PandoraPartyProject

シナリオ詳細

どきどき♡ちゅ~にんぐ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ぐるぐるぐる。ぐるぐるぐる。

 息を殺して、暗闇でじっと待つ。
 早鐘を打ち続ける心臓は、今にも破裂しそうだった。
 汗か。それとも割れた窓ガラスから吹き込んだ雨だろうか。
 冷たいのか熱いのかも分からないが、とにかく背がじっとりと塗れている。

「居たぞ! 殺せ!」

 柑子色の長い髪は暗がりでもよく目立ってしまった。
 男の金切り声に、顎ががちがちと音を立てる。
 怖い。怖い。怖い。

 ぐるぐるぐる。ぐるぐるぐる。

 短剣を握りしめた少女は、恐怖に顔を強張らせたまま願う――

 世界が彼女に与えた贈り物は、自身の精神を調律させる力だった。
 心の中のリュート。『怖さ』のペグをぎゅっと締めれば怖さなんてへっちゃらになる。
 悲しみも締められる。喜びは緩めてやる。
 勉強も剣も魔法の稽古さえも、いつだって嫌じゃなくなったから。
 魔物退治や遠征、王都への招喚に応じる父が居なくても、寂しくなんてなくなるから。
 小さな頃に亡くなった母の事を思い出しても、悲しくなんてなくなるから。
 少女はそんな風にすれば、なんでも出来ると信じていた。

 ――ドタドタとした足音がみるみる迫ってくる。
 一瞬である筈の時間が、ひどく引き延ばされて感じられる。

 ぐるぐるぐる。ぐるぐるぐる。

 心の中で『怖い』のペグをギュっと締め付ける。音を立ててくるくると緩んでしまう。
 また締める。緩む。
 何度も、何度も、何度も繰り返しながら短剣を握る。

 目の前に迫ってきたのは、大きな――少なくとも彼女にはそう見える――男だ。
 布で顔を隠し、全身は真っ黒。窓から差し込む刹那の稲光に、ぎょろりとした目だけが光った。
「悪く思うな、お姫サン」
 男が剣をゆっくりと、ゆっくりと。大きく振りかぶる。
 少女は鉛のように重い腕を、短剣の柄頭を腹にぐっと当てる。

 ぐるぐるぐる。ぐるぐるぐる。

 恐怖を殺して、少女は男に体ごとぶつかった。
「この! クソガキャ!」
 余りに硬い手応え。
 涙に霞む目で少女は一縷の望みに縋るかのように見上げる。
 ダメだ。
 終わりだ。

 だが体当たりの衝撃で、男が足を滑らせた。
 突如覆い被さる重みと衝撃。
 背中を打った少女の手にぬるりとした熱い感触が伝わり――恐怖に歪む顔に向けて男は喀血した。

 震える口腔を無理矢理に犯した赤い液体は、生臭い鉄のような。消えゆく命の味がした。

 ――

 ――――

 アルテナ・フォルテ(p3n000007)は突如、ローレット宿舎の自室。ベッドの上で跳ね起きた。
 汗が酷い。
 最悪な夢だった。

 それは小さな頃、彼女の家が消えてしまった時の夢――


「そう。ノワール。慰めてあげて頂戴」
 ローレットに集まった一同に、『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)が依頼書を差し出した。
「彼女、災難だったのよ」
 プルーが視線を流した先で肩を落としているのは、アルテナだった。

 イレギュラーズは一体どうしたのかと問う。
「ボギーね」
 珍しく単刀直入なプルーの口から語られたのは、ひどい夢を見せるという悪霊の名だった。
 それを退治せよという要件である。

「こんな言い方ってダークスレートだけれど。狙われたのが貴女で良かったんじゃない?」
 確かにプルーの言う通り、襲われたのがいっぱしの冒険者だった事は不幸中の幸いだったろう。
 王都の市民や何かであれば命さえ脅かされかねないのだから。

 とは言え敵をどうやって探せば良いのだろう。
 考え込んだイレギュラーズに、プルーは古い書物を取り出した。
 書に拠るところ。記された儀式の後に、皆で同じ部屋で眠って敵をおびき寄せる。そして叩く事になるらしい。
 餌は各自のトラウマという訳だ。
 そして恐るべき事に、夢は良くも悪くも共有されてしまう。
 夢でもいつものように共闘出来るのは心強いといえば心強いが、それは己が心の闇を仲間に覗かれる事と等しい。

