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シナリオ詳細

高襟血風録~仇討お鈴~

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 兵衛は所謂鼻つまみ者であった。
 蛮カラ(※1)、しかもその中でも平等な闘争を良しとする謳炎男(おうえんだん)族に生まれながらも、弱きを挫き強きにおもねることになんのためらいもなかったのだ。
 卑怯者と罵りを受け、大学から退学処分を受け(※2)、山野を流離うようになって、しかし、兵衛は己の正しさを確信した。
 やはり力こそが全てなのだ。
 平等な条件での闘争など吐き気を催すほどの敗北主義である。戦えど勝たねば何の意味も持たぬのだ。
 郷の者が言う高潔や矜持で腹等膨れるものか。奴らの闘争ごっこを真似たときよりも先日押入をした時の方がどれほど心躍ったものか。楽しもうと思って生かした娘が生意気な目をするものだから顔を焼いてやった時など、この上ない狂喜に胸が満たされ正体を失う程であった。
 敗北の可能性のない勝負ほど楽しいものはない。蹂躙ほど生の喜びを感じる時はない。
 この絶対の真理を何故、多くの者は知らぬのか兵衛は不思議でならなかった。

 ヱリカは流浪のハイカラ(※3)である。
 小粋に結んだ編み上げブーツと袴姿が示す通り生粋の女学生であり、そこに千鳥の紋がついた羽織を合わせるのがヱリカのスタイルだ。
 とある事情から女学院の守護を辞してより久しく故郷の地を踏んでいなかったが、己の出自を少しでも美しくみせようとすることはちょっとした矜持でもあった。
「もし、もし、そちらのブーツの方。女学生のハイカラ様と存じます」
「如何にも。我はハイカラ。春鳴をとめ女学院、災来(さいくる)のヱリカである」
 とある折、そぞろ歩いていたヱリカを呼び止めたのは物陰に伏した女であった。
「その方、何用か」
「不躾ながらお願いがあってございます」
「申してみよ」
「ありがたき幸せにございます。私の願いはただ一つ、仇討ちを手伝っていただきたいのです」
「なんと」
 女の様子をよくよく見れば、着物は煤けて乱れているものの解れたきらめきを見るに上等の絹である。地べたにそのまま額づけて座る者が身にまとうような品ではない。
「まずは顔を上げよ。仔細を申せ」
「なりませぬ」
「よい、上げよ」
 女の顔を見て、ヱリカは喉の奥で唸った。顔がとろけていたのである。
 重度の火傷であろう。瞼はほとんど溶接された有様。かすかにのぞく瞳の黒さを見るに見えてはいるのであろうが、どれほど視力が残っているかは怪しい。鼻はなく、穴だけが二つばかりぽつぽつと残っているのを見ると削がれたのか。
「私はこの町で呉服屋を営んでおりました権蔵の娘、お鈴と申します」
 しかしながら、その言葉遣い、姿勢の力強さは、それほどの暴力に飲まれて尚、ぴんと一本通った心根を感じさせた。
「ここは平和な町でございましたが、突然兵衛という蛮カラがあらわれてより一変いたしました。
 元々蛮カラとは粗野な方が多いもの。しかし、その分筋を通すものでございます。
 ですが、兵衛は屑です。気の向くままに暴れ、脅し、挙句「飲み代がなくなったから」と店に押入りを働き、父と母を殺した挙句、私の顔を焼き、辱めを」
 淡々と語るお鈴の心は如何ばかりであろうか。ヱリカは一言も発することなく、じっと溶けかけた瞳を見る事しかできない。
「このような仕打ちを受けましては、仇を討たねば菩提を弔うことも出来ませぬ。ヱリカ様、どうかお力添えを」
「我はその兵衛とやらを殺せばよいのか」
「いいえ、私が殺す手伝いをしていただきたいのです」
 ヱリカは眉を寄せる。このお鈴、どう見てもハイカラでも蛮カラでもない人間(※4)である。それでも武の心得があればなんとかなろうが、意志が強いだけの町娘とくればどうやって仇を討たせてやればよいかとんとわからぬ。
「了承した。しかしながら、我だけでは足りぬ。もっと協力者が必要であろう」
 しかし、お鈴を見捨てるという選択肢はすでにヱリカの中には存在しなかった。


