シナリオ詳細
Welcome to Museum
オープニング
●その悪夢に明日はない
美術館へ行ったのです。
綺麗な花園のさきにある、小さくて静かな美術館でした。
私と、私の両親と、知らない誰かがいました。
両親はその誰かに招かれたようで、一緒に美術館へ入っていきました。
内装はとても綺麗で、肌色の床タイルと褐色の壁紙、そして暗幕のような天井で統一されていました。
『ここはどんな美術館なのですか?』
そう尋ねる両親に、知らない誰かはにこやかに応えます。
『蝋人形館でございます』
案内の通りに、最初の部屋には人間そっくりの蝋人形が飾られていました。
子供が誰かに手を引かれる様子なのですが、その誰かが居ません。
次の部屋では子供が誰かに抱きかかえられている様子が象られていましたが、その誰かはおらず宙に浮いているのです。
何も無い場所を笑顔で見つめる子供があるだけでしたが、そこに誰かがいることは私にもよく分かりました。
子供が信頼や親愛といったまなざしでその存在しない誰かを見つめていたからです。
次の部屋では子供がベッドで横になり、誰かが本を読み聞かせています。勿論誰かなんていなくて、本が宙に浮いているばかりなのですけれど、安堵して目を閉じる子供の様子に、誰かの存在を感じずにはいられませんでした。
次の部屋では、両手を掲げた子供が笑っている様子が象られていました。
台座には『両親』とあります。
ああそうか。ここまでいなかったのは、子供の両親だったのか。
納得した私が振り返ると、そこには大きな鏡がありました。
そうしてやっと気づくのです。
ここまでの子供は。
私自身であったのだと。
――ここまでの記録は、死した霊魂から得たものである。
――現在その美術館には、両親と手を繋いだ子供の蝋人形が展示されている。
●キャンドルライト美術館へようこそ
ある呪われた美術館の話をしよう。
森の奥にひっそりとたつその美術館には、時折ふらりと客がやってくるという。
しかし美術館の管理人などおらず、ずっと昔から廃墟のままだとされていた。
とうとう取り壊しが決まったある日、美術館を取り壊そうと訪れた工事業者全員が帰らぬ事態となり、事件性があるとした近辺貴族は調査を開始。
調査によれば、その美術館は古くより土地を占有していた呪術師によって作られた巨大な儀式魔術空間であることが判明した。
時折ふらりと人をおびき寄せては取り殺し、蝋人形のひとつにしてしまうのだという。
かくして館の取り壊しはモンスターの討伐へとシフトし、依頼先もまた変更された。
依頼先はそう――ギルド・ローレットである。
「やあ、依頼内容は聞いてるよね。モンスターの討伐さ。
情報が曖昧な部分が多いから、くれぐれも気をつけてね」
花咲く庭のカフェテラス。冬場だというのに不思議と暖かい日差しの下で、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は依頼書をテーブルへ置いた。
隣にはバタークッキーとブラックコーヒー。
そのうちコーヒーのほうを手に取ると、皮肉げに首を傾げる。
「『キャンドルライト美術館』はその名と見た目に反して巨大な魔術道具だ。
窓を割ったり火をつけて燃やしたりといったことができない上に、奇妙に美しい状態が保たれるという。
中へ入れば蝋人形がお出迎え……といった所なんだけど、手厚い歓迎過ぎて死んでしまうそうだよ?」
行き先は美術館。
戦う相手は蝋人形。
目的は、全ての蝋人形の破壊。
「シンプルだろう? 美術館も順路通りに進めばきっと全ての蝋人形を倒しきれるさ。問題は、『倒しきれるかどうか』なんだけどね。今集まっている皆で、その工夫を話し合っておいてよ。ここのお題はこれで――」
ピン、とコインを親指で弾くショウ。
テーブルの上に落ちたコインがくるくると回って、依頼書の上に倒れた。
「じゃ、あとは頼んだよ」
- Welcome to Museum完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年03月05日 21時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●かの者が死んだ日にも太陽はのぼり、鳥は歌って花はさくだろう
