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シナリオ詳細

【楽園の悪魔】インタビューウィズユー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●終わらない快楽
 たとえば果物だけで人が堕とせるとしたら何を思う?
 好きな人に送る? 嫌いな人に送る?
 一時の幻をスプーンに乗せて味わう快楽を共有する?
 とろけるような味わい、目もくらむ後味。ときめきが止まらない、もう一匙、もう一匙。
 初恋のように自然に、熱愛よりも深く、心に刻まれる食の快楽。
 止まらない止まらない止まらない。
 愛おしき蜜の残り香にスプーンすらべろりと舐めて、もうひとつと叫びたくなる。
 破滅なのか嬌声なのかそれは本人にすらわからない。
 そう、それが「ジュエリー・フルーツ・スイート・コレクション」
【楽園の悪魔】ジェイル・エヴァーグリーンの至高の一品。

●だからなんで上座に座ってんの
「やぁやぁ、こんにちはぁ。よく来てくれたねぇ」
 ちょっと間延びした声であなたたちを出迎えたのは上座のソファに深く座るジェイル。若干うさんくさげな見た目だが、話してみれば職人気質の気のいいヤツとわかる。なにしろジュエリー・フルーツと呼ばれるブランドを立ち上げ、市民から貴族まで虜にしている新進気鋭の果物農家兼パティシエなのだ。
「ところで、良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」
 そう言われると、とりあえずいいニュースからと答えたくなるものだ。悪いニュースではなんかすごいめんどくさいこと頼まれそうだし、何しろ相手はジェイルだから、良いも悪いも関係ない感じ。
「じゃあ良いニュースからぁ。なんとコインマスカットの量産に成功しましたぁ! イエーイ、拍手ぅー!」
 あなたはジェイルに合わせておざなりな拍手をした。
 コインマスカットというのは、イレギュラーズがジェイルに頼まれて採取してきた古代の果実だ。ひらべったく円形状の果実が特徴で、まるでコインを連ねているかのような豪勢な見た目だ。味はラムネ味(フランスパン職人談)。
「やっぱりマンドラトリュフを惜しみなく使ったのが良かったよぉ。ありがとうねぇ」
 マンドラトリュフはこれまたジェイルの頼みでイレギュラーズが森からとってきたキノコ。採取の際に大声でわめくわ、そのせいで森のくまさん(ヌシさま)から命を狙われるわ、わりと綱渡りなお仕事だったのは覚えている。
「で、ここから悪いニュースねぇ。このコインマスカットをジュエリー・フルーツに加えていいか迷ってるんだぁ」
 ジュエリー・フルーツはジェイルの肝いりだ。数ある果実の中でも、ジェイルが「良し」と定めたものだけを使い、季節のスイーツに仕立て上げる。それはジェイルにとって、大事な娘を花嫁に出すような行いだろう。一点のシミもシワも許されない。どの角度から見ても完璧な花嫁でなくては彼は満足しない。であるからして……。
「コインマスカットはたしかにおもしろい味なんだけどぉ、万人を魅了するかというとちょっと不安があるんだよねぇ。僕もコレを扱うのは初めてだしぃ。そこで、貴族と市民にコインマスカットを売り込み、君達の感想を添えて報告してほしい!」
 あ、やっぱりめんどくさいお仕事来た。よろしくねぇとジェイルは笑っている。

GMコメント

みどりです。おいしいものは人を幸せにします。でもハワイアンサイズのパンケーキは、コレほんとに現地の人食ってんの? って思いましたでぶ。完食したでぶぅ。

さて、皆さんは【貴族】と【市民】の2グループに分かれてコインマスカットの良さを売り込んでください。生のままでも調理したものでもかまいません。そのうえで、個人的な意見を添えてジェイルに教えてあげてください。

【貴族】
珍しさ・めでたさ・ブランドとしての可能性など、付加価値を重視します。
値段が高ければ高いほど良いという価値観を持ちます。
おいしいものは食べ慣れているので、味はそんなに気にしません。
ようはパーティーや舞踏会などで自慢の種にしたいわけです。
コインマスカット入手や育成の苦労話などをちょっと盛って話してあげると喜ぶでしょう。

