PandoraPartyProject

シナリオ詳細

大食いネズミにご用心

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは、群れを成してやってきた
「はよっす、親方」
「おはよう」
 黄金に実る麦の穂が、風に揺れて波を作る。ざあざあと潮騒に似た音を聞く度に、今年もまた実り豊かな年になって良かったと実感するのだ。
 これらを収穫し、製粉加工して街へと卸す。農耕を主とするカミーネ村では、小麦は最も重要な商品だった。
 今日は週に一度の卸売りの日だった。馬車の荷台へと袋を積み込むために、男は倉庫の鍵を開けた。
 ――が。
「チュウ!」
 視線の先に居たのは、破れた小麦袋と毛むくじゃらの小動物。
「は?」
 思わず声が出た。そいつに至っては倉庫に入り込まれないよう、ありとあらゆる策を講じてきたのだ。
「お、親方あっ!」
 悲鳴を上げて飛び込んできた青年が、真っ青な顔をしている。見れば茶色い毛並みがひしめき合うようにして床を埋め尽くして居るでは無いか!
 手塩にかけて育て、貨幣へと変わるはずだったそれらはもうもうと部屋中に立ち込めていた。慌てて倉庫から飛び出し、むせかえりながら拳を握りしめる。
 全部、全部、あいつらの所為。
「こ、ん、のおおお――――!」
 平和な朝、太陽が昇る頃。食卓事情を揺るがす巨悪が姿を現したのだった。

●甘いお菓子は大体小麦で出来ている
「た、大変なのですー!」
 ばたーん! と大きな音を立てて飛び込んできた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、手にした依頼書を握りしめてイレギュラーズ達へと叫んでいた。
「このままでは重大な食糧危機……いえ、シャイネン・ナハトのケーキがっ、ボクの楽しみのスイーツが消えてしまうのですっ!」
 落ち着いて事情を話して欲しいとイレギュラーズが宥めると、ユリーカはぐすんと鼻を鳴らして目元の涙をすくい取った。
「クッキー……」
 もしかしたら重症かも知れない。
「はっ、ボクとしたことが! ――コホン、今のは忘れて下さい。ええとですね、今回は幻想にあるカミーネ村から依頼が来ています。一大事ですよ!
 ネズミが大量に現われて小麦を食べ尽くしているのですっ!」
 主食として幅広く用いられる小麦は、幻想でもメジャーな穀物だ。カミーネ村では小麦を育てており、今年売りに出すはずだった収穫分が喰われているのだという。

「カミーネの小麦と言えば、こだわりパティシエがわざわざ取り寄せる程のブランド。それが無くなってしまっては、村のみなさんの大ピンチなのです」
 このままでは村に収入は無くなり、残る小麦も風評により売れなくなるだろう。その前に手を打たねばならない。
「腹を肥やしたボス格ネズミが4匹、手下の悪いネズミが10匹が居るみたいです。最初に発見された倉庫を根城にしていて、出てくる気配は無いみたいですね」
 他にもネズミが居たのでは、という声にユリーカはしょんぼりと肩を落として答えた。
「カミーネ村のみなさんも頑張って退治したのですが、この14匹は特に強くて凶暴で怪我人が沢山出ているのです」
 そこでローレットにネズミ退治の依頼が舞い込んできた、というわけだ。
「ボスネズミさんは犬くらいの大きさで、鋭い歯で噛みつかれると毒に侵されてしまいます。爪も鋭くて引っかかれると沢山血が出てしてしまいます。
 他のネズミたちは噛みついてくるだけですけれど、とても痛いです。数も多くて厄介なのです……」
 ここで被害を抑えなければ、村にとって危機的状況に陥ることは間違いない。
 何としてでもここで手を打たねばならない。
「美味しいケーキ……とパンのために力を貸して欲しいのです! カミーネ村の危機を救って、皆が幸せになるために頑張りましょう!」
 おーっ! と拳を突き上げたユリーカ。

