PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<青海のバッカニア>Expect

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●とりかじいっぱい
 新天地を目指すという、海洋王国の見果てぬ夢。幾度となく失敗したこの試み、失敗した理由はいくつかあるが、分かりやすい理由として挙げられるのものの一つが資金難である。金がないと乗組員を雇えない。ただでさえ無事で帰れるかわからないのだ。大枚を叩かないと人手が集まらないのである。そうして人手が集まらなくなった結果、組織率が下がって船出が出来なくなるのである。

「というわけで、君達には私掠戦の手伝いをしてもらいたいと思う」
 ギルドの仕事斡旋係が君達に説明を始める。
「依頼人によると、近日中に幻想のとある貴族が遠方から手に入れた宝物を海路で輸送するらしい。これを襲って制圧し、引き渡しの代金と、提督に掛けた身代金の要求でたっぷりと儲ける……のが今回の目標というわけだな」
 君達はテーブルの上に広げられた海図を見つめる。青年は羽ペンで海図に矢印を書き込み始めた。
「依頼主からは提督以外の命は生死問わずという事になっているが、穏便にまとめるならなるべく人死には少なくなるようにした方がいいな」
 そして青年は懐から一枚の肖像画を取り出して広げる。
「そして、今回襲う予定の船を指揮するのがこの男、ファルネーゼ提督だ。彼自身も高名な探険家で、様々な宝物を手に入れ身に帯びている。彼がいることで艦隊の士気は非常に高いが、同時に彼を取り押さえることが出来れば水兵たちはあっという間に降伏するだろう。頭の片隅にでも入れておいてくれ」

「色々と微妙な任務だ。油断せずに臨んでくれ」

●嵐の剣
 快速のキャラベル船2隻に乗り込み、君達は海原を進む。水平線の彼方には、既に大量の砲門で厳重に身を守るガレオン船の姿が見える。
「行くぞ! 覚悟を決めろよ!」
 船乗りが叫びながら帆を引き、舵輪を大きく回す。二隻が海賊旗を掲げ、空砲を鳴らしながらガレオン戦へと襲い掛かっていく。ガレオン戦は一気に帆を広げ、その場を逃げ去ろうと動き出す。しかし海洋の船乗りは慣れた操船術で素早く追いすがる。
「キャラベルとガレオンじゃ船速は比べ物にならねえよ! あんたらも準備してくれ!」
 船長は叫ぶ。ガレオンも覚悟を決めたのか、船端にぞろぞろと小銃を構えた水兵たちが姿を見せた。
「もう一度確認するぞ。船長は生け捕り! 中にある宝物は傷つけるなよ! これを守れなきゃ、利鞘が一気に減っちまうからな!」
 水兵が船端に結び付けられた大砲を放つ。爆音が響き渡り、咄嗟に水兵たちは身を縮めた。
「さあ行けよ、天下のイレギュラーズなら、上手いことやってくれ!」

 一方、船室からはトリコーンハットを被った男がぬっと姿を現す。彼はカトラスを抜き放ち、辺り一面に鋭い風を吹かせる。
「さあ行くぞ。我は各員がその義務を尽くすことを期待している」

GMコメント

 影絵企鵝です。バッカニア依頼二つ目です。よろしくお願いします。
 という事で。

●目標
 ガレオン船の制圧

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 昼。海上及び船上で戦闘を行います。
 味方の船のタイプはキャラベル船2隻。船乗りの操船術も合わさって簡単には撃沈されない。
 敵の船のタイプはガレオン船。三層構造でたくさんの船員が乗り込んでいます。
 キャラベルには梯子が積んでありますが、飛行技術があると便利かもしれません。

●敵
☆トラファルガー提督
 幻想の貴族が所有する宝物を輸送している最中の提督。彼を捕縛すれば一発で艦隊を降伏させられる。だが彼も歴戦の水兵であるため注意。また、彼だけは生け捕りにする必要がある。

