PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<溺れる魚>溺れる魚と深海交差点

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●溺れる魚と深海交差点

 スクランブル交差点の中心で目が覚めた。
 誰もかれもが目的地へ向かって歩道を行き交い、時に肩をぶつけあいながら人の波を泳いでいる。

 それはまるで海を泳ぐ魚の群れの中で、たったひとり自分だけが泳ぎ方を知らない魚のようで。

 このまま何処へも行けずに立ち止まっていたら、溺れて死ぬのかもしれないと漠然とした恐怖を覚えた。

 嗚呼、どうして生まれてしまったのだろう。こんな風に苦しむために生まれてきたんじゃない。

「とにかく前へ進もう。下手くそな泳ぎでも、溺れかけでも……新たな一歩を」
「もう何処へも行きたくない。このまま止まり続けたいんだ。どうか――」

 溺れる魚の選択を、夜空に揺蕩う大きな海月だけが見下ろしていた。

●交通整理スタアライト

「夜の街がなァ。時々、海の底みたいに見えるんだ」

『境界案内人』神郷 赤斗の詩的な例えに、彼を知る特異運命座標が面食らった顔をした。
 それもそのはず。同じ身体を共有する『境界案内人』神郷 蒼矢が人情派でやたらフランクなのに対し、
 彼は潔癖なくらいビジネスライクな関係として特異運命座標に接していたからだ。

 仕事のある時だけ境界図書館に現れて、概要だけ伝えて送り出す。
 依頼を終えれば「おつかれ」と労いの言葉を入れて報酬を渡すくらいで、自分の仕事が終わればさっさと蒼矢に身体を明け渡していた。

 そんな男が"夜の街がなァ"である。
 ポエマー全開な話題振の振り方に、明日の幻想は一日槍が降ると確信した者もいたほどだ。

「なんてツラしてんだよ。俺はただ……あー。次の仕事の話をするためにだなァ」

 まずは見てもらった方が早そうだと、赤斗は机上に一冊の絵本を広げる。

 深い群青色に染まった夜の街。遠くにビル群は見えるものの、絵の中心は開けた場所で、無数の歩道橋が描かれている。
 白線に合わせて歩行者信号がいくつもあるが、どれも今は動いておらず、通行する者もない。
 静寂が支配しているだけの静かで寂しい見開きページだ。

「見ての通り、このページ……信号機にエネルギーが行き渡ってねぇみてぇでなァ。
 交通整理ができないモンだから、誰も通れなくなって困っちまってんだとよ」
 この絵本は《深海シティ》という異世界で、水もないのに魚が暮らしている不思議な場所らしい。

「信号は一度エネルギーを与えられれば、その後自然に動き出す。お前達自身のスキルを使ってチャージ出来るか試してもいいし、思いあたらない奴は――」
 ゆらぁり、ゆらり。絵本の中を青白く発光しながら横切るクラゲの姿を見つけて赤斗が指さす。
「こういうのも使えるかもしれねェぞ」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 夜の街でお魚さんの交通整理といきましょう!

※Attention※
<溺れる魚>シリーズは芳董独自のLNシリーズです。今回が初回ですので特に新たに読む必要はございません。

●目的
 深海シティの信号機を稼働させる

●場所<深海シティ>
 夜空に大きな満月がたゆたう、常夜の世界です。
 文明レベルは練達に近く、街並みは私達の過ごす現代に近いです。

 特徴といえば、水もないのに魚たちが街中に生息し、悠々と泳いでいる事。
 おまけに信号を守るくらいには知能があるようです。特異運命座標が話しかければ、何か反応が返ってくるかもしれません。

●登場人物
『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
 謎多き境界案内人。同じく『境界案内人』の神郷 蒼矢(しんごう あおや)と同じ身体を共有していますが、依頼以外で表に出る事がほとんど無いのだとか。
 ただ、特異運命座標の事は依頼を通してビジネスパートナーとして信頼を置いているようです。

 赤斗はサポート役として呼ばれれば登場しますが、
 声がかからなければ特に目だって絡んでくるような事はありません。

●その他
 信号機を稼働させるための手段は様々です。

・光や電気、いろんなエネルギーのスキルを使って稼働させる。
・光るクラゲやチョウチンアンコウ、不思議な魚達を集めて力を貸してもらう。
・信号といえば電力だ! 自転車をこいで発電する!

……などなど、いろんな事を試してみてください。

 光を取り戻した信号が増えれば、魚たちがゆっくり前を横切ったりする事もあるかもしれません。
 アクアリウムの中を歩くような感覚で、ゆっくりお楽しみいただければと思います。

 それでは皆様、よき旅路を!

  • <溺れる魚>溺れる魚と深海交差点完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年01月20日 22時20分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

庚(p3p007370)
宙狐
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
惑(p3p007702)
かげらう
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

リプレイ

●砂嵐のテレビによくやるやつ

 ガンッ!!

