PandoraPartyProject

シナリオ詳細

こちらナイトメアラーメン店

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悪夢の中のラーメン屋さん

 そろそろ注文決めたらどう?
 何を選ぶかは知ってるよ。いっつもそういう困ったような笑顔で君は言う。
「えっと……すみません。はじめて来るお店だと、選び方迷っちゃって」
 悪夢の中まで気をつかわなくていいのに。それとも俺が強面だから遠慮しがちになってるのか?

「この濃厚星くずラーメン、大盛りで」
「麺の固さは?」
「ハリガネでお願いします」
「スープは?」
「あっさりめで、油少なめ……かな」

 粉を落とした麺を茹でて、チャッチャッと小気味いい音を立ててお湯を切る。
 ラーメンを待つ間の彼女は、心ここにあらずといったようでお冷にも手をつけずぼーっとしていた。

 きっと現実で疲れる事があったんだろう。
 なにせここは悪夢の中のラーメン屋だ。辛い事があった時、逃げ込むための最後の砦。
 嫌な事があった夜、彼女は必ずこの店の暖簾をくぐる。

「へい、濃厚星くずラーメン大盛りお待ち」
「ありがとうございます。いただきます」

 長い横髪をかき上げて、眼鏡がくもる事も厭わずにふーふーと麺へ息を吹きかける。
 ひと口すすった後の彼女の顔は、ようやく緊張が緩んだようだった。 

「美味しいっ!」

「……うス」

 普通のラーメン屋で流れるような当たり前の時間も俺達には許されない。

「ごちそうさまでした。あの……また来てもいいですか?」
「お待ちしてます」

 彼女が来店した回数は、三桁を越したあたりから考えるのをやめた。
 口にしたラーメンの味も、ゆっくりと流れた時間も、午前7時半にゼロになる。

 だってこれは悪夢なのだから。きっとまた君は目覚める頃に、俺もこの店も忘れてしまう。
 そうしてまた暖簾をくぐるのだ。

「えっと……すみません。はじめて来るお店だと、選び方迷っちゃって」
 愛想笑いが泣きそうな顔になっている。嗚呼、こんな所だけいつもと違うなんて。

 せめて――ゼロをイチに変える事ができたなら。
 たとえ俺を忘れても、ラーメンの味さえ君の記憶に留める事が叶ったら――。

●最高の一杯を

 ずずずずずーーーーっ。

「いや~、やっぱり出汁は魚がいいよねぇ! レモン汁とか隠し味にしてサッパリ塩ラーメン。たまらないなぁ!」
 境界図書館にラーメンのいい香りが立ち込める。匂いテロの犯人は『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)だ。
 この男、依頼の説明と言って人を集めたくせに、一人でラーメンすすってやがる……。
「むぐっ! まっひェ、まだ説明が――」
 帰ろうとする特異運命座標一行を口をもごもごさせながら静止した蒼矢は、ここでようやく場の空気に気付いたのだろう。どんぶりを横によけた。
「今回の依頼は、とある悪夢の世界のラーメン屋なんだ。お客さんの記憶に残るくらい美味しいラーメンを出してあげたいんだって」

 ラーメン作りの素材から変えようにも店を離れる訳にもいかず、トッピングの他店研究もままならない。
 おまけに頼れるのが自分の舌だけでは、どうにも頼りないのだ。

「夢で見た記憶って忘れちゃうだろ。それでも足掻きたいんだって。
 俺はそういう泥臭いの応援したくなっちゃうんだよね。……おまけに、もしかしたらご相伴に預かれるかもしれないし!」
 手助けする最大の理由は後者だろうが、最早誰もツッコまずに諦めた。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 寒い日が続きますね! 美味しいラーメン食べたいです!!

