シナリオ詳細
<第三次グレイス・ヌレ海戦>セイレーンの海~海域離脱戦~
オープニング
●青天のへきれき
その仕事は、簡単な仕事のはずだった――。
船乗りとしては新米の、貴族の子弟たちをのせた三隻の海洋軍艦。その助言者として乗船し、航海を見守ってほしい。
イレギュラーズ達に寄せられた依頼は、ただそれだけの事だった。
「そんな……どうしてこんな所にゼシュテルの軍艦が!?」
新米船長が悲鳴を上げる。
主戦場たるグレイス・ヌレ海域でも、此処は外れの位置の航路である。
こんな所にまで、ゼシュテルの軍艦が来るはずはない……そう考えての処女航海であったが、これが一つ目の誤算となる。
敵は本隊から逸れたのか、あるいは奇襲を目論んでいたのか。いずれにせよ、正面から出合い頭に遭遇した以上、敵はこちらを見逃してくれるわけはあるまいし、何より貴族のメンツとしては――逃げ出すわけにはいかない。
船内に動揺は広がりつつも、マニュアル通りの戦闘行動を、貴族の子弟たちは行っていた。そこは、流石は海洋の民と言った所だろう。船を動かし、大砲を構え、近接戦闘員は接舷に備え武器を構える。敵も船の腹を見せ、無数の大砲を此方へと向ける。
まさに一触即発。戦闘は間もなく行われようとしていた。
その時。
二つ目の誤算が、静かに歌声をあげた。
哀し気な歌である。
――暗い海の底、私は一人、佇むの。
それは孤独を歌った歌であったが、しかし歌い手がその歌に乗せた感情は、新たな獲物を発見した喜びに満ちている。
――一緒に行きましょう、一緒に行きましょう。
「レ――」
新米艦長は再びの悲鳴を上げた!
「『レベッカ』だ! セイレーン、『深海の令嬢』レベッカ!」
「そんな! セイレーンの海はここからずっと遠いはずです!」
「動いてきたんだ! レベッカが、こっちに来たんだ……!」
動揺する貴族の子弟たちを落ち着かせ、イレギュラーズ達は状況を確認した。
なんでも、此処よりは些か遠い海域には、『セイレーンの海』と呼ばれる魔の海域が存在するのだという。
その海域には、『深海の令嬢』レベッカと呼ばれる魔女が存在し、近づく船を尽く沈めていくのだと――。
イレギュラーズ達は、直感的に察した。
このレベッカという魔女は、間違いない。魔種だ。
歌声にのせられてやって来る、チリチリとした焦燥感――これは原罪の呼び声の感覚に違いなかった。
――一緒に行きましょう、海の底へ。
歌声と共に、ざぱり、と。
波間を縫って、無数のアンデッドたちが現れた。
アンデッドたちは船に取り付くと、次々と船を這いあがり、乗り込んでくる。
「ひっ……!」
浮足立つ貴族の子弟たち。
イレギュラーズ達は一喝すると、迎え撃つように指示をした。
ゼシュテルの戦艦の方をちらりと見てみれば、此方と同様に、アンデッドたちが乗り込んでいくのが見える。レベッカの狙いは、無差別なのだろう。
ならば――ゼシュテルの戦艦は、今の所無視できる。
イレギュラーズ達は、海域からの離脱を判断した。レベッカを討伐するには、貴族の子弟たちのサポートでは力不足だし、何より此方が貴族の子弟たちをサポートしなければ、そう遠くないうちに彼らは全滅してしまうだろう。
――いっしょに、いっしょに、いっしょに。
歌声が響く中。
イレギュラーズ達の離脱戦が、此処に始まろうとしていた。
- <第三次グレイス・ヌレ海戦>セイレーンの海~海域離脱戦~完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年01月03日 22時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
海が泣く。
海が嘆く。
海が歌う。
イレギュラーズ達の前に突如として現れた、魔種――『深海の令嬢』レベッカと、レベッカ率いるアンデッドの群れ。
海を埋め尽くさんばかりのアンデッド達は、今まさに、海域に迷い込んだ哀れな被害者たちを食らいつくさんとうごめき始めていた。
