PandoraPartyProject

シナリオ詳細

お望みのダイヤは?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●暴動なんぞ知るか
 扇動者達が跋扈し、不穏な空気に満ち満ちている練達の国。しかし、そこに暮らしている変人研究者達の中には、我関せずを貫きずっと引き籠って研究を続けているような奴らもいる。部屋の床に描いた魔法陣に向き合っているこの女も、その一人であった。外が騒がしくても、彼女は魔導書を開いて杖をじっと振り続けている。
「ふむん……やはりその辺の銀では触媒として弱いな……」
 そう彼女が呟いた瞬間、魔法陣の中心に据えられた銀の塊が砕け散った。ルーンを描くのをやめた彼女は、つかつかと歩み寄って砕け散った銀を拾い上げる。それは乾いた泥の塊のように、ぼろぼろと砕けて落ちた。
「ここはやはり、金剛石を新調するべきか……」
 魔女は溜め息をつくと、デスクに無造作に置かれた羽ペンを手に取る。インクにペン先を浸した彼女は、一枚の手紙に何かをすらすらと書き付け始めた。

●無茶苦茶な頼み事
 ローレットに集まった君達。『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は君たちの前に一枚の手紙を差し出す。
「こちらは練達暮らしの魔女さんからのお手紙なのです」
 君たちは一斉に紙面を覗き込む。
『新式の魔法具開発のため、練達近くにある金剛石の鉱山から金剛石を採取してきてほしい。達成の暁にはギルドに定められた通りの報酬を支払うと約束する』
 達筆で綴られた文章。鉱石を掘ってくるだけの仕事。と、言えば聞こえはいいのだが、ユリーカの顔はあまり芳しくない。
「ただ、この指定されている洞窟が厄介なのです。活火山に近い位置に存在していて、ダイヤモンドが掘れる場所は非常に高温に達するのです。それに、中にはオオムカデが徘徊しているという情報も入ってきています。一筋縄ではいかないのですよ。気を付けて戦ってほしいのです」
 ユリーカはテーブルの下から分厚い鉄製の箱を取り出す。ダイヤモンドの原石を補完するためのケースだ。
「今は練達も大変なことになっている状況ですが、それでもお客様の依頼には応えるのがローレットというものです。よろしくお願いするのですよ」

●いざ鉱山へ
 そんなわけで君達は鉱山へとやってきた。足を踏み入れただけで熱気が伝わる。大変な仕事になる事を思いつつ、君達は坑道を下り始めるのだった。

GMコメント

●目標
 練達にある洞窟の地下でダイヤを掘って来ることです。
 洞窟から脱出した時点で任務完了となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 洞窟で探索を行います。
→洞窟はアリの巣のように、坑道と採掘用のやや広い空間に分かれています。
→ダイヤは洞窟の奥深くに存在します。高熱地帯に存在するので、温度を確かめながら進むとスムーズにたどり着けるでしょう。
→洞窟には鉱山ムカデが彷徨っています。練達の技術で強化された坑道に落盤の心配はありませんが、採掘を始めるとその音を聞きつけすっ飛んでくるため戦闘を回避するのは難しいでしょう。
→ダイヤのある部屋は熱く、長居するとそれだけで生命力が急速に削り取られていくでしょう。

●敵
鉱山ムカデ×3
 鉱物を喰らうことで成長する大ムカデ。鉱山持ちの天敵です。
 坑道を天地無用で駆け巡り、鋭い牙で噛み付いて来ます。練達の鉱山はこのムカデにやられるほどやわではありませんが、貴重な鉱物を食べられてしまうには違いありません。
 本能で活動しており、意思疎通は困難です。

・攻撃方法
→背面噛み……天井や壁を這い回って背後へ回り込み、噛み付いて攻撃します。【毒】状態を受けます。
→薙ぎ払い……胴体を振り回して攻撃します。狭いことも相俟って回避が難しいです。

