シナリオ詳細
もと光る竹なむ一筋ありける
オープニング
●ある森の出来事
ここは深緑の森の中。幻想種の少女達は大樹の幹や枝にツリーハウスを作り、その中に暮らしてのどかな日常を謳歌していた。時に悪い奴らが大挙して押し寄せ、老いるを知らぬ彼女達を連れ去ろうとすることもある。しかし、森そのものは穏やかで、彼女に尽きせぬ恵みと安息を齎す存在であった。
だが、そんな森の一角で、ちょっとした事件が起ころうとしていたのである。
ツリーハウスが散在する、幻想種の集落。木々の葉の隙間から差し込む朝日を浴びながら、少女達が起き出して来る。小川から湧く清水で身を清める少女、固い木の実を挽いて作った粉を捏ねてパンを作る少女、ツリーハウスの汚れを掃除する少女。朝の過ごし方はさまざまである。
「ねえ、これ何だろう?」
そんないつも通りの日常を過ごそうとしていた彼女達の一人が、集落の真ん中に突き出していた小さな突起に気が付いた。彼女は黒く分厚い皮に包まれたそれを見つめて首を傾げる。
「さあ……見た事のない植物ね。一体どうしたのかしら?」
「いつから生えてたんだろう?」
隣の少女は幾重にも覆い重なった皮を剥がそうとするが、それは鉄のように固い。
「うーん。最近までは間違いなく生えてなかったものね」
「こんなところに生えてたら躓いちゃうよ。困ったなあ……」
「だからといって、むやみに取り除いてしまうのもよくないわ。何であれ、深緑に芽吹いた緑なんだもの」
「そうだよね……」
しかし、その判断こそが不幸の始まりであった。
一週間後、魔法のカンテラを手にした一人の行商人が、一頭の馬に乗って森を進んでいた。彼は深緑の集落と懇意にしている行商人であり、深緑で取れる珍しい果物と引き換えに、ラサやその他の国の情報や名産品を運んでくるのである。警戒心の強い少女達も、人の良い彼には心を開き、彼が来る時にはわざわざ近くまで出迎えに来てくれるほどであった。のだが。
「おかしいな……」
彼は首を傾げる。今日は誰も来ない。しんとしている。まさかまた深緑で何かあったのだろうか。胸騒ぎがした彼は、悪路も構わず馬に走らせ、集落へと急いだ。
目に飛び込んできたのは、とんでもない光景だった。
「な、な……なんじゃこりゃあ!」
思わず素っ頓狂な声を上げる。彼方此方の節が光る巨大な竹が何本も伸び、ツリーハウスや広場や石造りの水路を貫いていた。家を壊されてしまった少女達は、暗澹たる表情で集まっている。
「どうしたんだよ、一体?」
「わたし達が聞きたいわよ! 広場に何か生えてるなって思ったら、一週間でこれよ! 新しい幹がどんどん生えてきてるし! こんな植物深緑にはなかったわ! 一体どうなってるの!」
やり場のない怒りをぶつけてくる一人の少女。肩を縮めながら、行商人は節だらけの巨大植物をじっと見上げる。
「こりゃあ、竹だな」
「タケ?」
「ああ。昔余所からやって来た人間の服にこれの種がくっついてたらしい。木とも草ともつかない見た目が面白いってんで、この種を分けて貰って中庭で育てたりするような貴族もそこここにいるんだが……どれもこれも野放図に生えまくって庭を台無しにするからって、最近はもう嫌われまくってた植物さ」
「どうしてそんなのがこんなところに生えるのよ」
「俺に聞かれたって知らねえよ! そもそも、生え方がヤバいったってここまでじゃなかったっていうぞ」
「そんな……ああ、どうしよう……」
また別の少女は落胆して天を仰ぐ。
「とりあえず俺がローレットに頼んでみよう。こんなになったら俺達じゃどうにもならないぞ……」
●迷惑な余所者を切り倒せ
「……というわけで、今回のお仕事は深緑になぜか生えてしまった暴走竹の伐採なのです」
コルクボードに張った地図に、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は素早く印を打つ。
「この竹の特徴は、とにかく茎? 幹? が硬い事なのです。本当に硬いのです。適当に剣を振ったら剣が負けちゃうくらいなのです。手を痛めないように気を付けて欲しいのです」