「仇討ちってどう思う?」
 イレギュラーズを呼び止めたカストルはそう切り出した。
「実はね、仇討ちの手伝いをしてきてほしいんだ。
 現地にもう一人手伝ってくれる人がいるけど、その人はいい計画が思いつかないみたいだから」
 ……きっとこれは、もうそうするしかない、そんな人のお話なんだ。


(※1 蛮カラ:種族名。非常に強靭な肉体を持ち、氏族ごとに独特の美学がある。男性が多い)
(※2 大学:蛮カラの集落の事。大学から退学処分を受けるということは人間でいう国外追放処分を受けたに等しい)
(※3 ハイカラ:種族名。非常に強靭な肉体を持ち、氏族ごとに独特の拳法を習得している。女性が多い)
(※4 人間:種族名。混沌世界におけるカオスシードと同等)

NMコメント

七志野言子です!高襟はハイカラーっていうらしいですね。

●目的
お鈴に兵衛を殺害させる
(過程はどうあれお鈴の手によってトドメが刺せればOKです)

●NPC
兵衛
蛮カラ。謳炎男の忌児。
飲む買う打つの三拍子どころか盗む奪う殺すまでする屑。
飲み屋、女郎屋、賭場の3つをぐるぐる回って金がなくなったらその辺の町人から奪っている。
強い者の前では慎重になるが、弱い者の前では油断しやすい。

ヱリカ
ハイカラ。春鳴をとめ女学院出身、災来のヱリカ。
単純に武力なら兵衛よりも優れているが、頭は良くない。
とりあえずお鈴にハイカラ拳法を仕込もうかと思っている。

お鈴
人間。呉服屋の娘。
立ち姿や声音は大変美しいが、顔が焼けただれている。
仇が討てるのであれば、どんな方法でも了承する。

●その他
場所や仇討ちの方法は自由に考えて頂ければと思います。
プレイングに書いていただければ、その場所やモノはあるものとして描写します。

  • 高襟血風録~仇討お鈴~完了
  • NM名七志野言子
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年11月19日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女

リプレイ

●現在
 少女の指先で硬貨が跳ねる。
 『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は硬貨を弄んで往来を歩いていた。
「お嬢ちゃん、どこの子だか知らないけどお金をそんな風にして遊ぶもんじゃないよ」
 その無防備な様子に通りがかった女が声をかける。
「今はそれでなくっても物騒なんだ。手の中のものをしまって早くお母さんの所へお帰り」
「そうなの?ありがとう、おばさん」
 何も知らぬ様子で首をかしげるメリーは正しく無垢な小娘である。
 物分かりのいい様子に声をかけた女はほうっと息を吐く。この道は兵衛の通り道である。子供が餌食になるのは見過ごせぬが、時間をかけて奴に目を付けられるのは恐ろしい。
「でも、私はこれでいいの。おばさんこそ家に帰った方がいいわ」
 一瞬、ただの一瞬、メリーは役者としての仮面を外す。その顔は兵衛等よりも狡猾な捕食者の顔であった。

 その日、兵衛はツイていなかった。
 賭場で素寒貧にされてしまったのだ。悔しかったが負けたからと賭場で暴れるのは無粋である。ただただ憮然としてその場を後にするほかない。
 懐寒く募るのは苛立ちばかり、しかし、新たな種銭となりそうな者もおらぬ。
 そろそろ河岸を変えるべきか。押入りを働くのは簡単であるが、あまり回数を重ねれば同心だのが煩い。
「あっ」
 幼気な声に顔を上げれば道の隅に少女が立っているではないか。
 これにしよう。
 よくよく見れば銭を手の中で転がして遊んでいる最中であったらしい。どこからくすねたのか子供にしては大仰な銭袋も持っている。このような性根の子であれば、己の手にかかっても仕方ないであろう。
 兵衛の足が少女へと向く。少女は動かない。動けないのであろう、と兵衛は納得した。体を震わせてこちらを見上げる様子を見れば歪な充足感が腹の底から湧いてくる。
「い、いや……」
 首を振りながら少女は後ずさりし、力の抜けた手から銭袋が落ちる。緩んだ口から銭がぶちまけられ兵衛の意識は一瞬で散らばった銭に移った。
「おうおうおう、銭をばら撒くったぁ悪ぃ娘だなァ」
 兵衛は腰をかがめ、地面に転がる銭を拾い上げ。
 そして、己の足に巻き付くオーラの縄に気が付いた。
「なんだァ、こりゃア」
「なんだじゃねぇよ」
 散らばった銭が紙屑のように巻き上がる。兵衛を、否、死角から躍り出た『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398) を中心として渦巻くは極小の暴風域。目を見開くどころか息をするのも困難な嵐の中、兵衛はたまらず尻もちをついた。
 しかしそれだけでは終わらない、後ろからむっちりした感触の何かが押し当てられたかと思うと、間髪入れずに脇の下から伸びたぷにぷにした腕が拘束したのだ。
「ぎゃア!」
「そんなに嫌がられると僕も少し傷つくかもしれない」
 『最強砲台』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619) の業である。
「お鈴殿、どうぞ」
「ありがとうございます、皆様」
 そして、『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)とヱリカに連れられて、顔の溶けた女が現れる。

