シナリオ詳細
<セディオラの紐>双狗アズバラルダ・ズィー
オープニング
●絶対の狩人
逃げている。逃げている。
もうどちらに走ったのかも、どちらを向いているのかもわかりはしない。ただ一心不乱に逃げている。
太ももの筋肉は悲鳴を上げ、耳鳴りがして自分の呼吸すらまともに聞こえない。
それでも抱えた荷物―――子犬だけは離さず、懸命に走り続けた。
どうしてこんなことに、そう思うものの盗んだ犬を離さない。これだけは奪わなければならない。これだけは届けなければならない。
「セディオラの紐が効いてないのか!?」
「そんな筈はない! まだ効き目が薄いだけだ!」
「畜生、あれでおとなしくなるんじゃなかったのかよ!!」
セディオラの紐というのは呪術の一種だ。妖獣の類に効果が強く、大人しくさせるものだと教わっている。これで妖獣を沈静化させ、仔を奪う。簡単な仕事のはずだった。
しかし、怒り狂った妖獣――二匹の大狗は執拗に自分たちを追いかけ回している。
「くそっ、逃げ切れねえ! これならっ!」
「馬鹿、やめろっ!!」
ひとりが術式を展開する。攻撃するためのものではない。自分の足を早くするためのものだ。しかしそれは発動の直前で突如かき消えた。
「なんで方陣がぎぃいいやあああああああああああああああああああ!!!!」
術式の消滅と同時、加速した大狗の一匹が仲間にかぶりつき、持ち上げては丸呑みにした。
「術を奪うって聞いてなかったのかよ!!」
振り返り、立ち止まっている余裕はない。食っているならその時間で逃げなければならない。
足よ動け。まだ倒れないでくれ。木々の終わり、森の端。その先を抜け、広い草原に出たところで――――大狗が待っていた。
「あ……あ……」
自分よりも遥かに巨大な狗。尖った歯を剥き出しにし、敵意を隠そうともしない。
後ろから足音。それが何かはわかっていたが、一縷の希望を込めて振り向いた瞬間。
男の視界は暗闇に包まれていた。
●灰狐再び
「今回の依頼人は――――この方ッス!!」
『可愛い狂信者』青雀(p3n000014)が元気よく指し示した先には、大きな狐が鎮座していた。
灰色の毛並みと、八つの尾を持つ魔獣。その顔は正しく獣のものでありながら、理知的だと思わせる何かを持っている。
「ヴィズマというッスよ。強そうだけど大人しいから、安心するッスよう」
そう言って青雀はヴィズマの毛並みに顔を埋めている。いいなそれ、ちょっと変わってくれ。
「依頼というのは、セディオラの紐に関してッスね」
セディオラの紐。
セディオリズムという小規模宗教に伝わる呪術である。対象の『理性を削り凶暴にする』効果を持つものだ。
ヴィズマは以前、これを使用する何者かによって理性を失い、暴れるだけの獣に落とされたことがある。その際にイレギュラーズが沈静化させたのだが、ヴィズマの尾が一本、奪われたままだ。
「今回、アズバラルダ、ズィーという魔獣の夫婦がこの呪術をかけられたッス。彼らには二匹の仔がいて、どちらも奪い去られてしまったッス」
ヴィズマが顔を伏せる。まるで痛ましい事件を悲しむように。
「片方はアズバラルダとズィーが略奪犯を食い殺してしまったので無事ッスけど、もう片方はその隙をついて攫われたので行方がわからないッスよ」
青雀がヴィズマの頬を撫でながら言う。
「現在、ギルドでは双狗の仔を捜索中ッス。先輩方はその間に、二匹の暴走を止めてほしいッス」
- <セディオラの紐>双狗アズバラルダ・ズィー完了
- GM名yakigote
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年10月29日 23時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●天高く吼えるなら
古い言い伝えだ。晴れることのない山。遠吠えの木霊する森。剣でできた原野。それを越えた先に、其れが眠っているという。其れは心優しいが故、悪意に付け狙われた。悪意は其れを苛み、子と妻を括り、民の尽くを弄んだ。其れは心優しいが故、涙を切り離し、灰色の大狐とした。
本格的に暑さもなりを潜めてくると、今度は冬の到来に合わせ、木々は夏の緑とはまた違った彩りを見せ始める。それが全面の赤と黄色に飾られるのはまだもう少し先の話になるのだろうが、その一部が色づき始めた光景というものは、明活であった命が衰えていくような、そのような物寂しさと美しさを感じさせた。
「相も変わらず難しい注文です」
ヴィズマとの戦闘を経験している『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167) は、魔獣との戦いが如何に困難なものかを理解している。知らぬ話でもない為に仔の行方も気になるが、まずは与えられた仕事に専念せねばなるまい。
「片手間に相手を出来るほど容易い対象ではないですからね」
「人に友好的な夫婦を呪術で凶暴化させた上に子供を奪うまでするっスか……」
どこの誰だか知らないが、やって良いことと悪いことがあると、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)。目的のためにモラルを捨てる連中は、見逃して良いものではない。
