PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<物語の娘>嫌われ者の色なき声

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●帽子屋曰く
 キノコが動いて喋った? そんなの当たり前じゃないか、キノコは美味しい友達さ。昨日も一緒にクリケットをやったんだ。
 ああでも、黒いキノコは食べてはだめだよ。あれは「奪われた」ものだからね。

 今度はショートケーキが喋ったって? ショートケーキはそういうものさ。頭の苺を食べてごらん、プライドの高いあの子は美味しいと言ってあげれば喜ぶだろう。
 黒いケーキが泣いていた? ああ、それは「奪われた」からさ。

 夜なのに明るい? ああ、今日は太陽が気まぐれなんだね。よくあることさ、君も気分が乗らないことくらいあるだろう?
 ああでも気を付けて、アリス。夜の森は真っ暗だから「奪うもの」に出会ってしまうかもしれないよ――。

●一点の染み
「黄金色の昼下がり」――またの名を「ワンダーランド」。
 動く木に喋るキノコ、私を食べてとねだるお菓子たち。
 色鮮やかな世界の森に「奪うもの」と呼ばれる怪物がいる――。

 気まぐれな太陽すら顔を出さない木々が鬱蒼と茂る森の中、一匹の兎が困り果てる。
「さて、ここはどこだろう。おーいそこの木、外はどっちだい?」
 近道に、と選んだこの森は普段ならいくら迷おうとやかましい木々が外への道を教えてくれた。それなのに、今日はどうしてこんなに静かなのだろう。そういえば、今日はいつにも増してこの森が暗いような――そう気付いた時だった。

「――!!」

 のそり、真っ黒な木々の間から現れたのは――黒い霧の塊。大人の人間くらいの背丈のそれは、皿に盛られたプディングのような形から痩せ細った二本の手を生やしていた。
「『奪うもの』――そうか、ここの色はお前が!」
 あれに捕まったら、自分も色を奪われて真っ黒になってしまう!
 逃げなければ、そう走り出した兎を黒い霧が追いかける。兎が右へ曲がれば、靄も右へ。左へ曲がれば、靄も左へ。
 息を切らした兎が森の外に辿り着いて振り返れば――黒い靄が手を振っているように見えて、それがひどく不気味に思えた。

 無事に逃げ帰った兎は、女王に森で「奪うもの」に出会って追いかけられたことを告げる。忌々しい、森の怪物。
「そうだ、アリスなら――」
 女王は、主人公の名を思い出す。
「アリスならきっと、この怪物を退治してくれる」

 ――そう、だってアリスは「主人公」なのだから。

●森の中で
 真っ黒に変色し、物言わなくなった木を黒い霧の手が撫でる。
 ――よかった、あのウサギの子は外に出られた。
 ――どうしてなのだろう。どうして、自分が近寄るとかわいいお花もキノコも鳥も、色を失っていってしまうんだろう。
 ――ただ、友達になりたいだけなのに。

●ワンダーランドへ
「怪物退治をしてちょうだい」
 この世界へね、と案内人のシーニィ・ズィーニィが掲げた本。愛らしいキノコが描かれたメルヘンな表紙から飛び込む世界は、先日特異運命座標がその扉を開いたばかり。
「『黄金色の昼下がり』、ただこの世界の住民は皆『ワンダーランド』って呼んでいるみたいだけどね」
 先行した特異運命座標が見たのは、口に入れれば体のサイズが変わるクッキーにドリンク、かしましやかに喋る花たち。そんな愉快な世界に、怪物などいるのだろうか?
「その怪物はね、森の奥に住んでいて、触れた者の色や活力を奪ってしまうから『奪うもの』って呼ばれてるの。森の中からは出てこないし放っておかれたんだけど……いよいよ女王様がお怒りってわけね」
 女王の怒りならば、放っておくわけにはいかないのだろう。何せ、自分の首が飛ぶかもしれないのだから。
「貴方達なら倒すのにもそう苦労はしないでしょう。楽しんできてね、『アリス』」