「私は大丈夫。けど……みんなは無理しないで」
 依頼を受けるも受けぬも個人の自由ではあるが。

 イレギュラーズは任せて欲しいとアルテナの肩に手を置いた。

GMコメント

 pipiです。
 嫌な夢を見ることってありますよね。

●目的
 悪夢の中でボギーを倒す。

●ロケーション
 夢の中。
 具体的には全く不明です。
 メタな言い方をすれば、皆さんのプレイングがごちゃまぜになった場所です。

 特に指定がない場合は嵐の夜、貴族の館(アルテナの悪夢)になります。

 夢の中ですが皆さんの能力は普段の通りです。
 年齢やなんかは違ってしまうかもしれませんね。
 なんせ夢ですから。

 そんな夢の中に、全員が居合わせることになります。

●敵
『ボギー』
 数は不明です。能力も不明。
 一体かもしれませんし、参加人数分居るかもしれません。
 皆さんのトラウマに因んだ攻撃をしてくると思われます。
 要するにプレイング次第です。
 特になければ相手はアルテナの悪夢になります。

・おすすめの遊び方
 心の闇やひどい思い出を書き、それを自分なりに打破して下さい。
 これが最も有効な戦闘方法となります。

 あとは普通にスキルとかでボギーを殴りましょう。
 夢だけど。殴れるもんは殺れるのです。

 いずれにせよノリにノったほうが面白いと思います。

●同行NPC
・『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 両面型。剣魔双撃、シャドウオブテラー、ディスピリオド、格闘、物質透過を活性化しています。
 皆さんの仲間なので、皆さんに混ざって無難に行動します。
 具体的な指示を与えても構いません。
 絡んで頂いた程度にしか描写はされません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●他
 相談。特にない気もするので。
 寝る前の語らいにでも使ってくださいませ。

  • どきどき♡ちゅ~にんぐ完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月14日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
村昌 美弥妃(p3p005148)
不運な幸運
タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)
空気読め太郎
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

サポートNPC一覧(1人)

アルテナ・フォルテ(p3n000007)
冒険者

リプレイ


 なかなか眠りにつけぬ中で、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は、ふと身をよじる。
 否、よじろうとした。
 鉛のように重く感じられる

 睡眠麻痺――俗に言う金縛りという現象か。
 全身の脱力と意識の覚醒が同時に発生した状態であり、過労やストレスが原因とも言う。
 才媛たるゼフィラに限って、依頼の最中に斯様な不調を得よう筈があろうか。無論あり得ないだろう。
 それとも機械に置き換えた四肢の不調か。これもあろう筈もない。しかし精神を抉るような怖気の正体を彼女は知っていた。
 それは病に冒され死に向かうだけであった過去の記憶――

 身をもたげた『海のヒーロー』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)は慌ててシーツに手を当てる。
 微かな湿度に一瞬肝が冷えたが、これはどう考えても寝汗であろう。
「っぶねえ」
 悪い夢を見ていた。慌てた拍子に記憶から転げ落ちてしまったそれが何かは、既に思い出すことが出来ないのだが。
 時刻は夜半過ぎか。それらしい雰囲気だ。
 悪夢を見せるという怪異を退治するため、イレギュラーズ一行は『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)の部屋に布団を敷き詰め横になっていた。
 一行が行ったのは古文書に記された儀式タイレントラウム。夢の共有を行う物だ。
 ワモンが辺りを見回すと、皆一様にどこか苦しげな表情を浮かべているような。いないような。
(てーかいっけねえ。オイラだけ起きちまったのか?)

