PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Sandman>乙女の心、砕きし闇

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●檻の中
 闇の中に、囚われの幻想種の少女が五人。薄く粗末な服を着せられ、両手は手錠で拘束されている。年の頃は様々らしく、子供と変わらない者から大人と言ってもおかしくない者までいる。その表情は、程度の差こそあれ不安と恐怖と絶望に囚われていた。
 五人の中で最年長の少女リーブラは、ここに放り込まれた時の男達の言葉を思い出す。
「へへっ、肉付きは薄いがいい身体してやがる。これなら、高く売れるだろうよ」
 男達の下卑た表情と言葉から想起される未来に、リーブラは震えた。慰み者になるくらいならいっそ舌でも噛もうかとも考えたが、それだけの勇気はリーブラには無かった。何より、同じような運命が降りかかるであろう年下の少女達を前に、自分だけさっさと死んで逃げる事は出来なかった。
 だが、ここに連れてこられて何日経ったのか、その感覚さえとうに失われている。年下の少女達の心を気丈に支えてはいたが、リーブラの精神もまた限界に近づいていた。
(……誰か、誰か。助けてよ……! 私、売られたりなんか、したくない……!)
 叶うはずが無いとわかっていても、そう願わずにはいられない。他の少女達には見られないように、リーブラはボロボロと大粒の涙を流した。

●警備、強化
「オークションの警備、しっかり頼むザマスよ」
「ああ、任せとけ。その代わり、払うモンはしっかり払ってもらうぜ」
「それはもちろんザマス」
 傭兵首都、ネフェレスト郊外の何の変哲も無い一軒家――に偽装した、奴隷オークション会場。数日後に開かれる奴隷の競売に向け、でっぷりと太った商人が、虎、狼、熊、猪の獣種の傭兵達に警備を依頼していた。
(オークションが無事に終われば、こいつらに払う報酬など安いものザマス。余所では「仕入れ」が妨害されたようザマスが、逆に言えばそれだけ「在庫」が希少になったと言うことでもあるザマス。ディルク派にもローレットにも、今回のオークションの邪魔はさせないザマスよ!)
 瞳に昏い欲望を湛えながら、商人は来たるオークションに思いを馳せた。

●ローレットへの依頼
 『ザントマン事件』では、ローレットの協力もあり多数の幻想種奴隷が救出された。さらにその後の傭兵の全体合議で、傭兵はディルク派とザントマンことオラクル・ベルベーグルス派に別れた。
 深緑との関係を破棄して侵略を宣するオラクルの派閥を一網打尽にするべく、ローレットにも様々な依頼が寄せられている。
「――それで、今回の依頼なのですが、オラクル派の商人が開く奴隷オークションから幻想種の少女を救出して欲しいのです」
 それらの対応にてんてこまい、と言った様子の『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、目の前にいるイレギュラーズ達に依頼の説明を行う。
「オークションが開かれるのは、三日後の深夜。場所は、地図を用意したので見て欲しいのです。幻想種の少女は五人いて、彼女達の安全が最優先なのです」
 少女達が無事に救出されるなら、方法は任せるとユリーカは言う。オークション参加者を装って潜入してもいいし、一気に急襲してもいい。
「ただ、向こうもこちらが動いてくると読んだのか、最近獣種の傭兵を雇ったようなのです」
 獣種の傭兵は虎、狼、熊、猪の四人。それに加えて元々の商人の配下十名ほど。幻想種の少女を救出するに当たって、彼らとの戦闘は避けられないだろう。
「ですが、皆さんなら敵わない相手ではないはずなのです。囚われている少女達を解放するためにも、よろしくお願いするのです」
 ユリーカは、イレギュラーズ達に向けてぺこりと頭を深く下げた。

GMコメント

 こんにちは。緑城雄山です。
 PPP2本目のシナリオは、全体シナリオのうちの1本となります。
 奴隷オークション会場から、商品とされている幻想種の少女達を救出して下さい。