海洋の船は三隻――旗艦『夜明けの星』号、随伴艦『砕ける波濤』号と『吠える大海』号だ。イレギュラーズ達は、この船に助言者として、それぞれ分散して乗船していた。イレギュラーズ達を除く乗員たちは、年若い貴族の子弟たちで、戦闘の経験も、航海の経験も浅く、今回の非常事態に明らかに浮足立っていた。
「船長、落ち着いてほしい」
旗艦『夜明けの星』号に乗船していたイレギュラーズ、『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は、落ち着いた様子で、そう告げる。ある種の威厳を伴ったその言葉は、若い船長たちを落ち着かせるための演技でもある。
「旅に不測の事態は付き物だから、そう慌てた物じゃない。それに大丈夫、私達がいる。助言の域を超えてしまうが……私たちの指示に、従ってくれるか?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
ポテトは同船した仲間達、『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)と『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)、二人へと目くばせをした。二人は頷いて、ポテトへと答える。
「まず、レベッカ……」
一瞬、リゲルは言い淀んでから、続けた。
「魔種から逃げる算段を立てよう。この船をしんがりに、『砕ける波濤』号を先頭、『吠える大海』号を真ん中にはさんだ、直線の陣形を取ってほしい。こうすれば、それぞれ敵が襲ってくる方向も制限できるから、現状ではベストな陣形になると思う。腹を見せれば、大砲も使えるからね」
「なるほど……他の船に伝えます」
「後は、戦闘要員の方々も使わせてもらいますよ」
利香が続けた。
「わたし達でも、流石にこの敵の数をさばききるのは少し骨が折れますから……大丈夫です、あくまでサポート。みんな一緒に帰りましょう」
その言葉に、甲板にいた近接戦闘要員の子弟たちが頷く。恐怖はあったが、自分たちも戦わねばならぬという事は、彼ら子弟たちにもわかってはいたのだ。
「では、速やかに配置についてほしい……利香も言ったことだが、みんな一緒に帰ろう!」
ポテトの宣言に、子弟たちは、はい、と力強く返事を返した。そして一斉に、己の職務を全うすべく動き出した。
『砕ける波濤』号――その船上で『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)は海を眺めながらその顔をしかめた。
「ひどいな……偉大なるイザベラ女王陛下の麗しき海に、アンデッドなんて不似合いだよ」
ひどい、という言葉はまさにその通りだ。今や海にはアンデッドの群れがひしめき合っていて、アンデッドの隙間から青い海が見える、そう言った状況である。
「この船が先頭だね。責任は重大だなぁ」
『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は静かに目を閉じて、言った。甲板をせわし気に走り回る船員たちの気配を感じ取りながら、ムスティスラーフは呟く。
「僕たちがしくじれば、後ろの船も巻き添えを食らう……でも、僕たちが選んだことだ」
一隻に可能な限りの人員を集中し、その一隻だけで脱出する……そうすれば、どれほど楽であっただろうか? だが、それは他の船に残った多くの船員を見殺しにする戦法でもある。
イレギュラーズは――ムスティスラーフは、そのような戦い方を選ぶことを、嫌った。
すべての仲間達で、無事に帰る。それは困難な道ではあったが、イレギュラーズ達にとっては、選んで当然の道であった。
「各員、指定通りの配置につきました。その……」
貴族の子弟の声に、ムスティスラーフはその眼をゆっくりと開く。
