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シナリオ詳細

<TinkerBelle>創世の物語

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ティンカーベルの修繕介入
 世界はもう、壊れてしまっていたのです。
 山は削れ、平野は割れ、空は虚無に覆われ、人々は消え、美しい建物も滅びさっていました。
 時の流れすら崩壊し、世界はただただその残骸を晒すだけ。
 ここはもう、終わってしまった世界なのでしょうか?

 いいえ。
 あの鈴の音が聞こえますか?
 世界を再び作り直す、修繕の鈴。
 『ティンカーベル』が、やってきます。

●壊れた世界の再構築
「やあ、この本がなんだか分かる?」
 『ホライゾンシーカー』カストル・ジェミニは一冊の本を読書台にのせて見せた。
 ここは境界図書館。
 果ての迷宮第十階層の先に発見されたという、異界への接続点である。
 この図書館にならぶ本ひとつひとつの中に世界があり、まるで無限のように数々の世界を冒険し、イレギュラーズたちはパンドラを集めてきた。
 そしてそのたびに境界世界に対し、少なくない影響を及ぼしてきたのだ。
 さて、今日はどんな冒険に連れて行ってくれるのだろうか。
 イレギュラーズたちが覗き込んだその本は……今までとは、大きく違うものだった。

 読書台に置かれた本はとてもひどい有様であった。表紙がかすれ、醜く滲んでタイトルすら読むことができない。
 表紙などマシなほうで、本を開いてみれば乱雑に破れたページや殆ど火に焼けて消えてしまったページや、インクが消えて殆ど白紙になってしまったページばかりだった。
 まともに読めるようなページは殆どなく、読み取れる情報があるとすればこの世界に大地や空や人々や建物があるのだということだけで、それが一体どのような形なのか、空から何がふるのか、どんな人々が暮らしどんな建物が並ぶのか、そして彼らはどんなことで笑うのか……なにもかもが分からぬ状態であった。
「これはね、『壊れた世界』なんだ」
 カストルはどこか、故人を語るような悲しみを帯びた声で述べると、無残な本を優しく閉じた。
「世界にはいろんな形があるけれど、どれも十全に整っているわけじゃない。
 ハッピーエンドを迎えるどころか、世界そのものが形を維持できなくなってしまった世界も、いくつか存在するんだ」
 でも大丈夫。そう言って、カストルは金色のハンドベルを取り出して見せた。
「君たちイレギュラーズがこの世界と合わさって、『世界を作り直す物語』を刻んだなら、壊れてしまった世界もまた動き出すことが出来る。
 もっとも、これが元々どんな世界だったのか僕たちは分からない。だから『元通り』にすることはできないけれど……皆の作る世界なら、きっと素敵な世界になる。そう思えるよね」

 カストルがハンドベルを打ち鳴らす。
 不思議な光に包まれて、イレギュラーズたちは本の世界へと入り込んでいく。
「さあ、世界を思い描いて。
 この世界を作り直そう」

GMコメント

 ごきげんよう。『壊れた世界』へようこそ。
 この世界はもう形を保てないほどに壊れてしまって、冒険をすることはできません。
 ですが、皆さんのイマジネーションによって世界を作り直すことができるのです。
 そう、これはあなたが描く『創世の物語』なのです。

■プレイングのかけかた
 あなたは世界を創造する役目を負っています。
 ですので、『この世界がどんなふうになったらいいか』を考えて、それをプレイングにして下さい。
 たとえば空からパンケーキが降ってくればいいとか、人類はネコミミがついていたらいいとか、チョコレートの川が流れていたらいいとか……です。
 といっても、この世界を作るメンバーはあなただけではありません。
 一緒に世界に入った全員のイマジネーションを合体させたものが、『新しい世界』としてリプレイになるのです。

■世界のベース
 本によって様々ですが、今回の世界には最初から決まっている部分があります。
 それは以下の三つです。

・地球のような星が舞台です。空気があって、空と大地があります。
・人類が暮らしています。
・建物が並んでいたようです。

 この三つの土台に、皆さんのイマジネーションを足していってください。
 大地の形も空の色も、人類の姿も文化も歴史すらも、どんな建物があったのかすら、この世界からは消えてしまっているのです。
 それを作り出すのが、皆さんの役割です。



■サンプルプレイング
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あらあらまあまあ! 私が世界を作り直すだなんて、まるで神様ですわね!
お任せくださいまし、きっと素敵な世界にしてみせますわ!
……あ、でも、ちょっとワガママをいっても、いいですわよね?