・行動方針
→鼓舞
 自ら前線に立つことで兵士の精神をより強固なものにする。

・攻撃方法
→嵐のカトラス
 水と風の魔力を秘めたカトラスを振るいます。まともに喰らえば船の外に放り出されてしまうでしょう。
→火鼠の衣
 火の魔力を籠めた水兵の軍服です。不用意に近づくとやけどしてしまいます。
→金剛の銃
 土の魔力を籠めた拳銃です。弾丸は傷の中で膨れ上がり、激しい痛みを齎します。

☆水兵×20
 船を守る為に直接戦う兵士です。それなりに訓練されています。

・攻撃方法
→連装銃
 六発装填の回転式の小銃です。練達製の特注品です。威力は高いので気を付けましょう。
→カトラス
 ただの曲刀です。

☆水夫×20
 船を操作する為の人手です。彼らが無事だと船が悠々と機能してしまいます。彼らを沈黙させることも考えましょう。

・攻撃方法
 ありません。

●TIPS
☆基本的に船員は生死問わずだが、あまりやり過ぎると幻想に付与される悪名が増えてしまう。
 →逆もしかり。海賊は上手くやるのが第一だ。

●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

  • <青海のバッカニア>Expect完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月09日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ニル=エルサリス(p3p002400)
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
桐神 きり(p3p007718)

リプレイ

●いざ突撃
 二隻のキャラベル船が、渦を描くようにしながらガレオン船の周囲を巡る。側面につこうものなら、三層甲板から覗く大量の砲門にハチの巣とされてしまう。ガレオンの旋回に合わせてその船首と船尾へ挟み込むように回り込み、徹底して敵の砲撃を避けるのだ。

 ガレオンとの距離が縮まるほどに旋回の角度も急になり、キャラベルそのものが大きく傾き始める。船のロープに掴まって姿勢を保ちながら、ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は甲板を駆け回る敵水兵の姿を見つめる。その顔は普段と変わらぬ仏頂面である。
「意外と金銭を目的としたただの海賊行為は初めてなのです。身代金誘拐もそうでしょうか?」
「と、すると、あなたは他にも海賊をやった事があるの?」
 ルチア・アフラニア(p3p006865)がヘイゼルに尋ねるが、彼女は肩を竦めるばかりだ。
「さあ? ともあれ、こういった事は後で金銭だけで手打にするために遣り過ぎない事が重要なのですよね」
「……ふむ」
 ルチアは首を傾げる。只者ならぬ風情を漂わせている彼女がどうにも気にかかっていたが、しかしガレオン戦との距離は刻一刻と近づいてきている。これ以上彼女の謎を考えてもいられない。ヘイゼルも動き出した。
「さあ、潜航班の方々もお待ちかねのはず。そろそろ乗り込むことにしましょう」
 船乗りが小さな銅鑼を打ち鳴らす。それを合図に、巧みな操船でキャラベルの背後に隠れていた黒いコグ船が姿を現した。帆で一杯に風を浴び、一気にガレオン船へと近づいていく。砲弾がいくつも飛ぶが、はためく大海賊の旗印が、それを寄せ付けようとしない。
「行くぜ!」
 プラック・クラケーン(p3p006804)は迷うことなく船をガレオン船の船側にぶつけた。そのまま縄梯子を船縁に引っかけ、敵が駆け寄る前に甲板へと飛び乗る。彼が胸を叩くと、纏うコートが大音量のヘビーメタルを歌い始めた。水兵が何事か叫んでいるが、爆音がいとも簡単に掻き消してしまう。プラックは得意げな顔で言い放った。
「トラファルガー・ファルネーゼ! 部下の命が惜しかったら、『悪魔の呼び声号』の船長とタイマンしやがれ!」
 ガントレットを構える彼を前に、提督は静かにカトラスの柄頭に手を掛ける。その瞬間、潮風が荒れ狂って爆音を跳ね除けた。
「蛸の髭の海賊旗を掲げてくるか。……“彼奴”の類縁ならば、加減は必要あるまい」
 提督は帽子を被り直し、腰に差した拳銃を抜いて引き金を引く。弾丸が肩口に突き刺さった途端、結晶化して傷口を広げる。
「ぐおっ!」
 プラックが怯んだ瞬間、水兵達が一斉に小銃を向ける。いきなりピンチだ。
「させないわ!」
 マストから吊るしたロープを使って甲板へと飛び移り、ルチアがプラックの側へ駆け寄り肩口の傷へ掌の光を当てる。傷を抉る結晶が砕けて地面に落ち、溢れる血を止める。ルチアは両手を己の正面に差し出し、パンクラチオンの構えを取りながら提督を見据える。
「さて、あなたには恨みは無いけど、ちょっと捕まって貰うわよ」
「……出来るものなら」
 再び彼は風を吹かせ、爆音を彼方へ追いやる。
「一番から十番、下層へ向かえ。そろそろ来るはずだ」
 兵士は頷くと、ライフルを担いで一斉に船室へと飛び込んでいった。

