シナリオ詳細
終わる世界の片隅で
オープニング
●白き創造主は
世界にはすでに生命はなく、一人の白い少女が佇んでいた。
早くに生まれた人間が文明を発展させ、争い、そして勝手に滅びた。滅んでも文明の残滓は世界の破滅を加速させた。
そしてもう世界の消滅は避けられないところまで来てしまった。
「完全に消える前に、新たな世界の種を作らないと」
それは新たな理。次なる世界の無垢なる息吹。
この世界は早くに死に絶える。人間の一生を果てしないほど繰り返しても、世界という括りにすればほんの一時だった。少女がまだ『少女』の姿でしかないのが、その証左。
本来ならば、もっと年老いた姿で朽ちるはずだった。
「私が生んだ世界は、そこに生きた者達は幸せだったのでしょうか……?」
それに答える者はなく、声だけが虚しく響いた。
次はどんな世界になるだろう?
新しく生まれる種にどんな『可能性』を込めてあげよう?
できるだけ長く続くように。
そこに生きる生命が、世界が、そして新たな子が、幸福になれるように。
「でも、どうしたら良いのでしょう……」
自分に込められた『可能性』は何だったのだろう?
どんな『可能性』ならば、自分のようにならないのだろう?
「……誰か、教えて」
誰にも届かないことは知っている。もうこの世界にはその声を聞く者はいないのだから。
それでも。
「教えて」
願わずにはいられなかった。
新しい世界の幸福を祈らずにはいられなかった。
「だから、どうか……」
この祈りがどこかに届きますように。
少女は一人、虚空に手を伸ばした。
●祈りは届き
「その世界では、終わりが来ると新しい世界を作るための種を生むみたいだね」
金色の髪を揺らして、女性が言った。
「その種子に自分が知っている『可能性』を込めて、できるだけ長く続くように、自分の子供が幸せになれるようにって祈るの。彼女の世界は、始まってから終わりまで短かったみたいだね。争いも起こって、あまり幸福ではなかったみたい」
境界案内人を名乗る双子の片割れ、ボルックスはふわふわと境界図書館に集まったイレギュラーズに言う。
「今回はね、彼女が次に生む種のために接触するの。『こんな世界だったら長く続く』って教えてあげたり、あなた達の世界のことを教えてあげたり、一緒に考えたり。とにかく彼女と話してあげて?」
このままだと込める『可能性』を見出だせず、この世界は完全に終わってしまうという。
「それじゃ、よろしくね?」
- 終わる世界の片隅で完了
- NM名灯火
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年12月22日 22時25分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●少女の手は希望へと
「……誰か、教えて」
白い少女は虚空へ手を伸ばす。
伸びた小さな手のひらは、何も掴まない。
「消滅する寸前だってのに、塔から眺める景色はこうも幻想的で美しいんだな」
びくっ。
後ろから聞こえた男性の声に、少女の肩が跳ね上がる。
恐る恐ると後ろを振り返ると、四人のヒトがいた。全員が同じ姿ではない、一人は下半身が半透明な魚の姿でふよふよと浮いていた。
少女は吃驚しすぎて声を出すのを忘れていた。もうこの世界は生き物が絶えて久しい。まさか生きているものが、それも意思疏通ができる生命が現れるとは思ってもみなかった。
「こんばんは、創造の君。夜空がとってもきれいですね」
黒鉄の肌の少年が言う。
「ボクはリュカシスと申しマス。お隣、座ってもよろしいですか?」
「え、あ、はい……」
少女が頷くと、リュカシスは彼女の隣に腰を下ろす。他のニ人も同じように名乗り、思い思いの場所に座り、一人だけ身長の高さをふよふよと泳いでいる。
少女だけが、その場で名乗れなかった。
●広い世界の『可能性』
四人は異世界から、少女の声に応えるためにやって来たと説明をし、少女は首を傾げながらも納得した。こうしてまた生きてる人と話せるのが嬉しかった。
「わたしに、ひとつ、言えることは……ただ、長生きさせるだけなら、簡単だということですの」
その四人のうちの一人、半透明な魚の下半身を持つ少女、ノリアがふよふよと皆の目の高さを泳ぎながら言う。
「どこかで、変化が、頭打ちになってしまえば、世界が滅ぶような変化も、ないのですから」
それは停滞の世界。緩やかに生きて、やがて寿命を迎えて消える世界。
きっと長く続くだろう。いつか終わるのだとしても、少女の世界よりも長生きするのだろう。
