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シナリオ詳細

<Sandman>せめて、私の仲間は

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●奴隷商人オハイオ
 ローレットたちの活躍により、奴隷商人たちは苦汁を飲まされていた。
「くそっ、苦労して手に入れた奴隷だってのに……」
 屋敷をあとにしながら、奴隷商人オハイオはぎりぎりと歯噛みした。
 もともとは香辛料の商人であったオハイオ。
 ディルクを見限り、オラクルについたはいいが、どうにもローレットに邪魔されてばかりである。このままでは、とっ捕まるのも時間の問題だ。
「なんとか深緑との戦争が現実のものになれば……大儲けやむなしだってのに……」
「どうしますか、オハイオ様。投降なされますか? オラクルの情報を持っていけば、いくらか追及の手心はゆるくもなりましょう」
 側近のリーフィングは麗しい幻想種である。奴隷の身でありながら、奴隷頭として、奴隷の教育係を請け負っていた。
 自身がオハイオに忠誠を誓ったのは、どれもこれも、仲間たちがこれ以上はひどい目に逢わないようにするためだった。
「奴隷どもに一気に反乱を起こされましたら、危ういかと思います。”トカゲ”を放てばいくらか時間稼ぎになるでしょう。……力の弱い女や子供は、解放するのはいかがでしょうか。彼らは戦力になりません」
「結局はお前も、奴隷どもの味方か、リーフィング」
 その通りだ。
 リーフィングにとって、仲間とは幻想種のことだ。
 仲間がいたずらにムチを打たれるのは見ていられない。自分がやるなら死なせないように加減ができる。だが、そのせいで同じ境遇の奴隷たちから恨まれているのも、また仕方ないことと思っていた。
(私は、ろくな死に方はしないだろうな……)
 リーフィングは自嘲した。
「とにかく、金になりそうなものを集めてここは撤退する。リーフィング、お前には」
「?」
「自由をやろう」
 ガチリと。
 首輪が、しまった。

●オハイオの屋敷
「すでにオハイオは屋敷から逃れ、新たな拠点へと経ったようなのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はぱたぱたと翼を振るわせる。
 ローレットの請け負った任務は、奴隷商人オハイオの屋敷の襲撃、そして奴隷の解放である。
「オハイオは最近、ラサで強い魔物を仕入れているそうなのです。なんでも、ものすごく大きいトカゲ型の魔物だとか。おそらく、そいつと戦いになるです。奴隷売買は許せないのです! やっつけてやるのです!」

 ふいに、これから乗り込もうという屋敷に、火が放たれた。
 叫び声が、屋敷から鳴り響いてくる。
 まるで怪獣の咆哮だ。
 窓が割れ、火が飛び散る。
 そして、かすかに。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
 それは、誰かの助けを求める声ですらなかった。

GMコメント


 こんにちは。幻想種大好き布川です!(ほんとかよ)
 奴隷商人の屋敷を襲撃する任務です。あれ、もう火が付いているぞ……?

●目標
 ”トカゲ”の撃破
 可能な限りの奴隷の救出

●状況
 オハイオの屋敷。
 ”トカゲ”が放たれ、時間稼ぎのために、奴隷たちはそのまま残されている。
 また、グリムルートの力により、操られたリーフィング(奴隷頭)が相対します。

●登場
奴隷×6(予想値)
 年若い、戦えない奴隷たちが中心のようだ。急に屋敷に火をつけられ逃げまどっている。
 幼い奴隷が一人、おびえてクローゼットに隠れている。
 また、リーフィングを案じて逃げられないものがいる。

使用人たち
 オハイオの側の使用人。
 火を放ち、ローレットの妨害をするが、逃げ遅れたものが数名いるようだ。
 奴隷売買の実行犯であることには変わりない。
 彼らをどう扱うかはローレットにゆだねられているだろう。