【市民】
味・価格・品質など実利を重視します。
こちらは安ければ安いほどよいという価値観を持ちます。
また、いろんな食べかたがあるほど喜ばれます。
今夜の晩御飯をぷち贅沢に、と考える人が多いようです。
いろいろと料理して出してあげると喜ぶでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 【楽園の悪魔】インタビューウィズユー完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年10月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
武器商人(p3p001107)
闇之雲
斉賀・京司(p3p004491)
雪花蝶
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
グランツァー・ガリル(p3p007172)
大地賛歌
結々崎 カオル(p3p007526)
死の香りを纏う守り人
エミール・オーギュスト・ルノディノー(p3p007615)
月明かりのアリストクラット

リプレイ

●小鳥が鳴く夜に
 今夜のために招待された貴族が、安楽椅子に座りながら談笑している。彼らの前には幕の降りた舞台があった。彼らの中には、貴婦人に取り囲まれている『出奔貴族』エミール・オーギュスト・ルノディノー(p3p007615)の姿があった。髪を整え、クラシックなスタイルに身を包んだ彼は、修羅場と鉄火場をくぐり抜けてきたとは思えない柔和さで、なんの違和感もなく貴族たちに混じっていた。
「まあ、では外国から諸国漫遊の旅に……」
「そうなのです、レディ。噂のギルドの名前のない品評会。心躍る催し物に皆様とご一緒できて幸運です」
「お上手ですこと」
 その時、場内の明かりが落ちた。
「サヨナキドリへようこそ」
 いつのまにそこへいたのか、舞台の袖に『銀の月』武器商人(p3p001107)が燭台を手に立っていた。久しぶりに商人の装いへ身を包んだ武器商人の、長い銀髪が蝋燭の光を反射し淡く輝く。秘密めいた催しの始まりを感じ取り、貴族たちの目線に熱がこもる。武器商人は深々と礼をして口を開いた。
「招待に応じていただき、誠にありがとうございます。今宵は皆様方へ最高の娯楽を提供いたしましょう」
 赤狐の君、と武器商人は呼んだ。
 スポットライトが光り、舞台の中央にすらりとした美丈夫の姿を映し出した。『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)だ。彼の隣には、銀の蓋をした盆を乗せた小さなテーブルがある。ヴォルペはその蓋へ手をやりながら、人好きのする笑みを浮かべた。
「気高く威厳ある紳士のみなさま、美しく麗しい淑女のみなさま。本日は『本物』を知るみなさまにこそ相応しい素晴らしい果物をご紹介させて頂きます」
 そう言うとヴォルペは銀の蓋を一気に取り去った。
「こちらはその名を「コインマスカット」。若葉のような鮮やかさ、朝露に濡れたような瑞々しさ、透明感と爽やかさを併せ持つ輝きがまるでペリドットのように美しい果実です。これだけでも目を引く魅力がありますが、やはり一番はこの形状」
 ヴォルペはコインマスカットを持ち上げた。ざらりと房が垂れ下がる。
「名が表す通りコインを幾重にも重ねたように成る果実は繁栄と富を象徴しているかのよう。さらにこの果実の価値はその生産方法にもあります。沢山の魔物と難解な謎に守られた遺跡の最深部で密かに解放の時を待っていた希少な苗を入手し、イレギュラーズでさえ直接対決を避けるような禍々しい主が生息する森から採取した貴重な肥料をふんだんに使い、苦労を深い愛情に変えて一つ一つ丁寧に宝石を磨き上げるように手間暇を惜しまず育てた果実です。
