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シナリオ詳細

『安酒通り』の人食い熊

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●解き放たれた災厄
 月明かりもない真夜中を、一台の蒸気駆動トラックが走る。
 ガタゴトと揺れながら走るトラックは、粗末なバラックが立ち並ぶスラム『安酒通り』の真ん中まで進んで、止まった。
 おそらく暗視用であろうゴーグルを付けた乗員達が、車外に出て荷台から慎重に巨大な檻を降ろしていく。
「……まさか、こんなものまで使うとはな」
「それだけ、ニュータウン開発に本気なんだろうよ」
「――無駄口を叩いている暇はないぞ。食われて死にたいのか?」
 私語を始めた乗員達を、別の乗員が窘める。シン、と空気が静まり返った中、乗員達は黙々と檻を降ろしてしまうと、鍵を外して扉を開けた。そして長居は無用とばかりに、乗務員達はすぐさま撤収する。
 後に残された檻の中では、巨大な影がもぞもぞと眠りから覚めるかのように動き出していた。己を閉じ込める檻が開け放たれていることに気が付いた影――巨大な熊――は、のそのそと四つ足で歩きながら檻の外へと出て行った。

●災禍、吹き荒れる
 最初の犠牲者は、路上でうずくまるように寝ている男だった。無防備な頭を一噛みで噛み砕くと、熊はバリバリボリボリと派手に音を立て、男を食らっていく。
 聞き慣れない音に、近くのバラックの住人が目を覚まし外に出た。
「ひ、ひぃ――!」
 微かな蝋燭の光に照らし出された光景に、住人は腰を抜かしつつ背を向けて逃げだそうとする。だが、これは悪手だった。熊は補食の最中であっても、背を向けて逃げる者は反射的に追うと言う。そして、時速五十キロ以上のスピードで走るとも。

 ドカッ!! ドンッ!!

 たちまち追いつかれた住人は、熊の前脚の一薙ぎで吹き飛ばされ、バラックに叩き付けられる。昏倒した住人には、熊の餌食となる運命が待つだけであった。
 深夜の静寂を破る大きな音に、『安酒通り』の住民達が次々と目を覚ます。目の前の事態を見た彼らは、パニックに陥った。ある者は暗闇の中を無闇に逃げ惑い、ある者は恐怖に震えながらバラックの中で硬直する。
 暗闇の中を逃げ惑う者は、次々と熊に攻撃され、倒されていく。それでも、一体では全てに対応することは出来ず、幾人かは無事に逃れ得た。一方、バラックの中で震える住人達は、この時点で動き損ねたのを後悔することになった――。

●巨大とは言え基本は熊――おそらく
「――鉄帝首都のスラム『安酒通り』で、人食い熊の退治をお願いします」
 『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)が、イレギュラーズ達に切り出した。
 鉄帝首都スチールグラードでは、スラムの住人を立ち退かせて新たに都市開発を行う計画が、軍主導で進められている。しかしながら、スラム住人の立ち退きを巡って様々なトラブルが起こっており、ローレットにもその解決の依頼が舞い込んでいるところであった。『安酒通り』に現われた人食い熊も、住人を立ち退かせるために放たれたのであろうと言う。
 深夜に突然現われた人食い熊に、『安酒通り』の住人達はパニックに陥って逃げ惑ったりバラックに篭もったりしたが、十人ほどが逃げ延びて慈善教団クラースナヤ・ズヴェズダー革命派の拠点に飛び込んだ。
 住人達の話を聞いたクラースナヤ・ズヴェズダー革命派メンバーは、人命がかかっているという緊急性から、現場の判断でローレットに依頼した、と言うわけである。
「それで、ですね――」
 と、勘蔵が申し訳なさそうに言い淀む。
「人食い熊についてはパニックの中逃げてきた住人達の情報しかない上に、依頼人に出発を急かされたこともあってこちらでの情報収集もままなりませんでした。情報が不確かで大変申し訳ないのですが、注意して事に当たって下さい」
 深々と、勘蔵はイレギュラーズ達に頭を下げた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は鉄帝首都のニュータウン開発に絡んで、スラムに現われた人食い熊の退治をお願いします。

