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シナリオ詳細

<青海のバッカニア>誘いの詩を祓うのは

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔の歌声

 海洋の小さな港街。そのとある小さな酒場。
 荒くれ者達が多く集うこの場所の片隅で、小さな噂話が上がっていた。
「なぁ、知ってるか」
「何をだ?」
 ここに存在する人は、誰もがこの大海原にかかわる者達。
 漁師であったり、商人であったり、はたまた海賊であったりとその出自はまちまちだが、地に足をつけたこの場所では特にそれらを詮索することもなく、海の情報を交換するのがここの小さなルールの一つだった。
 そんな場所で彼等が交わす噂話、その一つでもちきりなのが……。
「海の墓場。挑む奴らがいるんだってよ」
「おいおい、どこの馬鹿だ。胴で歌声に魅かれて海の藻屑だ」
 海の墓場。ここから沖に進んで数日。海の墓場と呼ばれる海域が存在している。
「確かに、セイレーンはやべぇけどもな……」
 セイレーンと名付けられた美しい人魚。近くを通った船を船員事その魅惑的な歌で魅了し、そして自らの傍で海に沈めて自らの糧とする。
 そんな怪異の被害が続き、数多の船が沈んだことで亡者が集いだして危険な海域となったそこは海の墓場といわれるようになった。
 と、言うのが今回の情報であり、この港で最も危惧されている危険である。
 だが、噂話をする男はそのセイレーンよりも恐ろしいものがあると言いたげだ。
「ローレットの奴らが来るんだってさ」
「……マジかよ、こりゃあ期待できるな」
 ローレット。他の所ではどんな扱いを受けているのかこの港では定かではないが、少なくともとてつもない連中が集う一団であるという突拍子もない噂だけが響いている。
 それだからこそローレットが来る、という噂だけでこの港の人々は皆口々に新しい航路ができるだのなんだと、喜びの声が上がっていた。
 事実、この寂れた港も航路が広がれば大号令に乗じてこの港町もまた発展して行ける。そんな淡い希望を抱きだしたのだろう。

 ローレットのイレギュラーズに、彼らは勝手ながら希望を抱いていた。


●海の墓場

 ラ、ラ、ラ、ラ、ラ。
 歌声が響く。聞いているだけで聞き惚れてしまいそうな歌。
 そのまま海に引きずり込まれてしまいたくなる歌。

「おいで、おいで、私の元に」

 はっきりと聞こえる。誘いのウタ。
 海の墓場。船の墓場ともいうべきだろうか、無数の船の残骸が存在する場所で、海上に突き出した岩場に腰かけてそのウタを響かせる。
 上半身は人。下半身は魚。物語でよく目にする人魚そのものの姿かと思えば、その腕は禍々しい鳥類を思わせる翼と鉤爪を供えた腕。

「私と一つに、一つになって歌いましょう」

 彼女の歌に呼応するように、周囲の船の残骸から禍々しい気配を感じ取る。
 無数の被害者、海に沈んだ成れの果てから溢れだした何かが形となり、巨大な怨念を纏った亡霊となって彼女の周囲に付きまとう。

「貴方達も、如何?」

 急に音量がゼロとなり、動きが止まったかの様に周囲の空間が凍てついたかのように止まる。
 君達、イレギュラーズへの問いかけ。その返答を待つかのように彼女は動かない。
 だがここであの怨霊になる必要などないだろう。だからこそ言ってやる返事は一つだ。
 イレギュラーズ達は戦いに臨む。この歌を終わらせ、新しい海を切り拓くために。

GMコメント

 続けてシナリオを用意させてもらっています、トビネコです。
 セイレーン。海の美人といえば引きずり込まれて……というと鬱々しいですが、今回は正面からぶっ飛ばしてやりましょう。
 単純に悪くてやばい奴です。遠慮する必要はありません。
 それでは依頼の参加、お待ちしております。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況について
 海の墓場といわれる海域。比較的浅い海域ですが、OPにでた港町からは離れた場所に存在しています。
 残骸になった船、幾つかの岩場があり狭くはありますが海上に足場もあります。また、乗ってきた船も大きくはなく、帆船程度の機動性ではありますが利用できます。

●敵
 討伐対象となるセイレーンと、それを守る大型の幽霊が相手になります。

 ・セイレーン
 海の墓場を作り出している魔性の存在です。
 美人な女性の上半身、鮮やかな魚の下半身。そして禍々しい翼と鉤爪の腕を持ち、その歌声は誘惑とアンデットを操る力を持ちます。
 非常に狡猾で、空中でも海中でも戦闘を行えます。