「ふぅむ、叩いても治りませんね。カノエは賢くなりました」
――いえいえ、決して出オチではございませんよ。挨拶も済まぬうちにノールックで即行信号叩くなんて、そんな、野蛮なこと。

「可愛いカノエがそんなことするなんて、ねえ?」

 くの字に曲がった柱を力技で直しながら『宙狐』庚(p3p007370)は試した事をしれっと"なかった事"にしようとしたが、顔馴染みの『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)の目には、その蛮行が違う角度で見えたようで。
「さ、さすが庚さん……! バイオレンスですが、直ればオッケーですよね……!」
 そんな庚さんもカワユイですよ……! とポジティブに褒めちぎった。
「機械は叩いたら直ってくれるし、叩くのもありやね」
『かげらう』惑(p3p007702)の賛同を得られた事からも分かる通り、"可愛い"は強い。わりと何でも許される。
「ウィズィ様や惑様においてはお久しゅうございます!
 冬宮様とははじめましてですが、不思議と性別不明同士、親近感を覚えてしまいます」
「なるほど。庚さんは細かなご縁を頼りに友好関係を築くのがお上手ですね」
 一連の流れを経て話を振られた『言祝ぎの祭具』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)も、さして動じず挨拶に応じ。ツッコミ不在のままこの日の依頼は始まった。

「へぇー……」
 まずは現場の様子をと、ウィズィは辺りを見回しながら過去に見て来た街並み達を思い出す。
 練達や他の境界で訪れた日本の東京。そういう発展した街には、沢山の人が居るのが当たり前だった。
「だから、こんな……月と静寂の街、というのは初めてで。何だか……赤斗さんの言っていた、海の底に見える……というのが。分かる気がします」
 少し先にビル影は見えるが、灯りがともる様子もない。ランプの点かない信号達が並んでいるのも相まって、町全体が眠ってしまっているような――なんとも寂しい風景だ。

 惑はひそかに、この夜の静寂を恐れていた。
 陽炎は本来存在できない時間帯だし、お月様は綺麗だけど冷たい。
……なにより寒いし。
 水も冷たいから、飲み込まれてしまいそうで怖い。

 交差点の中心で、悴む手を擦りながら、ほう……と息を吐く。
 水泡にはならない。

「さて、情緒たっぷりの溜息はこれくらいにして信号の復旧ですね!」
「満月は綺麗ですが、お魚の皆さんが道を渡ることもままならないとは。それはお困りでしょう。僕にできることをさせていただきます」
 感傷の海に沈みかけてた惑を、ウィズィと睦月の声が現実に引き戻す。
(苦手な物に似ているこの世界は、仲間と一緒やなかったらきっと寂しく感じたんやろなぁ。
 こんなん事柄やないから絶対に言えへんけど……)
「惑様、なにやら良い事があったご様子。幸福感を深めるためにカノエをお撫でになってもよろしいですよ?」
「おおきに。庚ちゃんのモフモフは仕事終わりのご褒美にとっとくよ」

(――なんとなく、誰かの側におると寂しさ紛れるなぁ)

●灯る導
「さあて。それではご覧じろ……」
 左手で左目を隠し、右腕は愛しい人を抱くように宙を切ってから我が身を抱いて。
 私の恋人直伝の、右眼の魔眼――つまり、スーディヴィライの通常攻撃で、信号を視る!
「さあどうだっ!」
 パッ! と赤信号を灯った後、ウィズィは不敵な笑みを浮かべた。秘儀が終わった後のキメポーズまでも中二力は宿るのである。初めての灯火に睦月が賞賛の拍手を贈った。

「お魚さんも立ち往生しとったら困るもんな。助けたるよ!」
 その勢いに乗る形で、惑はヒーラーらしく【メガ・ヒール】で傍らの信号機へ癒しのエネルギーを注ぐ。ぼうっと柔らかな青信号の光が灯った。
「さすが惑さん! 回復スキルなら文句なしの対応ですよね!」
「わては絶対失敗せんからなぁ。ふふん」
 場慣れした2人の手腕に睦月は舌を巻いていた。境界を越えた世界での仕事は、彼にとっては初めての体験で。
「僕の元居た世界の常識は通用しないと考えたほうがよさそうですね」
 どう手伝おうか思案している内に――信号の灯りが灯り始めたからだろう。海の生き物たちが少しずつ姿を現しはじめていた。その中で睦月の目に留まったのは、ほんのりピンクに色づいた光。
(あ……。きれいな海月。キラキラ発光して宝石をつなげたみたい。
 そうだ、この海月さんの光を借りてみるのはどうだろう。言葉は通じるかな?)
「こんばんは海月さん。はじめまして。僕は冬宮の者です。
 信号に明かりをつけるために、あなたの光を貸していただけませんか」
 丁寧に声をかけた後、様子をしばらく見守ると……海月がちょちょいと傍に立っている信号機を足でつつき、光を灯してくれた。
「この調子でどんどん復旧させていきましょう!」
「はい。折角なので他の海の生き物たちにも声をかけてみましょうか」