大地の形は他の皆さんに任せるとして、空!
空からは毎日キャンディが降ったら素敵ですわ!
パンケーキときどき飴! 晴れた日には綿飴が浮かんでいますのよ!

人々は降り注ぐキャンディやパンケーキを食べて暮らすので、食料で争ったりしませんわ。
きっと穏やかな人が沢山いますのね。
あとこれはわたくしの趣味なんですけれど、みんなぶたさんやたぬきさんのような、動物の顔をしていたら嬉しいですわ。
身体ももふもふだったりして。

そんな人たちが、チョコレートの川やビスケットの木のそばで家を建てますの。
そう、お菓子の家ですわ!
のどかで美味しいお菓子の家。腐ったりしませんわよ? あまーい香りがするだけですの。
もちろん食べられますけれど……空からパンケーキが降るんですもの、必要ありませんわね?

そんな人たちが、毎日歌ったり踊ったり絵本を書いたりして暮らしますの。
きっと素敵な世界になりますわ!
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  • <TinkerBelle>創世の物語完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年11月17日 22時25分
  • 参加人数6/6人
  • 相談3日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
戮(p3p007646)
乳白の虹
シェルマ・ラインアーク(p3p007734)
金獅子

リプレイ

●きっと誰かが夢見た新世界
 なにもかもが壊れてしまった世界に、なにもかもを取り戻す鐘がなる。
 それは世界の外から聞こえるモーニングベル。
 世界と世界が融合するウェディングベル。
 さあ、世界の再創造をはじめよう。

 なにもない空白に、ティーセットがまず生まれた。
 次にテーブルと椅子が。幾何学模様のカーペットが生まれ、椅子の一つに『猫さんと宝探し』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が腰掛けた。
「季節があるなら、きっと空も色々だよね。春や夏、秋に冬……入道雲に鰯雲。国ごとに気候が違えば、きっと空の色や形も違うはずだよ。
 けど……ううん、だからかな」
 温かいミルクティーの満たされたカップに口をつけて、アクセルは目を閉じた。
「種族もいっぱいいると楽しいよね。歩くきのことか、雪だるまとか、そんな知的生命体がいたら面白いよ。彼らが独自の文明を築いたり、文化が混じり合ったりしてさ……きっと建物も色々だよ。文化が混ざり合って、いろんな建築様式が生まれるんだ」