●TIPS
 ムカデの生態はうまいコト利用しましょう。戦場は狭いため対策を。

  • お望みのダイヤは?完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年11月27日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ヴォルグ=ズィルバー(p3p006899)
愛『剣』家
デビット(p3p007637)
木花・華燐(p3p007798)
凛花

リプレイ

●フェイク
 イレギュラーズは洞窟へ足を踏み入れる。幻想その他の鉱山と違って、練達の鉱山は坑道の補強も丁寧に施され、足下も緩やかな階段が整えられていた。靴音を控えて仄暗い道を降りながら、リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が溜め息を吐く。
「まさか練達で金剛石が掘れるとはなぁ……この国の人間が奢侈品に興味を持つとは思えぬが……」
「でも、女の子なら憧れずにはいられないッ。ね、美咲さん」
 ヒィロ=エヒト(p3p002503)は高々とその腕を振り上げ、美咲・マクスウェル(p3p005192)を見遣る。
「うんうん。私の故郷だとカラーストーンが流行りだったけど、ダイヤもいいよね……」
 尻尾を振りながら擦り寄る彼女を撫でながら、美咲も頷く。七色の魔眼の持ち主も、宝石には滅法弱かった。一歩後ろを歩く藤野 蛍(p3p003861)も、決意に溢れた顔でぶつぶつと呟いている。
「貴重なものほど、地中深く、過酷な環境に眠ってる……つまり人生の輝きを掴み取るには、試練も障害も乗り越える勇気と努力が必要って事ね。ボクも掴み取るわ、その輝きを」
 彼女は小さくガッツポーズすると、いきなり桜咲 珠緒(p3p004426)の手を取った。
「行こう、珠緒さん」
「ええ」
 蛍に手を引かれながら、珠緒はきょろきょろと辺りを見渡す。以前坑道に踏み込んだ時はムカデを片付けただけで、実際に採掘をする事は無かった。初めての体験に興味を覚えつつも、彼女にはもっと気になる事がある。
「……蛍さん、やる気に満ちておられるようですが……百足は克服されたのですか?」
「ムカデ……」
 聞いた瞬間、彼女はいきなり顔色を悪くする。しかし彼女は無理矢理口端を持ち上げ笑みを作る。
「大丈夫大丈夫。珠緒さんと一緒ならね」
 親愛する存在との絆を頼りに、彼女はその身に光を纏わせた。照らされる道の先を見つめて、デビット(p3p007637)は階段を下っていく。
「ともあれ、無策で採掘に向かえば熱とムカデの挟み撃ちで大変危険な状況に陥るはずです。そうなる前に、ムカデは別の採掘現場に誘き寄せるなりして、早いうちに片付けてしまいたいところですが」
「そんなら、とりあえずこっちの採掘場に降りるとしようや。広さがどんなもんかは分かんねーが、こんなところでムカデに鉢合わせするよかマシだ」
 ヴォルグ=ズィルバー(p3p006899)はカンテラを掲げ、脇道を指で指し示す。掲げられた看板には『第一採掘場』と記されていた。チームは頷き合うと、ヒィロやデビットを最前線において採掘場へと降りていく。中はすり鉢状の空間、螺旋状に坂道を整備しながら下へ下へと石炭の鉱脈が掘り進められていた。坂道を横切って下まで降りたヴォルグは、早速背負っていたピッケルを手に取る。
「こいつで高らかに岩を叩いてやればムカデは寄ってくるわけだ。準備はいいか?」
 葵色の装束に身を包んだ木花・華燐(p3p007798)は静かに頷く。
「ええ。準備は出来ております」
 手にした神秘媒体からクナイを取り出すと、腰を軽く落として逆手に構える。目を閉じて余計な情報を遮り、彼女は聴覚情報に集中する。
「じゃあ、行くぜ」
 背後からピッケルが石を打つ甲高い音が響き渡った。その音が洞窟に満ちる雑音を洗い流し、静寂で満たす。黙々と音を聞き分けている間に、やがて洞窟の彼方から微かな足音が響く。あまりに足音が多い。まるで軍隊が靴を並べて一気に駆け付けようとしているかのようだ。華燐は胸いっぱいに息を吸い込んだ。
(これが私の……華燐の混沌での初陣。如何な任務であろうとこなすのみですが……混沌肯定により衰えた腕で、果たしてどこまで戦えるものでしょうか)
 村娘のように頼りない己の腕。しかし、定めから逃れる訳にはいかない。与えられた役目を果たすために、腕を磨かなければならないのだ。
「……来ます!」
 彼女が叫んだ瞬間、狭い坑道から湧き出すように、次々と巨大なムカデが飛び出してきた。その目を爛々と輝かせ、その身を大きく擡げてイレギュラーズを威嚇する。デビットは僅かに身構えた。
「鉱石を食べる大ムカデですか……少々身の危険を感じなくもありませんが、これくらいで怯んでいてはやっていけませんので。……お覚悟いただきます」
 顎をかっと開き、ムカデはイレギュラーズを狙って突っ込んでくる。デビットは素早く身を乗り出してその攻撃を受け止めた。その背後に立った珠緒は、己の魔力を光に変えて、デビットへと流し込む。
「では参りましょう。ヒィロさん、蛍さん、デビットさんは、それぞれ一体ずつムカデを引き付けてください。美咲さん、メーヴィンさん、華燐さんは後ろで前衛の火力支援を。桜咲とヴォルグさんが間に立って戦線を維持します」
 珠緒は果断に言い放つと、懐から指揮棒を抜いて構える。
「ではおのおのがた、抜かりなくお願いします」

