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シナリオ詳細

<青海のバッカニア>サフロスの星に祈りを

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●サフロスの夜
 絶望の青へ挑む海洋王国の大号令、それは二十二年ぶりの事である。
 新天地を求めるはまだ見ぬ海の先へ――ロマンと言う名の夢を抱く海洋の気質であり、 故にこそ国家を挙げての大号令ともなれば特に大きな意味を持つのだ。そしてそれは。

「二十二年か――待ったものだ、随分と」

 赤き羽根を持つファクル・シャルラハにとっても切望していた機会であった。
 二十二年。ああ、二十二年か。実に『長かった』ものだ。
 前回の大号令の折に参加しようとして、しかし事実上『出来なかった』身としては――
「今度の機会こそ逃さんよ。また待つのは御免だからな」
「あらあら。あの頃よりは落ち着いたと思ったけれど、気概は相も変わらずねぇ」
「ハッ……何年経とうと、俺は変わらんよ」
 ファクルが紡ぐは己が妻へ。『白夜占』と称されし――白き羽のジェンナへと。
「かつての、若い頃の冒険者という身分を捨て王国の軍人となったのは諦めたからじゃない。かつてのこの地の……『サフロスの大惨事』がもう一度起ころうと、それを乗り越える為だ。力無き理想など無意味だと、あの時嫌と言う程知ったからな」
 閉じた瞼。ファクルが思い起こすのは前回の大号令の事。
 海洋はその時も沸いた。王国を挙げた事業はかつても盛況で、当時まだ若かったファクルは自由に空を羽ばたいていた『冒険者』の一人。若いなりに腕の自信はあり、ロマンに燃える熱をその胸に大号令に馳せ参じようとしていた――

 しかしその目的は叶わなかった。

 当時、小さな港町であったサフロスに巨大な魔物が襲来した……後に『サフロスの大惨事』と言われる事件に巻き込まれたのだ。
 港が破壊され、土地と海が汚染され、人は死に船は沈み地獄となり。
 ファクルは当時その大惨事に対して抗った一人だが――
「あの時みたいな無茶はもう駄目よ? 無茶程度ならともかく、無謀に挑むのは愚者の仕草なんだから」
 ジェンナがファクルの頬へ手を沿える。それは、彼から見て右側の頬。
 件の事件で『失った片目』の側だ。
 そう、大惨事に対し奮戦したもののファクルは無念ながら及ばず片目を失い生死の境を彷徨って。汚染された海に引きずり込まれんとしていた所をジェンナに辛うじて救われたのだ。それが彼女との出会いであり、親交深まって後に結婚にまで至って――
「ああ……肝に銘じてるさ。もう一度汚染水の中に手を突っ込まさせはしねぇよ。
 それに――こう言っちゃなんだが、二十二年前の事は半ばどうでもいいからな」
 ファクルは片目を失った事、それ自体にはそこまで強い執着はない。
 冒険者と言う肩書を背負っていれば深い傷を負うなどいつかはあった事なのだ。彼は昔からこの程度の傷は承知していて、だからこそ今なお若かりし頃に抱いた『冒険心』は衰えてなどいない!
 大海の果てよ。まだ見ぬ新天地よ。先にありし光景を見せてくれ。
 まだ俺の目は片方残っているのだから! 光を見るには、栄光を見るには――充分だ!
「とはいえ軍人である以上まずは仕事をこなさないとな。
 サフロス近海に潜む海賊共の駆逐だ……後顧の憂いを断った上で大号令に挑む」
 されど熱はもう少しばかり胸の内で燻らせるとしよう。
 冒険者の身分を捨てて軍人と成った以上は責務がある。海洋王国における海賊――とは、いわゆる国家の承認を受け海賊の体をしているだけの私掠許可を持つ『王国海軍』と同義が一つ。もう一つがそのままの意味での只の賊……『無許可海賊』が存在している。
 当然後者は只の犯罪者共であり、王国としても取り締まる必要性のある連中だ。
「やるだけなら俺の所の隊だけでも十分だが、折角の機会だ。噂のイレギュラーズ達の力もこの機に見ておきたい所さ。奴らが実際この国にとってどれだけの『嵐』となってくれるのか――な」
 ファクルは期待しているのだ。イレギュラーズ達の存在を、その力を。
 彼らはどこの国でも『嵐』となる。
 海は嵐にて荒れれば混乱は大きく、しかし珍しい魚も時として獲りやすくなるモノ。
 ならば彼らと共に歩んでみよう。どうであるにせよ易き事でなきこの航海を超える為。
 海の果てへと到達する為に――

