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シナリオ詳細

<高襟血風録>外伝・カフヱースタアライト

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●星空のない街で
 都の夜は明るいが、空は何処よりも暗い。
 ハイカラ、蛮カラ、人間、三種族が集う都の夜は長く、そして賑わっていた。しかし、そこにいる誰もが肩を組んで笑い合っている訳でもない。夜の騒がしさに耐えかねて寝床から這い出たものの人の輪の中では孤独を癒せず流離う者もいる。
 此処は、そのようなものの為の止まり木の様な場所であった。
 『カフヱースタアライト』。アールヌーボー調の星空が描かれた看板が目印だ。

 ヱリカもまた都の喧騒からはじき出されたものだった。
 流浪の旅を続けるものとして孤独には慣れているが、ただただ一人でいる事と違い大勢の中で一人でいる事はそれなりにつらい。かと言って見知らぬ人と酒を酌み交わして陽気になる気分でもなく、流されるようにしてカフヱースタアライトにたどり着いたのだ。
 店内には香ばしくも華やかな香りが染みつき、カウンターの奥では不可思議な円錐形のガラス器具に湯を注いでいる男がいる。
「いらっしゃいませ」
「うむ」
 客はまばらに居るが誰もが干渉しあうわけでもなくカフヱースタアライトという場所に没頭しているように見えた。
 ここにしよう。
 ヱリカはカウンターに腰かけた。
「当店は初めての方でございますね」
「であるな」
「それならば当店の珈琲について説明いたしましょう」
「ふむ?」
「ウチで出しておりますのは星空を映す珈琲でございます」
 ヱリカの眉がハの字になる。
 珈琲が夜空のように真っ黒な液体であるということは知っていたが、星空のない街で星空を映し出すとは奇妙な話だ。
「解かりやすいのはミルク珈琲でございますね。下に特別なミルクをひいて上に珈琲を注ぎますと表面にぷつぷつとミルクが星のように浮かび上がります」
「特別なミルクとな」
「星降高原のものを使用しております。
 文字通り星が降った土地ですので、草や水に星のくずが混ざってございます。それで育った牛の乳にもまた。
 星のくずというのは、空の星に引かれる性質がございます。普段は目に見えませんが、珈琲を上に引けば、少しの間、上空の星々の位置を描き出すのでございます」
「……妖術の類か」
「サヰヱンスです」
 ヱリカは小さく唸り声をあげた。ヱリカは決して頭のいい方ではない。ならば。
「では、それを一つ貰おうか。それから菓子も」
 実物を見て確かめるのが一番だ。

●カフヱースタアライトへの誘い
「皆、コーヒーは好き?」
 ポルックスはイレギュラーズ達を集めてこのように切り出した。
「実は、夜のカフェでくつろぎませんかってお誘いが来てるの。
 誰からって? んふふふ、秘密って言われてるから秘密!」
 でも、面白そうなところだよ。とポルックスは手書きのメニュー表をペラペラ捲りながら続ける。
「夜空を描き出すコーヒーっていうのかな?
 真っ黒なコーヒーの上にミルクの星が現れたりするんだって。
 それから、真ん丸なチーズが月の形に溶けたり、大人向けだけど流星が見えるアイリッシュコーヒーとか……。
 もちろん普通のメニューもあるみたいだけど、そういうのがあったら気になっちゃうよね!」
 じゃあ、楽しんでいってらっしゃい!と背中を押され、イレギュラーズ達はライブノベルの世界へと旅立っていった。

NMコメント

 実はコーヒーより紅茶派。七志野言子です!
 裏も何もなく単純に夜の喫茶店でコーヒー飲もうぜ、というだけのシナリオです。
 ソロはもちろん、示し合わせてデートなどにもどうぞ。

●目的
 夜の喫茶店の雰囲気を楽しむ。

●登場NPC
 ヱリカ
 ハイカラという種族の女性。編み上げブーツに袴の所謂女学生スタイル。
 実は誘いを出した張本人だけれど、素知らぬ顔でカウンター席でコーヒーを飲んでる。
 戦いの絡まない場所に呼び寄せたのは日頃の礼のつもりか。