「ありがとう。この船にはイレギュラーズは少ないけれど、その分僕たちが働くから、安心して」
「この船には強者がそろってますから。普通のイレギュラーズの1.5倍……いえ、2倍働くことなんて、余裕余裕。……怖いかもしれないけど、俺達を信じて。俺達もあなたがたを信じるから。呼び声になんて負けないで」
子弟たちを安心させるための強がりと、真摯な思いを伝えるための言葉。史之の言葉に、子弟たちは力強く頷いた。
「さぁ、いこう。この海域から、脱出するんだ!」
史之の言葉に、子弟たちは大声の返事で答えた。船が進む――アンデッドで埋め尽くされた、海を切り開いて。
『吠える大海』号――二つの船にはさまれたその船では、両舷に設置された大砲が、今まさに力強く火を噴いていた。
吐き出された砲弾が海に着弾し、浮かぶアンデッド達を粉砕する――だが、次から次へと迫りくる、死を恐れぬアンデッド達の前では、僅かにその進行を遅らせる程度の効果しか発揮しない。
しかし、それでも、やらぬよりは何倍もマシだ。
「効果は感じられないかもしれないが、撃ち続けてくれ!」
『希望の聖星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)が、自身も神聖なる光線で海の上を焼きながら、叫んだ。
「少しでも敵の接舷を遅らせたい……!」
「はいっ!」
ウィリアムの言葉に応えるように、さらなる砲火が海へと放たれる。
「うひゃぁ、ゾンビ、ゾンビ! 状況的には喜んでられませんが、それでもたまらないですね……!」
少しばかりに嬉しそうに、物部・ねねこ(p3p007217)が言った。死体愛好家であるねねこにとっては、鴨が葱を背負って来る、といった状況だろうか。絶望的な状況ではあったけれども、それ故に平常心を失わないのは良い事である。こんな状況でも、笑い飛ばせるのだという事なのだから。
「しかし……まるで引きずり込まれるような歌。耳に届いてるんじゃなくて、直接頭に響くみたいな……これが、魔種、レベッカなんだね……!」
その横で顔をしかめながら言うのは、『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)だ。騒々しくなった海の上にも関わらず、それでもレベッカの歌声は響き、聞こえてくる。原罪の呼び声はまだ遠く、人々の心を蝕むほどではない。だがそれでも、絶望と嫉妬の歌声が、ざわざわと胸をかき乱す。
「敵アンデッド、せ、船体に張り付きました!」
貴族の子弟たちの声が聞こえる。慌てて船体を見てみれば、砲火を潜り抜けたアンデッド達が、船体をよじ登って来るのが見えた。
「よーし、お仕事開始です!」
ねねこが立ち上がり、
「みんな、配置について! 迎撃するよ!」
イリスが武器を手に、声をあげる。果たして船の淵から、数体のゾンビとスケルトンが姿を現す。
「ふふ! 腐敗具合が溜まらないですね……!」
武器を構え、ねねこが呟いた。
「私が敵を引き付けるから、ひきつけられた敵への攻撃をお願い!」
イリスが叫び、最前線へと飛び出した。ゾンビに力強く武器を叩きつければ、腐った肉片が激しく飛び散った。
「やれやれ、エクソシストってガラじゃないが……!」
ウィリアムが唱える、聖なる光の魔術が、ゾンビやスケルトンを破壊する。砕け散り、戦場に落ちた腐肉や骨を踏みしめて、次なるアンデッドたちが姿を現した。
「お前たちは無理をしなくていい! 数的優位を保ったまま敵に当たれ! こんな所で命を落とすんじゃないぞ!」
ウィリアムが、貴族の子弟たちへと向けて叫び、
「そうです、死体はたくさんあるんですから、皆さんがなる必要はありません! 傷を負ったら退いてください! 私が治しますから!」
ねねこが続く。貴族の子弟たちは恐怖は隠しきれず、しかし勇気を振り絞り、イリスがひきつけた敵へ攻撃を仕掛けていく――。
●
鉄帝と海洋、両軍を同時に襲ったアンデッドの群れ。海洋船隊は、海域からの離脱を目指し、徐々にその身体を進めていく。
