シナリオ詳細
<青海のバッカニア>鉄帝軍将校ショッケン・ハイドリヒ
オープニング
●敵国侵入警報
時は現代大号令の冬。
二十二年ぶりにイザベラ女王陛下より発令された外洋遠征令に向け、ネオフロンティア海洋王国全体が活気づいていた。
ほかならぬローレットもまたその活気に乗っかるようにして大海原に繰り出し、数々の海賊やシーモンスター、そして敵国私掠船の撃退を続けていた。
この日もまた、海洋海軍の小規模艦隊に同行し、違法な船がいないかの偵察に出ていた。
「いやあ、なんだか退屈な仕事ですみませんね」
晴れたひの甲板。ビーチチェアなど並べた木目のデッキにくつろいで、ネオフロンティア海兵隊に所属する甲羅戯艦長はスキンヘッドの頭をなでながら笑った。
「僕ぁ家柄こそいいんですが軍事の才能がなくってね。代々軍人の家系だってんで軍に入ったんですがろくに手柄もあげられませんで……こうして領海のすみっこの見回り任務ばかり与えられてるんですよ」
いやあ参った参った。などといいながら、甲羅戯艦長の表情は穏やかだった。
部下たちもだいぶホワイトな環境で働いているらしく、デッキブラシで掃除をする最下級の兵士でさえ艦長の様子を微笑んで眺めていた。
ローレットが今回与えられた仕事はこの甲羅戯艦長の率いる『亀姫号』の領海偵察任務同行依頼……であったが、実のところはたった二隻しかない『名ばかり艦隊』の甲羅戯に小型船を数隻ばかり同行させてせめて格好をつけようというだけの依頼であった。
名ばかり艦隊あらため形ばかり艦隊である。
それでも甲羅戯はこの仕事をだいぶ気に入っているらしく、部下たちと和やかに領海の監視を行っていた。
「まあ気楽に構えてください。監視任務なんていいますけどね、ここ数年他国の船なんて見ませんし、万一見かけても声をかければ帰って行くんです。何人かは顔見知りでね、『しょーがないなあお前は』なんていってこっそり帰してやることもしばしばですよ。
敵が襲ってくるなんでまずないですし、戦うことなんでもっとありえませんよ。ははは」
などと笑いながら隣に置いた落雁(艦長の好物である)をつまもうと手を伸ばした――途端。
爆発。
船は大きく揺れ、甲羅戯艦長は椅子から転げ落ちた。
「な、なんだ!?」
「て、て、て……」
部下の一人が双眼鏡を手にカタカタと震えた。
「敵襲ですぅ!! 艦長、見たこともない船がぁ!」
●鉄帝軍将校ショッケン・ハイドリヒ
真っ黒な小型船が5隻。
そのすべてに高性能なアサルトライフルやミサイルランチャーを装備した男たちが乗り、こちらに武器を構えていた。
「なあ将軍、奴らは沈めちまっていいんだろう?」
『神秘の矢』がつがえられたボウガンをなでて、すきっ歯の男が笑った。
「当然だ。あの稚魚どもは『大号令』とやらで領海を無理矢理増やそうとしているらしいが……ここらへんで世界の覇者が誰かを教えてやらんとな」
「へへ。連中にとっちゃ自分の領海のつもりなんだろうが、鉄帝からすりゃここいらは鉄帝の領海ですぜ。奴らを見つけたら沈める。こりゃ道理ってもんでさぁ」
宝石のようなナイフを体中に装備したひょろながい男がニヤニヤと語り始める。
「幻想にのらりくらりとかわされちゃあいるが、鉄帝の軍事力は世界一だ。
平和ボケして海をちゃぷちゃぷしてる海洋の連中なんざ簡単にねじ伏せられる」
「やめな。ンなしょぼい考え、ショッケン様はとっくにわかってるよ。見てんのはもっと『先』さ」
二丁拳銃を水平に構え、海の向こうにある甲羅戯艦隊へと向ける金髪の女。
「海洋が大号令を発したタイミングでウチらが横っ面を殴りつける。するとどうなる?
諸島をなんとなくのどかに統治してた海洋王国なんざ簡単にひねり潰せる。そりゃ国ごと潰すこたぁできないが、大号令を撤廃するくらいのことはできるだろうさ。そんな余裕ございませんよってね」
「その手柄で軍事力の重要性を主張。『例のスラム』もローラーでべちゃん、ってか。うへえ、お人が悪いや」
笑う部下たちを背に、ショッケンは軍帽のつばをつまんで顔のしわを深めた。
「奴らをできる限り挑発してやれ。手始めに『名ばかり艦隊』を血祭りに上げてやれば、海洋王国も慌てふためくだろう」
●艦隊迎撃命令
「なんだありゃあ。確かに見たことない船だし……海賊にしては装備が整いすぎてる。あれじゃあまるで軍人だ」
くさっても軍人の家系。甲羅戯艦長は部下から受け取った双眼鏡で相手の船を観察すると、急いで空に海鳥を飛ばさせた。
が、すぐに空気を切り裂くボシュンという音が海鳥を撃ち落とした。
「観測ファミリアーが撃墜されました!」
「誤射ではない……ということか……」
海鳥を撃ち落とした攻撃はいわゆるアルキメデスレーザーであった。
光を集めて放ち、熱光線によって相手を塵にかえるという鉄帝古代兵器のひとつである。
熱光線を発射した男は……見るからに鉄帝軍人らしい軍服を着ていた。
男がメガホンを手に、こちらに呼びかける。
「我々は鉄帝国の命を受けた『民間船』である。海中に沈んだ古代遺産のサルベージを目的としている。これは我らが国家の許しを得た行為である。邪魔立て無用に願おう」
「何が民間船ですか!」
こちらも負けじとメガホンを手に取る甲羅戯艦長。
「それだけ武装しておいて民間の船だなんて言い分が通りますか! ここは女王陛下の領海です! 即刻立ち去ってください!」
「ならばその女王陛下とやらに訴えかけるがいい。世界的軍事国家に喧嘩を売ってまで、女王陛下サマが船数隻ごときに動いてくださりますかな? 第一この海域は鉄帝国のものだと主張したはずだが?」
「なっ……」
あまりの態度に硬直し、メガホンを取り落とす甲羅戯艦長。
相手の男は……にやりと笑って魔術動力で浮遊するアルキメデス砲を左手とともにかざした。