 楽しむための冒険ではないが――ワンダーランドへ、怪物退治といこうじゃないか。

NMコメント

 ワンダーランドへようこそ!
 メルヘンの裏に潜む残酷さをどうぞ。

・目標
怪物(奪うもの)を倒し、森に平和をもたらすこと

・舞台「ワンダーランド」
<物語の娘>ワンダー・ワンダー・ワンダー(夏あかねGM)で特異運命座標が足を踏み入れた世界。
メルヘンで色とりどり、まるで「不思議の国のアリス」のよう。
この世界の住民は、特異運命座標のことを皆「アリス」と呼んでいる。

・怪物
「奪うもの」と呼ばれる、黒い霧で出来た怪物。
 触れたものを黒く変色させ悪影響を及ぼすが、異世界の住人であるイレギュラーズに対してはその効力は薄れている様子。

 詳細不明ながら、至近~遠距離まで【猛毒】【窒息】【飛】を駆使して攻撃してくると思われる。
 その命を奪ってしまえば、霧散して奪うものとしての力は無くなるようだ。

・場所
 森の最奥、化物の住処とされる場所。
 周りが黒く成り果てた薄暗い場所だが、木も朽ちて広場のようになっており戦闘に支障はない。

・注意
 OP内「●森の中で」の情報を、現時点でのPCは知りません。非戦スキルを使用する、もしくは物理的に接触、攻撃を受ける等すれば、その思考を知ることになるでしょう。
 ただし、この依頼は倒すことが必須条件です。知った上でPCが何を思って戦うか、何ができるか。そんなことを盛り込んでみてくださいね。
勿論、プレイングの一環として手を出せず攻撃を受けてしまう、攻撃をためらう等はOKです。
(全員が攻撃しないままだと倒せないので、攻撃手段をお持ちの方は攻撃する旨を多少なり記載することを推奨します)
戦闘自体はありますが、心情メインの描写となるのでご注意ください。

それでは、どうぞよろしくお願い致します。

  • <物語の娘>嫌われ者の色なき声完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年11月25日 22時20分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
綺羅々 殺(p3p007786)
あくきつね

リプレイ

●怪物を探しに
「ワンダーランド……不思議な場所、ですね」
『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)は、薄暗い森を歩きながら、まるでおとぎ話に迷い込んでしまったみたいだと胸を躍らせる。道中出会った猫や花々が自分達を「アリス」と呼ぶ感覚は、どこかくすぐったくも悪い気はせず――故に、この世界の住人の安全を守らなければと怪物退治に歩を進める。
 周囲の精霊に怪物の居場所を問えば、指し示されたのは森の最奥。ぺたりと垂れた兎の耳に意識を集めれば――泣き声のようなものが聞こえた気がして、寒気がした。
「ふむ、ネーヴェ殿も彼方とみたか。儂の耳にもなんぞ怪しげな声が聞こえたのう――それに何より、奥からはきな臭い香りがする」
 同じく優れた感覚で周囲の状況を探っていた『九尾の狐』綺羅々 殺(p3p007786)が、ネーヴェが反応したのと同じ方へ指を向けると、ふと項垂れて泣く真っ黒なキノコが目に留まる。指で摘まみ「どれ」と一口齧れば、周囲の驚きもよそに殺は顔色一つ変えずに飲み込み口元を着物の袖で拭うとにんまりと笑う。
「成程、本来はこれより美味と言う事じゃな、自信を持って良いぞ」
 呪いを身に纏い、死を運んだ殺にとって自分と同じ「黒」のモノは仲間であり――果たしてその味が本当に食べられたものであったかは、黒色の人生と評する日々を送っていた内とうに味覚を失った殺には判らなかった。
「アリスだかノリスだか知らねえけど、とりまバケモンをブッ倒せばいいんだろ?」
 首を左右に倒し、肩をゆっくりと回しながら『Punch Rapper』伊達 千尋(p3p007569)はゲーセン行こうぜ、程度の調子で言い放つ。
「……つっても霧の塊って殴れんのか?」
「どうにかなるんじゃない? 殴って蹴って魔法をぶっ放して刺してさっさと始末しましょ」
『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は早く怪物退治ができないかしら、と楽し気だ。
「それならオッケー、殴れれば倒せる。昔の偉い人の言葉だ」
 進む内、どんどん周囲の景色は黒一色になり。そして、一行は開けた空間に辿り着き、『奪うもの』――霧の怪物と対峙した。

