PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ホワイトツリーの妖精

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鉄帝国。力こそ全てであるこの国家は侵略を是とする。
 何故か、それは国を富ませる事である。
 そうした理由より鉄帝国北東部に広がる貧しい大森林地帯『ヴィーザル地方』は二の次となるのは致し方がない。強大な鉄帝国からすれば北東部は泡沫戦線に過ぎず、敵国と認識するは幻想王国や天義であるという事だ。
 侵略に寛容たるこの国家の維持発展の手が北東部に及ばんとしたときに与えた影響――そう、それが北東部に影響を与えた。
 小数部族が国家として名乗り始めて少し経つが、北東部に位置する『連合王国ノーザン・キングス』の三部族の内のひとつである永久氷樹と共に生きる英知の獣人族シルヴァンスのバルトロメウスは頭の上にぴょこりと生えたウサギの耳を揺らして銃を構えていた。
「アイツら! アイツら! アイツらだよ、アイツら!!!」
 たしたしたしと兎の足が何度も地面を踏み締める。
 バルトロメウスは二足歩行する兎と言った外見をしていた。
「アイツら! 莫迦にしやがって! クッソクッソ! 体が鉄だからかァッ!」
 たしたしたしと兎の足で何度も何度のも地面を踏み締める。
 シルヴァンスを構成するのは獣種と飛行種が多い。愛らしい外見をして居る者も多いが、その小躯には似合わぬ鉄帝国製の重たい装備を担いだ様子はアンバランスにも思えた。
「どうする? バルトロメウス。鉄くずの奴ら、ウチらの森に侵略してくるかもよ?」
「あの火炎放射器ってやつ使われちゃ一溜まりもねェからな! 作戦プランBだ!」
「プランB? やったね、じゃあウチは新しく手に入れたアサルトライフルつーかおっと!」
 二足歩行する動物たち。愛らしいその外見を『ホワイトツリーの妖精』と呼んだのは誰だったか。
 呼んだ奴を5発くらい殴りたい位にシルヴァンスたちは悪知恵を働かせるのだった――


「鉄帝の北東部で国を名乗ってる小数部族が居て、『ノーザン・キングス』っていうんだけどさ、その一つのシルヴァンスって部族の……バルトロメウスって奴が奇襲作戦をしてるらしいんだ」
 可愛い兎の外見をしていても武装は完ぺきに鉄帝製品。ふんわり可愛いうさぎさんとはわけが違うのだと言う様に『男子高校生』月原・亮(p3n000006)は困った顔をした。
「名前はイカついけど、外見は可愛いうさぎで武装は完ぺきに鉄帝製品ってのがヤバいんだけど、兎だからとか『強くなさそう』だとか、鉄帝側に馬鹿にされたってバルトロメウスはすっごい怒ってる」
 ――だから、鉄帝国に奇襲を仕掛けるのだという。
 鉄帝国のガイドブックを見ればシルヴァンスたちは獣種が多く二足歩行で歩む森の住民であると考えられることから『ホワイトツリーの妖精』と呼ばれていたこともあるそうだ。妖精が馬鹿でかい重火器担いで回ってるとなれば亮も「うへえ」という声が思わず出てきてしまう。
「んで、奇襲するって話なんだけど。
 ヴィーザル地方に隣接する鉄帝国の街があるんだ。炎を使用した武器を作る攻防が多い地方で『火炎の街』とか呼ばれてる。そこに武器持って乗り込んで、武器職人を誘拐。自分らの所で武器を作らす魂胆らしい」
 あと、炎系の武器を持ち込まれたら自分たちの住居が燃やされるかもしれないからそれを防ぎたいとかなんとか。
 詰まるところは、武器職人の保護と奇襲を仕掛けて工房を壊そうとするシルヴァンスの撃退がオーダーだ。
「俺も、二足歩行のうさぎさんって言えば夢見てたとこあるんだけどさ……まあ、腹くくったから。
 とりあえず、武器職人さんを護りに行こうぜ! ……兎が可愛いは禁句らしい。可愛いのに、なあ」

GMコメント

 夏あかねです。ノーザン・キングスを野崎と略したらぴぴさんにコンビーフって言われたよ。

●成功条件
 武器職人アイシェラの保護

●アイシェラの工房
 武器職人アイシェラの工房です。ヴィーザル地方と隣接する『火炎の街』と隣接しています。
 それなりの広さであり、竈や火炎の窯などが存在しています。炎関連のものが一通りそろった場所です。
 シルヴァンスは工房も壊す目的のようですが、アイシェラの確保までは積極的に工房を攻撃しません。

