PandoraPartyProject

シナリオ詳細

(`・ω・´)ゞもももいもい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●青過ぎる空の下で
 目が冷めてまず感じたのは、日の明るさよりもひどい頭痛だった。
 二日酔いに依るものだ。昨日は祭だからとハメを外しすぎたせいだろう。
 酔いつぶれて屋台で寝ていただなんて、我が事ながら無警戒が過ぎる。
 財布は無事だろうか。思いたち、慌てて懐に手をやって、安堵のため息を漏らす。どうやら、スリや置き引きの類には目をつけられなかったようだ。
 突っ伏すように寝ていたためか、体の節々が痛い。そえに、酷くのどが渇いていた。
 屋台の店主は見当たらない。眠っている客を介抱するのも面倒で、そのまま帰ってしまったのだろうか。
 首を回していると、人の姿が見えた。
 しゃがみ込み、こちらに背を向けている。何か食っているのだろうか。
 だとしたら、水を持っている可能性は高い。分けてもらえれば、有り難いが。
「なあアンタ、食事中のところをすまないが……なあ、聞いているのか?」
 声をかけるも、反応はない。まだ酔っ払っているのかね。だとしたら、夜通し飲んだくれていたことになる。
「ほら、ちょっと、この際酒でもいい。何か飲むものをだな――」
 方に手をやり、振り向かせようとして、絶句した。
 その男の顔に異様なものがあったからだ。
 虚ろな目。酒よりも薬をやっているではという程に生気が感じられない。だが、それは右の瞳だけだ。左の眼は、存在しなかった。
 代わりに、眼窩から一匹の蝶が生えている。
 南国に生息するような、大きくて色彩の強い蝶だ。
 それが男の呼吸に連動しているかのように、羽をゆっくりと前後させている。
 男の口から白い蝶が飛び出した。モンシロチョウが近いだろうか。
 口から。だらしなく開かれた口から。なかにぎっしりとつまったモンシロチョウが飛び出したのだ。
 そこで、気づいた。
 男がしゃがみ込み、熱心にしていた何か。
 その対象――人間は顔中をモンシロチョウで覆い尽くされていた。
 そして、内部に侵入していく白い蝶、蝶、蝶。
 口から、鼻から、耳から。
 やがて顔中を蝶でまみれさせたそれの左目が、ぽとりと落ちる。
 そしてそこから、振り向いた男のものと同じ、大きな蝶が羽化したのだ。
「ひっ――――」
 思わず、尻もちをつく。
 それで命運は決まってしまった。
 顔から蝶を生やしたふたりの男。
 彼らの口から飛び出したモンシロチョウの群が、自分に向かう。
 自分はこれに食われるだろう。そしてこれと同じものになるのだろう。
 ああ、いやだ。
 そんな死に方は、いやだ。
「ひひ、ひひひ」
 そうして、拒絶からあっさりと正気を手放し。
 蝶にまみれた。

●断定的エゴイズム
「イルフォ・シックスが発生したッス」
 ギルドの女が口にしたそれに、ざわつく者もいれば、頭にクエスチョンマークを浮かべる者もいた。
 イルフォ・シックス。
 原因不明とされる災害の一種である。
 病原菌だとも、生物災害だとも言われているが、詳細は定かではない。
 感染したものはイルフォ・シックスに脳を食われ、肉体を乗っ取られる。そして他の脳を求めて感染を広げるのだ。
 発生した村は運悪く祭の最中であり、観光目的の客がいたため一時的に人口が増加していた。
 現在はイルフォ・シックスにより食い荒らされ、村のほぼ全てが感染者とかしているようだ。
「イルフォ・シックスは女王個体を討伐することで収束するッス。別働隊が感染者の注意をひきつけている間に、倒して欲しいッスよ」

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

災害が発生し、とある村の全域が汚染されました。
放置すれば、感染が広がる恐れがあり、非常に危険です。
女王個体を討伐することで被害は収束するでしょう。
迅速な対応が求められています。

このシナリオには別働隊が存在します。
本隊のみで女王個体を捜索するには危険が伴うため、別働隊が感染者を引きつけます。
その内に女王個体を見つけ出し、討伐して下さい。