 以下、詳細です。
 長くなってしまっていますが、しっかりと目を通して頂ければ幸いです。

●成功条件
 幻想種の少女5名の保護

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●オークション会場
 広い一軒家に偽装しています。中はガランとしたホールのみになっていて、その奥に1m高くなっているステージがあります。
 ホールの幅は30m、奥行きは45mです。
 ステージの幅はおよそ20m、奥行きは5mです。
 高さは10mあるため、飛行は可能です。
 ステージの下はオークションの客で混雑していること、少女達はステージの上にいることから、主戦場はステージになると予想されます。

・中への進入経路
 玄関か、左右それぞれ2カ所の窓からとなります。
 玄関には受付とボディチェックの配下計2名がいます。強行突破は出来ますが、ここからステージまでは45mあり、その上で客をかき分けて行かなければなりません。一度に2人中に入れますが、ステージへの到着にはどんなに機動力があっても最低でも2ターンを費やします。
 窓は鎧戸で覆われていますが、叩き壊せば一度に人1人、問題なく中に入れます。ステージから15m、30mのところに左右1つずつあります。玄関よりは近いですが、ステージへの到着にはどんなに機動力があっても最低でも1ターンを費やします。
 なお、飛行が可能であれば客をかき分けていく必要が無いため、玄関からでも窓からでも通常の機動力によってステージに到達することが出来ます。

●獣種の傭兵 ✕4
 熊以外は頭が獣で、首から下は人間と変わりません。熊は完全に獣の姿をしています。
 獣種の例に漏れず、「超反射神経」を持っていますので不意打ちは出来ません。
 ステージの袖に控えており、イレギュラーズ達が現われたらステージに飛び出してきます。
 以下、それぞれの特徴について説明します。

・虎
 高い水準でバランスの取れた能力を持ちます。
 攻撃手段は、以下の2つです。
  牙(物至単/失血)
  斧(物至単/連、必殺)

・狼
 スピード寄りの能力を持ちます。
 命中、回避は高いですが、その分攻撃力、防御力はやや劣ります。
 攻撃手段は、以下の2つです。
  牙(物至単/流血)
  剣(物至単/連、ブレイク)

・猪
 パワー寄りの能力を持ちます。
 命中、回避は低いですが、その分攻撃力、防御力には優れています。
 攻撃手段は、以下の2つです。
  突進(物至単/致命)
  槍(物至単/連、崩れ)

・熊
 完全なパワー型で、高い攻撃力とタフネスを持ちます。
 攻撃手段は、以下の2つです。
  薙ぎ払い(物至列/弱点)
  ベアハッグ(物至単/防無、瞬BS、失血)

●商人の配下 ✕10
 戦闘力は大したことはなく、能力も目立ったものはありません。
 8人がステージの袖に、2名が玄関にいます。
 攻撃手段は、毒の塗られたダガー(物至単/毒)です。

●オラクル派の商人
 戦闘力はありません。
 オークションが失敗した時点で商人としては失墜するので、依頼でも彼の処遇については触れられていません。彼を如何するかは完全にイレギュラーズ達に任されます。

●幻想種の少女達 ✕5
 救出対象の少女達です。年齢は様々。
 ずっと闇の中に監禁されていたため、精神的に消耗しきっています。イレギュラーズ達が乗り込んだだけでは、助けが来たとは認識出来ずその場から動こうとはしないでしょう。
 イレギュラーズがステージに登った上で何らかの言葉をかければ、その内容次第では絶望から解放され自発的な行動が可能になるかもしれません。

・少女達が人質にされる可能性について
 獣種の傭兵が一人でも戦闘可能であるか、少女達が自発的に行動可能になっていれば考える必要はありません。
 獣種の傭兵達は彼らなりにプライドが高く、自分が戦える状態でそう言うことをされるのを嫌います。彼らのその気性は商人達は重々承知していますし、イレギュラーズ達
もユリーカを通して知らされています。
 少女達が自発的に行動可能であれば、彼女達は戦闘に巻き込まれないようにステージの袖に下がっていきます。
 逆に言えば、この2つの条件のいずれも欠けていると、戦況次第ではその危険性が跳ね上がると言うことでもありますのでご注意下さい。