「貴様ら『名ばかり艦隊』ごときに止められるものなら止めてみろと言っているんだ。
私が名はショッケン。鉄帝軍将校ショッケン・ハイドリヒ。
貴様ら稚魚ごときに譲る領海などないわ! 海に沈んで魚の餌となるがいい!」
「言うに事欠いて……!」
亀姫号と並んでいた味方の船『銭亀号』が急速転身。鉄帝の艦隊めがけて突っ込み始めた。
「や、やめなさい! 危険だ!」
「行かせてください! 艦長をコケにされて黙っていられません! 総員装剣、突撃準備!」
銭亀号の艦長はマスケット銃をとり、敵船で挑発的にふんぞりかえっているショッケンの頭へと狙いをつけ――た瞬間、艦長の手首が吹き飛んだ。
「な――!?」
けむる銃口。敵船に乗る二丁拳銃の女から放たれたものだ。
続いてボウガンを構えた男が翼を広げて飛行。打ち込んだ火矢がたちまち燃え上がり、船のあちこちを炎上させていく。
兵士たちは自分たちが攻撃するまえから壊滅寸前。
なんとか船をぶつけてやろうと操縦桿にかじりついたが、ジェットパックを用いて飛び込んできた全身ナイフだらけの男によってたちまち八つ裂きにされてしまった。
吹き上がる血をバックに、ナイフを何本も指に挟んで構える男。
「う、撃て!」
兵士たちが身にかかる炎を振り払いながらもナイフ男へ発砲。
しかしナイフ男は口笛混じりに散歩するかのように歩き、飛来する銃弾を片っ端からはじき落としていった。そのうち一発ずつを各兵隊たちに打ち返し、さらに一人の首をはね飛ばす。
悲鳴と血と炎が、銭亀号を染め上げた。
「あ、あ、あああ……」
甲羅戯艦長は膝をつき、わなわなと震えた。
「艦長、まずい、逃げましょう!」
「だ、だめです」
震えながらも、甲羅戯艦長は首を振った。
「僕は、家柄だけでここまで来ました。何の才もなく、何の成果もあげなかった。けれど、だから、なんというか……与えられた『役目』だけは、こなさなくてはならないと、思う」
体は震えたままだが、しかし甲羅戯艦長は立ち上がった。
「こ、ここは女王陛下の海です。ぼ。僕は、逃げるわけにはいかない」
そして。
あなたへと、振り返る。
「助けて、もらえませんか」
- <青海のバッカニア>鉄帝軍将校ショッケン・ハイドリヒ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年12月07日 22時30分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●激突までのX秒
「い、いやあ……まいったな……」
甲羅戯艦隊の副官をつとめていた男は、軍帽を脱いであたまをかいた。
なにげない所作のつもりだったようだが、指はふるえ髪をかえってぼさぼさにするばかりである。
はじめは楽しいクルージングのはずだった。
ローレットから七隻ばかりの小型船を都合してもらって、わあい史上初の九隻艦隊だと甲羅戯艦長がはしゃいでいたのはついさっきのことのように思える。
だというのに、随伴艦の銭亀号は無人の船となり、つい昨日まで隣の寝台で寝ていた仲間が死んでいる。
数合わせ程度にと呼んだ増援船員たちも、この事態に唖然としているようだった。
ばさばさと翼を上下させ、羽根を散らす『慈愛のペール・ホワイト』トリーネ=セイントバード(p3p000957)。
「鳥さんが消えたんだけど!?
あれから逃げたら駄目なんて、軍人さん怖すぎよ!」
「そ、そう言われましても……はは……」
甲羅戯艦長は引きつった苦笑を浮かべていた。
誰にだって立場はある。ある日街の一角で目に入っただけの見知らぬ誰かにだって守るべきものがあり、人生や未来があるものだ。この甲羅戯艦長にも、退けないだけの理由や背景があるのだろう。
トリーネはそれらを察して、こけぇと息をついた。
「でもまあ、艦長さんにお願いされたら断れないわね! ここは聖鳥の意地を見せるわ!」
羽ばたきながらジャンプし、倒れたビーチチェアの上に乗る。
コケーと高く鳴いたことで、おびえていた船員たちの気持ちが引き締まった。
引き締めた気持ちを更に堅くするように、『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)が立てかけていた巨大な盾をつかみ取り、ズンと木目の甲板に立てる。
「任務了解した。この姫亀号をフラッグシップとして、甲羅戯&R(ローレット)艦隊の戦闘を開始する。
敵を仮に鉄帝ショッケン艦隊としよう。セララ、クロバ、沙月はセララのドルフィンコメット号に乗船して敵戦力の破壊を。エクスマリア、天十里、ワモンはその遊撃だ。マルクは自分の船でサポートについてやれ。
そしてトリーネとレイリーは俺と一緒に姫亀号に残って艦長たちを守るぞ」
エイヴァンはてきぱきと指示を送ると、アックスガンの装填口に氷の弾丸を装填。側面部分を操作したセーフティーを解除した。
「僕らは……」
おそるおそる訪ねる甲羅戯艦長に、エイヴァンは顎をあげてみせる。
「指揮権を俺に移譲しろ。助けを求めたのはそっちなのだから、俺の指示にも従ってもらうぞ」
「そ、それはもちろん。現作戦が終了するまでの間、艦隊指揮権をエイヴァンさんに移譲します。で……命令は?」
「いいか、命は粗末にするな。
攻撃することを止めはしないが、不用意に敵視は取るな。
必ず遮蔽物に身を隠せ。
危ないと思ったら躊躇うことなく俺を盾にしろ。以上だ」
要約すると、姫亀号の甲羅戯以下十名はとにかく船内に隠れてやりすごせという指示である。
「わ、わかりました。けど僕だけは……その……」
「ああ、かまわない」
『背を護りたい者』レイリ―=シュタイン(p3p007270)は両足をホバーモードに変形させると、両腕から増加装甲を展開し始めた。