●成功条件
 人食い熊の殺害

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●人食い熊
 今回退治する相手です。
 害獣として捕獲されていたのが、『安酒通り』の住民を立ち退かせるために使われたものと見られています。
 大きさは逃げてきた住人達の証言によりまちまちですが、最低で5メートル、最大で10メートルなので、その間と思われます。熊としては常識外れに巨大な部類です。
 能力に関しては攻撃力とHPが絶大に高く、回避と特殊抵抗は低いものの防御技術はそれなりにあるものと推測されています。

 攻撃手段については以下のとおりで、普通の熊がしないようなことはしてこないと予測されています。
・前脚で一薙ぎ(通常攻撃) 物至単 【弱点】
・噛みつき(通常攻撃) 物至単 【弱点】【流血】
・体当たり(通常攻撃) 物遠単 【移】

●『安酒通り』
 今回の戦場です。道の左右にバラックが長屋のように並んでいます。
 足場は普通の石畳であり、特に戦闘に影響はありません。
 バラックは脆いため、上に乗ったりすると崩れます。
 イレギュラーズ達は晴天の日中に到着するものとします。

●『安酒通り』住人達
 50名ほどが住んでいましたが、逃げ延びるのに成功したのは10名ほどでした。
 あとは逃げる際に人食い熊の餌食になったか、バラックの中にいるかです。ただし、バラックの中にいる者も人食い熊に見つかって餌食になった可能性があるため、安否は不明です。

●クラースナヤ・ズヴェズダー革命派メンバー
 今回の依頼者です。『安酒通り』の住人達に泣きつかれたことから、ローレットに人食い熊退治の依頼を出してきました。
 依頼については緊急性もあり現場のメンバーの判断で出されているため、代表などはこの時点ではタッチしていません。

 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • 『安酒通り』の人食い熊完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
不動・醒鳴(p3p005513)
特異運命座標
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
冷泉・紗夜(p3p007754)
剣閃連歌
綺羅々 殺(p3p007786)
あくきつね

リプレイ

●人食い熊は何処に
「――これが……このようなことをさせるのが、鉄帝の『強さ』なのでしょうか?」
 空を飛行して『安酒通り』を俯瞰している『司令官』桜咲 珠緒(p3p004426)は、眼下の光景に絶句し、絞り出すように呻いた。
 細長い『安酒通り』の至る所に血溜りが出来ており、肉片や食いかけの遺体が散乱していたからだ。熊は食べかけの獲物を土に埋めて隠すが、『安酒通り』は石畳であり土が存在しなかったため、熊としてもこうして放置するしかなかったのだ。
「……いえ。そのような考えは、後ですね」
「そうね、裏事情とかは後でいいわ。熊退治が……今も命の危機に曝されている人達の救出こそが、最優先よ」
 珠緒のつぶやきに、鳥のファミリアを通じて『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)が応じる。二人は一秒でも早く人食い熊を発見するべく、空から索敵を行っていく。

 索敵は、空からだけではなく地上からも行われている。『安酒通り』の両端から、手分けして人食い熊を探すイレギュラーズ達。
「ロクでもない噂は聞いてたものの……想像以上にエグい手を使うのねえ――でも。自分達の手を汚す勇気も無きゃ、その責を負おうとも思っちゃいない、姑息な上に中途半端な性根が丸見えね。ええ、ええ。こういう覚悟のキマってない奴らは大嫌いですわ?」
 スラムの住人を立ち退かせるのに、人食い熊を放つだけ放って、暴れるに任せる。その結果が眼前の惨状とあっては、ゼファー(p3p007625)としては憤懣混じりに独り言ちるしかなかった。
 『特異運命座標』不動・醒鳴(p3p005513) は、聞き耳を立てつつ、人食い熊の痕跡に着目する。
「足跡のサイズ違いはなし、か」
 特に醒鳴が警戒していたのが、人食い熊が複数体いる可能性。故に、残された足跡の大きさが違わないかを重点的に調べていたが、結果としてその可能性は排除して問題ないようだった。人食い熊の大きさについて証言が食い違っていたのは、夜の闇の中の混乱故だろうと思われた。