●時は遡る
「以上が作戦の仔細にございます」
 ルル家の説明に鈴は頷いた。元より彼女は仇討ちに美意識など求めていない。しかし、その代わりヱリカは僅かに眉を寄せる。
「ヱリカ殿には気分良からぬ所業なれど、何卒ご甘受頂ければと思います」
「否、鈴殿にもののふの道理を押し付ける意味もなし。協力させていただこう」
 そういう事になれば、イレギュラーズの行動は早い。
 メリーは囮としての役作り、義弘は兵衛の通る道の割り出しに散り、残った二人は鈴に武具の扱いの心得を仕込む。
「相手の動きが止まる瞬間を狙うんだ。
 攻撃したり受けたりする時はどうしても隙ができる。そこをついていこう」
「お鈴殿が使う匕首に痺れ薬を仕込んでおきました。
 何処まで通じるかわかりませぬが……試せることは何でも試すと致しましょう」
 ムスティスラーフは戦いのしくみを説き、ルル家は道具によって鈴を助ける。
 鈴はそれを短い間に吸収した。それまでの生活に馴染みのなかった体捌きなどを教えられてもこうはいかなかったであろう。しかしながら鈴は商家の娘。理論と道具の取り扱いは分野が違えど通ずるものがあったらしい。
「このような惨い行い、聞いたからには素知らぬ振りは出来ませぬ。
 御依頼、見事果たして見せましょう」
「はい……」
 気合を入れたルル家に頷く鈴の横顔をムスティスラーフは静かに見ていた。
 復讐の炎は相手か己を殺すことでしか消えることはない。復讐者の心理をムスティスラーフは身をもって理解していた。