「弱者を踏み台にして目的を達成するというのは強さではない。
弱者を護り正義を貫くことこそ強さ。
ならば、私は護るために戦うぞ! 甲羅戯艦長殿、あなたもだ!」
フックつきロープを引っかけ、跳躍する『死神二振』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)。
ドルフィンコメット号の甲板へと着地。彼の脳裏に、これまであったいろんな出来事がよぎっていった。
守るべきもの。守られたもの。これからの未来。
それは、クロバにもわかる。いまは、十分すぎるほどに、わかる。
「むざむざ死にに行くなんて馬鹿のやる事だ」
前髪を垂らし、腰に手を添える。
「だが、名ばかり艦隊と言われても自分の舵を切ろうとした……あぁ」
納められた二丁のガンエッジ――アストライアとフラムエクレール。ベルトに固定していた魔力信管を柄の部分に装填すると、二本同時に抜刀した。
「腹をくくれよ鉄屑共。お前らの威勢、ゼロへと還してやる――!!!」
一足遅れて、靴から魔法の翼を広げた『魔法騎士』セララ(p3p000273)が甲板へと着地。操舵手に合図を送ると、抱えて一緒に飛び移ってきた『百錬成鋼之華』雪村 沙月(p3p007273)をすぐそばに下ろした。
「どう見たって軍艦、だよね」
腰のカードケースから最新の魔法騎士カードを引き抜くと、納められていた協力な魔法をアンリミテッド状態で自らにインストールしていく。
そして聖剣ラグナロクと祈りの盾ラ・ピュセルを装備すると、飛行騎士のフォームをとって構えた。
「いくよ、狙いは敵の真ん中!」
「攻撃は最大の防御と言いますし、ね」
沙月は優雅に袖を払うと、両腕を垂らしてリラックスするような姿勢をとった。
それがただの直立姿勢でないことは、彼女の優雅な所作からもわかることだ。見る者が見れば、彼女は撃鉄をおこした拳銃に見えることだろう。
「主導権を渡さないように、攻め続けましょう」
鉄帝ショッケン艦隊が表明した目的は『甲羅戯艦隊の壊滅』である。
もしそうだとすれば、その増援にローレットが関わっていることや、大号令にたいして大々的に協力していることを想定していない可能性が大きかった。
とはいえローレットが政治的に海洋だけを支持した場合ギルドの方針を大きく外れることになるので、ジーニアスゲイム時同様ここでできるのは依頼人の保護と依頼の遂行のみではあるが、こちらが甲羅戯艦隊を生き残らせる手段がそこにこそ生まれてくる。
手段は大きく分けて二つ。
ひとつは徹底的な攻撃を行って、ショッケン艦隊にとって『コストに見合わない成果である』と判断させること。1の利益をえるために2の損害を被るのはおろかだ。
もうひとつは徹底的な防御を行い、『完全壊滅には戦力が足りない』と判断させることだ。ローレット十人が全力であたり工夫をこらせば、姫亀号の船員十人全員を保護しきることも不可能ではない。そうなった場合、ショッケンたちは死なば諸共のかまえで攻めでもしないかぎり完全壊滅はできないだろう。彼らにとっても、前者同様の意味でおろかな選択である。
沙月たちはそのうち前者を後者を7:3の割合でとることを選んだ。
この『どちらも』という選択のとりかたと、その配分がどう影響するかは……やってみなければわからない所だろう。
頭髪を伸縮ロープに変化させて、『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は自分の小型船へと着地。
両サイドに縛って固定していた『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)と『海のヒーロー』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)をそれぞれ甲板に下ろした。
(面倒なこともなく、波に揺られて終えられる仕事と、期待していたのだが、な)
エクスマリアたちが当初受けた依頼は名ばかり艦隊にとりあえず格好をつけるだけの随伴航海。増援として各船に乗り込んでいる船員たちも、戦闘ができないとは思えないが、かといって頼りになるというほどではなさそうだ。
「事実、銭亀号は手も足も出ず、瞬く間に全滅してしまった。単独で戦わせるなら、足止めがせいぜいだろう、な……」
エクスマリアたちの役目は、その間により多くの敵を殲滅し敵側の『損害』を今回の成果に見合わないだけのものにしてやることだ。
相手が仮にプロである場合、見合わないことはしない。
愚かな蛮族や知性なきモンスターなら最後の一頭が死ぬまで襲いかかってくるのだろうが、損得で動ける人間はそれだけ信頼できる。
へんな言い方にはなるが、『敵が信頼できる』のはよいことだ。ある意味、軍事の基本でもある。
「どう考えたって大号令を出した海洋へのちょっかいじゃん!
きっとこの艦隊がここにいるのを狙ってきたんだろうね。
そういうの嫌い。悪者は海に叩き落してやる!」
一方で天十里はシンプルに怒っていた。
手順や立場どうあれ、やろうとしていたことを邪魔されて怒りを感じない者はそういない。
アンダーリボルバー拳銃、夕暮れ。
同じくリボルバー拳銃、チープ・ブック。
彼女(彼)のほこる二丁の愛銃をそれぞれ引き抜いて、同時に撃鉄を起こした。
彼女たちを乗せた船はぐんぐんと進み、敵船団側面へと回り込もうと大きくカーブをかける。
敵船団は中央の姫亀号を狙うつもりのようで、集中して五隻の船を進めていた。
余談になるが、船側面に砲台を固定しているわけではないので陣の形状自体はは騎馬陣形と変わらない。船を近づけて乗り込むことが、彼らにとってもこちらにとっても第一の目的になるのだ。
「何が民間船だ! バリバリの軍艦じゃねーか!
