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シナリオ詳細

<物語の娘>恋する帽子屋と地下室の人形姫

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●帽子屋
 女王陛下の御茶会だ。

 おかしな茶会の招待状を手に色鮮やかな花弁をフリルのように薄く重ねて咲き誇る薔薇園を帽子屋が歩く。

 陛下はお留守のようだけど。
 
 薔薇に彩られ迎えられるのは精緻な装飾誇る純白の椅子と円卓が幾つも円舞曲を躍るように配置された茶会会場。卓を飾る大輪の薔薇は紅に染められて甘やかに。

 少年時代を思い出す。この薔薇園の何処かに地下室の入り口があったんだ。陛下の園に隠されし秘密の地下室、勝手に忍び込んだとばれれば只では済むまい。それは、帽子屋だけの秘密の思い出だ。

 トランプ兵が警備する中、時計兎がおみみぴょこぴょこ給仕する。
「帽子屋殿、本日はまた奇矯な、ごほんッ、華やかなお召し物で」
「水銀が俺を酔わすのさ。ははは、紅茶をおくれ」

 日差しにきらきら輝く紅茶のカップは内側に純情なハート柄を飾り詰め、共に頂くはお菓子たち。
 パールの如き輝き放つロックキャンディ、定番のチェックのアイスボックスクッキーに木苺と黒スグリが仲良く並ぶ甘々タルト、カラフルなサワーグミやジェリービーンズ、ハートやクローバーの型に整えられたサンドウィッチにオードブル。

 幻想時計が時を刻んで、微睡むように午後が過ぎていく。そう、失った時間は――二度と戻らぬ。

 ふ、と湯気に混じって吐息零して想うは彼女。
 少年時代、迷い込んだ地下室で出会ったちいさなちいさな人形淑女。持っていた帽子、初めて仕立てた帽子を彼女に贈り、別れた。

 偶然拾った地下室の鍵を大切に大切に仕舞いこんで――けれど、家に帰ると鍵はなかった。何処かで落としてしまったらしい。
 女王陛下の持ち物を外に持ち出すことは、許されない。大人になった今ならわかる。それは必然であったのだろう。

「けれど、嗚呼。会えるなら――」
 また会いたいものだ。
 帽子屋はそう思うのだ。

 ――それは、少年の恋に似て。

●人形
 螺旋階段を下りた先、皆に忘れられた地下室に人形は居る。陶器の肌に白金のウェーブ描いた繊細な髪、薔薇色に染める頬に可憐なドレス、頭には少し歪な帽子を大切に被り。

 ――また君に会いに来るよ。

 遠き日にそう言って優しく微笑んだ彼を待っていた。時計の針が時数える聲も聞こえぬ、陛下にも兵にもお日さまの光にも忘れられたちいさな部屋。

 もう一度その眼に、留まりたい。
 わたしが存在するのだと、思い出してほしい、

 願うのはただそれだけ。
 それだけの願いのなんと絶望的なことだろう?
 だって、声を出すこともできない。
 だって、手を伸ばすこともできない、
 脚を動かして歩いていくことも、できないわ。

 ――わたしには涙を流すことも、できない。

●物語
「『黄金色の昼下がり』、通称『ワンダーランド』。この世界でお茶会があるのよ!」
 ポルックス・ジェミニが眼をきらきらさせて教えてくれる。
「『ワンダーランド』はね、入るとイレギュラーズの皆は、アリスとなるの」
 皆、男も女も世界の住人からはアリスって呼ばれるのよ! とポルックスは楽しそうに笑う。
「おめかしして、お茶会を楽しんできてね」
 ポルックスはそう言ってウインクをする。そして、ふと声を顰めた。
「あのね、お茶会に帽子屋さんがいるの」
 声は少し切なげで、真剣だった。もしかしたらこっちがポルックスの本題なのかもしれない。そうイレギュラーズは思ったものだ。

「薔薇園に地下室への入り口が隠されているの。皆が存在を忘れてしまった地下室よ。
 帽子屋さんは、嘗て薔薇園で地下室への入り口と鍵を見つけて、地下室に入って、可愛らしいお人形さんと出会ったみたい」
 そして、人形と再会を約束したのにもかかわらず鍵を失くし、会いに行けずに数年が経っている――、ポルックスはそう説明をした。