ならどうするか。ユリーカは手元の紙を捲りながら更に話を付け足す。
「深緑の森で火を使うのはお話にならないですが、この竹の退治にはよく毒が使われるそうです。もちろん周りの植物まで枯らしてしまうなんてことはダメですが、少し考えてみてもいいかもしれないのです」
「ちなみに、グルメな人がこの植物の若い芽を食べたことがあるそうです。歯応えが良くてとても美味しかったらしいのですよ。一応お伝えしておくのです」
- もと光る竹なむ一筋ありける完了
- GM名影絵 企鵝
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年01月14日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●森の厄介者
シャベルやら鉈やら、様々な鉄器具を担いでイレギュラーズは件の集落へと足を踏み入れる。天を突くようにそびえる深緑の木に負けじと、集落の至る所で竹がぐんぐんと伸び、幻想種の過ごしていたツリーハウスを突き破っていた。そこに住んでいたはずの少女達は、しおしおの顔で集落の真ん中に身を寄せ合っている。
「調和を乱すものあらば、私はそこに駆け付ける」
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は大きなシャベルを肩に担いでぽつりと呟く。憧れの英雄を気取っては見たものの、それに応える敵はどこにもいない。風に吹かれた竹が僅かに揺れるばかりである。彼女は溜め息交じりにシャベルを降ろした。
「……と、竹相手にキメても恰好つかないわね」
「でも、たかが植物、とは侮れないわねえ……ほんと。なぁによこの風景。ここだけ異国情緒的なサムシング漂っちゃてんじゃないの。深緑の割には何かファンキーになってない?」
今日も愛用の槍を担いで、ゼファー(p3p007625)は首を傾げる。木とも草ともつかない竹の見た目は、流れ者のゼファーにとっても見慣れない光景だ。固い茎を槍でつつくと、鉄のように甲高い音が鳴り響いた。アルメリアは小首を傾げる。
「外来種の竹が深緑の豊かな自然で爆発的に成長した……って言っていいのかしらね、これ? それにしても限度があるでしょうに……」
「ま、兎にも角にもまずは伐採しない事にはお話し進みませんし。労働に勤しむとしましょうね」
ゼファーは鍬を手に取ると、力強く竹の根元へ振り下ろした。
様々な土木用具を脇に置き、辻岡 真(p3p004665)は天を衝く竹を見上げた。ツリーハウスの床をど真ん中から突き破っている。手で触れてみると、今もミシミシと音がして、竹が伸び続けているのがはっきりわかる。
「やはり、実際に見ないと被害の具合は分からないものですね。旅から旅への渡り鳥人生は長いですが……ここまで酷い竹の被害なんて随分と久しぶりに見ましたよ」
黒犬のわんころに野ロバのノギクは興味津々に竹へ鼻を寄せている。メリー・フローラ・アベル(p3p007440)も魔法陣から式神やらモグラやらホリネズミやら取り出し、早速竹の根元を掘らせ始めた。
「わたしが元居た世界にも竹はあったわ。たしか地下茎から枯らさないとまた生えてくるのよね?」
世界は違えど、揃って日本やそれに似た土地柄に暮らしていた二人。竹も見慣れたものである。
「ええ。ですから下手に放っておくと、竹が他の植物を全部追い払って一面竹林、なんてことにもなりかねないんですよね。ついでに除草剤も原液で使わなければいけないほどしぶとい事でもまた有名で」
「ま、深緑で育った竹なんだからその辺で育った竹よりもいっそう厄介なんでしょうけど。それを差し引いてもわたし達にはパンドラの力があるわけだし? さくっとわたしの魔法で駆除してあげるわ」
言うと、メリーは目の前に引き立てた犬と猫をじっと見つめる。その辺で拾ってきた野良達だ。
(手伝ってくれたら後でごちそうをあげる)
(やらなきゃ威嚇術を叩き込むわよ)