一方で、鉄帝の船は懸命に砲火を放ちアンデッドたちをけん制するも、その圧倒的な数の暴力に飲まれつつあった。
レベッカはそんな様子を見ながら、昏い喜びと、些かのいらだちにその内心を粟立たせていた。
両方を、家族(アンデッド)にしてやるつもりだった。
だが、片方の船は――海洋の木造船は、今まさに懸命に、この海域をもがきながら離脱しようとしている。
レベッカは歌いながら――海洋の船を見やる。
海洋船隊の、しんがり。最後尾の船に――。
レベッカは、想い人の姿を見た。
その人は、確かに、確かに、レベッカを見ながら。
手にした刃を、眩く輝かせ。
「レベッカ――」
レベッカの名を、呼んだ。
その刹那、海は凪いだ。
●
「アンデッドの動きが、鈍った?」
史之が言った。その言葉の通り、あれほどの勢いを見せていたアンデッドたちが、この時、僅かな行動の隙を見せたのである。
「今の内だよ!」
ムスティスラーフが叫んだ。理由は、今は不明であったが、この隙を逃すわけにはいかない。
「帆をはって! 一気に海域を突破するんだ!」
甲板上のアンデッドを、口から発射された緑色の光線で撃ち貫きながら、ムスティスラーフが叫ぶ。その光線に我を取り戻したように、子弟たちは一気に動き出した。
甲板上の近接戦闘員はアンデッド達へと決死の攻撃を仕掛ける。
「無理は禁物だよ、全員で生きて帰るんだ! 最後の最後まで、俺達はあなたがたを見捨てない!」
その先頭に立ちながら、史之は叫ぶ。今この瞬間、一つの目標で結ばれた仲間たちの、決死の戦いが、道を切り開いた。
悲鳴のように、雄たけびのように鳴り響く砲火が、アンデッドたちを蹴散らす。
「もう少し……もう少しだ! 諦めるな、突破するんだ!」
アンデッドたちの攻撃にその身を晒されながら、しかし史之は船員たちを守る様に、雄々しく立ち続けた。
「誰も……誰も殺させないからね!」
ムスティスラーフの光線が、アンデッドの群れを薙ぐ。甲板上のアンデッドたちを次々蹴散らしながら、『砕ける波濤』号は今、青い、青い海へと――。
●
「リゲル……!」
レベッカは、その顔をほころばせた。
会いたい人の姿が、そこに在ったからだ。
会いたい人の声が、此処に聞こえたからだ。
「レベッカ……これ以上、君に命を奪わせる訳にはいかない!」
リゲルの声が、海上に響いていた。
レベッカはゆっくりと、小首をかしげる。
「命を奪う――って、なあに? あたしはただ、寂しかったから――」
どこかはかなげに。
レベッカは微笑んだ。
「家族に、なってほしかっただけだよ」
ぞくりと。
リゲルの背筋に、冷たいものが走った。
「違う……君は、人を殺している……殺しているんだ!」
「わからない、リゲル……どうして? どうして怒るの?」
その、決して相容れぬ思考のすれ違いは、まさにレベッカが人外の者――魔種へと変じた証明でもあった。
その事実が、リゲルの心をじわじわと黒く染めていった。
絶望の、黒へと。
友たるレベッカが、魔種へと堕ちた。
その絶望が、墨のごとく、リゲルの心を染めていく。
「リゲル!」
その絶望を食い止めるように、ポテトは叫んだ。
リゲルの傍へ。リゲルの手を取って。
しかしその行為は、レベッカの表情をひどく歪めるのに充分なものであった。
「リゲル……その人、だあれ?」
レベッカの表情が、形容しがたいものへと変わっていた。
怒り、困惑、悲しみ、哀願、そして――嫉妬。
「リゲルはお前に連れて行かせない! リゲルはお前の家族じゃない。私の家族だ! それにここにいる皆、帰る場所があるんだ! お前と共に海の底に帰るわけには行かない!」
「リゲル――!」
ポテトの言葉に、レベッカが叫んだ。
否定してほしいと、そんな思いが込められた叫び。
リゲルはゆっくりと、首を振った。
「レベッカ……それでもやりたければ……俺を、俺だけを狙え!」
その言葉を契機に、何かが爆発的に海上を駆け抜けた!