「――あ、ところで多分あの子も来るわよ」

 と、その時ジェンナが紡いだ言葉があった。
 『あの子』……その単語を耳に捉えたと同時。ファクルの動きが突然止まって。
「……んっ? 今なんて言った?」
「どうしたの、そんなに不思議な事じゃないでしょ? あの子もイレギュラーズなんだから」
「いや。ちょっと待……それは、なんだ。星読みの結果か?」
「うふふ――どうかしらね。あの子は星より早く動くから」
 微笑む、穏やかな様子のジェンナとは対照的にファクルの顔からは血の気が引く。
 い、いかん。いかんぞ! 『息子』には昔から『俺は只の漁師だ』と説明していたのに! あああやばい!! もうすぐ顔合わせの時間ではないか!! 軍服を脱ぎ捨て、船も軍艦じゃなくてもっとこう、普通の船っぽいのを用意せねば――!!
「やれやれ……今更焦っても手遅れでしょうに」
 突然慌てふためき出したファクル。その様子を愛し気に、やがて視線を天に向けて。
「大丈夫。星はまだ――穏やかだから」
 海賊討伐に向けての出発。
 その旅路に関してはそう危うき事は無いだろうと、ジェンナは星に祈りを捧げて。

GMコメント

 漁師さんからの依頼だよ!! 近郊を荒らす海賊を退治しよう!!
 じもとのりょうしさん からの いらいだよ!!

■依頼達成条件
 海賊船三隻の確保・撃沈、いずれかの達成。
 これは王国軍人……じゃなくて地元の『漁師』を名乗るファルクからの依頼。
 やー漁師の一人として困ってるんだよねー! やー俺只の漁師だから困るわー!!

■戦場:サフロス近郊の小島群
 時刻は夜。小島の陰に隠れている海賊の根城(船三隻)に奇襲を掛けます。
 『小型船』の類がなくても問題ありません。
 すっっっっっっごく軍艦っぽく見える漁船に乗り込んで目標地点まで向かいます。

 しかし『小型船』の類があるか、海上を移動しうる術があれば自由な移動の幅が広がる事でしょう。どう見ても軍艦っぽい漁船は砲撃能力も有しています。奇襲・初手で上手く当てれば海賊船をいきなり一隻、行動不能・撃沈に持ち込むことは充分可能でしょう。漁船にしては攻撃力が高いなぁ。

■敵戦力
・海賊船三隻
 多少の砲撃能力あり。船の性能(速度・強度)はそこそこ。

・海賊船長×1 海賊船員×23(合計24)
 一隻に8人程度ずつ。回復役はいないが、近・遠の攻撃手のバランスは良い。
 船長が一番強く、また周囲の船員の戦闘力を上げる指揮範囲技能を持つ模様。
 ただし船長がどの船に乗っているかは開始時点では不明。

■『漁師?』ファクル・シャルラハ
 元・冒険者にして現在は海洋王国の軍人の一人。種族はスカイウェザー。
 前回の大号令の折にも夢を抱く若き冒険者として参加し……ようとした日に『大惨事』が発生。奮戦するも、生死の境を彷徨う意識不明の重体に陥る。最終的には意識を取り戻したが、時既に遅く……
 その時の様々な心境・事情から冒険者を事実上引退。海洋王国軍人の道を志した。なお息子のカイト・シャルラハには自らの事を『お、俺の仕事は只の漁師!』と説明しているが当の本人にはとっくに……?