GMコメント

 ネズミに噛まれるととても痛かった。水平彼方です。

●成功条件
 全てのネズミの討伐。
 
●倉庫内
 商品として販売するはずだった小麦粉が備蓄されていました。現在は別の倉庫へと運び出され、取り出せなかった分はネズミたちの食料になっています。大分少なくなってきました。
 倉庫内にあるのはただの小麦粉です。燃えたり爆発したり、粉塵爆発を起こすことはありません。

●敵の情報
 カミーネ村の諸悪の根源。「チュー」と鳴き広く分布するネズミでしたが、ある日突然凶暴化して村を襲いました。毛並みは固く、身体も大きくなっています。

『ボスネズミ』×4匹
 美味しいものをたらふく食べてお腹周りはメタボリックになっています。また大きさも小型犬程度と規格外に大きくなってしまいました。
 攻撃方法は以下。
・噛みつき:至近の敵に噛みついて攻撃します。ダメージ+【猛毒】。
・引っ掻き:鋭い爪で至近範囲内の1体をランダムで攻撃します。大ダメージ。

『ネズミ』×10匹
 ボスネズミの手下でおこぼれの美味しい餌にありつくために、ボスに従っています。仔猫程度の大きさがあり、倉庫内に立ち入るものを攻撃します。
 攻撃方法は以下。
・がじがじ:至近の敵に齧り付いて攻撃します。ダメージ+【出血】

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは皆様のご参加をお待ちしています。

  • 大食いネズミにご用心完了
  • GM名水平彼方
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年11月18日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
七鳥・天十里(p3p001668)
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
ゼファー(p3p007625)
祝福の風

リプレイ


 カミーネ村に到着した八人は村の流通を取り纏める男性――皆から親方と呼び慕われている壮年の男だ、に案内され、早速現場へと向かうことになった。
「全くもー、質の悪いネズミたちめ。大事な大事な食糧荒らすなんて、そういう悪い事って嫌いなんだよね」
 途中すれ違う村人たちのどこか不安な表情に『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)は胸の内に渦巻く怒りを隠さなかった。
 そのまま擬音語が聞こえて来そうなほど愛らしい表情のまま感情を顕わにする天十里に、大きく頷く女性二人。
「だってスイーツの無いシャイネン・ナハトなんて考えられないし、甘い物好きな私にとってそれは耐え難い事っ!!」
「素敵なお菓子が無いシャイネン・ナハトなんてあり得る? そんなの想像しただけでテンション下がっちゃうわ!」
 『Righteous Blade』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は拳を握りしめ熱弁を振るえば、後ろからゼファー(p3p007625)はそうだそうだと大きく頷いた。
 アルテミアにとっても、カミーネの小麦粉と言えば下宿先のカフェでも使用されているため他人事では無かった。仕入れ出来なくなればシャイネン・ナハト用のケーキは勿論、殆どのスイーツが作れなくなるためお店としても死活問題になる。
「この村と美味しいパン、そして素敵なシャイネン・ナハトの為にも、絶対にネズミ共を駆逐してやるわっ!!」
「世のため人のため……なんて口が裂けても言えないけど、私の素敵なシャイネンナハトのために、ここはビシっと行きましょう!」
 ネズミ駆逐の誓いを立てた二人の隣で『果ての絶壁』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)もまた、毛むくじゃらの悍ましい所業に自らの黒い姿をざわつかせた。
「甘味を滅ぼすかの勢いで鼠が迫って在るとは。此れを逃せば総てが滅する。一種の世界が崩壊する兆しか。ならば我等『物語』も身を捧げて守らねば為らぬ。甘いものは正義だ。異論は認める」
 正義たる甘味の危機、それだけで十分だと『物語』は語る。
 それぞれの思いを聞きながら頷いていた『湖賊』湖宝 卵丸(p3p006737)は、神妙な面持ちで俯くとぐっと拳を握りしめる。
「村人さんやパティシエが困っているのを、海の男としては放っておけないんだぞ……べっ、別に卵丸、スイーツの為なんかじゃ無いんだからなっ!」
「それは殆ど肯定したも同然だろう」
 間髪入れずに親方が突っ込むと、卵丸は顔を赤くしてそっぽを向いた。その様子を見ていた周囲から今度は生暖かい視線と微笑みを返される。
「さあ、着きましたよ」
 今は人も寄りつかなくなって静まりかえった一つの倉庫。獣除けの罠など万全の対策を施していたのだが、今は虚しく地面の上に転がっている。
 乾いた風が吹くと冷たさが鼻先を掠めると共に、獣の匂いが色濃く混ざっていた。
「皆さんに来て戴けて本当に良かったですよ、このまま他もやられていたかと思うと……」
 そこで言葉を切った親方は、肩をすくめて力なく頭を横に振った。火災などで全損を避けるため、いくつかに分けて保存していたうちの一つが壊滅したのだという。
 大切な商品であり日々の糧である小麦は、倉庫に大切にしまわれていた。人が寄りつかなくなりしんと静まりかえったこの場所は、いっそ薄気味悪さすら感じられた。
「ったく……鼠掃除か」
「鼠相手に随分なメンバーじゃなぁ……」
 身を潜めているだろう獣の姿にため息を吐く『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)。彼を始めとした仲間を見て、リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は思わずぽつりと呟いた。依頼とあらばいつだって全力なのがローレットなのである。魔物と成り果てたネズミは最早人々の手に余る存在であり、最早殺すより他に無い。
「可哀想だけど、それは仕方がないことなのです」
 静かに佇む『聖少女』メルトリリス(p3p007295)は、これから戦場になる倉庫へと油断なく瞳を巡らせた。
「皆さん、お願いします」
 親方の言葉に頷くイレギュラーズ達。
「さァーってと、汚物は消毒。さっさと行くぜ!」
 アランの声にそれぞれが役割を果たすべく周囲へと散開した。


