PandoraPartyProject

シナリオ詳細

血ぞ、蛇ぞ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●蛇剣の女/邪剣の男
「上等なねぐらではないな。主も大概酔狂よな」
 和装に長髪、売っても売り尽くせない位の殺気を纏う剣士が、纏う空気とは裏腹に友好的とも言える口調でそう云った。
「あたしだってこんなヤサ、正直御免蒙りたいさ。
 だがね、逃げ隠れする気もないが、招かれざる客も来るんでね。
 丁度今夜のアンタみたいに――往来でやり合う訳にはいかないだろう?」
 一方で女。同様に剣士のなりをした彼女も和装を纏い、豊かな胸をさらしできつく縛っている。
 これは月の無い夜――
 ラサ商会傭兵連合の勢力圏の片隅――とある町外れの廃屋でのやり取りだ。
「ええ? ぐうの音でも出るかい、お侍さんよ」
 肩を竦めた女剣士の名は伊東時雨――その執拗にして苛烈なる太刀筋から『蛇剣』の異名で知られる刀使いである。
「成る程、道理じゃ。生き方に自覚があるのは重畳よな。
 それ位でなければ今宵は然程のものにもなるまいよ」
 口元を幾らか歪め、呵呵と笑う男の名を死牡丹梅泉という。
 今夜はこの梅泉が、時雨の潜むヤサ――つまり居所を訪れた事から始まった。
 やたらな殺気を微塵も隠さない梅泉も、それを正面から受け止めて啖呵を切る時雨も空気に相反して酷く平然としたものである。両者は共に見ての通りの剣客であり、話す通りのイメージを裏切らない同じ『性質』を持っていた。
「それで、何の用……は愚問だよな」
「然り。答えても良いがな、時の浪費にしかなるまいよ」
「そうかい? 女ってのは相手を袖にして何ぼだって思ってたけどね」
「その気も無い癖に戯言を囀るな。これは主にとっても望外なのじゃろう?」
「……ああ、嫌だ。先刻承知の顔をするね。ま、間違っちゃ居ないけど」
 然して広くも無い室内。
 雑多に散らかったあばら家。
 彼我の距離は凡そ数メートル。
 両者の手には抜身の刃――それも妖刀が二振りだ。
 混沌召喚以来、これ幸いと剣客商売を続けてきた時雨は、多くの敵を屠り、時に誰かを助ける事もあった。さりとて彼女は善悪の何れも問わず仕事をしてきた人間だ。人の恨みを買う事もあったし、何時かはこんな事もあろうかと潜んでいたのは確かなのだが。
「名乗りも出来ない不作法だが。アンタ、死牡丹――死牡丹梅泉だろう?」
「如何にも。そして主にとっての死神となるやもな」
「理由を聞いても?」
「それも愚問じゃ。玩具を振り回してちと名を上げすぎたな? 娘」
「言ってくれるぜ。この野郎、やる前から勝った気でいやがる」
 語るまでもなく梅泉の用件は名の知れた剣士を斬る事であり、語るまでもなく時雨の望みはより強大に業を練り上げる事。
(ああ、まったく――爺以来じゃないか、こんな鬼気は!)
 重ね合わせたイメージは時雨が知る自身の師匠――彼女に棲む人斬りの獣を看破し、破門の言葉と共に二度も退けた『最高の剣士』である。故にこの『最強の剣士』と死合う事は彼女にとって余りに甘く、危険が過ぎる蜜の時間に相違ない。

 ――やるか、やられるか。

 何れにせよやらなければ朝日はとても拝めまい。
 是非もなし、是非もなしと時雨は薄い唇をぺろりと舐める。

●続・招かれざる客達
 そんな彼女と目の前の梅泉の双方が微かな苦笑を浮かべたのは全く同時であった。
「……今日は千客万来だねぇ?」
「良く見知った気配じゃ。主も運が良いのか、悪いのか」
 あばら家の外に現れた複数の気配。それは状況を変える『次の客』である。
 今開演せんとした蛇/邪剣士二人の剣戟はまさに水を差された格好で。
 そして、武装してこんな場所に訪れる以上は彼等の用件もそう穏当なものでない事は確実だ。
 時雨は『そんな誰かさん達』に実に気安く呼びかけた。
「なあ、アンタ達。アンタ達が噂のローレットの連中だろう?」
「ローレットは『旅人のスカウトと保護』も仕事にしてる。
 少なくともこっちはその梅泉と違って――アンタを斬りにきた訳じゃないよ」
 言葉と共に姿を見せたイレギュラーズを見て、時雨はちらりと梅泉を見やった。
 肩を竦めた彼は「つくづく腐れ縁よな」と小さく零した。
「どっちの台詞だよ」とやり返したイレギュラーズは時雨を見やる。
「そういう訳だから、ローレットに来て欲しいんだが――」
 時雨が頷いた所で梅泉(もうひとつのもんだい)は納得すまい。
 裏を返せば時雨の納得は、それはこの場で梅泉を退ける手伝いをする、手伝いを出来るという話にもなる。『蛇剣』は有名な剣客だが、目の前の死神が相手では……とはいえ共闘ならば逃れる目も十分だ。
 つまりイレギュラーズの提案は非常に合理的なものである。
 しかし、往々にして――
「――厭なこった。まずこの鉄火場にそんな温い提案をしてくる事が気に入らない。
 数を頼みに仕事に来た事も気に入らない。つまり、ついてく理由は無いね!」
 ――この手の人種にやはりその手の論理は通用しない。
「死牡丹! 提案だ!」
「うむ? 眠くない話ならば聞いてやるが」
「半分、受け持て。こいつ等を片付けてから続きの話をしようじゃないか」
 時雨の言葉にイレギュラーズの顔はこの上無い渋面になり、梅泉は余程お気に召したのか大声で笑い出す。
「結構、結構。共闘でなくても構わんな?」
「当然! アンタと群れるなんて御免蒙る。あくまでこれは『それぞれ』だ。
 時にアンタ――これだけ好き勝手した上で、まさか倒されたりしないだろうね?」
「戯けめ。囀るな!」と『上機嫌に』一喝した梅泉は赤く殺気を解き放つ。
 彼は思わず後ずさりしたイレギュラーズを追うように表に出て。
「話は聞いたな? 主等、まこと幸運よな」
 獣の如く凄絶に笑う。
「『蛇剣』に『邪剣』――『じゃけん』が二人ぞ。今宵は余程、血に飢えておろうなあ!」