あんな奴らに海洋の平和を壊されてたまるかってんだ! 海洋の平和はオイラ達が守ってみせるぜ!」
ワモンは船の先頭に立つと、背負ったガトリングガンを敵船へと向けた。
「オイラたちは味方の攻撃にあわせて遊撃、だったよな。
弱ってる敵を優先して狙うなら、やっぱセララたちの乗り込んだ船への援護射撃がメインになるのか?」
「順当に考えれば、そうなるね」
「よっしゃあ!」
ヴウン、とガトリングガンをうならせるワモン。
「鉄帝がなんぼのもんじゃー! いくぜー!」
姫亀号を後方に残して突出するセララ・ドルフィンコメット号とエクスマリア号(仮)。
その中央を結ぶようにまっすぐ進むのが、回復支援を目的としたマルク・シリング(p3p001309)ひとりが乗り込むマルク号(仮)である。
「そんなに戦争がしたいのか! あなた達は!」
マルクは闘志を燃やしつつも、しかし頭は冷静に。持ち前の操船技術を生かして自ら舵をとっている。
彼の操縦テクニックはなかなかのもので、想定されていない艦隊戦闘にフラついている仲間の船のちょうど真ん中をぴったりと維持してみせた。
この位置からならどちらの船にも自分の治癒魔法を届けることができるだろう。
「さあ、相手になるぞ鉄帝軍……いや、『自称民間船』ども。
死と破壊を撒き散らすことが、そんなに崇高か! 誇るようなことか!」
対するショッケン艦隊もまた船を進め、ついに……それぞれの船が最初の激突をはじめる。
●損益分岐点までのタイムリミット
船首がすれ違い、船体側面がお互いのボディを削り合う。
地獄の釜めいたごりごりという音が足下から響く中、セララは空中へと飛び上がった。
「いくよみんな!」
「――」
まっさきに敵陣へ飛び込んだのは沙月であった。
美しく走り、美しく飛び、そしてこちらに乗り移ろうとする船員の最初のひとりを空中で掴み、反転させ、頭から敵船甲板へと叩きつけた。
驚いてアサルトライフルを向ける敵船員。
沙月は身を一回転させ相手の胸にトンと掌底を当てると、打ち抜いた衝撃が敵船員とその後方で構えていた船員たちもろとも吹き飛ばしていく。
「今だ!」
敵陣系が乱れ始めた瞬間を狙い、クロバとセララが同時に突撃。
「守りが硬かろうと死神(俺)の前ではただ単に硬いだけだ。爆ぜ千切れろ――!」
クロバはガンエッジのトリガーを引き、爆炎の魔力をまとわせると敵船員めがけて叩きつけた。
切り裂かれ、それでも足りず衝撃で地面に打ち付けられた船員。これを中心として激しい爆炎が周囲へと広がり、咄嗟に防御した敵船員たちはかわしきれずに放射状に吹き飛ばされていく。
その真上をかするように飛行し、回転しながら飛び込むセララ。
「スピニングセララソード!」
自らが赤い魔力の竜巻となり、船員たちをまとめてなぎ払っていくセララ。
彼らの猛攻によってなぎ払われた船員たちはしかしすぐさま起き上がり、アサルトライフルの集中砲火を浴びせてきた。
盾をかざして弾丸をはじくセララ。
「そんな攻撃……!」
効かないよ! と言いたいところだが、セララを持ってしても防ぎきれるか不安を感じるほどの猛攻であった。
流石に鉄帝軍人(仮)。しかしそれは、セララひとりきりならの話である。
「援護する」
エクスマリアが同じ船に伸縮ロープを伸ばしてつかみ、甲板へと飛び移ってきた。
セララへ集中砲火を浴びせる敵船員に背後から襲いかかり、ロープを解除。
代わりに頭髪で作り出した大量の剣や槍を、一気に敵船員の背中に突き立てた。
通常攻撃。しかし相当に強力な通常攻撃だ。
「消耗の大きい者から叩いて敵の数を減らすことを優先、する。いいな?」
「了解ッ!」
天十里は助走をつけてジャンプ、なにもない空中を壁のように蹴ってジグザグに跳ねると、宙返りをかけてから二丁拳銃による射撃。振り返る敵船員の頭を適切に打ち抜いてから着地した。
と同時に『夕暮れ』をホルスターに収め、拳銃と水平になりょうに手のひらをかざす。
そしてピボットターンの要領で回転しながらファニングショットをしかけた。
「逃げるやつは追わないけど、向かってくるなら容赦はしないからね!」
「奴ら、逃げる気はさらさらなさそうだけどな!」
船からの援護射撃を開始するワモン。
ガトリングガンを向けると、はじけイワシ弾を次々にホーミングして打ち込んでいく。
次々におこる小爆発が船員たちを包んでいった。
「わりぃが船を追い返すためだ。おまえらにゃ倒れてもらうぜ!」
「始まったね……」
マルクは船から敵船に3~40メートル程度の距離をとりつつ、ミリアドハーモニクスを沙月たちのような耐久力の低いメンバーへ優先して送り込む作業を続けていた。
と、そこへ打ち込まれるミサイル。
咄嗟に展開した魔力障壁が破壊され、爆風で軽く吹き飛ばされた。
すぐさま転がるように起き上がり、再び障壁を展開するマルク。
見ると、ショッケンたちの船がこちらにミサイルランチャーを向けているのがわかった。
「ヒーラーを狙ってきたか。ま、当然だよね。エクスマリアちゃんたちに合流しなきゃ」
船を操作し、今まさに敵船制圧中のエクスマリアたちへと向かうマルク。
その一方で、足止めをされている二隻の船を追い抜くように一隻が姫亀号へと進んでいく。
炎上し誰もいなくなった銭亀号を押しのける、黒い船。
マルクはそれを心配そうに振り替えた。
「みんな、うまくやってね。甲羅戯艦隊のみんなが生き残れるかどうかは、三人にかかってるんだ」
迫る船をにらみ、身構えるエイヴァン。
「姫亀号総員、わかっているな!?」
武装した艦長をのぞき、全ての船員が船の船室へと逃げ込んでいく。
レイリーはそれを見届けると、再び戦闘の構えをとった。
「私の名はレイリー=シュタイン!
