シナリオ詳細
姑獲鳥のベビーシッター
オープニング
●その後の母子
穏やかな昼下がり、日向ぼっこをして寝ていたはずの赤子が、おぎゃあ、おぎゃあと泣き始めた。
横に居た母親は、内職である書き物を一旦止める。
「まぁ、まぁ。この泣き方はおむつね。はいはい、かゆいかゆいでちゅね」
母親とは凄いもので、泣き方一つで赤子が泣いている理由を見抜ける時もあるだ。
赤子はその通り、おねしょがむずがゆかったらしい。母親はそれを取り替える為、足早におむつの保管場所へ走って行った。
多少動き回れるようになった成長具合の赤子というのは、なかなか目が離せない。傍から離れるにしても数秒から十数秒が限度だ。
――っぎゃあ! ぎゃあ!
その数秒の間に、泣き声がけたたましく鳴った。何か別の事があったのだろうか。
……母親はそれを聞いてぞっとした。今まで聞いた事のない必死の泣き声だったからである。
洗い立てのおむつの束が床に散らばるのも構わずに、元居た場所に全力で駆けた。
母親は光景を見て、悲鳴をあげた。鳥と女を足して割らず、ごちゃまぜにしたような醜く大きな化け物が、我が子を抱きかかえ連れ浚おうとしていたのである。
「メリーに触らないで!」
それが恐ろしいなぞと関係ない。母親は我が子の名を叫び、取り返そうと食ってかかる。
必死の形相で飛びかかってくる母親に、化け物はひねり蹴りをして軽々吹き飛ばした。
一層泣き喚く赤子。化け物が譫言(うわごと)のようにあやしながら森へ去っていくのを見て、母親の意識はそこで一旦潰える。
●紺青
「姑獲鳥(うぶめ)というプルシャンブルーなモンスターの事は知っているかしら?」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は何処か深刻そうな表情でイレギュラーズにそう聞いた。
その手の知識があったイレギュラーズが頷く。
姑獲鳥というのは、簡潔にいえば無念を抱いた母親の妖怪だ。死産で子を抱けず、母もお産の不良で墓に入ると妖怪になってしまい、気に入った子供を浚う化け物になる。
「赤子が浚われたっていう依頼人が駆け込んできた」
プルーは地図を開いて、討伐対象の情報や居るであろう場所を語り始める。
「討伐対象はその姑獲鳥一匹。依頼人の言う事から……比較的大柄のモンスターといっていい類ね。体躯に優れてタフなのに、異常にすばしっこくて力強い」
相手の攻撃は基本的に鋭い牙で噛みついたり、蹴り降ろされたり。接近戦が主になるだろう。威力は強くないながらも範囲魔術は使えるはずであるから、闇雲に密集すると手痛い攻撃を食らうかもしれない。
「それと、捜索能力の長けた人はいる? 浚われた時間は経っていないから、赤ん坊が生きている可能性は十分あるわ」
そう言ってから、少し哀しそうな顔をするプルー。
「姑獲鳥になった女性のプルシャンブルーな無念は理解出来なくもないけど……他人の子を連れ浚って良い理由にはならないわ。彼女達をどうか救ってあげて。イレギュラーズ」
- 姑獲鳥のベビーシッター完了
- GM名稗田 ケロ子
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年11月24日 22時45分
- 参加人数8/8人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「姑獲鳥の縄張り? なんだ、あんたらわざわざあの化け物ンところ行くんかい」
「そうだ。赤子が連れ攫われた」
「その時、どっちの方角から来たのかも、良かったら教えてもらえたら……住処探す手がかりになるかなと思って」
怪訝そうにする狩人に対して、ハッキリと頷く『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)と 『湖賊』湖宝 卵丸(p3p006737)。そして『RafflesianaJack』オジョ・ウ・サン(p3p007227)。
森林地帯への出発直前、狩人を生業としている者に討伐対象の縄張りを聞き出すべく尋ねていた。
狩人はラダのコネクションあって、お互い素性知れぬ者というわけでもない。踏み入るに正当な理由もあって相手の態度は好意的であった。イレギュラーズの時間的事情も鑑みて、すぐにそれらしい情報を話してくれる。