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
 後で後悔するかな、とか思いつつEXなのです。
 以下詳細。

●依頼達成条件
・『蛇剣』伊東時雨の保護

●『蛇剣』伊東時雨
【血風三つ穿ち】 すずな (p3p005307)の姉弟子。
 元の世界では剣の鬼才を持ち、将来を嘱望された存在でしたが、師である祖父に『剣の獣性』を看破され、破門の上、処分されかかりました。すんででそれをかわし、封印されていた妖刀『赤蛇』をかっぱらい各地を放浪。人斬りの業を磨いて祖父にリターンマッチを仕掛けるも敗退。その後、混沌に召喚されています。
 極悪人ではありませんが、バトルマニア。善悪の彼岸を問うよりやりたい事を優先するタイプなので『どう転ぶか分からない』事からローレットが身柄の確保を命じました。
 また左目は妖刀の影響で変質し、特別な力を持つ魔眼と化しています。
 命中回避攻撃力は極めて高く、高CT。比較的FBは高め、耐久力はやや低め。
 以下、攻撃能力等詳細。

・魔眼開眼(神自付・命中・回避超強化。一度しか使いません)
・蛇剣之一(物近範・麻痺・呪縛・不吉・不運)
・蛇剣之二(物中範・連・HA吸収大・???)
・八岐大蛇(物自域・???・???・必殺)

●『一菱流』死牡丹梅泉
 御存知ぼくらの死神マン。
 幻想北部領サリューの客将でクリスチアン・バダンデールの食客です。
 異常なまでの攻撃力、手数、執念深さを誇るミスター殺人剣・殺傷力。
 尚、今回は最初から妖刀『血蛭』を抜いています。
 以下、攻撃能力他詳細。

・猪鹿蝶(物至単・出血・流血・失血・呪殺・連)
・落首山茶花(裏)
・月見酒(物遠単・混乱・???・???・災厄)
・EX 雨四光(物自域・超火力・高CT・連・必殺・反動大)

●戦場
 時雨のあばら家近く。開けていて戦闘に支障はありません。
 あばら家を挟んであちらとこちらでそれぞれ二つの戦場となります。
 あくまで戦場を分けるのは時雨・梅泉の主張なので付き合わなくても良いですが、拒否した場合は時雨と梅泉は嫌々ながら共闘します。(この場合、2vs10となります)

●やばくね? 無理じゃね?
 ややメタ的な説明となりますが、梅泉を撤退に追い込み、時雨を無力化する、または梅泉側のイレギュラーズが倒されるより早く時雨を無力化すれば依頼は成功します。
 時雨がイレギュラーズに倒されるようであれば梅泉が興味を失う、つまり『リスト』から外れる為、時雨の保護(というか身柄確保)に成功出来るからです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 以上、宜しくご参加下さいませませ。

  • 血ぞ、蛇ぞLv:15以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別EX
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2019年11月10日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
すずな(p3p005307)
信ず刄
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
シュラ・シルバー(p3p007302)
魔眼破り