●オークション会場への潜入
 客とその護衛と言う立場を装い、予め会場に潜入することは可能です。しかし、玄関でボディチェックを受けるため、持ち込める装備が限られます。

・武器
 ショートソード以下のものを上手く隠匿する必要があります。成功するかどうかは、武器の大きさと隠匿の手段によって変わってきます。
 ロングソード以上になると、不可視にでもなっていない限り見つかってしまい、NGを出された上に警戒を強化されてしまいます。

・鎧、盾
 それぞれ、革鎧、ミディアムシールドくらいなら護身用としては普通としてチェックをパスします。
 金属鎧、ラージシールド以上になると、護身用としては大仰すぎるとしてNGを出された上に警戒を強化されてしまいます。

・潜入の利点
 予め会場に潜入する利点として、会場内の好きな位置に陣取ることが出来ます。
 例えば、ステージのすぐ側に陣取っておいて、他のメンバーが玄関や窓から入ってくると同時に自身はステージの上に上る、と言うことが可能になります。


 大変長くなってしまいましたが、奴隷とされた幻想種の少女達を救出して下さるイレギュラーズの皆様の活躍に、期待しております。

  • <Sandman>乙女の心、砕きし闇完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月10日 21時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オフェリア(p3p000641)
主無き侍従
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
コロナ(p3p006487)
ホワイトウィドウ
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
カナデ・ノイエステラ・キサラギ(p3p006915)
帰ってきたベテラン
マナ・板野・ナイチチガール(p3p007516)
まな板最強説

リプレイ

●客を装っての潜入組
「玩具を新調しようと思っていてな。ハーモニアのガキどもを『いただきに来た』」
 如何にも悪徳商人と言った態で、護衛を装い側に付き従う『寝湯マイスター』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562) に意味ありげな視線を向けながら、『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)は用件を受付に告げる。
「ああ、わかった……こんなに早く来るなんて、気合いが入っているな」
「いい場所を取りたいからな」
「なるほどな。じゃぁ、好きな場所で待っててくれ」
 簡単なボディチェックを済ませたウィリアムとハロルドは、中の広いホールに通された。
(ラサとは長いご近所付き合いだった。そりゃあ悪くなる所も幾つか出てくるよね。……うん、大丈夫。気にしてないよ。むしろ良かった。これで敵がはっきり分かったから、後は潰して同胞を取り戻すだけだね。さあ、頑張ろうか!)
 目立たないように沈黙を保っているウィリアムだったが、その内心には確固たる意志が秘められていた。

 次いでこのオークション会場に現われたのは、『noblesse oblige』ガーベラ・キルロード(p3p006172) 。
「私はキルロード家のガーベラ・キルロードですわ。少女達を(救出して保護する為に)貰いにきましたわよ」
「キルロード家のガーベラ嬢か。話は聞いてるぜ」
 独自の人脈を駆使し、客として参加する意向を伝えていたガーベラは、話は通っているとばかりに一応のボディチェックを経てすんなりと中へ通された。
(……全く、どこの地域でもそうですが人の命を何だと考えてるのですわ。民を無理矢理捕まえ、奴隷として売り捌く……虫唾が走りますわ)
 嫌悪を笑顔の下に隠しつつ、ガーベラは商人を容赦なく叩き潰し、幻想種の少女達を救出すると意を新たにしてその時を待つ。