絶対にここは通さぬ!」
「かまわん、押し通る!」
ミサイルランチャーによる砲撃を仕掛ける兵士たち。
一人の船員がジェットパックによって飛び移り、レイリーめがけて軍刀を叩きつけてきた。
増加装甲を重ね、刀を受け止めるレイリー。
「わたしが直接引きつけられるのは一人か二人といった所だ。エイヴァン、そっちはどうだ」
「俺か、ふむ……」
エイヴァンは盾を構えたまま、『斧銃【白煙濤】』をちらりと見下ろした。
そして次に、甲羅戯艦長とトリーネを見やる。
おそらく敵は艦長とその部下たちを優先して狙っていくだろう。
エイヴァンのもつ優秀な技のひとつに『リダホッド・ヴォルヌーイ』というものがあり、これは至近距離の対象に流氷のごとき衝撃を与え自分に注意を引きつけるというものだ。反動こそあるが、うまく当たれば敵を派手に吹き飛ばしたり【ショック】や【怒り】を与えることができる。
一方で、攻撃範囲の都合上誰かをかばえる位置で行うことはできない。
「まずは俺が前にでてできるだけ敵を引きつけてみる。トリーネはギリギリまで耐えてくれ。レイリーは……艦長を頼む」
「わかった」
「私しばらく無防備になるのね……けどわかったわ!
ここから先は通さないわ! 死守よ!」
船員たちは船内に逃げ込んだが、裏を返せば船内に敵が乗り込んでしまったら袋のネズミ状態になるということだ。
そして敵も敵でそれをわかっているので、レイリーやエイヴァンを無視してでも数人を突入させるだろう。
エイヴァンとレイリー、そしてトリーネは、この時点で三つのノルマをこなす必要が生じた。
ひとつは、敵接近時の初ターンで確実に敵船員の『全員』に【怒り】を付与して行動を自分たちへの攻撃に限定すること。命中や特殊抵抗の突破ができなければ怒りの付与が通らないことを(そしてエイヴァンたちのスキル命中力)考えると、それはあまり現実的ではないように思えた。
次に、甲羅戯艦長を常にかばい続けること。レイリーかエイヴァンがそれを行うなら、怒りの付与や攻撃はできないことになる。味方の誰かがこの船に乗り込み敵の排除を行わない限り、レイリーたちはひたすら集中攻撃を受け続けることになるだろう。
その際トリーネが無防備になる恐れがあるため、それをもかばう場合一切の行動が封じられることになる。
よってエイヴァンたちに求められる能力は二つ。
【怒り】の付与以外の手段で敵を引きつけるなんらかの手段。
そして、敵が撤退の判断を下すまで敵の猛攻を防ぎ続けるだけの耐久力である。
「レイリーちゃんの回復は任せて! エイヴァン君は――」
「俺はなんとかやってみる!」
エイヴァンは助走をつけて跳躍すると、敵船へと飛び込んだ。
リダホッド・ヴォルヌーイの衝撃を打ち込み続ける。できるだけ敵を引きつけ、そして姫亀号に舞い戻ってレイリーたちを『防衛将帥』の効果範囲内におさめなおす。これが彼のとれる作戦であった。
●ショッケンとフルメタルアーミー
「奴め、相当優秀なヒーラーらしいな」
マルクをターゲットして追いかけるショッケンたち。
激しい砲撃を受け続けるも、マルクは自身にミリアドハーモニクスや超分析をかけ続けることで耐え、なんとかエクスマリアたちが制圧した船へと転がり込んだ。
「みんな、ショッケンの部隊が――」
船へと飛び乗り、転がるマルク。
が、その瞬間に激しい光線が浴びせられた。
ショッケンのアルキメデスレーザーだ。
「優秀なヒーラーから潰す。当然だな」
大きくターンし、船に直接船体をぶつけてくるショッケン。
彼はアルキメデスレーザーの浮遊レンズをこちらに向け、セララたちを見た。
「お前たちは……イレギュラーズか?」
「だったらなんだ!」
船から飛び降り、ショッケンの船の底を狙うようにガトリングガンを構えるワモン。
が、そこへ無数のミニ魚雷が撃ち込まれた。ジェット噴射をかけて爆発を防ごうとするワモン。
爆発の向こう側から現れたのは、カブトガニのような鎧をまとった秘宝種だった。
「敵機確認。撃破する」
ヘルメット奥で光るモノアイ。両腕がワモンへ向き、腕からさらなるミニ魚雷が発射された。
「敵にも海中戦力がいたか! けど、海ならオイラも負けないぜ!」
ジェット噴射で泳ぎ回り、ガトリングIWASHIボムを浴びせるワモン。
「なんという機動力と反応。鉄帝の交戦データにないが……ただのアシカではない」
「覚えとけ、オイラはワモン! アザラシだ!」
