PandoraPartyProject

シナリオ詳細

永遠電車

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●いのちなきもの
 ガタンゴトン。
 電車は揺れる。いつまでも。
 目的地などとうの昔に通り過ぎてしまった。
 ガタンゴトン。
 あの子は元気かな。あの時以来会っていないけれど、どうだろうか。
 窓からは太陽の光が差し込む。
 今は夕暮れ。二時間前も、一日前も、一か月前も。
 後続車両は真夜中。恐らく向こうも、ずっと。
 ガタンゴトン。
 電車に乗り込む人は少ないが、皆大抵清々しい顔をしているか、悲しげであるか。もしくは、訳も分からず赤茶色のシートに座るか。
 ふと。
 あたたかな空気の中にやさしい声が響いた。
 決して大きな声ではなかったが、よく通る声だった。
「愛してくれてありがとう、あなた」
 老年の穏やかそうな女性。左手の薬指には指輪の痕が残っている。
「……もう、苦しくないんだ」
 華奢な少年。恐ろしいほどその肌は白い。
 優しい夕陽が包む。微かに輝く涙。
 この世界を、愛していた。
 
 聞こえるはずもない後悔の声が、後続車両から聞こえた。
 天寿ではないもの。先を絶ったもの、或いは絶たれたものの姿が見える。
 濃紺のシート。涙でぬれた床。すすり泣きの声と後悔の色が滲んでいく。
「まだ、まだ生きたかった」
 窓の外を見下ろすブレザー服の青年。服の間から覗く肌は傷だらけだ。
「……親不孝で、ごめん」
 スーツを着た男性。目の下には隈がある。

 セーラー服を纏った少女が小さくため息を吐いた。
 ふたつの車両の間。モノトーン調の内装。
「間もなく輪廻。間もなく、輪廻。終点」
 扉は開かない。開くのは濃紺と赤茶。二つの車両だけ。
「お客様。まだ思い出されないのですか」
 迷惑そうに車掌が帽子をあげる。深緑色の制服。年齢を感じさせない外見。
 恐らく、ヒトならざる者。
「……ここどこなんですか」
 敵意を丸出しにして睨む少女。スマートフォンの時間は止まったままだ。
「……思い出されるまでが、お客様の旅の期限です」
 車掌は人の好さそうな笑みを浮かべると、すぅ、と消えていった。
 少女はまたスマホに目を落とした。


「死んだ人が列車に乗って、輪廻の輪に導かれる世界なんですって」
 ポルックスは穏やかな笑顔を浮かべて告げた。
「でもね。真ん中の車両──死んだことが理解できていない人、もしくは、」
 するり。華奢な人差し指が、しぃーと。
 得意げな笑顔に変わって、小声で囁くように、ポルックスは言うのだ。
「まだ生きている人は、帰れるかもしれないんだって」
 だからね。ポルックスは寂しげに笑ってこう言った。
「連れ戻してあげてくれないかしら。あの少女のこと」

NMコメント

n度目まして、染です。
今回は少しシリアスかつ微かに謎解き寄りです。
どうぞよろしくお願い致します。

●依頼内容
 少女の記憶を戻し現実世界へ連れ帰る。

 少女は後に明記しますが、瀕死の状態です。
 どんな手を使ってでも連れ帰ってください。

●世界観
 平凡な世界。
 死んだ人を輪廻へと導く列車の中。
 天寿を全うした人は真ん中の車両から夕焼けの車両へ。
 そうでない人は真ん中の車両から真夜中の車両へ。
 手違い、もしくは彷徨っている人は真ん中の車両へと乗り込みされます。

●車両について
 四両編成。外観は赤紫で統一されている。電車なのだが外見は機関車。

一両目:夕焼け
 天寿を全うしたものはこちらへ乗り込む。
 暖かな空気、幸せで満ちた空間。
 死ぬことになったきっかけが残されているかもしれません。

二両目:モノクロ
 呼ばれていないものはこちらへ乗り込む。
 自力で戻るものが大抵。もしくは、死因を思い出すもの。
 ノイズ音とともに放送が流れている。大抵は二両目にいる理由。
 今回流れているのは以下のような音声です。
「ーー県、××市にて交●●故が起こ●ま●ーー。巻き込まれたのは、●井-音さん、高校●ーーー。現在、●●不明の●体です」
「紫●さんは帰宅途ーー通●魔に刺●れたーーでー」

三両目:真夜中
 天寿を全うできなかったものはこちらへ乗り込む。
 悲しい空気、寒さに包まれた空間。
 記憶の破片がかけらになっておちているかもしれません。

●NPC
 少女:筒井紫音(つつい しの)
 一般家庭に生まれた少女。
 高校一年生。セーラー服にヘッドフォン。壊れたスマホを持っています。

 車掌
 年齢不詳の若い男。神出鬼没。

●手段
 どんな事件に巻き込まれたかを伝え、説得し、連れ帰りましょう。
 手がかりとなるものは他の車両に散らばっているようです。

以上となります。判定は甘めです。
ご参加お待ちしております。

  • 永遠電車完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年12月17日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女