 少し間を置いて、『ホワイトウィドウ』コロナ(p3p006487)と『帰ってきたベテラン』カナデ・ノイエステラ・キサラギ(p3p006915)も会場への潜入を試みる。
「信仰の奴隷を探しに。私の右腕になれる子が見つかるといいのですが」
「信仰の奴隷……?」
 奴隷オークションにはとても似つかわしくない、聖女然としたコロナの姿と言葉に受付は訝しむ。
「要は奴隷を買いに来た客、という事よ。はい、これは心付け。お役目、お疲れ様ね」
 だが、カナデが自身の身体に密着させるように受付の腕を取り、掌に賄賂を握らせると、受付の態度はあっさりと軟化して中へ通された。
「人身売買とはね……私のように未来を売ったわけじゃないし、奴隷商売には反吐が出るわ」
 最前列の位置を確保したカナデが、吐き捨てるように独語する。
(……自由を奪い、浚い、操り、傷つける。異端の極みここにあり、ですね。我が心、一時偽れども纏めて浄化のため――神よ、お許し下さい)
 口に出して応じこそしないものの、コロナも想いは同じだった。

●窓の外の待機組
「……奴隷のオークションなど、悪趣味なものですね」
「社会の裏側を覗いている、という感じね。闇は生まれるものだけど……少なくとも、幻想種の少女達はあちら側にいるべきではないわ。元の場所に返してあげないとね」
「ええ、そうですね。そして、商人にも傭兵にも、こんな仕事をしたツケは払ってもらいましょう」
 窓から中を覗き込みつつ、『主無き侍従』オフェリア(p3p000641) と『黒陽炎』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701) がひそひそと言葉を交わす。
 ステージにはまだ誰もいないが、ホールの中は幻想種の少女を飼えるチャンスがあると知ってオークションに参加する客でひしめき合っていた。

 オフェリア達と反対側の窓では、『まな板最強説』マナ・板野・ナイチチガール(p3p007516)が主人であるガーベラとのやりとりを思い出していた。
 胸くそ悪い敵、厳重な警備……面倒くさいが本当にやるのかと問うてみたが、主人の返答が変わるはずはなかった。となれば、キルロード家が擁する暗殺集団「キリングロード」の一員たるマナとしては、.やるしか無い。 
「忍者として、ちょっくらお仕事頑張っちゃいますか」
 パァン、と左右の頬をはたいて、マナは気合いを入れた。

●作戦、開始!
「えー、長らくお待たせしました。こいつらが、今夜の商品です」
 むせかえる熱気の中、商人の配下が幻想種の少女達をステージの上に連れてくる。少女達は首輪をかけられ、手錠で拘束され――その瞳からは、希望という光が失せていた。配下が乱暴に首輪を引くと、抵抗する素振りは全く無く、されるがままに引っ張られる。
(……今だ!)
 少女達五人がステージの中央に並べられたタイミングで、ハロルドはサイリウムを振りつつステージへ駆け登る。それを合図にして、イレギュラーズ達はステージの下から、あるいは窓を突き破って、ステージへと殺到した。
「強制査察よ! 違法な取引があったとラサから依頼が出てるわ! おとなしく縛につきなさい!」
 カナデが変身バンクで装備を調えつつ、ステージの上で高らかに告げる。参加客達はざわめくが、商人は予想していたとばかりにステージの袖で叫んだ。
「来たザマスか! 皆さん、お願いするザマスよ!」
「どれ、任せておけ」
 商人呼びかけに応じて、左右の袖から獣種の傭兵と商人の配下達がわらわらと現われた。