 一方その頃、海に飛び込んだエイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は白熊の鋭い爪を立ててガレオン船の船側を豪快に駆け登っていく。砲門剥き出しの砲口に突撃した彼は、鋭い張り手を砲門へ叩き込む。鈍い音と共に留め金が外れ、待ち構えていた水夫ごと大砲は船壁に激突する。飛び込んだエイヴァンの巨躯を、水夫達は愕然とした顔で見る。
「おう。邪魔するぜ」
 手を掲げてにこやかに挨拶した瞬間、レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)にニル=エルサリス(p3p002400)が次々に船室へ飛び込んできた。
「ちょっと眠っとけ」
「うちのでーえすしーをくらうのだお!」
 二人は一斉に水夫へ襲い掛かり、当身や絞め上げを喰らわせ沈黙させる。水夫は歯を食い縛って叫びながら、モップや砲弾を手に突っ込んできた。
「ふむふむ。そんな動きではうちを捉えることは出来ないんだにゃあ」
 敵のモップを掴むと、ニルはそのまま力任せに腕を捻り上げる。水夫が悲鳴を上げた瞬間、鳩尾へローキックを叩き込んで突き飛ばす。丁度もう一人が砲弾を振り下ろしてきたから、足払いをかけて転ばせる。そのまま関節を極めて腕を側の縄で縛り上げる。
「背が小さくてかわいいからって油断なんかしたらダメなんだお?」
 そうこうしているうちに水兵達が慌ただしく隔壁のドアを開いて飛び込んできた。隊列を急いで組み直す彼らは、揃って苦虫を噛み潰したような顔をしている。レイチェルは足下から這い登ってきた鼠をその掌に載せ、したり顔を浮かべる。
「悪いな。見え見えの罠には乗れねえ性質なんでね」
 この船には一つだけすっからかんの砲口があった。ここに海賊を誘い込み、待ち構えていた兵士が銃弾で始末するのである。しかし彼女が事前に鼠を放った御蔭でその罠はすっかり丸見えであった。一人の水兵は舌打ちすると、引き金に指をかける。。
「構え、撃て――」
 しかしその時、更に別の砲口から、翼を折り畳んだカイト・シャルラハ(p3p000684)が弾丸のように飛び込んできた。砲身にダイレクトアタックをかまし、兵士の隊列の横から襲い掛かる。
「どけどけい! 未来の大航海士のお通りだぜ!」
 砲身が破城鎚の如く襲い掛かり、兵士は壁へと押しやられていく。カイトはそのまま三又の槍を振るい、炎を纏わせ兵士を切りつける。兵士は咄嗟にライフルを構えて受け止め、カトラスを抜こうとする。
「そうはさせるかっての!」
 カイトは素早く嘴で兵士の頭を小突き、気を失わせる。しかし別の兵士が銃身を振り抜き、彼の頭を打ち据える。カイトは咄嗟に飛び退いた。
「いってえ!」
 彼が体勢を崩した隙に兵士はのしかかる砲門を押し退け、一斉に銃を構える。
「実は、もう一人いるんですよねえ」
 そこへ、背後から桐神 きり(p3p007718)がこっそりと接近する。その腕に魔力を纏わせ、兵士の後頭部を小突く。突然大量の魔力を流し込まれた彼らは、呻いてその場に昏倒する。
 背後から奇襲をかけてきたきりを前に、ふと彼らの銃口が迷う。その隙にエイヴァン達が一斉に殴りかかった。きりも懐へ潜り込み、再び魔力を叩き込んで気絶させる。
「他国の船を襲って金目の物を奪い去る。いやー、これぞ海賊ですね! 泣く子も黙るとか後世に伝えてもらうべく、頑張っちゃうとしましょうか!」
 けろりと言い放つと、きりはうきうきと胸を弾ませ上の甲板へと向かうのだった。

