PandoraPartyProject

シナリオ詳細

墓掘りポージィと希望の光

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ぽっかりあいた穴の底

 ざくざくざくざく。

 墓を掘っている。この世界の住民は、物心ついた時から一心不乱に掘っている。
 いずれ来る死を迎えるために、生まれた時から最後の寝床を作るのだ。

 見下ろした月が監視する。逃げ場なんてどこにも無い。
 だから墓を掘っている。意味を知っても知らずとも、ただ淡々と掘っている――。

 隣で掘ってる奴が、つい先日しくじったらしい。
「やってられるか! 死んだ後の事なんざ……俺には関係ねぇだろう!」
 口答えをかき消す銃声。それが聞こえても、俺はシャベルを土に突き立て続けた。
 馬鹿な奴とは言わないさ。当然の怒りだ。ただ、歯向かったって意味はない。
 泥と汗はぬぐえても、染みついちまったこの生き方。
 惰性で生きてる自分をどうにもできない。

 俺はとっくに、「俺」でいる事を諦めた。

●生まれてくる意味。死んでいく意味。
「どんなに生きてたって……立ち止まっちまってたら、何も変わらねぇのにな」
 土の匂いのする黒い本に目を通し、『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)は誰にともなく独りごちた。
 呼ばれて集まった特異運命座標(イレギュラーズ)達に気付くと、いつもの愛想のよさをもって出迎える。
「どーも。今日の依頼はこれ。『墓掘りの世界』についての依頼だ。
 字面からして辛気臭いけど、まぁちょっと聞いてって」

 生まれてから死ぬまで自分の墓を掘り続け、死後その墓に埋められる異世界。
 人が埋められた墓からは木が育ち、やがて実る果実は神々の食事として楽しまれている。

 徹底された監視のもと、人類が減らず増えず、家畜として管理され続ける世界――人の意志など、あって無いような世界。

「本来なら、この物語はジャイアントキリング。一人の青年が自分の生き方に疑問を感じ、仲間を集めて反旗を翻す物語なんだ。
 神々から自分達の生き方を勝ち取るために戦う様は、おじさんも読者として勇気を貰ったよ。
 何度も読んだ作品だから……気づいちゃったんだよね。ある日突然、シナリオが変わった事に」

 主人公たる青年が、反旗を翻すきっかけになった運命の日――隣人が死んだ日、その死に気付いても一切アクションを起こさなかった。
 このままでは青年は死ぬまで墓を掘り続け、他の人々と変わらぬ死を迎えてしまうだろう。
 誰もその生に意味を見出せぬまま、悪夢のように虚ろな日々に蝕まれて――。

「今回の依頼は、この主人公の心を救ってあげる事さ」
 すなわち、元の物語に戻るよう青年を勇気づけてもいいし、
 今の青年の気持ちをくんで、そのまま一生過ごす事を許してやってもいい。

 物語を元通りにしなくてもいいのかと疑問を投げた特異運命座標に、蒼矢は頷く。
「物語の中とはいえ、彼自身の人生だ。どちらに転んでも俺はそれを見届けて図書館に収蔵するよ。
 ただ、このままじゃ最後まで何も救いがないから。皆の手で一度くらいは、彼に希望を与えて欲しいんだ」

 それは、この暗い墓穴の中を生き抜くための一筋の希望。
 泥にまみれた人生も、光があれば素晴らしい。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 暗い墓穴の世界に希望の光を届けましょう!

●目的
 本の主人公「ポージィ」に会い、彼に勇気を与える。

●場所
《墓穴の世界》
 見渡す限り薄暗い森が広がり続けている常夜の世界です。
 人々はその一生を終えるまで自分の墓穴を掘り続けています。

 みんな似たような作業着を着て、与えられているのはシャベルやつるはし等。
 嗜好品は与えられていないようです。

●登場人物
墓掘りポージィ
 この本の世界の主人公です。20代半ばの人間の青年。
 本来なら物語の途中で自分の生き方に疑問を覚え反旗を翻すはずでしたが、
 いつの間にか諦めるようになってしまいました。