リプレイ

●始発駅「きおく」
 少女──筒井紫音は、ため息を吐いた。
 この放送を耳にするのは何度目だろうか。耳障りだ。
 幾度も同じ駅についてばかり。外の景色も変わり映えしない。退屈だ。

 シュー。

 扉が開いた。誰かが乗り込んでくる。
 少女は降りる気にはならなかったようで、そのまま黙々とスマホを見続ける。
 乗り込んできた誰か──『Righteous Blade』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は、美しい銀髪を風に靡かせながら少女の隣へと腰掛けた。
 マルク・シリング(p3p001309) は、両の拳をぐっと握りしめて乗り込んだ。温和な顔立ちはいつもよりも決意に満ちている。
(まだ助けられる命があるなら。
 まだ連れ戻せる誰かがいるなら。
 僕は、僕の目の前で失われる命を、一つでも救いたい。
 甘ったれた理想で、何度も現実を前に妥協し続けているけれど。
 それでも、その理想を捨てるわけにはいかないから)
 だから、彼女を救いたい。その想いは、足音に現れた。
 近づいてくる足音に少女は少し身をこわばらせる。
 上から降ってきた言の葉に気が付くまで、もう少し。
「ねぇ、隣いいかしら」
「こんにちは。この席、いいかな?」
 隣と向かい。突然声をかけられれば、そっと横にずれる少女。警戒心丸出しである。
「……他にも席はありますけど、ここでもいいなら」
 優しそうな男性や、美しい女性が隣に座るのだ。嫌なわけではなかったのだろう。
 少し緊張気味にアルテミアの方を見て告げれば、また液晶に目を落とした。
「…何だか、寂しくてさ。一人だと、耐えられなくて列車を降りてしまいそうだから」
 白黒の車内。色彩を失った、ノイズまみれの二車両目。
 少し同意できる点もあったのだろう。少女は小さく頷くと、スマホを置いて二人を見た。
 マルクとアルテミアは顔を合わせて頷くと、そっと腰を下ろす。
 軽く自己紹介を挟む。怪しいものではないことを伝えるために。
 “どうせ夢なんだから”という気持ちで少女は言葉を放った。
「その剣。見ても、いいですか」
 ノクターナルミザレア──夜を抱く瀟洒な細剣を指さして、少女はアルテミアの青い瞳を見た。
「……構わないわ。なら私も、その携帯端末、見てもいいかしら」
「これですか? 別にいいですよ」
 剣に夢中なのか、案外簡単に手に入った携帯端末を開けば、少女とその友人と思わしき者の姿が壁紙にしてあった。
「この方々は、友人?」
「はい。……あれ、そうだっけ、ええと」
 思い出せない。
 少女から吐き出されたその言葉は、重大な手がかりとなるだろう。
 焦りから涙を零す少女にアルテミアは優しく微笑みながら背をさすってあげる。
「大丈夫。私やマルクさんが力になるわ。……他に何か覚えていることは? ご家族や、この服のこととか」
「ぐすっ……う、家族は、たしか仕事で……」
「ご両親は、お仕事に行っていたんだね?」
「たぶん……」
 仕事。ということは、昼時から夕方だろうか。
「他の乗車客の様子が気になるから、少し別の車両を見てくるわ。マルクさん、頼めるかしら」
「わかった。筒井さん、僕と少し話していようか」
 立ち上がるアルテミアと笑みを浮かべて話しかけるマルク。
 解決への歯車が動き出した。


(2両目で聞こえる放送微妙に内容が食い違っている……ように聞こえる
 問題の彼女とは似た名前の別人の事なのか、それとも……)
 一足先に乗り込んでいた、『水天』水瀬 冬佳(p3p006383)は少女に怪しまれないように、適度に距離感をとりつつ放送に耳を傾ける。
 マルクやアルテミアとはアイコンタクトや動作で意思表示をしている。
(……恐らくは、交通事故──でしょう、に巻き込まれたという、意識不明の重体の高校生……の方が彼女の可能性が高い
 もう一つの……通り魔、に刺された……という方も気にはなるけれど、この両方が同時に起こるとは考えにくい)
 矛盾している。
 じっと耳を傾けていれば、そう、気づくことができるはずなのだ。
 おかしい。手がかりを探さなくては。
 だから冬佳は、夕日の差し込む一両目の扉へ手を伸ばした。