 倉庫には窓が無く、あると言っても明かり取りのための高窓くらいなものだった。メルトリリスは瞳を閉じて祈るように胸の前で両手を組むと、探知の輪を波紋のように広げていく。
「数は聞いていた情報と一致しました。扉の反対側へと固まっているようです。どうやらこちらが襲ってくることを警戒しているようですね」
「こっちも足音がするけれど、特に目だった動きは無いかな」
 僅かな物音をさえ聞き逃さない天十里の報告を受けた八人は互いに目配せすると、唯一の入り繰りである扉の鍵を開けた。
 逃げられないように陣形を整え、今度は一気に扉を開け放つ。
 アランが自らの体に光を纏い、光源となって倉庫内を照らし出す。浮かび上がったのは異様な大きさまで成長したネズミたちの目が、侵入者を睨み付ける目だった。
「ヂィッ!」
「さあさあ、美味しい小麦のパンを持って来たわ! 欲しければ力尽くで奪ってみなさいな!」
「わたしたちが、相手になるよ」
 危機を知らせる声が仲間に届くより早く、先頭のメルトリリスとゼファーが名乗りを上げた。ネズミ達よりもこちらが優位なのだと存分に知らしめ、怒りの隠った視線を一身に受け止める。絶えず敵を探るメルトリリスは、隠れる暇も与えまいと探知を続ける。
「奇襲なんて、このわたしがさせないわ、仲間を守るのも私の役目なのです!」
 決意を胸に、聖少女は凛と立つ。人のために、自身が成すべきことを成すために。
 メルトリリスは無数の見えない糸を放ち、触れた獣の体を縛り、切り裂く。ゼファーもまた己の位置を定めると、向かい来るボスネズミへと鋭く槍を繰り出し二の手で相手の心を砕く。
「ねずみさん、ダメ、おいたはダメよ」
 仲間が傷つけられた姿を見ていよいよ殺気立つネズミたち。目の前に現われた二人の敵を排除するため大きく伸びた前歯をガチンと打ち鳴らすと、体に力を込め飛びかかった。狙いは――メルトリリス。
「まずは小さな方から。これ以上、貴重な小麦に悪さはさせないんだからなっ!」
 ビートを刻むよかのように加速し男の浪漫――ドリルを手にした卵丸がすかさず割って入る。蹴り出した体勢では避けられるはずも無く、ネズミの腹へと叩き込む。
「もう一発!」
 くの字に折れ曲がった体の背後へと回り込み、追い打ちをかけると飛びすさり距離を取る。
「さァ、汚物は消毒の時間だぜ、鼠野郎……!!」
 地を這うような声と共に、アランは刀身に纏わせた炎でメルトリリスが引きつけたネズミ焼き尽くす。
 ヂギギッ! と耳障りな鳴き声を上げて仲間を傷つけた人間へと歯を突き立てるべく素早く走る獣たち。しかし数匹はわき上がる怒りにまかせて、鋭い歯は二人の少女へと吸い込まれていく。
「させません!」
 火に飛び込んできたネズミをアルテミア細剣が軽やかに振るわれる。青き炎を纏った剣筋がひとつふたつと閃き、踊るように獣の体を切り裂いた。