 夜空の上に浮かんでいます。神々の支配下にあり、
 月の光の届く場所で不審な動きを見つけると管理者達を呼び寄せます。

管理者
 黒い影のような人型の生き物。定期的に墓穴を覗きに来る監視者です。
 実体があり、取り回しのいい小型の銃を持っています。一般人に毛が生えた程度の戦闘力です。

『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
 この物語に特異運命座標を派遣した境界案内人です。声をかけられない限りは登場せず、呼ばれれば備品の手配などのサポートくらいはしてくれるでしょう。

●攻略時のポイント
・ポージィにどんな希望を与えるか相談の時点で方向性を決めておこう
 神々に反旗を翻させるか、今の生き方を肯定するか。
 別の案になった場合でも、LNのお約束を破るような内容でなければ問題ありません。

・管理者や月への対処しよう
 管理者は特異運命座標の脅威になりえるような戦闘力を持っていません。
 単独でうろついているためそれほど強くはありませんが、
 襲われた時の対処法は用意しておくといいでしょう。

 また、月に見つけられると管理者が寄ってきはじめるため、
 説得に集中しづらくなるかもしれません。

・思いをポージィにぶつけよう
 一緒に食事を共にするもよし、心を込めて説得するもよし。
 勇気づける方法は特異運命座標しだいです。
 彼にどうあって欲しいか伝えてあげると、ポージィの心も動きやすいでしょう。

 それでは、よろしくお願いいたします!

  • 墓掘りポージィと希望の光完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年11月30日 22時30分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
アベル(p3p003719)
失楽園
ミルフィ モノフォニー(p3p005102)
夢見る少女
スー・リソライト(p3p006924)
猫のワルツ

リプレイ


 初めて降り立った異世界は、雨あがりの匂いがした。
「これが《墓穴の世界》」
 ミルフィ(p3p005102) は、ぐるりと周囲を見回してみる。背の高い木があちこちに生えて、地面へまだらに影を落としているようだ。
「想像以上に…暗いねぇー…」
 スー(p3p006924) が夜空を見上げると星はなく、雲の切れ間から銀の月だけが覗いていた。
「あ、なるべく、月の光が届かない所でお話したほうがいいのかなっ?」
 月光を避けようと木陰に向かえば暗さは深まっていくばかり。だからこそ、心には光を灯していなければ。
「頑張りましょう! ポージィさんの墓穴に向かう前に、まずは花畑探しですの!」
 ノリア(p3p000062)が元気付けるように微笑みかける。

 ポージィには、自らの意志で未来を選んで欲しい。
 その点においてパーティの考えは一致しており、後はどんな選択肢があるのか各々で伝えようという事になっていた。
「ありがとうございます。目的地への遠回りにはなりますが、道中の敵は俺が対処しますので」
 ただ、アベル(p3p003719)だけは一歩引いた考えを持っていた。傭兵として過ごす中で、ポージィのように心の折れた人間は珍しくなかったからだ。

(諦めることは救いなら、俺はそれでも良いと思いますがね)

 とはいえ、今回は妹分のミルフィにとっての初依頼。兄貴分として格好いい所を見せておきたいのもまた事実。
「……って、ミルフィ? 走ると監視者にバレますよ!」
「兄様もよければ一緒に花冠を作りましょう!」
 アベルの手を引いて走り出すミルフィを、微笑ましく見守るスーとノリア。
 やがて開けた場所に出ると、そこには一面の花畑が広がっていた。
「ねぇねぇ、兄様みて!! 綺麗な花が咲いているわ!」
 2人が花冠を作る間、スーは身体を温めるべく準備運動を始めていた。前屈から起き上がろうと身を起こした所で、間近にノリアの顔があって思わず尻尾を逆だてる。
「わっ!? び、びっくりしたぁ」
「見つけてしまいましたの!」
 何が、と問う前に示された方を見て、スーは目を瞬いた。花畑の中に土が盛り上がっている場所がある。その中央には細い幼木が生えていた。
「ここって、目的地と結構近い場所だよね」
「はい。銃声が届くくらいには近いのです」
「じゃあ、これーー」