「これは、挨拶代わりッス!」
 ステージに現われた熊の傭兵の頭に、マナの電光石火の蹴りが直撃する。頭を強かに蹴られた熊の傭兵は大きく仰け反ったものの、反撃とばかりに両腕でマナを捕らえてきつく締め上げる。
「うぐぐっ……がはっ」
「大丈夫か!?」
 マナが口から吐血したのを見て、危険な状態と判断したハロルドは闘気を込めた癒やしを施す。
「た、助かったッス~」
 回復したマナは、熊の傭兵のベアハッグから如何にか抜け出した。
 一方、アンナは狼の傭兵と虎の傭兵の足を止めにかかる。
「あなた達の相手は私。しばらくダンスに付き合ってもらうわ」
「くっ、こいつ……!」
 舞うような動きに翻弄される二人はそれぞれの得物でアンナを攻撃するが、狼の傭兵がかすり傷を負わせるに留まった。
「あなたたちの所業もここまでです。潔く罪を悔いなさい!」
 コロナは商人の配下達に向けて長剣を振り下ろし、神聖なる光を浴びせて三人を瞬く間に戦闘不能に追い込んだ。
「さて、正義の味方という柄ではないのですが……悪党は退治させてもらいましょうか」
 次いでオフェリアが絶望の海を歌う声によって、商人の配下達をさらに三人撃破する。その間に、カナデもマギシュートで玄関から駆け寄ってくる受付の一人を倒した。
「……奔れ、雷」
「うがあああああっ!」
 ウィリアムはのたうつ蛇のように荒れ狂う雷撃を、熊の傭兵と猪の傭兵に直撃させてその身体を焦がす。熊の傭兵はそれでもまだ余裕という風であったが、猪の傭兵にとっては大きな痛手となった。その猪の傭兵はハロルドを槍で突こうとするが、ダメージのせいか動きに精彩が無く、攻撃は回避された。

●心を、呼び戻す
「オーホッホッホ! 私達はローレットの者達ですわ! 貴方達を助けに来ましたの!」
 戦闘を避けるようにして幻想種の少女達に接近したガーベラは、高笑いを上げながら少女達に声をかける。しかし、少女達は心ここにあらずと言った風で、ただ刺激に反応しただけのように顔をガーベラの方に向けるだけだった。
「貴方達がツライ状況にあり続けたのは重々承知してますわ。ですが、貴方達が自分を取り戻して動いてくれなければ、救出も困難になりますわ」
 少女達の心を呼び戻そうと、ガーベラは必死に訴えかける。
「少し騒々しくて申し訳ありませんが、もう怯える必要はありませんよ。何があろうとも必ずや、あなた達を無事に帰してみせましょう」
「遅くなってごめん。よく頑張ったね、もう大丈夫だよ。どんなに暗い闇夜でも、明けない夜は無いのさ。一緒に帰ろう。僕達の深緑へ!」
「この戦いが終わったら、傭兵団の偉い人があなたたちを元の場所に送り返してくれるわ」
 ガーベラに協力するかのように、オフェリア、ウィリアム、カナデが口々に少女達に呼びかけた。
(私達……帰、れる、の……?)
 水面に水滴が落ちて波紋が広がるように、イレギュラーズ達の言葉は幻想種の少女達の心の中に拡がっていく。
「だから勇気をだして! 行動して! 大丈夫、私が絶対に守りますわ!」
「……本当に、助けに来てくれたの?」
「私達、帰れるの?」
「……絶対に、守ってくれる?」
 ここぞとばかりに畳みかけるようなガーベラの訴えに、少女達は細々とした声ではあるが口々に問う。
「もちろんですわ! ですから、今は戦闘に巻き込まれないところにいて欲しいんですの」
「わかったわ……みんな、あっちに行くよ」
 最年長の少女リーブラが呼びかけると、幻想種の少女達はゆっくりとではあるがステージの袖に退避していった。