 しかし襲い来る群れはイレギュラーズの攻撃の合間を縫って、狙いを定めた二人へといよいよ迫る。
 鋭い歯が突き立てられる――。しかし噛みついたのは柔らかい肌では無く、闇を切り取った様にそこだけぽっかりと浮かび上がる長身だった。にたりと赤い口は常と変わらぬ弧を描き、光を通さぬ異質な闇はせせら笑う。
「我等『物語』の肉は美味だと知るが好い。貴様等の胃袋で消化可能か。試して晒せ。最も、我等『物語』の肉壁は果ての如く強靭だがな! Nyahahahaha!!! さあ。害獣駆除を始めよう」
 深々と突き刺さった歯の脇から血が滴るのも構わず笑うオラボナに、瞳が一瞬恐怖に震えた。しかしそんな暇さえ与えず、イレギュラーズの攻勢は止まらない。
 壁沿いを伝い駆け上がった棚の上から跳躍したネズミへと鋼の驟雨を降らせるリアナル。視界の前方では軽やかに跳ねる天十里の黒いポニーテールの後ろ姿があった。リアナルへと飛んだネズミへとちらりと視線を向けると、構えていたアンダーバレルリボルバーをホルスターに収めた。そして振り返った瞬間。
 銃声、六発。
 トリガーを引いたまま銃を抜き、銃口を向けた瞬間もう片方の指で撃鉄を弾くファニングショット。正確無比な天十里の射撃に、仔猫程の体は肉片を散らしながら床にぼとりと落ちた。
「一匹撃破! 僕の手番はまだまだ終わらないよっ!」
 燃え上がる意志が光りとなって天十里の体を駆け巡る。制御しきれない膨大な力が弾け、髪の中程まで拭き上げる炎のように煌々と燃え上がる。
 ネズミたちも黙ってやられているわけでは無かった。名乗り向上に乗らなかったネズミたちは手近な敵へと食らいついていく。
「チュウ!」
 可愛らしい鳴き声とは裏腹に容赦なく歯を突き立てんとする獣を、アルテミアは細剣を交叉させ弾く。二人の少女を中心として、オラボナの手の届く範囲の攻撃は全て闇色の体が受け止めた。
 血を流す傷口を愛おしげに眺め、感嘆の息を漏らすオラボナ。総ゆる悪意に抗うため、不惑の心を目覚めさせる。
「肥大化したとは云え所詮鼠。この程度であったか」
 ――その腹を肥やしたのは、どんな甘味になるはずだったものか。
 オラボナが足止めしつつ思い巡らせる間にメルトリリスが手近な敵を暗器で倒す。
 ボスネズミたちの様子を窺うゼファーは、名乗り口上で上手く攻撃の矛先を自身に向けられたと内心だけで笑った。
 こちらに怒りを向けている間は逃走も出来ない。味方へと狙いが向かないよう注意を払いながら、再び愛槍を振るった。
「数を減らしていくぞ!」
 傷ついたネズミをアランの炎が焼き、卵丸のドリルが貫きアルテミアの剣が裂く。
 比較的小さなネズミたちを片付けたイレギュラーズ達に残ったのは、丸々太ったボスネズミだった。