「アイツらは紛れもなく被害者、倒すじゃなくて助ける。これは忘れずにっスね」
「美しき親子愛を破壊するとは……ゆ"る"せ"ん"っ! って今回はそういうお仕事じゃないですねっ!」
どこか緊張感の抜けた物言いが収まらない『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)。それでも、彼女なりに憤りは感じているようだ。
「どうせならハッピーエンドがいいじゃないですかっ。ヨハナにおまかせでババンと解除しちゃいますよっ!」
「セディオラの紐、それにセディオリズムね……」
忌々しそうにその単語を口にしながら『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)は自分の後頭部をがしがしと掻いた。呪術具。そこから連想される活用手段はどれも残酷なものばかりだ。
「攫われた子犬の行方も気になる所だが、今は目の前のこいつらに集中しねぇとな」
「もふもふは呪いを掛けて仔を盗むものじゃないというのに、なんて酷いことを」
『もふもふハンター』リカナ=ブラッドヴァイン(p3p001804)の起こり方は少々独特だが、非道な行いに怒りを感じているのは間違いないようだ。
「ちゃんと止めて、綺麗にしてあげないと」
そしてできれば、その毛並みを堪能させてほしいものだ。
「子供を想う親の気持ちは、呪術なんかで抑えることはできないのよ。そんなことも知らないで……本当、馬鹿なことを考える人もいたものね」
仔を失い、その怒りに操られた夫婦のことを思うと、『ヘリオトロープの黄昏』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)の胸も苦しくなる。
「まずはこの子たちにかけられた呪いを解いてあげましょ」
セディオラの紐は、理性を削り凶暴にするものだと情報屋が言っていた。ならば奪う際に使用するということに『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は違和感を感じていた。
今考えても栓のないことだが、誤った術式を教えられていたのだとすれば、それは――。
「まずは暴れまわってる目の前の子達をなんとかしないとだ」
「子供を盗られたんだね、可哀そうに」
『雷精』ソア(p3p007025)の想いはシンプルだが、それ故にストレートな善心を含んだものだ。子供を奪われ、呪いをかけられ、今も尚そのどちらもに苦しんでいる。見過ごすことはできない。誰かがなんとかしてあげなければならない。誰かがその為に、拳を振り上げなければならない。
「でも先ずはおかしな術を解いてあげなくっちゃ!」
「争わなくてもいいのなら、争わないのが一番なのに……」
利己行為のために誰かに害をなすというそれを、『大剣メイド』シュラ・シルバー(p3p007302)は嘆いていた。時折、叶えたいものの為に奪うという選択肢を躊躇なく取る者が居る。誰かを貶めて得る利益に手を出そうという外れた者が。
「呪いなんかで、暴走させるなんて許せません!」
「皆自身の意思があり、そこに他者の意思が入る余地はあっても、強引に操るなど言語道断!」
『名乗りの』カンベエ(p3p007540)もまた、憤慨する。ひとならば、獣ならば、そういう問題ではない。倫理をどこで線引するのかと問われれば難しいものだが、今この瞬間に猛る想いは、間違いなどではないだろう。
「魔獣と言えど奸物の手によって虐げられているなら救ってやるのが人情で御座います!」
森の入口。魔獣の群れの領域。そこに足を踏み入れるその瞬間――何かに見つかったような気がした。
「――――急げ!!」
直感が告げている。これまでの戦闘経験が警鐘を掻き鳴らしている。
魔獣はもう、こちらの存在を察知してるだろうと。急がねば、怒り狂った魔犬にただ正面から鉢合わせることになるだろうと。
急ぎ奥へ、奥へ。
●赫眼
仲間を思う心を切り離し、遠吠えの群れとした。憂う過去を切り離し、剣の体現とした。そうすることで其れはようやっと怒りに身を焦がし、悪意へとそれらを振りまいた。だが燃え盛る怒りは悪意を取り除いただけでは飽き足らず、何もかもを根こそぎにしようとした。よって、自らであった者達によって封じられた。
「ヨハナにクレバーな提案がありますよっ!」
その言葉に従い、適度な場所で準備を始めた。
時間はない。姿も声もまだ見えないが、プレッシャーだけは刻一刻と大きくなっていく。
速い。恐ろしく速い。今にもその牙が自分の首を千切り飛ばすのではないかという不安。それでも信じ、それを完成させ、それを隠し、樹上に身を潜め、口に手を当てて呼吸音を減らし――――しん。
来た。
●魔獣というもの
彼らは自分であったものを閉じ込めねばならないことを大いに嘆いた。よって彼らは、何時の日か其れと再び見える為に自らを紐解く鍵とした。灰色狐の尾。遠吠え群れの仔。剣の鮮血。それらを持って、其れの目覚めさせる鍵としたのだ。
激烈な唸り声と共に、その蒼い犬は現れた。
いいや、現れたようだと言ったほうが正しいか。
誰の眼にもそれが接敵した瞬間を映すことはできなかったのだから。
(『距離』で発動する能力っ! 確かに『離れて』はいたわけですけど、そんなん有りですかっ!!?)