 索敵が行われていくうちに、蛍のファミリアを通じての透視や醒鳴の聞き耳によって、いくつかのバラックで生存者の存在が確認された。音を出せば食い殺されるとばかりに、ただ息を殺してガタガタと震えている。実際、扉が壁ごと壊され、住民が人食い熊の餌食となったバラックもあるのだ。
「私達はローレットです。皆さんを救助に来ました。落ち着いて下さい。まず安全を確保しますから、もう少しの間だけ頑張って下さい」
「貴様等の為に『壁』が現れたのだ。怯える事は構わないが、惑う事は死に直結すると知れ。Nyahahahaha――貴様等は未だ生命を有し、物語を捲り続けて在るのだ」
 『紫雲流月』冷泉・紗夜(p3p007754)が、『果ての絶壁』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569) が、バラックで震える生存者達を落ち着かせるべく呼びかけていく。
 ローレットが壁となって安全を確保してくれる。
 その事実は住民達の心に浸透し、人食い熊の恐怖に耐える希望となった。

「向こうさんは人の血の味を覚えた獣。この地も餌場として認識しておるだろうし逃げる事はないじゃろう――しかし、利用されて狩られるとは熊も災難じゃの」
「でも、人の味を覚えてしまった熊さんは退治しないといけないのですよ! メイはお山に住んでいたので、熊さんが危ないことは大人の人にいっぱい教えられて育ったのですよ。『危ない熊さんは退治する』これは人が生きるための弱肉強食の自然の掟と、ルゥの族長が言っていたのですよ!」
「確かに、そうじゃの――さて、犯人を捜すか」
「犯人、ですか? どうやってです?」
「こうじゃ。恨みの魂は儂と相性が良いからのう」
 人食い熊ではなく、人食い熊を『安酒通り』に放った犯人を捜そうとするのは、『九尾の狐』綺羅々 殺(p3p007786)。その側には『羊飼い』メイ=ルゥ(p3p007582)がいる。
 殺はメイの目の前で、犠牲者の魂に犯人について尋ね、住人以外で隠れて状況を伺っている者を探させた。だが、犠牲者の魂達は犯人については知らず、住人以外で隠れている者についてはいないと言う。
「犯人がわからぬのは残念じゃが……」
「熊さんの相手に集中できるのですね!」
 人食い熊との戦闘中に横槍が入ることはないと確定した。イレギュラーズ達にとって、これは大きいと言えた。

●発見~戦闘開始!
「――いたぜ!」
 最初に人食い熊を発見したのは、人食い熊が動く足音を聞き耳で捉えた醒鳴。すぐさま、空中の珠緒を通じてその位置を全員に伝えていく。
 人食い熊の位置を伝えられた蛍は、ファミリアを通じてその姿を目の当たりにした。人の血と死の匂いに塗れた壮絶で恐ろしい姿に、蛍の動きが一瞬止まる。
(……でも、震えながら隠れてるあの人達を救えるのは、今ここにいるボク達だけなんだ!)
 しかし蛍は索敵の時に透視で見た、バラックの中で震える住民の姿を思い出して心を奮い立たせ、珠緒に人食い熊の位置を教えると全力で駆け出した。
 他のイレギュラーズ達も、各々伝えられた位置へと向かっていった。

 そこには、十メートルには足りないまでも、八メートルはあろう巨大な熊がいた。毛皮は元は茶色であったのだろうが、大部分が赤黒く染まっている。土中に保存し損ねて石畳の上に放置している遺体を食べようとしていた人食い熊は、イレギュラーズ達が接近してくるのを察すると、新しい餌が来たとばかりにフーッと息を吐いて昂ぶった。