『ツインリッパー』×2
 退化した目を持つ巨大な爬虫類の魔物。通称”トカゲ”。
 二匹の魔物が、素早く床と天井を這いまわる。身体が細長く、人には通れない通気口を行き来したりする。
 舌で攻撃するほか、強烈な毒を持つ。敵味方の区別がない。

奴隷頭リーフィング
 女性の幻想種。
「私は奴隷頭リーフィング」
「あなたたちを先へ通すわけにはいきません」
 首輪の力によって操られている。
 近接ではレイピア、遠距離では魔法攻撃を中心に戦う戦士。
 正気を取り戻すには、首輪の破壊か戦闘不能にすることが必要。

●グリムルート
 かつて古代都市『砂の都』で流通していたとされる奴隷の首輪。
 装着されたものは命令に従い続ける。

●リーフィングが命令されたこと
・戦い、時間を稼ぐこと
・負けそうになったら???

●リーフィング
 同胞たちを多く手にかけたことで傷ついている。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <Sandman>せめて、私の仲間は完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年10月11日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
レオンハルト(p3p004744)
導く剣
飛騨・沙愛那(p3p005488)
小さき首狩り白兎
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを

リプレイ

●炎
「この火……証拠隠滅という事ですか? となると、証拠たる奴隷も一緒に……」
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)の目は、一瞬罪人たちの影を思い描き煌めいた。
「急がないとですね。火は数分で取り返しがつかなくなると言いますし……!」
「足止め含めた撹乱ですかー」
『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)の騎槍旗を持つ手に力がこもる。
「嫌なことに、よく頭が回るようでー」
 メリルナートの脳裏を、かつての苦い出来事がよぎる。
「燃え盛る炎の中での救出劇。うんうん、絵になる物語ですね」
『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)の瞳は、無機質に燃え盛る炎を映している。
 狂気に陥っているわけではない。殺戮が好きなわけでも。
 紡がれるものが英雄譚。ならば、楽しまなくては……ということである。
「どんな結末になるか楽しみです」
 ヒトの理からは外れ、味方する。
 スタンスは違えど、イレギュラーズの目的は同じだ。
「全く……無理矢理奴隷にして商売にする人達って酷い人達だよね!」
『小さき首狩り白兎』飛騨・沙愛那(p3p005488)は元気よく獲物を抜いた。
「私としてはそんな人達は首を狩られても文句はいえないと思うんだ! だから首を狩るね♪」
 あふれんばかりの無邪気な笑顔で、そう言ってのける。
「勿論、奴隷の人達は助けるよ! それが正義の「首狩り白兎」のやる事だからね!」
 ……轟音。誰かの悲鳴。
 ネーヴェ(p3p007199)の耳は鋭い。絶え間なく、音が聞こえる。
 心地の良いものではない。けれど、逃げない。そう決めた。
「助けよう!」
『放課後のヴェルフェゴール』岩倉・鈴音(p3p006119)は大盾を掲げる。
「奴隷頭は解放、奴隷たちも救い出す。一人でも多くだ……!」
『断罪者』レオンハルト(p3p004744)は斬首剣を強く握りしめた。
「奴隷の……幻想種の人達は、必ず全員助け出なきゃ」
『正なる騎士を目指して』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)は勇敢に炎に立ち向かう。
「騎士としても、だけど。奴隷として連れ去られて、こんな場所でそのまま……だなんて。そんなの絶対にダメだから……!」