一方、転がり込んだマルクが殺されないようにと船の端へと投げ、ショッケンたちに立ち塞がるエクスマリア。
頭髪が巨大な虎のように変わると、エクスマリアを包み込んで四肢によって立ち上がった。
「将軍、こいつぁ……」
「『黄金戦車』のエクスマリアか。ジーニアスゲイムではだいぶ暴れたと聞いている。
チッ、奴め……ローレットの主力が介入していたことを黙っていたな。こんな奴らがいるとは聞いていなかったぞ」
顔をしかめるショッケンだが、ナイフ使いの男がにやりと笑って前に出た。
「あっしにやらせてくだせぇ。女の髪を切るのは大好きなんでね」
「外道が」
エクスマリアは獅子と化した身体で船から飛ぶと、ナイフ使いへと襲いかかった。
ナイフ使いは繰り出される猛烈な攻撃を切り裂くような反射攻撃で防ぎなら、自らもナイフを放つ。
だが、エクスマリアにはまるで刃が通らず、頭髪のボディに全てはじかれてしまっていた。
「だらしないねぇ。じゃ、アタシはあっちのかわいい子をもらうよ」
二丁拳銃の金髪女は天十里に狙いをつけると、急所を狙った射撃を浴びせてきた。
「――!」
素早く飛び退き銃弾を回避する天十里。
ギアが最大に入った天十里に攻撃を当てるのは、相当の名手でないと難しい。
が、しかし。
「この相手、強いね」
天十里は頬にはしった赤い血のラインに触れた。
女ガンマンと天十里が同時に拳銃を構え、両者同時に連射。
空中に無数の火花が散っていく。
弾丸を弾丸でカウンターして防御する高等技術を、お互いが行っているのだ。
「この子、素敵! 強くてかわいい! うちに欲しいねえ!」
「余裕でいられるのもそこまでだ、鉄屑共」
船へと乗り移ってくるクロバ。
トリガーを引いて刀身に全火力を集中させると、ショッケンめがけて突撃した。
「将軍!」
間に割り込んだのはレーザーブレードを装備した鎧の騎士だった。
剣と剣がぶつかる――その刹那、クロバは目を見開いて加速。騎士の剣をへし折るように破壊し、更に鎧を切り裂いた。
「ぐお!?」
切り払われ、転倒する騎士。
「こいつ、ただ者では……」
起き上がりながら、騎士は目を見開いた。
「貴様、クロバか!」
「知っているのか」
「ええ、少し……一部じゃ有名人ですよ」
騎士は起き上がり、レーザーブレードの刀身を再生させた。
「奴の攻撃は苛烈すぎる。僕でもどれだけもつか」
「『どれだけ』、だと? 舐めるな」
クロバは急速に接近し、騎士とつばぜり合いに持ち込んだ。トリガーを引いて伝った魔力が、激しい火花となってレーザーブレードと拮抗しあう。
「必ず切り刻んで、冷たい海に沈めてやる」
その一方、沙月とセララもまたショッケンの船へ乗り込んでいた。
特殊な歩法で素早く距離をつめ、突きを放つ沙月。
間に割り込んだ胴着姿の女は沙月の突きを腕でいなすように受けた。
が、腕に激しく走るえぐれたような傷に、焦りと笑みを同時に顔に浮かべた。
「なんて美しい突き。敵でなければ金を払ってでも見たい演舞ね」
沙月は素早く連続で突きを出し続けながらも、相手の繰り出す正拳突きを特殊なバックステップでかわした。が、衝撃だけが追ってきて沙月の肩を打ち抜いていく。
「…………」
できればショッケンの船を荒らして設備を大胆に押収したい所だが、それができるのは彼らをほぼ全滅させた時だろう。その余裕は……。
と、ほかの船の様子を見てみる。
足止めのために攻撃をしていた味方の援軍たちが、船ごと沈んでいくのが見えた。
銭亀号と同じ末路をたどった、ということだろう。
時間稼ぎはできたものの、ショッケンたちはまだ撤退の判断を下していない。
時間切れ、ということだろうか。
しかるべき時までに、与えるべき打撃を与えきることができなかった……とも言えた。
「貴様らローレットの壊滅は本意ではない。依頼次第で悪にすら手をそめる、世界的にも有用な駒なのでな」
ショッケンはアルキメデスレーザー・レンズを構え、挑発するように眉を寄せた。
「どうだ。今すぐ依頼を破棄して、俺たちの味方になれ。甲羅戯艦隊の壊滅に手を貸せば見逃してやるぞ。どころか、報酬を与えたっていい」
「だれが! ギルド条約っていうのがあってね、受けた依頼は最後まで達成に努力するものなんだよ」
剣を突きつけ、倒した兵士から奪ったミサイルランチャーをかざしてみせるセララ。
「どこからこの武器を入手したのかな?流通ルートを調べればキミ達の正体なんて……ね?