●目標
 美味しいラーメンを作る

●場所<誰かの悪夢>
 夢らしいふわふわした雲の上のような地面に、たった一軒ラーメン屋が立っているという何ともシュールな世界です。
 悪夢を見ている人間の発想力が乏しいのかもしれません。

 存在する食べ物や飲み物も、現実にありそうなものと非現実にありそうなものが見境なく雑多にメニューに並んでいたり、
 夢ならではの寛容さがある世界です。

●登場人物

 お客さん
 眼鏡をかけた黒髪の女性。見るからに胃を痛めながらOLとかやってそう。
 20代前半くらいです。控え目で他人の心の機敏に気をつかうタイプ。意外と大食漢。
 好きなトッピングはチャーシューです。

 ラーメン屋店主
 強面で悪魔の角と翼が生えた男の店主さんです。年齢は30代くらい。
 口下手ですが根は優しく、お客さんを助けてあげたいと思っています。
 好きなトッピングは長ネギです。

『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
 今回の異世界へ特異運命座標を連れて来た人物。
 ラーメン好きで、隙あらばご相伴にあずかろうと思っているためサポートもやる気満々です。
 備品の手配などを頼まれれば、率先してやってくれるでしょう。
 好きなトッピングは煮卵です。  

●その他
 皆で力を合わせて最高の一杯を作るのもよし、四人それぞれでこだわりのラーメンを作って最高の一杯を決めてもらうのもよしです。
 ラーメン作りにはいろんな工程があるので、こだわってみましょう。以下は参考用です。

・スープや麺、具材作りにこだわってみる!
・麺を茹でた後にハイパー湯切りテクニックでラーメン屋を盛り上げる!
・「ヤサイマシマシ・メンカタメ・アブラスクナメ・オニモリ……」自分のこだわりの注文レシピをお客さんにレクチャー!?

……などなど。後で作ったラーメンを祝杯としていただくの楽しいかもしれません。
 夢から覚めても忘れない、素敵な一杯をお待ちしております!

  • こちらナイトメアラーメン店完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月01日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
戌井 月美(p3p007954)
わんこ系

リプレイ

●最高の一杯を
「ラーメン、所謂大衆食だね。決まったレシピがない分各々の自由に作れるのは興味深いよ」
『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は美食家ゆえの視点で語りながら、店内を幽遊と歩いて語る。
 普段は食べる側である彼女も、試しに作れる機会があれば大いに意欲的である。
 やる気があるのは他の特異運命座標も同じだ。
「高校時代はよく部活帰りに食べに行ったな……僕、バスケやってたから激しく運動するとお腹すいちゃって……アハハ、今でも想像しちゃっただけでお腹すいちゃった」
 てへぺろ、と愛嬌たっぷりに『わんこ系』戌井 月美(p3p007954)が舌を出す。
「とにかく僕達で最高のラーメンを作り上げようって事だよね! うん、面白そうだから皆で頑張ろう!」
「夢の中ってなら食材も色々やりようも有るし……これは、俺も元居た世界でのラーメンの記憶を呼び覚ます時だな……!!」
 と、これは普段、美味しいパンを振舞っている『出張パン屋さん』上谷・零(p3p000277)の意気込みだ。
「おや、零はラーメンを作った事があるのかい?」
「いや、ラーメン作り自体は初めてだけど……」
「どんなお店のラーメンが好きだったの?」
「よく食べてたのはカップ麺ばっかりだったけど……でもさ、記憶に残るくらいの美味しいラーメンってのが必要なんだ。俺もやれる限りをやってやるさ……!!」
 マルベートと月美の質問がグサグサと刺さる零だったが、最後には気合で持ち直す。
「私も普段から料理はしますが、ラーメンは基本的な知識しかなく。
 ですが、お姉さんが元気になれるようなラーメンにしたいですね!」
 そう、この場にいるのは『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381) が言う通り、誰もがラーメン作り初心者だ。それでもありがたいと、この店の店主は頭を下げる。
「アンタ達がいるだけで心強い。今晩は宜しく頼む」
 見た目は聞いていた通り強面な悪魔の店主だが、低めの声音にはどこか優しさが滲んでいた。ノースポールの口元が緩む。
(事前に聞いた情報から思ってましたが、自分のことは覚えてなくてもいいなんて……何て謙虚なんでしょう!)
「オヤジさんも私達のことも彼女の心に残るような、素敵な時間にしましょう!」