 攻撃方法はその鋭利な鉤爪による近接戦と歌による様々な攻撃となります。
 歌の種類は様々で、精神に作用して誘惑を行い同士討ちを行わせるもの、歌を単純な音波兵器として放つもの、歌を用いてアンデットを強化するものに分けられます。
 この歌は音を響かせるものではなく、魔法や呪いの類に近いものであり、海中でも響かせることが可能となります。

 相手の苦手な戦場を選んで立ち回る性質を持ち、正面切って挑む人は苦手な戦場を選ばれる相手である為、非常に注意しなければなりませんが逆にその性質は利用できるかもしれません。

 ・大型幽霊
 無数の幽霊が集合した存在です。セイレーンの歌声と指示に合わせて行動します。
 攻撃方法は怨念による呪殺、間接攻撃が中心となります。

 最も厄介なのはセイレーンに惹かれてここに集った存在であり、セイレーンを致命打から守ろうとその身を挺してかばいます。
 また特性上あまりセイレーンから離れることはないため、引き離すことは出来ませんが、逆にセイレーンから離れれば追ってくることはありません。
 攻撃事態は直接攻撃も通じますが、手段を講じなければ先にこちらを撃破する必要があるでしょう。


 依頼の説明は以上となります。
 非常に厄介な相手ですが、何とか撃破していただければ幸いです。
 無事の依頼達成をお待ちしております。


●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

  • <青海のバッカニア>誘いの詩を祓うのは完了
  • GM名トビネコ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月18日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フロウ・リバー(p3p000709)
夢に一途な
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
シラス(p3p004421)
超える者
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
桐神 きり(p3p007718)