 そのまま飾るだけでも目を楽しませ、口にする事が出来る宝石として驚きと感動をも提供する事が出来る一品。多大な可能性と栄光を秘めた果実はみなさまの今後にもきっと役立つでしょう」
 ざわざわと貴族たちが品定めを始める。その空気を察知して、エミールは周りに聞こえるよう意識して声を出した。
「そのコインマスカットとやら、是非購入したいものだ。さぞや今度のパーティーで自慢になるだろう」
 貴族たちのざわめきが大きくなった。今の一言を聞いて興味が増したのだろう。武器商人がエミールへ近寄る。
「お客様、お目が高い。どのような点が気に入られましたか?」
「その硬貨に似た形もいい。何処そこの王が新しく硬貨を発行した際の祝いとしてこれを献上すれば洒落た贈り物だと思ってもらえるだろうな」
 ほほう、なるほど、と言った呟きが聞こえる。エミールの発言は十分貴族たちの興味を掻き立てたようだ。武器商人は舞台の袖に戻った。
「ではこれより、このコインマスカットを手に入れた経緯をお話しましょう」
 幕があがり、貴族たちが拍手をする。満場の拍手に迎えられたのは『皆の翼』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)。派手な仮面で目元を隠し、夜明けの色をしたヴィオラを肩に置く。
「さぁ、全てお聞かせしましょう…自身が体験した危険と波乱に満ちた冒険譚を…。」
 彼の足元から小ロリババアのアルカが走り出る。それに合わせて、ヨタカはテンポの早い曲を奏で始めた。
「楽園の悪魔に導かれし我等の
 行く先は悍ましい魔物どもの巣
 まるまると太った大蛇
 人の背を優に越す大蝙蝠
 刃の如き悪意が迫りくる」
 抜群の歌唱力で貴族たちを魅了するヨタカ。
 舞台の上を走り回っていたアルカが、叫び声を上げながらヨタカへ突進する。アルカはヨタカの目の前で反転して飛び退る。それにあわせてヨタカは素早く遠術を放つ。貴族たちからはまるでアルカが遠術をくらったように見えただろう。客席がどよめき、息を呑むのが聞こえる。遠術の余韻が残る舞台で、アルカはヨタカの曲に合わせて何度も跳ねる。ヨタカは次々とスキルを披露し、歌と音楽でコインマスカットにまつわる冒険を奏で続け、観客の心を鷲掴みにした。曲が終わると大きな拍手があがった。幕が下りた舞台の中で、緊張の解けたヨタカに武器商人が歩み寄る。
「よくできたね」
「…ん…。」
 仮面を外したヨタカは恥ずかしげながらもどこか誇らしげな顔。武器商人は彼の銀髪をかき混ぜるように頭を撫でた。
 舞台の外では明かりが灯り、貴族たちは歓談という名の腹のさぐりあいをしていた。そんな彼らの背をとんと叩く者がいる。武器商人だった。
「やァ、我(アタシ)だよ。耳寄りな話があるけれど、どうだい?」
 敬語を捨てた無礼な喋り方。しかしこんな時、武器商人は”いい話”を持ってくるのだと、客側も心得ている。武器商人は袖からマンドラトリュフを取り出した。
「コインマスカットを育てるには、こいつが必要でね。これがまた麓のコしか知らないような希少種でしかも美味と来た。
 キミ達の財力と知力があれば麓のコらの分を奪わない程度に養殖する目処も立とう? 最初は控え目にして稀少性を売りにして貴族向けに、養殖したら民衆向けに安く安定して売ればいい」
 貴族らの射幸心をくすぐるトークで、限られた人数にだけマンドラトリュフへの投資を呼びかける武器商人。実物を出しての語りは十分な説得力を持っていた。
「場所を知る人間は一握り、悪い話ではなかろ? 勿論コインマスカットの事もよろしくお願いね? 夜会での宣伝、各地への流通の手伝い……」
 心得た、と貴族たちは薄く笑って散っていった。