 今回、特異運命座標は助けに来るにあたり事前に方針を決めていた。
 各々が理想のラーメンを作り、お客さんに出そうというのである。
「やっぱり味噌ラーメンは中太たまご麺(ちぢれ麺)にひき肉とコーンバターが鉄板だよね!」
 フライパンを慣れた手つきで扱い、生姜とニンニクで豚ひき肉を炒めながら月美が片手を零の方へと広げる。
「零君、そっちの棚に豆板醤ある?」
「うん。匙も一緒に渡しとくよ」
 隣で作業をしていた零の鍋では、ぐつぐつと豚骨スープが美味しそうな匂いと共に白い湯気をあげていた。おたまで掬って皿に入れ、少し冷ましてから口にする。
「うん……ゲンコツの出汁はこれで良さそうだ。後は調味料を加えて煮込んで、っと」
 さすが料理のスキルを持っている2人。ラーメン作り初心者とは思えない手際の良さで着々と理想のラーメンを形にしていっていた。互いに元の世界で食べたラーメンの記憶を頼りに、料理人の嗅覚で確実な"美味しい"のツボを突いていく。そんな頼もしい料理人達の背中にキラキラと感動の視線を送るノースポール。
「うわぁ、皆さん凄いです!」
「私達もただ見ているだけではいられないね」
 と言うマルべートは出来合いの麺が入った木箱を抱えていた。ノウハウがないと麺づくりは至難の業だ。己の力量と美味しくなる調理工程を美食家の目で見極めて、事細かに"ラーメン"という食べ物を分析していく。
「この料理、基本的な要素は「麺」「スープ」「具材」と見たよ。
 そして自由度の高さ。まずはコンセプトを決めて、それに沿ったチョイスを行っていこうかな」
 チン! と軽快な音が店内に響いた。零が気になって振り向くと、オーブンから食欲をくすぐる不思議な香りが漂ってくる。
「不思議だな……骨なのに凄くいい匂いだ」
「仔牛の骨と香草をオーブンで軽く焼いたんだ。フレンチの"フォン・ド・ヴォー"をモチーフとして、これを煮出してスープを作ろうと思ってね。トマトやブーケガルニも加えて風味を付けたら――あぁ、味付けには岩塩なんかもいい」
 崩れないバベルが仕事しない。いや、もしかしたらしているのかもしれないが、扱う素材がエレガントすぎて分からない! それでも話を聞くほど食欲がわいて、ごくり……と思わず喉が鳴る。
 マルべートの計算され尽くした一杯とは対照的に、ノースポールは楽しい足し算。好きな物をその場で考えて一杯の中に加えていくのだ。
「麺は程よく食感を楽しんでいただけるよう、もっちり細麺で♪
 湯切りは……どうやるんでしょう?」
 麺の湯切りに使う銀の網――振りザルというらしい――を持ったまま首を傾げた後、すぐ閃いて店主の方へ声をかける。
「オヤジさん、いつもどんな感じに湯切りされてるのですか?
 折角プロがいるのですから、教えていただきたいなぁ、と」
「プロ、か……」
 連日お客へその場限りの癒しを与えるだけの自分の腕が、果たしてプロと言えるのだろうか?
 俯く店主の気配に気づき、月美が軽く肩を叩く。
「店長さん。そんなに落ち込まなくても良いと思うよ? お客さん、毎回同じもの頼んでるんでしょ?
 それって無意識のうちに店長のラーメンを求めてると思うんだよ」
 ハッと顔を上げた店主が見たのは、彼女の太陽のように眩しい笑顔。
「だから店長はお客さんを十分助けてるよ。自信持って!」
 そこまで言われるのであれば、もう一度頑張ってみよう。振りザルを握る店主の目が力強さを帯びる。
「それなら、まずは"天空落とし"から」
「何だかすごい名前ですね!?」