それは、嫉妬。魔種の生み出す、嫉妬の声だ!
背筋が凍り付くほどの冷たい嫉妬の憎悪が、イレギュラーズ達を、そして船員達を貫く!
「ひっ……」
たまらず、船員たちが悲鳴を上げた。だがポテトはその嫉妬の声に負けぬように、声を張り上げた。
「家に帰るんだろう! こんな所で呼び声に負けるな! 大切な人を思って気をしっかり持て!」
その叫びを合図にしたように、再び海に騒々しさが返ってきた。凪いでいた海は再びアンデッドたちによる暴風を取り戻し、うごめく死者たちの声が、海上を彩った。
「落ち着いてください……と言っても難しいですよね……!」
利香が、吐き捨てるように言った。今は、言葉だけでは足りないだろう。ならば実際に、アンデッドたちを斬って捨て、その心に信頼を取り戻させるのみだ。
「死霊の類は、わたしに任せてください、なんせ半分悪魔なものですから!」
再びうごめき始めたアンデッドたちを、利香が切り裂く。その姿を今は寄る辺にしつつ、子弟たちは雄たけびを上げ、利香へと続いた。
激しさを増す嵐のようなアンデッドの群れを、残る二隻の船が離脱へ向けて邁進する。
「ふ……っ!」
勢い良く息を吐きながら、カウンターで放たれたイリスの一撃が、スケルトンを粉々に粉砕する。
「敵の攻撃も激しくなってきた……」
そろそろ限界かもしれない、という言葉は飲み込んだ。ここで弱音を吐いてはいられない。自分たちの瓦解は、すなわち守るべき船員たちの瓦解につながるのだ。戦闘員の船員達も、もはや限界だろうに、よくやってくれているものだ、とイリスは思う。
「だが……一ついい知らせがある。前に開けた海が見えて来たぞ!」
ウィリアムが叫びながら、放つ神聖なる光のさばき。それはイレギュラーズ達に差す光明のようにも見えた。果たしてその光の先には、目指すべきゴールが輝くようにその青い海を見せてくれている。
「お土産も山ほど載せましたからね! もうゴールしてもいいですよね!?」
ねねこが言った。『アンデッドの死体の山(おみやげ)』……意図して乗せたわけではないが、これだけ戦闘が長引けばそれ相応にたまるものだ。とはいえ、あるいはここから、何かしらわかるものがあるかもしれない。死体を調べれば、それは雄弁に物を語ることもあるのだ。
「さて、皆さん、もう一息です! どうか、どうか、諦めないでください!」
ねねこが放り投げた回復役をまき散らすグレネードが、仲間達を、船員たちを癒す。何度目かのアンデッドの波が、船を襲ったが、しかしイレギュラーズ達は、船員たちは、最後の力を振り絞ってそれらを退けた。
そして死闘を潜り抜けた彼らを、青い海が迎え入れたのである。
●
「レベッカ……! 本気なんだな……!」
リゲルの斬撃が、アンデッドを切り裂く。海域に残るは『夜明けの星』号一隻となった。もはやこの船は逃がすまいと――最後の一隻だから、という理由だけではあるまい――アンデッドたちの波状攻撃が迫りくる。
明確に己へと迫りくる嫉妬と殺意の念を、リゲルは感じ取っていた。それは、レベッカとの決別を意味もしていた。
救えるのなら、救いたかった。だが、魔種に落ちた彼女を救う方法は、その命を奪うしかない。
しかし今は、レベッカと戦う事は、そして救う事は決して、容易い事ではなかった。
「今は……レベッカ、だけど必ず……!」
決意を胸に、レベッカの差し向けたアンデッドに、刃をぶつけた。
「もうじき海域を離脱できる……!」
ポテトが叫んだ。多くの仲間達に届くように、声を張り上げた。
「気をしっかり持ってくれ! 最後まで、希望を捨てるな! 私達は必ず、それに応える!」
はい! と貴族の子弟たちがボロボロになりながらも声をあげる。すでに限界点は目に見えていた。危うい綱渡りが、今も続いている。
「まったく、海が来るなんて、そんなアホな……ああ、アホしかいないのが魔種<あいつら>でしたね!」
利香はぼやきつつ、襲い掛かってきたアンデッドに反撃をお見舞いした。
「でも、そんなアホの相手も、今回はここまでですっ!」
ぐらり、と、手を伸ばすように、『夜明けの星』号の船体が前へと進んだ。
