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シナリオ詳細

オサビレ商店街大復活大作戦!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●どんな世界にもある悲劇
「ジャスクじゃあ、ジャスクが全ての元凶じゃぁ……」
 はげ上がったおじーちゃんがぷるぷるしながら涙を流した。
 足下を吹き飛んでいく新聞紙。
 汚れた石畳の両脇にはひとつも商品を陳列していない商店が何軒もたちならび、
 空の酒瓶を抱いてすすりなく魚屋の店主やさびたハサミを黙って見つめる理容師たちがアンデッドもかくやという生気のなさでゆらゆらと路上に出た。
 遠く丘の上に見えるは総合商品販売店ジャスク。
 住民たちの反対を押し切ってオープンしたその店はオシャレなカフェや品揃え豊富なマーケットが内包された夢のような店だった。
 安さでも品揃えでも店員の数でも負けた商店街はみるみる廃れ、かつては店を継ぐつもりのあった子供は都に逃れていく始末。
 過疎化が進み老人だらけとなったことで購買客が減りジャスクもまた撤退していった。
 残ったのはあの巨大なアキバコと朽ちた商店街。そして悲しみと無力感にくれる老人たちだ。
「じーちゃんたち! 元気をだしてくれよ!」
 そこへ、黒いマントを羽織った男が呼びかけた。
「この商店街はまだ終わっちゃいない。僕が終わらせやしないさ!」
 熱く語るマントの男。
 しかし老人たちは首を振るばかりだ。
「なにかアイデアがあるわけじゃないのだろ?」
「ないけど……お金ならある!」
 懐からじゃらりと音のする布袋を取り出す黒マント。
「しかし、そりゃお前さんの貯金じゃろうに」
「右も左も分からなかった僕に優しくしてくれた皆に……今こそ恩返しをするときだ! 待っててくれ、頼りになる人たちを連れてくるから!」

●どんな世界にもいる希望
「商店街、復活作戦なのです!」
 びしっと依頼書を翳す『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。
 ここはオサビレ商店街で唯一営業が続いている喫茶店『B&S』。
 依頼主はオサビレ商店街……を代表して王都にやってきた黒マントの男である。
 どうやらある日記憶を失って商店街の真ん中で倒れていた所を助けられたのがキッカケでここに住み着いているらしく、名前も大胆に『クロマント』と名乗っている。
「目的は簡単! さびれちゃった商店街に活気を取り戻すのです!」

 手段はとわないが、ワルいことをすると(おじーちゃんたちのメンタル的に)長続きしないのでできる限りまっとうな方法をとりたいとのことだ。
 商売センスを武器に店をもり立ててもいいし、大きなイベントを開いてもいいし、素敵なアイデアで復活を狙ってもいい。
「お金はクロマントさんの他にもおじーちゃんたちが多少は蓄えているのです。それを使ってがんばるのです!」

GMコメント

 いらっしゃいませ、イレギュラーズの皆様。
 ここはオサビレ商店街で唯一営業が続いている喫茶店『B&S』。
 コーヒーがメインの店ですが、カレーやオムライスも作れますよ。
 ではご注文をどうぞ。

【依頼内容】
 オサビレ商店街を復活させること。
 といってもふわっとした内容のままだと着地点を決めづらいので明確に最低成功条件を述べますと『依頼主であるクロマントさんが納得すること』です。
 最低限、一度でもおじーちゃんたちが元気を出せば依頼した分の成果はあったものとしてクロマントさんは納得するでしょう。
 そしてこのシナリオは、その最低ラインからどこまで打ち上げることができるかというトライアルでもあるのです。

【オサビレ商店街】
 老人ばかりの商店街です。
 果物屋、魚屋、肉屋、パン屋、クリーニング屋、床屋(理髪店)、カフェがそれぞれあります。
 土地柄としては幻想フィッツバルディ領の東北側。離れた村です。
 過疎化が進んでおりおじーちゃん層が多いのですが、暮らしづらい場所でもないのでなんかしらのキッカケ(例えば商店街の復活)があれば若者が移り住む可能性があります。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • オサビレ商店街大復活大作戦!完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年03月06日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

世界樹(p3p000634)
 
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
レイア・クニークルス(p3p003228)
いかさまうさぎ
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと

リプレイ

●商店街の八人
 トマトペーストと調味料で炒めた炊米に、薄く広げた卵焼きをのせたもの。俗にいうオムライス。
 鶏肉や豆粉を含んだ喫茶『B&S』の人気メニューだ。
 『梟の郵便屋さん』ニーニア・リーカー(p3p002058)はケチャップのついた口を紙ナプキンでぬぐうと、スプーンを誇らしく掲げた。
「せっかくなら、商店街のおじーちゃんたちにも元気になってもらいたいよね!」
 依頼内容は商店街の復活であり、依頼主のクロマント氏が納得すればそれでよい。しかしながら、ニーニアたちはそれに収まらぬ何かを、この地に感じていたようだ。
 ホットミルクをふーふーとやる『いかさまうさぎ』レイア・クニークルス(p3p003228)も、商店街の良さを出すにはどうすれば? といったことを話し合っている。
「えと、その……」
 スプーンの柄を両手で包むように持つ『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)。
 目の前のカレーを見下ろしてから、ちらりと仲間たちを見やった。
「がんばり、ます」
 動きの大小はあれど気持ちは同じ。コーヒーカップを皿に置き、『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)は長い髪をさっと払った。
「此度の事、見過ごす訳には参りません。依頼が来た以上、全力でお手伝いさせて頂きます」

 古くよりある商店街の小さな喫茶店。苦いコーヒーと家庭的なカレーライスが出るこの店に、『誰ガ為』佐山・勇司(p3p001514)は不思議な落ち着きを感じているように見えた。
「商店街、か」
 やっぱこっちにもあるんだな。と呟いて、テーブルの端に置いてある占いボールを指でなぞった。
 思い出すのは昔のこと。彼が担げ生きていた世界のこと。
 セピア色と呼ぶにはまだ新しい記憶の中に、似たようなテーブルと占いボールがあった。おじさんたちの語る声や煙草のにおい。広げられた英字新聞。
「あっちの世界に居た頃は学校の帰りに買い食いしたり、オマケを貰ったり。あの場所には……たしかにあったんだ」
「あった?」
 コーヒーにお砂糖スティックを数本入れてふーふーしていた『Artifacter』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が、ちらりと顔を上げる。
 勇司は手を翳し、自分の胸に当てた。
「コレが、さ」
 窓から外を見れば、幕を下ろした店や商品箱を空にした店が並んでいる。
「だから俺にできること、してやりたいんだ」
「……うん」
 こく、とユーリエは深く頷いた。
 一方で、真っ黒なコーヒーに自らをうつしこみ、窓の外を見やる『特異運命座標』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)と『散歩する樹』世界樹(p3p000634)。
「色々見失ってる商店街のじーちゃん達に元気を取り戻させあげたいと言う依頼主クロマント氏の気持ち、確かに承ったのじゃ」
「感傷……なのかもしれないな」
 古くなったテーブルの縁。表面のつるっとしたソファの感触。
 イシュトカは一度目を閉じ、コーヒーに口をつけた。
「私が商売を生業とするのは、自転軸は勿論天地の別も無い――そんな宇宙を縁(えにし)で廻す、そこにロマンを感じるからだ」
 自らを語る黒山羊の商人に、世界樹の女はちらりと視線をむける。
「ここにある縁の結節点もまた、むざむざと失わせはしないさ」
 皆の目指すところは、どうやら一致しているようだ。
 彼らはそれぞれコインをテーブルに置くと、席を立った。
 扉を開け、ウェルカムベルの音を背に商店街へと出る。
 よほど来客が珍しいのか、方々の老人たちがちらちらとこちらを見ていた。
 家から出てくる様子は、今のところない。
 世界樹は手を腰に当て、胸を張った。
「まずは、説明会じゃ」