●英雄を抑えろ
 大砲が放たれ、砲窓から突き出た砲身が反動で中へと引っ込む。その隙を突いて、ヘイゼルは船内へと飛び込んだ。水夫は咄嗟にモップを手に取るが、彼女は素早く拳を繰り出し、魔力を叩き込んで気を失わせる。
「さて、急がなければ」
 手の内で魔力の糸を紡ぎながら、彼女は甲板を目指して走り出した。

 その頃、甲板では激しい嵐が吹き荒れていた。プラックとルチアはその風に揉まれ、満足に身動きが取れない。しかし、プラックは片意地張って啖呵を切る。
「ぐっ……! こんなもんでこのプラック・クラケーンがくたばると思ったら大間違いだぜ!」
「そうかもしれんな」
 提督は言い放つと、カトラスを抜き放ち、鋭く切っ先を突き出す。水兵達が一斉に引き金を引き、強風と共に弾丸の雨が襲い掛かり、プラックは海の中へと放り出された。それを見届けた提督は、ぐるりとルチアへ向き直る。ルチアは咄嗟に身構えるが、提督の放った結晶弾が脇腹を鋭く抉った。激痛に苛まれ、彼女は思わずその場に崩れる。
「二人で囮は、ちょっと荷が重かったかしらね……」
「だが、それを引き受けるだけの価値はあっただろうか」
 その時、船室の扉がいきなり内から開き、深紅の糸を周囲に広げたヘイゼルが飛び出す。兵士が銃口を向ける間もなく、伸びた赤い糸が水兵を絡め取り、生命力を奪い取っていく。
「さあ、今度はこちらを相手にして頂きますよ」
 ヘイゼルは両手を交差させるように構え、再び糸を放つ。兵士達は曲刀を抜き放ち、素早く切り落としていった。提督は短銃を構えるが、ヘイゼルは咄嗟にマストの陰に隠れて銃弾を逃れる。
「隠れても無駄だ」
 提督はカトラスをその場で振るう。渦を巻くように吹き荒れた風が、ヘイゼルの身体を絡め取り、船端へと突き出す。飛び出した水兵達が、次々にヘイゼルへ切りかかろうとする。
「させるかよっ!」
 刹那、船室から飛び出したカイトが緋色の大翼を広げる。兵士達の頭上に影を下ろして気を引き、彼らの剣が迷った隙を突いて槍を水平に構えた。
「行くぜ!」
 彼は一直線に飛び降り、槍の石突を提督に叩きつける。その瞬間、提督の纏うコートが青白く燃え上がり、カイトに襲い掛かった。カイトは咄嗟に飛び上がる。
「うわ、あっちい!」
 カイトは咄嗟に上空へ舞い上がる。提督はカトラスを構え、強烈な旋風を巻き起こす。だが、彼は大きく翼を広げてその風に乗り、水兵達の放つ銃弾を全て躱していく。
「俺は風読禽だ! アンタの起こす風だって読み切って見せるぜ!」