それにボクはキミ達の顔を覚えたよ。イレギュラーズのセララがね!」
「突然何のつもりだ? 我々を告発すると?」
「そのつもりだよ。鉄帝にキミの名前と似顔絵付きで問い合わせてみようか。これは正式な軍事行動か? ってね」
セララがにらみをきかせると、ショッケンの顔色が変わった。
「我らは民間船を主張している。たとえ軍人が乗船していたところで、楽しいクルージングを邪魔されたと主張し続けることができるぞ?」
「どうだか。鉄帝軍人が勝手に侵略戦争を企てた……そんな証拠品を捨てて欲しければ、この場は手を引くことだね!」
「ふむ……」
真顔で、小さく顎を上げるショッケン。
そばにいた副官らしき男がセララに銃を向けたまま呼びかけた。
「ショッケン様、まさか要求をのむつもりじゃありませんよね。目撃証言の破棄なんてできない。口約束は無意味だ」
「ああ、もっともだ。お前の言うとおりだな。だがこの娘……いや、『魔法騎士』セララの言うこともまた一理ある。海洋王国が我々『個人』に責任を追及した場合、鉄帝国はともかく私個人は困るだろうな」
「だからって……!」
「どうするの? 退くの? 退かないの?」
剣をつきつけたままのセララ。
ショッケンはレンズを強く発光させ、セララへアルキメデスレーザーを発射した。
ミサイルランチャーを放り投げ、咄嗟に盾で防ぐセララ。しかし激しい衝撃に船から吹き飛ばされてしまった。
飛行し、自らの船へと戻る。
「答えはこうだ。『貴様らもろとも海に沈めれば証拠もなくなる』……だ」
「……退かない、ってこと?」
セララは、状況の悪化を肌で察知した。
ショッケンは今、『成果にコストが見合わないがゆえの撤退』を捨て、『告発すると主張するローレットもろとも、大きな損害を覚悟してでも殲滅する』という選択をとったのだ。
要するに、見逃せないものが増えたせいで退くに退けなくなったのだ。
そして、時を同じくして――。
「ほう、堅い堅い。俺の矢をうけてまだ立っているとはな」
飛行し、空中から神秘の矢を打ち込み続けてくるボウガン使い。
レイリーは爆撃を盾で受けつつ、背中に甲羅戯艦長を守って戦っていた。
「こい、鉄帝国の海賊共。全て防ぎ、蹴散らしてやろう!」
「ああ、本当にそれができてしまいそうで怖いぜ。あんたみたいのばっかりならな」
ボウガン使いのさらなる爆撃。
くわえて、ミサイルランチャーによる砲撃が集中する。
足止めに回っていた味方の船たちもすでに沈み、三隻の船がレイリーたちを集中攻撃している状態だ。攻撃に転じれば彼らを倒すことも……もしかしたら不可能ではないが、甲羅戯艦長やトリーネをかばいながらでは一歩も動くことができない。
「レイリーちゃん!」
トリーネが大きく羽ばたき、レイリーの損傷箇所を強制修復していく。
が、集中する砲撃はトリーネの回復を上回るものだった。
「くっ、このままじゃあヤバい……!」
エイヴァンは次々起こる爆発の光に視界をやられ、それでもトリーネをかばって盾をかざし続けていた。
彼らの耐久力はたいしたもので、砲撃をしばらくは耐え抜くことができた……が。
「おいおい、まだやってたのかベイビー。テメーらがだらしねえか、ローレットの連中が堅すぎるかだな」
船室への出入り口から、サングラスをかけた黒人の巨漢が現れた。
彼の両手は黒い鋼でできており、身体は返り血ですっかり汚れていた。
「船内の連中はかたづけたぜ」
「しまっ――」
振り返るエイヴァン。すさまじい速度で殴りかかる黒人の巨漢。
盾を通して打ち込まれた衝撃に、エイヴァンは吐血して吹き飛んだ。
「エイヴァン君!」
咄嗟に回復にかかろうとしたトリーネを、爆発が襲う。
「も、もういい……皆さん、逃げてください!」
レイリーを押しのけ、甲羅戯艦長がトリーネの前に躍り出た。
彼を矢が貫き、身体の一部をはぜちらしていく。
「う……」
「艦長さん! なんで!」
今回復するわ! と傷口を見るが、もう助かる傷ではなかった。
血まみれの手で、震えながら自らの首に手を伸ばす甲羅戯艦長。
「依頼は、破棄、しますよ。はは……楽しい船旅に、なれなくて、すみません……」
「しゃべらないで、もういいわ!」
甲羅戯は首からロケットペンダントを外すと、トリーネへと渡した。
さらなる爆撃が襲うが、それをレイリーが増加装甲で耐えている。耐えきれるのも、時間の問題だ。
「最後に、あなたちと旅ができて……誇らしかった……」
甲羅戯は笑って、そして力尽きた。
歯を食いしばるレイリー。エイヴァン。
「撤退だ! ローレット、全力で撤退せよ!」
●辺境海域撤退戦
甲羅戯艦隊のメンバーが全滅した今、彼らに随伴するという依頼の非達成が決定した。
であると同時に、『ローレットのメンバーごと全滅させてしまおう』とするショッケンたちの追撃から逃れるための撤退作戦が始まった。
エクスマリアの船に乗り込むエイヴァンとレイリー。
大けがをおったマルクは、レイリーの応急処置を受けていた。
「奴ら、俺たちもろとも証拠を隠滅するつもりか」
荒く息を整えるエイヴァン。
マルクはそれに頷いた。
「彼らが鉄帝の軍人である証拠……といえるかはわからないけど、間接的にそれを主張できるだけの材料はそろったといっていいね。
というより、イザベラ女王や貴族たちは僕らの証言を物証がないからって突っぱねたりしないはずだよ。
攻撃されたことを主張する海洋王国とそれを否定する鉄帝国の外交に発展するんじゃあないかな」
いたた、と傷口を押さえるマルク。
「といっても、そういうやりとりはずっと以前からやってたみたいだけどね。海洋王国の主張する領海と鉄帝国の主張する領海は違う。その間で戦闘がおきることだってあったろう。甲羅戯さんたちが狙われたのが、数年ぶりってだけでね……」
「つまり……」
レイリーは傷ついたトリーネに包帯をまきつつつぶやいた。
「生きて帰ることが、彼らに一矢報いる手になるかもしれない、ということか」
「それなら!」
翼を振り上げるトリーネ。
「なんとしてでも逃げ切るわ! 甲羅戯さんのためにもね!」
トリーネの首には、ロケットペンダントがさがっていた。