●再び現在
「てめェは呉服屋の!」
「覚えておいでですか」
「可愛がってやったじゃねェか!オマエも獣みたいな声上げてよォ!楽しん」
 言葉は最後まで紡がれることはなかった。義弘の拳が兵衛の口を閉じさせたのだ。
「カタギの皆さんにご迷惑をおかけしておいて何だその言い草は」
 兵衛は血交じりの唾を吐きだし義弘をねめつけるが、本物の任侠である義弘の表情は小動もしない。
「あははは、楽しいわね、兵衛。まったく“敗北の可能性のない勝負ほど楽しいものはない”わ」
 自分に怯えていたはずの少女、メリーさえそのように嘲笑ってくるではないか。
「そうでしょうか?拙者、恥ずかしながら整理整頓が苦手でして……」
 トドメはこれだ。
「つまるところ、ゴミ掃除を楽しいとは思わぬという事です」
 兵衛の顔が怒りで真っ赤に染まる。
 ころさねばならぬ。
 故郷を出て己を馬鹿にしたものは全て殺してきた。しかし故郷ではどうだ。己よりも強い者はいくらでもいて、己よりも屑はいなかった。
 此処でこ奴らを殺さねば逃げたとて何れ弱い己に追い抜かれるに違いない。
 ころさねばならぬ。
「くそッくそッ!お前らァ!殺してやるッ!絶対に、絶対にだッ!」
 蛮カラ特有の恵まれた腕力でムスティスラーフの腕を振りほどき、狒々のように飛び掛かる相手は、鈴だ。
「弱い者から狙うとは見下げた性根でありますね!」
「この女と俺の何が違うッ!人を雇って襲わせテンじゃねェか!」
「ハッ!」
 間に割り込んだのはルル家であった。振り下ろされた剛腕をしかと受け止め、鼻で笑う。
「夢見様」
「なに、お鈴殿が耐えた責め苦を思えば涼風程度のものです!」
 受け流しきれなかった衝撃であらぬ方向に曲がった指を鈴から隠しながらルル家は虚勢を張る。防戦は得意ではない、しかしそんなものがなんだというのだ。
「しかしまあ、兵衛よ、少し力が強い位で、筋モンが調子に乗りすぎたな。俺達ゃぁ、カタギの皆さんに飯食わせて貰っている生きモンだ」
 本来の蛮カラの在り方と任侠の在り方は似ている。それ故に義弘は兵衛の体たらくが許せなかった。剛腕をかいくぐり、心臓が痺れるほどの強打を撃ち放つ。筋モンが筋を通さねぇで、どうするんだよ。苦いその思いは、かつて兵衛を導こうとした蛮カラたちの思いと同じだろう。
「何が筋だッ!獣取って喰ってんのと同じだろォ!?野に居たから取って喰うのと何が違うってんだよォ!」
「今更か。……この世で好き勝手してきたんだ、年貢の納め時と思って諦めるんだな」
 伝わっていたならこの様な事態にはなっていなかった。
 ただそれだけを理解して義弘はすり足で僅かに下がる、その隙間に入り込んだのはメリーだ。
「あなたの思想は素晴らしい。全面的に賛同するわ」
 場違いに笑うメリーに兵衛は暗い目をした。己はメリーの如きであるはずなのにそうなれぬ憎しみ、妬みが凝り固まってある。
「“蹂躙ほど生の喜びを感じる時はない”もの!
 ねぇ、ストレス発散のサンドバッグにでもなってくれない?」
 不殺傷性の術式を正面から受けて、兵衛は狒々のように鳴いた。
 痛みからではない。理想と現実の歪みに脆い精神が耐えきれなかったのだ。
 瀕死だというのに手負いの獣のように暴れまわる兵衛。しかし、それを戒める腕が再び背後から来る。
「お鈴ちゃん」
 ムスティスラーフの教えを鈴はきちんと理解していた。
「兵衛……」
 動きの止まった兵衛の前にまろび出て抜き放った匕首の刃を教わった通り首筋を狙い。
「死ね」
 動脈に向かって全体重をもって突き刺す。
「死ね」
 腹の腑を一つでも多く傷つけるように抉る。
「死ね」
 眼球の奥の脳髄に突き立てる。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね、死ねェェェェェ!!!!」
 基地外のように全身の急所を刺しまくる鈴の他、誰も声を上げる者はいなかった。
 最初は呻き声を上げていた兵衛も、刺すたびに血を吹くだけになり、叫び声に変わる頃はそれもなくなった。
 ただムスティスラーフは鈴が刺し易いように兵衛を抑え、差し出し続けた。

 びちゃり、と音を立てて兵衛は地に伏す。狂乱も永遠には続かぬ。血みどろになった鈴は茫然と肩で息をしながら、再び匕首を握る手に力を入れた。
 きっと今の私は鬼のようであろう。鬼は残してはおけぬ。
 流れるような動作で己の喉を突こうとする鈴を義弘は眉を寄せ、メリーは冷めた目で見送った。ルル家は、ヱリカは止めようと走った。しかし二人とも間に合わない。
 間に合ったのは、これを予見していたムスティスラーフであった。
「僕も復讐者だからわかるよ」
 ぷくぷくとした手を血に染めて刃を止める髭面を鈴はただただ驚愕のまなざしで見つめる事しかできぬ。
「もしよければ、僕が復讐を終えた時、戻るべき場所の一つになって欲しい」
 焼けただれ溶けた瞼から涙が零れ落ち、血をぬぐった。
「復讐を終えて平穏な生活を取り戻した姿はきっと未来の僕の支えになるから」
 鈴の手から匕首が落ちる。
 はい、と消え入りそうな答えをムスティスラーフは確かに聞いた。

●未来
 とある寺には顔を隠した尼がいるという。
 顔を見たものはいないが、心根は清廉。寺に訪れる多くの者の心の助けであったそうな。

成否

成功

状態異常

なし

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