 ただひたすらに舞い散る桜吹雪の幻影を乗せた一陣の風が、人食い熊へと吹き付ける。蛍の花嵐である。人食い熊の心身の壁は崩され、その注意は見事に蛍に向いた。さらに、桜界による桜の結界が、人食い熊に直撃する。
「グアッ!?」
 餌と見ていた相手からの、手痛い攻撃に人食い熊は困惑すると共に、凶悪な憎悪を向けた。
 だが、人食い熊の反撃までの間に、次々とイレギュラーズ達が仕掛けていく。
「肉を求めるならば、我等『物語』の肉と血を啜るが好い。此れが貴様を満たせぬ『餌』ならば早々に失せよ」
 オラボナは回転椅子で、人食い熊の平衡感覚を失わせ、ふらふらとふらつかせる。
 そこに、醒鳴の害意が叩き付けられた。
「グフッ! グアアアアッ!」
 呼吸を阻害される苦しさに、身体が痺れて自由に動かせないもどかしさに、人食い熊が吠える。だが、その叫びも長く続けることは出来なかった。
「さ、臆すことなく踏み出しましょう」
 目の前の救える命を救うために、救えなかったと後悔をしないために。紗夜は人食い熊の側方に回り込むと、『幻魔』による五月雨の連撃で後ろ脚を何度も斬りつける。
「さぁて、ここまでデカい奴は流石に初めてね。気を抜かない様に行きましょ!」
 ゼファーは闘気を炎と変え、烈火業炎撃を放つ。炎を纏った槍が人食い熊に突き刺さり、肉をじゅう、と焦がしていく。

●人食い熊の暴威
「グオオオオオオオーッ!」
 人食い熊が、吼える。目の前にいる者達を振り払うようにして、後ろ脚を引き釣りながらも蛍へと突進する。
「――く、うっ」
 直撃こそ避けたものの、人食い熊の巨体が蛍にズン! とぶち当たる。そのダメージの大きさに、蛍は呻くと同時に戦慄した。ある程度逸らしてでさえ、何度も受けると危ない。ましてや、自身やオラボナ以外の者に直撃などされたらどうなるか――。
「――蛍さん!」
 蛍の受けたダメージの大きさに、珠緒はミリアドハーモニクスを連続で発動する。
「ありがとう、珠緒さん!」
 珠緒のミリアドハーモニクスの回復量は大きく、蛍は全回復した。

「これは、貴様に食われた者達の分じゃ!」
 殺は、犠牲者達の無念と怨嗟を黒綺羅星に宿し、怨嗟の刃として人食い熊を斬る。犠牲者達の魂は怨みを晴らさんとするかのごとく人食い熊にまとわりつき、その動きを鈍らせた。
「こんなところで暴れちゃいけないのですよ! ここは都会なので、都会のルールを守らない子はメッなのですよ!」
 動物疎通のスキルを持つメイは、人食い熊を叱りつけるようにしながら、妖刀『不知火』による音速の斬撃を人食い熊の身体に刻む。だが、人食い熊はその一撃で首の横に大きく傷を刻まれながらも、傲然と咆哮をあげることで、メイに返事を返した。
「餌如きが、偉そうなことを! 大体、都会のルールなどと言われようが、好き好んで此処に来たわけでは無し、知ったことではないわ!」
「そうですか! なら、退治するだけなのですよ!」
「やってみろ! 小娘が!」
 人食い熊が吠える。だが、次の瞬間、人食い熊の身体にはもう一つ深い傷がメイによって刻まれた。

「さっきは火力が足りなかったけど、今度こそ火達磨にしてやるわ!」
 ゼファーは再び、烈火業炎撃で人食い熊を攻撃する。今度は、槍を覆う炎がゴウ、と人食い熊に燃え移り、その体の半ば以上を炎で包んだ。
「もう一度、行きます!」
「グオオオオオオーッ!」
 紗夜は再び人食い熊に接敵すると、今度は先程とは逆の後ろ脚を五月雨で斬り刻む。たまらず、人食い熊は頭を振り上げて吼えた。
「状態異常は、もう十分のようだな!」
 醒鳴は人食い熊が十分なバッドステータスを受けていると見て、巨大剣『フォートレスブレイカー』を荒々しい喧嘩殺法で振るい、文字通りに『叩き斬る』。
(もう、誰一人死なせない……!)
 そのためには、庇いに入っているオラボナや自分自身が耐えられるうちに、一刻も早くこの人食い熊を倒さねばならない。蛍は再び、桜界を発動して人食い熊を死へと誘う。人食い熊の生命力は大きく奪われたが、まだ死には至らない。