「確か、アレが縄張りにしてンのは埋葬地近くか。森の奥にあってなァ……」
仲間が少し首を傾げた。同じく縄張りを気にしていた『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)が疑問に思ったように言葉にする。
「わざわざ街から離れたところに人を埋めてるのかい?」
狩人はその言葉に少し口籠もった。しかし「隠す事でもないか」と思い直したようでイレギュラーズに説明してくれる。
「流行り病で死んだら、街から離して埋葬するんだ。伝染しないようにな。荒らされないように目印や狼避けだってちゃんとしてるぜ?」
イレギュラーズはなんとなく事の原因を察した。しかし、今この場でそれを議論する事はない。
続けて、狩人へ提案を申し出るメートヒェン。
「私達は赤子を助ける為に埋葬地へ向かう。狩人殿、どうか現地まで案内を頼めないか?」
イレギュラーズの提案を受けて、難しい顔をする狩人。十数秒悩んだ末、「ダメだ。俺だって命が惜しい」と断られた。
対応が好意的であっただけに口先の上手い者がいれば同意を得られたかもしれないが、こればかりは致し方無い。彼は代わりに埋葬地までの簡単な地図を見繕い、イレギュラーズに託してくれた。
「これで十分だ。感謝する」
「ありがとう、狩人殿」
「よし……赤ちゃん、絶対に救い出すんだからなっ」
狩人の贈り物に感謝を述べるラダとメートヒェン。意気込みを新たにする卵丸。そうしたイレギュラーズを見て、口ひげを蓄えた狩人は照れくさそうに笑った。
「いいって事よ。傭兵さんもそっちのお嬢ちゃん達が怪我しねぇように頼んだぜ」
それ自体は単なる応援だったが、卵丸はびっくりするように目を丸くした。明らかに自分もその『お嬢ちゃん達』に含まれていたからである。
「ら、卵丸は男なんだからなっ!!」
森林地帯への出発を急ぎながら、卵丸は狩人に抗議するのであった。
●
赤ん坊は酷く怯えていた。いくら泣き喚いても、目の前の鳥とも人とも見分けつかぬ恐ろしい物が自分から離れようとはしないのだ。むしろ泣いている事でより一層、目を見開いて「ぐわり」と覗き込むように顔を近づけていた。
目の前の恐ろしい物……姑獲鳥にしてみれば、それは当然であった。子供が泣いているのだから、どうすれば泣き止んでくれるのだろうか。胡乱(うろん)だ頭で必死に考えていた。
ご飯だろうかと思い、狩ってきた獲物の生肉を与えてみる。赤ん坊はそれを口からすぐに吐き出して、泣き声がますます酷くなった。
粗相をしたのだろうかと、手先に生えた羽で赤子の下半身を拭う。ぞわぞわとした感触が嫌だったのか、また赤ん坊の泣き声は酷くなった。
全く泣き止む様子はない。イイヤ、泣き声は弱々しくなっている。しかしそれは落ち着いたのではなく、疲労からだ。
姑獲鳥は赤ん坊の様子から「何か」を理解しかけて、少し悲しそうな顔をする。……そのうち、ひどく恨めしそうに顔を歪ませた。
森の中から何かが聞こえた。足音。赤ん坊の鳴き真似声。動物にあらず。人間だ。
姑獲鳥は泣き疲れた赤ん坊を枝葉でそっと隠して。やり場のない感情のぶつけ先を見出したかのように、腕を振りしきるような走り方でバッと森の中を駆け出した。
「子供を抱けなかったから妖怪になる母親がいる一方で、子どもを捨てる母親もいるんだよな」
飛行能力を使いながら、森林地帯を捜索するイレギュラーズ『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)。
地図で覚えた地点、仲間の捜索スキルと自身の人助けセンサーなるスキルを掛け合わせて、救出の先手を打つ事にしたのである。そうして、それは時間の猶予に大きく功を奏した。
しかしサンディとしては、今回の件に少し思うところある。彼自身が孤児である事も要因だった。奪われたものを取り返す形とはいえ、そんな妖怪から無理矢理子供を取り上げるというのは――。
「ま、今は関係ねーや。帰れるガキはさっさと帰すのがサンディ流だぜ」
赤ん坊が近くにいる事を感じ取って、深く考えるのをやめる。
直後、周囲に風が吹きすさんだかと思うと空気が刃になってサンディの体を切り刻んだ。
「……ッ!!」
魔法攻撃。プルーの事前情報から警戒はしていたのだが、運悪くその攻撃で体勢を崩す事となった。もう一つの不運は、地面から数メートル高い見晴らしの良い空中を飛行していた事だ。