●説得のゆくえ
 オサビレ商店街はよくみる市場と異なり、住居と店舗を融合させた建物を集合させ、訪れれば生活に用いるものの大半が手に入る仕組みになっている。
 市場の発展系であり、そのまた発展系がジャスクのような総合商業施設なのだが、そこが生活の場であるという点で大きく趣旨が異なる。
 難しい説明をしてしまったが、要するにここには互助会があり、集会所があるということだ。
 異世界にあるなにかしらをモデルにしたのか、畳敷きの広いスペースが設けられ、レイアやニーニア、メイメイたちが座布団を並べていく。
 店や周辺の住宅を回った勇司や鶫、イシュトカたちによって商店街とそれに関わる人々が集められ、集会場へとぞろぞろ入っていく。みな顔に覇気は無く、振る舞いもどこか消極的だ。
 一段高い高座がある。
 世界樹がそこに座ってみると、どうしたことだろう。なぜだか尊いもののように見える。中には手を合わせる老人もいるほどだ。
 世界樹はしばし沈黙をとり、皆の緊張が爆発しようという寸前、隙を突くように声を上げた。
「ジャスクの影響で村も過疎化が進み、老人ばかりじゃ」
 事実を述べられた老人たちは、しかし沈むようには見えない。それはさんざん自覚したことだからだ。世界樹の仕事はここからである。
「でも民は残っておる。
 ジャスクが逃げ去った今、この者達はいったいどこで買い物をしたらよいのじゃ?
 この商店街じゃろ? 今、かつて無い程に商店街は必要とされておる」
 認識していた事実。見逃していた事実。
 説得の基本は、この二つをつなげることだと誰かが言った。
 ここで電流が走るがごとく、間に散る火花を生むのだ。
「商店街はジャスクに負けとらん。寧ろ商店街はジャスクに勝ったくらいじゃ。
 だって逃げたんじゃぞ、ジャスク」
 老人たちにどよめきがおこった。
 そんな考え方をしてこなかったからだ。
「わたいは提案する。商店街を再び、憩いの場とすることを」

 世界樹の計画を聞いて賛同した老人たちは、ひとまず別の会場へと移っていった。
 しかし全てではない。半数か、それより少ないかだ。言い方は人によって異なるが『そんなこと言ったってどうしょもないじゃないか』である。
 もとより気持ちが沈んでやる気になれない人たちが、それだけの数いたのだ。
 腕をまくり、高座にあがるユーリエ。
 髪とマントを翻し、老人たちに胸を張る。
「今やらないと!」
 世界樹が静の説得であったのに対して、ユーリエは動の説得を仕掛けた。
 激励、奮起、応援、呼び方は多々あれど目的は一つ。
「今やらないとお孫さんに愛想をつかされて一生会えなくなってしまうかもしれないですよ!」
 一生。
 いつか奇跡の雨がふるやもと諦観を続けていた老人たちが、ちらりと顔を上げた。
「ずっとこういう機会を待っていたんじゃないですか!?
 何の為に今までお店を続けてきたんですか!
 何の為に今まで商店街を守ってきたんですか!」
「私たちは、イベントの開催を計画している」
 隙を突くかのように説明を始めるイシュトカ。
「一週間程度の準備期間をもって、食をテーマとしたイベントを開く。
 商店街の食材を使って数点の料理を提案し、客に実食してもらい、どれが商店街の新名物として相応しいか競うものだ」
「けど、誰も来なかったら……」
「大丈夫、きっと連れてきてみせるよ!」
 ニーニアが立ち上がり、大きな鞄をぽんと叩いた。
 メイメイもまた思わず立ち上がり、こくこくと頷いている。
 勇司がユーリエやイシュトカの隣に並び、拳を握って見せた。
「この商店街の本当の輝きを、嘗ての温かさを知っているのは爺ちゃん達だろ?
 それを取り戻す為に今、力を貸してくれ。
 きっと此処で何もしなかったらきっと後悔する。
 俺達だけじゃなく、皆で力を合わせて、本当の姿を取り戻しに行こうぜ」
「帰ってきたお孫さんが『懐かしい味だなぁ』ってなれるように。また帰りたいって思えるような料理を今から作りましょう。
 そしてそのイベントの郷土料理の事を、お孫さん達にも手紙を出してお知らせしましょう!
 きっと素敵な一日にしますから!」
 ユーリエたちの強い想いは、老人たちの蝋燭に火をつけた。
 とっくに消した筈の願いという蝋燭である。
 ユーリエたちは知っていたのだ。
 クロマント氏が私財をなげうってまで自分たちを雇ったのは、恩義ゆえにあらず。ここを自らのホームとしているからだということを。
 それは恐らく、過疎化によって土地をさった子供や孫たちにも同じであろうことを。
「わかった……やってみよう。やるだけ、やってみようじゃないか」
 老人の一人が立ち上がり、仲間に呼びかけはじめた。
「僕も、できる限りのことはやってみます」
「まず何をやればいいかな」
「どうせ売れねえ品ばっかりなんだ。なんでも使ってくれ」
 火のついた老人たち。レイアがちらりと隣を見れば、座した鶫が目を開けた。
「最低条件はクリアしました。さて、ここから……」
 高座にあがり、頭を下げる。
 改めて。
「皆様方。その熟達の技、お貸し頂いても宜しいでしょうか」
 答えなど、聞くまでも無い。

