコメント

初めまして、仄香(ほのか)みりんと申します
皆様の冒険譚の仄かな調味料になれば幸いです

●目標
『デッドマン』と接触し、悪事に走らなくても生きていける切っ掛けを与える

●世界
痛みの王国<ペインフルキングダム>
『痛みがわかる人は善き人である』というルールの下に、成人までに物理的あるいは精神的、且つ【永久に消えない痛み】を抱えた人達『カインドマン』が住む世界
成人までにそれらの痛みを得なかった人は『デッドマン』としてかなり差別されています
『デッドマン』は頬に大きな印が出ているため、普段は何かしらの手段で印を隠して『カインドマン』に紛れ、何とか人並みの生活をしていることが多いです
『デッドマン』である事がバレた者は人目を避けるように生活することが多い模様

この世界に転移した皆様は、不思議な力により『デッドマン』を見分けることができます
『デッドマン』の印も知っている扱いでOKです
ただし、「あなたは『デッドマン』ですね?」などと声をかけるのはお勧めしません
OP末尾のある母子のように、彼らはとても用心深いからです
(この母子に介入することも一応可能です。日付変更まであと30秒、という深夜です)
同じく『デッドマン』の振りをするなどの工夫があると良いでしょう

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●サンプルプレイング
痛みを知る人は善い人……わからなくはねーけど、こういう意味だったか?
とりあえず、『デッドマン』探しに人が多そうな市場をぶらぶら
化粧とかできねーから、仮面被っとくか……あれ、余計怪しいかこれ?
目標を見つけたら、こっそり近付いてつんつん
相手にだけ見えるように頬の印を見せて、話を聞きてーな
最近困ってる事とか…なっ、もう死にたい!?
馬鹿野郎!そういう時はな、まずうまいもん食え!風呂入れ!そしてとっとと寝ろ!
この仮面の男が、約束してやる
お前らは痛みを知らなくて良い、間違ってねーってな!

  • <痛みの王国>生きているはずのない人完了
  • NM名仄香みりん
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年01月21日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
ポムグラニット(p3p007218)
慈愛のアティック・ローズ
綺羅々 殺(p3p007786)
あくきつね

リプレイ

●痛みを知る
 痛みの王国<ペインフルキングダム>の城下町には、噴水の広場があり、公園があり、その周囲には大小の店が軒を連ねて賑わいを見せている。案内人から聞いたような差別があるようには感じられないほど、平和な景色だった。
 一定の年齢以上と思しき者は、一人の例外も無く傷を負っている事を除けば。
「この外見では流石に、成人の『デッドマン』は無理でしょうしね……」
 そんな公園で、眼帯を装着しているにも関わらず人目を避けていた『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)の行動は異質ではあっただろう。眼帯に加えて頬の処置までするのは、悪目立ちが過ぎるというものだ。
「本当の傷が見えたらまずいのは、俺もだよ」
 同じく公園での探索を試みた『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)は、頬に『デッドマン』の印を描き込み、それを長い髪とフードで隠す。首の本当の傷をマフラーで隠すことも忘れない。
 傷があるのに無いように振る舞うのは、騙すようで気が引ける、と。思わないでは無い。それにこの国では本来、傷がある者は皆堂々と歩いている。しかし、これも『デッドマン』に接触するためだ。

 『大地』が周囲の霊魂に語りかける。そこは――現実に見えている賑わいと同じくらい、嘆きに満ちていた。『デッドマン』は、些細な事で殺されてしまうからだ。同時に、彼らは死してなお同胞を、家族を案じ未練を残し続けている。
 彼らの話から辿り着いた一人の『デッドマン』が、ちょうど公園近くの大きな店から出てきた。時々人の視線を気にしながら、樹が生い茂る公園の木陰までやってきた所へ、二人が共に近付いた。
「全ク、ここは息が詰まって仕方ねぇよなァ、兄弟」
 見知らぬ声に『デッドマン』は大層驚いたが、『赤羽』がニヤリと笑んで髪を避けると、そこに在った印に一度は安堵する。しかし、すぐに困惑もした。
「と、隣の『カインドマン』は……」
「俺は、この世界の人間ではないんですよ。『デッドマン』ではないですが、『カインドマン』でもありません」
「『デッドマン』に危害を加える人ではないから。大丈夫だ」
 ラクリマが説明し、『大地』が補足をを加えると、まだ訝しんでいたもののその場に座ってくれた。