 新しいティーカップを持ち上げて、ダージリンの香りに目を細める『彼岸に根差す』赤羽・大地(p3p004151)。
 彼はいつの間にか生まれていた椅子のうえで足を組むと、カップを掲げてみせた。
「俺は季節に意味を持たせたいな。
 春は始まりの国。
 夏は雨と太陽の国。
 秋は恵みと実りの国。
 冬は厳しくも美しい国……って具合にな」
 ほわりほわりと、眼下の広大な大地にあかりが灯ったように見えた。
 世界が少しずつ、彼らのイマジネーションを通して創造されているのだ。
 テーブルの上に生まれたショートケーキを、『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)がゆっくりと六等分に切り分けていく。
 生まれた椅子に腰掛けて、自分のお皿にひときれとって腰掛けた。
「世界を想像して、創造する、とは……なかなか、できることではない、ですね。
 皆様の想像が、混じり合ったら。どのような、世界に、なるのでしょう?」
 世界はケーキのように切り分けられるわけじゃない。皆のイマジネーションが混ざり合い、ひとつのものへと昇華するのだ。
「世界には、わたくしのような、獣人がいたり。小さくて可愛らしい、フェアリーがいたり。とてもムキムキなオークや、お話に出てくるエルフのような……そう、まるでこの世界(混沌)のように、たくさん、たくさんいるといいと、思います」
 ケーキにのったいちごをつついてみるネーヴェ。
「お家も、洞窟に住んだり、植物のお家があったりしても、いいかも、しれません」
 眼下の世界に自然が広がり、あちこちに何かが立ち上がっていくように見える。
 早回しでビルがたつように、にょきにょきと何かが出来上がっていく。
 するともう一つの椅子が生まれ、『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)が背もたれに寄りかかって息をついた。
「壊れた世界を創りなおす…か。なんか神様にでもなった気分だな。
 どんな風になるかはわからないが、この世界の皆が生まれてよかったと思えるような場所にしていきたいな」
 まずは建物について考えていこう。と、世界は眼下の広大すぎる風景を見下ろした。
「まず基礎は大事だよな。木でできたログハウスや、レンガでできた建物……雪が多い地域には巨大なかまくらや氷の城があってもいい。
 もっといえば、巨大な地下空洞に都市が築かれたり、古代の都市が海に沈んでいてもいいな」
 どう思う? と隣の席へ振り返ると、『乳白の虹』戮(p3p007646)がカップを両手で覆うように持ってちびちびと紅茶にくちをつけていた。
(世界を作る……ですか? 戮には荷が重いです……うう……)
 少し気後れしてしまいそうな状況だが、気を取り直して戮はイメージを膨らませてみた。
「あ、空の色は青だけじゃなくて、時間によって変化するとかどうやろ?
 夜の時間は黒とか藍とか暗い色で、昼の時間は黄色とか桃色とか明るい色になる、みたいな」
 ぱちぱちと空がまたたいたかと思うと、桃色の星空がいっぱいに広がっていく。
「ほかにも、移動するときに風船で空を飛んだり、マンホールからワープしたり、高いところから落ちても地面がふわふわしていて怪我をしないとか、そんなふうだったらええなあ」
 そこまでワクワクとしながら語ったあと、戮はぴたりと手を止めた。
「それと……ひとが死んだら、そのひとの一生が物語になって一冊の本にまとめられて図書館に保管される、とか。そういうんやったらええなって」
「なるほど。そういう世界も悪くないな……」
 『金獅子』シェルマ・ラインアーク(p3p007734)は最後の椅子に腰掛け、ティーカップを手にとった。
「世界の創成は作家が物語を紡ぐことに等しい。
 俺は読むばかりの側だが、たまにはこんな仕事も悪くはない」
 どれ、俺もイメージを膨らませてみるか。
 そんなふうにつぶやいて、シェルマはカップをゆすってみる。
「俺が考える世界は本に溢れている。
 すべての事象は1つ1つ本となって渡り鳥のように世界中に飛び立つんだ。
 自分の人生を本として手にするものもいるだろう。知りたかった答えが載っている本を探し求めて旅するものもいるだろう。
 そして世界のどこかに、本たちが舞い降りる大図書館があって、誰にも邪魔されずに世界のすべてを閲覧できるようになる。
 そして、ここまでの話を総合するに……」
 シェルマは目を閉じ、そしてこの世界のことを想った。
「だいぶ、夢のある世界になりそうだな」

 椅子は消え、テーブルは消え、ティーセットは消え、そして世界を創造する神々の姿が消えていく。
 こうして、まったく新しい神々による世界の再構築が始まった。
 開幕ベルが、鳴る。

●神様がいた世界
 この世界において、本は世界と同義語だ。
 人は死して大量の本になり、その知識や経験や思い出が世界の中に残される。
 何人たりとも本を傷つけることはできず、本は渡り鳥のようにばさばさと飛び立って世界中へ散っていくのだ。
 言語は本によって統一され、人に言えないような悪い行いや、誰かを騙す秘密や、ひとを傷つける誤解は(ほんの少しのすれ違いこそあれど)大きくは生まれなかった。
 それゆえに数億クラスの争いが起きず、隔たりもなかった。(それゆえ戦争という概念が人々になかった)
 ここではそんな世界を、ある一人の旅人の視点から見ていくことにしよう。

●思い出をさがす旅路
 『ある青年』には姉がいた。
 病によって早くに亡くなった姉が本となって世界に溶けた日を、『ある青年』はずっと覚えている。
 白い花がいっぱいに供えられた祭壇に笑顔の遺影。
 清らかな音楽とともに蓋をひらいた棺から、沢山の本が空へと飛び立っていった。
 人は死ねば本になる。この世界の常識であり信仰であり、まぎれもない事実である。
 それゆえ他人からみて恥じない人生を誰もが歩もうとして、みな誠実に生きることが当たり前だった。
 『ある青年』もまた、その一人である。
 だがそんな彼が、ふと寂しさに駆られたとき、姉との思い出がこの世界のどこかを飛んでいることを想った。
 『ある青年』はその日のうちにリュックサックに旅の荷物を詰め込んで家を出た。行き先は決まっている。
 ――『春の国』である。