ヨハナは自身の口にあてた手の力を強め、漏れそうになる声を懸命に抑えていた。
相手との距離が離れているだけで際限なく加速する魔獣ズィー。接敵前であれば確かに全員との距離は遠い。その発動を予期していないわけでもなかったが、実際にやられると得ていた情報以上の驚異を感じてしまう。
(――――でもっ)
誘い込むための囮として用意した仔犬のぬいぐるみにズィーが気を取られている内に、もう一匹の魔獣も合流した。毛並みが赤い。こちらがアズバラルダだろう。
(隠れてなかったら、アズバラルダが来るまでずっと加速状態ですか。ゾッとしません。ま、でもこれで――)
罠を発動させる。戦場を固定し、魔獣の動きを阻害するためのものだ。
「さあ行きますよっ。魔獣お助け隊、ふぁいやーっ!!」
合図を出し、樹上より飛び降りる。さあ、救うための戦いをしよう。
「君達の怒りもごもっとも、欲に駆られた馬鹿はこれだからね」
ルーキスの術が魔獣を襲う。
彼らの全身に巻き付いた、縛り付けるような呪い。
セディオラの紐。理性を奪い取るものだと聞いている。アレがある限り、仔を奪われた怒りが収まることはないだろう。もしかしたら、仔を前にしてそれすらも理解できないかもしれない。
知性があるものを正真正銘の獣に落とす。狂わせる魔術。なんとも忌々しい呪法のあったものだ。
「とりあえずその呪術を何とかしようか」
その為に痛めつけねばならないというのは心苦しいが、他の解呪手段を探している余裕もない。
また、術式で呼び込んだ妖精を放つ。その牙は呪いの紋様を抜け、呪われた魔獣に立てられた。
本当に、これを作った者はなんと底意地が悪いのだろう。
ヘルモルトが一歩引いたその場所。刹那手前まで自分が居たその場所を、大狗の両顎が通り過ぎていった。
巨体であり、素早い。相対して感じるフィジカルの差。だがそれは、ヴィズマと戦った際にも感じたものだ。魔獣の恐ろしさは身に沁みて理解している。それでも戦うのは、救ってやりたいという思いと、ひとりではないという実感から来るものだ。
比較的、自分が狙われやすい状態にあることはわかっていた。
こうなるであろうことを見越して、さっき魔獣の仔を思いっきりもふもふしてきたのだ。大人しくて凄い良い仔だった。たぶん自分にはあの仔の毛がいっぱい付いてしまっている。じゃあもう狙われても仕方がない。覚悟の上だ。
目の前に大顎。真後ろに木。さて、次は逃げられるか。
動いてもいないのに、呼吸を乱されるというのは妙な感覚だ。
何度目か、自分の行動が打ち消される感覚にシュバルツはまだ慣れないでいた。
「慣れても、もうこいつらと戦うことはねえだろうけどよ……」
まるでパズルのように複雑に絡み合う魔獣の能力。一手一手対策することで向こうの優位性を最小限にまで抑えられることは理解していたが、細い綱渡りをしているような極限の緊張感が漂っていた。
「待ってろよ狗共、必ず助けてやる」
理性を失っているとは言え、万が一にも大きな被害を出そうものなら、人間とは敵対するしか無いだろう。そんな終わり方をしたくはなかった。
「例え魔獣だとしても、人の都合で利用されて悲しい結末を辿るなんざ、見過ごせる訳ねぇだろうが!」
剣で切られたことはある。銃で撃たれたことはある。しかし、砲弾のような大きさのあぎとにその身を咬み貫かれたことは、これまであっただろうか。
時間の流れがやけに遅く感じる。目の前に大きな獣。毛の色が赤いから、これはアズバラルダだろうか。いいや、この特徴的な鬣はきっとズィーの方だろう。おかしいな、ズィーの色は蒼かった筈なのに。
手を伸ばして、毛並みを確かめる。泥と血に塗れてばさばさになってしまっているが、ちゃんと洗えば元のもふもふを取り戻してくれるだろう。なあに、自分の手にかかればほんの数分だ。
「あなたたちの仔も、すぐに見つけ出すから待っててね」
本当に時間の流れが遅い、耳も上手く聞こえない。これは――。
「リカナァ―――ッ」
誰かが自分のことを呼んでいる気がする。何だろう。ただ少し、眠い。