サンディの体は枝木をへし折りながら真っ逆さまに落ちて、地面に頭から激突した。後を追っていたイレギュラーズの一人、『ハム子』主人=公(p3p000578) がサンディの安否を伺う。
「だいじょうぶ? 生きてる?」
「このくらいなんでもねぇ!」
頭から流血を垂らしながらも、即座に立ち上がるサンディ。一般人なら死んでもおかしくないレベルであろうに、彼は丈夫で、公や自身のスキルの回復をいくらか受ければ戦線続行可能であった。
「子供の人形でも作っておびき寄せてやろうと思ったけど、その必要も無いみたいだね」
公は木々を掻き分けて近づいて来る化け物に視線をやる。成人女性と鳥を無理矢理まぜこぜにしたような、なおかつ鬼の形相をしている恐ろしい化け物。
姑獲鳥だ。数多ある伝承通りかはさておき、討伐対象のソレで間違いない。
魔法を撃たれた時に反撃としてサンディが咄嗟に小型ナイフを投げたのか、腕には刃物が深々と刺さっている。しかし、それだけで倒れてくれるといった様子は無かった。
ともあれ戦闘開始か。続々と合流したイレギュラーズ達は、各々作戦通りの陣形を組もうとした。
しかしこの開幕で真っ先に動いたのは討伐対象である姑獲鳥であった。
「え、早――」
傍にいた公が呆気にとられたのもつかの間、姑獲鳥は大きく負傷していたサンディにトドメを刺すべく間合いを詰める。
直後、サンディの視界がチカチカときらめいた。格闘ともいえない力任せな蹴り上げを、マトモに顎へ叩き込まれたのである。
舌を噛み切りそうになり、頭の中身が揺れ動く。思考する臓器に甚大なダメージを立て続けに喰らい、そのまま意識が持って行かれる。
仕留め切った手応えを感じたのか、姑獲鳥はすぐに他の者へ目を向けようとした。
「……ってーなこの野郎」
サンディはそう呻いたかと思うと、顎に食い込んだ相手の足を掴み上げ、手に持っていたナイフを抉るように突き刺した。サンディは命にも等しいパンドラの力を削って、無理矢理意識を呼び戻したのだ。
予想外の事に姑獲鳥はケタタマシイ悲鳴をあげて、思わずたじろぐように距離を取ってイレギュラーズを睨み付ける。
「アンタがどんだけ無念だったのは今ので理解出来た。それだけに……このサンディ、他人の子供を殺させる真似はさせねーぜ」
サンディは頭に出来た裂傷を修復しながら、姑獲鳥の前に立ち塞がったのであった。
●
サンディは姑獲鳥の速攻を、一寸の所で防ぎ切った。その間隙を縫って、仲間達は一斉に隊列を組み行動を始める。
このままサンディが狙われるのは戦況的に非常にまずい。公とサンディが治療に注力する時間を何とか作らねばならぬ。
そう判断したメートヒェンは、サンディの盾になるような位置取りをして、姑獲鳥を挑発するような口振りで言った。
「子育てっていうのは難しいものなんだ、鳥に人の子が育てられるわけがないだろう? 分かったら早く連れ去った子を返したらどうだい」
言葉が通じたのか……そして奇しくも、それが絶大な効果を発揮した。相手は恨みに歪んだ顔を、より激しく怒りの表情をにじませたのである。
姑獲鳥は瀕死のサンディには目もくれず、大きな跳躍をつけてメートヒェンに飛びかかった。
「想像以上に素早い……でも卵丸だって負けて無いんだぞっ」
打ち落とされる心配が無いとみて、ジェットパックを使って短い時間で木々から木々に飛び移るようなアクロバットを披露する卵丸。
そうして姑獲鳥の背後を取ったのち、相手の背に飛びかかった。……急所! 咄嗟、武器が当たる直前に卵丸は弱点を見抜いて、そこに攻撃を通す。
「喰らえ音速の一撃だっ!」
姑獲鳥の背中、脊椎の部分が麻痺して、キレのあった身体の動きが極端に鈍くなる。姑獲鳥にとっては最悪の攻撃だった。
「どんなもんだいっ!」
「やるねぇ、男の子」
得意げになる卵丸。味方の援護もあり、メートヒェンは飛びかかってきた相手の攻撃を易々と受け止める。
併せて一気に距離を詰める『風纏い』ティスル ティル(p3p006151)。魔剣を用いた除霊術を発動し、斬り掛かる。
――命中。姑獲鳥の体を形成していた肉が崩れる。死人が蘇ったものだからか、除霊の攻撃は想像以上に効果があった。
「だいぶ荒っぽい除霊でゴメンね。でも急いでるの、押し切らせてもらうよ!」
前衛の構築は完了し、銃持ちの後衛は準備万端。それぞれ木々の茂みに隠れたり太い枝に登攀したり、そうやって射線を通す事を無事に遂行していた。
「……丈夫だな。かなり」
戦闘を続ける姑獲鳥と仲間達を観測するラダ・ジグリ。前衛達の活躍もあって一定のダメージを与えているはずなのだが……中々どうして、倒れる気配が無い。
同じく銃持ちの『マッドガッサー』円 ヒカゲ(p3p002515)も同じ事を思ったのか、スケッチブックを急いで書いてラダに応えた。
『私達の武器ならイケるかな?』『なんであれ、このヒカゲちゃんが絶対に助け出してみせるよ!』
二人とも良くいえば大口径高火力。あの手の大物を仕留め切るには大いに役立つだろう。しかし敢えていえば、それだけに取り扱い辛い武器だ。
ラダは相手の胴体に狙いを付けて、まずは一発目を撃ち放った――ミスショット。弾丸の反動で的が大きく逸れた。
しかしラダは取り乱す事もなく、むしろ冷静に、着弾点から狙いを修正して二発目、三発目と連続でトリガーを引く。
「!!!!」
嵐のような轟音が立て続けに鳴り響いて、姑獲鳥は体勢を大きく崩した。
ラダの早業を目の前にしてヒカゲは内心で多少驚きつつも、銃を構える。
精度ならこっちだって負けはしない。そう言わんばかりに、姑獲鳥にじっくりと狙いを付ける。
そして相手が前衛の攻撃を振り払い、弾き飛ばした瞬間である。その僅かな隙を見逃さず、化け物じみた頭蓋目掛けて火砲を叩き込んだ。
大口径の弾丸を喰らい、頭の右辺が跡形もなく吹き飛ぶ。……仕留めた? ヒカゲはそう思い、そのまま銃口を上げようとした。
――ざわり、ざわり。
目の前のソレから怖気を催すような不安の怨嗟を感じ取って、慌てて銃を構え直した。あれでまだ生きてるのか。脳みそ片方吹き飛ばしたんだぞ。
「子を連れた母という生物は、人でも獣でも途端に恐ろしいものなのだから」
ヒカゲの言わんとする事に、何処か達観したような言葉を吐き出すラダ。
彼女(彼?)らの見定めた通り、姑獲鳥の体はまだ動いた。明らかに瀕死の体だが、拳を振り上げてメートヒェンに再び殴りかかった。
力業を格闘術でどうにかいなす。イヤな当たり方をして、ミシミシと腕の骨が軋んだ。
「治療しとく? アザが残ったら大変でしょ」
メートヒェンの様子を伺いながら、短く提案する公。メートヒェンはそれに受け答えるように、自信ありげに笑ってみせた。
「心配感謝する。だが不要だ!」
そういってサンディと同じ要領で、腕の負傷を治療する。サンディもそうだが、メートヒェンにしても強靭な耐久力を有していた。治療を担当する護衛付きともあらば、これを打ち崩すのは容易ではない。
「もう一撃っ!」
メートヒェンへの乱打が止んで、好機と見た卵丸がすかさず姑獲鳥の背面に飛びかかる。しかし突如として姑獲鳥の上半身だけぎゅるりとねじ曲がり、卵丸の方を向いた。
それにぎょっとする暇も無かった。岩のような裏拳が卵丸のみぞおちに叩き込まれたのだ。
あまりの衝撃で卵丸の小躯が一瞬浮いた。その足が地に着く前に、姑獲鳥は彼の後頭部を鷲掴みにしたかと思うと、固い地面へ顔から叩きつけた。
卵丸はそこで意識を失う。メートヒェンへのヘイトが外れ、脊髄の麻痺から解放された化け物の足掻きだった。
「母は強し、ってか? けどな……」
ある程度の治療を終えたサンディが何事か呟いたかと思うと、戦場に風が舞った。姑獲鳥の魔法攻撃か? イレギュラーズのいくらかが身構えたが、その風は砂煙を上げて姑獲鳥の視界を奪い取った。
「今だ!」
サンディが号令を掛ける。彼の妨害魔術か。
仲間達が一斉に攻撃を仕掛け、相手は眩んだ視界でそれを必死に弾く。避ける。
しかし多勢に無勢。あまりの連打に、姑獲鳥はイレギュラーズの一人が剣を振りかぶった事に気付く暇もなかった。
貴方の気持ち、分からなくもないけれど。
そんな躊躇いが一瞬ティスルの頭をよぎる。しかし他人の子供を攫うのが許されるわけではない。子供をお互いわけのわからないまま死なせてしまっていいはずもない。
もはや我が子を抱けなかった無念だけで動いている目の前の幽鬼を打ち払うべく、剣に魔術を込めて一閃させた。
強靭だった肉体が、破邪の力によって脆い土くれのように硬度を失い、容易くその首が飛ぶ。
ティスルの腹部目掛けて放たれかけていた拳は、べちゃりと力なく音を立てただけであった。