リプレイ

●血ぞ
 うすら寒くなってきた夜を吹き抜ける風は冷たく。
 生理的な影響か、それとも精神的な重圧のせいか。
 イレギュラーズの肌にうっすらと浮かんだ汗は殊更に彼等の体感温度を下げていた。
「主等が抱えるは――つくづく幸運、そして返す返すも酔狂な運命よなぁ」
 その理由を改める事は余りにも馬鹿馬鹿しい。
「正直を言えば驚いておるわ。わしとこうも長い付き合いをする連中は実際の所多くはない故にな」
 その理由をそれ以上問う事は愚鈍と断ずる他は無い。
「運が良い……と云う気はございませんわー。
 同じ悪い……とも。ええ、元々自分がツイてるとは思っておりませんしー」
 何処か間延びした調子で『減らず口』を叩いたのは『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)である。
 僅か数メートルの距離をおいて死神と対峙するのは彼女を含めたイレギュラーズが五人。
 彼等の肝胆を寒からしめるのは、『長い付き合い』が例外となるのは――目の前に立つ男が『華美なる死牡丹』を冠する剣豪、梅泉だからに他ならない。
 梅泉はこの邂逅を『酔狂な幸運』と称したが、実際の所、イレギュラーズの側はそう単純では無い。三度の飯よりも戦いが好き、その望みの大半が強い相手を斬る事のみに帰結する梅泉は兎も角、彼はイレギュラーズにとっては『その仕事で生じるイレギュラー』。望む望まないに関わらず確実に命のやり取りを強いられるという意味ではユゥリアリアの言う所の『悪運』に違いない。
「お褒め頂いているのであらば重畳。
 混沌で縁者と再会するなどまさに奇縁です。なればこそ、拙等は拙等なりにお手向いいたしましょう。
 貴方様は不満やも知れませぬが――やるからには『唯の前座』で終わらせる心算はありませぬ故」
 さりとて、一同の意志は『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)の言葉が代弁する。
 死牡丹梅泉はローレットがその活動を続ける上では常に立ちはだかる可能性のある難敵である事は間違いない。だが、同時に。繰り返し立ちはだかる壁であるならば、その存在がどれだけの圧力と危険を帯びたとて、容易く引けぬ一線があるのも確かであった。
 そして――
「……うん、いいね。それ」
 ――引けぬ以上の強い想いが篭る局面があるのも又事実。
「邪魔だ、なんて思わせないよ。私に逢えて幸運だった――きっと、そう思わせてみせるから」
 美しいと呼ぶにはまだ可憐さの残る少女の面立ちを熱気と興奮、場違いとも言えるほんの僅かなはにかみ色に染めながら。『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)は既に己が聖刀を抜いている。
 大凡考えられる内で最も色っぽい話からは程遠く、同時に恋する少女のような風情さえ見せている。混沌のくんだりで出会った何とも厄介な『同胞』に梅泉は軽く呆れた顔をした。
「つくづく風情を知らぬ娘じゃな」
「ですが――」
「――?」
「本当にご機嫌ね、死牡丹梅泉。
 貴方がそんな顔をするとは……いいえ。先の言葉からそれはそう。
 あんな冗句を聞くとは思いませんでしたから」
 涼やかな『月下美人』久住・舞花(p3p005056)の美貌が笑めば、月下の魔人は「かも知れぬなぁ」と己が表情に苦笑した。
(梅泉……音に聞きし凄腕の剣客……追いかけ続けようやく相対することが出来たか。
 実力差があることは承知の上、だが一手のみでも喰らいつく。一手でも多く喰らいつく)
『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)を支えるのは騎士なる矜持である。先人が、父が、恩師がそうであるのと同じように『気持ちで敗れる事だけは許さない』。
 僅か数言のやり取りの間にも彼我の間合いに迸る殺気は真深いものになっている。両者の数は一対五、しかし鋭角の気の刃を戦わせる『前哨戦』さえ五の側が圧されているのは否めないが。
「――梅泉! 貴方から勝利を奪ってみせる!」
 それでも愚直なリゲルはその一言を言い切った。
 叶う叶わないより先に燃える理想と決意は彼にそれを疑わせてはいないのだ!
「吠えたな、若造!」
 一喝と共に抜き放たれた妖刀――『血蛭』の名を持つ死神の凶手がぬらりと赤い光を放っていた。
 月喰の邪剣は夜よりも深く、この場の誰の命をも脅かすのだろう。
(やはり、幸運とも不運とも判断がつきかねますわねー)
 これはあくまで『ついで』の邂逅。
 自身をそう戒めるユゥリアリアは御誂え向きのこんな夜に無意識の小さな笑みさえ浮かべている。