「ここまで太ったら、もう別の生き物みたいなんだぞ……」
 最早ネズミとは言いがたいほど肥大化した体は、外見の特徴が一致しなければ別の種に見えたことだろう。
 銃口を向けた天十里が纏った意志の力を銃弾に宿し射出する。反動で銃を握る指先が焼ける痛みが走るが、それに構わず弾丸が貫く様を見届けた。続く卵丸も傷を負ったボスネズミへとドリルを叩き込む。確かな手応えがあったが、爛々と輝く瞳は戦意を失っていない。
「ヂウッ!」
「ネズミとは思えないよ!」
 固いゼリーを殴ったかのような手応えに卵丸は思わず声を上げる。鎧のように身に纏った分厚い皮は決して気持ちがいいものではなかった。
 ざっと周囲を見回したアランは味方のマークがないボスネズミめがけて走る。接近したアランは動きを封じると、炎を纏わせた刀身を至近距離から容赦なく叩き込む。
「クソ鼠が! 灰になれ!」
 気合いの一声と共に大剣を振り下ろし手傷を負わせるアランを見て、アルテミアもまた敵の懐へと潜り込んだ。彼女が狙うのは先の攻撃で深手を負った一匹。
 流れるようにアルテミアは双剣を空に滑らせ、魔力共々肥大化した命を奪い取った。
「これで一体」
 仲間の活躍を見ていたメルトリリスは、物言わぬ躯と化したボスネズミを見た。
 まだ戦いは続く。
 目の前にした死と、味方を庇い続けるオラボナの傷。戦闘が怖くないかと問われれば、怖い。けれど今は、視線をあげれば前線で果敢に敵を食い止めるアランの背中がそこにある。
 アランがいるから、こわくない。たとえこの身体に集中砲火されても守ってくれる人が居るならがんばれる。
「その為ならわたしは何度だって、立ち上がって見せるわ!」
 高らかに決意を歌う声と共に、祈りを紡ぐ聖少女。メルトリリスの癒やし力が、仲間の傷を癒やしていく。
「癒やしとは有難い。甘味であれば尚更」
 癒えた傷を見て機嫌良く語るオラボナは、徐にケーキを取り出して口に放りこむ。
「美味」
 ついでにもう一つ。のろいのケーキかも知れないが甘味は正義である。
「さて、まだまだ数は残ってるな」
 残る三体を見てリアナルは再び鋼の驟雨を降らせる。ゼファーが押さえ込んでいたネズミへと、隙無く攻撃を与えていく。呆けるように空を彷徨っていた瞳は、夢心地の儘闇へと沈んでいった。
「これで二体目ね」
 残る二体を見やった天十里は、抑えるものが居ない一匹へと狙いを定めた。放つのは先ほどと同じ、光を帯びた銃弾だ。
「狙いは、外さない」
 放たれた弾丸は性格に敵の腹を射貫いた。続いて卵丸が、アルテミアが一気呵成に攻め立てる。
「卵丸の音速のドリルに、貫けない物はないんだからなっ!」
 卵丸の速度を力へと変換する音速の殺術がドリルに力を与え、悪たる獣を貫いた。
「私の楽しみを奪う悪いネズミは、ここで斬り捨てる!!」
「ギイィッ!」
 続くアルテミアが舞うように怒濤の如く刃を閃かせる。その数六度、鋭く切り裂かれた体は瞬く間に沈黙した。
 アランは目の前の敵が最後である事を確認すると、大剣を構え直す。
「ったく、ガキのお守りはしたくねェって言ったのによ……」
 何でこうもお前と一緒に依頼に行くことになるかね、と背後で戦う少女を思う。先ほどの決意の声は、アランにも確かに届いていた。僅かに視線を向けると、力強い瞳でアランを見ていた。微かに開いた唇が、声の形を作り出す。――私は、大丈夫、と。
「――だから、こっちは大丈夫だから。思う存分、剣を奮って、アラン! 勇者の使命を果たすのです」
「……大丈夫だ。わかってる。『人々を救え』だろ」
 それがアランの勇者としての義務、自分の本当にやるべきことだった。
「任せろ、メルトリリス」
 握った剣の重みを改めて確認すると力強く振り抜いた。憎悪の爪牙と化した一撃は、瞬く間に敵を蹂躙する。
「さあ、これで仕上げじゃ。儂の前に居ると怪我じゃ済まんぞ」
 全身の力を全て魔力に変換したその球体を、射線上に敵の姿しかないことを確認すると勢いよく射出する。放たれた魔力の結晶はやがてボスネズミの体を飲み込むと、一欠片も残さず消滅させた。
 