酷い話だ。しかし悪辣な言動が過ぎて撃ち殺されそうになったメリーにしてみれば、この辺はまだ穏便なやり取りである。犬と猫は毛を逆立てると、慌ただしく作業に取り掛かった。モグラとホリネズミも必死である。
「さ、これだけ手があれば何とかなるでしょ」
「そうだね。じゃあ俺も……」
そんなメリーの腹黒な内心はいざ知らず。真も頷き、尻尾を振ってにこにこしている愛犬の頭、呑気に下草を食んでいるノギクの背中を軽く撫でた。
「わんころは俺と穴掘り、ノギクは荷運びを手伝ってくださいね。かなり力仕事になりますが、頑張りましょう」
仲良しな彼らは、揚々と仕事に取り組み始めた。
一方、フィーゼ・クロイツ(p3p004320)は己の魔力で形成した赤紫の大槍を構え、目の前の竹に狙いを定めていた。渾身の力で擲つと、竹はメリメリと音を立て半分ほど砕けたが、それでも残った部分で真っ直ぐ伸び続けていた。フィーゼは新たな槍を手元に精製しながらぽつりと溜め息を吐く。
「半分割れてもまだ折れないなんて。こんなに硬い植物が存在しているのね」
「竹って植物は生命力が強い、なんてのは聞いていましたがね……」
アベル(p3p003719)は竹の側まで歩み寄り、弓のリムで砕けた竹を軽く叩く。もちろん竹はびくともしない。辺りを見渡せば、そんな竹が集落の至る所に生えている。仲間達も既に伐採へ取り掛かっているが、ひどく苦労している。彼は半分呆れたように呟いた。
「いや、これはやり過ぎでしょう?」
「うん……土地柄なのか、その植物自体が元々そういう感じなのかは知らないけど、そんなに早く成長するなんてびっくりよね。とりあえず片付けなきゃ」
フィーゼは再び槍を擲つ。その切っ先は竹の傷口に再び突き刺さり、今度こそ竹の節を砕いた。支えを失った竹は、ぐらりと傾いで倒れかかってくる。アベルは咄嗟に竹を右手で押さえ込むと、そのまま集落の彼方へ押しやるように突き倒した。
「ま、命の危険があるわけでもないですし、それで稼げるのなら万々歳ですがね」
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が、空へふわりと飛び上がる。そのまま手にしたシャベルの剣先に足を掛け、一気に土へと突っ込んだ。集落の踏み固められた土をざっくりと踏み込み、そのまま梃の原理でひっくり返す。柔らかい土に辿り着いたら、そのままザクザクと深くまで掘り進めていくのだ。
「ふー……大変大変。これだけ大きいと、根っこもかなり掘らないと見えてこないね……」
彼の側にはちょこちょことモグラがやってきて、一緒になって穴を掘り進めている。そんなモグラの様子を上からじっと眺めて、カレン・クルーツォ(p3p002272)は小さな声で謡う。
「もと光る竹なむ一筋ありける。竹の中には小さな小さなおひぃ様がいるのよ」
「ほんとに?」
「いいえ。それは只の御伽噺。そんなお話も大好きだったのだけど……こんなになってしまったら御伽噺どころじゃなさそうね」
カレンが呟いている間にもアクセルは土掘りに精を出し、ようやく地下茎を掘り当てる。根っこも硬いが、竹の節ほどではない。アクセルがシャベルの剣先で何度もつついているうちに、表面が割れて白い中身が剥き出しになる。
「さあ、ただすくすく育っただけの竹の子達だけれど、このまま放っておくわけにはいかないものね」
言うと、カレンはその掌に黒々とした霧を浮かべる。彼女の心の奥底に眠る懊悩が呪いや毒へと変化したのだ。そのままその霧で地下茎を包み込もうとした彼女だったが、アクセルは咄嗟に彼女の動きを制した。
「あ、ちょっと待って! その前に“これ”を取らないとね!」
アクセルは慌ててそばの土を掘り返す。探偵コートを着て鹿撃ち帽を被ったスライムがぬらぬらと動き回り、一点をじっと指差していた。そこから出てきたのは、立派なサイズのタケノコである。アクセルはタケノコの付け根をシャベルの剣先で突いて折ると、両手で抱えて引っ張り出した。
「ほら見てよ、大きいタケノコ!」