●時間、一刻と
 風の向き。
 肌寒い日。空気は少し湿っている。
 喧噪の最中、鈴音は進むべき道を見つけ出した。
(屋敷は既にもぬけの殻、ですねー)
 メリルナートは素早く視線を走らせる。
 優先するべきは捕まった幻想種の救出。
 利香は、敏感に敵の気配を感じ取る。
 エネミーサーチ。屋敷に蠢く化け物の気配。シャルティエと鈴音は、油断なく通気口を警戒する。
 壁を伝い地を這う、大きな生き物。
 四音の聴覚が音をとらえた。利香と顔を見合わせる。……まだ、遠い。
 シャルティエとネーヴェは、助けを求める声を聞く。
 燃え盛る炎によって、道は崩れ落ちる。
「えいっ」
 沙愛那のキックが道を拓いた。
 火の粉がばらばらと落ちてくる。シャルティエが素早く庇う。動けなくなっていた奴隷だ。ケガを負いながら、シャルティエは微笑んだ。
「大丈夫! 騎士の名にかけて……きっと皆、お救い致しますから!」
 安心するような笑みである。
「大丈夫、もう安心だから」
 沙愛那は優しく救出対象の頭を撫でる。机の下に引っ込み、隠れていたもう一人にも気が付いた。
 だが、こちらは使用人である。
 ジャバウォックを振り上げる。
「? 生かしておく理由あるの? だって悪い人達なんだよ?」
 その時だった。
「来ます」
 利香が素早く警告をする。
 風の気配が廊下を駆け抜けていった。
 リーフィングだ。

●相対する者
(隙をみせるなバックアタック警戒だ)
 突出せぬよう、鈴音は布陣の中央から見はからっていた。トカゲの警戒も怠るわけにはいかない。
「この火付けどもが」
 鈴音は眼光鋭く、腕組みしながら使用人を睨みつける。
「商品とて丁寧に扱うもんだろ。この緊急時に階級など関係ない! 負傷者連れてさっさと逃げろ」
「ひい……」
「運が良かったですね、とっとと失せてください。さもなくば……」
 利香は火中を指さした。
「行け」
 レオンハルトが告げ、鋭い目を向ける。
「邪魔をするならタダではおかん。隅で震えていろ」
 使用人は泡を食ったように逃げていく。あとでしかるべき処断を受けるだろう。
 奴隷は、逃げるには幼すぎた。四音が抜け目なく隊列に加え、ぽんぽんと肩を叩く。
「……必ず他の人も、リーフィングさんも助ける」
 シャルティエは、自らに言い聞かせるように言った。

(向こうも時間稼ぎをしたいのなら、わたくしたちを野放しにはしておかない、でしょう)
 ネーヴェは構える。
 リーフィングは鈴音を睨んだ。
 ……指揮を執っている。落とすならあそこか。
 だが、鈴音は、隠れはしない。堂々と受けて立つ。
 神子饗宴。己の生命力を燃やし、仲間を鼓舞する。
(アタシが立っていることで誰かの命中が上がる。そう言うことに幸せを感じるんだ)
 リーフィングは鈴音を狙い、風魔法を飛ばす。
「させないわー」
 魔力の奔流。
 メリルナートが大きく戦線を押し戻した。絶望の海を歌うその声は、まさに人魚にふさわしい。
 蒼海の加護が、メリルナートに力を貸してくれる。
 連撃だ。今度は足を狙ってのアブソリュートゼロ。
 氷塊が砕け散る。
「沙愛那ちゃん★キック!」
 沙愛那は堂々と名乗りを上げ、戦線に姿を現した。
 シャルティエが、盾を構えて振り下ろす。イレギュラーズたちはまたたくまに迎撃態勢をとっていた。
「……なるほど あれが例の首輪ですか」
 利香は首輪を睨んだ。
(例の首輪がある以上、解放するには壊すしかない)
 シャルティエは相手の攻撃を受け止め、思案する。
 追い詰めたら危険な行動に出るかもしれない。
 ……素早く倒さなくてはならない。
(洗脳と言えど相手の思考を超える事はないでしょう)
 利香はふらりと前に出る。夢魔の口づけが不意をついた。
 妖艶に微笑む目の前の少女は、華奢で無力な人間ではなかった。
 リーフィングの動きが鈍る。
(……この世に絶対の支配など、ないはずだ)
 レオンハルトは、Pledge・Letterを構える。
(果たして我がエスプリと専用に改良した技、グリムルートに通じるか?)
 レオンハルトの攻撃は、重い。重い一撃は通常であれば大振りで、大きく隙を作るはずである。しかし、処刑人として研ぎ澄まされたレオンハルトの攻撃は正確無比だった。
 リーフィングが小手先で回避しようとしても、だ。急所に一撃を食らえば即座に終わる。だから、容易くあしらうことはできない。
「罪の意識に苛まれているか? 今の境遇を罰と思っているか?」
 鋭い剣戟がほとばしる。
 落椿。それは、狙いすまして罪人の首を落とすための技。首輪を狙い、今は解放のための一撃となる。
「救えるものなら救いたい。そう思う方が多いのですよね」
 四音のメガ・ヒールが、沙愛那の傷を癒した。
「ありがとう!」
「そんな皆さんのお手伝いができて私は嬉しいですよ。頑張って治癒させていただきますね」
 不意に。
 リーフィングの意識の外から、ネーヴェの奇襲が決まった。