●街角おいしいもの紀行
「ペロッ、これは! 土! おいしい!」
『大地賛歌』グランツァー・ガリル(p3p007172) は先んじてジェイルの農地でギフトを使い、コインマスカットの地質を調べていた。
「もう一口いただいてもお?」
「いいよぉ~。土だって僕の自慢のレシピさぁ。味見くらいなら何度でもぉ」
 ジェイルがうれしげに目を細める。グランツァーは存分に味見をしてから仲間との集合場所へ急いだ。
 そこに居たのは。
「えっ、誰でしたっけえ、あなたあ」
「やっぱそうなるよな?」
 エプロンと三角巾をしてコックに扮した『死の香りを纏う守り人』結々崎 カオル(p3p007526)が料理の手を止めた。『他造宝石』ジル・チタニイット(p3p000943) も屋台と試食台をクロスで飾り付けながらコクコクとうなずき、同意している。
 そこに居たのは、髪をゆるくオールバックにし、ウェイター服に身を包んだ『雪中花蝶』斉賀・京司(p3p004491)。普段の鬱々とした雰囲気はどこへやら。完全な陽キャ。顔色すらメイクで血色良く仕上げるこだわりよう。
「元世界で客商売一筋8年! 今日はがんばりましょうね、皆さん! よろしくおねがいします!」
「りょ、了解っす。今はとにかく設営手伝ってほしいっす」
「もちろん喜んで!」
 ジルのアイデアのおかげで屋台は華やかで清潔感のある店に整った。グランツァーが精霊に頼んでカオルの料理の香りを風に乗せる。
 さあ開店だ。
 カオルはコインマスカットを一房取り上げた。ずっしりとした重みに笑みが漏れる。
「さて……久々の料理だが、懐かしいなあ。師匠に叩き込まれたのが役に立つ日が来るなんてな……まあ、なんだ。こういうのもたまにはいい」
 食パンへバターを薄く塗り、コインマスカットをひと粒ずつ並べて生クリームを絞る。もう一枚の食パンでサンドしてパンの耳を切り落としたら、フルーツサンドの出来上がり。甘い香りとコインマスカットの香りがマッチし、風の精霊も喜び集まってくる。
 続いて取り出したはクリームチーズ、これに半分に切ったコインマスカットをたっぷり添えてバケットに並べ、強火の上をざっとくぐらせて香ばしさをプラス。お鍋でことこと弱火でじっくり煮られて熟成されつつあるのはジャムだ。コインマスカットの味が引き立つよう隠し味に塩を少々、砂糖はたっぷり、こまめにアク取り。
「よし、こんなもんでいいだろ。材料が良いから、なんにでも化けるな……」
 屋台の前には人が集まりだしていた。
 ジルが試食用のマスカットをさっと差し出す。物珍しげに眺めている市民たちの前で、ジルは一粒口の中に放り込んでみせた。
「ん~、美味しいっす! おかわりは……え、駄目っすか?」
 京司が両腕でバッテンをだした。コントのようなやりとりに、市民たちから笑いがもれた。
「コインマスカット屋へようこそっす! まずはおひとついかがっすか?」
「なんとこれは古代の果実なんですよお。幾年経て変わってきた地質を問わずに育つこの「環境適応力」。有体に言えば、土台を整えればすーごい育ちやすいんですよう。