「あらぁ……このサイズは中々お目にかかれないわね……」
「毒を流しちゃったらタケノコが食べられなくなっちゃうからね。ウェールさんもちょっと下がってて」
スライムはするすると動いて撤退していく。アクセルとカレンは一瞬顔を見合わせると、魔法の毒霧と毒蛇を繰り出し、地下茎に毒を染み込ませた。
ゼファーは鍬で土を掘り返し、集落の地中を縦横無尽に走る地下茎を剥き出しにする。アルメリアは魔導書を開くと、指先を竹の地下茎へと向けた。彼女が呪文を唱えると、指先から毒液がぽたぽたと滴っていく。悠長過ぎて、効き目があるかもよく分からない。アルメリアは思わず口端に笑みを浮かべた。
「ふっ……こんなこと言うのもなんだけど、地味だわ……」
敵と身を削り合う戦いをするわけでもない。ただただ疲れるだけの根気がいる作業である。ゼファーは鍬を放り出して槍を担ぐと、アルメリアにぱちりと目配せしてみせる。
「じゃあもう少し派手に薙ぎ倒しましょうか? 根っこは暫く様子見になるんだろうし、ね」
「……そうね。じゃあちょっと、試してみるわね……」
アルメリアは魔導書のページを捲ると、指を差し出し繰り出した茨を竹に撒きつける。鋭い棘が擦れ合い、竹の根元を徐々に削っていく。ゼファーはその間に槍を脇に構え、竹に狙いを定める。
「さあ行くわよ……ちょっと下がってて!」
ゼファーは鋭く言い放つと、素早く踏み込んで槍を一息で振り抜く。巻き起こった旋風は的確に竹の根元を捉え、竹をスパッと断ち切った。槍を背中に背負い、ゼファーは流し目をアルメリアへ送る。
「どう? 中々の手並みでしょ」
「ええ……凄いわ……」
一方、フィーゼとアベルは折った竹の根元を掘り下げ、剥き出しにした地下茎をじっと見降ろしていた。
「何だろう……」
フィーゼは弓を構え、毒でぬらりと鏃の光る矢を何度も何度も地下茎へと撃ち込んでいく。どれだけ撃ち込んでも竹は反撃してこないが、それでも肩が凝ってくる。フィーゼは肩を軽く拳で叩き、小さく溜め息を吐いた。
「こうやってチマチマとやってると、毒針を打ち込む生き物の気持ちが何となく分かる気がするわね?」
「そうですね。何度も何度も毒を流し込んで、着実に殺す……というわけですね。もっと楽に済ませるための術式もあるのですが、残念ながらうっかり準備を忘れてしまいまして」
アベルは残念そうに呟くと、竹の根元に向かって弓を引く。フィーゼの弓と比べれば格段に小型だが、複合球はそれでも十分過ぎるくらいの威力を誇る。鉄騎の力でいっぱいに弦を引き絞ると、そのまま竹をぶち抜いた。ロープで大樹に括りつけられていた竹は、そのまま集落の外に向かって倒れ込む。
「さあ、次に行きましょうか」
アクセルは土の中に手を突っ込み、力任せにタケノコをもぎ取る。籠の中には巨大なタケノコが既に五つも六つもゴロゴロと転がっていた。
「ウェールさん凄いや! もうこんなにタケノコが!」
ゆらゆら揺れていたスライムの探偵は、何処か照れたように顔を隠す。カレンも穏やかに微笑んだ。
「そうねえ。これだけあればたくさんお料理が作れるわ」
そんな世間話もしつつ、カレンは足下の地面に掌を翳し、いきなり土塊の巨人を作り出す。拳を固めた巨人は、のしのしと竹一本に近寄り、いきなりその全体重を竹へと押し付けた。みしりみしりと軋みをあげるが、中々竹は倒れない。アクセルは翼を広げて飛び上がると、竹の先の方にロープを巻き付け木の一本に向かって飛んでいく。固すぎる竹は中々撓らず、ロープを木に結び付けるのも大変だ。
「……よし、これで折れても大丈夫」
今度は一気に急降下し、手裏剣を鋭く竹の根元へ投げつける。何度も何度も辛抱強く投げつけているうちに、遂にカレンの土人形が竹を圧し折った。
真とメリーの連れた動物達が、懸命に竹の周りを掘り下げていく。真は竹の根元に狙いを定めると、毒のポーションにじっくり浸していく。竹は特に苦しむ様子も見せないが、確実に染み込んでいた。
「これで大体集落は全部回ったでしょうか?」
「そうね。大体片付いたわよ」
