PandoraPartyProject

シナリオ詳細

護り、行く道

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ラサの新人商人
 幻想のとある通りで、手元のリストと食材を見比べている少女がいた。
「えっと……積み荷はこれで全部……かな?」
 念のためと確認すること数回目。それもそのはず、ラサから来たこの少女、ルゥラ・ティーリスにとってはこれが初めての仕事なのだ。
「うう、思ったより時間がかかっちゃいました……納期に間に合うかなあ。うん? でも待てよ、商品探して3日、商談で2日、納品に3日かかったから……」
 指折り数えるルゥラの顔が、どんどん青ざめてゆく。
「あ、あわわわわ……! まに、まにまにまに、間に合わない――!」
 震えるルゥラのポケットから、紙切れが一枚落ちる。
「お嬢さん、落としましたよ」
「あり、ありがとうございます!! うっかり商人のわたしは勿体ないです、こんなのは落としておけばいいんです!!」
 青年が引くほどに頭を下げたルゥラは、受け取った地図をなんとなしに広げた。そして来た時の道を指でたどり、がっくりと頭を垂れる。
「だめです、この道じゃ間に合わない……! で、でも……」
 ルゥラの視点は、地図上の一点に注がれる。道の途中にトカゲのイラストが描かれた場所だ。
「ここを通れば、1日で着く間に合う……でもここには凶暴な魔物がいる……すなわち死……わた、わたたたわたし死んじゃう……」
 今にも泣き出しそうな顔のルゥラであったが、何かに気付いたように顔を上げた。
「そういえば! 幻想には『イレギュラーズ』とかいう頼もしい人たちがいるとかなんとか! ええとええと、ローレット、というところに行けばいいんでしたっけ! あのすみません、ローレットってどこにあぎゃふ!」
「……大丈夫?」
 転倒したルゥラに手を差し伸べる、通りがかりのウォーカー。どこか儚げな印象を持つウォーカーの娘は、ぷるぷるしながら伸ばされた少女の手を引き、助け起こした。

●依頼と報酬
「――それで、その子をローレットに案内したら……依頼の手続きを始めたのよ。だからそのまま引き受けてきたの。これも何かの縁かもしれないしね」
 Erstine・Winstein (p3p007325)は、概要の纏められた書状をテーブルの上に置いた。
 依頼人である商人は、ラサにあるオアシスに向かいたいらしい。だが初めての仕事ゆえか買い付けに手間取り、残すところ数日。最短ルートを通ればなんとか間に合うが、そのルートには強い魔物が複数体出るというのだ。
「なるほど、つまり魔物をばったばったなぎ倒しながら砂漠を行けばいいんですね!?」
 大きなナイフを今にも振り回しそうな勢いで、ウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)が目を輝かせる。
「……ウィズィ様にとっては残念なお話ですが、そうではないようです。概要を見る限り、今回の依頼は護衛に重きを置いたもの、と見受けられます」
 冷静なアリシア・アンジェ・ネイリヴォーム (p3p000669)の言葉を証明するように、概要書にはこう書かれてある。
 今回の任務はあくまで護衛である、と。ただし依頼人や積み荷に危害を及ぼそうものなら、速やかに攻撃、あるいは撃破して構わないとのことだ。
「商人は急いでるんだよな? ということは……馬車を止めている余裕も無いだろうから魔物と併走しつつ、あるいは追ってくるのを攻撃することになりそうだな」
 まさに、ウィリアム・M・アステリズム (p3p001243)の言う通り。基本的には馬車を走らせて急ぐスケジュールとなっているそうだ。
 戦闘が発生するのは、幻想を出た日の夕暮れ時。以前に他の商人がそこを通った時には10体ほどの魔物に襲われたという情報があるらしいから、今回も同等の数の魔物が出てくると見て問題ないだろう。
 魔物はの外見は、一言で言えば『角のあるトカゲ』。ただしサイズは虎くらい。の四足歩行で駆ける際には全速力の馬車よりもわずかに早いらしい。
「ふーん、魔物は星屑が見える幻影の角を放ったり、麻痺効果のある咆吼を上げたりして攻撃するのか。依頼内容的に全て倒す必要はなさそうだけど、馬車を狙ってくる奴に限ってはしっかり倒した方がいいかもしれないな」
 概要書の文字を目で追いながら、タツミ・ロック・ストレージ (p3p007185)が頷いた。
「ふむふむ……商人が乗る馬車に加えて、2台の馬車までなら手配できるんですね。騎乗できる乗り物がある場合はそっちで行動するのもありかもしれませんね! 可愛いボクなら飛ぶとかもできそうです!」
 シマエナガの羽根をぱたり動かし、エナ・イル (p3p004585)がウインクする。
「それで、報酬は――金貨に加えて、酒場での飲食?」
 概要の最後にある、ひときわ大きな文字を回言 世界 (p3p007315)が読み上げた。商人いわく「特急料金」の代わりだとかなんとか。
「へえ、それは楽しそうだ。レパートリーの参考になる料理があるといいな」
 得意料理の幅が広がりそうだと、ポテト=アークライト (p3p000294)は嬉しそうに微笑んだ。