 海洋王国の精鋭部隊の一つ『レッドコート』の長。
 本来の異名は『コールドストリームガーズ』ファルク・シャルラハである。
 現役軍人……じゃなくて元冒険者の杵柄という理由でイレギュラーズと共に戦う。軍か……漁船の運転を手伝っているなんか軍人っぽく見える部下っぽい人達は今回砲撃と操舵に専念中。直接の戦闘は行わない。

■『白夜占』ジェンナ
 ファクル・シャルラハの妻にして星を見る占星術師。
 ファクルとの出会いは二十二年前の『大惨事』の日。汚染された海に意識不明で漂っていたファクルを辛うじて救助。以降親交が深まり結婚へと至る。今回のシナリオ中、戦闘には参加しない。港で皆の無事を祈りながら待つ――

■防衛拠点サフロス
 海洋の一角に存在する、海に沿って巨大な防壁が作られている海洋の軍事拠点。
 多くの砲台も備えられた防御力が高い地である。
 元々は只の小さな港町だったが、過去にある事件が勃発。町民の八割が死亡。海域・土地の五割が汚染されるという『大惨事』に見舞われた事がある。
 現在は復興により環境は回復。しかし再度の大惨事襲来に備えて軍事力を高める方向に至ったため、元々の港町という雰囲気はほんの少ししか残っていない。

 ここを襲おうという海賊はあまりいないが、周囲には小島などが多く存在しており、周辺海域を根城として利用している者達はそこそこに多い。シナリオ時はその内の一つに襲撃を掛ける予定である。

■『サフロスの大惨事』
 二十二年前にサフロスを襲った事件の総称。なぜか詳細は秘匿されている。
・サフロスを巨大な魔物が襲った。
・その影響で民衆に多大な被害が発生。土地、海域には凶悪な汚染が発生した。
・汚染は現在回復済みだが、その時の魔物は未だに討伐されていない。
 上記が一般的に伝わっている『サフロスの大惨事』事件に関する情報。
 嘘は無いらしいが、意図的に伝わっていない『何か』があるとは噂されている。

 【ここからの情報は海洋名声が『+50』以上ある場合知っていても構いません】
 海洋王国が貴方を信頼し、情報を開示します。
・サフロスの大惨事では『殺害された人間が急速に魔物へと変貌』する事態が発生。
・伴い、正常な町民と変貌した町民の凄惨な殺し合いが発生。最終的に軍が変貌した自国民を大規模に掃討しなければならなかったという事態が『サフロスの大惨事』である。
・サフロスを襲った魔物の認識名はガイアキャンサー『モンス・メグ』(砲兵)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

  • <青海のバッカニア>サフロスの星に祈りを完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月15日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
リトルリトルウィッチ
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ニル=ヴァレンタイン(p3p007509)
引き篭もり魔王