 味もほら、このまま食べてみてくださいよう。不思議な味でしょう? ……興味湧きましたかあ?
実ってしまえば根強い幹のごとく、品質にブレが出にくいんですよう」
「私はこれの種を手に入れる依頼を請け負った一人なのですが、大変苦労しましてね。狂暴な蛇と巨大な蝙蝠に襲われ、最後に難解なクイズとまあ、特異運命座標ではなければ大怪我をしていたことでしょう!」
 ほがらかに試食をすすめるジル、未知の食べ物を解説するグランツァー、爽やかな笑顔のまま流し目でウインクする京司。三人の接客連携プレーが功を奏し、市民たちは我先にと試食用マスカットへ手を伸ばす。おおー、なんじゃこりゃ。変わった味だ。うまいぞ。そんな反応が市民たちから湧き起こり、接客組の三人はニヤリと笑みを交わす。
「このコインマスカットを使った料理が、今ならタイムセールス中っす! お一人様、みっつまでっす! はい、並んで並んで~料理はまだまだあるんで、慌てなくて大丈夫っすよー。」
 あわや殺到しかけたお客たちをジルは手際よくさばき、列を作ってみせた。カオルが次々とサンドイッチとバケットを量産し、客の期待に応えていく。
「お客さん、こちらもいかがですか? 俺が作ったジャムなんですが、調理も簡単で適度な酸味と甘みは、普段のいただいているバケットにピッタリだと思いますよ? おわかりのように、そのまま食べても美味い。一房、どうでしょう」
 じゃあそれもと奥様方がジャムの小瓶や生食用のコインマスカットへ手を伸ばす。
(フルーツサンドは食べやすさから子どもや老人に人気だな。バケットは若い人が好んで買っていく)
 客の傾向を読み、カオルの料理の手際がさらに加速していく。獅子奮迅の活躍で小さなキッチンを最大限に使い、味も見た目も自慢できるメニューを量産。控えめながらも接客スマイルを浮かべ、次々と差し出される手へ目当てのものを握らせる。
「買い物が終わったお客様はこちらからどうぞお」
 ジルが作った列を、グランツァーが整頓していく。帰途につく客、その後をついていくジル。
「お味どうっすか?」
 と、聞き取り調査も忘れない。そのまま試食皿を新しく来た市民へさしだし、自分もひょいぱくしながら売り込んでいく。
「一度食べたら忘れられないあの味、お薦めっすよ! 是非お一つ頂いて欲しいっす。」
 京司も試食皿を持ち、若い勤め人を狙って積極的にセールス。
「私の笑顔と同じくらい爽やかに弾ける独特な酸っぱさが一番の特徴です。味は甘く後味はスッキリなので午後の頑張りに持ってこいですよ。
 あとレモン果汁の入った炭酸水に添えるとおしゃれで美味しいと思います。眠気覚ましの代わりにどうでしょうか」
 にっこりキラリと愛想よく。持ち前の端正な顔立ちに若干の男らしさとかわいさのスパイス。立て板に水のようなトーク。歯切れのいいはきはきとした声。徹底的にそれらを維持しながら京司は着実にお客を集めていく。
 思いもよらなかった盛況ぶりに、小一時間もすれば、カオルの手元から料理がなくなった。
「看板だ。申し訳ない」
 カオルが両手をあげた。集まった市民たちが残念そうに去っていく。
「接客は正直苦手なんだが……まあ、いい感じにできたかね」