●アイシェラ
 武器職人。女だてらに『火炎職人』という通り名を有しています。その名の通り、火炎の武具や、火炎に適する魔法製品を得意としています。
 火炎は森には天敵だという理由でシルヴァンスの標的になっています。
 アイシェラが特に「うさぎさんかわいい」と言ったわけではないようですが……兎さんは可愛いと思ってます。

●バルトロメウス
 シルヴァンス。兎の獣種。二足歩行するうさぎさんです。
 装備品は鉄帝から奪ったものばかりです。巨大な鉄製ハンマーをボッコボッコと振り回します。
 兎さんは可愛いとよく言われるのでそれに苛立ちを感じています。アイシェラを誘拐してシルヴァンスにその技術を流入させようとしています。
 非常に悪知恵は訊きますが、短慮な面もある為に簡単に奇襲を悟られてしまっています。

●バルトロメウスの友人*5
 シルヴァンス。皆、兎の獣種です。二足歩行しています。
 アサルトライフルや様々な鉄帝国製品を手にバルトロメウスと共にアイシェラの確保を狙っています。

●同行NPC
 月原・亮がご一緒します。二足歩行でうろつくうさぎさんは可愛いという気持ちと子供向け玩具でそう言うのあったのにという複雑な気持ちです。
 前衛ファイタータイプです。指示があればどうぞ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


 よろしくお願いします。

  • ホワイトツリーの妖精完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月27日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)
トリックコントローラー

サポートNPC一覧(1人)

月原・亮(p3n000006)
壱閃

リプレイ


 ヴィーザル地方と隣接する『火炎の街』。その地に足を踏み入れ、『火炎職人』の工房に向かった特異運命座標を出迎えたのは燃えるような赤い髪をした女であった。冬の寒い地域で暮らす白い肌の女は「お客人!」と喜ばしそうに特異運命座標を出迎える。
「さあ、寒かったろ? 暖炉に火はくべて置いたさ。仕事だってローレットから聞いてる!
 一先ずは暖をとりつつ話ってのを聞こうじゃないか。あたしが何だっけ? 狙われてる――?」
 簡単な話だけは事前に通しておきましたとドヤ顔半分の『男子高校生』月原・亮(p3n000006)に『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は緩く頷く。
「『ノーザンキングス』。そう名乗る三部族が居るのは知っているかい?」
「まあ、良い噂さ。内乱なんざ良く或るっちゃ良くあるがね。国を名乗るのは! その、なんだ。面白いさ」
 くすくすと笑ったアイシェラにゼフィラは彼女も其方の事情には精通しているのだと認識した。本件が終わった後にでも学術的に聞いておきたいと告げれば了承が返ってくる。
「ノルダインの戦士もかなりのものだったけれど、この連中はそれ以上に好戦的ね」
『月下美人』久住・舞花(p3p005056)は自身が相対したノルダインの戦士たちの事を思い返しそう呟いた。アイシェラ曰く三部族はそれぞれの独自の文化が存在し、シルヴァンスは非常に狡猾であるという。
「ふむ……『シルヴァンス』に獣種が多いのは、環境への対応でしょうか?
 短慮も、即断しなければ、生き残れないからでしょうか……過酷な場所でございますね」
「過酷だからこそ、国を名乗ったと思えば納得も出来る……かしら?」
 口元に裾を持ち上げた『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)が首を傾げれば舞花はそれでも『兎さん可愛い』の言葉に激昂するの如何なものだろうかと嘆息する。短慮と言われても仕方がない相手であるのは確かだが――もふもふとした身体は所謂『着ぐるみの兎さん』を想像させる。
「うぅ……うさぎさん可愛いうさぎさん可愛い……」
 言ってはいけないといわれれば、余計にその感情があふれ出すというモノだ。『魅惑の魔剣』チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)は二足歩行の兎と戦うなら不思議の国の少女めいた格好をすればいいのだろうかと呟いた。
「アリスの格好で、うさぎさんと一緒……うさぎさんかわいい、はっ! いけないいけない。
 聞かれたら怒っちゃうんだよね、声に出さないように気を付けなきゃ」
 慌てて口を押えた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)にアイシェラは「うさぎさんかわいい?」とチェルシーと焔を見比べる。勿論、職人と言えどアイシェラだって可愛いものは大好きだ。
「ああ、戦闘中は兎を「可愛い」扱いしてはダメだよ。何せ、彼らはそう言われると自分たちを莫迦にされていると認識するみたいだから……」
 困った様にそう言った『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)にアイシェラは一先ず頷いた。
「『うさぎさん可愛い』やなんて……俺なんて変化解いたら『うわっ目付き悪ぅ』言われるんに、可愛いなんて言って貰えるだけええやんな」
 仲間の方の二足歩行のうさぎさんこと、『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)は変化を解いて兎の耳をぴょこりと垂らす。
「ね、亮サンは俺の事も可愛いって思ってくれます? ……なんてね。仲間に誘惑使ってもしゃあないすわ」
 冗談を交らせるブーケに亮は「え? ブーケさんフツーにかわいいじゃん」と小さく笑った。
 さて、火炎の街にひょこひょことシルヴァンスがやってくる時間だ。仲間たちの様子を見ながら『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)は豪快に笑う。
「HAHAHA、要するに一般女性を誘拐しようとしている凶悪犯だろ、なら遠慮はいらねえなHAHAHA!」
 豪快に笑った彼は萌えキャラだろうが美少女だろうが美少年だろうがどんな見た目をしていても、対応は変わらず容赦なく顔面をぶん殴れる。その気概や良し。曇りなき瞳には闘争心がしっかりと湧きあがり――老若男女全て等しく誰だろうと殴りたいヤツは殴る、それが郷田貴道であると言う様に街へと訪れたシルヴァンスを空より発見した。