 マスター
 カフヱースタアライトの店主。詰襟ベスト姿の初老の男性。
 話しかければ珈琲小話を披露してくれるかもしれない。
 また、メニューにない品でもコーヒー関連の物であれば無理のない範囲で作ってくれる。

●メニュウ
『ドリンク』
・スタアライトミルク珈琲
 星降高原産のミルクをカップの底に敷いて上から当店のブレンド珈琲を注いだ品。
 少し待つとミルクの星が浮かび上がってきます。
 時間がたてば珈琲とミルクが混ざり合って消えてしまいますが、浮かび上がる星図は本物です。

・ムーンライトチーズ珈琲
 月光を浴びせて熟成させたチーズを丸く刳り抜いて珈琲に浮かべた品。
 熱い珈琲の中で溶かすうちに不思議と現在の月齢に近い形になっていきます。
 チーズの溶けた珈琲はコク深く、珈琲に漬かったチーズはティラミスのような味わい。

・スタアダストアイリッシュ珈琲
 ウイスキーと熱いコーヒーを注いだガラス杯に星降高原産ミルクのホイップを添えた品。
 ガラス杯越しにホイップが底に落ちる流星群を御鑑賞ください。

・スタアライトブレンド
 カフヱースタアライトの特製ブレンド。
 華やかな香りが特徴で深煎りの苦味豊かな味わい。

『フード』
・ワッフルス
 メリケン粉とバタ、ふくらし粉を混ぜて鉄型で挟んで焼いた菓子。
 リンゴジャムとホイップクリーム付き。

・牛乳卵砂糖寄温菓(かすたぷりん)
 牛乳、卵、砂糖を混ぜて蒸しあげた菓子。
 ブランデーを垂らして食しても美味。

●その他
 必ずしもNPCに関わらなければいけないわけではありません。
 更けていく夜をお楽しみください。

  • <高襟血風録>外伝・カフヱースタアライト完了
  • NM名七志野言子
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年01月10日 22時25分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼

リプレイ

■星のない夜に
 磨き上げられた硝子の向こうの街並みは闇の帳に覆われて、遠くガス灯の橙色が柔らかに浮かび上がっていた。
 顔の見えない人々の影は足早に、時折こちらを見ながら通り過ぎていく。
  『凡才の付与術師』回言 世界(p3p007315) は頬杖を付きながら窓の外を見ていた。
 ガス灯に照らされているとはいえ、世界の知る夜景に比べれば随分と暗い。しかし、逆にそれこそが結界のように独特の空気を醸している様な気さえした。
(昼とは違ってとても静かというか一種の厳かさを感じるよな……)
 そこにあるのは珈琲の香りと食器の音だけ。
 静寂という贅沢を味わいながら注文の品が来るのを待っていた。

 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は胸を高鳴らせながらカウンター席についた。
 店員の熟練の手捌きを眺めるのは好きだったし、ちらと横を見れば袴姿に編み上げブーツの女性がいる。<高襟血風録>の世界に関する報告書に必ず名前が上がる「ハイカラ」さん、ヱリカとみて間違い無いだろう。
 話しかけてみようか、腹の底が好奇心に疼くが、招待者は秘密とされているのであればそれも野暮だろう。
「……マスター、スタアライトブレンドお願いするわぁ」
 一瞬なからず視線がアイリッシュ珈琲に釘付けになっていたが、まずはシンプルなものと誘惑を振り切ったアーリアの声に応えてマスターの手元が動く。
 カフヱースタアライトで採用されている抽出方法は、ペーパードリップと呼ばれる挽いた珈琲をフィルターに入れてお湯を注ぐシンプルな技法だがそれ故に作り手の癖が出る。
 熟練の感性の元、一滴一滴溜まっていく琥珀色の液体をアーリアは飽きずに見つめていた。