「具体的に何をして欲しい、とかじゃないの。ただ、わたしはそれを貴方に知ってほしいなって思って話したのよ」
 でも、そうね、とポルックスは金糸の髪を揺らして首をかしげた。
「ハッピーエンドが読みたいわ、だって、楽しいお茶会なのだもの」
 なんとかできないかしら? 少女が無茶ぶりをする目をした。例えば、例えば?
「ねえ、貴方はどうしたいと思う? どうしたら、この物語が素敵になるかしら」
 力を貸してほしいの、と子供のような微笑みが願い、その白い手を貴方は取ったのだった。

NMコメント

 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。

 今回はライブノベル用共通シナリオフレーム、不思議の国のアリスをモチーフとした小世界の『黄金色の昼下がり』――通称『ワンダーランド』での冒険となります。この世界の登場人物たちは、皆さんのPCを「アリス」と呼びます。

 ●遊び方
 おめかしをして、お茶会に参加してお茶やお菓子を楽しみ、のんびりと過ごすことができます。それだけでもよいです。なお、女王陛下には会おうとしても会えないのでご注意ください。
 境界案内人ポルックスはもう一つ、「鍵を失くした帽子屋の物語を貴方の力で素敵なものにできないか」と相談をしていました。それに対してどうリアクションし、物語をどう紡ぐかはPC様しだいです。

●サンプルプレイング
「俺がアリス? 何言ってるんだ、俺は男だぞ。ドレスを着る? いやいや、俺は燕尾服で行くぞ。紳士的に。
 仲間が秘密裏に探索するなら俺は兵の気を引いて仲間をサポートしよう。
 時計兎は働き者だな、給仕を手伝おうか。料理がうまければ料理も手伝うんだが。ちょっとぐらいつまみ食いしてもいいか? せっかく招かれたんだからな。そうだ、時計兎やトランプ兵も一緒に食おうぜ。
 そういえば、この薔薇園は見事だな。お前達知ってるか、ここに地下室があると聞いたんだが。何か知っている者がいたら話を聞きたいな」

 キャラクター様の個性やプレイヤー様の自由な発想を発揮する機会になれば、幸いでございます。

  • <物語の娘>恋する帽子屋と地下室の人形姫完了
  • NM名remo
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年11月18日 22時25分
  • 参加人数4/4人
  • 相談2日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
紅楼夢・紫月(p3p007611)
呪刀持ちの唄歌い

リプレイ

 時計兎が席に案内してくれる。

 ようこそアリス、ようこそアリス。
 ご機嫌な日差しに悪戯な風、優しい緑に薔薇のフリル。

 さあさ、おかしな茶会のはじまり、はじまり。


 明るい世界を歩む足取りは溌溂と。
 白と青を基調とした騎士衣装のシャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が真っ直ぐな髪を背に揺らしてぐ、と拳を握る。
「やっぱり物語はハッピーエンドじゃなくっちゃ!」
「物語は、ハッピーエンドがいいですものね!」
 声を揃えるのは銀繻子仕上げに真珠飾りの金襴ドレスに身を包んだヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。
 うん、と頷いて小さな少女がとてとて続く。
「まさか、故郷と混沌以外の世界の、土を踏むことになるとは、な」
「アリス、ようこそ!」
「マリア、だ」
 エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が抑揚薄く訂正し、おっとりと髪揺らす。身に纏うのはお気に入りの衣類を仕立て直したもの――故郷では、お下がりだったもの。
「アリス、血が。大丈夫?」
 心配そうな時計兎が差し出した白ハンカチに微笑み、上質な黒ドレスに赤の逆十字で吸血姫といった風情の紅楼夢・紫月(p3p007611)が呟いた。
「お茶会ねぇ」
 綺麗な爪が刺繍を撫でて。
「アリス、って柄では無いけどゆっくり楽しめるならそれはそれでええかねぇ」
 はんなりとした佳声紡ぎ、小柄ながら熟れた果実のような麗人はふわりと羽織と翼を揺らして椅子に向かう。

 わたあめみたいな雲が空をぷかぷか泳いで、ヴァレーリヤの髪がやわらかに風に揺れた。
「ねえ、昔このお茶会で何か拾った人とかいないかな?」
 仲間の声の目的は皆が理解している。

 薔薇の香りに包まれてエクスマリアはタルトをぱくり。木苺と黒スグリが競うようで甘味と酸味が忙しい。さくりとした食感が楽しいタルトの生地は味わうにつれ柔らかに蕩けるよう。
(ハッピーエンドを、望まれたのだし、な)
 エクスマリアは小さく首をかしげ、給仕の兎に声をかける。辿々しく子供めいた愛らしい声に「どうしたんだいアリス」と兎達が相好を崩している。
「マリア、だ」
 訂正する声は淡々と。