 上空より俯瞰していた貴道が現場へと急行する。透視を使用してシルヴァンスの奇襲に備えていたリゲルは銀の剣を煌めきを伴って振り翳す。
「なっ、なんだぁ!」
「バルトロメウス! こいつら鉄くずとつるんでるやつらだよ! ……多分」
 舞花の想像した通り『ふわふわとした兎の着ぐるみ』がぴょこぴょこと動いている。
(くっ、辛い戦いね……アレを赤く染め上げるかもしれないだなんて……
 あの風体で襲われたらどうなるのかしら……想像しただけでぞくぞくするわ)
 魔剣の少女はバルトロメウスの姿を見て唇を尖らせる。兎さんは可愛いのだ。シルヴァンスたちが否定しようとも――それはチェルシーの中では代えがたい真実である。
「正面玄関から踏み込んでくるか、窓から入ってくるか……
 壁を抜いて入ってくるか……まあこの何れかという所かと思ってたけれどね。
 まさか『正面玄関』からきちんと入ってくるなんて」
 案外礼儀正しいのですね、と舞花は呟いた。扉を蹴り飛ばして来たシルヴァンスはリゲルとチェルシーの『奇襲返し』に驚愕した儘、空を見る。
「バルトロメウス! 大変、筋肉が降ってくる!」
「筋肉が降ってくる!? あ、貴道さんの事だね!?」
 アイシェラを護る様に布陣した焔がぱちりと瞬いた。自身は炎を司るものであると認識する焔にとって『火炎の街』や『火炎職人』という言葉にはどこか愛着がある。アイシェラを護り抜かねばと、手にしたカグツチを握りしめた儘に焔は傍らよりするりと飛び出す雪之丞を目で追った。
「おいでませおいでませ。怒りは此処に。狙いは此処へ。その強さを、見せてくださいまし――可愛い兎様は、此方へどうぞ」
 霊気を込め、硬質化させた手で打ち鳴らす柏手。鈴に似たその音色に長耳をぴくりと揺らしたバルトロメウスが「莫迦にしやがって」と吼える。
「プランBだよ、バルトロメウス! つまりは、プラン・バルトロメウスなんだからリーダーしてよ!」
「先ずは『可愛い』つったあいつを倒すところからだよ」
 憤慨してたしたしと地団駄踏んでいるバルトロメウス。慌てる友人の一人も「もう」と言いながらたしたしと踏み続ける。
 ゼフィラは奇襲に備えて居れば対策は可能なのだと小さくため息をついてからシルヴァンス――と言っても冷静なのは彼の隣でプランBだと呼びかけてる兎しかいないのだが――へと向き直る。
「この街はシルヴァンス、ひいてはノーザンキングスへの攻撃など考えていない。
 それに、我々の目的は工房の防衛と職人の保護であり、君たちと無理に戦う積もるりは無い」
「そんな事言ったって、鉄くずの上層部と君達じゃ違うじゃないか! 僕らが備えるのはあくまでも鉄くずの偉い人たちの攻撃で、ここは火炎職人の技術さえ盗めればどうでも良いんだ!」
 ふんとそっぽを向いた兎にバルトロメウスは「話してる場合かよ、ロクスン」と吼えている。どうやら、ロクスンと呼ばれた兎の言動が全てなのだろう。
「火炎職人を拉致し働かせる? 事故で君達の住居が燃えてしまう可能性もあるのでは?」
 リゲルがバルトロメウスの横面へと剣を振り上げたそれをチェルシーは支援した。彼女の作り上げた隙に滑り込んだリゲルにバルトロメウスは予想外だったのだろうがしゃん、とその身体が工房の壁に叩きつけられる。
「今よリゲル……! あなたの愛の剣でわからせてあげて頂戴!」
「むきー!」
 チェルシーの背から噴射された羽にバルトロメウスが憤慨し続け、友人たちが雪之丞と、そして炎へ向かう。
「ヘイ、月原! 兎野郎の相手ってのはどうだ?」
「えー……心が痛む」
 まだまだ甘いぜ、と亮の背をばしりと叩いた貴道が力の限り拳を叩きつけた。焔纏ったのそ一撃を後押ししたのは、身体能力を全盛期のジャスト0.0001%分上昇させる荒技。貴道のそれを見て、亮は負けてられないと愛刀を一気に振り上げた。
「兎! その強さを示してみせろ!」
 堂々と叫んだリゲル。お耳をぴょこりとさせたブーケはアイシェラをくるりと振り返る。何だか兎と言われ続けるとくすぐったいのだ。
「シバくんは仲間に任せて、俺は俺の仕事をやり切ってみせますわ。そしたらかっこよかったよって撫でてくれます、アイシェラサン?」
「嗚呼、勿論。頑張っとくれよ!」
「ほな、見ててください。『味方の兎』も力を示してみせますわ」
 ぴょこぴょこと跳ねるブーケが放つは一撃の赤、二撃の黒。兎は甘くはないのだと兎同士の戦いが続いていく。