「もちろん、何も変わらないわけでは、ありませんの。誰もが、限られた限られたルールに従って生きて、そのまま死んでいく……永遠に、同じ食物連鎖が続く世界ですの」
ノリアが思い出すのは、自分がずっと過ごしてきた海の中。
危険や不安は当然ある。それでも、ゆりかごのような世界で幸せに過ごしていた。
「でも最近、思いますの……それは、ほんとうに、いいことなのでしょうか?」
「変わらないのは、良いことではないのですか?」
首を傾げる少女に、ノリアは困ったように笑う。
「陸をはじめて訪れたわたしは、知りましたの」
陸には、海にはなかったものに溢れているのだと。それを知ってしまったからには、元の海での生活には戻れない。きっと、新しいものに恋い焦がれてしまうから。
だから。
「この世界の人々も、変化しない世界で生きるより、幸せだっのではないでしょうか? 前の世界が失敗だと考えるより、成功しすぎたと信じてあげる方が、彼らのためではないでしょうか?」
少女がきょとんとする。そんなことを考えたこともないと言うような表情だ。
この世界が早く滅ぶのは、それだけこの世界が早く成熟したという考え方。
「それでも……まだ、残念だとお思いならば、とても大きな世界を、創ることですの。滅ぼしたくても滅ぼせないくらい、大きな世界…そこなら変化を抑えなくても、きっと、終わらないですの」
●統治の『可能性』
「前の世界は……と言っても今のこの世界だけど、人間同士の争いで滅んだみたいだから、争いを収められる強力な統治者がいるといいんじゃないかしら?」
そう提案したのはメリーだ。
「例えば、基本的には魔法や超能力みたいな神秘的な力は存在しないけど、一人か少数だけそういう特別な能力を持った人間が居る世界にして、特別な能力を持った人が他の人間を導いていけばいいんじゃない?」
モグラのぬいぐるみを胸に抱いて、メリーは自信満々に言う。
「特殊な力を持った人間はいませんでしたが、幾度か優れた統治者は現れました」
それでも、人間の命は有限である。いくら善政を敷く王が現れても、いつしか衰退し、いなくなる。
そして、限りある資源を食い合うようにしてまた争いが起こる。それの繰り返しだった。
「それでも、統治は必要なのでしょうか?」
メリーはその問いに笑う。新しい世界に人間が誕生するならば、統治は要るのだと。
「大勢に好かれるように統治者の外見は可愛い女の子にしましょう。永遠に統治できるように十歳ぐらいで年をとらないと良いわね」
永遠の統治。言うのは簡単だけれど、果てしない時間を生きる人間が孤独に陥らないか。どれだけ人に好かれても、一人ぼっちにならないか。少女が心配するのはそこだ。
今の自分のように、最後に一人ぼっちになってしまったら、と。
眉根を寄せて考え込む姿勢の少女に、メリーは不敵に笑った。
「それから、色白で青い目の超絶美少女でモグラのポシェットを持っていれば完璧ね!」
それを聞いた少女は、メリーを見る。
彼女の言う特徴は、まるで彼女自身を言っているようだ。自分が統治者になれば、大丈夫だと言わんばかりの言葉。
その言葉に、少女の頬が弛む。
少女は、人がいても大丈夫なのだと言って欲しかったのかもしれない。
●暖かい世界の『可能性』
「ここは、静かに凪いで星が明るくって、不思議な心地よさがありますね。なんだか、眠る前の安寧みたいだ」
「……はい。もう誰もいませんから」
少女は、寂しそうに夜の空を、地上を見つめる。そこにはもう生命の光はなく、静けさだけが横たわる。
その隣でリュカシスが同じように世界を見つめる。
「どんな世界ならうまくいくのでしょう」
上手くいった世界を少女は知らない。自分がいるこの世界のことだけしか知らない。
きょとんとする少女にリュカシスは続ける。
「可能性、って難しいけれど。幸せな世界に育ちますように、お話をしに来たんです」
「どうすれば、良いのですか?」
「えっとね、ボクの生まれた国では力が強いことが一番良いとされていて、一番強い人が一番偉いんです。だからボクも、強くなることを一番に考えてしまうけれど……勝ち負けのみで考えるなら、どうしても勝つことのできない人が出てしまうでしょう。勝ち続ける、それだけを望んだら……淘汰された先には何があるんだろうって考えるんだ」
少女の世界は環境がずっと変わり続けた。生まれた生命は変わり行く環境に適用しようと進化し、適応できない弱いものが死んでいった。
そして人間が生まれ、文明を築き、争い合って滅びを加速させた。
だから、少女に答えられるのは、淘汰の先には滅びがあるということくらいだった。