リプレイ


「違うのね、貴方達は歌わない」
 海賊船『悪魔の呼び声号』に乗船してやって来たイレギュラーズの姿を見据えたセイレーンは一言呟くと同時にその翼をはためかせ、空中へと飛び上がる。
 その一連の動作の中でも彼女は歌う。誘いの歌を、滅びの歌を。
 場数を踏んできたイレギュラーズでなければ、この攻撃とすら彼女が見なさない歌で誘惑されていただろう。
「この海域の全てを返してもらいます」
 飛び上がったセイレーンを見上げ、『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)が宣言する。
 海洋の大願と平和の障害となるなら排除する。ついでに自分の夢の為にも。
 そんな彼女をあざ笑うかのように、セイレーンは歌を歌う。優しい誘いの歌から、悲しみの歌声に。
 聞いているだけで体から力が抜けていく、そんな耳障りともいえる歌がフロウと周囲のイレギュラーズ達に襲い掛かる。
「マジでやべぇな。こんなに辛いのに聞き惚れちまいそうだ」
 くらりと体を揺らしはするも『幸運と勇気』プラック・クラケーン(p3p006804)は歌をはねのけ、セイレーンを見上げた。
 そして、編み込むのは魔術の行使。
「俺の新技、とくと味わいやがれ! 鳥野郎!」
 セイレーンの足元の海が突如として揺れ動く。
 ただ揺れるだけではなく、海面は大きく、大きく揺れ動き、次第にそれは大きな津波となってセイレーンへ襲い掛かる。
「……!」
 海を自在に泳ぎ回るセイレーンであっても、魔力によって作り出された津波に囚われてしまえばその動きを封じられ、まともな動きは取れなくなる。
「容姿も声も綺麗だけど……内面の醜悪さは隠しきれてないわね。とても耳障り」
 我慢ならないといった様子で『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701) が廃船から飛び出し、空中へ飛びあがる。
 空を駆けるというよりも、自身が弾丸となったかのように紅い炎と共にアンナがセイレーンへ肉薄していく。
 そんな彼女を妨害しようと幽霊が動きを見せるが、行動に入るよりも先に幽霊の巨体は後方へと仰け反った。
「させねぇよ、やれアンナ!」
 『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)の放った青い衝撃が幽霊を吹き飛ばすと同時に、アンナの剣の切っ先が届き炎が破裂し、海上に紅い炎の薔薇が咲く。
 炎の衝撃に巻き込まれたセイレーンはその羽根を焦がしながらくるくると海上から海中へと落下する。
「やった……? いや、違う!」
 こんな簡単に倒せるわけがない、あれは衝撃を殺し、逃げたのだ。
 そのまま海中に追いかけようとするアンナだが、それよりも早く詩が響く。助けて、誰か、誰か。
「……っ」
「っとにやべぇ。今のもガチめに聞き惚れちまうとこだった……!」
 プラックが自分の顔を振り、歌を振り切ると今度は『氷結』Erstine・Winstein(p3p007325)がセイレーンの前に立つ。
「貴女の相手はこっちよ。苦しめる詩の歌い手さん」
 煽るように、引き付けるように口上を上げる。海中に潜むセイレーンはそのままErstineに仕掛けようとしているのか、音色があたりに響きだす。
 だが、セイレーンの意識の外から仕掛けるものが一人いた。
「海を乱す者をこれ以上蒼き海に入れさせはしないんだぞ!」
 セイレーンが海中へと落ちると同時に海に飛び込み、追いかけていた『湖賊』湖宝 卵丸(p3p006737)がドリルを構えて完全な死角から突撃する。
 うねりを上げるドリルが海中で渦を引き起こしながら、すれ違いざまにセイレーンの胴を抉るも、このまま攻撃され続けてはたまらないといわんばかりにセイレーンは海中から海上、そして空中へと飛び上がる。
「ふっふっふー、でてきましたね?」
 飛び上がったセイレーンを見上げて桐神 きり(p3p007718)が待っていたといわんばかりに笑みを浮かべる。
「さくりと討伐させていただきましょうか!」
 きりが腕を一振りすれば、紅い一閃が空中に生み出され、それが刃となって空を奔る。
 獲物へと真っ直ぐ飛来する刃はセイレーンの翼を引き裂く。
「綺麗な歌だけれど、人々を苦しめる為の歌ならば……これ以上野放しにする訳には、行かないわねっ!」
 ふわりと宙を踏みながらセイレーンに肉薄したErstineが武器を振るう。翼を絡めとり、そして引き裂く為の棘の鞭と化したそれが凍てつく旋風を放ちながらセイレーンへ襲い掛かる。
 棘と冷気に包まれ、翼が凍てつきだす。必死に爪を振るって凍てつく体を解き解し、爪で鞭を引き裂くもセイレーンの動きは確かに鈍っていく。
「まだまだいきますよー! ……って、うげ」
「……っく!?」
 効果あり。このまま続けて仕掛けようとしたが、きりとErstineの体が突如として重くなる。
「良くないねェ。状況もこっちが悪い」
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)は戦況を見てどうしたものかと思考を巡らせた。
 幽霊を抑え込み、セイレーンを海上に張り付けて立ち回ろうとしていたが、思った以上に相手の動きが狡猾で何人か歌によって惑わされている兆候も見えている。
「リバーの方。しばし幽霊は頼みますよ」
「……意外と引き剥がすのにてこずりましたが。わかりました」
 一度シラスによって吹き飛ばされた場所からまだ大きく移動していない幽霊に対して武器商人もまた蒼い衝撃を打ち放し、その距離をさらに引き剥がす。
 これでようやく妨害も入りづらい距離となっただろう、そのまま仲間達の元へ向かう武器商人と入れ違う様にフロウはセイレーンと幽霊を一直線で区切るように立つ。
 怨念やらによる攻撃はされてしまうかもしれないが、直接的に攻撃の手を防がれることはこれでなくなった。
 魔力障壁を展開し、相手の動きに備えつつもフロウは幽霊へと肉薄する。
「引き寄せられて、そして海に……悲しいものですね」
 彼女の持つタクト型の魔法媒体。それに神聖な力が溢れんばかりに集まったかと思えば、衝撃波となって幽霊へと襲い掛かる。
 本来であれば殺さず倒す為の力だが、相手は死者。その霊体である以上、浄化し祓う力へとそれは転じて強烈な衝撃と共に幽霊の半身を吹き飛ばす。
「安らかなる眠りを」
 今の一撃で、幾ばくかの犠牲者は浄化されただろう。しかし、まだ霊体は集まり形となる。
 戦況もようやくイレギュラーズに傾いた。反撃は、ここからだ。