リプレイ


「――んじゃお袋、行ってくるぜ! なーにすぐ帰って来るからな!」
「ええ。気を付けていってらっしゃいね――お父さんをよろしくね」
 サフロス港。出発直前に『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)は見送りをせんとしている己が母――ジェンナへ向かって手を振っている。これより海賊討伐に赴くのだがそれに伴うプレッシャーは一切ない。
 何を臆する必要はなく、何を気負う必要もない。なぜならここは海洋の海。
 己がよく知る国の風が吹いているのだから。
「えっ、りょうし? あれでもあのときあそこに……あれー……? まいっか」
「あぁ。軍事演習で会っ……まぁあの時は、その――偶々な!」
 かなり下手な濁し方であるがまぁいいかと『小さな騎兵』リトル・リリー(p3p000955)は流す。カイトの父であるファクルとは以前開かれた海洋王国の軍事演習で実は会った事があるのだ。その折に『彼女』と紹介された事もあってか覚えていて……
 ハハハ――と誤魔化しているファクル。いやもう分かっているのだからそこまで無理をしなくてもいいというのに……それにその誤魔化しは初見の者にも些か以上に無理がある、なぜなら。
「いや。こりゃいくら何でも漁船と言うにゃ無理あるぞ。どう考えても漁船のサイズじゃ……」
「ず、随分と大型な……いや豪華な漁船じゃのう?
 こんな船で漁をして海の魚が絶えてしまわないか心配じゃわい」
 『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)に『夢想の魔王』ニル=ヴァレンタイン(p3p007509)の目前に在りし船は――どー見ても軍艦だからである。
「のう? その大砲は本当に漁船に必要なのかや……?
こんな大砲が必要な程の魚を取っておるのかや?? 相手は鯨ぐらいの大きさなのかや?」
「い、色んなサイズの魚、もとい魔物を相手取る事もあるからな……!」
 砲を搭載。相応の人員を乗せるに足るサイズ。超大型……とは言わないが、魚を獲る目的の船にしては明らかにデカすぎる。どうしても気になるニルなのだ。というか砲が不要だろう不要。
「――まぁ外洋に出るなら海賊なり魔物への対処で武装は必要だと思うし、私が実家で見た船も……色々詰んでたような覚えがあったりするしね。一応漁船といえば漁船と言えるかな」
 とはいえ好意的に見れば無くはないと『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は言う。彼女の『実家』――自称貿易商の――養父の船は武装船たるに相応しい『物』を備えていた。ならばこういう船もまた他にあっておかしくはなく。
「いずれにしても今回の遠征を盤石にする為には強化された船があって損はないしね」
「それもそっか。結局やる事は海賊退治、余計な事は考えないのよ」
 そしてイリスの言に続いて『慈愛の紫』リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)が海を見据える。大号令の為に、後顧の憂いを断つ為にと用意した漁船……漁、船? が怪しかろうと結局は一緒だ。
 依頼は一つ。海賊の討伐であれば、それに集中するのみだ。
 イレギュラーズの価値を値踏みされようと――自らは自らの責務を果たすに変わりも無く。
 故に皆船に乗り込む。軍艦漁船に幾人かと、そしてカイトの所有する『紅鷹丸』改へも、だ。
 二隻で往き、二隻で追い込む『漁』の作戦。夜の闇に紛れ、行動を開始せんとしていて。
「ふ、む。サフロス港……二十二年前惨事が訪れた地、か」
 直前。港を出る前に『ゲーム上手』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は振り返ってサフロス港を一望する。昔は小さな港町だったとは思えぬ、大きく改修されているその港を前に。
「関係者が一様に口を噤む『大惨事』か……さて、私としては興味もあるがね――」
 しかし今回はその大惨事とやらが――関わって来る事は無いのだろうと彼は結論を即座に。
 そもそも前回が二十二年前の出来事と言う事は逆に言えば二十二年間何も無かったという事だ。今日、偶々この日に再度『怪物』が襲来するとは考えにくく、そのような気配も感じない。
「とはいえ近海まで無関係とは限りません。やはり、警戒はしておくべきかと」
 されど、決して油断は出来ないと『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は言う。大号令の日に現れたというのならば、その気運で満ちている今に現れても不思議ではない。
 己はその情報を詳しくは知らないが――聞き及べるイリスから話は聞いている。
 凄惨な事件だったと。尤も、二十二年も経っており過去の話という雰囲気も出ているらしいが……
「……杞憂で済めば、一番良いんだがな」
 気配を感じぬ事こそが。風を全く感じぬ事こそが『前兆』なのではないかと。
 レイチェルは己がギフトを凝らしながら呟いた。
 この港の、癌の穢れは長き時を経て取り除かれている。己が魔眼には残滓も映っていない……
 だから、大丈夫だろうとは思うのだが。しかしそれでも予感は抜けず。
「時間だ――よし。それじゃあ現地へ向かうか。頼むぜイレギュラーズ」
 それでもファクルの一声を始まりとして皆が皆とより出発した。
 大丈夫。今宵の星は――安定しているのだろう。
 今宵の星は。