●ムカデを討て
「おい腰抜け! このヒィロ=エヒトにかかって来い! 皆のとこへは行かせないよ!」
 ヒィロはムカデの正面へと回り込んで、鋭く叫ぶ。声に込められた魔力に当てられたムカデは、再びその頭をもたげ、覆い被さるようにヒィロに突っ込んできた。彼女は足下にキツネ火を纏わせ、素早く宙へと飛び上がる。空中で舞い踊ってムカデの突進をやり過ごし、ヒィロは叫んだ。
「よろしく、美咲さん!」
「任せて!」
 美咲は一瞬左目を覆い隠し、瞳の色を黒よりも昏い漆黒に染め上げる。放たれた不可視の視線が、ムカデの足や節を纏めて抉り取ってしまった。体液が溢れ出し、ムカデは仰け反りもぞもぞと足を暴れさせる。

 また別の個体はデビットと正面切って向かい合っていた。大きく顎を広げ、次々にデビットへ噛みついて来る。その一撃を受けるたびにスーツが擦り切れるが、デビットは両腕を構えたまま黙々と攻撃を耐え忍ぶ。
「これしきの事で怯みはしません」
「そこじゃ。もっと引き付けてくれ」
 メーヴィンは彼の背後で銃を構える。上下に折り畳まれた弓型のパーツが開き、光の弦がきりきりと引き絞られていく。彼女は引き金を引くと、灰色の魔力で編まれた矢がひょうと飛び出し、ムカデの片目を撃ち抜いた。
「図体がでかいせいか、どうにもしぶといのう。こやつが厄介なのはよくわかったわ」
「そもそもムカデ種そのものが、生命力に優れているものなのです。少し胴や脚を傷つけたくらいでは、簡単には倒れて――」
 ムカデは大きく身を逸らし、一気に辺りを薙ぎ払った。元々遠間にいたメーヴィンは軽く飛び退き躱したが、真正面で取っ組み合っていたデビットは直撃を喰らう。宙に撥ね上げられたデビットは、力無く地面に倒れこむ。
「おいおい、大丈夫かえ?」
 メーヴィンは素早く矢を射ち込んでムカデを牽制する。デビットは額の宝石に手を翳すと、混沌の力に身を浸してその身の傷を修復した。
「……問題はありません。気にせず攻撃を続けてください」
「ふむ、そうか」