 『春の国』は始まりの国である。
 自然豊かな島にあり、煉瓦作りの穏やかな風景が広がるこの国は、あらゆる旅人を受け入れそして送り出す役割をずっと昔から担っている。
 今から数千年前、この世界が生まれたときから、春の国はずっとその役割を受け継いできたのだ。
 『ある青年』が求めるのは、もちろん姉の思い出が描かれた本のゆくえである。
 春の国へ来れば、どんな旅人も旅の行き先が定まるのだ。
 実際、国の住人がいうには姉の思い出は『冬の国』の大図書館に収められているという。
 『ある青年』は早速、冬の国へむけた旅を始めた。

 はじめに訪れたのは『夏の国』だった。
 そらとぶ風船を使って島々を少しずつ超えて、ヤシの木が揺れる雨と太陽の国へやってきた。
 ぽふんとやわらかい地面に降り立てば、歩ききのこ族の子供や海遊び中のオークが集まってくる。
 今はオレンジの時間なので外で遊んでいると、彼らは話した。
 言われるまま空を見上げれば、カラッと晴れた夏めいた雲の先にオレンジの空が広がっている。
 空が一定時間ごとに色を変えるのは、リンゴが木から落ちるのと同じくらいの常識だ。
 みな、空の色で時間感覚をもっていた。
 『ある青年』は早速、冬の国へ行く方法を尋ねることにした。

 冬の国はとても遠く、秋の国を経由していくほかない。
 歩きキノコが話すには、地下大空洞と通っていくか、水没都市の通路を通っていくかのどちらかだという。
 『ある青年』はしばらく悩んでから、地下大空洞を選ぶことにした。
 地下には岩と樹木でできた沢山の家が並び、ひとつの都市になっていた。
 本が世界を渡ることから、ずっと昔から通貨制度は統一され、この地下都市とて例外じゃない。
 『ある青年』は足りない路銀を古代遺産堀りのアルバイトで稼ぎながら、少しずつ少しずつ秋の国を目指していった。

 『ある青年』が地下大空洞に入ってからどれほど経っただろうか。
 やっと訪れた秋の国は収穫祭の真っ最中だった。
 果物や焼いた芋の美しい香りが国中に広がって、あちこちで泡の立つお酒が振る舞われている。
 『ある青年』はお祭りにはしゃぐ獣人族の人々と交流をしながら、沢山の煉瓦家屋に混じってたつ大樹を目指すことにした。
 赤く色づいた大樹の中には沢山の花々が広がり、フェアリー族が忙しくお祭りの仕込みをしていた。
 突然訪れた『ある青年』に驚きはしたものの、流れてくる噂で知っていたのだろう。フェアリーの王様は『ある青年』を歓迎してくれた。
 冬の国へ行きたいのだろう?
 王様の話に、『ある青年』はかしずいて肯定した。

 空がグリーンと鰯雲に彩られた頃、秋の国から船が出港した。
 秋の実りを枯らさぬために、そして冬の美しさを溶かさぬために、秋の国と冬の国には大きく隔たりがあるのだ。
 やがて『ある青年』をのせた船は港へたどり着き、雪だるま族や毛深い獣人族たちに出迎えられた。
 冬の国は静かで美しい場所だ。
 古代文明が地中深く埋もれているせいとも言われるが、それをあえて掘り返そうという人は少ない。
 なぜなら、この土地に訪れる旅人はたった二種類しかいないからだ。
 美しい雪景色を眺めに来たか、それとも……。
 『ある青年』は獣人の村長に迎えられ、かまくら式の家で温かいコーンスープをすすりながら、ここまでの顛末を語って聞かせた。
 そうか。きみはお姉さんの思い出をさがしに、ここの大図書館を目指したのだね。
 村長はふかい毛皮わなでながら、トックリにいれた酒を小さなお椀へと注ぎ入れた。
 周りでは、村長と同じように毛深い者たちが車座につき、『ある青年』を囲んでいる。
 『ある青年』も本で知っていた。
 冬の国はほかと違ってとても厳しい掟の中で行きていることを。
 食べ物も少なく、行きていくには厳しい土地で、しかしこの美しさと静けさを……なにより大図書館を守るため、彼らはこの土地で代々行き続けていることを。
 そして彼らの掟を破ることは、きわめて重い罪になるということも。
 『ある青年』は今すぐ追い返されてしまわないか心細く思いましたが、しかし住民たちはそんな彼にあえて優しく、こう問いかけました。
 大図書館に立ち入ることができるのは、冬の国の住民だけだ。だからこの国に認められるまで、しばらくここに滞在してはどうだろう。
 『ある青年』にとって、旅の目的地はひとつだった。
 過ごすことが前へ進むことならば、迷う必要なんてなかった。