●こんにちは、怪物
「ほう、変わった姿じゃなお主。名はなんと申すか?」
 様子を見ているのか、黒い霧を漂わせたまま動かない怪物に殺が問うも、反応はなく。呪われたその境遇に似た何かを感じるも、依頼である以上躊躇はない。
「――悪いが、斬られて貰おう」
 ぐん、と一歩踏み込み振りかぶれば、薄暗い視界の中妖刀が青白い太刀筋を描く。怪物は身を捩じらせ振り下ろしたその刀から逃れると、後方へと飛び退いた。
「ずいぶんと、身軽なのですね。ですが、わたくしも負けませんよ」
 ――兎は、そう易々と、捕まりませんから。
 するりと滑り込んだネーヴェがとん、と爪先で地面を蹴れば、その爪先から桃色の波紋が広がる。踊るように、跳ねるようにステップを踏めば、波紋から湧き上がる魔力と相まってその姿を捉えることは困難になり――怪物の目元にぽっかり空いた二つの穴は、ネーヴェの姿を目にして揺らいでいる。
「さっさと死んでよね」
 そう言い放ち魔力を練り上げたメリーの髪やリボン、身に纏った『アリス』と呼ばれるに相応しい愛らしいワンピースはゆらゆらと靡くものの、その手から放たれる魔術は、愛らしさの欠片もない殺傷に長けたもので。
(そういえば、怪物の頭の中ってどうなってるのかしら?)
 メリーはふと湧いた好奇心で、リーディングを使用。怪物の思考を読み取ると――聞こえてきた声に「ふぅん」とだけ漏らし、魔力の弾を撃ち込んでいった。
「っしゃあ、やるかやられるか――二つにひとぉつ!」
 魔弾を掻い潜り、低い体勢で千尋が怪物の懐へと飛び込む。罪の名を冠した髑髏の指輪の力を乗せまずは一撃――弱点を探りに、身体のど真ん中へその拳を真っ直ぐに放つ。
(うっわ触った感覚はないけどすげー嫌な感じす……は?)

 ――いたい。
 ――どうして、この人たちは逃げないと思ったのに。

 じわじわと黒ずんでいく拳から流れ込んできた声は、自分のものでも仲間のものでもなく。それは、つまり。この思考は、気持ちは。

「参ります――っ!?」
 畳みかけるように、軽やかさを増したネーヴェの脚がその霧に触れれば。
 ――さみしい。一人は、くるしい。

 怪物に突き飛ばされた殺が、その毒を身に受けながら聞いたのは。
 ――友達になりたい、だけなのに。

「あーーーっ!! やめだやめッ! 俺は凶悪な魔物をブッ飛ばしに来たんであって、遊びたい盛りのガキを殴りに来たんじゃねェ!!」
 メリー以外の三人が一瞬怯んだその瞬間、千尋は大声で叫びドレッドヘアを掻きむしりると怪物に向き直る。黒い霧はゆらゆら、様子を見るかのように佇んだまま。
「なんかわかんねーけど、俺コイツのことが理解できちまった」
「……わたくしも、です」
 ネーヴェもゆっくり脚を引くと、揺れる黒い霧に遠い過去を映し出す。
 誰かと友達になりたい。友達が欲しい。空中神殿に召喚される前、外に憧れながらそれが叶わず、家に籠って針と糸で外のモノを見ていた頃。限られた存在しか知らなかったあの頃の自分――。
(……ひとりぼっち、なのですね)
 それはとても苦しくて悲しくて――倒すべきなのに、踏み出せない。
「お主、堕ち切っておらぬのじゃな」
 毒を身に受け、胸元を黒く染めながらも殺はなるほど、と深く頷く。
「心まで黒く淀んでおらず、他者から色を奪う事に喜びを感じる訳でもなし」
 世界を否定しないこの者に、ならば少しの希望があってもよかろう――そう殺が再び頷いたのを見て千尋が口を開く。
「よっしゃ、じゃあ俺にちょっと時間を――」