 闇に包まれた交差点に、ひとつ。またひとつ、光が灯る。

「少し見なれぬ趣の街並みですが、そこを大小のお魚様たちがお通りになる光景はなるほど、幻想的にございます」

 しかし戻ってきた魚が増えるほど、信号が直りきるまで交通整理が必要だろう。
 なればお手伝いいたしましょうと庚は『探索者便利セット』から交通旗を取り出した。

 交差点の真ん中で二つの旗を両手に持って。コチラは上げて、アチラは下げて。
 しばらく整理をしていると、魚達は主に歩道を泳いでいる事が分かった。道路を通ったのはタクシー一台のみだったが、指示に従い魚群が前を後ろを、規則正しく泳いでいく。
(ああ、この不特定多数の動きを声も出さずに一挙一動のみで指示してるこの感覚……少しクセになりそうです)

 一方その頃、ウィズィと睦月。
「お忙しいところすみませーん!」
 2人が集めた魚や海月、夜光虫。色々な海の生き物たちは、列を作るように泳ぎながら信号機へ灯りを灯していく。遠巻きに見ても目立つその光景は、さながら海のナイトパレードだ。
「この止まっちゃった信号を直すのに、電気とか光が必要なんです!
 もしお時間大丈夫でしたら、街のためにお手伝いをお願いできませんでしょうか……」
 礼儀正しさから真摯な思いが伝わったようで、2人の前にこっちこっちと前に出て泳ぐものが現れた。最初に睦月が声をかけたピンクの海月だ。誘われるがままに向かった先で出会ったのは、眩しいくらいピカピカの――。

「えーと、もしかしてあなたはチョウチンアンコウさんですか?」
「あーん」
「睦月さん、今の聞きました? 鳴きましたよこのチョウチンアンコウさん!」
 疑似餌をぷらぷら揺らして道路の真ん中にぽつねんと鎮座しているその魚は、手伝いに快く応じるものの、動くのは面倒くさそうな風だった。
「僕が抱えていきます。よいしょ。……あ、意外と重い」
「ここらも随分明るくなったなぁ」
 自分の担当していた区域の信号を灯し終わり、ウィズィと睦月の元へ合流した惑は周りに熱帯魚達がついてまわっていた。
「惑さん、大人気ですね」
「初対面で触れられるのは嫌やろうと思ったから、最初は「こんにちは」とか「ええ夜やね」くらいの当たり障りのない挨拶しとったんやけど……」
 陽炎から生まれた精霊種である惑は、体温があたたかい。温もりに気付いた魚がついて来るようになり、気づけばこの大所帯だ。
「こうして歩いてるとわても魚になったみたいやなぁ。はは、なんだか楽しくなってきたわ!」
 動いていない信号機がある通りもあと少し。3人で灯して歩く中で、惑はふと疑問を口にする。
「そういえば、この世界には人っておらんのかな? お魚さんだけ……?」
「おーい、ピカ吉!」
 答えは最後の信号機を灯した時に、向かいの歩道からやって来た。海色の瞳の青年が手を振りながら、息をきらせて走ってくる。
「それ、うちで預かってる飼いアンコウで……迷惑かけなかったか?」
「いえ、むしろ手伝っていただいて助かりました」
 睦月が軽く事情を説明すれば、ピカ吉は誇らしげに「あーん」と鳴き、青年は安堵に胸を撫で下ろす。
「よかった。ピカ吉もアンタらに懐いてるみたいだし、暫く面倒見といてくれ!」
「えっ、ちょっとお兄さん!?」
 終わったらどこへ帰せばいいんですかー、と叫ぶウィズィに「適当に放流してくれー」と返す青年。疾風のように現れて、あっという間に去っていった。
「もう少し一緒に居ましょうか、ピカ吉さん」
「折角の夢みたいな光景ですもの。仕事も終えたし、皆で少し散歩したいですね」
「せやったら、庚ちゃんを呼びに行こうか」

「信号機、つきましたか!」
 んばっ! と旗を構えてポーズを取りつつ、庚は3人と愉快な魚達を出迎えた。
「カノエもヒカリゴケのようにぼんやり光る存在ではありますが、やはり本物の光には適いませんね。
 ……あれ、カノエは光の、精霊種。ひかり、カノエの正体は、本質は、元々の姿は光……カノエ、他の光(おんな)に負け……?」
 ぐるぐる思考が巡った末に、わっと惑に泣きつく庚。
「カノエも、カノエも皆様のお役に立ちましたですよね?!」
「勿論。ようやったね庚ちゃん」
 そしてこれは約束の、と温かな惑の手が庚の頭を撫でる。
 尻尾が揺れてご機嫌な様が見てとれたところで、4人は灯りのついた夜の街を歩きだした。

 図鑑で見た事のある姿も、まったく知らない未知の姿も。
 色とりどりの魚達が歩道を泳ぎ、赤信号の前で止まっている。信号が青に変わって一斉に泳ぎ出す様は、なんとも不思議だ。
 その中に交じりながら散歩していると――ふと、辺りが暗くなった。信号は点灯したままだ。
「見てください、あれ」
 睦月が指差したのは空だった。見上げてみれば、ゆっくりと巨大な鯨が空を泳ぎ、道路に影を落としている。
 それは十年に一度、街へ回遊する『奇跡』と呼ばれた存在。特異運命座標と惹かれ合うように、姿を現したのだった。

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM