シナリオ詳細
クズはクズでも
オープニング
●忍び寄るツル
海洋の国に点在する群島、そのの中の一つに、大きな漁村があった。潮の満ち引きが激しい遠浅の海で暮らすため、村人達は、地盤の安定している森の方から土台を作って丸太の橋を渡し、その上に家を建てて暮らしていた。村の往来には小舟が用いられ、漁の時には村で共有された帆船に乗り込みカツオやタラを釣り上げるのだ。釣れた漁獲物を都へ売り捌くだけでなく、幼い頃から操船技術を学んだ彼らは、海洋の所有する海軍の乗組員としても活躍していた。
と、海洋にとってそれなりの価値を持つこの漁村。そこに一つの脅威が迫りつつあった。
小舟を漕いで村を隅から隅まで渡っていた一人の男が、ふと櫂を漕ぐ手を止めて首を傾げる。橋の上に立っていた女を見上げ、男は彼女に尋ねた。
「なあ、橋の下にクズが生えてるんだが、この前までこんなに伸びてたか?」
「え?」
女は橋の淵に膝をついて、覆いかぶさるように橋の下を覗き込む。確かに緑色の葉がすっかり繁茂している。
「あら……一体どうなってるのかしら、これ。あんまり殖えると橋が腐るわ。何とかしてもらわないと……」
彼女は立ち上がると、村長の暮らす家へ向かおうとする。しかしその時、突如として橋の隙間から次々にツルが伸びて女の足下に絡みついた。悲鳴を上げる暇もない。四肢を絡め取られ、葉で顔を覆われ、そのまま繁茂するクズの中へと飲み込まれていった。
「おい!」
村はあちこちで阿鼻叫喚となった。家から飛び出して逃げようとした者達を余さず絡め取り、飲み込んでいく。船に乗っていた男にも、ツルが一本迫った。
「うわぁっ!」
男はとっさに櫂を振るってツルを払い除け、慌てて沖へと飛び出す。
「こりゃあマズい! 早くお上に報告しねえと……!」
島の中心に茂る小さな森。そこに暮らす動物達も、生い茂るクズの葉に包み込まれていた。ぐったりと動かないイタチを一匹摘み上げ、一本のツルが森の中をするすると動いていく。森の中に咲いた巨大な顎が、イタチの死体を一飲みにした。
●迷惑植物を刈り尽くせ
君達はギルド『ローレット』へと集まった。『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、コルクボードに一枚の海図を貼り付けた。三日月形の島の内側へ張り出すように、大きな漁村が構築されている。
「今回の依頼は、化け物になった植物に占拠された漁村を救出することなのです。依頼を要請してきた人の話だと、島の森にもともと生えていたクズが漁村の方まで張り出して、村に住んでいる人達をツルで捉えて飲み込んでしまったらしいのですよ。話を聞く限り、時は一刻を争うのです。直ちに皆さんは現場に向かって、悪さをしている植物から漁村の皆さんを助け出してきてほしいのです!」
ユリーカは羽ペンをインクに浸すと、コルクボードに貼った地図に色を塗りつけていく。
「森から発達したクズのツルは、漁村の橋の土台から張り出すように伸びていって、いきなり村の人たちを飲み込んだらしいのです。まずはこの人達の救出と漁村の解放を目指してほしいのです」
漁村を塗り終えたユリーカは、今度は森の方を塗りこんでいく。
「ですが、みんなを助けただけでは、またクズが伸びてきて飲み込まれてしまう可能性が高いのです。ですので、皆さんは森にも入って、この暴れているツルの根本を断ってほしいのですよ。一応予想はついてるので、こちらを参考にしてほしいのです」
いうと、森に四点印を付けた地図を君たちに手渡した。
「では、よろしくお願いするのです」
●海へも伸びるツル
君達は帆船に乗り込み、沖合から漁村へと近づいていく。橋の上に作り上げられた漁村が、ものの見事に巨大な葉とツルに覆い隠されていた。
- クズはクズでも完了
- GM名影絵 企鵝
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年11月19日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●漁村を解放せよ
船に乗って近づくと、漁村全体を包み込んでしまった葛の異様さがよくわかる。葉っぱも蔓も、何もかもが巨大化しているのだ。ヒィロ=エヒト(p3p002503)は緑まみれの光景を見渡し、思わず息を呑む。
「うわー……葉っぱとか全体的に巨大化してるよね。お日様の光だけじゃ栄養が足りなくなっちゃったのかな?」
「だからといって、人に害を及ぼすとは、やはり“クズは屑”でしたか」
桐神 きり(p3p007718)はさらりと呟く。美咲・マクスウェル(p3p005192)はちらりと彼女を見遣り、困ったように髪先をくるくるさせる。
「えーと……」
周りも大方同じ反応、きりは慌ててその手を叩いた。
「うん、これで依頼前のクールダウンもばっちりです! さあ、落ち着いていきますよ!」
「……うん! さっさとぶった切って皆を助けよ! 理由を考えるのもそれからだね!」
ヒィロは船の舳先に片足を掛け、一気に埠頭へと飛び移る。美咲からロープを投げ渡され、彼女は素早く船を橋に結び付けた。ポテト=アークライト(p3p000294)、リゲル=アークライト(p3p000442)夫妻は、真っ先に橋へと飛び移った。
「漁村で村人を助けて、森で動物を助けながらクズ退治か……大変だが、全員助けたいところだな」
ポテトは早速タクトを抜き放ち、素早く紋章を描く。魔力に誘われた水の精霊がふよふよと近寄ってきた。
「村人が囚われている場所は分からないか?」
尋ねると、精霊はふらりと揺れてイレギュラーズを導き始める。二人は頷き合うと、その後を早足で追いかけた。そのすぐ後ろについて歩きながら、黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は生い茂る葛をぐるりと見渡した。
「さてさて、面白そうな植物が繁殖しているね。これもこの辺り固有のものかな?」
「そうらしい。繁茂すると処理が面倒な植物の一つだね。これほどの事になるはずはないけれども」
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)は手にした本を捲りながら応える。多元の見識にかかれば大抵のことは分かるのだ。
「一気に燃やせたら楽なのだけれど、そうすると森やらが大変になるのだよなぁ。根っこまで抜いてしまおう」
「ふむふむ。出来れば持ち帰って観察したいところだな。……まあ、先に村人の救出をせねばならんか」
葛に興味を引かれつつ、ゼフィラは推進器付きの盾を構える。表面に魔法陣が浮かび上がったかと思えば、一瞬にして周囲に光が放たれ、建物や橋を包み込んでいく。固く引き締まった足場を何度も踏みつけながら、ゼフィラは普段通りに笑みを浮かべる。
「さて、これで多少は戦いやすくなったかな?」
「ああ。いちいち橋を壊しそうとか考えていたら、何時までたっても駆除が終わらないしね……」
リゲルは頷くと、左のこめかみに指先を押し当て、両目に魔力を流し込む。目の前に激しく絡みつき生い茂る蔓の中、固く縛り上げられた人影がぼんやり幾つか浮かび上がる。リゲルは剣を抜き放ち、切っ先を蔓へ向けた。
「こことここ、それからここに村人が押し込まれてる。そこを避けるように攻撃してくれ。……こんな風に!」
彼は剣を抜いて諸手で構えると、力強く蔓へと振り下ろした。どす黒い液が突如噴き出し、断たれた蔓の先が蛇のように暴れる。その瞬間、周囲を取り囲む葛の蔓が一斉に暴れ出した。四方八方から取り囲むように蔓が伸びて、イレギュラーズを次々に打ち据える。ポテトは咄嗟に指揮棒を振り、天使の唄を辺り一面に響かせる。
「早速暴れ出したな。……倒れないように気を付けろよ!」
「こっちこっち! 鬼さんこちら、手のなる方へ!」
ヒィロは狐火を足下に纏わせながら浮き上がり、手を叩きながら跳び回る。彼女の挑発に釣られ、蔓の先が次々に彼女へ襲い掛かる。咄嗟に彼女は首から下げた宝珠を掲げ、光の障壁で蔓の鞭を受け止める。
「美咲さーん! お願いっ!」
「わかってる、任せて」
美咲はヒィロに群がる蔓をじっと睨みつけて念じる。その瞬間、闇の中から這い出してきた黒い茨が葛の蔓に絡みつき、次々に蝕み引き千切っていく。
「ぽっと出の蔓とこの茨、格の違いってヤツを見せてあげようか」
「美咲さんカッコイイ!」
一方、アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は船に乗ったまま、海から遠巻きに葛へ狙いを定めていた。
「人喰い葛、か。よくない育ち方をしたわね……人間のテリトリーまで押し入って襲い掛かるなんて、植物にやさしい私でもちょっと許せないのよ!」
リゲルがすでに村人の押し込まれた位置を見切っている。アルメリアはその位置を避けるように狙いを定め、掌の先に魔法陣に展開する。アルメリアが指をぱちりと鳴らした瞬間、蛇のようにうねる稲妻が弾け、深く絡まり合う蔓を焼き切った。蔓から解き放たれた青年は、ぐったりとその場に倒れ込む。
「大丈夫?」
船上から声をかけてみるが、青年はぐったりしたまま一向に眼を覚まさない。
「あまりいい状態じゃなさそうね……」
ぽつりと呟くと、彼女は青年へ治癒魔術を施す。その瞬間、青年はかっと眼を見開いた。
「こ、これは……!」
青年の目の前では、イレギュラーズと化け物となった葛との戦いが続いていた。きりは四方から伸びる蔓にその身を打たれながら、宝珠を握りしめて右手を構える。
「さっきから、好き放題に私の事を打ち据えてくれていますが……!」
きりは魔力を纏わせた手刀で絡みつく蔓をバッサリと切り捨てる。ぎゅうぎゅうに絡みついていた蔓の塊が、橋の上にどさりと落ちた。きりは素早く駆け寄り、やっとの思いで蔓を解いて中の女を助け出す。
「大丈夫ですか?」
女は咳き込み、寒そうに身を縮める。きりは女の額に手を翳し、毒を癒していく。
「どうです? やっぱり私はこういうところで役に立っておかないと。……いや、前線に立つのが面倒な訳じゃないですから」
言い訳のようにきりが言う背後で、グリムペインは鋭く伸びた爪を振るって蔓に突き立てる。様々な毒を一緒くたにした一撃。蔓は一瞬縮こまるが、やがて別の蔓が背後から伸びてきた。
「ふむ……群体であるとも思われないが……さすがに株が大きすぎて少し毒を持ったくらいでは効かないかな」
胸いっぱいに息を吸い込むと、一気に吐き出し強烈な嵐を目の前に引き起こす。橋の上に積もっていた蔓の残骸が海へと吹き飛び、押し寄せていた蔓も纏めて千切れて海へと落ちた。形勢の不利を悟ったか、蔓は漁村へ張り出すのを止め、するすると引き下がっていく。
「おっと、逃がしはしないよ」
咄嗟に駆け寄ったゼフィラは、掌に闇の月を浮かべ、魔力の波動を叩きつける。蔓の塊が一気に萎び、するりと解けて中から老人が滑り落ちた。腰をしたたか打ち付けた老人は、弱弱しく呻き声をあげる。
「やれやれ、少し手荒になってしまったな……」
●厄介な蔓を刈れ
10分と少しくらいかけて、イレギュラーズは何とか村人達を葛の蔓から解放した。毒で参っている者もいたが、ひとまず命だけは助かりそうだ。容態を確かめたグリムペインは、まだ動ける村人達を周りに集める。
「またこの村に蔓を伸ばして来るとも限らんからね。とりあえず君達は家の中に籠っていてくれないかな」
「大丈夫。葛は私達が倒して来るから、安全な場所で待っていてください」
ポテトも力強く頷くと、リゲルと共に飛び出した。二人揃ってお揃いの靴で飛び上がり、上から見下ろすような形で森へと接近していく。砂浜に降り立ったアルメリアも、魔導書を閉じて森へとその意思を向けた。
(葛に囚われている動物や人間、そしてこの葛の根っこを教えて)
世には限度というものがある。一つの植物だけが幅を利かせるのは森の在り方として決して良い事ではない。
(お願い、協力して)
やがて、彼女の願いが届いたのか、森全体の意志が一つのうねりと化して、森の中の一点を指し示す。ほっと息を吐いた彼女に、グリムペインがつかつかと歩み寄っていく。
「何か分かったかね、アルメリア君」
「……ええ。急いで向かわなきゃ」
二人も森へと飛び込んでいった。
アルメリアから伝えられた情報をもとに、ゼフィラときりも森の中へと踏み込んでいく。
「さーて、さっさと動物を助け出してしまいましょうか」
きりは目頭に指を押し当て、温度視覚を呼び覚ます。四方から押し寄せる蔓を何とか振り払いながら、彼女は森の中を見渡した。
「そこ! そこになんか動物が一匹ぐるぐる巻きになってます!」
「あいわかったよ」
ゼフィラは再び掌へ黒い月を浮かべた。
「さて、悪いけどあまり動かないでくれ給えよ。心配せずとも君達は解放するからね」
放たれた闇が、忍び寄る蔓を纏めて萎びさせる。マングースは解き放たれて地面に転がったが、新たな蔓が次々に押し寄せて足元に絡みつこうとし、ついでに蔓の鞭が鋭く二人を打ち据えようとする。ゼフィラは器用に身を捻って躱すが、戦い慣れていないきりは、まともに喰らって足を絡め取られた。
「あ、ちょっと、助けてください!」
「すまないが、ちょっと今ケガをしている所でね。庇ってやることは出来ないな」
ゼフィラは先の戦いで重傷を負ったばかり。出来る事は葛を攻撃して追い払うくらいである。
「そんな……きゃっ!」
顔面に蔓の一撃をもらい、きりはとうとう引っくり返る。
「こんな目に遭うなんて! 許しませんよ!」
きりは混沌の力を開放して立ち上がると、手刀で鋭く蔓を切り落とした。
森へと踏み込んだポテトとリゲル。リゲルは力強く一歩を踏み込み、葛の壁を勇ましく切り開いていく。そうして救い出した小さな鳥を、天使の歌でポテトが癒す。
「リゲル、葛は任せた。代わりに動物達と背中は任せてくれ」
「ああ。ここは俺が引きつける! 頼んだぞ!」
リゲルは力強く剣を振り抜く。しかし、漁村以上に数を増した蔓が、次々にリゲルの身体を打ち据えた。ポテトが背後から放つ回復魔法で彼を癒していくが、ふと彼は膝から崩れた。以前の戦いで受けた傷が開き、血が脈々と溢れ出す。ポテトは思わず息を呑んで駆け寄った。
「おい、リゲル! 先の戦いの傷は大丈夫だと……」
「問題ない。心配いらないさ」
リゲルは頷くと、刃をついて立ち上がる。そして彼は妻に迫った蔓を果敢に切って捨てた。
「俺は騎士だ! 心折れてなるものか!」
その頃、空を飛んだヒィロと美咲が、ひときわ蔓の密度が濃いポイントへふわりと降り立った。その瞬間、待ちかねたとばかりに蔓が一斉に押し寄せる。
「まずは一撃だぁっ!」
ヒィロは急降下しながら、鋭くその身を翻し、その身の周りに嵐を起こしながら突っ込んでいく。押し寄せた蔓の鞭を寸断しながら降り立つが、それでも新たな蔓が次々と押し寄せる。
「うわわっ、ちょっと、数が……!」
次々に鞭がヒィロを打ち据える。空から敵に狙いを定めていた美咲は、咄嗟に治癒魔法をヒィロへ放つ。しかし回復しきれず、彼女はとうとう地面に弾き倒された。
「ヒィロ!」
咄嗟に美咲は結界を放ってヒィロを取り巻く蔓を引き千切る。その隙に混沌の力をその身に満たし、何とかヒィロは立ち上がった。
「いたたた……まさかこんなに数が多いなんて……」
ヒィロは咄嗟に身を翻し、振るわれた蔓を躱す。
「でももう負けない! かかってきなよ!」
彼女が鋭く叫ぶ。その気迫を叩きつけられた葛は、不意にその姿を変化させた。蔓が絡み合って、巨大な獣のような半身を作り出す。口を開いた葛の化け物は、蔓で縛り上げた動物を縛り上げ、その体液を搾り取って飲み干した。その異様な風体に、ヒィロと美咲は共に身構える。
そこへグリムペインとアルメリアも駆け付けた。見上げたグリムペインはくつくつ笑い、魔法陣を宙へ描く。
「やれやれ。随分と恐ろしい事になっているようだな」
グリムペインは魔法陣から黒漆塗りの小槌を取り出すと、目の前の化け物に向かって鋭く振り下ろした。その瞬間、氷の幻影が現れ、化け物の口を塞ぎ、辺りの蔓を次々に切り落とす。化け物が怯んだ隙に、アルメリアは呪文を唱えて地面から巨大な土塊の拳を呼び起こす。
「ここが本体なら……ここを潰してやれば解決するはず……!」
アルメリアは鋭くその手を振り下ろす。化け物の頭を力任せに殴りつけた。蔓が解け、周囲を取り囲む四人を襲おうとする。ヒィロは素早く飛び上がり、再び勇ましく叫んだ。
「こっちに来い!」
蔓は一斉に方向を変え、ヒィロへ素早く押し寄せる。土に埋まった葛の根が、僅かに露わとなる。
「ナイスよ、ヒィロ」
美咲は素早くその目を手で覆い隠す。魔力をその眼に集中させ、かっと見開いた。漆黒の闇が視線の先で広がり、一気に化物の根を蝕む。暴れていた蔓の束が一斉に萎び、朽ちていった。
「皆、大丈夫か!」
「動物の救出は完了したぞ!」
リゲルとポテトが森の中から駆けてくる。反対側からはゼフィラときりもやってきた。朽ちた葛の塊を見渡して、ゼフィラはほっと溜息をつく。
「……どうやら終わったらしいな」
「はぁ……酷い目に遭いましたね……」
りくはよろよろと膝をつく。暴れる葛でざわついていた森は、既に静かになっていた。
●蘇る平穏
どうにか葛を片付け、漁村へと帰還したイレギュラーズ一行。ポテトは早速長老の家へと赴き、むしろに倒れたままの村人達の側へ跪く。
「大丈夫か、君達」
村人達は焦点の定まらない目で呻く。ポテトは顔をしかめると、タクトを振って村人達に賦活の力を分け与える。リゲルは玄関口にもたれかかり、そんな妻の様子をじっと見守る。
「全員助かりそうかい?」
「折角葛から助け出したんだ。そのまま死ぬなんて事にはさせないさ。……それが終わったら君だな。全く、傷を魔力で塞いでるだけだったとは」
「ポテトや皆を守るためなら、少しくらいの無茶はするさ」
リゲルは力なく笑う。ポテトは口を尖らせると、ふいと顔を背けた。
「せめて次は万全の体調で臨んでくれよ」
一方、村の外れの砂浜では、アルメリアとヒィロ、それから美咲がぐちゃぐちゃに引き裂いた葛の根を引きずっていた。彼女達の視線の先では、ゼフィラとグリムペインは砂に深く掘った穴の中に火を起こしている。
砂に轍を残しながらようやく辿り着いた三人。燃え盛る穴の中へと葛の根を押し込めた。
「よいしょ……っと!」
穴の中へと滑り落ちた葛の根は、得も言われぬ甘ったるい匂いを放ちながら燃え上がる。ヒィロは軽く鼻をつまみつつ、白煙上げて燃え盛る根っこをじっと見つめた。
「こうやって念入りに焼却しちゃえば、再発防止になるかな?」
「葛は生命力の強い植物だから……時間はかかるかもしれないけれど、漁村や森の蔓も掻き集めて燃やした方が確実かもしれないわね」
アルメリアは肩を竦める。ゼフィラは穴の淵に立って炎を見つめ、にやにやと笑みを浮かべる。
「さて……どうにか一株でも持ち帰りたいのだが……難しそうだな」
「やめておいた方がいいんじゃないですか? 辺り一面葛だらけになっても知りませんよ?」
どこからともなく姿を現したきりが、笑みと共に相槌を打つ。ゼフィラは至極残念そうに溜め息を洩らした。
「そうだな。私の部屋で育ててみたいが……寝ている間に飲み込まれるのも勘弁願いたいしなぁ……」
ぶつぶつと皮算用を零していた彼女だったが、ふと彼女は我に返ってきりに振り返る。
「あれ……君、さっきまで姿が見えなかったようだが、何処に行っていたのかね?」
「別に大した用事じゃありませんよ、ちょっとお花を摘みにね、はい」
後処理なんて面倒だからぶらついていた、とはいえず、きりは曖昧に笑みを浮かべて話を逸らしてしまった。漂う甘ったるい匂いを嗅ぎつけ、慌ててその方角を指さす。
「な、何かやってますね、ほら」
彼女達が眼を向けると、魔法で小さな焚火を作った美咲が、お湯の中に葛の粉と砂糖を纏めて溶かしていた。葛湯である。
「光合成できると便利かな、って思わなくもないけど……やっぱり、動物と植物が領分を侵し合うべきじゃないね。厄介ごとが増えるだけだわ」
「そもそも、どうして葛がいきなり人や動物を食べちゃおうとしたのかな。何か変なのの影響じゃないと良いんだけど……ボクも原種だから、ちょっと怖いかも」
ヒィロは尻尾や耳を震わせると、いきなり美咲の腕にしがみついた。頬をすりすりさせて甘えるヒィロであったが、そんな彼女に構わず美咲は沸かした化物葛湯の匂いを確かめる。
「うーん、匂いはいいね。……こうやって食材に転化できれば、繁殖抑止にはなるかな? 厄介者を、美味しくいただいて駆除! みたいな。ってことでヒィロ、一杯どう?」
葛湯を差し出す美咲。カップを受け取ったヒィロは眼を白黒させてしまった。
「ええぇ……美咲さん、そんな意地悪は無しだよぉ……でも飲む……」
大好きな美咲がくれた美味しそうなおやつ。結局恐怖よりも食欲が勝ってしまった。ヒィロはふうふう冷まして一気に飲み込んだ。
「……おいしい」
そんな女子達のやり取りを遠巻きに見守っていたグリムペイン。やがて満足げに笑みを浮かべると、手帳に文書をしたため始める。
「さて、今日の物語も終わりを告げた。漁村は災難だったが、我々の活躍によって無事に解放されたのだ! さあ、次の物語はどのような展開を見せるのか、乞うご期待だな!」
おわり
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
影絵です。この度は葛退治お疲れさまでした。
最初にちょっと散開したことが少しダメージの嵩む元となりましたが、逆に素早く事を片付ける事にもなったかと思います。
またご縁がありましたら、ご参加いただければ幸いです。
GMコメント
●目標
化け物クズに囚われた人や動物の救出です。
クズを全滅させても被害者の救出割合が低くなれば成功率は下がります。注意してください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
漁村と森で戦闘を行います。
化け物クズは漁村と森にそれぞれ広く分布しています。
漁村は入り江に橋を渡して建築されており、床を壊すと落水してしまいます。
森は木々の間にクズのツタが絡まっており、非常に動きにくい状態になっています。
●エネミー
☆化け物クズ
海洋に植生するクズが混沌の影響を受けて暴走したようです。人間も動物も手当たり次第に捉え、養分として吸収しようとしているので、手遅れにならないうちに救出しましょう。
・行動
→捕縛…ツルを急速に発達させて動物を捕縛します。
→屠殺…ツルから毒液を溢れさせて動物をこん睡させます。やがて呼吸困難に陥り死へ至るでしょう。
→吸収…死体を中央へ運び、中央に発達した口のような部位で飲み込みます。
→蔓鞭…ツルで攻撃します。地味に痛いです。
TIPS
☆範囲攻撃の扱いどころに注意!
☆シナリオ開始は海の上から。
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