シナリオ詳細
山の恵みを頂戴しに
オープニング
●とあるレストランにて
「どうするか……」
「落ち着くまで休むのもいいとは思いますが……」
幻想のとある場所にある小さなレストラン。そこに熟練の風格がある店主アインと、それを支える妻エマが頭を抱えていた。表には準備中の札がかけられており、店内には客はおらず、夜の賑わいとは正反対に静かだ。
「だが、それだと楽しみにしてくれている客に迷惑がかかる」
「それでは、別の材料を使いますか? 市場から仕入れるとか……」
「それだけはやっちゃいけねぇ。客を裏切ることになる。それをするぐらいなら、休む方がマシだ」
「そうですよねぇ」
このレストランは、料理に使われる材料の全てが山から採れる天然ものである事を売りにしている店である。肉、野菜、果物、香辛料、あげく水までもが山から採ったものを使用しているという拘りを持っている。
人の手を加えられることなく育った獣や野菜などの味は一味違っており、その味を求めて遠くから来店する客もいるほどだ。
それらの材料は、地元の『山愛好会』という山の幸を採取して販売している組合から仕入れているのだが、一昨日からその組合が山に入ることを休止してしまったのだ。
その理由が、賊の出現にあった。愛好会が登っている山ではないのだが、山に賊が現れてその勢力を伸ばしているという噂が流れているのだ。その話を聞いた愛好会は、しばらくの間は山に入るのを止めることを決定してしまった。
結果、レストランは材料の仕入れが出来なくなってしまったのだ。理由が理由なだけに、アインも愛好会には強く言うことができない。万が一の事が起きてからでは遅い。
「休むにしても、あの日だけはどうしても、な……」
アインは壁にかけられているカレンダーに目を向ける。注目している日は、赤い色の丸で囲まれていた。エマもつられてその日に目を向けてしまい、思わずため息をついた。
「そうですね……息子たちにだけは、ちゃんとあなたの料理を味わって欲しいですね」
その日は、独り立ちした息子が嫁を紹介するために連れてくる日であった。この日だけは、どうしても連れてくる嫁に、新しく家族となる者に店の料理を味わって欲しい。
だが、それをするとしても材料が……。
「休憩中だが、お邪魔するよ」
悩む夫婦がいる店内に、一人の白髭の男が入店した。この男の名はレクター。アインの親友でもあり、『山愛好会』の一員でもあった。
「すまないね。せっかく息子さんが嫁を連れてくるっていうのに。その日だけでも、何とか調達したかったんだが……悪い」
レクターがまず口にしたのは、二人に対する謝罪の言葉であった。
「いいや、気にしないでくれ。お前に何かあってからじゃ遅い」
「ここの山にはまだ賊は出てきていないが……会長が、被害が出てからじゃ遅いっていうからな」
「俺もそう思うぜ」
本来ならば、親友のためにも愛好会の言葉を無視してでも材料を取りに行きたいレクターであるが、その親友に止められては、どうしようもない。
愛好会も不安を抱いている。例え賊が目撃されていないとしても、その存在は怖いのだ。
「だから、代案を持ってきた」
レクターが言った。
「ギルド・ローレットに依頼を出そう」
賊が危ないので愛好会が行けないのなら、賊と出会っても問題がない人らに頼めばいい、と。
●そして依頼へ
「依頼なのです!」
自慢の翼をぱたぱたとさせながら『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が明るい声を出す。
まずは集まった冒険者たちに資料を広げて見せる。
「簡単に言えば、採取なのです。山に入って、山菜やら果物やら、天然の食材を採ってきてほしいのです」
依頼を受けてくれた冒険者には、指定する山に入ってもらい、そこで食材の調達をお願いするという内容だ。
ユーリカが続けて詳しい内容を冒険者たちに説明していく。