 兵士達の眼が空に向かっている隙に、ニルときりが甲板に出てくる。ニルは両手で犬の顔を形作ると、目の前の水兵達に向かって一気に突き出した。
「カーッ! なのだお!」
 練り上げられた気勢は衝撃波に変わり、水兵達に襲い掛かる。彼らは咄嗟に身を縮こまらせた。ニルは咳き込みながら提督の目の前へ飛び込む。
「はー、やっぱ喉がいてえお」
 ニルは提督の膝を狙って鋭く踵を繰り出す。コートから噴き出した焔に巻かれるが、ニルは怯まない。ルチアは二人が対峙している間に何とか起き上がり、そんな彼女へ癒しの光を当てた。
「銃弾に気を付けてね。相当痛いわよ」
「了解でーす!」
 きりは手刀を構えると、腰溜めの姿勢から一気に手を振り下ろす。彼女の瞳が妖しい紫色に輝き、斬撃が光となって提督の肩口を切り裂く。焔が燃え上がるが、間合いを取る彼女には届かない。
「さあ、力でねじ伏せ奪い取りますよ! 短期決戦こそが私の華、お見せしましょう我が力!」
「敵の動きに惑わされるな。迷いは動きの澱みとなり、敵に付け入る隙を与える事になる」
 提督は剣を振り上げ、甲板に風を吹かせてきり達を後退りさせる。その隙に水兵達は銃を構えて態勢を整え、次々に引き金を引く。咄嗟にカイトは身を翻し、甲板へと飛び降りた。
「あっぶねっ!」
 イレギュラーズが身動きを取れない隙に、兵士は方陣を組んで提督を守ろうとする。しかし、巨大な盾を構えたエイヴァンがのっそりと姿を現し、そのまま隊列へと襲い掛かる。
「中々いい面構えじゃねえか。うちの連中にも見習わせたいもんだ!」
 盾を構えて銃弾を受け止め、宙高くに跳んで拳を甲板に叩きつける。放たれた衝撃波が、水兵達を軽々と突き飛ばし、隊列に大きな穴を空ける。その隙にレイチェルが踏み込み、掌を切って血の鞭を形成する。
「さあて、お前が一番強い奴か?」
 提督は咄嗟にカトラスを構える。しかし、レイチェルはそれよりも早く血の鞭を振り抜き、その腕を縛り上げた。血から滲みだした彼女の魔力が提督の身体を脅かしていく。
「その嵐の剣は厄介だからなァ。自由にはさせねぇ」
「このカトラスは、腕を封じられた程度でその力を失うようなことは無い」
 提督がカトラスの柄を指先でなぞると、風が吹き荒れレイチェルに襲い掛かる。しかし吹き飛ばされるほどの強さではない。レイチェルは足を踏ん張って歯を剥き出し、右腕に刻まれた術式をなぞる。
「だが全力は出せねえみたいだなァ?」
 レイチェルが指を振るうと、提督の肩が裂けて血が溢れる。提督は顔色一つ変えず、短銃を構えてレイチェルにも結晶弾を叩き込もうとする。
 しかしその時、船端から這い上がってきたプラックが飛び出し、ヘビーメタルをガンガンに響かせながらガントレットの一撃を叩きつけた。腕に纏わりついた焔を振り払い、彼は櫛を手に取りリーゼントを整える。
「俺を忘れて貰っちゃ困るんだよ」
「くっ……」
 不意を突かれた提督は体勢を崩す。僅かな隙を見逃さず、エイヴァンは水兵達の頭上を跳び越えた。盾を正面に突き出し、提督の背中からのしかかって彼を押さえつける。コートから炎が噴き出すが、彼の分厚い毛皮は炎を少しも通さない。そのまま彼は燃えるコートを引っぺがして脇へと放る。
「普通の奴なら熱くて近づけねえってとこだろうが、俺はそうはいかねえんでな」
「……最早、これまでか」
 提督はがっくりとうなだれる。兵士達は顔色を変えた。
「提督!」
 咄嗟に駆け寄ろうとする彼らの前に、ヘイゼルが素早く割り込んで深紅の糸で網を張る。
「そこまでです。提督の命が惜しいのでしたら、即座に武器を置いてください。此方は遊ぶ金が目当てですので、身代金を払う用意があるなら丁重に扱うのですよ。貴方がたが下手なことをしなければ、ね」
「聞いただろ。アンタらの王は俺らに屈した! これ以上逆らわなければ、命までは取らねぇよ」
 レイチェルが言う隣で、ニルも拳を構えて睨みを利かせる。きりはへらへらとした笑みを浮かべて更に兵士達へ言い募る。
「これ以上の戦いは命を削るだけってもんですよ! 大人しく降伏して下さいね!」
「そうだぜ。海賊に遭って命を落とすなんて、勿体ないだろ?」
 カイトはルチアと共に兵士達の背後へと回り込む。立ち尽くす水兵を見上げ、提督は小さく首を振る。
「わかった。わかった。我々の負けだ」
 兵士はその場に跪き、銃と刀を下ろす。両腕を頭の後ろに組んで、彼らは恭順の意志を示したのであった。