 それから『ある青年』の新しい生活が始まった。
 行きていくには厳しい土地で、身を寄せ合って過ごす日々。
 食料をたくわえ、家を建て、情報を交換し、服を繕って増やし、薪を切って燃やす。
 当たり前の、しかし少しでも怠れば行きていけないサイクルに、『ある青年』は遠い日々を想いながらも、懸命に冬の国の民へと変わっていった。
 やがて。
 『ある青年』は氷の城へと招待された。
 雪のように白い女王が、『ある青年』に民の証を授けるというのだ。
 『ある青年』は女王にかしずいて、ここまでの経緯を語って聞かせた。
 世界に溶けた姉の思い出に触れるため、春の国で道をみつけ、夏の国で働き、春の国で実りを分かち合い、冬の国で生きた。
 『ある青年』の行いを、女王は静かに聞き、そして最後に優しくねぎらった。
 彼の手に氷の鍵を手渡すと、女王は大図書館への立ち入りを許したのだった。

 大図書館は世界の果てだ。
 四つの国を渡る本たちが、最後に行き着く場所である。
 無限にあるという本棚には、これまで生きた誰かの記録や、思い出や、技術や、知識が詰まっている。
 それだけの規模である。国が一つ収まってしまうくらいの、もしかしたらそれでも足りないくらいの大きさが、図書館の中にはあった。
 本を管理するために代々生きているというエルフ族のひとりが、『ある青年』の案内役をつとめてくれた。
 エルフが最初に紹介したのは、日の当たる美しい高原だった。
 冬の国にあるというのに暖かく、緑が豊かで静かな風がふいている。
 この大図書館は本を読むための場所だから、静かに本を読める場所が沢山あるんだよ。と、エルフは語った。
 『ある青年』はそれから、エルフとともに大図書館を旅してまわった。
 悲しい物語に涙する老人や、古代の知識を一生懸命書き留めている技術者や、淡い恋の物語に触れてうっとりとする女性や……様々な人に出会い、そして別れた。
 そんな中で、エルフはこんなふうに語ったことがある。
 この世界の神様は、きっと僕らに生きる意味を与えたんだと思う。と。
 どんな人生にも物語があって、それを読む誰かがいる。得た知識は誰かの役に立って、技術は誰かを助けている。
 それはもしかしたら、本という形でなくとも、この世界にずっとありふれていることなのかもしれない。と。
 『ある青年』はそんな話を聞いて、姉のことを思い出した。
 姉の思い出ももしかしたら、誰かの心を癒やしているのだろうか。
 もしそうだとしたら、姉が送った人生はきっと価値あるものだと言えるだろう。
 いや、むしろ。
 こうして自分が一冊の本を求めて旅をしている時点で……。

 『ある青年』が旅に出てからどれだけの月日が流れただろうか。
 空は幾度も色を変え、『ある青年』も歳を重ねていた。
 けれどそんな彼の旅も、ようやく終わる時が来たのだ。
 大図書館のある本棚の前に、『ある青年』は立っている。
 背表紙には、姉の名前。
 震える手で本に触れ、ゆっくりと引き出す。
 ページの途中を開いて最初に目にしたのは、自分の名前だった。
 姉が自分をどんなふうに想って、接し、生きてきたのか。それが美しく、春の日のそよ風のように優しく描かれている。
 何気ない、ごく普通の日常。
 知っている、新鮮でないはずの日常風景。
 なのになぜか、『ある青年』の目からは熱い涙がこぼれていた。
 エルフの言葉を思い出す。
 神様はきっと、僕らの人生に意味をくれたのだ。
 この旅に、おおきな意味を。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ
 よい世界が、生まれましたね

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