【用語集】
●イルフォ・シックス
・突発的に発生する災害の一つ。
・感染者は眼球からゴライアストリバネアゲハに近い蝶が生え、脳を食われ、ホラー映画のゾンビのようになってしまいます。
・口から大量のモンシロチョウに似た何かを吐き出し、これらに体内を侵食され尽くすと、同じ感染者となります。
・生前の全速力程度で壊れるまで走り続けることが可能です。

●被害地点
・そこそこの規模の村です。
・運悪く祭の時期であり、観光目的で人口が一時的に増加していました。

【エネミーデータ】
●イルフォ・インファンテリ
・通常感染者。
・身体能力は元々の人物のそれにより大きく左右されます。
・肉体の腐敗が既に進んでおり、防御性能で生前よりかなり劣ります。
・肉体のリミッターを外して行動するので、脆いのですが、生前よりも運動性能に優れています。
・1体がイレギュラーズを発見すると、その情報が村中の感染者に伝わります。

●イルフォ・ケーニギン
・女王個体。
・顔中が蝶で埋め尽くされているので、視認すれば特定可能です。
・戦闘力はさほど高くありませんが、村の中に隠れ潜み、常にイルフォ・インファンテリを十数体従えています。
・イルフォ・ケーニギンが戦闘状態などの生命の危機に陥ると、影響されている全てのイルフォがこれに感づき、女王個体のを守るべく行動を開始します。
・ただし、そのインファンテリが既にイレギュラーズと接触している場合はその限りではありません。現状の行動を継続します。


※注意※
このシナリオは茶零四GMの『(。+・`ω・´)もいもっもい』と連動しています。
両方共に参加するということはないようにお願いします。

  • (`・ω・´)ゞもももいもい完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月24日 22時23分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
伊吹 樹理(p3p000715)
飴色
クー=リトルリトル(p3p000927)
ルージュ・アルダンの勇気
祈祷 琴音(p3p001363)
特異運命座標
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
エドガー(p3p004504)
英雄乃残滓
ブローディア(p3p004657)
静寂望む蒼の牙

リプレイ

●息を引き取った村
 皆、立っている。皆、動いている。皆、走っている。それでもこの村はもう死んでいる。ここには人っ子一人残っちゃいなくて、ここには人の子ひとつ生きてはいない。