●身の振り方を弁えて
 水兵も水夫も、纏めて甲板にあった縄で縛り上げる。彼らはすっかり疲れ果てた面持ちで、ろくに抵抗する様子も見せなかった。きりは彼らを見渡して満足げに頷く。
「これでよーし。船は完全制圧。私達の大勝利です! ……で、これからどうすればいいんですか?」
「このままこいつらの雇い主に伝書を飛ばして、積み荷と水夫を返してほしけりゃ金を出せ、ってやるんだよ」
 プラックは甲板の上に載せた宝箱を小突く。魔法で施錠されていて、簡単には開きそうにない。箱を揺すぶっても音はしない。何が入っているかも想像が付かない。
「簡単に金を出してくれればいいけどな。単純に重要な品ならかっちりした艦隊を組んで運ばせれば良かったんだ。そうしなかったのは艦隊組むほどには人間を雇えねえ、つまり大して金のない奴って事だからな」
 レイチェルは肩を竦め、宝箱を踵で軽く蹴りつける。それでも宝箱はうんともすんとも言わない。船縁に寄りかかっていた提督は、疲れ果てた表情を浮かべた。
「自分の身代金くらいは自分で払える。心配するな」
 彼は一旦言葉を切り、エイヴァンの方をちらりと見遣る。
「エイヴァン=フルブス=グラキオール大佐。まさか貴公とこんな形で会う事になるとはな」
「やれやれ。バレてたのか」
 エイヴァンはバツが悪そうに頭を掻く。
「君の名はそれなりに知れているからな。まさか佐官までが海賊稼業に臨むとは思いもよらなかったが」
「別に佐官としてきたわけじゃねえよ。今日の俺は只のイレギュラーズだ」
「私にとっては変わらんがな」
 海の古強者二人が顔を見合わせている。ルチアはそんな二人の顔を見比べながら尋ねた。
「解放されて、その後はどうするのかしら。護送任務に失敗しちゃったら、その後もまた仕事を任せてもらえるようには思えないけれど」
「まあ放逐でしょうなぁ」
 水兵はぼそぼそと呟いた。ニルはそんな彼らの前でうんと伸びをする。
「でもまあ、それなりに歯応えがあったのは確かなのだお。それにそのカトラスの力、使ったら間違いなく航海に役立ちそうなのだお」
「そもそもこのカトラスの主な用途は順風を吹かせることにあるからな。戦いは二の次だ」
「確かにいつでも順風満帆だったら船旅は相当楽だよな! それはそれで航海士の仕事が減っちまうから、俺にしてみたらちょっと複雑な気分だけどな」
 カイトは船の羅針盤を手にしてじっと眺める。精巧な装飾の施された品物だ。彼は鷹の眼をキラキラさせた。
「……いいなあ。早く大海原に繰り出したいぜ!」
 期待に胸膨らませる彼を見て、水兵達は再びがっくりとうなだれた。遠巻きに見つめていたヘイゼルは、ふと彼らに尋ねる。
「働き口がないのなら、あなた達も一緒に来たらどうでしょうか? ロクな海軍のない他の国よりも、よっぽどいい仕事が出来ると思うのですが……」
「そうだな。なんだったら俺が掛け合ってやろうか。アンタ事務仕事も好きでこなしそうだから、来てくれると嬉しいんだがな」
 エイヴァンは提督の顔を覗き込む。眉間に皺を寄せていたが、やがて彼は頷いた。
「……それなりの地位で遇してもらえるのなら、考えておこう」

 かくして、イレギュラーズの海賊作戦は成功裏に幕を下ろした。期待したほどの額ではなかったがお金が入り、優秀な提督も海洋の軍門に下った。
 こうして、新世界を目指す船出の時は刻一刻と近づいていくのである。



 おわり

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お世話になっております、影絵です。
この度はご参加ありがとうございました。

某海賊映画のBGMを聞きつつ立ち回りもある程度イメージしたりしていましたが、楽しんでいただける出来になっているでしょうか。

またご縁がありましたらご参加ください。
では。

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