GMコメント

砂漠をゆく荷馬車を護衛し、オアシスの酒場まで届ける依頼となっております。

●成功条件
依頼人と積み荷を目的地に無事届けること。
※魔物の撃破は成功条件に含まれません。

●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。

●日程
朝出発。夕方頃、魔物のいる場所に到達・戦闘。うまく切り抜けられれば、日没直後あたりにオアシスの酒場に到着します。

●リプレイについて
朝出発したところから始まります。

●地形など
戦闘は岩の多い砂漠地帯で行われます。

●敵の情報
ホーンリザード×10
角が生えたトカゲのような見た目をしています。大きさは標準的な虎くらいです。四足歩行で駆けます。全速力の馬車より少し早いくらいの機動力と、一撃では倒れないくらいの体力を持っています。何も攻撃しなければ、すぐに馬車に追いついてきます。
・攻撃手段
幻影角/物近貫【出血】
咆吼/神遠域【麻痺】

●商人について
ルゥラ・ティーリス、16歳。すぐ動揺する新人商人です。
ラサのオアシスにある酒場から発注された食材(干し肉やスパイス)を調達しに、幻想を訪れました。手配やら商談に手間取った結果、酒場に指定された期日に間に合わせるには最短ルートを通るしかないことが判明。しかしそこには凶暴な魔物がおり、戦う力を持たぬ商人では対処が不可能。というわけで、新人商人のルゥラはローレットに護衛を依頼することに決めました。

●スパイス料理
無事にルゥラを酒場へ送り届ければ、酒場の料理を楽しめます。
どれもスパイスを効かせた異国情緒たっぷりの料理となっております。
香草を効かせて焼いた肉、魚と香草の包み焼き、美容と健康に良いハーブスイーツなどなど。飲み物なども含め、プレイングで自由に指定してくださって構いません。

  • 護り、行く道完了
  • GM名雨音瑛
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年12月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
黒焔纏いし朱煌剣
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
神威の星
エナ・イル(p3p004585)
(自称)可愛い小鳥
タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)
空気読め太郎
回言 世界(p3p007315)
貧乏籤
エルス・ティーネ(p3p007325)
砂食む想い
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