●蛇ぞ
「姉様――いえ、伊東時雨! 私には貴女に聞くべき事が御座います!」
 凛然と響いたのは『血風三つ穿ち』すずな(p3p005307)の声。
 恩讐を滲ませ、己が私情を押し込めるような生真面目なその言葉に、水を向けられた当の時雨が「お前は本当にバカ真面目だねぇ」と僅かな苦笑いを見せていた。
 同時刻、伊東時雨の隠れ家の裏側。
 此方此方も五人のイレギュラーズと彼方一人の剣豪・伊東時雨が向かい合う形を取っている。
 今日のイレギュラーズの仕事は彼等が相対するこの時雨をローレットに『保護』する事である。
 旅人であり、抜きんでた戦闘力を持ちながら善悪のルールの『かなり怪しい』時雨は、下手を打てば混沌にとって危険極まる可能性がある異分子であった。死牡丹梅泉までいけば『手遅れ』も勝ろうが、まだしも引き返す余地のある彼女をローレットが求めたのは必然だったと言えるだろう。
 同時にその仕事のお鉢が他ならぬすずなに回ってきたのも同じ事。『同郷出身が混沌で邂逅する事は酷く珍しく、故にすずなが届かぬと諦めていた問いの答えはまさに目の前にぶら下がっていた』。
「はぁっ!? 自分自身の協調性のなさと恥ずかしさを棚に上げて、気に入らないとか温いとかあったか~いとか。ましてやバカ真面目とか何とか申し上げないでくださいっ!
 すずなさんがバカ真面目なんじゃなくて、あなたがクソ不真面目なんですっ!
 あ、さては! なんだかんだぼっちを装うくせに人に絡んでは『空気読めない』って言われる人ですねあなたっ!?」
 弾かれたように挑発めいたのは何時もの台詞の勢いも猛々しい――今回に限っては意図的にそうしている――『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)である。
「図星ですかっ!」
「あはは、間違っちゃいないよ。何とでも言ってくれ。
 ……ま、すずなの質問の想像はつくが――生憎とあたしは甘やかす主義じゃなくてね。
 どうしても聞きたいなら、聞けるだけの腕を示してみな。
 あっちの旦那が敵をたいらげるより早く決めなきゃどの道おしまいなんだろう?
 もっとも、それはあたしも同じ事。あの男より早くアンタ達を仕留めて、揚々と迎えに行ってやりたい次第さ。うん、実にいい。これがお互いの利益の一致ってヤツだよねぇ」
「ははっ、いやローレット以外の旅人というのがどういう者か興味があったので来てみたのだが、思わぬ雲行きだね。
 ……ま、仕事は仕事。話は終わったあとで聞くとするさ」
 愉快気に言った『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)と同じ顔をする。
「くく」と小さく笑う時雨の長広舌は或いはヨハナに対抗するものだったかも知れず、少なからぬ挑発の色を秘めていた。その声色には怒りも焦りも無く。ひとかどの修羅場を潜ってきた妹弟子(すずな)を、イレギュラーズを軽侮はしていまい。さりとて負ける心算も毛頭ないのは彼女が『蛇剣』伊東時雨であるからに他なるまいが――
「最後に聞いておく。どうしてもやらない訳にはいかないと?」
「勿論。あっちの旦那と同じ相手と思って貰おうか」
「よりにもよってこんな事になるなんて……
 まったく、コレだからバトルマニアっていう人種は……っ……!」
 断言する時雨に『Righteous Blade』アルテミア・フィルティス(p3p001981)がしみじみ漏らす。
 イレギュラーズ達が今夜の勝ち筋を『梅泉が来る前に時雨を仕留める』と定める以上、対決回避の気が一切ない時雨にその方向から構うのは時間の浪費でしかない。
「悪く思わないでね。こうなったら力で黙らせるしかないから!」
「本来。ええ、本来は。
 こういう命のやり取りがかかった手合わせは苦手なんですけど……
 でも、やらなきゃやられる……何も守れない。だから、私はこの剣を振るうんです!」
『大剣メイド』シュラ・シルバー(p3p007302)の得物――彼女の身の丈程もある紅蓮の大剣が夜に揺らめく。
 アルテミアの声を合図にしたかのように彼我は得物を抜き放ち、同時に戦いの構えを取っていた。
 戦いの時の訪れに最早是非は無く。
 呼気がシュッと蛇の音を立てた時、時雨が地面を蹴る音が間合いの距離を塗り潰していた。
「――悪いが、流れはこちらで握らせてもらうよ?」
 だが、彼女の動きより一歩速い。
 蛇剣士の機先を制するように己が形を展開したのは反応速度に優れるゼフィラである。
 蛇剣の冴えを警戒し、ある程度散開した形から彼女が抱いた闇の月は、攻防の始まったその刹那、姿勢を低く下げた時雨だけを魔性の光で照らしていた。
「やるじゃないか――」
 だが、蛇剣士の動きは簡単に捕まえられるそれではない。
 ゼフィラの先制攻撃は相応の精度を持っていたが、彼女はそれを上回る動きで直撃を外してみせる。威力の余波は幾分か彼女を蝕んだには違いないが、怯むような女では無い。
「蛇剣之一――」
「――来るわよ!」
 アルテミアの鋭い警告に一瞬で空気が引き締まる。
 のたくる蛇の如く『伸びる』錯覚。大凡容易い防御を許さない彼女の技は、斬撃の軌道さえ容易に読み切らせぬ邪道の極みは、初見の誰にもその太刀筋を理解させず、捉えた範囲に確かな傷を刻んでいた。
(……姉様……)
 唯一人、例外と呼べるのすずなだろう。
 しかし『懐かしい』その技は、彼女のイメージさえ圧倒的に『超えて』いる。
 祖父が危険と称した修羅の剣は面倒見が良く優しかった『姉』の姿に重ならない。
「姉様の剣は対多数がその神髄! 位置取りには重々注意を!」
「みたいだね。……っと、危ない所だったけど」
 その身を縛る呪縛の剣に飄々と冗句めいたのは先に一撃を見舞ったゼフィラである。
 受けに優れない彼女の事、その身を縛る技には持ち前の耐性で耐えたものの、余力はごっそりと削れ落ちている。とはいえ、パーティの手数がまず損なわれぬは僥倖。これよりは攻め合いである。
「人数差、手数差、多角に攻めればやがて死角も生まれましょう!
 いくら対多が得意な姉様であろうと、完全無欠とは言えぬ筈です!」
「何だい、何だい。可愛げも無く――嗚呼、随分成長したじゃないか。すずな!」
 反撃と地を蹴ったすずなの狂熱のステップが戦場に踊る。
 繰り出された不知火と赤蛇が絡むは胡蝶の夢か――
「……姉様!」「すずな!」
 ――少なくとも幾多の軌跡を重ねた末にこの刹那が産み落とされたのは間違いない。
「妖刀の切れ味、今の技――鋭さと重さは推して知るべし。でも今となっては是非も無いわ!」
 技量の差は明確。刃を跳ね上げられ、後方にバランスを崩したすずなに代わり、すかさずアルテミアが業火剣乱――荒々しくも華美なる焔の打ち込みを見せていた。
 自らを『炙る』かのような炎の揺らめき、煌めき。刃の先に垣間見るアルテミアの銀色の美貌に時雨は目を細めていた。『むしろ、この時間を愉しんでいるように。己を脅かそうとする技の使い手をいよいよ歓待するかのように』。
「何だか本当に『らしい』キャラみたいですねぇ!」
 己が歯車を全開の限界まで『ブン回した』ヨハナの攻勢が加速する。
「でもね、本当にサバサバした人なら、わざわざ師に『再戦』など望むものでしょうか!」
 本来ならば彼女の技量で蛇を捉える事は難しかろう。しかし、ヨハナの得手はある種彼女を象徴するかのような機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)に違いない。絶対命中(クリティカル)が続け様に時雨の衣装を斬り裂けば、彼女はぺろりと薄い唇を舐めずるばかり。
「当たってるよ、アンタ。あたしは何てったって蛇だからさ。
 蛇は執念深いもの――そう信じられてるものに何時だって違いはないだろう?」
「御覚悟を!」
 ヨハナを振り切った時雨を詰めたシュラが追撃した。
 彼女の振るうのは【飛炎】の解放――魔術への適正の無い彼女が唯一振るう無二の炎。大剣に炎獄
を纏うとっておきの一撃だった。
「……っ……」
 息を呑んだのは何れだったか。
 痛打痛撃は炎を巻き上げ、熱の中に時雨とシュラの姿を覆い隠す。
「……正直……」
「……ッ!」
「正直、舐めてたわ。いや、そんな心算は無かったけどね。
 心の何処かに『可愛いすずなと仲間達』が残ってたのは否めない。
 いいさ、分かった。ここからが本番だ」
 左目を抑えた時雨の妖気が倍増する。
 反射的に飛び下がったシュラは彼女の言葉に何の嘘も無い事を『知って』いた。