●揺れる
「許し合えるんじゃないか?」
 処刑人の刃は、どうして優しいものなのだろうか。
「俺では寿命が短くて、証明できないが……お前たちハーモニアの長い人生なら、いつか本当に許し合えるんじゃないか?」
 殺意のない攻撃。憎しみではない視線。
 ただ、レオンハルトのその刃のみが語る。
 人数に差がある。
 殺そうと思えば、殺せるはずだった。
 けれど、イレギュラーズたちはそれをしない。
「……リーフィングさん、私は皆みたいに甘い言葉は言わないよ」
 沙愛那は刃を振るいながら、語りかける。
「事情はどうあれ貴女は悪い事をした……その罪は償うべきだよ……償い方法は任せるけど」
 沙愛那の声は優しい。
 少なくともこの相手は首を狩る相手ではない。そう判断していた。
 沙愛那のジャバウォックは軌道を変える。
 剣魔双撃。
 大きく首輪の留め具が揺れた。
 と、地面が揺れる。
「間の悪い」
 利香が言う。
 トカゲが一匹。戦場へとやってきた。
「一旦、後ろへ」
 鈴音は巧みに戦場を壁際へと誘導する。
 不意打ちは避けた。戦線は崩れていない。
「とっととシラフに戻りな。アタシにはまだ奴隷を助ける仕事があるんだ」
 利香はわざと突出し、双方の攻撃を引き付ける。
 傷ついた仲間を、メリルナートのミリアドハーモニクスがたちまち傷を癒していく。
 シャルティエがトカゲとリーフィングの間に立ちふさがる。
「邪魔をするな!」
 大声をあげるが、冷静だった。
 レオンハルトはリーフィングを相手取りながら、相手を観察していた。
(さて、こいつらの目は退化、ならば他の何で周囲を見ている……!?)
 鋭く踏み込み、トカゲ意識をずらす。音や振動に反応するか。動くものをとらえる、生物の反射的な反応。息遣い。
 敵を引き付けたことで、怯え、震えている奴隷から、狙いがこちらに向いた。
「ピンチがなくては、面白くありませんからね」
 四音は天使の歌を歌い出した。
 ネーヴェが、首輪に手を伸ばす。
 暴れ狂うトカゲの攻撃。
 シャルティエは庇った。
 リーフィングをも守る。守りたい。そう思ったからだ。
 どちらも。誰も彼も。助けられる人たちは、全部。助けたかった。
 狙いすました、レオンハルトの一撃。
 あと僅か。
 その時だった。
 リーフィングの動きが変わる。
 命令は、証拠の隠滅。
 リーフィングは激しく苦しみ、攻撃の軌道を変えた。
「させないわー」
 メリルナートのアブソリュートゼロが動きを阻害する。
 ここまで来たのだ。
 悲劇になど、させてたまるものか。
 利香がトカゲの攻撃を引き付ける。
 鋭い毒が体をさいなむ。
 その前に、鈴音がエンピリアルアーマーを仲間たちに貸し与えていた。だから、致命傷とはならない。
 リーフィングの狙いは、仲間である奴隷である。
 自らの意思によるものではない。
 奴隷が怯えた表情を浮かべる。
 利香のノーギルティが、首輪を打つ。
 トカゲが、猛然と牙をむく。