「もう敵は残っていないみたい、お疲れ様」
 念のためエネミーサーチを使用したゼファーが告げると、肩の力を抜いた。恐る恐る窺っていた親方もほっと肩の力を抜いた。
「あの、荒した場所のお片付け、手伝います。この小麦粉の荒れよう、片付けるのは大変かなって思いますから。人手が沢山あるうちに、ね?」
「そこまでして戴けるとは……。ありがとうございます」
 親方が村へ退治が完了したことを伝えに行く間、手分けして荒れた倉庫を片付け始めた。
 運び出した死骸を集め、アランが操る炎でそれらを燃やす。
「小麦粉はネズミに漁られたことを考えると残ってても廃棄かな……」
 囓られ穴の開いた袋を運んでいた天十里がぽつりと呟いた。ごく僅かに無事なものもあったのだがそれらは廃棄され、倉庫も取り壊し建て替えることが村の会議で決定しているという。衛生面を考えれば、これらは妥当な判断だった。。
「しかし、一体どこから……」
 片付けながらアルテミアが倉庫内を調べると、扉の下部分が何かで削られた痕跡があった。どうやらここが入り口になっていたらしい。
「新しい扉には何かしら対策が必要ですね。後で親方に報告しないと」
 アルテミアは残っていた死骸を空っぽの袋で包み運び出すと火の中へぽとりと放った。
「しかし、小麦粉が付いちまったぜクソ野郎が。黒だから目立つだろーが」
 気だるげに独り言ちたアランは小麦粉を手ではたき落としているとその脇をメルトリリスが荷物を手に通り過ぎようとする。よく見れば彼女もあちらこちらが白っぽくなっていた。
「おい、メルト。てめぇも汚れてんじゃねぇか」
 アランはメルトリリスについていた汚れや小麦粉を払ってやる。
「わ、わ、アラン、じ、じぶんで、できる、よ!」
「世話の焼ける奴だクソが」
「ガキじゃないよ、メルトだもん!」
 そのまま賑やかな応酬を始めうる二人を、戻ってきた親方が微笑ましそうに見守っていた。
「カミーネを救って下さり、ありがとうございます。お礼にとかみさん達がケーキを焼いたので是非食べていって下さい」
「お仕事の後のご褒美ってやつ? あるなら是非に是非に!」
 美味しいものと聞いて色めき立つ女性達。いつだって甘いものは人を魅了してやまないものだ。
「甘いものはいつでも大歓迎、心が満たされてホッコリとするわぁ!」
「ええ、ええ。私もお年頃ですもの! 甘いものはいつでも大正義、豊かな心の源泉かしら!」
 近くで話を聞いていた卵丸は、ほっと一息吐きながら甘ーいスイーツに思いを馳せ……親方に見つかってしまったので慌ててツンと顔を背けた。
「甘味。珈琲の分量は理解して在るな。珈琲一割牛乳九割角砂糖十個蜂蜜多量」
 細かな注文も通り、親方の家へと招かれれば待っていたのは大きなケーキ。
「喰らう。勿論皆で分け合いながら」
 誰かと食べた方が、美味しいに決まっている。綺麗に切り分けられたケーキを堪能しつつ、次に食べられるスイーツがどんなものか、甘い想像を膨らませるのだった。
 斯くしてイレギュラーズ達の活躍により、シャイネン・ナハトのお菓子は守られたのである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした! 皆様の活躍により無事に美味しいお菓子が守られたのです、きっとカミーネ村だけで無く情報屋も喜んでいることでしょう。
 気がつけばあっという間にもうシャイネン・ナハトの季節になってしまいましたね。
 寒さ対策も美味しいお菓子の準備もお忘れ無く。
 それでは、次のシナリオでお会いしましょう。

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