●華美なり、梅泉
 剣戟は夜に鳴り響く。
(嗚呼――)
 互いの――特にイレギュラーズ側の――覚悟を試すような時間は、剣鬼と称する他ないその男だけが作り出せるある人種にとっての至極の時間に他ならない。
(――嗚呼、やはり。貴方様は、これ程までに)
 至近距離で繰り出される一撃一打、その全てが布石等置かず、必殺のみを見据えたものである事をまさに今、刃の瀑布を受け流す雪之丞は知っていた。
「中々の筋、じゃがまだわしはこの程度では済まさんぞ――」
 パーティは全員がそれ相応の実力者である。
 だが、雪之丞はその中でも頭抜けた『受けの名手』である。
「勿論、心得ております。されど拙も簡単に折れるとは――まさか思いますまいな」
「良く囀った、小娘め!」
 雪之丞の言葉に梅泉の目が爛々と光を帯びた。
 彼女が前に出た時、『梅泉が敢えて彼女を選んだ』のはある種当然の帰結であった。幻想に高まる雪之丞なる剣客の名声は梅泉を刺激せずにいられるものではない。同時に彼は『最も堅牢なものを破壊する事の方に価値観の重きを置いている』。
(一手でも潰せれば良し。一分一秒でも長く立ち続けるために――)
 謂わば攻め手に優れず、受けに圧倒的な力を誇る雪之丞なぞ捨て置くのが勝利への最短距離ではあるのだが、剣修羅は最初から勝敗等自身の問題にしていない。圧倒的に傲慢な彼は意識する事さえ無く『遊んで』いるのだろう。
「は――!」
 外三光が閃けば、梅泉は『懐かしい児戯』に目を細める。
 一方で『向こう側』が幾分か騒がしい。
「ふむ」と小さく声を漏らした梅泉が瞬間的にギアを引き上げた。
 力を増した猪鹿蝶――必殺三度の剣閃に雪之丞が小さく呻き、血の線を引いた時。
「最初からその刀を抜くなんて。本当に逢引のお邪魔をしてしまったのでしょうね」
 横合いより梅泉に打ち込みを見せたのはなびく長い黒髪を宵に流した美しき剣士――舞花だった。
「同じ剣士としては些か――そう、些かばかりは妬けますね。
 とはいえ、あちらはあちらで姉弟子と妹弟子の積もる話があるようでして。
 ――途上の浮気は月に群雲。今宵の相手はあくまで此方が勤めましょう」
「成る程、道理じゃ。では舞い散る花の朧月、存分にわしに見せるがいい!」
 流麗なる男と女が噛み合わせた白刃越しに睦みあう。
 余人に理解の及ぶまい剣士同士のやり取りは此の世で最も物騒な親しみさえ帯びていた。
「主は中々美しいな。剣筋もまぁ――まこと綺麗と呼んでおこうか」
「それは、どうも」
「じゃが、如何せん――遊び気が足りぬなぁ。
 その凛然に色気の一つも帯びてみせよ。なれば、わしももっと愉しめようよ!)
「……っ……!」
 硬質の音が砕け、月の構えにヒビが入る。
(何という……しかし、実際これが人間なのか)
 噂知る敵の実力は聞いていた。だが、リゲルは心中で感嘆を覚えずにはいられなかった。
 油断なく、自惚れなく――全力を尽くす彼は、全力を尽くしているが故に驚愕していた。
「それ程の腕を――しかし、貴方の正義は『違う』のでしょうね」
 至近距離より銀閃を、無造作なる隙に黒星を。
 リゲルは己が持てる今の全てを目の前の邪剣士に叩きつけるような戦いを続けていた。
『死神』を冠する殺人剣を体で学び、執拗に伸びる首への斬撃を辛うじていなす。
「はぁ、はぁ、は――」
「何じゃ。まだ生きておるのか」
「梅泉……貴方にとって『強さ』とは何なのでしょうか?」
「……」
「俺にとっては――それは『人々を守る為の力』。
 だからこそ磨き続けなければいけないんだ。
 だからこそ曇ってはいけないんだ。そう――」