 その身に降りかかっている麻痺や呪縛を強引に振り切るようにして、人食い熊は血まみれの顎を開き、蛍の頭を噛み砕かんとする。だが、これにはオラボナが割って入った。
「我等『物語』の味は如何だ? 此れが貴様を満たせぬ『餌』ならば早々に失せよ」
 肩口を深く抉り取られながらも、オラボナは唇の端を吊り上げてニヤリとした笑みを浮かべる。オラボナの肉は人食い熊には合わなかったらしく、人食い熊は食いちぎったオラボナの肉をべしゃり、と石畳の上に吐き捨てた。

「オラボナさん、大丈夫ですか?」
「――問題ない。我等『物語』は、この程度では朽ちぬ」
 珠緒の問いにオラボナはそう答えるものの、実際に受けているダメージは大きい。オラボナが尋常ではないタフネスを誇るからこそそう答えられるだけで、並のイレギュラーズであればまず戦闘不能や重傷は避けられなかっただろう。
 事実、珠緒はミリアドハーモニクスをオラボナに連続で使用したが、それでもオラボナの受けた傷は完全には癒えなかった。

「それだけ状態異常を受けて、なおその一撃を出せるか。だが、儂の呪殺からは逃げられんぞ」
 人食い熊が多数のバッドステータスを受けていながら、それでもなおオラボナに強烈な一撃を見舞ったことに、殺は半ば感嘆していた。だが、バッドステータスを多数受けている以上、呪殺属性の攻撃を受ければ大ダメージは避けられない。そして、殺はカントーリオのエスプリ効果と儀礼剣『ジ・エンド』によって、通常攻撃に呪殺属性が付与されている。
 果たして、殺の全力攻撃を受けた人食い熊は、大ダメージを受けて半狂乱に陥った。
「ガアアアアアッ!」

●優勢、そして決着
 戦闘は、イレギュラーズ達の優位に進んだ。如何に人食い熊が通常の熊を遙かに超えて強力であったとしても、多勢に無勢であった。さらに、麻痺や呪縛で行動を封じられた上に、それを振り切って動けたとしてもオラボナ一人仕留められないでいる。
 一方、イレギュラーズ達からの攻撃は、その巨体が災いしてほぼ全てを被弾してしまっていた。通常の熊を遙かに超えた生命力を持つこの人食い熊と言えども、その命運は最早風前の灯火となってしまっていた。

「……これで、倒れて欲しいのです!」
 メイは、もこもこチャージで気力を回復してからの、四度目のソニックエッジを人食い熊に放つ。既に人食い熊は全身を犠牲者の血ではなく自らの血で赤く染めており、満身創痍であった。ザクッ、と『 不知火』が人食い熊を深く斬り裂き、鮮血を噴き出させる。
「ホント、タフにも程があるわね……」
 まだ斃れない人食い熊に呆れたように呟きつつ、ゼファーはDual Streaksで次に続く者のために隙を作る。
「でも、もうすぐ終わるはず……!」
 ゼファーの作った隙に乗じて、蛍が渾身の桜界を放つ。舞い散る桜の花びらは、人食い熊の残された生命力のほとんどを奪い去った。
 人食い熊は、最期の力を振り絞って前脚を高く掲げる。残された力の全てを注いで、前脚で蛍を叩き潰そうとした。
「我等『物語』が斃れぬうちに、貴様の好きにはさせぬ」
 オラボナが身を挺して、振り下ろされた前脚を受け止める。最期の一撃も通じなかったと理解した人食い熊は、ズゥン、とその場に崩れ落ちた。だが、まだ息は残っている。
「……終わらせましょう」
「ああ、そうだな」
 依頼は、あくまで人食い熊の殺害である。止めを刺して息の根を止めるべく、紗夜が『幻魔』で首筋を斬り裂き、醒鳴が『フォートレスブレイカー』を大上段に振り下ろして、頭部を叩き潰す。
 さらに、殺が『ジ・エンド』を心臓の位置に深く突き立てて、人食い熊の息の根を完全に止めた。