 兎さんは可愛いのだ。もふもふして、とってもキュート。だから触りたくなってしまうけれどシルヴァンスは其れを赦してはくれない。此処で甘い顔をすれば火炎職人に危険が及ぶとなれば複雑な心境で焔は兎に相対した。
「ヘイ、ラビッツ! 安心しろ、ミーは加減なんてセコイ真似はしない! フルパワーでユー達を叩きのめす!!」
 焔の『可愛いうさぎさんを傷つけるなんて!』という気持ちは亮も一緒だが、何だって力を抜かずしっかり『シルヴァンスの希望に応える』貴道がバルトロメウスをびしりと指さす。
 フルパワーで飛び込んで来られるのも怖いと叫んだロクスンにバルトロメウスは構う事無く『鉄くずの仲間』と苛立ったように地団駄踏んで巨大なハンマーを振り回す。
「ハッ! ラビッツ、そんなデカブツ振ってりゃ自分が振り回されるぜ?」
「うるせえ! 鉄くずの奴らが使ってる武器位使いこなせず何がノーザンキングスだ!」
 噛み付く様にそう言ったバルトロメウス。貴道は彼に一定の理解を示していた。確かに、ふんわりとした可愛らしいうさぎはぬいぐるみや動物フィギュアを思わせる。その見た目で『ホワイトツリーの妖精』と呼ばれていたことは彼にとっては屈辱だったのだろう。その愛らしさで侮られることが一番苛立つ事を理解しているのは貴道本人かもしれない。
「ミーがしっかりと叩き潰してやる! そのデカブツごと!」
「やって見せろよ! 鉄くずの仲間ァ!」
 どうにも鉄くず――鉄帝国の仲間だと認識されているものだとリゲルは認識する。ゼフィラも呼びかけてみたは良い物の穏やかに拒絶を見せたロクスンを見るにリーダー格のバルトロメウスを納得させるのは至難の業だと認識した。
「……とは言え、向かってくるなら手を抜く積もりはないがね」
 シルヴァンスの狡猾さに振り回された事のあるゼフィラは仲間達と共に対策を事欠かなかった。アイシェラを護る様にとなりに立ったブーケは勿論の事、バルトロメウスとその仲間達から視線を外さず、相手がどこにいるかを常に把握し続けることこそが重要だという考えはしっかり持って居る。
 シルヴァンスからすれば前から飛び込んできて一直線に相手取ってくれる貴道がお気に入りのようだが、それだけでは後ろからアイシェラを掻っ攫われる事位、分からない特異運命座標ではない。
「シルヴァンスの狡猾さには振り回された経験があってね。対策はさせてもらったよ」
「バルトロメウスったら! あいつら、中々頭がキれるよ! もう、『兎さん可愛い』にだけいっつも頭に血が上るんだから」
 たしたしと地団駄踏んだロクスンに焔は何となく同情をした。ロクスンも苦労している気がしてしまったのだ。アイシェラを狙い、後ろから攫ってしまおうと考えて居ること位チェルシーにはオミトオシであった。しっかりと兎たちを視認して「うさぎさんかわいい」とテレパスを送り続ける。
(仕方ない、仕方ない状況ね! うさぎさんかわいいもの!)
 ――バルトロメウスが「むきー!」と更に地団駄踏んだ。彼のそうした性質を利用すればアイシェラの身に及ぶ危機を未然に防げる。
 チェルシーをぐるりと見た兎の耳がぴこぴこと揺れている。彼女の思念である事を兎の耳がきっちりキャッチしたようだ。闇の月にて兎を呑み込んだチェルシーの背後より舞花が斬魔刀を一気に振り上げる。
「シルヴァンスの戦士、好戦的なだけあって武力はなかなかのものね。前に戦ったノルダインの戦士にも劣らない」
「当たりまえ! ノルダインと比べればシルヴァンスは頭が良い――バルトロメウスゥー!」
 どうやらバルトロメウスは短慮だ。舞花の一撃にばたりと倒れた兎を見てロクスンや友人たちの叫び声が聞こえる。リーダーであるバルトロメウスに蹴撃放った舞花は「命は奪ってません」と静かに告げる。
「ほ、ほんとう!?」
「ええ。命を奪う必要はないもの。……それで?」
 兎たちの耳が揺れる。焔はどうにもシルヴァンス達は一筋縄ではいかぬのだとはっと顔を上げた。ここはアイシェラの工房だ。つまりはアイシェラの私物だって存在している。
「バルトロメウスの仇!」と短慮にも舞花やリゲル、雪之丞に飛び込まんとする兎たちの後ろでこっそりとアイシェラの工具に手を掛ける者がいる。
「貴道さん!」
「スルーだなんてツレねぇな! ラビッツ!」
 焔の声に頷いて貴道がシルヴァンスの横面を殴りつける。その手からがしゃりと落ちた工具にアイシェラが「隙もないうさぎだ」と声を漏らした。
「そうなんです。うさぎっちゅうのはやわくて、可愛いのは事実よ。
 その上でしなやかで、カッコよくて、そんでもって強い子なんや。これは混沌の常識よ」
 ぴょこりと耳を揺らしたブーケにアイシェラは面白そうに頷いた。