●イレギュラーズの攻勢
 ガーベラが幻想種の少女達に呼びかけている間にも、戦闘は続いていた。
 マナはフェイントを交えて狼の傭兵をまな板で殴ろうとするが、これは惜しくも見切られてしまう。
「行くぜえっ!」
 熊の傭兵のベアハッグを回避したハロルドは、戦いに昂ぶりつつ反撃に光速の斬撃を浴びせる。熊の傭兵の肉がザックリと裂け、ボタボタと血が流れ落ちる。だが、まだ致命傷には遠いようであった。
 狼の傭兵と虎の傭兵は引き続き足を止めてくるアンナを攻撃する。狼の傭兵の攻撃は回避されたものの、それで隙が出来たか虎の傭兵の牙がアンナの肩口を噛み千切った。
「人質を取るのが嫌なくらいなら、そもそもこんな仕事受けなければ良いのに」
 苦痛に顔をしかめながらも、アンナは狼と虎の傭兵の足を止め続けつつ、問うように呟く。
「それとこれとは話が別だ。相応の金が出るなら、俺等は仕事を選ばねえ。だがな、俺等がいるのに人質を取るなんてのは、俺等の力が信用されてねえってことだろうが」
 理解は出来そうに無いが、ある意味傭兵らしい答えだ、とアンナは思った。
 オフェリア、コロナはそれぞれレジストパージで、共に商人の配下を撃破。さらにカナデが再度のマギシュートでもう一人の受付を仕留める。これで、商人の配下達は全員戦闘不能となった。
 ウィリアムも再度チェインライトニングを熊の傭兵と猪の傭兵に向けて放ち、強かにダメージを与える。猪の傭兵は生命力の大半を失い、熊の傭兵の動きにもダメージが目に見えて出始めた。

 猪の傭兵のダメージが大きいと見たマナは、音速の蹴りを放って仕留めにかかる。
「ぐうえっ……」
 鳩尾に直撃を受けた猪の傭兵は反吐を吐き、次の瞬間にはどさりと前のめりに倒れた。熊の傭兵は仲間の仇とばかりにマナにベアハッグを仕掛けて締め上げる。だが、マナを救出するかのようにオフェリアがレジストパージを、ハロルドが閃光を、コロナがダストトゥダストを立て続けに熊の傭兵に浴びせたため、さしたるダメージを受けることも無くマナはベアハッグから脱出した。
「一気に、畳みかけるよ」
 ウィリアムは破城天鎚(偽)で、不可視の衝撃を熊の傭兵に叩き付ける。
「ごああっ……!」
 ステージに打ち据えられた熊の傭兵は、満身創痍となりながら、それでもなおよろよろと身体を起こして戦意を示した。
 アンナは、引き続き狼の傭兵と虎の傭兵の足を止め続けている。虎の傭兵の牙を回避するも、狼の傭兵の剣までは避けきれずに肩口をザックリと斬られた。だが、その程度は効いていないと言わんばかりに、アンナは二人の前で舞い続ける。
 カナデはマギシュートを熊の傭兵に放つが、これは避けられてしまう。しかし、その隙を衝いてガーベラが抵抗力を破壊力に変換した一撃を熊の傭兵に叩き付けた。

●大きく傾く、戦いの天秤
 あと一息で熊の傭兵を倒せると判断したマナは、熊の傭兵の顔面に音速の蹴りを放つ。熊の傭兵はその一撃を、食らえば終わりとばかりに必死になって回避する。だが、それは倒れるまでの時間をわずかに延ばしたに過ぎなかった。
「もう、限界でしょう……これで、終わりです」
 オフェリアが自身の魔力を破壊力として熊の傭兵に放つ。その一撃を受けた熊の傭兵は、ステージに突っ伏して動かなくなった。
 残るは、アンナが足止めしている虎の傭兵と狼の傭兵。ハロルドは虎の傭兵に光速の斬撃で斬りかかるが、これは虎の傭兵の斧に受け止められてしまう。虎の傭兵は受け止めたハロルドの剣を斧で払うと、ハロルドの肩に食らいついて牙を突き立てた。
 虎の傭兵からハロルドを引き離そうと、ガーベラはレジストクラッシュを放つ。回避こそされたものの、ガーベラの目論見どおり虎の傭兵はハロルドを離した。
 ガーベラに続くように、コロナがダストトゥダストを、ウィリアムが破城天鎚(偽)を虎の傭兵に放ち、立て続けに直撃させる。さらにカナデのアースハンマー――ステージを突き破って現われた巨大な拳――が、虎の傭兵をガツンと強かに殴り飛ばす。殴り飛ばされた先で、虎の傭兵はピクリとも動かなくなった。
 虎の傭兵を仕留めた勢いでカナデは狼の傭兵にピューピルシールを仕掛けるが、これは回避されてしまう。だが、回避によって生まれたわずかな隙を見逃さず、ハロルドは閃光で狼の傭兵を袈裟に斬った。
 残る傭兵が一人になり、これ以上足を止める必要は無いと見て、アンナは攻勢に出る。
「……ぐっ!?」
 流れるような連続攻撃を避けきれず、狼の傭兵は輝煌の水晶剣に斬り刻まれた。
 狼の傭兵は攻撃の対象をハロルドに切り替え、袈裟に斬りにかかる。この斬撃は、ハロルドの肩口から脇腹にかけて刀傷を刻んだ。
 だが、大勢はほぼ決していた。オフェリアの魔力放出、コロナのダストトゥダスト、ウィリアムの破城天鎚(偽)、ガーベラのレジストクラッシュを立て続けに受けて、狼の傭兵の生命力は風前の灯火となる。
「はあああああっ!」
 裂帛の気合いと共に、ハロルドは閃光を放つ。横薙ぎに放たれた光速の一閃は、狼の傭兵の腹部を横一文字に深々と斬り裂き、昏倒させた。