 リーフィングが罪を犯す前に、沙愛那が走った。

 リーフィングとトカゲが倒れたのは同時。
 トカゲにトドメを刺したのはレオンハルトだった。
 ネーヴェは止血のため、リーフィングの首に手をかける。
 リーフィングは仲間を見た。怯えきった少女。だが、無事だ。
 ネーヴェは叫んだ。
「貴女がいたから、命を落とさずに済んだ方がいる。貴女がいるから、命を救われる方が、まだいるのです」
 小さな体で、とめどなくあふれる血を止めようとした。
「ここで立ち止まらないで。貴女にはまだ、仲間を救う力があるのです、から!」
 手を握る。
 暖かい。リーフィングは思った。
「あの時のわたくしは、無力で。"あの人"を救うどころか、その生死を確かめにすら、行けなかった。けれど、貴女は違うのでしょう?」
「私は……もう少しで仲間を……」
「そうはならなかった」
 レオンハルトは跪く。
「罪と憎悪に目を曇らし続けないでくれ。暗い目は深緑に似合わない」
 レオンハルトの言葉に、リーフィングは僅かに微笑んだ。
「あなたも」
 ネーヴェの瞳に、何かを見たのだろうか。
「あなたたちは、きっと、もっと遠くまで、走るんだろう……」
 首輪が床に落下する。
 イレギュラーズたちの活躍により、リーフィングは仲間を手にかけることはなかった。
 最大の悲劇は回避できた。
 レオンハルトが目を閉じさせ、そっと横たえる。
「安らかに」

●仲間たちを
「あまりリーフィングを責めすぎないように……」
 レオンハルトは奴隷をなだめた。
「彼女は、それしか方法はなかった」
 強く首輪を握りしめる。奴隷は大きく頷いた。
 イレギュラーズたちは二手に分かれることとなった。トカゲを引き付ける役と、奴隷たちとの救助に回る役。
「毒は抜いた」
「はい、完璧に。これでまた動けますね」
 鈴音と四音が手当てを終え、顔をあげる。
 動ける。
 動かなくてはならない。
「まだ、まだやることはある」
 シャルティエは前を向く。
「……クラリウス様。ご健闘を、祈ります」
 ネーヴェとシャルティエは視線を交わす。
「……ネーヴェさんも。どうか、お気をつけて」
 まだ、戦いは終わっていない。
 生存者を取り戻しに行く。

「やあやあこれは、はずれですね」
 四音は言った。
 部屋には使用人たちがいた。
 圧をかけ、奴隷たちの場所を尋ねる。震え上がった使用人は、呆気もなく情報を吐いた。
「では、この耳で得た、耳寄りな情報を皆さんにお伝えしましょう」
 四音は自分の側頭部をコツリと指さす。
「耳だけに。ふふふ」
 トカゲはいない。もう一方の組が引き付けているのだろう。
 助けを求める声と、使用人たちから得た情報を頼りに、イレギュラーズたちは焼け落ちる屋敷を駆け抜けてゆく。
「助けに来ました、よ。いらっしゃいますか……?」
 ネーヴェはしぃと人差し指を当てる。
「トカゲが、来てしまうかもしれません、から」
 物音をひそめ、救助対象を庇うように、前へと出る。もう一人。この部屋にはもう一人いる。
 クローゼットが揺れた。
 鈴音は躊躇なくクローゼットの鍵を壊す。多少の自分のケガなど、構うものか。
「立てる? おいで」
 少女はやけどを負っている。
 四音が傷を癒した。
 もう、助けを呼ぶ声は聞こえない。
「今の方で、さいごです……」
 ネーヴェが告げる。
 もう一方は無事にやっているだろうか。