●言うは易く行うは難し、されど……
「行なえたのなら、それはただの事実となる」
 イシュトカは空き家とかしたいくつかの店舗の整備を始めた。
 彼らが老人たちに提示したのは大きく分けて三つ。
 1.イベントを起こして人を呼ぶこと。
 2.呼んだ人が満足する出来にすること。
 3.定住ないしは定期的に訪れる場にすること。
 口で言うのは簡単だが、それを実現する材料を揃えるのは難しい。
 イシュトカが用意しようとしたのは、『場』であった。
 資材をジャスクに残された廃品をかっぱらうことで経費を浮かせ、空き店舗を改築していく。
 長らく雨樋直しや瓦交換くらいしかやってこなかった老いた土地つき大工を手伝いつつである。
 大工が腰を上げてくれたのは、イシュトカの説明あってのことだ。
 いわく『空き家の整備を行うのは、移住希望者に格安で提供するため。移住者を獲得することは、新しい客を生み出すに止まらず、長期的には店舗の新陳代謝を可能とするから、商店街の復活には必要なことだ』と。
 勿論彼の口のうまさや交渉術も用いたが、重要なのは道理が通っているかだ。大工はこれに納得し、改築を安値で請け負ったのだ。
 一方で勇司は別の形で『場』を整えようとした。
 長らく放置されていた店舗を掃除し、綺麗にするのだ。
 老人たちも自分から掃除を始め、散らかった商店街はみるみる綺麗な姿を取り戻した。
 力仕事が必要な場面には勇司が必ずといっていいほど現われた。彼自身は人助けセンサーの効果だと思っていたかもしれないが、老人たちのために働きたいという彼の強い想いと人柄ゆえの成果だと、周りの者は気づいていた。
 実行によって信頼は増し、それまで消極的だった者や外の人を信用できなかった者も加わりはじめ、商店街は巨大な火の玉のごとく動くようになっていった。
「そうだ。イベントの広告にも手を出さないとな。皆に知って貰えなきゃ」
「大丈夫! そっちは任せて!」
 はばたく翼、大きくなる影。見上げればニーニアが鞄を抱えて空へ飛び上がっていた。
 ニーニアがやろうとしたのは、『人』を集めることだ。
 日帰りできそうなエリアを見極め、チラシ配りをして回った。
「おっ食事~おっ食事~みんなで食べると楽しいな~♪」
 陽気に歌いながら連日チラシを配って回るニーニアのがんばりはいつしか周辺住民の噂にのぼり、やがては見るたびに歓迎されるようになった。
 勿論歌のうまさや人心の掴みやすさもあったはずだが、それ以前にニーニアが本気で皆を呼び込もうとする姿勢やマメさ、なにより毎日回ってくるという行動力に人々が少しずつ動かされたのだ。
 噂にのぼったのは彼女だけではない。メイメイもまた、『人』に興味をもってもらうように一生懸命だった。
 具体的には遠方に手紙を書いたのだ。
 老人たちの息子や孫たち、一人一人に手紙を書いては送り、書いては送った。
 そんなことをしても来てくれないかもしれない。そんな風にいう老人に、メイメイは珍しく強い口調で返した。
「今回の話を聞いたら、来てくれると、思います……! きっと……」
 メイメイは知っていた。
 故郷を捨てたひとの気持ちを。
 勿論、『こんな商店街大嫌いだ』といって出て行った人もいただろう。王都のような華やかな場所で仕事を見つけてもう帰らないつもりの人もいるだろう。そんな人を無理に引き戻そうなんて思ってはいなかった。
 ぽつぽつと言うメイメイの言葉を要約するなら『今回のイベントに遊びに来てくれるだけでも良いです。そこから始まるご縁もあるかもしれません』だ。
 定住は目的だが、コミュニティは他のコミュニティとつながってこそ維持される。
 メイメイの手紙はあちこちに送られ、それまで故郷から離れていた人たちの気持ちをもう一度故郷に向けさせた。
 自分自身で実際に動いて気持ちを伝えたメイメイだからこそ、それが実現できたのだ。
 息子が来てくれるよと伝えきったメイメイは『得意な、こと……何も無くて』といって商店街の掃除を手伝っていたが、そんなことはない。
 みんなちゃんと、メイメイの気持ちの強さとその事実に気づいていた。
 やがて鶫も同じように手紙を出してみるように勧めると、メイメイが実証した甲斐あってか、手紙のやりとりが始まるようになった。
 やるべきことは沢山ある。
 レイアやユーリエは掃除を手伝うかたわら、イベントの満足度をあげるための努力を続けていた。
 ユーリエは『これは使えるんじゃないか』『これを利用できないか』といった具合に商店街にもとからあったものをかき集め、その確実度を引き上げていく。古すぎてよくわかんないものでも、ユーリエは(ギフトの効果で)使い方がわかり、その応用がきくのだ。
 世界樹や鶫も準備を怠ってなどいない。
 鶫はこの地方にある食材や料理の情報を集め、古くからある料理や、この地で新たに根付きそうな料理を考えてリストアップしていった。
 『とりあえず何か新しいものを』ではなく、『この地で継続して作って行けそうなもの』を提示したことで説得力をもった。
 うどんが得意な地域に突然異国の発酵食品を根付かせても困るが、パスタや焼きそば、粉物料理を根付かせるのはスムーズにいくだろうという具合である。
 ポテンシャルを活かして流行りに乗せるのが、復興の近道だと考えたのだ。
 一方で世界樹は、商店街に地元老人たちが集まる場を作りはじめていた。
 大げさなものでなく、お茶会を定期的に開いて集会場をなんとなあくみんな居る場にしたのだ。『居る』というのは重要なことで、それだけで情報は伝わるし反応も起きやすい。外から人を呼ぶ一方で内を固める世界樹の計画は、よりよい相乗効果をもたらした。