「何を逃げようとしてるッスか? 悪い事して自分だけ助かろうなんて、そうは問屋が卸さないよ。
しっかり、命がけで償ってね?」
「ま、まな板!?」
「誰がまな板ッスか!? このっ、このっー!!」
 ステージでの戦闘が終わった頃、マナは商人が逃亡しようとするのを発見し、まな板でスパーンと頭を叩き、気絶させる。その際、自身に叩き付けられようとするまな板を見て商人が発した驚愕の声に、意図するところを取り違えたマナは狂戦士の如く商人を殴り続けるのだった。

●帰還、その出発
 数日後の朝。救出、保護された幻想種の少女達が、ディルク派の商人の用意した馬車で深緑に送られようとしていた。
「皆さん……本当に、助けて下さってありがとうございました」
「ありがとー、イレギュラーズさん」
「ありがとうー」
 見送りに来たイレギュラーズ達にリーブラが頭を深く下げて礼を述べると、他の少女達も次々と感謝の言葉を口にする。
「オーホッホッホ! 当然のことですわ」
「僕にとっては、大事な同胞だからね」
 ガーベラが高笑いを交えながら、ウィリアムは穏やかに微笑みながら応える。
「みんなも、よく私達の呼びかけに応えてくれましたね」
 コロナが、リーブラを抱きしめてよしよしと頭を撫でる。

 しばらくすると、少女達を乗せた馬車が出発する。
「元の世界に戻してあげられて、よかったわね」
「そうですね……帰った先で、今回のことを引きずらなければいいのですが」
「……確かに、キツい経験だったからな。だが、呼びかけに応えて自力で袖に逃げられたんだ。きっと、乗り越えられると信じようぜ」
 小さくなっていく馬車を見つめながら、アンナ、オフェリア、ハロルドはつぶやきあった。

「……そう言えば、あの商人は如何したの?」
「今は病院に担ぎ込まれてるッス。まぁ、退院しても商人としてはもう終わりッスけどね」
 思い出したように、カナデは商人についてマナに問う。マナは自身がやりすぎたことに苦笑いしつつ、答えた。表の世界では奴隷売買に手を染めたことが知られ、裏の世界ではオークションに失敗したことが知られれば、あの商人が商人として生業を続けていけなくなるのは、想像に難くない。

 ――かくして、幻想種の少女を奴隷としてオークションにかけようとした商人の企みは、イレギュラーズ達の活躍によって打ち砕かれた。そしてこの活躍は、傭兵を二分するオラクル派の勢力を削ぐことにも繋がった。

成否

成功

MVP

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへのご参加、どうもありがとうございました。皆さんのおかげで、幻想種の少女達は人質にされたりすることも無く無事救い出されました。お疲れ様でした。
 MVPは、傭兵二人をブロックで足止めし続けたアンナさんにお送りします。

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