 航海は順調だった。
 レイチェルの放った海鳥がファクル側に付き、向こうの状況も確認しているが――どうやら海賊達はこちらにも軍艦の接近にも気付いていないようである。まぁその為にわざわざ作戦時間帯を夜にしたのだが――
「それでも砲撃を開始すれば当然気付くだろう」
 言うはファクル。攻撃を開始すれば後はどれだけ急げるか、だ。
 向こうも賊とは言え海の者……素人で無くば動きも早い事が予想される。
 敵は三隻にしてこちらは二隻。ならば取る作戦は決まっている……!
「よし砲撃を開始するぞ――カイト! そっちも上手くやれよッ!!」
 始まる砲撃狙うは三隻の中の一隻。まずはそれを沈めるべく。
 轟音が鳴り響き、複数の砲弾が空を。さすれば数拍置いて――炸裂。
 着弾音と共に一隻が炎上する。さればそれを合図に別方面に潜んでいたカイトの船も動き出して。
「へへん、コレが今の俺の船だぜ!」
 カイトの操る『俺の船』――漁船と称している軍艦よりもよっぽど漁船に近いのが『紅鷹丸』改だ。というよりもこちらは本当に元々漁船であった代物に手を色々加えた一隻なので事実上分類は漁船側と言っても差し支え無い。軍艦漁船よりは少なくとも。
 ともあれ一隻を軍艦がもう一隻を『紅鷹丸』改が。挟み撃ちの形で襲撃せんとする。
 別角度より迫るカイトの船に気付く海賊船。軍艦の砲撃が目立っていて、気付くのにワンテンポ遅れているが――それでも。用意せし砲撃の構えが『紅鷹丸』改を捉えて。
「舐めんなよ――」
 舵を取るカイトの指先に力が籠る。見据えた夜の海が砲弾の姿を隠せども。

「――この国で『風読禽』と呼ばれる操船を、テメエらに見せてやらぁ!!」

 風を視た。回す舵輪が砲弾幕の穴へと船を導く。
 水飛沫が隣で舞い、船体を掠めれど直撃はしないのだ。右へ、左へ。闇の中を走り抜け。
「いけるよー! もうすこししたら、とつげきだー!!」
「のう……? やっぱり漁船というのはこういう船を言うのではないのかのう? のう?」
 カモメのファミリアーを使役していたリリーが空より距離を確認し。やっぱり軍艦漁船に疑問を持ち続けるニルが物凄く訝しみながらも戦闘の準備をいつでもとする。
 三、二、一。
 誰かが数えたカウントダウンと共に、衝撃。砲撃の当たらぬ位置に船を強引に着ければ。
「どうもこんばんはー! 地元の漁師代表とその一味なのよー!」
「嘘つけオラァ! テメェら王国海軍の手先だろうが!!」
「嘘じゃないわよ依頼人がそう名乗ってるんだから!!」
 リーゼロッテは海賊の戯言を一蹴。だって依頼人は信じるべきだろうから!
 か弱い漁師を護る為。いや、か弱い漁師に代わって正義の鉄柱を下す為! リーゼロッテもまた海賊船へと乗り込んだ。闇の中であろうとその暗視の目は全てを捉え、良き目は遠くすら見据えられて。
 突撃する。リーゼロッテの使役した熱砂の精が海賊船を襲うのを皮切りに。
 飛行せしニルが長距離から銃撃を。リリーは前衛から一歩離れた中距離程度の位置を起点としてその攻撃を重ねるのだ。境界の向こうより呼び出す“隣人”――アルラトゥの力を借りて。
「さあ、Step on it!! 一気に決めますよ!」
「早い所降参するなら今の内よ? 向こうもこっちも予定通りなんだから」
 更に乗り込むのがウィズィとイリスだ。イリスは前衛の一つを担い、敵の前へと立ち塞がらんとする。名乗る口上が敵の注目を引くが卓越した防御能力からその身は不沈艦というにも等しい。後方に通さんとする壁の如く布陣して。
「吹っ……飛べぇ!!」
 一方でウィズィは遠距離型だ。触れれば怪我をする茨の鎧を纏い万全の状態にて敵を捉える。ここは海である事を理解していれば、外縁付近にいる敵は『落とし』の絶好の得物だ。
 武器に光が満ちる。炸裂する光彩が闇夜に瞬き放たれて――衝撃波が発生。
 あわや油断した者を船から落とさんとする。
「おっと、こっちの方に船長がいるみたいだな……ま、好都合っちゃ好都合だが」
 されば同時。乗り込むレイチェルが船員たちの動きの良さに気付いた。
 どうやら事前の情報にあった船長が指揮を執っている様である。些かばかり、もう一隻よりも強敵になりそうだが……しかしそれは逆にこちらの手で『頭』を抑えるという事が出来る訳で。
「降伏も誘えるかもな。やりがいのある方に当たれたもんだと思えば。
 さぁて楽しい楽しいお仕事の時間だ――気合い入れようぜ?」
 紡ぐ印。鮮血から描かれる陣が、彼女に紅蓮の焔を灯して数多の負を敵対者へ与えんとする。
「俺の焔は――例え嵐が吹き荒れようが消えねぇよ!」
 かような嵐などそよ風に等しい。
 始まる激突。奇襲するイレギュラーズに応戦せし海賊達。
 幾重もの戦闘音が鳴り響き――さすれば。
「ふむ、向こうも始まったようだ。こちらも奮闘せねばならないな」
 ハッキリとは見えないが戦闘が始まったらしき流れをラルフは軍艦の上で感じていた。
 今回のメンバーの中で唯一軍艦側に乗り込んだのがラルフだ。彼はファクルと共に残る一隻を。
「こちらを目立つ囮とした作戦は上手く行っているようだね。接敵できたのならば、彼らは負けまいよ」
「ハッ。なら……こっちも無様な真似を見せられんな。期待してるぞイレギュラーズ」
「無論、任せたまえ。さてそろそろ衝突かな?」
 狙うのだ。海賊船を操るは、八人か。
 こちらはファクルを込みで二人。砲撃と衝突の影響で弱らせる事がどれだけ出来るか……
 今回同乗している船員たちは船の操作に専念している形だ。一応名目上はただの漁船の船員たちであり……それになによりファクルがイレギュラーズの力を視たい心境があった。いざとなれば身を守るために戦うだろうが、それまでは。
「さぁて精々力を尽くさせてもらうとしようか――」
 収束せし魔力変換。放たれる破壊の光が先手を取る形で海賊船を襲う。
 二つで開かれる戦端。全ては大号令を万全にするための戦いの一つが――始まった。