リプレイ

●砂漠へ
 用意された馬車とイレギュラーズを前に、ルゥラ・ティーリスは何度も何度も頭を下げた。
「あっ、あの、馬車の護衛と魔物への対応、どうぞ、どうぞよろしくお願いしますね!!」
「大丈夫よルゥラさん、みーんな超強いイレギュラーズだから安心して! 何なら寝ててもいいですよ!」
 ルゥラを安心させるように満面の笑みを向ける『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)はマントを留め、真白の毛並みをした愛馬『ラニオン』に騎乗した。そしてしっかりと装着するゴーグルは、馬車が通過する場所――砂漠への対策だ。
「報酬はゴールドとお料理と聞きました! スパイスの効いたエキゾチックな感じのお料理、美容に良いらしいスイーツ……よだれじゅるりの予感ですが、まずはお仕事成功に全力を尽くしますよ! 偵察と強襲なら空飛ぶボクにドーンとお任せください!」
 『(自称)可愛い小鳥』エナ・イル(p3p004585)が翼を広げ、胸を反らす。
「それにエルスティーネさんが直々に連れてきたとありゃ、頑張るしかねえからなあ」
 『空気読め太郎』タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)が、兄貴風を吹かせつつけらけらと笑う。
「さて、ルゥラさん。いろいろ皆と相談した結果、二台の馬車でオアシスに向かうことにしたわ。私とは別行動になるけれど、このとおり信頼出来る方々ばかりだから安心してね」
 穏やかに笑み、『氷結』Erstine・Winstein(p3p007325)は荷馬車の扉を開けた。
「はっ、はい! みにゃ、みなさんなら大丈夫だって、信じてますので!」
 噛みつつ、ルゥラ、つづけてイレギュラーズは馬車に乗り込む。
 かくして、二台の馬車は動き出した。
 ルゥラは「新人」商人ではあるが、客からしてみれば商人であることには変わりはない。商売に大事なのは信頼、その信頼を得るべく期限に間に合わせようとするルゥラの気持ちはわかるが、と『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は優しく語りかける。
「信頼のために命を落としたら意味がないからな。今回は私たちイレギュラーズを頼ってくれて良かったよ」
「そ、そう言っていただけると、救われます……」
「そんなに萎縮しなくていい――そうだ、ルゥラの話を聞かせてくれないか? 今まで行った場所や、おすすめの物なんかがあったら知りたいな」
「えっと、わたしはラサのとある街からオアシスを経由して幻想に来たくらいの経験しかないのですが……そ、それでもよければ!」
 もちろん、と頷くポテトに、ルゥラは一転目を輝かせて語り始めた。
 金魚のような魚が周囲を飛んでいた、長い吊り橋がかかった崖。時間帯によって色が変わる湖。
 おすすめと言って良いかどうかはわからないが、虹色のオイルのようなものが入った硝子ペンダントを見かけたこと。それと、口の中でぱちぱち弾ける芋が売っていて、仕入れるかどうかかなり悩んでしまったこと――など、など。
 そんな身振りを交えて語られるルゥラの話に、『希望の聖星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は聞き入っていた。
「……なるほどな。世界にはいろんなものがあるんだな。弾ける芋はどう調理するんだろうな? 調理といえば――仕事が終われば、美味い飯が待ってるんだろ?」
「はいっ、とっても美味しいごはんを出してくれるところなんです! みなさんの奥地に合うといいのですが……!」
「そうか、それは楽しみだ。ま、たとえ飯がなくてもバッチリ護るさ。そこは安心してくれ」
 馬車の護衛、という依頼はそう珍しいものではない。だが、今回は併走しての戦闘だ。なんとかなるだろうかと思案しつつ、なんとかするための存在がイレギュラーズ、すなわち自身もその一人であるとウィリアムは思い至る。
 もう一方の馬車、その横をエナが気持ちよさそうに飛んでいた。ご機嫌な少女を時折見遣りながら、『黒焔纏いし朱煌剣』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)はそういえば、とErstineに問いかける。
「どうして依頼を引き受けることにしたの?」
「困ってる子を放っておけなかったからね……何はともあれこれも縁。私達でちゃんと送り届けてあげましょう」
 穏やかに答えながら、Erstineは二台分の馬車が駆ける音を聞く。
「そうね。初仕事で緊張している彼女の為にも、ね」
「そのオアシスに到着するのは夜だったか。その後は美味い飯にありつけるんだろ? ちょろっと魔物の相手をするだけにしてはなかなかに良い仕事だ」
 『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)の言葉に、Erstineとアリシアは楽しみね、と視線を交わした。
「といっても俺自身は不向きなんでね、護衛そのものが。だから、こういうところで役に立たせてもらうさ」
 僅かに視線を上げ、世界は周囲の気配に意識を集中する。感知したのは、風の精霊。挨拶をして依頼するのは、偵察と警戒だ。
 そうして馬車が砂漠地帯へと突入したところで、エナが馬車に声をかける。
「魔物が出るポイントはそろそろですね! エルスティーネさん、ボクは偵察に行きます!」
 と、高度を上げて眼下の風景を観察する。
「見渡す限りの砂漠ですねぇ。あっちも砂、こっちも砂、そしてあっちの角が生えたトカゲみたいなのは――魔物ですねぇ! みなさん! 魔物が! 近付いてますよぅ!」
「魔物はそれぞれ適度に距離を開けながら近付いていますね。突然近付く個体には気をつけるとしましょう」
 ウィズィはラニオンの手綱をしっかりと握り、自身へと勝利のルーンを付与した。
 同時に、世界が操作していた精霊も敵の出現を報せている。
「精霊も敵の襲来を告げているな。あっちの馬車もエナさんの報告で戦闘準備に入るだろう」
「よっし、それじゃ食事の前の運動といこうか!」
 タツミは双刀『煌輝』の一振りを手に身構え、迎撃態勢を整えた。