 青い空。白い雲。暖かいのか、肌寒いのか。この変わり目の時期はそういったものが気まぐれに顔を出す。
 その日は暖かく、コートを着ずに外へ出たのは正解だったようだ。
 春の訪れを感じるそれは、新しい命の芽吹きを感じずにはいられないだろう。
 ここでなければ、だが。
 あたりを見回して、ひとつため息をつく。
 仲間以外は、誰も見当たらない。正確には話に聞いているアレがいるのだろうが、ここから確認することは出来ない。
 ここは、もう死んだ村だ。
 埋葬はされず、死骸は辱められ、いまなお生者のように振る舞うことを強要されている。
 それでもここは、死んだ村なのだ。
「災害っていうのは、悪い時期を選んで来ているんじゃないかなって時々思うよね」
『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)辟易したような顔をする。
「村全部消毒っていうのはせめて避けられるように、最悪の手前で終わらせないとね」
 既に手遅れではあるが、何もなかったかのように消し尽くすのは気後れするものだ。
「こう、汚物は消毒だーってできる図太さがあればどんなによかったものか」
「災害。災厄。だね」
『飴色』伊吹 樹理(p3p000715)の本職は、被害にあったものを救う側だ。
「今回は、生存者救出は二の次。感染源を倒さなきゃ、救えないんだよね」
 しかし、爆発的に広がっているのであろうそれを思えば、元を断たずに拾える生命もない。
 生物要因か、もしくは外観に特徴のある病原菌起因の災害だと聞いてはいるが。
「群れが一つの細菌みたいで、落ち着かない」
「……嫌やねぇ、ほんま。気味悪ぅて」
『ルージュ・アルダンの勇気』クー=リトルリトル(p3p000927)がゾッとするという風に自身を抱きしめた。
 生物に寄生し、行動を操ったり外観を変形させるタイプの生物は確かに存在する。
 だが、それを群れで行い、ひとつのコミュニティを乗っ取り、あまつさえ命令系統まで構築する種となると聞いたことがなかった。
 個体ではなく、クラスタ単位で侵略してしまうなど。
「蝶に食われて化け物になるなんてぇ、なかなかおぞましいわねぇ」
 不味いアテでも口にしたような表情で、『とにかく酒が飲みたい』祈祷 琴音(p3p001363)。
 ひとの内部に侵入し、脳を食い荒らして自分の棲み家としてしまうイルフォ・シックス。
 親しい者が化物となり、襲ってくるとなれば、物理的な被害もそうだが、精神的な疲弊も酷いものだろう。
「村ひとつは流石に被害が大き過ぎるし、ひとつ頑張るわぁ」
「陽動の成果に期待させていただきましょう」
 多少の焦りを持たないではないが、リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)も皆と同じく予定時刻を待っている。
 全ての感染者を相手取りながら女王個体を討伐するには、時間も戦力も足りていない。
 他のチームが村中の感染者を惹きつける傍ら、こちらは隠れ潜み、女王だけを狙わねばならないのだ。
「その上で、此方も万事を尽くさなければ」
「やれやれ、病原菌、生物災害、と言われても目に映るのが蝶に食われる人間というのはぞっとしないな」
『英雄乃残滓』エドガー(p3p004504)が天を仰ぐ。
 局地的なアポカリプスを目にするようなここにおいて、この清々しい青空が何と皮肉なことか。
「女王感染者が居る事が分かっているのと、此処だけで抑えられるならば不幸中の幸いか」
 もっとも、それは人類種全体で見れば、という程度の気休めに過ぎないが。
『静寂望む蒼の牙』ブローディア(p3p004657)を手にしたサラが、身震いをする。
 呪いのせいで彼女自身が悲鳴や震え声を出すことはないが、敵、災害、病原体、イルフォ・シックスの起こすそれに怯えているのが見て取れた。
 食われた脳をもとに戻せるヒーラーは存在しない。
 たとえ人間としての外見だけは保っていたとしても、中はとうに食い荒らされ、蝶々の棲み家でしか無いのだ。
「こうなってはもう女王感染者を倒すしか出来ることはないのだな」
 予定時刻だと、『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が合図する。
 静かに、されど迅速に。
 16の目により周囲を警戒し、索敵し、注視しながら。
 一行は進む。いまだ何処にいるやもしれぬ女王を探して。

●この先、右方向です
 同じ形をした入れ物が、何を持ってして別のものだと定義しよう。人格か、魂か、哲学か。いずれにせよ、脳を失えば確かに本人ではない。

 壁に張り付き、じっと息を潜めている。潜めている。潜めている。
 口に手を当て、わずかでも呼吸の音が聞こえぬように。
 祈りながら、祈りながら、通り過ぎるのを待っている。
 顔面に、大きな蝶々を生やした男が通り過ぎるのを待っている。
 やがて足音も聞こえなくなった頃、小さくため息をついた。
 女王個体がどこにいるやもわからぬ中で、兵隊に見つかるわけにはいかないのだ。
 陽動が効力をあげているのか、想定よりも兵隊の数は少ない。
 だが、一度見つかれば彼らのネットワークにより達成は困難となるだろう。
 ひっそりと、ひっそりと、ひっそりと。

●皮と肉と骨が残っていれば人間でしょうか
 死んだ後で自分の肉体が実験や移植に使われることは苦だろうか。辱められるのは、動物に食われるのは。生きながらにしては御免こうむるが、死んだ後でならどうだろう。肉体の価値を、当人はそこまで感じているのだろうか。

 エドガーが周辺状況の把握に努めている。
 一定距離までは障害物を無視して見通すことが可能であり、なおかつ視覚外が存在しない彼は、探索、ないしレーダー役としてはすこぶる優秀だ。
 無論、機械のように素早く探知できるわけではない。一般的な人間の視野は200度程だと言われている。しかし、その中の全てを同時に把握し、処理できるほど脳というやつは視覚にリソースを割いてはくれないのだ。
 加えて、今はその認識域を拡大させている。ともすれば、頭痛として反逆してくるその膨大な情報量を、エドガーは必死で纏め上げていた。
 都と違い、区画整理がされていなければ規則的な建築計画に基づいているわけでもない村の中は見通しがいいとは言えない。
 それでも角を曲がったところで人間蝶々とばったり、などと言う不確定要素を取り除けているのは、エドガーに依る功績が大きかった。
 視野内のピント距離を変更。手を上げ、仲間の歩みを止めさせる。