 蛍は三体目のムカデの前に立ちはだかると、桜吹雪の幻影でムカデの頭を撫でつけた。
「人生と同じように、壁は一枚じゃないのよ!」
 彼女は朗々と言い放ち、ムカデの周囲をふわりと跳び回る。ムカデの触角も牙も気持ちが悪いが、自分が退けば珠緒に危害が及ぶ。彼女は奮い立った。
「ムカデだろうと何だろうと、俺のギフトにして愛剣、『イデアライズ』の錆にしてやるよ!」
 ヴォルグは何処からともなく剣を抜き放つと、剣を脇に構えて一気に突進を仕掛けた。蛍に引き寄せられている間に、猛牛の如くムカデに突進を仕掛けた。節が一つ潰れ、足があらぬ方向へと曲がる。ムカデは口を震わせ、力任せにその上半身を振り回す。咄嗟に剣を構えたが、防ぎきれずに彼は数メートルほど弾き飛ばされた。彼は意識を失いかけるが、混沌の力をその身に宿し、何とかその身を癒す。
「あっぶねえ……こいつがパンドラの力か。やっぱ初仕事ってのは何処でも大変なもんだな」
「やはり敵の身体が大きいと、少なからず防ぎきれない場面は出てきますね」
 珠緒はタクトを振ってヴォルグの傷を癒す。蛍はその間に敵の正面へ回り込み、桜吹雪でムカデを抑え込んだ。そこへ華燐がクナイを擲ち、ムカデの傷に突き立てる。
「焔式……!」
 彼女が鋭く念を送ると、クナイが炎となって燃え上がる。ムカデがもがき苦しんでいる間に、ヴォルグがダメ押しの一撃を喰らわす。ムカデは真っ二つとなり、そのまま動かなくなった。

 ムカデは採掘場を這いまわり、メーヴィンの背後へと一気に回り込もうとする。彼女は顔をしかめると、銃をその場に放り出し、掌を小刀で切って呪血の刃を取り出した。
「儂に近寄ろうとは。無粋な奴じゃのう?」
 くるりと振り向き、突っ込んできたムカデの傷口に血の刃を叩きつける。流れ込んだ呪いが、ムカデの身体を縛りつけた。そのまま彼女は拳を固め、巨大なムカデの頭を四方八方から殴りつけた。触角を引き千切り、顎を叩き折り、もう片方の目も潰す。
「いくらしぶとかろうとも、こうなれば形無しじゃろうて?」
「これでトドメです」
 盾を構えたデビットは、頭の付け根に向かって飛び込む。ムカデが振り返ろうとした瞬間を突いて、そのまま力任せに盾を振り下ろした。ムカデの勢いも借りた一撃は、その頭をあっさりと叩き落としてしまった。
「……撃破完了しました」

 ヒィロと美咲のコンビは、二人きりでも果敢にムカデを押し込んでいた。
「行くよ美咲さん! このままトドメを刺しちゃおう!」
 彼女は叫びながら、ムカデをあっという間に駆け上る。ふわふわの尻尾を、彼女は頭に叩きつけた。
「ほーら! これでどうだ! ふわふわで気持ちいいでしょ!」
 ムカデの眼が尻尾で隠れる。暴れるムカデに狙いを定め、美咲は腰に提げていた魔導書を開く。
「これでどう?」
 美咲が言い放った瞬間、闇の中から次々に白い茨が伸び、ムカデを縛り上げて寸断した。パタリと本を閉じ、美咲は得意げに笑みを浮かべる。
「敵を呪い殺す茨に砕かれ、薔薇の花を咲かせるがいい……なんてね」
「いぇーい! ボク達ぷろふぇっしょなる!」
 ヒィロは美咲に飛びつきハイタッチする。いつの間にか静かとなった採掘場に、軽やかな音が響き渡った。