 茎を絡めて結んで、出来た隙間にまた新しい茎を通す。
「………む」
 手本の通りにやっている筈なのに、アベルが作った花冠はなんだか歪な形をしていた。
「ふふっ、兄様ったら不器用さんなのね?」
 こういう格好悪いところをアベルはあまり見せたくないのだが、妹分は何だかとても嬉しそうだ。
「私の花冠と交換しましょう?」
「いえ、この出来では……」
「兄様が作った花冠だから欲しいの」
 初めての依頼に不安はある。この世界にはこわぁい人もいると聞いたから。
 それでも、兄様がそばに居てくれるなら怖くない!


 カツン。
 スコップの先に固い感触があった。まわりの土を穿り返し、そこそこ大きな岩だと知る。
「マジかよ」
 何年も掘り進めたポージィの墓穴は穴倉のようになっていた。彼が小休止をしはじめたところで見知らぬ4人が現れる。
「ねぇ、ポージィさん! 外の世界には素敵なものが溢れているのよ」
 その中から最初に歩み出たのは、牛の耳をもった小柄な少女――ミルフィだった。花冠を手に持って優しく笑いかける。
「どう? 見てみたいとは思わな――」
「断る」
 それは無関心というより拒絶するような即答で、間を取り持つようにすぃとノリアが割って入り、そのままポージィの横を通り抜けて先ほどの岩に手を触れる。
 すると先ほどまで壁に埋まっていた筈の岩が、ごぽんと音を立てて大きな水の球体に吸い込まれた。彼女は纏っていた《海神の揺籠》を上手く使い、障害物を消したのだ。
「わたしは、月光もほとんど差さない深い森を彷徨って生きてきて、ここに連れてこられましたの。でも、どうしてもお教え頂きたい事があって、勇気を出して来ましたの」
 用心深そうなポージィに嘘を語れば、すぐに見透かされてしまう。だからノリアは自分の事を、この世界でも通じるように言い換えながら自出を語った。深海を暗い森に。海の音を木々のざわめきに――。いつしかポージィも自らの事をぽつりぽつりと話に合わせて少しずつだが零すように。ほどよい隙を見つけたら、ノリアは本題に切り込んだ。
「わたしたちは、お墓を、作っていますの。お墓は……誰かが生きていた記憶を、形に残すためのものですの。
 さいきん、この近くで、どなたかがお亡くなりになったと、聞いて。
 いったい、どんな方だったのか、お教えいただきたいですの」
 ノリアの水のように澄んだ目と、泥で濁ったようなポージィの虚ろな目がかち合う。
「詳しくは知らん」
 先に目を逸らしたのはポージィだった。視線をミルフィが持つ花冠へ落とす。
「ところで、それは何処で作った?」

 暗闇に目が慣れきったポージィは、墓穴からはい出る事も一苦労だった。
 星明かりのない空を彼が眩しそうに見上げるうちに、
「――」
 音もなく矢筒から矢を引き抜き、放つアベル。遠くから此方へ向かう管理者――その右足を、鋭く射貫いて縫い付けた。一体動きを封じたが、まだ周囲には蠢く気配がある。ハイセンスでそれらを探りつつ、彼はガスマスクの奥の瞳をスーの方へ向けた。
「本当にやるのですか?」
「うん。私もノリアさんも本気。時が来たら後は任せるね」
「ミルフィはどうにも外の素晴らしさをボージィに伝えたいらしいそうで。
 彼女の行動を支援するのは俺の仕事です」
 踊り子と傭兵。ルーツは違えどプロとしての自覚を持った2人。それ以上交わす言葉は無くとも、仕事の山場に緊張もせず動き出す。