●駆ける者たち
 馬車の車輪と魔物の脚が、砂煙を巻き起こす。夕陽で赤く濁る砂塵の向こうに魔物たちを見据え、吸血鬼とスカイウェザーは一瞬だけ視線を交わした。
「私はErstine・Winstein。この馬車を襲うつもりなら、容赦はしないわ」
「そしてお待ちかね! この可愛いボクがエナ・イルちゃんですよ! どこからでもかかってくるのです!」
 距離を詰めようととするホーンリザード、名乗りを上げて惹きつける二人。次いで響き渡るのはホーンリザードの咆吼だ。空気を揺らすほどの轟音は、Erstineとエナを負傷させるに至る。
 ただならぬ戦闘の状況に気圧されたのか、ルゥラはガタガタと震え出した。
「あ、あの、ぽ、ポテトさん、だいだいだい、大丈夫ですか……?」
「勿論、大丈夫だ。私達は、絶対にルゥラと荷物をオアシスまで無事に届ける。だから怖がることはない、安心してくれ」
 涙目となるルゥラに微笑みかけ、ポテトは特に怪我の度合いの大きいErstineを癒す。
「さあ、Step on it!! 邪魔者にはご退場願いましょう!」
 ウィズィの掲げた巨大なテーブルナイフが淡い光を纏った。かと思えば、すぐさま彼女の手から離れ、ホーンリザード目がけて飛んでゆく。
 虹彩が炸裂し、複数の個体が同時に吹き飛んだ。その下を、複数のホーンリザードが駆けて来る。アリシアが期待したとおり、一列となって。
「丁度いい具合に並んでくれたわね。頼んだわよ、『レナ』」
 アリシアはカード状の召喚式を生成し、解き放った。喚んだ存在が放つ白焔の魔法弾が、ホーンリザードたちを貫いてゆく。
 怯む数体の存在を、ウィリアムは見逃さない。うねる雷撃を放ち、4体を感電させた。
「よし、これでいくらか頼んだぜ、タツミ」
「ああ、任せろ! これでも――喰らえッ!」
 煌輝を振り下ろし、狙った位置に竜巻を起こすタツミ。数体が地に伏して動けなくなるのを確認しつつ、世界は砂煙を上げて迫る数体を見遣った。
「ホーンリザードは10体ほど出てくる、ってことだったな。つまり、残りは最低でも8体か。まあ、どれだけ出て来ようがせいぜい邪魔させてもらうさ」
 ホーンリザードの動きを観察しながら、世界はまきびしを落としてゆく。避ける個体もいれば見事に踏み抜く個体もいるが、世界にとってはどちらでも構わない。いずれにせよ、馬車との距離を稼ぐことには一役買っているのだから。