青い蝶が飛んでいる。
白い木製の手すりをくぐり抜けて、黒く濡れた鼻先のそばで踊った。
『漆黒の赤焔』雷霆(p3p001638)はややより目になってそれを見つめたあと、視線を外して青空の雲を見やった。
「蝋燭ドラゴン……」
「何か言ったか」
「いや」
『紫雷刃士・黒羽の死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)はコーヒーカップを持ったまま、『そうか』と短く話を区切った。
「それで、何の話だった」
「蝋人形にされたら恐いよねって話」
ホットドッグをはむはむしていた『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が小さく首を傾げた。
「美術館っていっても呪いの館だもん。犠牲になった人も、せめて開放してあげなくちゃ!」
「呪い、な」
シャルレィスの話におおむね同意しつつ、クロバはどこか昏い目をした。
「斬れるのなら恐れるに足らんとは思うが」
「ロマンが!」
頭を抱えてのけぞるシャルレィス。雷霆が口の端を小さく上げて笑った。
白いテーブルの上に紙を置いて、流れるようにぱたぱたと折っていく。まるで機械仕掛けの工場で組み立てているかのような、一定で正確なリズムだ。
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)は手元遊びのように折り紙をしては、今日の依頼書に再び目をやった。
「呪いの美術館。そして襲い来る蝋人形ですか。恐らく呪術師の犠牲になられた方達でしょうね。彼らは恐らく生きてはいないのでしょうね。彼等が安らかならんかこと願います」
折り紙で作った蝶を空に投げる。
ぱたぱたと羽ばたく蝶。
――場面は転じて、紙の蝶がはばたくのをやめて黒い花畑へと落ちた。
それを拾い上げる朱鷺。
「この悲しみを続けないためにも、館に挑みたいものです」
見上げると、そこには美しい美術館があった。
美術館を前に居並ぶ八人のイレギュラーズ。
『暗闇を覆う光』アリスター=F=ナーサシス(p3p002118)もまた、美術館の外観を観察しているようだった。
「デートするんならもっと穏当な美術館がいいよね。そう思わない? でも、パンフレットとかあるならちゃんと読むよ」
ないけどね、と手を振るアリスター。
ハケで塗り詰めたように真っ白い肌。不思議に美しい瞳。体温を感じられないかのような容姿だが、やはり不思議と暖かみのあることを言った。
あらあらと言って頬に手を当てる『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)。
爽やかな色合いの日傘をさして、雲にでも腰掛けるかのようにふわふわと浮かんでいた。
「けど~……綺麗な状態が保たれる美術館って、素晴らしい魔法の作品だと思わない? おばさん、素敵だと思うわ~。蝋人形が襲って来なければ、観光名所とかに良さそうなのにね~」
腕組みをして顔をしかめるトラオム(p3p000608)。
「気にならないか? どうしてこんな館ができたのか」
「そうね~……」
「調べてはみたいが、そんな余裕があるかどうか、な」
トラオムは先陣をきるかのように歩き出す。
草を踏む音、小鳥の声。
小さく小さく呟くトラオム。
「これは誰かの残した夢か、それとも悪意か。ともあれ、今は事態の解決が最優先だ」
両開き扉に手をかけて引けば、なんの抵抗もなく心地よい音をたてて開いていく。
その様子を後ろから眺め、『舞台に上がった舞台監督』ケイデンス=アップルシード(p3p001643)は長い腕をぶら下げたまま、視線を誰も居ないはずの背後へとやった。
陽光を返して白くひかるかのような美しい美術館と、奇妙に細長いケイデンス。
「森の奥に立つ忘れられた美術館……好奇心で訪れたものに凄惨な死を、覚悟を以って訪れたものには……フフフ、何をもたらしてくれるのだろうか?」
黒い蝶が横切っていく。
「楽しみだね」
皆が館に入った後、扉は勝手に閉じた。