 武器を収め、ヴォルグは辺りをぐるりと見渡す。ムカデの体液の鉄臭さが、辺りにむっと立ちこめていた。
「終わったみたいだな。とっとと本題に戻るとするか」
「そうじゃな。儂はちと疲れたわ。さっさと原石を掘り当てて、さっさと帰るとしようかの」
 メーヴィンは頷くと、尻尾を振りながら採掘場の坂道をつかつかと登り始めた。

●灼熱の洞窟
 ムカデの死骸はひとまず採掘現場に放っておいて、イレギュラーズは鉱山の最深部へと向かった。近くのマグマ溜まりの放つ熱が、岩盤を通してむっと伝わってくる。まるで蒸し風呂の中にいるかのようだ。メーヴィンは額に玉のような汗を浮かべて呻く。
「やれやれ、これは困ったのう。もしこんなところで戦う羽目になっておったら、皆ムカデ以前にこの熱で蒸し焼きになっておったところじゃ」
「あまり長居するような環境でもなさそうです。急いで目的のものを掘り出して帰りましょう。……といっても、華燐は非力ですので、満足に掘れるか分からないのですが……」
 華燐は高熱空間においてもその仏頂面を崩さない。くノ一として、苦しい環境に耐え忍ぶことには慣れていた。隣でヒィロはぐでんぐでんになっていたが。やじろべえのように体を揺らしながら、ぺたりと美咲の腕に抱きつく。いつにもまして美咲の体温を感じる。
「美咲さーん、あついよー!」
「くっついたらもっと熱いでしょ……」
 美咲は肩を竦めると、かち割り氷をヒィロの頬にくっつける。
「ほら、これでどう?」
「ひゃん! つめたい!」
 じゃれるワンコとその飼い主。そんな構図の二人を蛍は見遣った。
「二人の付けてるお揃いの腕輪、効果はあったかしら?」
「まあまあね。無いよりはましかな」
「なるほど……とりあえず着きましたね」
 坑道の長い階段を降り切って、珠緒はハンカチで額を拭う。ただでさえ薄い空気に、さらに熱が籠っている。虚弱体質の彼女は息をすることもままならない。蛍はそんな彼女の横顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「なんとか。採掘は手伝えませんが、皆さんの気力を維持するくらいなら出来そうです」
「じゃあ早速掘っちまおう。お嬢さんたちがぶっ倒れちまう前にな」
 ヴォルグはピッケルを担ぐ。デビットも採掘途中の岩壁に歩み寄ると、岩の隙間に向かって鋭くピッケルを振り下ろした。ぽろぽろと岩の塊が足下に転がる。ヴォルグはそのうちの一つを拾い上げ、目を細くしてじっと見つめる。
「この岩に挟まってる白い石……こいつがダイヤの原石だな。もう見つかるってのは、中々幸先が良い」
「依頼者の眼鏡に適うダイヤかはわかりません。水分、塩分の確保を怠らず、もう少し掘り進めたいところです」
 デビットは水筒の口を切って水を呷ると、再びピッケルを岩壁へ振り下ろした。

「ふーん。ダイヤの原石ってこういう感じなのね……」
 ヴォルグの手から礫をひょいとひったくり、その中に埋まった原石を美咲はじっと見つめる。彼女の知るダイヤとは違って、色が少々くすんでいる。ヒィロもじっと眺めた。
「なんだか氷砂糖みたいだけど、これがダイヤ……?」
「悪くないけど、やっぱりカットと研磨してこそなのかな」
「磨けば光るの?」
「そそ、玉磨かざれば光なし、よ」
「ボクと一緒だね、美咲さん! なーんて」
 尻尾を振るヒィロの頭を、美咲はそっと撫でた。ヒィロは眼を輝かせると、ピッケルを担いで壁へと走る。
「よーし、頑張っちゃうぞ!」
 有り余る体力で揚々とピッケルを振るうヒィロの側で、蛍もセーラー服を腕捲りしてピッケルを振るう。もう既に熱でくらくらしていたが、背後で見守る珠緒が適度に気つけを続けてくれる。蛍はほっと息を吐き、足下に転がるダイヤの原石を拾い上げた。
(きっと今の気持ちこそが、ボクの人生の輝きそのものなのね……)
 胸に沸き上がる気持ちを確かめながら、蛍は再びピッケルを振り降ろす。甲高い音がして、ごろりと大きな石の塊が転げ落ちた。
「おっと!」
 蛍の足下に光る鈍い輝きに気付き、ヴォルグが慌てて駆け寄る。
「こいつは中々の代物だぞ。やるなぁ、嬢ちゃん」
 岩の中に大きな原石が埋まっている。天も自分の想いを認めてくれたような気がして、蛍は思わず頬を緩める。
「えへ……」
「どうした? 金勘定でもしちまったか?」
「そ、そんなんじゃないけど……うん。まあもう少し頑張るわよ。お望みのダイヤがどれくらいか分からないし」
 火照る頬を押さえながら、彼女はピッケルを振るうのだった。