●ゆうひとまよなかのさかいめ
(ああ、此方は天寿を全うした人々だけに穏やかな者達が多いな……)
 一両目で一足先に少女が此処に来る事になったきっかけを探しているのは『ゲーム上手』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)だ。
 合流した冬佳は車掌に軽く挨拶をするとすぐに探索へと踏み切った。
 ラルフは埒があかないと感じたのか、車掌へと声をかけてギフト──原初の勅令を用いる。
「我々はまだここに来るべきでは無かった者を探している」
「成程。二車両目にいる彼女のことでしょうか」
「おそらくその者だね。我々の目的は手違いを連れ帰り、ここの運行を正常に戻す事なのだよ」
「ははぁ。ありがとうございます。彼女、もう三日もここにいるのでどうにかしないと私が上から怒られてしまうんですよね」
「ならば、彼女がここに導かれたきっかけを聞いてもいいだろうか。我々とてここに長く滞在するのはよくないだろう」
「ですね。まぁ、単刀直入に言わせてもらいますと、」
 交通事故です。
 束の間の静寂。無関心のようで車掌は話を続ける。
「ええーと、いつだっけ。ああそうだ三日前。三日前に事故がありまして。
 彼女は自転車に乗ってたところをばーんと行かれたらしく、骨を結構折ったり、あああと頭の打ちどころも悪かったらしく意識不明の状態が続いてるんですわ」
 あっけなく語られた真実。夕日の暖かさには似つかわしい凄惨な事故を淡々と語る車掌の表情は絶えることなく笑みが張り付いていることに吐き気さえ覚えそうになる。
「ラルフさん、これ」
 手がかりとなる“きっかけ”の元を見つけた冬佳は、ラルフの背を叩くと、手に乗せたもの──血の付いたサイドミラーの一部を見せる。
「……これがきっかけ、或いは手がかりになるものかね?」
「彼女の場合はそうでしょうね」
 興味なさげににこりと答えた車掌は、宙に消えるとこう告げた。
「そろそろ手遅れかもしれませんが」

 一方三両目。
(抜け落ちている思い出や未練は必ず『現世へ戻りたい』という想いに繋がるはずなのだから)
 探し出す。
 強い意志を瞳に宿して、アルテミアは車内を探索する。
 時折聞こえてくる後悔や未練の声には顔を顰め乍ら、根気良く記憶の欠片を探していく。
(……もしかしたら乗客の誰かが『まだ生きている彼女』に嫉妬して隠し持っているかもしれない)
 見つからないことに焦りを覚えたアルテミアは、周囲の客を見渡す。すると様子のおかしいものを見つける。少女と同じ制服を纏った娘だ。
 こつこつ。歩み寄りながらアルテミアは告げた。
「死んでしまった事は残念だけれど、まだ生きる希望のある彼女を邪魔してはいけないわ」
「……私も、まだ生きていたかったのに、あの子だけ生き残るなんてずるいよ」
 唇を噛む娘の瞳には涙が溜まっている。
「大丈夫、次はとても幸せな生になるはず……私の直感は結構あたるのよ?
 だから安心して、その記憶の欠片は返してあげて?」
 優しく声をかければ、娘は涙をこぼして欠片をアルテミアに返した。
「お姉さん。あの子のこと、助けてあげて」
 きらきらきら。
 アルテミアが気が付くと、一両目の扉を潜り抜けているところだった。

●終着駅「ーーー」
 マルクは少女と会話を続けていた。
「実は仕事柄、音楽は少し詳しくて。作曲なんかもやるし、ピアノの演奏とかは得意なんだ」
「そうなのですか! ピアノ、素敵です」
「ありがとう……そうだ、音楽は聴く?どんな曲が好き?」
「勿論、聞きますよ。今日友達と帰るときに聞いてた、」
 少女の動きが止まった。瞬間、呻き泣き叫びだす。
 まるで記憶を取り戻しつつあるように。
「大丈夫!?」
 マルクの叫び声が聞こえたのか、アルテミアやラルフ、冬佳も駆け寄ってきた。
 少女は取り乱して応答に答えない。
「嫌っ、あぁっ死にたくない、やだ、やだぁぁぁあ」

「……こんなこともあろうかと、なんてね」

 ラルフは懐からぬいぐるみを取り出すと、少女に渡してやった。すると、だんだん温もりに包まれたのか落ち着きを取り戻していく。
 今しかない。アルテミアと冬佳は得た情報を少女に伝えだした。できるだけショックを与えないように、慎重に。
 事故に巻き込まれたこと。
 車にはねられたこと。
 友達は助からなかったこと。
 意識を失って三日目だということ。
 友達が生きて、と言ったこと。
 少女は小さく頷くと、また静寂が訪れる。
「……お守りだ、これがある限り私はいつでも君を助けに行こう。
 とはいえ私のような奴の力なんて借りるべきではない。
 記憶が残るかは知らないが、かつて君を連れ戻すために身体を張った者達が居た事を思い出して精一杯胸を張って生きて欲しい」
 ラルフが頭を撫でてあげれば、続くようにマルクやアルテミア、冬佳も声をかける。
「貴女には現世で待っている人、伝えたい事があるのでしょう?だから、いつまでも眠っていないで……目を覚ます時間よ?」
「小さい頃は、何度も死にかけたんだ。寒村の出身でね。飢えと寒さが酷くて、何人も死んだ。
 だから、こうして生きていられる事はすごく感謝しているし……だから僕は、できるだけ多くの人が、命を手放さない世界を目指したいと思っているんだ。
 もちろん、君も」
「……ここに居るのは臨死体験みたいなものでしょうね。だから、早く戻るべきです」
「……私。戻ろうと思います」
 紫音が笑みを浮かべた。
 四人は顔を見合わせ頷く。

「まもなく、現。現。お降りのお客様は、また会う日まで──」

 五人の姿が、列車から消えた。
 あとに残ったのは、壊れたスマートフォンだけ。

成否

成功

状態異常

なし

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