要約すれば、調達するものは、それこそ口に入りそうなもの全てだ。野生の獣を狩って、肉を採る。土を掘って野菜を採る。川から水と魚を採る。木々から果物を採る。無論、自然環境を大きく壊さないように、程度をわきまえてである。
山の中には毒となるものも当然に自生しており、中には素人では見分けがつかないものもある。その為、採取して来てくれた物は、愛好会の一員であるレクターが選別してくれる手はずになっているので、冒険者は見つけた物は一先ず持って帰ってきてくれても良いとのこと。
そして、重要なのが食材では量ではなく、種類を多く採って来て欲しいという希望が出ている。料理の幅は食材の種類によって決まる。それに、息子が嫁を連れてくる日だけの分が必要なので量はそれほど重視されるものではなかった。
ユーリカはそれらの事を資料片手に説明していった。
「それと賊の事ですが、ギルドの方でも該当する山の周辺には賊が出たという報告は今のところは入って来てはいないのです。ですから、一先ずは山の幸を採って来てあげてください」
アインの腕が良くとも、武器となる食材がなければ意味がない。その腕を最大限に震えるかどうかは、冒険者たちにかかっている。
- 山の恵みを頂戴しに完了
- GM名橘 遊輪
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年03月05日 21時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●いざ、入山
まだ日が登り切っていない程の早朝。山の入り口前に各メンバーが揃っていた。
「よし、準備はOKね」
軽く屈伸運動をして体を解していた『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)が周りの仲間達を見て言った。
「わたくしも問題ありませんわ」
「が、がんばります……っ!」
『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)は余裕がありそうに、一方、『まほろばを求めて』マナ・ニール(p3p000350)は少し気負い気味に返事をする。
「大丈夫だよ。気楽にね?」
『大賢者』レンジ―(p3p000130)が緊張しているマナの肩を揉みながら優しく言って、リラックスさせている。その言葉に、マナも固くなった身体が徐々に解けていく。
そして、『山愛好会』のレクターも見送りに、その場に来ていた。
「一応、俺達から教えられることは昨日に全部教えたはずだ」
「えぇ、ありがとございます」
「いっぱい見つけて来るのですよ!」
「期待していてください」
レクターの言葉に、『tailor』カシエ=カシオル=カシミエ(p3p002718)、『もふもふバイト長』ミミ・エンクィスト(p3p000656)、マルク・シリング(p3p001309)がお礼と意気込みで返した。
実は昨夜のうちにレクターを始めとする愛好会のメンバーから、山の特徴や山菜の自生ポイント、生物の生息範囲などのレクチャーを全員が受けていたのだ。山に入れないので鬱憤が溜まっていたのか、彼等は自分が持つ山の知識を楽しそうにして披露してくれていた。
「マルク君、カシエ嬢。これを……」
その中、唯一彼らのレクチャーを受けずに、昨夜どこかへ行っていた『リッチ・オブ・リッチ』諏訪田 大二(p3p001482)がマルクとカシエの二人にメモをこっそりと渡す。
「これは……?」
「シークレットな情報じゃ。山に入ってから開くんじゃぞ」
二人に渡したメモには、大二が夜に活動する密猟者や愛好会以外の人間から聞き出した山の情報が書かれている。当然、愛好会のレクターに見つかれば、ひと悶着が起こり得るので、内密にする必要がある。だが、確実に依頼を受けた彼らにとってはプラスとなる情報ではあった。
「ほんじゃ、いってらっしゃい。気を付けてな」
それを知らぬレクターは、わざわざ集まってくれた冒険者たちに笑顔で見送った。
●川沿い
「このぐらいでよろしいでしょうか」