 そうして、瞬くような一週間が過ぎ。
 イベントの日がやってきた。

●案ずるより産むが易し
 ジャスクからかっぱらってきたという横断幕には『郷土料理!』の文字が大胆に書き付けられ、遠くからやってきた家族連れや近隣の老人、まだ土地に残っていたやや若い層の人々が商店街に集まった。
 長らく見ていなかった商店街の活気に、老人たちが唖然としている。
 イベントのメインは鶫の料理だ。
 老人層に『オサビレ鍋』や、若者にうけそうなオサビレバーガーやオサビレラーメンといったB級グルメ。それらを並べて試食会を行ない、郷土料理対決とする企画である。
 勿論企画の狙いは土地のポテンシャルを示すことだ。どっちが勝っても『こっちが美味しかった』と主張する人が現われる。
「人を支える要素。その内の一つは、間違いなく『食』です。美味しい料理で、その心がほぐれれば良いのですが」
 そう語っていた鶫の成果は、明確に現われた。
 ただ料理をするだけでなく、その土地を調べて具体的なプランまで示した料理は世界樹が集めた地元老人たちのみならず、遠くからやってきた若年層の心も掴んだ。
「ジャスクは抜け殻になちゃったけど、商店街にはおじーちゃん達が残ってる! クロマントさんだっている! まだまだこれからなんだよ!」
 寄せ書きコーナーを前にしたニーニアは、くるりと振り返った。
 沈む夕日と、やり遂げた顔の老人たち。
 そして八人のイレギュラーズ。
 整備された空き店舗を見た若者がこの店でハンバーガーショップを開くと決めたらしい。やる気を出しすぎた老人に感化されて、通商ルートを築く者も現われた。
 イベントはイシュトカの経理術によって毎年継続可能なコストに抑えられたので、また来年もやるという。
 クロマント氏は、綺麗に生まれ変わった商店街を前に、深呼吸をした。
「ありがとう、みんな。来年は僕たちだけでイベントをやってみるよ。その時は、お客さんとして来てくれるかい?」
 答えなど、聞くまでも無いだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 一週間で、商店街はすっかり見違えました。
 商店街には周辺の老人たちが定期的に集まるようになり、店は毎日開かれるようになるでしょう。若者もちらほらと移り住み、来年のイベントに向けてバージョンアップを考えています。
 きっとこれからは、皆さんの手を離れて商店街のサイクルが続いていくことでしょう。

 適当なイベントを一日ぽつんと開いて、老人たちが一夜の夢を見て、それで終わりというケースも少なくありません。
 言葉だけで説得をして、とりあえず動いて満足して、それで終わりというケースだってあります。
 しかし今回は説得にちゃんと中身をもたせ、説得力のある人と物と価値を生みました。この三つが生み出された以上、もはや商店街は死に体とは言えないでしょう。

 『商店街リザレクション』の称号を……皆さん全員に差し上げるのはちょっと大げさですので一旦、職業商人でもあるイシュトカさんに差し上げます。
 ですが実質皆さんの称号ですので、今回の実績を誇って、お持ち帰りくださいませ。

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