メリーは短剣を振るって魔力を竹に流し込む。毒を耐える生命力が変性し、一気に地下茎を黒ずませていく。真面目に仕事をしていたが、彼女はどうしても飽きてくる。溜め息を吐くと、剣をその場に放り出した。
「だからそろそろ切り上げましょうよ。こんなに大きな竹なんだもの。毒が回り切るには時間がかかるわ」
「……そうですね。今日は一旦切り上げて、様子を見てみましょうか」
●異国情緒溢れて
かくして、数日が経った。イレギュラーズは泊まり込みで様子を窺っていたが、新たな竹の芽が生えてくる気配はない。無事に駆除を完了させた彼らは、そのままアフターサービスへと乗り出した。大量に発生した竹材の処理である。
真はナイフを逆手に構え、竹の茎のど真ん中に切っ先を突き立てる。息を整えた彼は、その柄尻を勢いよく拳で叩いた。切れ目の入っていた竹の茎は真っ二つに割れた。真がひたすらその作業を繰り返す横で、わんころは竹を咥えて鞄に突っ込み、ノギクはそれを背負ってアクセルのところまで運んでいく。
「ありがとう! まだまだ頼むよ!」
アクセルはノギクの首筋を撫でてやると、鞄から竹の束を抜き取った。目の前の切り株に立てて構えると、アクセルは光のクナイを構え、真っ二つに断ち割っていく。一回縦に切り込みを入れてしまえば、あとは大した力をかける必要も無い。アクセルは半分に割った竹材を次々に量産していた。ゼファーはそんな竹材を一つ手に取ると、目の前に放り出してブーツを脱ぐ。そして竹の上に飛び乗ると、竹の節が彼女の足に深く食い込む。思わず彼女は声を洩らした。
「ああっ……これは、効くわねぇ……最近ずっと力仕事ばかりだったし、結構疲れがたまってたかも……」
そのまま彼女は何度も青竹を踏みつけ嘆息する。そんな彼女をアクセルはちらりと見遣った。
「何してるの?」
「なんだか足の按摩に向いてそうな気がして、ね。それにしても、半分に割ってもこれだけしっかりしてるなら、新しい床材としても十分機能してくれそうね」
ゼファーはブーツを履き直すと、アクセルの割った竹を一纏めに束ね上げる。再び戻ってきたノギクが、鞄に束を入れるよう催促し始めた。
「はいはい、よろしくね」
彼女が鞄に束を押し込んでやると、ノギクはふんふん鼻を鳴らしつつ、今度はアルメリアの側まで歩み寄る。彼女は竹の束を受け取ると、麻縄で竹を器用に束ね、一枚の板に仕立てていく。幻想種達が集まり、そんな様子をじっと見つめていた。
「不思議な見た目の家にはなるかもしれないけれど……かなり丈夫だし、当分は補修もしなくてすむはずよ」
「……うん、ありがとう。私達も手伝う」
イレギュラーズの働きぶりを見てようやく活力を取り戻した少女達。アベルはそこへ颯爽と歩み寄り、アルメリアの作った竹板を自ら抱え上げた。
「では、まずはどのように補修するのか教えてください。俺が手伝いましょう」
「え、でも……そこまでやって貰ったら、なんだか悪いような……」
「良いんですよ、麗しい女性陣のお手伝いが出来れば、それはそれは幸せですのでね」
さらりと言い放つと、アベルは少女達の先頭に立って歩き出す。少女達はちょっと頬を赤くしたまま、その後を追いかけていった。
一方、メリーは集落の隅に動物達を集めていた。この依頼の間、彼女が馬車馬のように働かせていた動物達である。彼らはもうへとへとだ。
「ワンちゃん、ネコちゃん、手伝ってくれてありがとう。モグラとホリネズミを食べていいわよ」
そしてメリーのこの仕打ちである。犬猫が目を丸くしている間に、モグラとホリネズミは慌てて地面に潜っていなくなってしまった。紙に封じ込められた式神だけは、我関せずと漂っている。彼には飛び切りの仕打ちが待ち構えていたというのに。
「貴方にはこれをあげるわ」
メリーはそう言い放つと、いきなり魔力で編み出した礫を大量に式神へ叩きつける。紙きれは千々に千切れ、闇の中へと四散した。
死ぬ目に遭っても所業は変わらぬメリーであった。