その先には、青い、青い海が広がっていた。
海は静かだった。
あれほど荒れていた海は、まるですべてが悪趣味な冗談だったように、平穏さを取り戻していた。
海に死者の群れは、もういない。
三隻の船はゆっくりと――海原を行く。
「全員、助かったみたいだね……」
ムスティスラーフが静かに呟いた言葉に、
「は……はは、やりましたよ、女王陛下……」
史之はばたり、と甲板に倒れて見せた。
イレギュラーズ達も、船員達も、もはや疲労困憊であった。それほど激しい戦いであった。
鉄帝の船は、逃げおおせたのだろうか? あるいは――だが、全滅したのだとしても、それはどうしようもなかったことだ。イレギュラーズ達は、自らが取れる最善の結末を、この手にしたことは間違いないのだ。
「レベッカ……」
リゲルはセイレーンの海の方を眺めながら、静かに呟いた。魔種へと堕ちた、かつての友。
「リゲル」
ポテトが、優しく、リゲルの手を握った。リゲルは頷いて、
「必ず……戻ってくる。その時はレベッカ、きっと」
そう、呟いた。
海は静かに、彼らを優しく……揺り籠のように、揺らしていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆さんの活躍により、海洋の船は三隻とも無事に離脱てきました。お見事です。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
セイレーンの海と呼ばれる海域に、皆さんは迷い込んでしまった……というか、向こうから来ました。
ここから、貴族の子弟たちを離脱させてください。
●成功条件
最低でも一隻以上の海洋の船を、海域から離脱させる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
今まさに、ゼシュテル軍艦との闘いが始まろうという状況の中、突然横合いから殴りつけてきた魔種、『深海の令嬢』レベッカ。レベッカは無差別に人々を『家族』とするべく、双方の船にアンデッドの群れをけしかけました。
このままではそう遠くないうちに、両軍とも全滅してしまうでしょう。
そうなる前に、海洋の船だけでも離脱させてください。
皆さんが担当する海洋の船は、最大三隻。
旗艦『夜明けの星』号、
随伴艦『砕ける波濤』号と『吠える大海』号、
この三隻です。
皆さんがどのような配置でどの船に乗っているかは、プレイングに指定していただければ自由です。
皆さんがアンデッドを完璧に処理出来ていれば、おおむね10ターンほどで船は海域から離脱することが可能です。
なお、ゼシュテルの船を助ける必要も処理する必要も特にありません。
放っておけば、アンデッドに食らいつくされて全滅するでしょう。
●エネミーデータ
アンデッドの群れ ×大量
特徴
ゾンビ、水死体、スケルトンなどのアンデッドの群れ。恐らく底なしで襲ってきます。
厄介なBSは持ち合わせていませんが、とにかく数が多いです。
『深海の令嬢』レベッカ ×1
特徴
船より少し離れた場所で歌を歌っています。その戦闘能力は不明です。
倒す必要はありません。もし倒すとなれば、それは容易い事ではありません。
●味方NPCデータ
貴族の近接戦闘員 ×一隻につき10
特徴
取り立てて特徴を持たないのが特徴の、一般的な貴族たちです。
最低限の戦闘能力を持ちますが、イレギュラーズ達の援護がなければ全滅します。
●重要な備考
<第三次グレイス・ヌレ海戦>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』を追加カウントします。
この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
尚、『海洋王国事業貢献値』のシナリオ追加は今回が最後となります。(別途クエスト・海洋名声ボーナスの最終加算があります)
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
Tweet