 耳が良い紫月はそんなやりとりにのんびり呟いた。
「手伝おうかねぇ」
 柘榴色に糖蜜の星を散らしたカップケーキを口に運び、甘味がくどくなく広がり、「んー、美味し」と吐息を零して。微風にさらりと流れる濡れ羽の髪は紅い彼岸花を魅せる。
「アリスも聞きたいことがあるの?」

「今日の茶会は貴き姫君を多く招いているのだな」
 個性豊かにして麗しき花々に微笑む帽子屋にエクスマリアが声をかけた。
「ああ、それに、帽子屋、だったな」
「うん?」
「そう名乗るからには、一つ、マリアにも帽子を、仕立てては貰えないだろう、か」
「ほう? それはいいね」
 帽子屋は意気揚々と大きな帽子を取り出した。たっぷり広がるブリム、クラウンに盛られたジオラマめいた街並み、リボンは川が流れるに似て。
「これなんてどうだい」
「ええねぇ、よう似合とるよ」
 帽子屋は別の一つを取り出しふるふると揺らして笑う。
「こちらは鈴生りの薔薇帽子――姫君の可憐さに恥じらい真っ赤になって震えているのさ」

 数分もすれば皆の手に帽子屋からの贈り物が渡り、土産ができた。
 和やかな茶会の隅、笑うシャルレィスはそっと思う。
 ――なんとか、したい。そのために来たんだ。
「女王陛下のお庭は素敵ですわね! ここの事を詳しく知りたいですわ!」
 視界の隅でヴァレーリヤが警備兵を気にしながらさりげなく聞き込みをしている。


 そより、薔薇の薫りを含んだ風が頬を撫でて耳を擽り。

 ――、て。
 ちいさな声。
 それは、紛れもなく助けを求める――、

「……聴こえた!」
 シャルレィスが弾かれるように顔をあげた。人形の助けが確かにその耳に届いたのだ。
「そこに、いるんだ。よーし、がんばるぞー!」
 その方角を視てシャルレィスは拳を握る。
(探し物は得意なんだ。待ってて)
 心の中で念じて青空の瞳が意志に煌めく。
(助けるよ)
 騎士の背でマントが気高く翻る。足元で緑が陽光にきらきら輝いた。

「地下室の場所がわかったんだ」
 集まった4人はこっそり相談し、トランプ兵の一部はエクスマリアが、茶会メンバー達は紫月が引きつけて、その隙にシャルレィスとヴァレーリヤが鍵探しをすることにした。
「地下室からお茶会に戻る道を探そう」
 シャルレィスが捜索ルートを絞っている。
「このルートに絞るなら、短時間でも調べられそうですわね!」
(それにしても、コルセットってどうにも慣れませんわね)
 お洒落は好きだしドレスを着るのは良いのだけれど、とヴァレーリヤがドレスの裾を摘んで眉を下げる。
(うーごーきーにーくーいー!)
 すっと差し伸べられたのはシャルレィスの手。姫君をエスコートする騎士のように凛然と微笑んで。顔を綻ばせるヴァレーリヤに頷いてみせた。
「いこう!」
「ええ!」

 ――仲間のために。
 艶のある歌声がしっとりと薔薇園に響く。紫月が潤い帯びた瞳で蠱惑的に喉を震わせ、歌えば皆が恍惚として聞き入り、風に揺れる薔薇さえも感動を伝えるよう。
 可憐な歌声紡ぐ花の唇からちらりと覗く真珠のような牙。たおやかな手が空気を愛でるように差し伸べられれば皆が夢心地で唄世界に引き込まれていく。

 ――やれるだけのことは、やるとしよう、か。
 エクスマリアは帽子屋が用意する帽子を被り、茶会席の中央スペースで紫月の唄にあわせてくるりとターンする。愛らしい華奢なマリアに皆が眼を惹かれ、帽子屋もにっこり。
 藍方石の如き瞳がぱちりと瞬く。思い出すのは、大きなあいつ。高い肩から見る景色。

 遠く歌が響き、薔薇が鮮やかさを増すよう。

「あ……っ、た」
 咲き誇る薔薇たちの根本で土に埋もれ鈍く光る小さなそれを見付けて青空の瞳が大きく見開かれ、シャルレィスがそれに手を伸ばす。
「あっ、痛たたた!」
 ヴァレーリヤが小さく悲鳴をあげた。ちくり。柔らかな薔薇の茂みに身を潜めていた棘が指先に鋭い痛みを走らせて。