メリーが“後片付け”をし、真達が力仕事に精を出す一方で、カレン達は集落の広場で料理を始めていた。大鍋でグラグラと水を沸騰させ、その中でタケノコを湯掻いていく。水がどんどん黒く濁っていく。その中から浮かび上がってくるタケノコは、逆にゆで卵のようにつんつるてんへ変わっていった。フィーゼは少女達と共に興味津々の眼差しでアク抜きの様子をじっと見つめていた。
「へえ……このタケノコも普通に茹でちゃえばアク抜き出来るのね」
「そうねぇ。お湯がこんなになっちゃうくらいのアクだもの。タケノコのお刺身なんかにしていたら、みんな食べたとたんに引っくり返っていたかもしれないわ」
「私はそれもそれで構わないんだけど……みんなはきついわよね、きっと」
フィーゼは鉄の串でタケノコを突き刺すと、調理台の上までタケノコを運び出す。竹になったら鋼鉄のように固かったタケノコも、茹でてしまえば普通に食べられそうな柔らかさだ。彼女はそのままナイフを取ると、タケノコを一口大に切り分けていく。
「で、このタケノコは一体どう料理するものなの? 食べた事ないから私は何も出来ないわよ?」
「そうねえ。……私はタケノコを使った料理だと、土佐煮がスキだったわね」
「トサニ? 何それ?」
「醤油とお酒、お砂糖で味付けしてね、じっくりタケノコを煮込んだ料理よ。どうしてスキだったのかは覚えてないのだけど……」
彼女が指先をそっと伸ばすと、何処からともなく光に包まれた蝶が一匹飛んでくる。そっと目を閉じたが、蝶が見せてくれるのは、あったかもしれない未来。自分の過去に何があったのかは、一つも見せてくれないのであった。
こうしてイレギュラーズは竹材でツリーハウスを補修し、タケノコで美味しい煮物を作った。一度は集落に手痛い被害をもたらした竹の暴走であったが、彼らの尽力は、竹を見事に恩恵へと変えてみせたのである。
おわり
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お世話になっております。影絵企鵝です。
この度はご参加いただきましてありがとうございました。
現実のモウソウチクも除草剤の原液を丸々一本使うレベルでしぶといらしいですね。
影絵の一番好きなタケノコ料理はメンマです。という事でまたご縁がありましたらよろしくお願いします。
GMコメント
●目標
ボウソウチクの根絶
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
深緑の森の外れに存在する、小さな集落で戦闘を行います。
集落全体からどんどんボウソウチクが伸びています。このままではツリーハウス全体が破壊され、近くの木も薙ぎ倒されてしまいます。
家を壊されてしまった幻想種が至る所で落ち込んでいます。
●障害物
☆ボウソウチク
いつから植わっていたかもわからない、異世界由来の植物。というか竹。長命で緩やかに育つ深緑の樹木に対し、強烈な成長率を持つこの植物は深緑の豊かな土壌から栄養を吸い上げて急激に成長して周囲の植物を駆逐し始めた。
・特徴
→超硬質
その茎は鋼鉄のように固く、物理的な伐採には苦労が伴うでしょう。
→地下茎
ボウソウチクは地下茎によって発達します。表に見えるものだけを切っても、一週間すれば元の木阿弥です。
→無心
植物なのであたりまえ(?)ですが、イレギュラーズの攻撃による心理的な悪影響は受けません。
→えぐみ
ボウソウチクのタケノコはアクがものすごいです。
●TIPS
☆場所が場所だけに当然火気厳禁。毒の類を使う時も細心の注意を。
☆伐採した竹は建材としてはこの上ない適性を発揮する。
☆アク抜きさえすればタケノコは食べられる。
影絵企鵝です。直接的な生命の危機こそありませんが、この竹を放っておいたら大変な事になるのは間違いありません。今のうちに片付けてしまいましょう。
讃岐の造ごっこばっかりしていてもつまらないでしょうから、アフターサービスなども考えておくといいかもしれませんね。
ではよろしくお願いします。
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