 この『デッドマン』は、名をジオ。印を化粧で隠し、『カインドマン』の店で働いている。両親は窃盗の濡れ衣で、自分と共に前の店で働いていた妹は涙を見せただけで殺されたという。
「主の『カインドマン』に殴られて、その時に『デッドマン』ってバレて。ちょっと啜り泣いただけで、『そんなに嫌なら死ね』と……目の前で。謝る時間も無かった」
 ジオはその店から密かに抜け出した後、別の『カインドマン』の店で働いている。他の残された家族を養うためだ。
「生きてく為とはいエ、そっちも世知辛いこったナ。いっそ人前に出なくて良い仕事カ、顔を隠してても良いような仕事でもありゃア、気にしなくて済むんだがナ」
「ああ、いっそこの気持ちを本にでもしたためてしまおうか。どうにかして吐き出さないと、いつか爆発してしまいそうだ。作家にでもなれば、表舞台に顔が出ることもないしさ」
 『赤羽』と『大地』が、まるで一人で会話しているように苦労を吐露する。
「貴方は、この世界をどう思う? 家族をそのように理不尽に殺されて、よく爆発しなかったな」
「したところで、力も無い自分はその場で返り討ちだ」
「力が無くとも、芸術にはできる」
 座るジオに視線を合わせて、『大地』は彼を探す間に購入した紙束とペンを差し出す。この世界への想いを詩として、芸術として綴り、いつか『本当の意味で』痛みのわかる人に読んで貰えばいいと。自分もそうしていると、分厚い本と黒羽のペンを見せて。
「この世界の『痛みを知る人』……『カインドマン』は、永遠の痛みを抱えていると言いますが。そんなもの、本来は無い方がいいんです。痛みを知らなければ分からない事も勿論ありますが、それは強制的に与え、学ぶものでは無いのです」
 目から鱗が落ちたようにジオが見上げるのは、ラクリマ。
 誰だって永遠の痛みなんて抱えたくない。その証に、この世界でも痛みを受け容れられなかった存在としてジオのような『デッドマン』がいるのだ。
「貴方達は悪ではない。こんな生きにくい世界は、そもそも間違いなのです。やむを得ず悪事に手を染める『デッドマン』もいると聞きましたが、そんなつまらない事をするくらいなら、『生きていて楽しいと思える世界を作る活動』などはどうでしょう?」
 世界を作る、という突拍子もない規模に、ジオの理解が追い付いていないようだった。
「例えば、不治の痛みを治したり、緩和させたり。敢えて『デッドマン』として成人させ、不治の痛みを世界から可能な限り消す、とか。皆で相談すれば、最も良い案もきっと出るでしょう」
「味方が増えれば、共感してくれる人も増える。きっと、『デッドマン』や『カインドマン』の垣根も越えて。俺も、それを願う一人だ」
 本当に大切な痛みは、今この世界で大切にされているものではない。それだけは、間違っている。
 ラクリマと『大地』が伝えた言葉の全てを受け容れるには、ジオにはもう少し時間が必要だろうが――彼は、『大地』から紙束とペンを受け取った。