●永久に回るオルゴールがあったとして、音を聞くためだけに残されはしないだろう
ぱ、と明かりが付いた。
オレンジ色のまぶしさに次いで見えたものはたったの三つだ。
白いウェディングドレス。
ブーケを掲げた女性。
そして女性からそぎ落とされた顔だ。
悪趣味で悪趣味で、いびつであるにも関わらず、美感をもつ殆どの者はそれに注視せざるをえなかった。
視線を定めたまま、半歩前へ出る朱鷺。
「前情報だと蝋人形でしたね。展示品に成りすましていると考えましたが、単純に隠れている場合もありそうです」
もう半歩出る。
「とりあえず展示品の場合の対策として、この美術館の展示品目録が欲しいですね。エントランスとかロビーらしき場所にあればいいのですが」
もう半歩出る。
「隠れているのは、つぶさに看破するしかなさそうです。果たして私に見つけられるのでしょうか」
もう半歩出る。
「適宜休憩を――」
「おい」
声をかけられて、朱鷺は自分がウェディングドレスの女性の顔に触れようとしていたことを自覚した。そんなことをしようとした覚えはない。するつもりなどない。
ないが、まるで身体が勝手に動いたかのようだ。
触れなかったのは、トラオムが朱鷺の手首を掴んだからだ。
時間が止まったかのように思えた。
コンマ以下2秒のタイムだ。
女性の顔が浮き上がるように生まれ、真っ赤な唇が開き、開き、開き、サメのような口を顔いっぱいに広げて食らいついてきた。
朱鷺を突き飛ばすように下げるトラオム。
間を縫うようにライフル弾が飛び込む、回転した弾頭がトラオムの肩越しに抜け蝋人形の開いた口の中へ入り、まるでスイカを割ったかのようにはじけさせた。
アリスターがライフルを構え、そうなると思っていたよとばかりに二発目を放つ。
のけぞった蝋人形は首が抜けたまま身体を起こし、ブーケをトラオムへ向けてきた。
花束のように見えていたそれは無数の子供の手でできていた。組み合った指と指がぐにゃぐにゃと開き、トラオムへと掴みかかる。
「悪趣味が過ぎるだろ」
が、と相手の腹に足をかけて突っ張ると、大剣を横向きにスイングさせる。
上半身ごと回転しながら飛んでいく。
一方で朱鷺は体勢をなおし、下がりながら呪術で攻撃を加えていった。
半分に、半分に、更に半分に壊れていく蝋人形。
最後には女の美しい顔だけが残り、それすらもぐにゃぐにゃと溶けて消えていった。跡形も無く、消えて無くなったのだ。
「消えた?」
「溶けたんじゃない?」
「やはりか」
雷霆は片足を大きく上げた。彼の足首を掴もうとした黒い手が空をきる。
ずんと手を踏みつけると、腕が圧力で千切れていく。
残った身体が床から浮き上がるように現われた。
視線だけでそれを見やる雷霆。
「床そのものが蝋だ。壁にも注意しておけ」
凍てつく爪剣を叩き付け、相手が立ち上がる前に切断した。
いや、そのまま地面ごとえぐるようにスイングし、そばの壁紙と燭台をまとめて破壊した。
手首を失った蝋人形が壁からはいだし、雷霆へと掴みかからんとする。手の無い腕が雷霆の顔を打った。
雷霆は僅かに歯を見せて笑うと、相手の腕を根元から掴んで壁から引きずり出し、そのままの勢いでフロア内へと投げた。
「全方位を警戒しておけ。連携して、死角をなくすようにな」
と語る雷霆の頭上に、満面の笑みを浮かべた男の首が七個ほどぶら下がっていた。
わ、と口を一斉に開くと全てが融合し、巨大な顔となって雷霆の首を食いちぎろうと襲いかかる。
が、雷霆に食らいつく寸前で魔力の弾がぶつかり、はじけるように散っていった。
男性の首があちこちに散らばり、頬や耳から虫のような足を生やしてがちゃがちゃと集まりはじめる。
「天井からの襲撃にも気をつけておきましょうね~。怖い映画だと、床下や天井からいきなり怪物が現れたりするのがお約束だもの。んふふ~、おばさんは詳しいんだから~」
レストは傘をショットガンのように突き出すと、集まろうとする蝋人形の頭たちに魔力の散弾を浴びせていく。
やがて戦闘は終わり、フロアはすっきりと静かになった。
展示されていた蝋人形はいまやなく、綺麗な床と壁と天井があるだけだ。
一旦緊張を解くクロバとシャルレィス。
よくよく観察してみれば、展示台には題名を示すプレートがついていなかった。