●最終審査だ
「ふむん」
 ジェイルは尊大に足を組み、一同を見回した。彼が果物にかける情熱と妥協のなさが場に満ちている。その蛇の因子を宿した瞳は、いつもののほほんとした彼ではなく、楽園の悪魔の呼び名にふさわしかった。
「報告を聞こうかぁ。感想はぁ?」
「……疲れた」
「あ、うん、君はそうだろうねぇ」
 ウェイター服のまま背を丸めている京司。普段どおりの無表情だった。
「個人的感想は置いておいて、コインマスカットなのだが、市民受けはかなり良かった。期待していいのではなからうか。とはいえ疲れたのでスイーツで癒やされたい」
「オーケー。おつかれさま」
 ジェイルが卓上の鈴を鳴らすと、メイドがしずしずとフルーツタルトと淹れたての紅茶を持ってきて全員の前に置いた。タルトを崩しつつ口へ運びながら京司はひとりごちる。
(ここに来て初めて営業スタイルを整えたが此方でも受けるな。このスタイル。もしかして求められてるのは同じ……?)
「ちなみに元世界で何やってたんだ?」
「秘密だ」
 カオルの質問に京司はにべもなく答えた。グランツァーが手を挙げる。
「んーと、僕からはですねえ。肥料のコストがやはりポイント、ですねえ。普段の手入れはもちろんですけどお、あれだけ豊穣な土を作るにはやはり専用の肥料が欠かせないんじゃないでしょうかあ」
「あァ、肥料のことなら、我(アタシ)のほうで種を撒いておいたよ。軌道に乗るのも近いだろうね」
 武器商人が手を組みながらほくそ笑む。グランツァーはそういうことなら、と。姿勢を正した。
「あの適応力はさすが古代の果実、なんですけどねえ。コインマスカットの量産化はジェイルさんの手腕で成り立っているのでえ、ブランドとして推すのであれば余力を残したほうが良いかと思いますよう。ただこの適応力。より現代の地に馴染んでいけば遊びが広がるとも思いますよう。僕からは以上ですう」
「そうだねぇ、余力を残しつつ変種の開発にも着手してみようかなぁ。ありがとぅ」
 ついでカオルが身を乗り出す。
「味に癖があるが、調理の仕方でなんにでも化けるのがまたいいと思う。個人的に市民側では手応えあったと思うぜ」
 カオルはバッグの中からラップに包んだ試食品を出し、ジェイルに勧める。ジェイルはひとつひとつをとっくりと味わった。
「いい仕事だねぇ。勉強になるよぉ。軽食にするとこうなるんだねぇ」
 ジェイルは満足げに笑う。パティシエでもある彼には他人の料理は物差しのひとつだ。
「あっ、僕、市民側のトリっすか? そうっすね、もうしゃべるより見てもらうのが早いと思うっす。」
 そう言うとジルは分厚いメモ束を取り出した。ひそかに集めていた食レポ感想集だ。
「こんなに沢山の方がコインマスカットに興味を持ってくれたっす! だから僕はコインマスカットは市場でもバッチリだと思うっすよ!」
「わぉ、感想だぁ! これはうれしいねぇ、ありがたいよぉ」
 ジェイルは素直に喜んだ。やはり食卓からの声は励みになる。ヨタカがジェイルの食べさしのフルーツサンドを見つめながら言った。
「では貴族側の報告をしようか…。俺の個人的な感想としては、ぜひともこのコインマスカットを使用した甘味なども食べてみたいと思う…。この味わい深い酸味が生クリームとマッチすると思うんだ…。」
「なるほどぉ」
「生クリームとマッチすると思うんだ…。」
「……食べるぅ?」
「いただこう……。」
 ヨタカはまむまむと生クリームたっぷりのフルーツサンドをたいらげた。隣で武器商人が組んでいた腕を解く。
「葡萄みたいだし、ジュースや酒にしてみても面白そうだよね。我(アタシ)からはそれだけさ」
「あぁー、その手もあるねぇ。検討するよぉ」
「おにーさんは残念ながら糖度が高すぎて口に出来ないけどね、本物の価値は誰の心にも響くと思うよ」
 ヴォルペの物言いにプライドをくすぐられたのか、ジェイルの口の端が上がる。
「僕にとって果物は人生の全てだからねぇ」
 最後にエミールが今までの感想をまとめた議事録と一緒に、自分の報告書を渡す。
「価値・珍しさ共に貴族の方々を惹きつけるに充分だと思います。評判は上々です。あと個人的に、皆さんがコインマスカットを売り込むのを聞いて私も食べてみたくなってしまいました。きっと味も人を魅了するのに相応しいものかと。 ジェイル・エヴァ―グリーン氏へ」
「ありがとぅ。それじゃ、ブランド化の件、前向きに検討するよぉ。お世話になったねぇ。また何かあったらよろしくねぇ」
 ジェイルは微笑みの中にやる気を滲ませた。

成否

成功

MVP

エミール・オーギュスト・ルノディノー(p3p007615)
月明かりのアリストクラット

状態異常

なし

あとがき

ジェイルくん三部作でした。いかがでしたか。皆さんの頑張りのおかげで想像以上にコインマスカットの噂は広まっているようです。食卓にのぼる日も近いかもしれません。

さて、MVPはうまいことサクラをやったあなたへ。
称号「三面六臂のコック」「さざめく言葉の宝石」を発行しております。ご査収ください。

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