「お前さんも起きてたのか」
 小声で。『空気読め太郎』タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)
「もういっぺん寝ねぇとダメだよなぁ」
「いや……そうでもなさそうだ」
 なるほど。見れば横たわるゼフィラの両腕が『生身の肉体』になっている。ここは共有された夢の中だという事だ。
「夢ん中で起こすってのも変だけどよ」

 二人は起こされ、あるいは自ずから目覚め。イレギュラーズ達は再び一堂に会する事となった。
「夢の中の夢……デスかぁ」
 小首を傾げた『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)だが、すぐに得心行ったようだ。
「不思議な感覚ですね」
 音を気にかけるネーヴェ(p3p007199)故に分かることもあった。それは少なくともこの場が喧噪から隔絶されていること。信憑性の裏付けになる。
「醒めた夢。鏡の中の鏡。明晰夢なのは都合がいい」
「確かにな。同時にこちらから動く他なさそうだとも言えるが」
 淡々と状況を分析する『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)に『背を護りたい者』レイリー=シュタイン(p3p007270)が答えた。
「恐れることはない、この俺が、この九人がいるのだからな」
 両腕を広げる『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)――人格は稔か。
『ま。違いねえ』
 続く虚。忙しいことだが、考えようによっては十人とも言える。
「私のときは、もう少しどうにも出来ない感じだったけど……」
 長い髪、小さな背。張り出した主砲もない。それがアルテナだと理解するのに僅かな時間を要した者も居よう。
「ああ、これ? 昨日は記憶も子供の時みたいだったけど。今日はそうじゃないみたいだから。見た目だけなのかな」
 ゼフィラが微かに呻く。
「大丈夫?」
「大丈夫だ」
 アルテナの言葉。気丈に返したゼフィラは起き上がる。今もっとも窮地に立たされているのはおそらくゼフィラであろう。手足がロク動かないのだ。
「この腕だって足だって、全く動かないってわけじゃない。これが夢であることを自覚している以上、どうにか出来るはずなんだ」
 置かれた状況は余りに理不尽だ。それでも――完全に駄目だったあの時よりマシだ。やるほか無いのである。

 そして出口は一つ。
 あの扉だ。


「うそだろオイ」
 扉の先は白かった。
 吹きすさぶ冷たい風に、鼻先が凍り付きそうだ。
 話に聞いたことがある。
 遠く北には凍えるような海に浮かんだ白一色の世界があると。
 そこにはアザラシが暮らしており――
「お、おい」
 きっとこれは、己が抱く恐怖だ。
 そう自覚したワモンが振り返る。
 だが開けたはずの扉はなく、仲間は一人も居なかった。

 突如――地響きとともに足下がせり上がる。砕ける氷の中から現れたのは幾本もの巨大な筒であった。
「なんだあ!?」
 転がるワモンの視界に現れたのは、山ほどもある獰猛な白い熊だ。
 剣山の如く大量の艦砲を背負っている。咆哮に氷に無数の巨大な亀裂が走った。
「おいおい、冗談じゃねえぞ」
 空を覆わんばかりの無数の砲口が、一斉にワモンへと向けられる。
 背筋に悪寒が走った。
「冗談じゃねえぞ」

 ――

 ――――ガタンと景色が揺れた。
 思わず姿勢を崩した美弥妃の横に振ってきたのは大きな旅行鞄だ。
 バスの揺れがなければ、おそらく頭に当たっていただろう。
「痛たた……ごめんごめん、私の荷物だ」
 その声に美弥妃は息を呑む。
 はにかみながらクラスメイトが謝罪する。ああ、またあの夢だ。

 数十秒後、このバスは大事故を起こす。鹿だろうか、狸だろうか。
 ともかくバスが動物を避けようとしたと伝えられた、あの事件。
 クラスメイトはシートベルトを外し、荷物を戻そうと立ち上がり。
 やめて。やめて。やめて。
 声が出ない。
 けれどたとえシートベルトを締めたとしても、誰一人助からないことを彼女は知っていた。
 美弥妃以外は誰一人――

 ――なによあの子。

 ――村昌さんでしょ。一人だけ助かったっていう。

 ――どうしてあの子だけ。

 ――関わらないほうがいいわよ。あの子。毎年、何かに巻き込まれているって言うじゃない。

 ――シっ。

 ――じゃあウチの子は、あの子に殺されたんじゃない!