 もふり、と白いもこもこに太い指が沈んだ。
 『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が呼び寄せた手乗りサイズの羊のジークはちょこんと小さな前足をカウンターの上に乗せて興味津々といった様子で店の中を見回していた。
 棚に飾られた色とりどりのコーヒーカップも、湯気を吹く細口のケトルも全てが目新しい。
「お待たせいたしました。スタアダストアイリッシュ珈琲とワッフルスでございます」
 それにこの透明な杯に入った黒と白の飲み物はなんということだろう!
 来た瞬間、隣の席のお姉さんがぎゅいんとすごい速度でこちらをみたのはそれとして……。
 黒の上にふんわりと浮かんだ白が弧を描いて落ちていくのだ。幾筋も幾筋も流れ星の様に落ちながら解け消えていく。
「スタアダストか……」
 スタアダストアイリッシュ珈琲に夢中なジークの頭を撫でてやりながらゲオルグもまた杯の中の小さな流星群を覗き込む。
 ワッフルスも珈琲も湯気が立つほど出来立てだ。もう少し冷まさなくてはゲオルグの猫舌では火傷してしまう。

「ヱリカ殿、またお会い出来て嬉しいです! お体は大丈夫でしょうか?」
 『クラッシャーハンド』日車・迅(p3p007500)の溌剌とした声は静かなカフヱーの中でよく響いた。
「迅殿か。いやはや、我もこの様な処でお会いするとは思わなんだ」
「はい。その後、捨三郎どのとコウ殿は……」
「先ずは腰かけられよ。注文は如何する?」
「あっ、ではムーンライトチーズ珈琲とワッフルスを」
 ヱリカに促されて席につきつつ迅は注文をする。店のメニューはどれも気になっていたが最初はこれにすると決めていた。
「捨もおコウも一先ずは元気にしておるようだ。
 紹介した仕事も評判が良いと聞いておるし、上手くいくであろうよ」
 迅の耳が喜びにピンと立つ。はたはたと尻尾は椅子の背を叩きながら左右に揺れ……。
「良かった……! そればかりがずっと気がかりだったのです!」
 瞳を潤ませて感激する様子にさしものヱリカも瞠目し。
「なんと、そこまでご心配していただけるとは……捨とおコウにもよく伝えておこう」
「はい。どうかお体に気をつけくださいと……」
 ごしごしと裾で涙を拭い、迅は朗らかな笑顔を見せた。

■珈琲の中で夜は更ける
 ぽつぽつと黒いキャンバスに星が映る
 世界にとっては知らない星空だ。しかし、珈琲カップの中に再現された星図はいかにも神秘的で、うっすらと立ち昇る湯気は星々にかかる雲のような趣がある。
 星図の正しさを確認しようと窓を見上げても珈琲よりも暗く底のない暗闇が広がるばかり。
(なるほど。此処で星空を見ることができるのは珈琲の中だけなのか)
 そう思うとかき混ぜてしまおうと持ち上げたスプーンも止まる。
 もう少しこの貴重なものを楽しんでおこう。
 そう決めた世界の鼻を小麦の焼けた甘い匂いがくすぐった。

 アーリアは、都の夜空と同じ色をした珈琲を一口。
 すると舌の上で苦味と酸味が複雑なステップを交わし、飲み込めば果実を思わせる華やかな香りが鼻からすっと抜けていく。
「美味しい!」
 素直な感想が口から飛び出せば、淡々と給仕をしていたマスターも静かに顔を綻ばせる。
「チーズ珈琲もいいですよ。牛乳とは違うコクがあって甘いです!」
「あら、美味しそう……ふふ、今日は上弦の月なのねぇ」
 迅の珈琲カップには最初まん丸なチーズが浮かんでいたのだが、いつのまにかトロトロに溶けて夜空に浮かぶ月と同じ形になっている。
「はい!これを食べてしまうのはもったいないですが……」
 スプーンで掬い上げた月は濃厚なミルクと苦味、そしてすこししょっぱい味がした。
「ジーク、これは大人の飲み物だから飲んじゃダメだぞ」
 迅とアーリアとは反対方向から声が上がる。
 アイリッシュ珈琲を飲みたがる羊をやんわりと押し留めているゲオルグだ。
「食べるならワッフルスにしよう? なにもつけなくても甘くて美味しいぞ」
「珈琲は最初に羊が見つけたものと言われております。祖先の血が騒いで気になるのやもしれませんな」
 どうぞ、とマスターが差し出したのはジークが飲みやすい様に浅い皿に入れた珈琲である。
「羊にとって少なくとも毒ではないでしょう。どうぞ召し上がってくださいませ」
「これは……ありがたい」
「いえ。強いて言えば当店の甘味の中ではかすたぷりんも私のおすすめですな」
「ではそれも頂こう。ホイップクリームたっぷりで」