走るエクスマリアの船。
それを援護するように、ショッケンたちの船との間に割り込む姫亀号。
乗船しているのはクロバひとりだ。
黒人の巨漢や乗り込んできた兵士たちに囲まれつつも、クロバは冷静にトリガーを引いた。
「――燃え尽きろ、叫べ、恐怖に溺れろ。どちらが海の藻屑になるかどうかを思い知りながらな……!」
甲板に直接ガンエッジを突き立てるクロバ。
「テメェ、自爆するつもりか!」
咄嗟に防御姿勢をとる巨漢。次の瞬間、姫亀号は爆発し、傾きながら沈んでいった。
「うおおあぶねえ!」
その下をかいくぐり、クロバをキャッチして泳いでくるワモン。
エクスマリア船から降ろされた縄ばしごに捕まると、振り返ってガトリング射撃を開始した。
追いかけてくるカブトガニサブマリナーが放つ魚雷が途中で爆発し、さらなる射撃を浴びたカブトガニサブマリナーもまた減速をはじめた。
「死なば諸共なんてまだ早いぜ! エクスマリア、引き上げてくれ!」
よびかけるワモン。が、そこへ神秘の矢による砲撃が浴びせられた。
飛行し、爆撃をしかけてくるボウガン使い。
「これ以上はやらせないよ!」
天十里とエクスマリアが間に入り、ボウガン使いの攻撃を防御、天十里の鋭い射撃が飛行種の翼を打ち抜いた。
「なっ!」
飛行が継続できず、海に転落するボウガン使い。
それでもさらなる加速をかけて、ショッケンの船が迫ってくる。
「逃がすな! 一人残らず撃ち殺せ!」
「交渉を打ち切って破壊に出るとは、短絡が過ぎますね」
沙月は独特の構えをとると、拾い上げた銃弾を指ではじいた。
衝撃をのせた銃弾がショッケンの船へ走り、ショッケンのアルキメデスレーザーのレンズに命中する。
「ぬおお!?」
「みんな伏せてて!」
セララは飛び上がり、剣に込めた魔法の力で巨大な剣を構成した。
「これでもくらえー!」
大上段から打ち込まれた巨大すぎる剣が、ショッケンへと迫る。
「う、うおおおおお!?」
防御姿勢をとるショッケン。だが彼は船から転落し、海へと落ちた。
「将軍!」
「くそっ、撤退だ! ローレット……覚えていろよ! 海洋王国の稚魚どももろとも、必ず追い詰めてやる!」
投げられた救命浮き輪につかまり、ばたつきながら叫ぶショッケン。
セララたちは船を加速させ、その戦場からの撤退に成功した。
後に、この戦いは『甲羅戯艦隊の悲劇』として海洋海軍に語られ、民間船を自称する鉄帝船へのヘイトを高めることになるが……それはまた、別の話になるだろう。
いまは生き残ったローレット・イレギュラーズたちに、新たに守るべきものと未来が生まれたことを、語るべきだ。
そして、この先直面することになる、なにかを。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
――未来へつづく
GMコメント
■warning 緊急依頼発生
あなたは簡単なはずの監視任務に同行していたところ、突如として鉄帝の艦隊から襲撃を受けました。
これらを率いていると思われる鉄帝軍将校ショッケン・ハイドリヒはこの領域の私掠行為は鉄帝に認められていると主張し、逆にこちらの撤退を要求してきました。
監視任務の性質上、攻撃を受けなおかつ相手が退かないというなら、武力を持って撃退するほかありません。
しかし海洋側の戦力は戦いなれていない甲羅戯”名ばかり”艦隊。
いま同行しているローレットが助けなければ、きっと彼らは海の藻屑と消えてしまうことでしょう。
●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
■名声について
領域を防衛することで海洋に名声が入り、事業貢献値も正常に入ります。
しかしその一方で鉄帝軍人(と見るからに軍艦っぽい自称民間船)を攻撃していますが……”なぜか”鉄帝に悪名がつきません。
そのあたりの理由と意味を考えてみると、より動きやすくなるかもしれません。
■成功条件
・成功条件:ショッケン及び鉄帝艦隊の撤退
・オプションA:甲羅戯艦長の生存
・オプションB:残る甲羅戯艦隊員半数以上の生存(難易度上昇)
・オプションC:残る甲羅戯艦隊員全員の生存(難易度上昇)
成功条件はあくまで『敵の撤退』であります。
この条件からもわかるとおり、戦力差で言えば相手が上。全滅させたりリーダーを捕虜にとったりといった状況的余裕はまるでありません。
この状況をなんとか打破し、できる限り甲羅戯艦隊員を守って戦うことがこの依頼の重要項目となります。
ですので、皆さんが成功させるための手順は何通りか生まれるのですが、そのうちシンプルなところでは『とにかく敵に打撃を与えまくって撤退せざるをえなくする』や『とにかく甲羅戯艦隊を守りまくって「これ以上攻撃しても拉致があかない。ここは帰るしかない」という判断をさせる』というものがあります。
ほかにも方法があるにはありますが、まずはこの二つのどちらを重視するかを決めてから検討するとよいでしょう。
■ショッケン及び鉄帝艦隊
戦力は全くの『未知』です。
とにかくこっちより人数も多くて装備も整っているので絶対やばいということだけわかっています。
敵船の数は五隻。
味方側が何隻あるかは、後に解説します。
■甲羅戯艦隊 with ローレット艦隊
甲羅戯艦隊は別名『名ばかり艦隊』。船は亀姫号一隻のみで、船員もまるで戦いなれていない連中ばかりです。いい人たちではあるのですが、戦闘経験を積んでないのでいかんせん弱いのは仕方のないことでしょう。
船員の数は艦長含めておよそ10名程度。
ちなみに甲羅戯艦長がこの場でさっさと撤退してしまうと明確な敵前逃亡扱いになるようで、後々とてもよろしくないことになるでしょう。
で、気になる味方戦力。もといローレットの増援戦力ですが、『小型船を装備したPCの数』とイコールになります。つまり最大+十隻です。
記述したとおり、船は必ず自分で装備してください。一人だけ沢山装備してシナリオ内で貸し出すのは無効扱いとします。
※こちらのシナリオは種別『通常』となっておりますが『EX』として扱われます。(追記)
Tweet