「……そんな環境に身を置くボクが申し上げるのは少し違うかもしれないけれど、どうか力のみを友とするのではない世界を育んでください。これから生まれる新しい世界が暖かく芽吹きますように。幸せの多いこと、祈っています」
●優しい世界の『可能性』
最後に言葉を引き継いだのは世界だった。
「俺は二十年ちょいしか生きてないから、残念ながら『可能性』とやらを教えることはできない。……いや、いくらかは言えることはあるにはある。だから、これから無責任に色々囁いていくが、まぁ戯れ言の一つだな」
少女はその言葉に首を振る。
無責任だとしても、世界の幸福を知らない少女にとっては彼の言葉も希望の一粒である。
世界は少女の教えてというような表情に頷き。
「まず極論から言ってしまうが、自分が創りたい世界を創れば良い……それだけの話だ」
「創りたい世界を?」
「難しく考える必要はない。何があれば良かったか、あるいは何がなければ良かったのか。そういうモノを一つ一つ思い浮かべて可能性として込めていけば良いんだ」
何があれば良かったのか、それはわからない。
しかし、人間が争わなければこんなに早くに世界は滅びなかった。極論で言えば、人間がいなければ良かったということになるのだろうか。
「そうしてできた世界が長く続く保証はない。だがまぁ、それで良いんだ。長く続くかどうかはそこで生まれたやつらにかかっている、深く悩まずに込めたい思いを込めれば良い。大丈夫、次の世界の人達を思いやる優しいお前が創る世界だ。どんな風になったとしても、それが悪いモノであるはずないさ」
少女は、本当に無責任だと思った。
それでも、次の世界が悪いものではないと言ってくれることを嬉しく思った。
「ありがとう、ございます」
それを微笑んで伝える少女に、世界があっと声を上げた。
「どんな世界になるにしろ甘いものがある所にしてくれよ」
「え、何でですか?」
「そんなの、俺が好きだからだよ」
そう答えた世界に、少女はキョトンとした後、くすくすと笑った。
「それと、名前を考えてきたんだ。お前はデュナミスから取って『デュナ』、生まれてくる世界は『エネルケア』なんてどうだ?」
「私の名前……?」
それはそのままこの世界の名前となる。
初めて世界に付けられた名前。もう呼ぶ人はいないけれど。
「私はデュナ……新しい子は、エネルケア」
それがとても嬉しかった。
「ありがとう、ございます。凄く嬉しい……」
●終わる世界の片隅で
唐突に来た訪問者が帰ってしまった塔の頂上で、少女デュナは一つの光を抱いていた。
それは新しい種。新たな世界の礎となる自分の子。
「エネルケア、貴方の名前はエネルケアですよ」
抱いていた光の種をそっと降ろし、一つ撫でた。
顔を上げれば白む夜。端の方から夜が明けて消えていく。
少しずつ世界が消滅していくのをデュナは優しい表情で見つめていた。
多少の後悔はあれど、次に繋ぐ世界にできることは全てしてあげた。……ならば、それで良い。
デュナは空の白に手を伸ばす。
そして、世界はそっと音もなく消えた。一粒の光を残してーー
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
皆様、初めまして。灯火(とうか)と申します。よろしくお願いします。
今回はシリーズでやろうと思っている物語のほんのプロローグです。お目に留めていただけると幸いです。
●シチュエーション
消え行く世界で創造主と語る物語。時間は夜です。
創造主である少女がいる場所は世界で唯一残っている塔の頂上。眼下に大地はなく静かな海が揺らめいており、空には雲がなく夜闇を埋め尽くすほどの星々が瞬いている。
塔の頂上は天井はなく、また下に降りる階段もない。
●出来ること
少女と話す。
『こんな世界だったら長く続くだろう』と言った話や『どんな世界だったら幸せになれる』など、思い思いに彼女に話してあげてください。
また、彼女から今の世界のことを聞いて、改善点を教えてあげるのも良いでしょう。
それから少女には名前がありません。付けてあげることもできますし、新しく生まれてくる世界の名付け親になることもできます。
●皆様へ
初めてのライブノベルです。
皆様の心に残るような物語を紡いでいけたらと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。
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