『治療行為』に反応して加速する能力。ズィーのこれを止める手段はない。その為に誰もが葵犬を狙い、この魔獣を先に仕留めることとした、のだが。
「なんて、生命力……!」
ジルーシャが肩で息をし始めて、どれくらいになるだろう。自分たちよりも遥かに大きな獣と戦うという緊張感は、容赦なく集中力を削り取っていた。
加え、一撃一撃の傷が深い。痛みはさらに脳の枷となって、その行為をかき乱していく。
だが――――ぐらり。
ようやっと。ようやっとだ。ズィーの足元がおぼつかなくなり、そのままゆっくりと伏せるように倒れていく。
「大丈夫。アタシたちが何とかするわ。だから……信じて、今はゆっくりお休みなさいな」
魔獣を縛っていた紋様が砕け、そのまま眠るように。
「後ろで蹴ってるだけと思ったスか? 甘ェ!」
アズバラルダだけとなった瞬間を好機と見てか、葵がそれまでの行動から一転して攻勢に出――意識が歪む。
浮ついたような、高揚感。両手がだらりと下がり、視界がぼやけている。何をしていたか、何をどうしようしていたのか。思考がかすみ、脳だけが気分を高めていき――全身を走る痛みで、心を取り戻した。
神経を直接掻き毟られたかのような感触に、脳が生命危機の警鐘を鳴らしている。がなり立てている。だが、考えるのは別のことだ。
陣形を立て直せ、その為に時間を稼げ。少しでも長く、少しでも長く。今を引き伸ばすために、この先を消費してでも。
アズバラルダにしがみつく。その牙が自分を貫いている。なにも聞こえない。痛い。叫んでいる。痛い。視界が赤く暗く閉じていく。痛い。それでも。
意識が事切れるまで、葵はその手を離さなかった。
ソアが生み出した仔犬の幻影。しかし、アズバラルダの牙はそれごと彼女に襲いかかる。
その可能性も考えていなかったわけではない。とっさに身を引いたものの、躱し切れずに皮と肉を少し、裂かれてしまった。
痛みよりも嘆きが勝る。仔の姿を認識すらできていない。その筈だ。アズバラルダは倒れたズィーに視線すら向けないのだから。
それほどに狂わされている。温厚だと聞いた。優しいのだと聞いた。事実、ここに来るまでのヴィズマは本当に優しかった。
だからこそ、怒りが湧き上がる。
両手に稲妻を。雷槌に等しいそれを。帯電はソア自身の皮膚も焼いたが、意になど返すものか。
「ゴメンね、きっと本物を取り返してあげるから!」
心のなかでもう一度謝罪をしながら、赤い体毛に電流を流し込んだ。
限界まで高まった緊張感のせいか、自分が無呼吸による行動を重ねていると自覚したシュラは、一度身を引き、息を吸おうとして――むせた。
剣を杖代わりにし、肩で呼吸を数度。そうやって、全身の強張りを落ち着かせる。
体が重いのは、傷と疲労のせいだろう。視線を向ければ、仲間の皆が一様にそのようなものだ。ズィーが倒れ、攻撃の苛烈さは確かにマシになったものの、アズバラルダは未だ健在なのだ。
だが、この魔獣も傷を負っている。救うためとは言え、本来は大人しいはずの魔獣にこれをつけたのは自分たちなのだと思うと、心が締め付けられる錯覚を感じたが、ここで終わるつもりはない。
やるのなら、最後まで。なんとしてもこの魔獣を元に戻すのだ。
「あなたに恨みはないのですが……ごめんなさい!」
ぐぅらりと傾きかけた身体を、カンベエは必死の思いで立て直した。
痛みを感じるという段階はとうに通り越している。
指先は痺れ、意識は朦朧として、足の裏の感触すら曖昧だ。
それでも盾を構えている。いくらでも傷つけてみろと啖呵を切っている。
見ろアズバラルダ。お前も痛いだろう。こちらも痛い。いや、お互いに痛みなどわからないか。赤い毛並みの美しい犬。そこに纏わりつく呪法の、なんと邪魔なことだろう。
見ろアズバラルダ。こちらも、こんなにも赤いぞ。これではどちらが緋犬だかわかりゃあしない。
それが何だかおかしくなって、もう一度だけ声を張り上げる力が湧いた。
「このカンベエを飲み下せるものならやってみろ! 煮える鉄を飲む覚悟で参れ!!」