 シルヴァンスに向けて攻撃放ち続けるブーケは同じうさぎとしてシルヴァンスを見詰めていた。確かにもふもふかわいいがその性質が狡猾であることでちょっぴりそんな兎たちだ。
「不思議なものですね。これだけ強いのなら、真正面から挑めば、己の武を証明できるでしょうに」
 雪之丞が小さく漏らす。短慮にも立ち向かってきたバルトロメウスは見事倒したが、最後まで残っていたのはその中でも一番に頭のキれたロクスンである。彼はアイシェラの工房の見取り図でも作るのかという勢いで観察し続け、巨大なハンマーの向こうから、鉄帝国より得た武器を駆使している。
「それとも、どうしても火炎の技術が欲しかったのでしょうか」
「ち、違うやい。火炎の街の武器は鉄くずのやつらに流通してる!
 それってどういう事か分かるだろ! ノーザンキングスは常に領土を鉄くずに奪われる可能性を持ってるんだ。あいつらの装備を奪取しておかなきゃ何時ぺしゃんこにされるかたまったもんじゃない!」
 拗ねた様にそういうロクスンに雪之丞は成程、と小さく呟いた。炎の攻撃を伴った焔は「それじゃ、アイシェラさんの弟子になって武具の作り方を学ぶとかも無理なの?」と声かける。
「そんなことしたってどうせ武器は鉄くずに流れるんだいっ!
 なら、その女を攫って僕らのための武器だけ作らせた方がもっともーーっとましなんだい」
 ぷんすこと拗ねた調子のロクスンに雪之丞はゆっくりと息を吐き「交渉決裂ですね」と囁いた。
「これ以上の戦闘も無意味だと思いますが、どう致しましょう?
 此方からすれば命を奪う必要はありませんが奪わぬという決まりもない……」
 ちら、と雪之丞がロクスンを見れば、ロクスンは武器を地面に落としバルトロメウスの頬をばしばしと叩く。
「バルトロメウス! ずらかるよ!」
 チェルシーは兎がもふ、もふと一生懸命叩いてる様子にメルヘンな光景を感じて小さく笑みを溢した。ああ、不思議の国の兎が女王に怒られると慌てて走っていくようなシーンだ。
 これを脱兎というと呟いたブーケに亮はくすりと笑い、アイシェラはぽかんとその様子を眺めていたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ!
 シルヴァンスはとてもかわいい動物が重火器を持って居るという設定なのですが……もふもふも頭が良くて強いと強敵ですね。傷つけにくい……。
 またお会い致しましょう!

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