●暮れゆく砂漠
 紅と橙の色合いを滲ませていた砂漠に、ひんやりとした空気が漂い始めた。ひとつ、ふたつと星が見え始めた空には薄紫の色も重なり始め、もう間もなく夜が訪れることを予感させる。
 ホーンリザードたちはイレギュラーズの的確な攻撃によって数を減らしながらも、まだ追跡を止めない。他の個体が倒れるのを足蹴にしたホーンリザード1体は、頭を垂れ角の先端を馬車の方へと向けた。
「援護は任せろ、思い切りやってやれ」
「ここで倒れたら美味い飯にありつけないぞ? 数は減ってるんだ、あと少しで乗り切れるだろうさ」
 ポテトの声援でエナが、世界の与える賦活の力でErstineが、それぞれ活力を取り戻す。
「助かりますよぅ、ポテトさん!」
「ありがとう、世界さん」
 礼を述べ、ホーンリザードへと向き直る二人。
「さあ、エルスティーネさん、行きましょう!」
 エナの振るう大戦斧で、ホーンリザードの一体が真っ二つになる。
 砂塵すら凍てつかせる扇状の氷の旋風は、Erstineによるものだ。
「あと何体出てくるのかしら……息の根を止める方が確実だけど……逃げるのも手よね」
「そうですね、5体以上は片付けたと思いますが――っ!?」
 言いかけたウィズィが気付いたのは、馬車を狙うホーンリザードの存在だ。幻影の角と馬車の間に割り込んで、巨大テーブルナイフを構えながら受ける。
「そう簡単に攻撃させるものですか!」
 再び訪れる、星屑の幻影が見える角。それを受けるウィリアムは、表情一つ崩さない。肩口に当たって消えて行く星屑の残滓を一瞥しながら、マントを翻らせる。
「俺の星もまだ本物には届かないが、『それ』よりは俺の輝きの方が強いと言わせて貰うぜ、トカゲ野郎」
 眼前に蒼く輝く剣を出現させ、瞬きを合図に射出する。空気すら切り裂きそうな刃はホーンリザードの背に突き刺さり、動きを止める。
 直後、絡みもつれ合いながら遠ざかってゆくホーンリザード二体。ウィリアムの見立てどおり、背に剣が突き刺さった個体が狂気を発症したらしい。
 それでもまだ見える魔物に、タツミはむしろ口角を上げた。
「おっ、まだやる気か? こっちは手加減しないぜ!」
 タツミが無音で剣を振り下ろすとホーンリザードの角が折れ、砂に埋もれてゆく。同時に額に一文字の傷が刻まれれば、全身が何かによって切り刻まれて行く。アリシアの放った視認出来ぬ斬撃によるものだが、もはや死にゆく者には判別できないだろう。
「――もう、追ってこないわね。御者も無事だし、あとはオアシスに到着するだけね」
 そう、アリシアの言う通りだ。
 敵わぬとみたのか、割に合わぬと思ったのか――しつこく馬車を追っていたホーンリザードたちは、二度と姿を現さなかった。