さあ、最後の剣戟と。いざ。
●皇蹄は何処
よって、其れは今も眠っている。収まらぬ怒りを燻ぶらせたまま、何もかもを恨みながら。其れは皇蹄。何時か世界を焦がす者。
血みどろになりながら、道を行く。
覚束ない足取りで、意識のない者はその背に揺られながら。
アドレナリンが切れてしまったのだろう。全身がひどく痛い。痛くて痛くて、笑いだしてしまいそうな程に。
わんとひとつ、緋色の犬が鳴いた。
どうやら、道を間違えそうになっていたらしい。
向きを変えねばと身を捩ったところでふらついて、それを蒼い犬が支えてくれた。
その眼は優しい。やはりこれが、本来の彼らなのだ。
早くなった夕暮れの道を歩く。傷の痛みに顔をしかめながら、無事に救えたのだという思いに心を湧かせながら。
さて、次はやや仔を取り返さねばならないのだが。
了。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
序盤でそのまま相対すればあったであろう猛攻を未然に防ぎ、戦闘行動としてのリソースを消費せずに最も厄介な敵スキルを封じた手腕にMVP。
お見事です。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
本来は大人しい夫婦の魔獣、アズバラルダとズィーが理性を失い、凶暴化しています。
この二匹はセディオラの紐の紐によって理性を失っており、この術が解除されることによって元の状態に戻すことが可能です。
人間にも友好的な魔獣であるため、『暴走した魔獣の討伐』ではなく『アズバラルダとズィーの理性回復』が依頼内容となります。
二匹の仔の行方が気にかかるところですが、今回の成功条件とは関係がなく、シナリオの舞台上では情報を得ることもできませんのでご注意ください。
【エネミーデータ】
■緋犬アズバラルダ
・人を丸呑みできるほど大きな狗の魔獣。温厚で高い知性を持っていた筈が、呪術『セディオラの紐』で理性を失っており、凶暴化している。
・物理攻撃・反応・機動力が高い。また、以下のスキルを持つ。
◇先見の狩人
・イレギュラーズにプラス効果(自付・回復)のあるスキルが使用された時、これを無効とし、代わりにその効果をアズバラルダが得る。このスキルは通常行動とは別に自動発動する。このスキルは1ターンに1度しか発動しない。
◇後出の捕食
・アズバラルダ、ズィーのどちらかがスキルによるBS効果を受けた時、スキルそのものを無効とし、【特殊レンジ(敵全体)・無・無効としたスキルと同一のBS効果】による攻撃を行う。この攻撃における命中は無効化されたスキルを使用したキャラクターの値を参照する。このスキルは通常行動とは別に自動発動する。このスキルは1ターンに1度しか発動しない。
■葵犬ズィー
・人を丸呑みできるほど大きな狗の魔獣。温厚で高い知性を持っていた筈が、呪術『セディオラの紐』で理性を失っており、凶暴化している。
・神秘攻撃・反応・機動力が高い。また、以下のスキルを持つ。
◇狩人の時間
・いずれかのキャラクターが回復効果のあるスキルを使用する度、ターンの最後にもう一度行動する。このスキルは通常行動とは別に自動発動する。追加行動は1ターンにつき、最大1回まで。
◇捕食の追求
・いずれかのキャラクターがアズバラルダかズィーと『超遠距離』以上の距離になる度、次のターンの初めに追加で行動する。このスキルは通常行動とは別に自動発動する。
【シチュエーションデータ】
・昼間の森。
・動き回れる程度には木々がまばらである。
・奪われなかった仔犬はヴィズマが安全に保護している。
・ヴィズマは戦闘に参加できない。
【用語集】
■セディオラの紐
・双狗にかけられている呪術。
・呪いを受けた相手を衰弱させることで解除される。
・解除時には対象を包むリボン状の紋様が消えるので、すぐに分かる。
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