冷たい水が優しく流れる山の川に入っていたのはエリザベスであった。愛好会から道具と使い方を教わった仕掛け網を設置していたのだ。設置したポイントも教わった通りの場所で、夕方前には入っているだろう。
それまでの間は、他の食材の調達をしてもいいだろう。
早速、エリザベスは川上の方へと向かう。そこに、普段からレストランで使っている水の湧き場があるのだ。これもレクターから教えてもらった事だ。
そのポイントは岩と岩の間からかなりの勢いで水が湧き出ていた。エリザベスがその冷たい水を手で掬う。
「ペロッ、こ、これは……麻薬、じゃなくて極上の天然水!」
味見とその大げさなリアクションをしたのだが……残念ながら彼女を見ているのは言葉を言えぬ自然のみ。返事は、沈黙だ。
「……水の確保をして釣りでも致しましょうか」
彼女の身体に搭載されている人の心が、少しばかり悲しさを覚えつつ、エリザベスは事前に持ち込んでいた樽に水を入れて確保した。その後は、また川下に戻っては、のんびりと釣りを始める。
「……………」
同じく川沿いではあるが、エリザベスと少し離れた場所に蛍は居た。狙撃武器を持っては草木の中でじっとしている。己の気配を殺し、自然と同一と化し、ただひたすらに得物を待っているのだ。
待つ事数時間。自然が動く。
対岸に生い茂る背の高い草が揺れたのだ。蛍はまだ動かない。
草のカーテンから顔を出したのは首の長い鳥であった。その首の部分が赤と茶の縞模様となっている。
(特徴的に……一致しているかな)
愛好会から事前に聞いていた鳥で、飛ぶのが苦手で地面を歩く種類だ。ただし、走ると物凄く速い。
二射目はない。蛍はそう理解し、一発で仕留めるべく集中する。
鳥が周囲を警戒しながら、川に近づいていく。浅い所にいる小さな生き物を狙いに来たのだろう。一歩、また一歩と川へと近づき……その目を水面に集中させた瞬間だ。
蛍が引き金を引く。
「獲った!」
精密射撃は見事に取りの頭を撃ち抜き、可食部分である胴体に一切傷が付いていない。
蛍はばしゃばしゃと音を立てて川を渡り、撃ち抜いた得物を手に取る。
ずっしりとした重さが、その型の良さを語っていた。これなら依頼主も満足するだろう。
その後も、蛍はポイントを変えながら狩猟を続けていった。
「あら……成果の方はいかがでしたか?」
川辺で釣竿を出しながら、山に自生するハーブを使ってお茶を淹れていたエリザベスの元に蛍が戻って来た。
「ばっちりよ」
そう言って、蛍は先程撃ち抜いたばかりの二羽の鳥を披露する。あの後、場所を変えてさらに別種であるもう一羽を撃ち抜いていたのだ。
どうぞ、と一仕事を終えた蛍に淹れたばかりハーブティーを手渡すエリザベス。
「むっ……」
そのエリザベスに緊張が走る。糸を垂らしている竿に付けた鈴がチリンと鳴ったのだ。
エリザベスは直ぐに竿を手に取り、大きくしゃくった。瞬間、彼女の手にぶるぶるとした振動が伝わる。魚がかかったようだ。
「獲ったどー!」
腹を大きくさせた見事な魚を釣り上げたエリザベスは高らかに勝利宣言を山に響かせた。
●山中
踏み固められた山道を歩いているのはカシエとレンジーの二人であった。どうやら、二人は山菜や果実を中心に採取をしているようだ。その山道の脇には、様々な種類の植物が生えている。
「あぁ、これも美味しそうですね」
カシエが地面から伸び生えている茎の太い若芽を丁寧にナイフで採っていた。根元からは取らず、また伸びて来るように地面から顔を出している部分だけを切り取っていた。遊牧生活をしていたからだろうか。彼女の自然に対する優しさを見受けられる。
ちりんちりんと獣避けの鈴を鳴らしながら、彼女は続けて食べられそうな山菜を見つけては取って行った。
「やあ、そちらはどんな感じかな?」
カシエとは違う箇所で山の恵みを分けてもらっていたレンジーが傍に寄る。腰に付けた籠には野草が多く入っていた。
「はい、順調ですね」
「それならお昼にしないかい? マスタードサンドを作ってあるんだ」
「あら、良いですね。頂きます」