 ――あの夜空の星(シリウス)のように――

 リゲルは言葉の最後を呑み込んだが梅泉は呵呵大笑する。
「強さは強さじゃ。正義で腕が立つものか。心根だけでわしを斃せるものかよ。
 それは主の奢りぞ、リゲル・アークライト。その剣はか弱く、温い。
『強いだけのわし』に届かずして、一体人の何を守れる?」
 返答と共に腹部に突き刺さった強烈な蹴りにリゲルの身体が吹き飛ばされる。
 慌てて面を上げ、きっと梅泉を睥睨するも、魔人は次なる相手と苛烈に絢爛に切り結ぶばかりだ。
「それでも……俺は……」
 全身に全身に鳥肌が立ち、毛穴さえ開くような戦いは彼にとって或る意味で初めての――実戦というまさに得難い修行の場だったとさえ呼べるだろう。
 倒すのだ、力を。強いだけの象徴を。その心で、この意志で!
「サクラ・ロウライト! 推して参る!」
「何時か振りじゃな、小娘! 多少は腕を上げたのであろうな?」
「その心算! 今の私の力――見せてあげる!」
 サクラの繰り出す雪花の太刀は兄譲りの氷の刀技である。
 明鏡止水より連なる剣の習熟は、それを受ける梅泉に『行きがかり上、師事の真似事をした小娘』の確かな成長を感じさせる冴えを見せていた。
「踏み込みが『深すぎ』る――我武者羅は嫌いではないがな、娘。
 その足運びでは何時ぞやと同じぞ?」
「……んんっ……!」
 バダンデール私邸での『あの時』を思い出したサクラの顔が紅潮する。
 だが、言葉とは裏腹に梅泉は幾分かその目を細めていた。荒削りにして先を感じさせる桜花の剣風帖は、遠い未来――或いは訪れるかも知れない、彼女の物語を、梅泉にとっての至高の時間を刹那彼に錯覚させるような夢幻を揺らめかせていた。
(馬鹿げた妄想よな)
 か弱く温い剣は同じ事。死力の一撃さえかすり傷に留めた邪剣士は嗤う。
「出し物はそろそろ終わるか? 特異運命座標!」
 ……多対一で組み合う戦いは、人数差に反して当初より一方的にイレギュラーズの不利を示していた。
 数を頼みに手数を武器に手管を希望にあの手この手を尽くすパーティの戦いは生半可な強敵ならば或いは圧倒出来たものだったかも知れない。されど、死牡丹梅泉は誰もがそうと知っていた通り、まさにこの場の理の『外』と呼ぶ他は無かった。
「申し訳ございませんが、わたくし底意地が悪いものでしてー。
 簡単にお望みの逢引に赴かせる訳にはいきませんからー」
 辛うじてパーティが戦いを維持出来るのは嘯いたユゥリアリアの強烈な支援能力による所が大きい。先述の通り『敢えて非効率な戦いをしないでいられなかった』梅泉のやりようと彼女の能力が噛み合った事は大きく、時間を稼ぐという意味では相応の戦果が上がっていた。
 とは言え……
(正直を言えば限界が近い、のは確かですねー)
 ユゥリアリアの支援継続力は己が充填能力にも支えられ高い水準を示している。
 されど根本的な問題は、彼女の賦活力をもってしても梅泉の火力を食い止める事は難しいという部分であった。粘りに粘る雪之丞が倒れれば状況は望まぬ方向の加速を余儀なくされるだろう。
 パンドラなる加護を持つ仲間達は既にそれに頼り、刹那刹那を凌いでいる状況だ。
「そろそろ潮時じゃな」
 戦いは続き、場に傷付いていない者は居なかった。
 梅泉を除けば殆ど全員が満身創痍。彼とて多少の消耗は見せているが、単純なる勝敗は最初から知れていた通り――明らか過ぎる程に明らかだった。
「十分愉しめたが、これまでじゃ。尻尾を巻いて逃げるも良い。尚手向かうも好きにせよ。
 わしはここをまかり通り、伊東時雨を仕留める故――とは言っても主等の事じゃ。
 かような問い掛けをしようと、まさか退くような者もおるまいなあ?」
 梅泉の殺人剣はその実、殺人を目的にしていない。彼の戦いは結果があるのみである。『結果的に彼と戦った者は死ぬ』が、『敢えてトドメを刺したがるタイプ』ではない。だが同時に彼は『逃げ腰の敵をこの上なく嫌う』。故にその提案はこの場にてイレギュラーズを殺したくはないという、彼にしては至極珍しい類の言葉であった。
 当然ながらイレギュラーズはそれでは退かない。
「伏すにはまだ早い……
 意地でも、喰らいついてみせます。その剣は、まこと。見飽きぬものです。
 故に――貴方もお知りなさいませ。
 拙の武器は、刀だけではありません。鬼の武器は、この身にこそあり!」
 雪之丞が、
「目指す先が見えるというのは良いものね。
 実際に刃を交えて解った頂の高さ――大分腕を磨いた心算だけれど、まだ遠い。
 ――けれど近付く実感もあるからこそ、この一瞬に全霊を懸ける価値があるというもの。
 ええ。他ならぬ貴方がそれを止めるなんて、土台馬鹿げている(ナンセンス)でしょう?」
 舞花が、
「やれるだけはやってみませんと。死なば諸共、ここまで来れば――ね」
 遂に攻め手に出たユゥリアリアが、
「貴方が退くまで――この戦いが終わる事は無い!」
 誇りを胸に、痛む身体さえ前に向けるリゲルが。
 イレギュラーズ達が持てる最後の力をその攻勢に振り向けた。
「天晴よな。主等、やはり嫌いにはなれぬわ!」
 梅泉が否定した心頼りの惰弱の剣が、皮肉過ぎる程に彼を初めて深く捉えていた。
 手傷を負った彼の構えはこれまでのものとはまるで違う。
 見た事もない程に殺気を膨張させた彼が『何か』をしようとしているのは確実だった。
「それが、見たかったの」
「――ッ!?」
 目を見開いた梅泉に今夜初めて焦りが見えた。
『この手番、敢えてイレギュラーズの行動を受けた梅泉』にとっての唯一の誤算は。