「なんでだろう。題名もない展示品なんて……」
「追撃なないようだが」
「まだ入ったばかりだもの。先に進みましょう~」
手招きをするレスト。
ケイデンスは翳していた手を一旦下げ、閉じた扉へ振り返った。
ちらり、と窓を見る。
みな気づいているのだろうか。
外の景色が、秋の紅葉でいっぱいになっていることに。
階段だ。
螺旋階段がある。
ぐるぐると、ぐるぐると、どこまでも伸びていきそうな階段がある。
いくらか登ったところで、シャルレィスは横道があることに気がついた。
仲間たちがここへ入ろうと言う。
先に行ってくれと言う。
シャルレィスは元気よく頷いて、剣を構えて部屋へと入った。
シャルレィスが頼りだと皆がいう。
シャルレィスがいなければと皆がいう。
シャルレィスがかけてはだめだと皆がいう。
そんなに褒めなくても。
シャルレィスが振り返るとそこには壁があった。
おかしいな。
前を見ると、キャンプファイヤーがあった。
知っている人たちがキャンプファイヤーを囲んで踊っている。
知っている人たちだ。
知っているけれど。
こんなところに、いるはずのないひとたちだ。
みんなが一斉にこちらを見る。
シャルレィス。どこへいってしまったの。
「下がれ」
襟首を掴んで引っ張られる。
鼻先で鋭利な牙がガチンと鳴った。
楽しげに頬をあげるピエロの顔があった。
よろめくように引き下げられる。
入れ替わるようにクロバが飛び込み、ピエロの首を刀で切断した。
更に襲いかかり首を八つ裂きにしていく。
複雑な動きを乱雑においかけてマフラーがジグザグの形をとった。
「攻撃しろ」
「わ、わかった!」
シャルレィスは身体で覚えた剣術をなんとか使ってピエロの胴体を切りつけ、少しばかり乱暴に蹴り飛ばした。
「ちょ、ちょっとまって、整理したいんだけど……えっと、えっと、なんだっけ……?」
今まで自分は何をして何をみていたのだったか。
よく思い出せない。シャルレィスは首を傾げたかったが、むしろ傾げたのはクロバのほうだ。
「フロアにはいるなり蝋人形に駆け寄って行ったぞ」
「攻撃のためかと思ったが」
「どうしたの? うっかりしてた?」
「きをつけなきゃ、あぶないわ~」
「えっと、ごめん……?」
シャルレィスはえへへと笑った。
笑って、仲間たちのむこうでこちらを見るケイデンスの視線に気づいてぞくりとした。
なぜぞくりとしたのかは、分からない。
ケイデンスは自らのギフト能力を使って奇襲のサインを知らせる約束をしていたが、実は館に入る前の段階で今回はできそうにないよと前置きをしていた。
なぜならば、ケイデンスには仲間たち全員に真っ赤なオーラが出ているように感じられたからだ。
館の前に立った時点で、である。
首のないピエロが起き上がらんとしている。ケイデンスは黙したまま火花を散らし、ピエロを破壊した。
ちらりと窓を見やる。
外では雪が高く高く降り積もっている。
●我が子よ永遠なれ。永遠なれ。永遠なれ。永遠なれど――。
アリスターがじっと立っている。
黄金の柱が等間隔に並ぶ部屋。鉄でできた両開きの扉の前に、いつ敵が来ても良いようにとライフルを握っている。
朱鷺が鏡だったものの前に立っている。
割れた破片を懐紙に包んでいた。
顔を上げれば朱色の柱が並ぶ寺の中央に皆が集まっている。仏像の前に立ったアリスターがライフルを握っている。
朱鷺はすっくと立ち上がり、周囲の光景を確認した。
「ここならしばらく敵も来ないでしょう。休憩にしませんか」
ケイデンスがじっと立っている。
モノクロ写真のような森の中で、皆が囲んで休憩を始めているところだ。
いつ敵が襲ってきてもよいように、ケイデンスは戦いの準備を整えている。
皆、気づいているのだろうか。お互いの言葉が奇妙に食い違っていることに。
まるで共通認識のようにもっているあれこれが、無理矢理組み合わせた歯車仕掛けのように噛み合って、奇妙な一体感を作ってしまっていることに。
何度か注意を促してみたが、誰もそのことを自覚していないようだ。
「…………」
呪術師はなぜ美術館の形にこだわったのか、結果的に人を害す魔術になっているが本当にそれだけの物だったのか?