●もう一つの戦い
「来たか……」
 シャルティエ。そしてレオンハルト。沙愛那とメリルナートの前に、トカゲが現れた。
 トカゲは一匹。
 救出班に配慮し、引き付けることを選んだ。
「ちょっぴり、八つ当たりに近いかもしれませんけれどー」
 メリルナートが構える。
「通すわけにはいかないな」
「はい。守ります」
 シャルティエは立つ。堂々と立つ。
 まだ、この後ろには守るべき者たちがいる。
「首狩り兎の名にかけて」
 沙愛那は武器を構え、素早く相手の懐に飛び込んだ。
 首を狩り血を啜れ。
 トカゲの牙の攻撃をかいくぐり、下から突き上げるように斬り払う。牙で受けた攻撃の分、お返しだ。
 相手からも生命を得る。
 不足分は、メリルナートのミリアドハーモニクスが補う。
 戦える。
 まだ、戦える。
 レオンハルトは、狙いすまして落椿を放った。鱗が剥がれ落ち、トカゲは苦しそうに呻いた。
 二度目の相手。
 相手の動きは分かっていた。
「足りないか、ならば……」
 首を狙う。
「生きて帰るというありふれた誓いでさえ、果たすには他者の命を代価とする」
 レオンハルトの頭に、ふと、誰かの言葉が浮かんだ。
「忘れるな、それが戦場だ」
 同じく、首を狙った沙愛那の一撃。
 同時に決まった。
 メリルナートの一撃が、トカゲを氷の彫像に変えた。
 首を落として。
 そして、砕け散る。

●脱出
「クラリウス様」
「……ネーヴェさん」
 屋敷から脱出したイレギュラーズは、ほどなくして合流する。無事に屋敷から脱出できたようだ。
「やるだけはやったかな」
 鈴音が選ばなかった脱出経路は、一足早く焼け落ちている。判断ひとつ間違えば、もっと大きな損失を出したはずだ。
「また会いましたね」
 四音は先に逃がした使用人たちに笑顔を向ける。使用人はひきつった顔をした。
「ふぅ……」
 利香は息をつく。
「奴隷たちは、……これで全員か」
 レオンハルトは脱出できた人間を見回した。奴隷たちの数は、8名。
 予想よりも多かった。最大限を助けたのだ。
 奴隷の一人が歩み寄ってきた。
「りがとう……」
「大丈夫だよ! 「首狩り白兎」は、こんなところで死んだりしないからね!」
 沙愛那はずいぶん消耗してはいたが、それでも笑顔を向けた。
 メリルナートはすっかり姿を変えた屋敷を見上げる。
 豪華な屋敷だったのだろう。
 そして、誰かの犠牲で成り立っていた。
 シャルティエは強く掌を握りしめた。
「クラリウス様……」
「すみません。でも、悔しくて……助けられたんじゃないかって……」
 ネーヴェは目を伏せた。
 助けたかった。
 命を賭してでも。
 だが、リーフィングの顔は安らかだった。
 誰も、手にかけずに済んだ。
 仲間たちの無事こそ、彼女の望みであったろう。
 炎は屋敷を包み込む。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

リカ・サキュバス(p3p001254)[重傷]
瘴気の王
レオンハルト(p3p004744)[重傷]
導く剣
飛騨・沙愛那(p3p005488)[重傷]
小さき首狩り白兎
岩倉・鈴音(p3p006119)[重傷]
バアルぺオルの魔人
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)[重傷]
花に願いを

あとがき

燃え盛る屋敷からの救出作戦、本当にお疲れ様でした!
”トカゲ”の撃破。そして、可能な限りの奴隷の救出。
厳しい状況の中、どちらも見事に果たし依頼は成功です。
リーフィングの生死について、判定に迷ったところもありましたが、もともと、かなりの確率で救えないNPCでありました。
最悪の場合は仲間をその手にかけていたことでしょう。
起こりうる悲劇を未然に防いだイレギュラーズのみなさんは、間違いようもなく英雄です。
今はゆっくり体を休め、機会がありましたら、また一緒に冒険いたしましょう。

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