●生存者の捜索、救出
 戦闘が終わっても、イレギュラーズ達に休む余裕はなかった。人食い熊が退治されたことを、バラックで隠れている住人達に知らせて安心させなければならない。また、安否の確認を行い、怪我人がいれば治療する必要があった。
「皆さーん、もう大丈夫ですよー!」
「安心せよ。貴様等の生命は守られて、この先も物語を捲り続けてゆけるのだ」
 メイとオラボナが、未だバラックに隠れている住人達にもう安全だと呼びかける。最初は何の反応も無いかに見えたが、いくつかのバラックの扉がそっと開くと、恐る恐る住人達が出てくる。
「……本当だ! あの熊が退治されたぞ!」
「よかった! 俺達は助かったんだ!」
 その歓喜の叫びを受けて、次々とバラックの中から住人が出てくる。
「……本当に、よかったです」
 その光景を見て、紗夜がポツリと呟く。救える命を救うことが出来たという安堵が、そこにはあった。

「……見つかったのは、これで全員だな」
「――そう。ボクは、珠緒さんを手伝ってくる。彼らの誘導、任せていい?」
「ああ、任せておけ」
 人食い熊に中途半端に食われて重傷を負った四名を除いて、醒鳴と蛍の目の前にいる十二名が、発見出来た全員であった。可能であればクラースナヤ・ズヴェズダーに逃れ付いた以外の四十人全員の安否を確認したいところではあったが、徹底した捜索の結果見つからない者は死んだと判断するしかなかった。
 生存者達を、イレギュラーズ達はクラースナヤ・ズヴェズダーにしばらくの間、保護してもらうことにした。『安酒通り』での生活を続けてもらうにしても、遺体をどうにかしないことには衛生面の問題が大きい。そして、生存者の救出が優先される状況で、イレギュラーズ達にそこまでする余力は無かった。
 その誘導を蛍は醒鳴に任せ、負傷者の治療に当たっている珠緒の所へと向かう。
「――如何でした?」
「入念に探したし、助け漏らしは無い、と思いたい。全員の安否を今すぐに判明させるのは、ちょっと厳しいかな」
「そう、ですか――」
 負傷者の治療を行いながら、珠緒が蛍に問う。助け漏らしが無いようにと珠緒は蛍に頼んでいたが、それが蛍達が生存者救出に全力を尽くした結果だと、珠緒は納得することにした。

「……犯人についてわからなかったのが、業腹じゃ」
「私の聞いた噂が正しければ、この国のお偉いさんの仕業らしいけど……」
「……何と。本当にそれが正しければ、この国の世も末じゃな」
 殺が、この事件を引き起こした犯人の情報が得られなかったことについて、苛立ち紛れにぼやく。ゼファーは、人食い熊に食い荒らされた遺体を眺めながら、自身の聞いた噂について話した。
(――人道だの倫理だの。そんな高尚なもの語れる身分じゃありませんけどね。でも、これはあまり気持ちのいい光景じゃぁないわ……お偉いさんは何をやってるのよ、全く)
 ゼファーには、この事件がこれだけで終わらないという、嫌な予感があった。そして、その予感はしばしの時を置いて、当たっていたと判明することになる。

成否

成功

MVP

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚

状態異常

なし

あとがき

この度はシナリオへのご参加、大変ありがとうございました。
リプレイ返却が予定日より遅れてしまったこと、慎んでお詫び申し上げます。

さて、皆様のお陰で、人食い熊による犠牲者が増えることは防げました。
しかし、鉄帝のスラム絡みでは、まだまだ不穏な空気があるようです。

MVPは、圧倒的HPで他のメンバーを守りきったオラボナさんにお送りします。
まさか、この人食い熊を相手に、重傷者や戦闘不能者を出さずに切り抜けられてしまうとは正直想像していませんでした。

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