「嬢ちゃん!」
 目が慣れはじめたポージィの視界に飛び込んで来たのは、ノリアが監視者に連れて行かれるところだった。果実という嗜好品を楽しむ神々に、彼女のつるんとした尻尾に美食の気配を感じたのだ。
「わたしのことを、憶えていてほしいですの……!」
 姿が見えなくなる間際、ノリアが残した言葉にポージィは目を見開く。
 狼狽える彼の目の前へ、スーがゆるりと躍り出る。月光のリボンを揺らしながら月明かりの下でステップを踏む彼女は、絵本の中の女神よりも美しい。
「私には小難しい事はわかんないけど!」
 その女神よりも神聖さを持った美女が、ちょっぴり無邪気な笑顔を持って笑いかける。
「このまま穴を掘るにしても、反旗を翻すにしても…って言っても、ポージィさんにはなんの事か分からないと思うけど。
 それはおいといて!なんにせよ、私は貴方を否定しないよ」
 全ては君が思うままに。――でも、その生き方を貫いて、自分を誇れるようにして欲しい。
「自分らしく居る事を諦めちゃいけないんだよ。……自分を見失ったその先は、もーっと辛いんだから」

――だから後悔しないように、ね。 

 その夜、彼女が躍ったのはコンテンポラリーダンス。身体の感じるままに、動く感覚さえも踊りのひとつとして取り入れた、型にはまらない舞踏だ。
「観客は月とポージィさん! それに、遠からんものは音に聞け、近くばよって目にもみよー!ってね!
 ここから私のワンマンショー!」
 何もかもが決められた世界で、スーの踊りは誰よりも自由で、誰もが目を惹きつけられた。
 目を輝かせて見つめるミルフィにウィンクをして、彼女は遠く遠く、群がる監視者を引き連れて、ポージィ達から引き離そうと大きなステップで舞い踊る。
「大人しくしてるなんて私らしくないから! 見せてあげる、これが私の!生き方だーっ!」


 夜の森に鋼の驟雨が降り注ぐ。花畑へと戻る道中、新たにこちらの気配に気づいた監視者をアベルは密かに宵闇へと沈めていった。次を屠ろうとロビン・フッドの弦を引いたところで後ろから聞こえる歌に気付く。甘く切なく聴く者を癒す静寂とバラード。ミルフィの援護が彼を支え、傭兵の弓は何者をも穿つ牙となる!
「押し通ります」
 魔の手を振り払い走り続け、視界に開けたのはあの花畑。独特の花の匂いと、そこに立った幼木が、ポージィの記憶の水底から忘れられた記憶を掘り起こす。

――別れ際の彼女は、咳をしながら笑っていた。
"私ね、もう掘れない身体なの。だからこっそりお邪魔するのも、これで最後"
「やってられるか!」
"埋められて、果実を実らせて……全部終わったら、伐採されちゃうんだって。だから"

"私のことを憶えていて欲しいの"

「死んだ後の事なんざ……俺には関係ねぇだろう!」
 強引な女だった。突然「お隣さんに興味がわいて」なんて押しかけて来て、
 頼まれてもないのに通って来て。

 気づいたらもう、好きだった。
 だから俺は「俺」でいる事を諦めたんだ。
 君を失った世界に一体何の価値がある?

 心の痛みを取り戻して悲しみに染まったポージィへ、柔らかな旋律が降り注ぐ。
 ミルフィがタクトをひと振りすると、オーケストラが現れて幸せの音色を奏ではじめた。美しい旋律の中にアベルもハーモニカも合わさって、自分を取り戻した彼に前を向かせる希望を与えていく。
「これは私たちからのささやかなお祝いよ」
 どんな選択にせよ、貴方が選んだ道に幸福があらんことを。


「そうか。あの嬢ちゃん達はわざと捕まったのか……」
 隣人の墓を見つけた時から、スーとノリアは覚悟を決めていた。失う事の悲しみと、諦めない心。その2つを呼び起こすため、彼女達は勇気を見せたのだ。

「彼女達は強い。俺達が還る場所へ戻れば、恐らくまた会えるでしょう。
……さて」
 元の世界へ戻る間際、消え去る瞬間に、アベルが彼に伝えた事はただひとつ。
「どんな選択をするにしろ、こんなにかわいらしい女の子に応援されたんです。
 男の本懐というものでしょう?」

 頷く墓掘り男の頭には、綺麗な花冠が飾られていた――。

成否

成功

状態異常

なし

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