シナリオ詳細
<学園PPP>えんを尋ねつつ
オープニング
●割れた硝子
…………はーっ、はーっ、はーっ、はーっ、はー……っ。
自分の呼吸がうるさく感じるなんて何時ぶりだろう。
体力測定で豚足と笑われた時だろうか。
4階から1階までジュースを買わされた時だろうか。
授業の直前に教科書を隠されて大急ぎて探した時だろうか。
落ち着かない呼吸を隠すみたいに胸を掴んで屋上へ続く階段を見上げる。
手首に巻いた時計が正確無比な時を刻み続ける。
私をここに追いやったアイツらはもう帰っただろうか。
それとも学校の怪談を独りで試す私を笑うために、まだ残っているだろうか。
どっちでも良い。もうなんだって良い。
アイツらはどうせ成功しないと思って適当に用務員のおっちゃんを指名しやがったけど冗談じゃない。
アイツらを殺してやる。
儀式の時間まで、あと、5……4……3……。
深夜0時0分、封鎖された屋上へ続く階段の4段目を、私はーー……。
●形を得たモノ
「そしてね朝、この旧校舎の門の上にあったんだって。お姉さんに意地悪してた人たちの首だけが……」
車椅子の境界案内人、ラプンツェルが物悲しそうに物語を語り終える。
「今回、みんなにお願いしたいのは《シニガミサマ》を倒すこと」
《シニガミサマ》とは冒頭の物語で少女が喚び出した怪談らしい。
私立PPP学園、その旧校舎に伝わる怪談だ。
深夜0時0分に殺したい人を思い浮かべて、屋上へ続く階段の4階目を踏みしめる儀式。
これを行うと殺したい人の首を《シニガミサマ》が死神の大鎌ではね飛ばしてくれる。
「長い時間と悪い心が、この怪談に実体を与えてしまったみたい」
ラプンツェルがひとつ深呼吸をして説明を続ける。
机に独特な色と形の人形らしき物体を置く。
あなたたちの中にはうっかり正気度が減った人がいたかもしれないが、耐えて欲しい。
「《シニガミサマ》は足のない幽霊が大鎌を持ってる姿で、動くのが速いよ。でもそれだけ」
見ているだけで正気度を喪いそうな人形モドキをラプンツェルが机に座らせ、その横から顔を出す。
「鎌で切り裂く以外は何も出来ない幽霊だから、神秘でバンバン撃てば勝てるよ。この子を殺したい人に見立てて喚び出してね。あ、喚び出したら、みんなは校庭に自動転送される仕組みだよ」
わたしの手作り! と、ラプンツェルが胸を張った。良く見たら彼女の指は絆創膏だらけだ。
ラプンツェルがあなた方をじっと見上げる。
縦に色が別れている瞳が心配そうに揺れ動く。
「わたしは車椅子で足手まといだから、着いていけないけど……ちゃんと帰ってきて」
少女の心配を、あなた方は頷くことで納得させて図書館を出る。
- <学園PPP>えんを尋ねつつ完了
- NM名桜蝶 京嵐
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年12月07日 21時50分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●闇のきざし
非常口を示す灯り以外は人工的な暗闇が漂う校舎。
机は端に寄せられて、椅子も重ねて置かれただけ。教室の後ろで沈黙するロッカーもがらんどう。
硝子の戸から見える教室の中は、それほど物悲しい景色だった。
そこに4人分の足音と話し声が聞こえる。
「こういうのって、落書きもそのままかねぇ?」
「はは、懐かしいなあ……。懐かしんだ所で、あの頃には帰れないけど」
『呪刀持ちの唄歌い』紅楼夢・紫月(p3p007611)がポツリと漏らせば『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151) が苦笑気味に懐かしむ。学校なんて何年ぶりだろうか。
「怪談ね……みんな怖いとかなんとか言いながらも好きだよなぁ」
『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)が気怠い様子で呟けば今度は赤羽がケッと鼻で嗤う。
「犠牲者達は気の毒っていうべきカ、ザマァミロって言うべきかはわからねぇけド、まったク、物騒なのが居たもんだなァ」
言いながら首の裏を掻く。
何とはなしに首の辺りに痒いような手芸の針でつつかれるような、痛み未満が寒気と共にあるけれど、そんなものは冬の気温のせいだ。
そう口の中で呟いたのは大地か赤羽か。
「ここみたいね」
先を歩いていた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が立ち止まり、階段を見上げる。