「幽霊は引き剥がしてくれたか、ならもう一度」
 武器商人とフロウが大型幽霊をセイレーンから大きく引き離してくれたおかげで、セイレーンにのみ攻撃を集中できる状態が作り出された。
 であれば今度こそ決定打を仕掛けるべく、再びプラックが津波を引き起こすべく術式を展開する。
「プラック、避けろ!」
「っ! ぐぁっ!?」
 だが、その術式は完了よりも先に妨害された。
 シラスの叫びに咄嗟に反応し、身を翻せばアンナの剣がプラックの腕を軽く裂く。
「助け……ないと……」
 うつろ気な瞳で剣をとにかく近くの相手。傷ついたプラックに振るおうとしている。
「おいおい……」
 それ一つで済めばいいのだが、プラックの背後にはセイレーンの姿も見える。どうやら、嫌なタイミングで狙われている様だ。
 どう対処するか。それを考える間もなく両者は一気に仕掛けてくる。
「クラーケンの旦那。セイレーンに集中しなァ」
 その窮地を救ったのは、アンナとプラックの間に割り込んできた武器商人。身を挺してアンナの剣を肩口で受けるも、そのまま反撃に『破邪』の術式を放つ。
 穢れあるものを破る聖なる術式がアンナに直撃すると同時に、衝撃とその特性がアンナに正常な思考を取り戻させる。
「……っ。しまった、大丈夫?」
「大丈夫さァ。だが、こう言った状態を戻す手段はない。後はもう、一気に仕掛けるのがいいだろうねェ」
 幸いにも誘惑されたのはアンナだけ。というよりは攻撃直後の隙を狙われたのだろう、それだけ自分を敵視していたのだろうが今は海賊船から飛び降り、廃船を足場に飛び回るプラックを追いかけるセイレーンを見据え直す。
「次はもう、迷わない」
 心を落ち着かせるように自分に言い聞かせると、迷いが晴れていくように感じてくる。
「クッソめんどくせぇ奴だが……いいぞプラック、そのまま誘導しろ」
 シラスは銃口の照準をセイレーンに向ける。だがすぐには仕掛けない、仕掛けるタイミングというものは得てしてあるものだから。
「っしゃぁ! ここだろ!」
 廃船の上をプラックが駆け抜ける。海上ぎりぎりで爪を振るいながら追いかけてくるセイレーンに対して回避しながら逃げるだけだが、これは逃げではなく、誘導だ。
「ドンピシャなんだぞ! 喰らえ音速のドリルの一撃を!!」
 海中から海上へ飛び出しながらの卵丸の一撃。高速の不意打ちによるドリルがセイレーンの胴に突き刺さる。
 うねるドリルがセイレーンの体を抉り、喰らい取りここにきてセイレーンに大きな一撃が対に咥えられた。
 痛みに苦悶する彼女は爪を振るって卵丸を弾き飛ばすが今度こそといわんばかりにプラックが術式を展開する。
「だが、もう逃がしはしねぇぞオラァ!」
 卵丸が弾き飛ばされたタイミングなら彼を巻き込むこともない、うねる津波がセイレーンを飲み込みその地点に張り付けにする。
「助けて、痛い、誰か」
 セイレーンの誰かを誘惑する誘いの歌。しかし、それは響くことはない。
「いいや、今からテメーが上げるのは苦痛の呻きと断末魔だぜ」
 銃弾がセイレーンの口内を撃ちぬく。シラスの一撃がその誘いの詩を止め、セイレーンの悲鳴に切り替えた。
「まだまだ! 一気に仕留めるぞ!」
 彼の攻撃はまだ終わらない、セイレーンの側面にはいつの間にか伸びたシラスの影。
 それは鋭利な刃となってセイレーンの翼を裂き、追撃といわんばかりにシラス本人から無数に弾丸が浴びせられる。
「潜ってなければこっちのものです!」
 容赦のない銃撃が浴びせられている横から紫の斬撃がセイレーンを襲う。別の翼を引き裂かれ、飛行すらままならなくなり始めたセイレーンを見据えるのは左目を紫色に輝かせたきりの姿。
「そして本命!」
 きりの左目。『偽神の瞳』が妖しい紫から眩しい赤色へと転ずる。
 それは彼女の振るう呪力の性質が変化したことを告げるもの、暴威を示す赤が剣閃となり、紅い衝撃波がセイレーンへ直撃し、その体を大きく引き裂く。
「誰かを癒す為の歌だったのならきっとよかったでしょうにね……」
 セイレーンよりも高い位置を取り、凛と構えたErstineが悲しそうに、そして虚しそうに告げた。
 手の中で鞭が大きな処刑斧へと転ずる。そしてただ単純に、冷気と共にそれを振り下ろす。
「あ、あ、あ」
 純粋に重く、冷気によって凍てついた体に斧が振り下ろされれば、翼もろとも腕が両断される。