 樹理が高高度の視界から村を見下ろしている。
 いいや、正確には、見下ろしている目を持っているものは樹理本人ではない。
 村の上空を飛び、その視点からの情報を伝えているのは彼女が呼び出した使い魔だ。敵に発見されてはならないこの任務に置いて、ありはしないが、まさか自分の跳ねで目立つように飛び回ることなどやろうはずもない。
 だが、村にいておかしくない生物であれば話は変わる。鳩や雀のような、野生として存在してもおかしくない類であれば良い。彼女は、自分の呼び出したそれと認識を同調させていた。
 鳥がいることは分かっているであろうに、イルフォ・インファンテリが彼女の使い魔に興味を持った様子はない。
 このことから、2つのことが分かる。
 ひとつは、知能がそれほど高くはないということだ。少なくとも、使い魔を操るという知識を持ってはいない。
 もうひとつは、人間だけを狙って食うということだ。
 気味の悪さに寒気を感じながら、鳥の視点よりあたりの付けたほうを指さした。

 デイジーが村の見取り図と睨めっこしている。
 これは事前にギルドの方で用意してもらったものだ。
 祭や納税のような行事時しか出入りの無い村であるため、精度のほどは期待しないでくれとは言われている。
 事実、裏路地や中央通り沿いから視覚になりやすい場所の詳細は地図には載っていない。
 防衛戦力や警邏の乏しい村からすれば、そういった点を部外者に把握されたくはないだろう。用意周到な賊が居れば、それだけで滅びかねない。無理もないと言えた。
 だが、目立つような大きい建物は正しく記載されている。護衛をつけた女王が狭い場所で縮こまっているのも不自然だ。その情報だけでも目ぼしいと言えるだろう。
 と。
 仲間の合図で壁に張り付いた。砂色のマントを深くかぶり、息を鎮める。
 角の向こうで、何かが走り去っていった。
 どうやら、こちらには気づかなかったようだ。陽動班がうまくやっているのか、それとも地味な色を選んだ羽織りが目をくらませてくれたのか。
 ともあれ、進むべきはあたりがついた。

 民家の窓からそっと、クーが外の様子を伺っている。
 こちらに感づいた様子もなく走り去った兵隊級を見届けてから、ほっと一息をついた。
「うちが言うんも何やけど、悪夢みたいなちょうちょやねぇ」
 通り過ぎたあれらはどれもこれも顔に大きな蝶々を生やしていた。
 話には聞いていたが、やはり人間が乗っ取られているようで気持ちが悪い。事前情報がなければ悲鳴をあげていたかもしれなかった。
 既に、この民家自体はチェックを終えている。敵はいない。残念ながら生存者も同様だ。
 ここに来て、未だ生きた人間を見かけていない。最悪のケースもと考えて、かぶりを振る。やめておこう、救出が任務ではないのだ。
 ふと、窓の外、一匹のインファンテリが目についた。
 慌てて隠れるが、どうにも様子がおかしい。何が。そう。歩いている。
 歩いている。あれらは同調し、敵を発見次第全体にそれを伝えるのだと聞いているが、なぜアレは同じ方向に走っていかないのだろう。
 意見を求め、クーは声を出さずに味方の袖を引いた。

 そっと、歩いている個体の後ろを付けている。
 何度か見かけた走る個体とは明らかに真逆の方へと向かうそれ。
 ならばそれが正解への道筋ではなかろうかと。息を潜め、あたりへの警戒を怠らないままについていく。
 距離を詰める必要はなかった。
 琴音の視力は常人よりも遥かに遠くへもピントを合わせることができる。ならば、優先すべきは見失うことよりも作戦の精確さ。焦るあまり、道中で他の個体に見つかっては元も子もないのだ。
 やがて、ひとつの建物にたどり着く。
 少しだけ、他の民家とは趣の違うそれは、教会だろうか。
 皮肉なものだ。自分の格好にも、祭の後でここを乗っ取られたことにも、
 やるせない。熱源を完治できる琴音の目には、内部で動くものが見えている。
 それは命と言うにはあまりに冷たく、しかし静止しているというにはあまりに熱を持ちすぎている。
 ここだ。ここだ。ここなのだろう。
 仲間の視線に、肯定の意味を込めて頷いた。