汚れて埃を被ったプラスチック製の鎖が、虚ろに暗い階段を封じ、高密な闇を膿んでいた。
ここで何人の生徒が殺意と害意を持って《シニガミサマ》を呼んだのだろうか。
案内人が語った少女のように、虐げられた者か。
恋に破れて、つい呪ってしまった者か。
それとも、面白半分で呼んで惨事を見た者か。
はたまた、何も知らなかったまま条件を満たした者か。
いずれにしても、このように形を得てしまうほどの量だったことだけは確か。
それらの闇を霧散させるように世界が【こんなこともあろうかと!】で持っていたサバイバルナイフで鎖を断ち切って進む。
全員、横並びで階段の3段目まで支え合ってなんとか昇る。
「カウント開始、10秒前」
レジーナの凛とした声が響き、時の進みを教える。
3、2、1……4人の片足が、4段目にーー。
●人間の業が生んだモノ
目にした《シニガミサマ》は、意外なほど小さかった。
半透明で簡素なゴミ袋を思わすフォルムで、目だと思われる場所に黒いボタン染みた点があるだけ。
全体のサイズはレジーナよりひと回り小さいくらいしかない。
けれど、けれども。手らしき突起で握りしめるそれは、場違いなほど凶悪だった。
大きな三日月を象ったかのような刃に、ぐねぐねと曲がった柄が伸びる。
数少ない街灯が、その大鎌は大量の血を吸って来たことを教えてくれた。
「先手必勝やねぇ」
トン、と軽やかな足取りで飛び出したのは唄歌いの妖刀遣い、紫月だった。
幼い横顔に似合わぬ古い型ながら美しい銃が《シニガミサマ》の手元を狙う。
そしてそれは、《シニガミサマ》が回避行動に移るよりも素早く高い命中率であった。
大鎌が空を舞う。《シニガミサマ》本体が辛うじて逃げようとする。だが、それに追いつく影がある。
キューブ。それは四角体の物体。その真っ黒いキューブが、ぐぱりと口を開けては閉じる。
世界のスケフィントンの娘だった。
「とっとと、お縄に付きなってーの!」
これは華麗にかわされて行くが、続いてレジーナの魔砲が火を吹く。
こんなにも広大な場所で仲間がそんなに散ってない序盤ならば、巻き込まないとの判断だ。
「理不尽を理不尽で返すこと、それを肯定するあなたはまさしく、人を歪ませる呪いなのよ」
告げるレジーナは学校というものを知らない。知らないけれど、狭く脆い箱庭だとは知っている。
「そんなナマクラデ、俺達の首を持ってけると思ってんのカ?」
大地ーー否、赤羽がせせら笑って花の魔弾を咲かせて散らす。大鎌もなく飛び回っていた《シニガミサマ》はその花弁に触れてしまう。
力もなく低空飛行をするように落下していく、がーー。
「チ、そっちが狙いか!」
世界が気付いて走り込むが、それより数秒早く《シニガミサマ》の手が大鎌の柄を掴んだ。
そのまま大きく振りかぶって、足元の世界を目掛けて降ろそうとする。
スライディングの姿勢から立ち上がる前に上の空間を塞がれている世界には逃げ場がない。
(仕方ねえ、ここは受けて投げ飛ばそう)
幸いにして自分はタフネスだ、と生唾を飲み込んで肩で受ける体勢を整える。そこに涼やかな声が飛ぶ。
「頭、下げときぃ」
紫月が右足を後ろへ引いて左手を下腹部に落とし、そのまま妖刀・不和火を右脇に取る。
強く踏み込んで下から掬うような斬撃が世界の肩、その数ミリ上の《シニガミサマ》の右下から左上を斬り上げる。
「すまん、助かった」
起きあがった世界が礼を言って、術式を編み始める。
虚空に描き出され呼ばわるモノ。もしかしたら聖なるモノか、それとも邪なるモノか。
数多の世で聖邪それぞれの謂れを持つモノ、滑らかな肌に長き身。
一時の生命を得た白蛇が、その牙で《シニガミサマ》を追い立てる。
続くは大地。空の黒羽のペン、その先を地面の方へ向ける。
途端に満ち満ちる中身、なぜなのか。それが吸い上げているものーーそれは死者の怨念。
「お前にぶつけるモノとして、ちょうど良いだろ」
空中をノートに紡ぐ文字は怪異《シニガミサマ》。
淡く光る文字に手を添え、背中を押す優しさで文字を突き出す。
突き出された文字は1本のペンとなり、やがて矢となり、最後に一条の光となる。
悲しき怨念を束ねた光筋はまっすぐに《シニガミサマ》を貫く。
もはや当初の機動力と回避力を落とした《シニガミサマ》。
それでも大鎌を振り上げ続けてふらふらとイレギュラーズに向かう。
「シニガミさん」
その前にレジーナが立ち塞がる。彼女に逃げる素振りはなく、お茶会の誘いに来た淑女にすら見える。
「理不尽を理不尽で返すその意味を、あなたに教えましょう。
我(わたし)達が汝(あなた)の呪いとなるわ」
ぞ、ざわざわざわーーー!