 ――――――ワタシだって生き残りたかったわけじゃなかったのに――――――

 夢であることは知れている。
 ならば、どうすればいい。
 考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。

 ――らぁぶあんどぴいーす☆

 ――――その声に。僕はいま、おどろいたのか。

「……団長」
 ひどく渇く仮初の喉。混沌肯定とは、否――夢とは成程度し難い。
「安心せい。夢じゃろがい」
 かつてラサの傭兵団であった『幻戯』団長ルウナ・アームストロングが口角をつり上げた。
 人を食ったことを言う。
 戦場。死屍累々。
 感じられる気配に、全身が打ち震える。
 それは殺意か悦びか。
 アレはやはりそこにいた。

 受けた依頼は簡単な筈だった。何時ものように戦い、終わらせる『日常』である筈だった。
 だが幻戯の前に現れたのは、見たこともない生物だった。
 少なくとも依頼書に書かれたモノとは、まるで違っていて――
 振り返れば団長はもう居ない。
 逃げろという、あの日の声は聞こえない。

「ありがとう。僕の前に現れてくれて」
 どこまでも歪な『あの日の続き』に愛無は。
「今日は……らぶあんどぴーすはお休みだ」

 ――

 ――――

 タツミとTricky・Stars、ゼフィラ、それから幼いアルテナは暗い廊下を駆けていた。
「どっちか聞いていいか?」
「ごめんなさい、分からないけど。こっちかな」
「大丈夫。なんとかなる」
 なんとかする。動かぬ筈の――今も鉛のように重く感じるゼフィラは、その足で壁を蹴った。
 曲がる。たった今、曲がり通り過ぎたばかりの壁を、爆炎が舐める。
 炎に追われ、駆けているた一行の表情はぎこちない。
 窓の外は嵐が吹きすさび、立て続けの雷鳴が劈いている。
「膝が震えているのは気のせいか?」
『気のせいだボケぇ! 俺は男だ。例え火の中水の中、ド派手に真っ直ぐ突き進むぜ!!』
 ここにあるのは、おそらくごちゃ混ぜな記憶だ。
 それぞれの闇やトラウマ、体験したこと、あってはならない事。
 タツミは感嘆する。それに立ち向かうのは、素直にすごいことだと感じた。

 ドアを蹴破り炎を避けるように転がる。
 そこに立ち尽くす幼い少女は――おそらくレイリーだ。
 その視線は、倒れた人影をじっと見据えている。
「レイリー、さん?」
「……ああ、すまない。ふがいない所を見せた」
 それから視線をもう一度人影へと移す。
「兄だ」
 彼女の眼前で、兄は殺された。
 決闘だった。
 結果として、約定により家族は離散した。

 未だ勝てるとは思っていない。
 その力を今正にまざまざと見せつけられたという事だ。

 そして――警笛。
 鉄の塊が停車する。
 驚くほどぼろぼろになった観光バスだ。
 ドアが開き、赤いものがステップを伝い、地を赤く染める。

 悪趣味な光景を目の当たりにした一行は息を呑んだ。あの中に居るのは美弥妃ではないか。


 ――彼女はただ、ずっとずっと待っていた。

 昔、危ないところを救って貰ったことがある。それからの縁だ。
 一人っ子だったネーヴェは、まるで兄が出来たような心持ちだった。
 冒険者だったその人が語る話はとても面白かった。
 街での出来事。市場の賑やかさ。森の空気。洞窟の不気味さ。遺跡の話にはわくわくとさせられ、ちょっと危ない橋を渡った話には、はらはらとさせられた。
 生来、身体が弱く家に籠もってばかりだった彼女にとって、それはとても楽しい体験でもあり。そんな大切な人だった。
 切っ掛けはほんの些細な事だったように思える。
 どちらが何を言ったのか。今、それを語るつもりはない。
 二人は喧嘩をし、その人はそのまま冒険へと出かけ、ついに戻ってこなかった。

 心にぽっかりと空いた穴は、ずっとずっと塞がることがなく――


 ――早く乗りなさい!
 ――はぁーい。
 誰も居ないバスから声がする。
 美弥妃の記憶が聞かせる声なのだろう。
「乗るしかないんだろうぜ」
「だろうな」
 乗り込めという事なのだろう。

「どこに行くんだ?」
「悪夢通りなら、運悪く事故に遭うのデス」
「ぞっとしねえ。それが――」
「それがワタシのトラウマ……運は運デスぅ、ワタシじゃどうしようもない……」
 けれど。美弥妃が顔を上げる。
「どうしようもないことで嘆くほど繊細な大人にはなれなかったみたいデスねぇ」
 その蠱惑的な表情は、いつもの彼女のものだった。
 揺れるバスは炎の中を駆けていく。