 ――この気持ちはきっと、周りの女の子みたいに色っぽいものじゃないけれど。
   焦がれるの。燃えるように、止まらないの。何を捨てても焼かれても。
   貴方に勝ちたいと、貴方を誰にも奪われたくないと。私はそう思ってしまうから――

 高揚を隠せない、厳格な祖父にはとても見せられない。
『乙女の顔をした』のサクラが梅泉の正面を塞いでいた。
 得物を放り捨て、今まさに雨四光(ひけん)を放とうとする梅泉の腰辺りに捨て身の体当たりを仕掛けていた。
「――小娘ぇぇぇぇぇぇ!」
 周囲を斬り尽くす今宵の大技が邪魔者に阻まれた。
「あはは、容赦ないなあ――」
 全身を斬撃に散らされながらも笑顔のサクラが真後ろに崩れ落ちた。
 仲間達は彼女が作った捨て身の勝機に、しかし刹那動けない。
 梅泉の足元にはサクラが倒れている。今、彼女を捨て置けば。
「戯けめが。容赦しておるから振り抜いたのじゃ」
 凍り付く仲間達に梅泉は心底うんざりしたように吐き捨てた。
「今宵は仕舞いじゃ。邪魔も許さぬ。小娘が精々死なぬように必死を尽くすがいいわ」
「……ええと、見逃してくれるみたい、な……ですか?」
「邪魔をするな、と言ったのじゃ」
 ユゥリアリアとのやり取りが幾分か白々しい。
 そんな『ノイズ』をサクラはぼんやりと聞いていた。
 倒れて空を見上げた少女の瞼の裏に薄ぼんやりと灯りが滲む。