●痛みを想う
 『ゆるふわ薔薇乙女』ポムグラニット(p3p007218)は己の指先を少し切って、血を流しながら街を歩いていた。新しい傷があっても、彼女はギフトの恩恵で痛みを感じない。『知らない』。しかし、万が一『デッドマン』より先に『カインドマン』に見つかって手当などされては、『デッドマン』は怖がってしまうかも知れない。その為、彼女は血を流す指をひっそりと隠して『デッドマン』を探した。
 ふらふらり、と歩いて。ようやく見つけた『デッドマン』の女性に声をかける。外見だけでは、他の男女との違いはよくわからなかった。
「ちょっとごめんなさい はんかちとか もってないかしら?」
 こっそりと、女性にだけ指を開いて傷を見せると、女性は顔を引き攣らせて距離を取ろうとした。怪我をしているポムグラニットを『カインドマン』だと思ったのだろう。しかし、女性は周囲を用心深く見渡すと、そっとハンカチを貸してくれた。
「ごめんなさいね いたくはないのだけれど……ありがとう」
「鋭い刃物での傷は、あまり痛くないって聞くわ」
「ほんとうに すこしもいたくないの いたみは しらない」
 今怪我をしているのに、痛みを知らないと言うポムグラニット。女性は少し困惑しているようだった。怪我をしているから『カインドマン』なのだろうか、痛みを知らないなら『デッドマン』なのだろうか、それともその欠陥こそは精神的な傷という『カインドマン』の証なのだろうか――と。
「わたしは デッドマンよ」
「そう……なの?」
「けがをしたら みんなは いたいんでしょうね いたいって どんなものかしら かんがえたことある?」
 痛いとは、何か。『何をすれば痛くなるか』は想像できるが、『痛いとはどういう事か』という問いに答える事は、少なくとも女性には難しかった。
「あるくだけでも しんどいような ねむることすら ままならないような」
 じっとしているだけでも、涙が出てくるような。ずっとずっとお腹が空いているような、そんな苦痛を一生抱えながら、『カインドマン』は生きているのではないかと。ポムグラニットは想像してみる。
「いたみをしらないことは わるくないけれど しらないまま なにもかんがえないのは よくないとおもうから」
 痛いつもりになって、想像してみて、と。
 実際に痛みを刻まなくとも、その痛みに想いを馳せて、共有するだけでも。
 『デッドマン』である事を隠す事はもちろん、『痛みを知る人』の痛みを考える事は、双方の共存に繋がるような気がした。

●痛みを届ける
「おい」
 殺生石の霊魂が導いた先の路地。声をかけられた壮年の『デッドマン』は一瞬警戒したが、『妖刀の魂を従えし者』綺羅々 殺(p3p007786)がマスクをずらして印を見せると警戒を解いた。
「儂は罪人じゃが敵ではない。おぬし達の力を貸してはくれぬか」
「罪人に手を貸したら警察に捕まるだろうが。何もせずとも濡れ衣を着せられるのに」
「追っ手がある訳ではないわ。このままで良いのかおぬし達は。生者として扱われぬまま、理不尽を良しとするのかえ」
 問うても、男は「少なくとも生きてはいける」と短く答えるのみ。何か事を起こすという気力すら、既に挫かれてしまっているのだ。
「善悪、の前に。生き物の本能として間違っているとは思わんのか。『ずっと』残る痛みなぞ、おぬし達よりもよほど死に近付きたいように見えるぞ?」
 『デッドマン』は世界に適応できていない、と殺は捉えていた。必ず傷付かねばならない世界で、傷付く事ができなかった人々。その彼らが『カインドマン』とは異なる苦痛を味わっている事を、国王に知らせようと思っていたのだ。
 この国のルールを作った者が王であるなら、王の意識を変えれば良いと。
「この世界に適応できないのは、おぬし達だけではない。皆で力を合わせれば、世界を変える事もできよう」
 待っておるぞ、と伝え、殺は他の『デッドマン』を探しに路地を出ようとした。

「「今なら、やめてあげる」」
「「おうちにかえしてあげる」」
 同じ顔をした幼い四人の男女が、各々の魔法の杖のようなものを殺に向けていた。
「にせもののしるし。おきゃくさま」
「おうさまには、つたえてあげるね」
 それだけ伝えると、四人は霧のように消えてしまった。即座に殺も後を追ったが、街の中をぐるぐると彷徨う内――何の仕掛けか、気が付けば他の三人と街の外で合流していた。
(あの四人……国王も只者では無いな)
 この国にはただ、差別があるだけではない。殺は別の危険を知る事となった。

成否

成功

状態異常

なし

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