 炎の向こうに見える巨大な建物。そこに見える白い人影は――ネーヴェだ。
 炎が建物を舐めるように覆ってゆく。
 強烈な豪雨と雷鳴、光と熱気の中で。その少女は余りに儚く、今にも呑まれそうに見えて。

「わたくしは――」
 しかし彼女はその瞳に決意の光を宿していた。
「もう……ちゃんと、向き合えます!」
 心も、身体も。もうあの頃とは違う。
 バスが建物に迫り、ネーヴェは炎に身を躍らせた。
 ――衝撃。
「兔は、跳ねるものなのです」
 バスの屋根に飛び移ったネーヴェの為に、窓をあける。
「すげえことするな」
「はしたないところをお見せしましたね」
「ううん、かっこよかった」
 彼女は無事で――バスは走り続けている。
 じりじりとした時間の中、Tricky・Starsが呟いた。
「それで。敵はどこに居る」
「試してみマスぅ」
 美弥妃が席を立ち、胸に手を添えた。
「不幸に飛び込んでやりマス」

 バスが突如水平を失った。
 幾度もの衝撃と強烈な浮遊感の中。一行は投げ出され――


 ――すべて殺す。喰い殺す。

 巨大な蛇の頭部が、ソレに喰らい付いていた。
「殺す。殺す。殺す」
 愛無は研ぎ澄まされた殺意を迸らせ、苛烈な攻撃をたたき込んで往く――刹那。

 巨大な何かがソレにぶつかり、そのまま呑まれた。
 バスだ。

「とまれよぅ!」
 ごろごろと回転するワモンが愛無の足下に転がり、バス停に衝突してポンと跳ねた。
「っ痛てて」
 追うように現れた巨大な怪物が、ソレと融合して往く。
 バスから投げ出された一行が駆けつけて――これで再び全員が揃った。
 だが事態は急を要している。
 ここから先は戦いだ。
「お、おい、どうすんだアレ」
「殺す。殺す。殺す。殺す」
 山のように巨大な怪物は、ぞろりと生えそろう怪物の牙のような砲門を一斉にイレギュラーズへと向けた。

「落ち着き給えよ」
 ゼフィラが不敵に笑う。
 膨大な魔力がその身を覆い、四肢は機械へ。
「あのボギーとやらに脚本の才はないらしい」
 Tricky・Starsが全ての魔力を束ねた。
「期待もしていなかったが!」
 全身全霊の破壊術砲が放たれた。
 感情を押し込める必要などありはしない。
 巨大な怪物――おそらくボギーだ――に突き刺さった二条の光が、切り裂くように軌跡を描く。

「行くぜ!」
 これが過去ならば。誰かの夢に過ぎないならば。
 だったら『あり得ない奇跡』が起こったっていいだろう。
 タツミが剣に力を込める。
 窮地を助ける者が居る。
 居ないはずの仲間が居る。
 怖い物がないなら、救う者になればいい。
 二振りを抜き放ったタツミの跳躍。突き立て、振り下ろし――。
「夢に巣食う怨霊共、夢のない眠りに逝きやがれ!」
 ――真竜覇斬撃。
 第二撃にボギーの巌のような巨体が地響きを立てて揺らぎ、ひしゃげ、跳ねるように大地を抉る。
 その轍は――クレーターとでも呼ぶべきか。

「ホッキョクグマがなんぼのもんだー!」
「……ホッキョクグマじゃないと思うけど」
「な、なんだってえ!?」
 言うな。アルテナ。
 ともかくヤバイやつなのは確かなのだ。
 だが今日のワモンはアザラシのヒーローとっかり仮面!
「うおー!」
 驟雨の如く降り注ぐ爆弾の嵐は、ボギーの巨体に無数の光花を咲かせ――磯の香りが漂った。

 ボギーの砲口に無数の瞬きが宿り――刹那。
「兎は、易々と捕まりません、よ」
 大地を穿ち、弾ける砲撃の嵐を軽やかに躱してネーヴェが地を蹴る。
 白ウサギが山を穿てるか。
 高く跳んだネーヴェの影は山へ落ちる流星のように煌めき――直後。地響きと共にボギーの巨体が断ち割れた。