 教会に入るやいなや。
 注意をひくべく、声の出せぬサラに代わってイルフォ共に呼びかけたブローディアの言葉は果たして伝わったのだろうか。
 いや、その意味がどうなったかはこの際無関係だ。
 ケーニギンに害をなすのだろうと判断したインファンテリらの視線という視線がこちらに向いたのだから。
 問題ない、こちらの意図は伝わっている。
 数体がケーニギンのの護衛としなり、残りが外的を排除すべくこちらへと駆け出してくる。突き進んでくる。飛びかかってくる。
 それを構えた大盾でサラが迎え撃った。
 大きな衝撃にこらえた軸足へ力を込める。
 腐っているためか、こちらへ腕を叩きつけたイルフォのそれが、肘からぼきりと嫌な音を立ててへし折れた。
 すかさず武器を振りかざした仲間の一撃が、インファンテリの首を切り飛ばす。
 なるほど、たしかに脆い。
 だが、数は多く、長期戦はこちらが不利だろう。
 形振り構わぬ兵隊級に向け、再度大盾を構え直した。

 裏口から侵入した悠が女王の様子を窺っている。
 部下をある程度必ず残しているという習性は、ケーニギンの用心深さを強く表している、
 呼吸音のない悠であったとしても、平常であれば女王級や兵隊級の警戒心をすり抜けることはできなかったかもしれない。
 だが、今は別だ。
 仲間が正面からこれ見よがしに相対し、その攻撃を受け止め、あるいは武器を奮っている。
 どれほどであったとしても、少なからずその注意は正面を向くだろう。
 振り回される刃から目をそらすなど、そうそうできるものではない。
 ひっそりと、近づいていく。
 勝負は一瞬だ。ただでさえ、こちらは数で劣っている。その上で分断した隊列をとっているのだ。まともに戦って、いいものではない。
 精細さを欠けば失敗する。石橋を恐れすぎては注意を引く仲間が倒れるだろう。
 同じように隠れ潜む仲間へと合図を送る。
 ハンドサイン。指折りのカウントダウン。
 3、2、1。
 今。

 数が多い。
 その事実にリースリットは整った顔を苦痛のそれに歪めていた。
 無闇矢鱈に振り回される腕を回避し、または盾で受け止め、刺突で返す。
 腐りかけた肉体は脆いが、悪臭が鼻につく。
 切り口から溢れ出るモンシロチョウの群れも、見ていて気分がいいとは消して言えないものだ。
 不快感に顔をしかめた矢先、腕を掴まれた。
 自身が壊れることに躊躇しないイルフォの腕力は、そうそう振り払えるものではない。
 近い。シルエットとして見るならばあれほどに可愛らしい蝶々が、間近で見るならばなんと気持ちの悪いことか。
 亡者の口が開かれる。そこから、先程の傷口から出てきたものと同じ白い蝶のむれが飛び出してくる。
 どこに。
 決まっている。嗚呼、嗚呼。
 蝶の数匹が小さな火炎に包まれた。
 それにも構わず、蝶々共は押さえつけた自分に向けて次から次へと羽ばたいて、近づいて、群がって。
 そうして、自分の中に入ってこようと――

●生きていることを争っている
 そういう生き物だと思うより、そういう現象だと思ったほうがいい。そこに意志がないと思うほうが、幾ばくかは楽だ。

 その瞬間。
 すべての蝶が動きを止めた。
 羽ばたきをやめ、そのまま塵のように崩れていなくなった。
 亡者らは悲しくも正しい、人間としてのそれになり、力なく崩れ落ちる。
 腐りかけの事実は変わらず、被害者と分かっていても嫌悪感から彼らを払い除けた。
 隠れ潜み、ケーニギンに向けて奇襲を図った仲間と視線が交差する。
 うなずき、それを返し、作戦が成功した事実を理解していながらも、周囲への警戒を解くことはない。
 安堵は、確信のあとでいい。
 待つこと、数分。
 やがて悪臭に耐えきれなくなった頃、誰もが大きく息を吐き、肩の力を抜いていた。

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

菜の花。

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