「くそ、王国の連中が舐めた真似しやがって……!」 
 初手の奇襲で一隻を沈められた海賊の船長は舌を打つ。万全であれば少なくとも数の上では海賊側が有利だったのだが、一隻とその人員を失い。その上で二分された戦力は決して優勢と言えないまでになっていた。しかも。
「まてー! にがさないよ、カイトのおとうさんからのいらいなんだからー!」
 船長がいると分かればそこへ集中攻撃もかけてくるモノである。特にリリーの猛追は凄まじい。
 放たれる黒炎烏。穿った点へ即座に召喚せしはヨルムンガンドを思わせる――巨大な蛇。
 リリーにとっても易い技ではないが、余力は気にしない。ここが攻め時であるとして。
 次いでそれらの技が当たったと判断すれば、タイミングを合わせたレイチェルが。
「どうしたそんなもんか? 海賊って名乗るならもうちょっと気合見せてみたらどうだ!」
 呪いの力を付与せんと攻撃を加える。
 与えられた負を解除させず、そして負の連鎖を爆発させて体力を奪い続けるのだ。
 そしてそんな場への援護には行かせない。最前線で攻撃を受け止めているイリスの存在が、海賊たちに圧を与えているのだ。彼女の体力もまた尋常でなく、果たしてそもそも倒すにまで至れるかどうか。
「無駄だよ。これぐらい――まだまだ耐えられる」
 後の先。敵の攻撃を見据えた後に超速の一撃を繰り出して叩きのめす防御攻勢が海賊の首筋へと。衝撃に悶えるその身へ、瞬時に噛みつきも加えれば強烈な一撃となる。乙女的にはあんまり使いたくない一撃だが、法を犯した者にまで容赦はすまい!
「チィ、押し返せ! 牢で冷や飯ぐらいは冗談じゃねぇぞ!」
「やれやれ、そう思うなら初めから海賊行為なんてしなければよかったものを……!」
 海賊達も必死だ。一層に攻勢を強めイレギュラーズ達を排除せんとする――が、そうなればこそより強さを輝かせるウィズィの様な存在もいるのだ。彼女の強さはどんどん加速し。
「ちょっとやそっとじゃあ……止まりませんよ!!」
 戦いが始まった頃よりも強く、強くなった一撃を振るう。
 船長に対しては捕縛の目的も兼ねて。強き意思を宿した眼光を定めれば――その身に震えを思い出させる。魔の目でなくとも。幾重にも積み重ねた想いの数が彼女にソレを可能とさせたのだ。
 ――何かを叶えられる自分に近付くために。
「あそこの砲撃型漁船がまた撃ってこない内に大人しくする事ね。威力は見たでしょ?
 ――怖いわよ」
 とはいえこれ以上はなるべく沈めないようにとリーゼロッテは心中で願う。
 慈愛の名を冠するのは伊達ではないのだ。無為なる犠牲を避ける為に、これ以上時間を掛けずに速攻で落とすとしよう――故に描くは女神の魔法陣。放たれる淡い光が眼前の総てを貫いて。
 同時。天からもまた別の光が訪れる。
「のう? あの大砲で全部駆逐しなかった意味を考えるべきだとは思わぬか?」
 ニルだ。空からの魔砲が船長を襲う。
 捕縛の意思。生命がある事の意味を悟れと暗に示して。
「諦めな! 俺達に乗り込まれた時点で終わってるんだよ!!」
 そしてカイトもまた往く。操舵の役目を終えてからは、彼はイリスとは異なる盾となっていた。