 まともな声ももう上がらない。セイレーンの呪歌はここでもう潰えていたが、完全にとどめを刺すまで戦いは終わらない。
「終わらせましょう。あそこで貴女が縛り続けている人たちの無念を晴らすためにも」
 アンナの構えた剣に紅が宿る。一気に踏み込み舞い踊るような剣戟がセイレーンの体に次々と穿たれ、僅かな声も途絶えていく。
「海洋の未来に、貴女の存在は不要よ」
 決別するような一言と共に、アンナの剣が凍てついたセイレーンの体に突き刺さる。
 そして次の瞬間、紅い炎が薔薇となり、そして海に散るように霧散した。
「……終わったか」
 セイレーンの姿がないことを確認し、シラスは一息つく。
「あっちは大丈夫なのか?」
 卵丸はふと、気になって大型幽霊と立ち回る二人を見た。
 大型幽霊はセイレーンを失ったことで在り処をなくしたのか、暴走するように暴れ出しまだこの世界には残り続けている。
「あっちは片付いたみたいだねェ。こっちも、もう少しかな?」
 武器商人はフロウを援護するように破邪の術式を撃ち放つ。一撃で幽霊の腕が吹き飛ぶも、また形となって復活する。
 余程、ここで被害にあった者達は多かったのだろう。しかし、その再生が遅れているのは過半数の幽霊の浄化が終わったという事を示していた。
「……少しお願い」
 魔法衝撃を展開し、幽霊の一撃を受け止めたフロウは武器商人にそう一言告げる。
「わかったよ、リバーの方」
 決定打を与えられるのは自分よりもまだ体力に余力を残す彼女であることは間違いない、だからこそ武器商人は幽霊を見据えて引き付けようと意識を切り替える。
「さァ。アンタらどう思うかい?」
 囁くように、幽霊に向けて言い放つ。 そう、"アレ"を存在させてはいけない。
 "アレ"が居なければあの歌も戻ってくる。だから、だから。
 猛るように幽霊は武器商人へと直進する。
「後は頼んだよ」
 フロウが頷く。
「――正しき導きの名の下に、生者に慈悲を、死者に安寧を」
 聖職者でなくとも、死してなお囚われ、そして縛られてしまっていた者達を不憫に思い、そして正しく弔うという気持ちは沸いてくる。
 それは彼女の中では義という強い想いとなり、そして今浄化の力となって振りぬかれる。
 光が幽霊に触れると同時に、強烈な浄化の力となって幽霊たちを吹き飛ばしていく。
「そぉら、こっちも持っていくといい」
 合わせて放たれた武器商人の破邪の術式も合わさり、光が最大限に高まったかと思うと幽霊達は一体残らずその場からいなくなっていた。
「おーい! 大丈夫か!?」
 そんな二人の元に、海賊船を操るプラックの声が聞こえてきた。余程心配していたのだろう、自分の体力がないのにその顔にはずいぶんといい笑顔が浮かべられている。
「何だか凄く悲しいわ……」
 合流したイレギュラーズ達を海洋の陽気が照らす中、Erstineはセイレーンの詩を思い出してそう呟いた。
 純粋に綺麗で誘うような者でなければ、もっともっと聞きたい人もいたはずなのに、結局そうはならなかった。
「……もっといい詩が作れるところになっていくといいんだぞ」
 そんな彼女を慰めるかのように、卵丸もまたセイレーンの詩を思い出しながら言っていた。
「でも……これで海洋の一助になるといいのですね」
 結局は、この詩を祓ったのはこの海に生きる人々の為。悲しみを持ったまま帰ってはいけない。
 セイレーンに特に感傷は見せずに、フロウは犠牲者となった人々に静かに祈りを捧げていた。
 それはイレギュラーズ達皆がそうだった。各々の方法で祈り、あるいは犠牲者を見送り、思い出す。
 天義式に十字を切るアンナの行いは手向けとなったのだろうか。
 それは定かではないが、辺りを照らす陽光はとても暖かいものだった。

成否

成功

MVP

武器商人(p3p001107)
闇之雲

状態異常

なし

あとがき

セイレーンの詩は海へ消えました。
誘いの詩、とても美しいものですがその本質は邪悪なもの。誘うものほど美しいというのはいつの世も変わらない物なのでしょうか。

ともあれ無事に依頼は完遂です。
皆さま、お疲れさまでした。

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