 ――つきが、きれいだ――

 嗚呼、その感情を形容する言葉を、彼女は『恋』以外に知らなかった。

●伊東時雨
 魔眼を開眼した時雨の蛇が暴れに暴れる。
 梅泉との死闘を続けるイレギュラーズの一方で、時雨との戦いもまさに最高潮を迎えていた。
「いやー、関係者さん、本当にメチャクチャ容赦がないですねっ!」
「姉様は、ええ……そういう……でも!」
 幾らか抗議めいたヨハナの言葉にすずなが応じた。
 傷付いた身体を奮い立たせ、今一度一撃を繰り出した彼女は凛と叫ぶ。
「最後まで、勝負は捨てません。姉様も知ってますよね、私は――諦めが悪いって事を!」
 斬撃が時雨を掠め、鮮血をパタパタと飛ばした時雨は強くすずなを睥睨した。
「今まで培った全て、此処に。
 全力を以って、止めさせて頂きます――姉様、伊東時雨……!」
 気を吐き、戦いを捨てないのはすずなだけではない。この場の全員である。
「確かに物凄い技、物凄い殺気だわ。でもね。
 その技の一つ一つは私を絶対に飽きさせない。
 この肌を刺す鬼気は否応なしに闘志を沸き立たせるのよ。
 だから、倒れるにはまだ早い……
 限界まで……いいえ、限界を超えたって私は剣を振るい続けるわ!」
 アルテミアの言葉は『自身を止めてみせよ』という宣告であり、
「さて、暗器も術もこちらはまだまだ残っている。これも蛇剣と言えなくもないかな?」
 飄々と嘯いたゼフィラの言葉は不敵なる挑戦に他ならない。
「私の見ている前で……これ以上、私の大切な人たちを死なせない!」
 シュラの言葉は決意であった。今、梅泉の凶刃が向く先にせよ、その彼が今夜求めた時雨にせよ。
『仲間の大切な誰か』である事に何一つの違いも無い。故にシュラは倒れない。退く事もしない。左の魔眼を輝かせる時雨をあくまで止めると言い切った。
 パーティ側は時雨の魔眼の力を良く知っていた。
 これに対策するべくヨハナが、アルテミアが、シュラがブレイクの機会を伺っていた。
「――――ッ!」
 果たして仲間の数々の攻撃を捨石にして、死力を打ち込んだシュラのデストロイブレードが遂に時雨を捉えていた。
「……これで、イーブンかな?」
 ゼフィラの口元が僅かに歪んだ。
 しかし、返された言葉は。
「いや? 時間切れじゃな」
 男の声に振り向いたパーティの視線の先には余力十分の死牡丹梅泉。
 やはりと言うべきか、死神は懸命の防御さえ突破した。
 時は僅かに間に合わず、状況は最悪を伝えていた。
「わしはこれより伊東を斬るが? よもや邪魔等すまいな?」
「それは……」
 当然ながら最も首肯し難いのはすずなである。
 他のメンバーも彼女の保護がローレットの仕事である以上、はいそうですかと通す訳にもゆかぬ。
 さりとて、梅泉と対戦した面々の安否も気にかかり――状況は混沌としていた。
「阻むなら阻めば良いが、主等も斬るぞ?」
 この状況を崩したのは、梅泉の言葉を聞いた――他ならない時雨本人であった。
「生憎、それは認められないね」
「主にとっても敵じゃろうに」
「敵は敵でもアンタも別に味方じゃない。
 あたしはコイツ等といい感じにやってんだ。邪魔するならアンタの方が余程敵」
「……は?」
 共闘を断り、この状況を作った時雨がイレギュラーズに味方をするような事を言う。
 頭上に大きなはてなマークを飛ばしたアルテミアの声は『素』であった。
「つまり、それは――
『特異運命座標があくまで邪魔するならば主が相手になる』と、そういう訳か」
「御名答。あんたに言わせりゃ面妖だろうけどさ。
 あたしに言わせりゃ別に不思議でもなんでもないね」
 時雨は言葉と共にちらりとすずなの顔を見た。
 それは、すずなは理解した。伊東時雨は、あくまで伊東時雨のままなのだと――
「ふむ。わしに勝てる心算か? 伊東時雨」
「無理だね。ほぼ十割負ける。でも別に『それが重要じゃない』のはアンタも同じだろ?」
 犬歯をむき出しにして笑った時雨に梅泉は一拍置いて大笑した。
「然り。今宵は酷くそんな連中にばかり出会う夜よな」
 梅泉は時雨からヨハナ、アルテミア、ゼフィラ、シュラ、それからすずな。
 五人の顔を見回してゆっくりと言う。
「主等の仕事は伊東時雨の保護じゃったな。そちらは今宵諦めよ。
 代わりにその娘――今しばらく生かしてやろう」
「……は?」
「主はわしが鍛えてやる。
 その貧弱な刃を真っ当に仕立ててやる故、その後死合えば良かろうよ。
 リゲル・アークライトの戯言ぞ。主等は時に――守るものこそ力なれば。
 己が命は惜しくなくとも――『主もその方が浮かばれよう?』」
「……つくづく厭な男だぜ」
 肩を竦めた時雨が納刀する。梅泉もそれに同じく。
「悪ぃけど仕事は失敗にしといてくれ。ま、こんな事もあるもんなんだねぇ――」
 肩を竦める時雨の言葉にイレギュラーズは何とも答えようがない。
「……やれやれ、ですね……」
 雲間から覗く月だけが月下の剣劇の顛末、溜息を吐いたヨハナの姿を見つめていた。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

リゲル=アークライト(p3p000442)[重傷]
白獅子剛剣
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)[重傷]
自称未来人
アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)[重傷]
夜明け前の風
鬼桜 雪之丞(p3p002312)[重傷]
白秘夜叉
サクラ(p3p005004)[重傷]
聖奠聖騎士
久住・舞花(p3p005056)[重傷]
氷月玲瓏
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)[重傷]
氷雪の歌姫
シュラ・シルバー(p3p007302)[重傷]
魔眼破り

あとがき

 YAMIDEITEIっす。

 結果は失敗ですがVHなのでくれぐれもお気に病みませんよう。
 本当に滅多な事では成功しない前提なのがVHなのです。
 戦い自体は各々を満足させ、覚悟を示すいいものだったかなと思います。
 尚、伊東時雨はクリスチアン・バダンデール陣営(?)に入りました。
 多分言う事をあんまり聞かない人が増えただけなのでしょうが。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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