レジーナ・カームバンクルの像が歪み、膨れあがる。否、違う。膨張ではない。増幅である。
そこには小柄な少女はおらず、歴然たる女王が在った。
そして莫大で爆発的な魔力がそのままの暴力性を保って、怪異《シニガミサマ》を飲み込んだ。
●六芒星の願い
激戦の痕だけが今宵のことを物語る、そんな静寂だった。
ふと何かに気付いた大地が歩き出し、校庭の隅へしゃがんだ。
それは表面は黒く、内側から白い綿を露出させた歪な楕円形の物体。
案内人の少女が作り、持たせてくれた身代わり人形の頭部だった。砂や汚れを簡単に払って抱きしめる。
「ありがとう。戻ったら新しい身体を作ろうか」
がらら……と、夜の校庭にラインカーの音が響いた。3人が振り返る。
「ねえ、手伝ってくれる?」
取り壊される校舎だけれど、その後がどんなものになっても怪異が生まれないようにしたいの、とレジーナは言った。それに3人が頷く。
まず、レジーナが六芒星の陣を描く。生まれて初めて使ったはずのラインカーだが、意外と上手い。
「上手やねぇ。すごいなぁ」
「我(わたし)もビックリよ。結構、できるものね」
それから4人が隅に立つと下に手を開いて、校庭全体に六芒星の陣を伸ばす。
伸ばしきったところで今度は上に開いた手をあげる。最後に陣へ魔力を流すと結界が完成した。
「取り壊した後はどうするんだろうな。駐車場とか?」
のびながら世界が工事案内の看板を探した。残念ながら発見できず、大きなあくびを溢した。
にゃあ、うにゃああ。真夜中に猫が鳴くなんて、少し無気味だ。けれどーー。
「ああ、ウルタール。お腹減ったロ、帰ったらメシにしようなァ」
赤羽が懐で甘える子猫をあやしながら、上機嫌に喉を撫でてやる。
1人、長めの黙祷を捧げていた紫月も子猫の鳴き声に振り返る。
「かわええ! ウルタール言うの?」
それが合図だったみたいに世界とレジーナも集まって、子猫を構い出した。
よほど人懐こい性格なのだろう、子猫はゴロゴロと喉を鳴らす。
めいめいに可愛がれて子猫が満足した辺りで、4人はゆっくり歩き出した。
「そろそろ帰ろう。やっぱ寒いよ」
「そーそー、腹も減ったし」
大地が寒がって世界は空腹を訴える。それに紫月とレジーナが同意する。
「めでたし、めでたしで終わったしなぁ」
「そうね。ねえ、帰ったらみんなで食べに行かない?」
これからを生きる学生たちは思い悩んで、ぶつかり合うのだろう。でもそれは、成長できる証。
そうだと信じて、4人のイレギュラーズは朝に帰って行った。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
学園モノだ!学園モノといったら夜の校舎!!夜の校舎といったらホラー!!!
形を得た悪意《シニガミサマ》を倒して貰うシナリオです
以下、詳しい説明です。
●怪異《シニガミサマ》
見た目は大鎌を持った幽霊
回避・機動力が異様に高いが攻撃力は低い
神秘攻撃が弱点
●フィールド
・旧校舎
4階立ての一般的な校舎、来春に取り壊し予定。
門は閉じてるが、案内人パワーで校舎の中からスタート。気にしないで。
屋上へ続く階段前に錆びた鎖がかかってるが、跨げる高さ。
・校庭
一般的な高校の校庭なので、隠れる所はない。
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