「もー、どうして薔薇ってトゲがあるのかしら」
「そこで何をしているッ!?」
 近くを通りかかり、声に気付いたトランプ兵が誰何する。
「ッ?」
 確認するため薔薇を掻き分けたトランプ兵が動きを止める。そこに居たのは薔薇に囲まれ、仲睦まじく茶会を楽しむシャルレィスとヴァレーリヤだった。
「あら、どうなさいまして? 私達、誰にも邪魔されない場所でお茶を楽しもうと思っていただけなのだけれど」
「そうでしたか、失礼!」
 ヴァレーリヤはこんなこともあろうかと茶会セットを用意していたのだ。キャンディ・ストライプの敷布に並ぶお菓子たちはふわ甘ゼフィールにジャム入りプリャーニキ、カリカリのスーシュキ。

 紅茶を静かに注ぎ、去っていく兵士。シャルレィスが鍵にこびり付いた泥を優しく拭いヴァレーリヤがお菓子とティーセットをテキパキと仕舞い立ち上がる。
「帽子屋さんに報告ですわねー!」

 茶会に戻った2人の耳に燥ぐような声が届く。
「歌姫アリス! 次は何を歌ってくれるの」
「皆で踊ろうよ」
 時計兎がすっかり紫月のファンになって唄をせがんでいるのだ。エクスマリアはトランプ兵にエスコートされて席に戻り、山ほど積まれたお菓子に表情は変えぬまま髪を揺らしていた。紫月は仲間の足音にちらりと目をやり、「おかえり」と傍に寄る。
「帽子屋さん」
 シャルレィスが帽子屋にひたむきな瞳を向けた。
「あのね、薔薇園から声が聞こえるんだ」
 地下室の方角を示せば、帽子屋がハッとする。
「でも、呼んでいるのは私じゃなくて、たった一人、約束の誰かを待っているみたいで。ねえ、貴方に心当たりはないかな?」
 紫月も「そうそう」と柔らかに言葉を重ねた。
「何となく悲しい声が聞こえる気がするんよねぇ。誰かに逢いたくて、ずっと待ってる感じの声がねぇ」
 じっと見つめる瞳はあの日の夕暮れより紅い。
「帽子屋さん、そんな子に心当たりは無いかねぇ?」

 ――出来るならどうか、彼女の嘆きを止めて欲しいんだ。

 シャルレィスが差し出した小さな鍵。帽子屋は大きく息を呑んで震える指でそれを取る。
「アリス、君たちは……」
「マリア、だ」
 エクスマリアが訂正しつつ「特別なのだろう?」と促した。
「おせっかいかもしれませんけれど、事前に話を聞いてきたのでございますわ」
 ヴァレーリヤがそっと説明し、背中を押す。

 ――ありがとう。
 青年が走り出す背を仲間達が見守る。やがてその姿が見えなくなれば誰からともなく顔を合わせた。
 日差しはあたたか。
 白い円卓と赤薔薇を眩しく清らかに照らして、エンディングの足音が聞こえる。

「二人が再会できることを祝って」
「楽しいお茶会とハッピーエンドに、乾杯!」
 きらきら輝く紅茶のカップを手に、ヴァレーリヤとシャルレィスが明るい声を交わし。
「アリス、また遊びにきてね」
「マリア、だ」
 エクスマリアは時計兎の頭をそっと撫でた。ひょこりと揺れる長い耳に指きりげんまんするように髪を絡めゆーら、ゆら。
(しかし、忘れられた地下室に居る人形、か。わざわざそんなところに仕舞うとは、かつては女王にとっても、特別な人形、だったのだろう、か)
 思い巡らす耳に祈りが聞こえる。
「どうか二人の行く先に、主の御加護がありますように……」
 紅十字の祈りを背に紫月がふわりと翼を羽搏かせ、風抱く。ああ、鼻腔擽る薔薇にいろいろな匂いが混じった世界の気配。お菓子と、紅茶と、緑と、花と、人――、
「よかったわぁ」
 ほんの気まぐれのように。濡れ羽色の中で一部、月滴を集めたような銀色が清冽な水のように風に揺れ。
 ドレスの裾を抑える手は楚々として、懐中時計はちくたくちくたく、生真面目に時刻む。

「またね!」
 中天に向けて誰かが翳したキャンディが宝石のように煌めいた。

 そんな――、ハッピーエンド。

成否

成功

状態異常

なし

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