ケイデンスはどことなく、その答えに気づきつつあった。
クロバは鋼鉄の柱とパイプが並ぶ部屋に立っていた。
皆は休憩をするらしい。見張り役が必要だ。いかにもな空洞の前に立ち、刀とサーベルの柄に手をかけておく。
見張りは4人。
休憩している仲間は20人。
大所帯だな。
そう思って、ずきりと頭が痛んだ。
……なにかおかしい。
シャルレィスがクッキーを配っている。レストがドーナツを配っている。
「冒険者の心得、ひとつ! 休憩は、取れる時には全力で! ……なんちゃって」
「そうそう。疲れたときには甘いものよね~」
なんとなく、しかしなぜだか食い違う会話をしていた。
周りの『仲間たち』がガチガチと歯を鳴らして笑う。
クッキーやドーナツを受け取って、困ったような顔をするトラオム。
普段は見せないような、なぜだか不思議と落ち着いた表情だ。
「しょうがないな。少しだけだぞ」
会話はまだ噛み合わない。
『仲間たち』がガチガチと歯を鳴らして笑う。
シャルレィスが笑う。
レストが笑う。
トラオムもまた目を瞑って笑おうとして……ぴたりと止まった。
「まて。アンタら……誰だ?」
炎があがった。
炎が螺旋をえがいて燃え上がり、天井を焼かんばかり膨らんだ。
獣のうなりそのものが聞こえ、大地もろとも殴りつけるものがあった。
誰あろう、雷霆である。
「離れろ! 囲まれているぞ!」
●誰のものにもなるな
乱戦であった。
手が融合した男女がスキップをしながら笑っている。
一つの身体に三つの頭がついた子供がいがみあっている。
おなかいっぱいに金貨を詰め込んだ貴族めいた男が怒っている。
体中に目がついた女が泣いている。
顔の全てを口にした女が『嫌い嫌い!』と言って叫んだ。
声がナイフのようにとがってアリスターの頬や腕を切りつけるが、アリスターは冷静に引き金を引いた。
ライフル弾が女の頭を打ち抜き、腕を破壊し、足を破壊し、それでも止まらぬ叫びの元――腹を破壊した。
彼と背をあわせていたケイデンスは両手をおおきく伸ばし、駆け寄ってくる子供や老人に青い衝撃を飛ばしていく。
吹き飛び、石の柱に叩き付けられる蝋人形たち。
起き上がろうとするところに、トラオムが飛び込んで切りつけた。
真っ二つになった蝋人形が床に溶けていく。
すべて溶けて消えたかと思った所で、床を割って何かが現われた。
巨大な幼児だ。目の縫い付けられた巨大な幼児が意味の分からない言葉をわめきながら這いずっている。
「いかにもだな」
トラオムは呟き、雷霆はギラリと歯をみせて笑った。
幼児の手が柱を何本もへし折りながら襲いかかる。
雷霆の爪剣がぶつかり、衝撃に炎がのって広がる。
「うお、まずい……!」
トラオムが声を上げた。太い釘を手にとって、自らの目に向けて振りかざしたのだ。
素早く動いたのは朱鷺とレストだ。
祈祷とはじめトラオムにかかった異常な状態を解きにかかる朱鷺。
思わずよろめいたトラオムを腕に抱え、レストはいいこいいこと言って額を撫でた。不思議と暖かい彼女の手が全ての痛みや苦しみを取り去るかのようだ。
幼児を炎が包み、ツギハギだらけの身体が崩れて無数の幼児へと散っていく。
「行くぞシャルレィス!」
「まかせて!」
クロバの前に飛び出したシャルレィスは剣をまっすぐに構えた。
彼女のから不思議な輝きが散るように見えた。
幼児たちは不思議とシャルレィスに注目し、一斉に飛びかかった。
ニッと笑うシャルレィス。彼女の頭上を飛び越えるようにして現われるクロバ。
「――紫電抜殺、文字通りその身に刻むがいい!!」
閃きがはしる。
●「 」
剣を振り抜いたクロバがいた。
森の中にいた。
傷つきながらもやり遂げたようにすっきりとした顔をしたシャルレィスや、傷を負ってなお立つ雷霆。
ライフルを下ろすアリスターと、周囲をみまわす朱鷺とレスト。
トラオムは起き上がり、『なんだこれは』と呟いた。
森だ。
森しかない。
花畑も、美術館もない。
ずっと昔から、なにも無かったかのように。
ケイデンスが、振り返った。
あなたに。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
『Welcome to Museum』――mission complete
『少女の霊』――Good End
GMコメント
いらっしゃいませ、イレギュラーズの皆様。
こちらはガーデンカフェ『オレンジフィルム』でございます。
この先の森には恐ろしい美術館があるのですね。
では出発される前に、こちらで身を休めてはいかがでしょうか。
【依頼内容】
『キャンドルライト美術館』の蝋人形全てを破壊する。
情報確度C
美術館について分かっているのは以下のことがらだけです
・現状、建物を直接破壊することができない
・美術館に入った者は蝋人形に襲われる
・蝋人形は少なくとも20体を超える
【エネミーデータ】
●蝋人形
情報がきわめて少ないため不確定な部分が多くなりますが
物至単、物中単、神遠範【呪い】【狂気】
といった三種の攻撃方法を持っていると思われます。
順路を進み、襲ってくる蝋人形と戦うのが基本的な行動となりますが
どのタイミングで、どの程度のまとまりをもって、どういった形で――襲ってくるかが不明です。
ある程度予想を立てることでこれらを無力化ないしはカウンターすることができるかもしれません。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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