●ダイヤの行方
 鉄のケースにダイヤの原石を詰め、イレギュラーズは練達の街のとある家を訪れる。黒いローブに身を包んだ女が紅茶の支度をして彼らを待ち構えていた。
「やあやあ、ありがとう。私の為に金剛石を掘ってきてくれたのだろう?」
「ええ。少々骨は折れましたが、それなりの質は保証できます」
 デビットはテーブルの上にケースを乗せ、ぱちりと留め金を外す。女は中に納まった原石を一つ一つ手に取ると、ルーペを取ってじっと眺め始めた。
「ふむ、ふむ。確かに。これは上出来だ。感謝するよ」
「だろう? たとえ世界を渡ったって、俺の審美眼に狂いはねぇさ」
 ヴォルグはスキットルに詰めた酒を飲みつつ、得意げに笑ってみせた。
「しかし、金剛石を触媒にする魔術とは、一体何をしているのだ?」
 メーヴィンは首を傾げている。女は原石を一つ彼女の前に掲げてみせた。
「新型の大型魔法具の開発さ。君も練達の魔導バイクに乗っているだろう? それと似たようなものさ。魔力の流れる回路を構築する時に金属や宝石を媒体にするんだが、やはりダイヤでないとキレのある回路が描けないし、そもそも強度が足りないのさ」
「ふうむ。……まあ儂も練達の技術には世話になっている。出来たら教えてくりゃれ」
「ああ、そのうちな」
 女とメーヴィンがやり取りしている横で、華燐が興味ありげな面持ちで原石を見つめていた。
「金剛石は装身具として使われることがあると聞きました。……高価なものだった筈ですが」
「金ならあるさ。どいつもこいつも私が趣味で作ったものを欲しがってくれるからね」
 彼女はさらりと応えると、細かな原石を取ってイレギュラーズ達に差し出す。
「この辺のは粒が小さいから要らないし、君達が持っていくといい。この辺をぶらりと歩けば、加工できる職人の一人や二人見つかるはずさ」
「いいの!?」
 蛍は目を丸くする。女は蛍の手に原石を乗せた。
「ああ。礼は弾むと言ったしな。職人に加工を頼む代金も、私にツケてくれればいい」
「だってだって! 珠緒さん! ちょっと見ていこうよ!」
 小躍りしながら珠緒を誘う。珠緒はそっと目を細めた。
「そうですね。帰るついでに、少し練達の街を見ていきたい気持ちもありますし」
「よし、決まり!」
 二人が盛り上がる横で、ヒィロも原石を受け取った。その目はちらりと美咲へ向いた。
「ねえ美咲さん、ボク達も……」
「そうね。タダでアクセサリーを作って貰っていいんなら、乗らない手はないもの。一緒に行く?」
「うん!」



 かくして、今日も一つ任務が達成されたのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

この度はご参加ありがとうございました。
実際のダイヤ採掘現場がどうなっているかはともかく、この度はこのような形となりました。

またご参加いただければありがたく思います。
ではでは。

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