●スパイス・タイム
 難所を抜けた馬車はわずかに速度を落とし、遠くに見える灯りへと近付いてゆく。灯りに気付いたルゥラはぱっと顔を輝かせて馬車から身を乗り出した。
「イレギュラーズのみなさん! あの光があるところが、オアシスです!」
「へえ、あれが……無事に着きそうで良かった」
 ウィリアムの言葉に、ルゥラは全力で頷く。
「はいっ、みなさんのおかげです! 本当にありがとうございました!」
「礼はオアシスに到着してからだ。お前と積み荷をオアシスに届けるところまでが仕事だからな」
「た、確かに……! ここまで来れば大丈夫だと思っていましたが……そうですね、最後まで油断しちゃだめですよね! というかわたしはそんな感じで商談に時間を……」
「ほらほら、落ち込んでる暇はないぞ? 間もなくオアシスに到着だ、私も積み荷を降ろすを手伝うから、ルゥラは品物の状態も確かめてくれよ?」
 ポテトに言われ、ルゥラは自身の頬をぱちんと叩いた。
「そうでした! みなさんがしっかり仕事をしてくれたおかげで、わたしと積み荷が無事なのです。わたしも商人として、最後まできっちり仕事をして、みせます!」
 その意気だと微笑む、ウィリアムとポテト。
 オアシスに到着した後は水辺に馬車を止め、ルゥラが運び出した積み荷を確認する。全て無事だと胸をなで下ろした後は、イレギュラーズたちをお店へと案内して。
 店の扉を開けたならば、スパイスの香りはもちろん、天井から吊されたさまざまな色のランプが出迎えてくれる。
 席を確保して注文の後、テーブルにずらり並ぶさまざまな料理。立ち上る湯気とエキゾチックな香りは、イレギュラーズたちの食欲を刺激する。
「さてさて、イレギュラーズのみなさん、本当におつかれさまでした、そして改めて……ありがとうございました! 本日はどうぞ遠慮無くお召し上がりください!! それではっ、かんぱーい!! です!!」
 ルゥラの合図で、グラスのかち合う音が店内に響く。口の中でわずかに弾ける水を一口、Erstineはルゥラに声をかけた。
「ルゥラさんもおつかれさま。無事に届けられて、本当に良かったわ」
「いえいえ! Erstineさんには出会った時からここまで本当にお世話になって……あそこで助けてもらえなければ、わたし、きっと商人を諦めていたかもしれませ……いえ、今はわたしのことより料理です! お料理はどうですか、口に合いますか?」
「ふふ、もちろんよたまにはスパイシーな料理も良いものだわ! ルゥラさんも気を遣いすぎず、ちゃんと食べてね。……あら、ウィズィさんのラム肉は香草がたっぷりね。どう、美味しい?」
 ビールを一口、続けてラム肉を頬張るウィズィは破顔した。
「そりゃもう、んまー、ですよ! あー……めちゃくちゃビールに合いますねコレ!」
「ん、ぴりっと来るけど肉の臭みとかなくて美味しい。レシピ教えて貰えないかな」
 肉にまぶされたスパイスの香りを嗅ぎながら、ポテトも料理の味を噛みしめる。
「期待通り……いえ、期待以上ね。この赤い煮込み料理、最初こそ辛みがあるけれど、あとから抜けて行くような爽やかさが面白いわ。それに、疲れが消えていくみたい」
 スプーンでひとすくい、アリシアが呟く。数時間ぶっ通しで馬車に揺られていたのだ、
「折角だし、腹いっぱいになるまで食わなくちゃな! ……おっ、この煮込み肉はすごいぞ。肉の歯ごたえも味わえるのに、噛みちぎれるっていう絶妙な柔らかさだ。店員さん、この料理、追加で5皿頼むな!」
 タツミが店員を呼び止めて追加注文をする。ついでに、とウィリアムが注文するのは、ロール状にした鶏肉の中に野菜と香草が詰められたものだ。
「おっ、ウィリアムも結構食べてるな。使われてるスパイスで味が違うけど、どれも美味しいよな!」
「ああ。それにスパイスが効いているから、食べるそばから食欲が湧いて止まらなくなりそうだ」
 加えて、ものによっては薬効も期待できる。体調を整えたり美容に良かったりと効果はさまざまだが、こういう報酬がプラスでついてくるのもたまには悪くない。
「ぜひ、また頼って欲しいものだな」
「ウィルさんの言うとおりです! ご飯がとっても進みますねぇ……」
「だよなぁ……って、エナはそんなに食べて大丈夫なのか!?」
 タツミが突っ込むのも当然だ。エナの前に重ねられた皿は、既に十枚ほど積み上げられている。
「さっき運動しましたし、ボクは育ち盛りですので問題ありません! そこの店員さん! 美容と健康に良いと噂のスイーツもデザートにお願いしますよぅ。あっ、世界さんは既に食べてますね? お味はどうです?」
「これか? ああ、悪くない――というか、想像以上に美味しいから驚きだ」
 と、世界がスプーンを差し入れるのは、緑と黄色のマーブル鮮やかなアイスクリームのようなもの。緑はミントのような、黄色はサフランのような味わいだが、全体を整える甘味が違和感を抱かせない仕上がりになっている。
「なるほどなるほど。お肌はどうです、ぷるんぷるんのツヤツヤになります?」
「そいつは解らん、美容だとか健康だとか俺にはどうでもいいからな。そこにスイーツがあるというならば俺はただそれを食すだけだ」
 いつの間にか注文していた追加のデザートが、世界の傍に置かれた。光沢のある赤いケーキからは、ジンジャーのような香りがほのかに漂っている。アイスクリームを食べ終えた世界は、すぐに次のスイーツへと手を伸ばした。
 不意に食事の手を止めたErstineは、店内をゆっくりと見回す。
 空の皿を量産する、タツミとエナ。
 さまざまなスパイスの味を楽しむウィリアム。
 ビールに合う料理に舌鼓を打つウィズィ。
 制覇せんばかりの勢いでスイーツを味わう世界。
 放っておくとイレギュラーズをにこにこ見ているだけになりがちなルゥラにも料理を勧めるアリシア。
 手空きの店員にレシピとスパイスが買える場所を聞いてメモするポテト。
 仕事後のこんなひとときも悪くないと、Erstineはランプに照らされる笑顔たちを眺めていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

みなさんの働きで新人商人も積み荷も無事にオアシスに到着することができました!
おつかれさまでした。

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