■深夜は静寂を連れてくるのか
「マスター! ワッフルスとかすたぷりんだ! 他にも甘いものがあるならあるだけ持ってこい!」
「ミルク珈琲はミルクたっぷりで飲みやすかったのですが、アイリッシュ珈琲は思ったより大人の味と言いますか……」
「ええっ、迅君ったらアイリッシュ珈琲も頼んじゃったの? じゃあ、わたしにもスタアダストアイリッシュ珈琲くださいなぁ!」
 人が増えれば声も増える。
 静かだった店内に泡沫のような賑わいが満ちるがそれも決して嫌なものではない。
「ふむ……。当店の裏メニューの珈琲パルフェの出番ですかな?」
「ああ、俺の腹が膨らむのが先か、スイーツを味わい尽くすのが先か一騎討ちだ!」
「珈琲パルフェ……こちらにもお願いできるだろうか?」
 世界とマスターの一騎討ち宣言に、こっそりと手をあげるゲオルグ。
 店内の一体感というものが陽気なBGMとなって場を支配している様だ。
「簡単に言えばハイカラは北方種族で、蛮カラは南方種族よ。
 それぞれ北と南に自治領があるが……我の様に出てくる者もいる」
「ではヱリカ殿は北のお生まれなんですね!」
「最北端の女学院……城塞都市と言うのが近いか。まぁそんな田舎の出であるな」
「ハイカラさんの言葉も独特なのねぇ」
 迅とヱリカの会話にさりげなく紛れ込みながらアーリアはアイリッシュ珈琲の杯を傾ける。星屑のミルクの溶けた珈琲の味わいは喉の奥で熱く燃えて、紫の毛先をほんのりと珈琲色に染めていく。
 唇に乗る微笑みは「大正解」の会心。
「むう、やはり珈琲にミルクは合う」
 膝の上で一口とねだるジークに分け与えながらパフェを掘り進めるゲオルグ。ワッフルスもかすたぷりんも平らげた後であるが、コーヒーゼリーとミルクゼリーでこうせいされたパフェはするすると腹の中に収まっていく。
 柔らかいものばかりではなく中に仕込まれたナッツとそれに絡むカラメルの食感も中々に楽しい。
「ふははは、まだだ! まだ甘いもの持ってこい!」
 早々に平らげた世界は高笑いをして次の甘味をねだり、マスターもまた限られた材料と技で応戦する。
 ホットケーキ、エクレア、虎の子の舶来チョコレート。
 勝負の行方は……虎の子のチョコレートを切った時にマスターが根を上げたとか。

■月も眠る夜更に
 賑やかだった時も過ぎ、客人たちも一人また一人と帰っていく。
 最初は羊のジークがうとうとし始めたゲオルグが、次に甘味勝負に満足した世界が席を立ち、もう夜も遅いのでと迅が夜更に似合わぬ闊達さで席を辞した。
「じゃあ、そろそろ私も帰るわぁ」
 再び静寂が満ちたカフヱースタアライトでアーリアもまた帰り支度をする。
 カウンターに残るのはヱリカただ一人。
 どこか満足げな顔でコーヒーカップの縁を撫でるヱリカに会釈すれば、帰ってくるのは深い黙礼。
 そこから溢れる好意と尊敬を感じ取るとアーリアはとても美味しいお酒にありつけた時と同じ笑みを浮かべた。
(また会いましょう? 秘密の招待主さん? なんて)
 野暮だから言わないけどね。
 くすくすと軽やかな笑い声が夜闇の中に溶けた。

成否

成功

状態異常

なし

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