「……あのぅ」
 窓越しに陽が沈む頃、厨房の賑わいに半ば気おされながらも暖簾をくぐる線の細い女性客。
――今回の標的だ。
「「いらっしゃいませ!」」
 特異運命座標の元気な声が重なり、促されるままにカウンターの丸椅子に座ったOLの前へ、どどん! と湯気を立てるラーメンが出される。
「ラッキーだな、お客さん。今日は特別にいろんなラーメンを食べられる日なんだ」
 カウンターに零が出したのは、トッピングたっぷりがっつり系濃厚とんこつラーメン。トッピングはチャーシューたっぷりに煮卵も乗っけて、白ネギやメンマも盛り盛りの贅を尽くした一杯だ。
「なんて食欲をそそるボリューム!」
「ボリュームなら私の一杯も負けてはいないよ」
 マルべートの出したラーメンは、丼からはみ出るほどの肉、肉、肉! ロゼット状に飾り付けられたそれに、おおっ! と歓声があがる。
「羊、猪、牛、鴨……この世界で手に入るあらゆる肉を盛りつけたよ。勿論別々に火入れして、焼き方はレアでね」
 肉を焦がすのは最大の罪だと細かい部分まで食に厳しい彼女だが、それでも譲れない欲はある。
「肉だけだとバランスが悪い? こういう夜中に食べるような料理は"そこ"がいいんじゃないか!」
 うんうん、と頷いて月美が出した一杯も、カロリー高めで満腹感のある一杯だ。
「僕が作ったのは、こってり味噌ラーメン! お腹すいてる時がこれが一番満腹感感じるんだよ!」
「このピリッとした後味……! 豆板醤かしら?」
「そうっ! トッピングはお好みで、煮玉子とかチャーシューをどうぞっ!
 僕も一緒に食べるけど……排骨をのっけまーす!」
 カロリーが高かろうと、この世界は一夜の夢。気にする者は誰もいない!
「この四杯目のラーメンも、鳥ガラスープが染み渡ります!」
 OLの言葉を受けて、それを出したのは飛行種のノースポールだと思い出す特異運命座標たち。視線が集まれば、彼女はハッとして両手を振る。
「私の出汁じゃありませんからね!? ご安心くださいっ!」
 麺は程よく食感を楽しんでいただけるよう、もっちり細麺で♪ 
 茹でたほうれん草に、キャベツ、人参と、野菜たっぷりあっさり系の一杯が、ガッツリ系で戦い続けた胃を癒す。アクセントの海苔にもまた、スープが染みてて格別である。
「名付けて! 『やさしさほっこりラーメン』ですっ。
 さらに、このラーメンの一番のポイントは……食後にプリンがあります!
「サイドメニュー! その発想はなかったよ!」
「ラーメンの後にあま~いプリンを食べると、すっごく美味しいんですよ~♪」
 マルベートの前にもまた、食後のプリンが出される。自分の一杯を出した特異運命座標は次々とOLを挟んで席に座るようになり、皆の一杯を味わい始めていた。
「うまっ!皆のラーメンも美味しいよ! はぁ……幸せ…」
 ガッツリ系が多いにも関わらず、うっとりしながら全部完食している月美。これが若さか……。
「…所でラーメン屋の店主さんのラーメンって食べれたりする? 俺そっちも気になるんだが」
 零に促されて店主が出したのは、この店名物・濃厚星くずラーメン。星空のような青いスープにキラキラ光るネギがトッピングされた、なんとも不思議な一杯である。
「お姉さん、どうです? 美味しいですか?」
 5杯目まで麺のくず一つ残さず食べ終わった女性客にノースポールが笑いかけると、客はふっと口元を緩めた。
「不思議ね。最近、仕事で嫌な事ばっかりで……食べる事しか楽しみがない、なんて思ってたんだけど。それがどんなに心を支えて"くれていた"か……」
 あの時も、あの時も。仏頂面に見えて、一生懸命出してくれた最高の一杯。
 目を見開いた店主に、女性客が照れ気味に微笑む。

 それはこの日、特異運命座標がもたらした最高の奇跡――。

「見事に完食しましたね!」
「今日は店じまいだな。暖簾を外そう」
「そういえば何か、忘れてるような気がするぞ?」
「お疲れ様、特異運命座標! 迎えに来たよー!」
「「あっ」」

成否

成功

状態異常

なし

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