 滅び行く片割れが球体を吐き出し、イレギュラーズを巨大な影が覆う。
 爆弾か。あんな大きさの。
 迫る破壊と暴力――だが。
「私はレイリー=シュタイン。さぁ、かかってこい!」
 レイリーが宿す陽光の煌めきは揺るがない。
「私は負けぬぞ! はああぁぁッ――!!」
 一刀に切り裂き、それは一行の遙か後方で爆発四散した。

 それからどれだけの時間が経ったろう。
 未だ激闘は続いていた。
 悪夢の中。ボギーが見せる――おそらく敵にとって酷く都合の良い――夢の中で、イレギュラーズの猛攻は止まる所を知らなかった。

 ――悪夢に抗する力は、ありったけの強いイメージだったのだろう。
 きっと『向き合う決意』『強い想い』『感情』あるいは『あの時を覆す具体的な行動』等か。
 対象はきっと己であっても仲間であっても良い。
 先ほどまでボギーの力は夢全域に及び分散していたと思われるが、そこでいくらか力を削ぐことが出来たのは、きっと確かだ。
 最終的にボギーは、残る全ての力でイレギュラーズを迎え撃つことを選択したのだろう。
 後は戦って決着を付ける他ない。

 時は果てしなく感じられるが、交戦開始から続く押しつ押されつという状況は、実際にはさほどの時間を要して居まい。
 非常識な光景は夢の成せる業なのであろう。戦う力の根幹を支えているのは常日頃からイレギュラーズ達が身に纏う力だった。
 具体的なロジックは知れぬが、さりとて神秘や怪異とはおおよそこのような物であろうから。

 敵が誇る圧倒的な暴力がイレギュラーズを苛み、満身創痍に果てたとしても。
 可能性の煌めきはイレギュラーズを戦場に踏みとどまらせているのである。

 なによりも――
「この場に立っているのはワタシだけではないデスからぁ……
 たくさんある不幸の内の1つ程度でワタシの心は揺るぎませんよぉ?」
 まばゆい聖浄な光に、ボギーがその巨腕で目を覆う。強烈な風を切り裂くように、美弥妃の癒やしが一行に戦い続ける力を与え続けている。

 ――すべて殺す。喰い殺す。

 殺す……すべて喰い殺す。誰であろうが。何であろうが。僕の前に立つならば。すべて殺す。容赦はしない。
 ただ殺す。喰い殺す。

 こおろぉぉぉぉすぅぅぅぅぅ!
 しいねぇえぇぇえ!
 すべて殺す。喰い殺す――

 愛無が嗤う。咆哮する。
 無数の顎が穿ち、潰れ、再び生じ、貪食する。

 本物だろうが。偽物だろうが関係ない。その姿で僕の前に現れた。それが全てだ。
 後悔して。懺悔して。ただただ死ね。お前の恐怖も。痛みも。絶望も。何一つ残さず、俺が喰い殺してやろう。何一つ残しはしない。
 全て喰い殺す。

「抉れろ。何もかも――」

 イレギュラーズの猛攻にボギーの巨体は徐々に崩れ、断ち割れて。
 山は丘に。丘は城に。城は屋敷に。

 そして――

 ――

 ――――

 一行はアルテナの部屋で跳ね起きた。
 誰しもほぼ同時だったろうか。
 月はずいぶんと西へ傾き、カーテンの隙間から穏やかな光を差し伸べている。
 もうじき僅かな暁暗を経て、朝が来るだろう。

「無事か!?」
『みてえだが』
 Tricky・Starsは一行の表情に視線を滑らせる。皆、一様に険しい。

 微かな安堵と共に、得体の知れない焦燥が各々の背を駆け抜ける。
 誰かが言葉を飲み込む気配がした。
 だがどうしても確認しなければならないことがある。

 数秒の後に、誰かが口を開いた。
「とどめは、させたか……?」
 一行の一人一人が目を合わせ――けれど誰も首を縦に振ることが出来なかった。

 何が――
 一体なにが足りなかった。

 一体どこで、食い違っていた。

成否

失敗

MVP

ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れ様でした。

全員の方向性は正しかったかと思います。
あと一歩だったのではないでしょうか。

それではまた、皆さんのご参加を心待ちにしております。pipiでした。

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