早朝に山に入ってからは休憩らしい休憩を取っていなかった二人は、近場の倒木に腰をかけた。早速、レンジーがバックから弁当と茶の入った保温瓶を取り出す。
風が奏でる山の鳴き声をBGMにして、二人はマスタードサンドを口に入れて行った。
「そういえば、そちらの袋は何だい?」
もぐもぐと自作のマスタードサンドを頬張りつつ、レンジーがカシエの腰に付いている袋を指して問いかける。袋口から何か強い赤色の葉っぱのようなものが飛び出ているが、食料用の籠とは別に分けられていて気になったようだ。
「あぁ、これは私個人が採取したもので……染料ですね」
「染料?」
カシエは語る。これは生活の足しとして売る事がある編み物に使うもので、糸や布を染める時に使う材料であると。
「依頼のついでに自分の物を……なんて、聞く人が聞けば怒るかも知れないですね」
「あー……そう、だね……」
依頼に集中していない。頭の固い真面目すぎる人が聞けば、こういうかも知れない事柄に、レンジーは歯切れが悪い様子を見せる。
するとレンジーは少し考えてから、採取した食料が入った籠とは違う籠をカシエの前に恐る恐ると差し出した。
「実はわたしも……自分用の薬草を採っていてね」
その籠には、様々な種類の薬草が束になって入っていた。中には市場に出せばそれなりの値が付くものも入っている。
それを見せられたカシエは思わずレンジーの顔を見てしまう。
「……くすっ」
「……ふふっ」
少し間を置いて、互いに笑い合う。依頼のついでに私事を済ませるとは、良い性格をしている、と。
その後、昼の休息を終えた二人は日当たりの良い場所で山菜、切り株や倒木からキノコ類、低木からベリーのような果実を採取していった。
●山中2
「あったのです」
ミミが見つけたのは、鳥が啄んでは地上に落としてしまったボロボロの黄色い木の実だ。その木の実が放つ甘い匂いにつられてか、蟻がたかっている。
「……よし、大丈夫なのです」
辺りを伺う様にきょろきょろと見渡し、耳を傾けるミミ。彼女は話に聞いていた山賊を警戒しているのだ。まだ姿を見たという報告はないのだが、出会ってしまえば一巻の終わりだとミミは考えていた。
周囲にその気配がないと確認したミミは落ちている木の実の真上を見上げる。当然というべきか、背の高い木にピンポン玉程度の大きさの黄色い木の実が成っているのが見える。
「よいしょ……」
ふわふわとした尻尾を揺らしながら、ゆっくりとその木に登っていき、ミミは木の実をもぎ取っていく。その瞬間、ヘタの切口からはふんわりと甘い香りがして、ミミの頬を緩ませた。
帰りもゆっくりと落ちないように確実に降りていく。こうして朝から始めていた果実の収穫だが、そろそろ籠もいっぱいとなってきている。
日も暮れ始めて来たし、そろそろ帰るのも良いかと思った時だ。
近くの茂みがガサガサと音を鳴らした。
「みぎゃあ!」
山賊が現れたか。不意を突かれたミミは、驚き飛び上がってしまった。
「く、来るなです! ミミは一般市民なのです!」
「えーっと……ミミさん?」
茂みから現れたのは、怖い山賊とは正反対の好青年であるマルクであった。弓を背負い、その手には射貫いた野生動物があった。
「な、なんだ……マルクさんだったのですか」
「驚かせちゃってごめんね」
まさかここまで驚かれるとは思っていなかったマルクは、思わず苦笑してしまう。
「得物なのですか?」
「うん。ちょっと小振りだけどね」
ミミが、マルクが持っている動物を見て問いかけた。
マルクが射貫いた動物は、兎に似た餌を探しに行く以外は掘った穴の中にいる動物である。愛好会から事前に聞いた話では、これはスープを取るには良いが、肉としては食べるには向いていない動物であった。
「お肉の無い食卓は寂しいし、何とか収穫を持って帰らないとね」
まだ肉として向いている獲物は入手していない。日も落ちはじめ、このままではメインがない食卓になってしまいかねない。その焦りがマルクの中に少なからずあった。
「ミミもお手伝いするのです!」
「ありがとう。それじゃあ、朝に仕掛けた罠を見て回ろうか」
山に入ってすぐに、マルクたちは獣道に罠をしかけていた。そのポイントは、山に入る前に大二から貰ったメモに書かれていた場所でもあった。その成果を確かめるには良い時間でもある。
二人揃って、仕掛けた罠のポイントへと向かう。何でもいいから罠にかかっていればいいかと思っていたのだが……。
「…………」
「…………」
二人は言葉を失う。
確かに獲物は罠にかかっていた。これ自体は幸いな事だ。しかし、困った事もある。
『フー! フー!』
怒気が混ざった鼻息をしているのは、体重400キロはありそうな巨大な猪にも似た動物であった。全身の体毛が白く濁っており、口元から伸びる牙が赤い。
二人が目の前にいながらも襲われていないのは、右後ろ脚と近くの巨木が繋がっている丈夫な縄のおかげだろう。
「……蛍さん、呼んでくるよ」
「……それがいいのです」
この今日一番の大物を、自分の弓ではトドメを刺す事は不可能だ。そう考えた二人は、狙撃武器を持つ蛍を素直に頼る事にした。
●夜の山
本来なら夜間は入る事は避けた方が良いのだが、大二とマナの二人は夜の山を探索していた。大二が持つカンテラを頼りに、夜の山を進んでいく。
「グフフ……金の鳴き声が響いておるのじゃ」
夜の山は昼とは姿を変える。昼では聞くことの出来なかった生き物たちの声。その声の主達が、二人のお目当てであった。
ただ、違うのはそれだけではない。
「あれ……この匂いは……?」
大二の隣を歩いていたマナが感じたのは、ツンとした刺激のある匂いだ。
「む、マナ嬢?」
「大二様、少し良いですか?」
ランタンを持つ大二を誘導し、その匂いの出所へと向かう。
「あ、これですね」
マナが見つけたのは、自分の背ほどに伸びている植物であった。稲のようになっており、穂先には種子が連なっている。
「ふむ、スパイスじゃな」
「持って帰りましょう」
まだ乾燥させてスパイスとして完成させる前であるにも関わらず、強い香りを出しているそれをマナは採取していった。
これも夜の山ならではの発見であろう。暗闇で資格が制限されている分、聴覚や嗅覚が普段よりも敏感に反応する。香りを手掛かりとするのならば、好条件ではあった。
「うむ……ワシのお目当ても引いた様じゃな」
さらに少し山の奥に行くと、昼間の間に甘い蜜を塗っておいた巨木へとたどり着く。そこにカンテラをあてると、大二は思わず笑みを零した。大小色様々な昆虫が群がっていたのだ。さらにじっくりと周りを見渡せば、その昆虫を狙った爬虫類や両生類なども集まっているのが分かる。
これは愛好会ではなく、密猟者や個人で山を楽しんでいる者から聞いた昆虫採集方法である。誘い餌となる蜜は愛好会ですら知らない特殊な配合になっているのだが、それが合法なのかどうかは不明だ。
「さて、捕まえるのじゃ」
二人の目当てはこの生き物たちであった。虫を始めとするカエルやエスカルゴ。所謂ゲテモノ食材と呼ばれる類のものだ。
これらをうまく調理できるかどうかは……調理師アインの腕によるだろう。
「うっ……うぅ……あ、あの……」
「ほれ、マナ嬢はコレを使うのじゃ」
虫が苦手で極力触れたくはないと尻込みしているマナに、大二は虫網を渡す。
「捕まえたら、そのまま籠に放り込めばいい」
「は、はい! 頑張ってみます!」
これなら何とかと、マナは小さな体に大きな勇気を持って、虫の捕獲に乗り出す。
それを見守る大二であり、それはまるで夏休みの自由研究を手伝う親子にも見える。
「ワシは他の生き物を捕ってくるのじゃ」
虫はマナに任せ、大二はその虫を狙う爬虫類や両生類の捕獲に乗り出した。中にはサッカーボール程度の大きさをしたカエルも交じっていた。
結果、量はともかく種類で言えばこの二人が一番多く捕ることに成功していた。
●調理、そして実食へ
8人が集めてくれた様々な食材。種類も豊富もあり、アインもその腕を存分に振るう事ができていた。
時間のかかる山菜のアク抜きは済ませ、肉の処理も前日のうちにマルクと共に済ませた。厨房に並んでいるのは、あとは調理されるだけの食材である。
そっと厨房から顔を覗くと、ホールにはすでに息子が嫁を連れてきており、妻のエマと三人で話をしている。礼儀も正しく、淑やかな女性だ。息子にはもったいないと思ってしまう。
そんな嫁を連れてきた息子を自慢に思いながら、アインは手を動かし、調理を進めていく。
前菜はカシエとレンジーらが採取した山菜の料理。スープから揚げ物まで、どれも山菜特有の風味を感じる料理に仕上がっている。複数の種類があることから味わいに深みがあった。
次に出したのは魚料理。エリザベスが釣った大物とこれもまた山菜と共に煮込んだ料理だ。海のものとは違う香りが強い魚の脂が食欲をそそらせる。仕掛け罠で捕まえた小エビや小魚も出汁となって効いている。
そして、メインとなる肉料理。蛍が獲った鳥に、マルクたちが獲った猪をマナが採取したスパイスで臭みをうまく調和させた肉となっている。
しかし、皿に乗っている肉は三種類。もう一種類は……大二が捕獲していたカエルの肉だ。味が美味いことは無論、アインも知っているし調理もしたこと後がある。だが、息子が連れてきた嫁には……その肉の正体は言わないようにした。嫁がジビエ料理に慣れた頃にでも伝えよう。ただ、その肉も美味しいというお言葉は頂いた。
他にも数多の虫も捕獲してくれたのだが……。
「いや、このオオツノカイリキカブトの方が強いって!」
「甘いな! こっちのツインテールカミナリカブトの方がパワーあるって!」
それらの虫はレストランの裏でレクターを始めとする愛好会の男共が童心に帰って虫相撲の相方となっていた。それ以外の虫も、アインに調理され、虫相撲を見守る男達の肴となっている。虫には罪はない。味がいい事も知っている。だが、流石にいきなり嫁に出すのは躊躇してしまった。
最後にデザートとしてミミが採取した果実を使ったゼリーである。酸味があって、肉料理の後だと口の中が随分とさっぱりする品物になっていた。
どの料理も、息子の嫁は美味しいと言ってくれていた。
それも当然だ。あれだけの種類があれば、アインの腕が存分に振るう事が出来る。
息子が嫁を連れてくるという親としても緊張するこの場は、成功と言えよう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
皆様、おつかれさまでした
アインの料理もお嫁さんに気に入っていただいて、安心しているでしょう。
また、想定していた以上に相談掲示板で話が進んでおり、面白いプレイングも届き、楽しませていただきました。
このリプレイが皆様に気に入っていただければ幸いです。
またの機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
GMコメント
初めまして。橘 遊輪と申します。
依頼内容はいたってシンプルで、山に入って食材の調達です。
【成功条件】
・食材の調達
最低でも5種類以上の食材が必要です。ですが、採取した食材の種類が多ければ多いほど、成功の度合いは高まります。
【山について】
OPの記述通り、山には自然が多く、川も存在しています。
賊については、その存在をほのめかしておりますが出現はしません。戦闘は起こりません。
【ポイント】
闇雲に探すよりも、何を狙って探すか、どこを注目して探すか。目の向けどころを意識したプレイングであると、食材の発見のしやすさに関わります。
キノコや食べられそうな果実を見つけても、とりあえず確保するのもよいでしょう。毒カどうかの分別は、山愛好会のレクターが行います。
勿論、プレイングに正解はありません。「おっと、そう来たか」。そう思わせていただけるようなプレイングもお待ちしております。
【その他】
アドリブの可否を添えて頂くことや、キャラクターの口調をわかりやすく書いていただけると、私が大変助かります。
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