 敵の攻撃を回避することに専念した防御の構え。隙を見て放つは炎の斬撃。
「んぐ……くそがあああ!!」
 海賊達も海の者であり、その反撃には力が籠る。
 ただではやられぬとばかりに銃撃を繰り出してイレギュラーズ達の身を削るのだ。
 とはいえもはや趨勢は決した。ついにイリスのロープの手が海賊たちの身に掛かって。
「――よっし! こっちは制圧ですね! 後はもう一隻の方は……?!」
「ちと苦戦してるみたいだな。だけど、今すぐ行けばまだ間に合う筈だ」
 ウィズィがもう一隻の方を気にした時、ウィッチクラフトの力で作り上げた海鳥から状況を把握したレイチェルが向こうの状況を皆へと伝える。流石に向こうの方は数で劣っていたので、そう簡単には行かなかったか。
「とはいえやりようはあるものさ――一人で戦う訳でもなし、ね」
 数の上ではラルフの側は不利だが、彼もまた一線級のイレギュラーズである。
 海賊たちを相手に立ち回る。放たれる破壊の光が多くの海賊共を撃ち抜いて。
 銃撃を見据えて身を屈め、接近してくる者がいれば足を引っかけ弾き飛ばし。
 そしてファクル自身も漁師……ああもう! 彼は王国軍人の精鋭の一人であれば力もまた強く。
 援軍に向かえばそれで趨勢は決しよう。何よりこちらでは船長も捕えたのだから……
「テメェら……覚えておけよ。俺らに手を出したからにはラモンさんが黙っちゃいねぇ……!」
「ラモン?」
 海洋に精通する者はその名を聞いた事のある者もいるかもしれない。
 それは『海蜘蛛』の名を冠する海賊。海洋を荒らす海賊の中でも武闘派に位置する者。
 ――こいつらはその配下だったのか?
「……誰かの名前を笠にするなんて小物の証じゃない?」
「それに。かいよーはいま、とってもげんきがあるもんね。かいぞくなんてこんなふうに、やっつけちゃうよ!」
 自分の実力ではなく誰かの名前を出すのは小物だとイリスは呟き。
 そしてリリーは大号令に燃える海洋に、海賊程度では太刀打ちできないだろうと。
 そう紡ぐ。海洋は国力こそ低いと言っても、それは国家レベルでの比較。
 たかだか調子に乗ってる程度の海賊に――果たして何が出来る事やら――
「おお。そっちは上手くやったか! が、悪い。こいつらぶちのめしたらすぐ港に戻るぞ……!」
「――なんだ親父? なにかあったのか?」
 果たす合流。海賊の攻撃を捌きながら、紡ぐファクルはどことなく焦っていて。

「さっき、海洋の本部から連絡が入った……海洋に向けて鉄帝の軍勢が侵入してきているらしい。それ以外にも海賊が同盟を組んだだの、こっちはまだ未確定情報だが……いずれにせよ始まるぜ――戦がよ……!」

 サフロスの星は落ち着いていた。
 今宵、ここでは何も起きない。ただ少しだけ、小さな戦いがあっただけの事。
 ――星が動くのは、これからである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)[重傷]
我が為に

あとがき

依頼お疲れ様でした。

――新たな展開はすぐそこに。

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