「…………おやすみなさい。せめて安らかに」
姑獲鳥がついに倒れ伏したのを看取り、彼女はその成仏を祈るのであった。
●
「痛い、痛いってばっ!」
「も、もうちょっと優しくしてくれよ!」
味方に治療を施され、先程とは打って変わって痛がる様子を見せるサンディと卵丸。激しい裂傷より消毒薬を塗られる方が辛いと言わんばかりだ。
「はいはい、男の子でしょ。文句言わない」
その一言で体よく二人を押し黙らせる公。ともかく障害がなくなった今、赤ん坊を探さなければならぬ。
手早く治療をしている合間、サンディは捜索能力のある者に赤ん坊がいるであろう場所を伝える事にした。
「姑獲鳥の伝承には興味深いものがあってね」
しばらくして治療を終えてから、公は捜索チームとは別に埋葬地の周辺から何かを探していた。
そうして流行り病で死んだ者を埋めた場所であろう目印を複数箇所見つける事が出来た。その一つに目星をつけて掘り返してみると、蓋がされた小さな桶だった。静かに蓋を開いて、より強く納得したように頷く公。
「何が入っているのですか?」とティスルが思わず覗き込もうとするが、公は何も言わずすぐに閉めた。
「ともかくとして、姑獲鳥の……あの女性も埋葬してあげようか。今度はこの桶の中身も一緒に」
表情を変えず、されど少し寂しげに公は言った。
『ヒカゲちゃんは探索に役立ちそうなスキルはあまりないんだけどね……』
捜索チームのヒカゲは愚痴っぽくそんな事を言い、もといスケッチブックに書きながらトボトボと歩いていく。
仲間の誰かが「銃撃戦で十分活躍しただろう」と宥めようとした。しかしそれを言う前に、意味ありげにヒカゲはぴたり足を止めた。
彼(女)は終始、不安な感情を探知するスキルを使っていたのだが、ここにきて非常に強くそれを感じ取った。それも発信源はすぐ近くだ。
ラダはそれを受けて、耳を研ぎ澄ます。小さな呼吸音、あるいはぐずるような声が木の葉の下から聞こえてきて、そこを掘り出すように掻き分けた。
……見つけた。赤ん坊のメリーだ。捜索は非常に手際良く行えたのもあって、衰弱は最小限と見受ける。
不安そうにぐずっていた赤ん坊は、ラダ達の顔を見るなり少しだけ表情を和らげたかと思うと、安心して気持ちが緩んだのかすぐに大声で泣き出した。
「あぁ、よしよし。もう大丈夫だ。ミルクもおむつも持って来たぞ。えぇっと、子育て経験のある者は?」
メートヒェンは同じ捜索チームの者を見回す。しかし期待するような応答は得られなかった。
相変わらず泣き出している赤ん坊。これだけ元気なら、医者や親の元までは十分持つだろう。
しかしそれまでにこの子を泣き止ますのは討伐依頼よりある意味でハードだぞ。そんな風に乾いた笑いがイレギュラーズの顔に浮かんだのであった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
依頼お疲れ様でした。
GMコメント
●成功条件
1.『姑獲鳥の討伐』
2.『赤子(メリー)の救出』
赤子については何かしら作戦や捜索に使えるスキルがあると捗るかもしれません。
あまりに膨大な時間を掛けすぎると、衰弱死してしまう可能性があるでしょう。
人相は金色の髪が生え揃えて、ほんの少し太っちょな子。人懐っこいが、誰かが傍に居ないと泣く。
●環境情報
幻想のとある街近くにある森林地帯。時間帯の開始は昼から。
地域的にはそれなりに広く、幻想地域の土地勘かあるいは他の何かが欲しいところである。
木々の遮蔽物は多く、若干の視界不良。
●敵の情報
『姑獲鳥』
生まれてくる子を抱けなかった母の無念が膨らんでモンスター化した幽霊、あるいは妖怪。
正確に伝承そのままかそうではないかはともかく、今回の討伐相手はこれ一体。
見た目が非常に恐ろしく、それと見間違う事はないはずだ。
動きは非常に俊敏で、異様にタフ。力任せな格闘や簡単な魔術を使いこなす。
なお作戦前に情報収集出来た周辺の狩人曰く。
・やっこさん、なんか知らんが縄張り意識が非常に強くてな。森で狩りが出来ないからさっさと退治してくれよ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対起こりません。
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