「バッカじゃないの?」
 それを遮った呆れ声と共に後方から飛んできたのは、突き刺すような魔力の塊。
 三人が振り返れば、片手を腰に、もう片手をこちらに向けて仁王立ちしたメリーがいた。
 防御姿勢なしで魔弾を喰らった怪物は、喰らった場所からその黒い霧をじわじわ霧散させ、ダメージが効いていることを想起させる。
「待てって、コイツは!」
「悪い奴じゃないみたいね」
「なら!」
「で、だから?」
 あっさりと言い放つメリーに、千尋は口をつぐみ、ネーヴェは目を伏せ、殺は眉を顰め片方の口角を上げ、アンバランスに笑ってみせた。
「自慢じゃないけど、わたしは元々居た世界で罪の無い人間を何十人も殺してるのよ。いまさらバケモノ一匹に同情するとでも思ってるの?」
 ――それに、倒すのが依頼でしょ。そう付け加えられれば、千尋も拳を引くことは許されず。
 一瞬の思案の後、千尋はばしん、と両手で己の頬を叩くと思いっきり息を吸い――。

「よし、お前名前何だ! わからねえから霧子でいいな!? おい霧子!お前の友達になってやる! 俺の名前は伊達千尋ってんだ、覚えろ!」
 がっしりと怪物――霧子の両手と組み合うと、その手を黒く変色させながら名乗りを上げる。
「今からお前も俺達『悠久-UQ-』のメンバーだ、『悠久-UQ-』は仲間を見捨てねえ」
「儂はなんちゃらの組員ではないがな、綺羅々 殺と申す。お主の友として、願いを聞き届けてやろう」
 腹を括った千尋に、くつくつと笑いながら殺は宝珠から光を放ちながら名乗りを乗せる。
「命の価値なぞどの生物にも等しいが――どれ、同じ黒い者としてのよしみじゃ、痛みも『生』と感じるがよい」
「わたくしは、ネーヴェと申します。お友達に、なりましょう」
 ネーヴェもくるくると、まるで二人でダンスを踊るかのように怪物の運命を導くステップを重ね。
「当たっても知らないからね」
 後方からメリーが魔力の弾を放ち続け、時にはそれが自信を掠める事も構わず、三人は怪物と遊ぶように闘い続ける。

 ――いたい。

 悲痛な声に手を止めそうになりながら、黒ずんでいく恐怖から己を奮い立たせながら。
「大丈夫です、霧子さんも――沢山、ぶつけてください」
「男は拳で語るもんだ。あっ女みたいな名前つけちまった! まあいい、お兄さんにまっかせなさーい!!」
「よい、よい。儂でよければ受け止めるぞ」

 ――逃げないでくれる。名前をくれて、呼んでくれる。

 そうして、しばらく経って。
 森の奥には、ボロボロになった三人と、満足した一人と、密度の薄くなった黒い霧がいた。
 薄くなったその姿をそっと抱きしめるネーヴェは、じわじわと全身を黒く染め上げ――たとえ悪いことが起きようと、それでもこの温もりを感じられるようにと抱きしめ、感触のない背中をあやすように叩いている。
「女の子にトドメ刺させる訳にゃいかねーよ」
 そう千尋がネーヴェの腕の中の霧に手を入れ、ぐっと握ってみれば――。
 ぷつりと何かが切れた、感覚がした。

 ――はじめて真っ直ぐ見てくれて、逃げなくて、自分から触れてくれた人たち。友達だって言ってくれて、怪物とかバケモノじゃない『霧子』って名前をくれた。
 ――嬉しかった、楽しかった。
 ――ありがとう、アリス。大好きな、友達。

 はらはらと散っていった最後の声は、どこか哀しげで、けれど最初の声に籠っていた悲痛さはなく――あたたかい、声だった。

●『めでたしめでたし』
 真っ黒の森には、もう『奪うもの』と呼ばれた怪物はいない。鳥が運んだ種が落ち、それを動物が踏み、少しずつ雨が降り――この森はゆっくりと、色を取り戻していくのだろう。
 口々に怪物がいなくなったことを喜ぶ住人達は、今日も兎は近道にとこの森を抜け、キノコやケーキは誰が一番美味しいかで口喧嘩。それがワンダーランドの平和な日常。
 怪物が倒されたと報告を受けた女王は、それはそれはご満悦で――。

「ありがとう、アリス。怪物を倒してくれて」
 そう、アリス<主人公>を讃えたのだった。

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM