シナリオ詳細
<Sandman>幻の先で君に逢えたら
オープニング
●神は救いの手を伸ばさない
「ワディム様、これで新たに攫われた子らは相当数に至っております。深緑全体での被害も大きいと聞き及んでおり、このままでは……」
「――――」
「ワディム様?」
「ああ、……ああ。分かっている。策を打たねばなるまい」
ワディム=カシドラル――白いエルクを信仰する一族の長は、侍女の呼びかけに少し遅れて反応した。彼女の表情はどこか遠くを見ているように思えた。
最近はつとにこのような素振りを見せるようになった。傭兵と深緑の間で起き始めた幻想種の誘拐事件に絡み、思う所があるのだろう。彼女が如何に厳格に一族を取りまとめ、繁栄の道へと導いてきたのかは語るまでもない。
今起きている騒動も、なんらかの腹案で華麗に解決してくれるだろう。そんな確信に似た希望を、侍女は持っていた。
「まずは警戒を強めましょう。場合によっては、傭兵に対し強く出る必要もあると存じます」
「よい。私達が無闇に外と接触しようなどと思ってはならぬ。私達は今まで通り伝統を守り、慎ましく生きればいいのだ」
侍女の言葉に、ワディムは静かに制止する。強気な言葉、強権的な手段は取ろうと思えばいくらでもそうできるだろう。だが、それは望まれていない選択肢だ。古き一族であるがゆえに、外界との接触は控えねばならない。外界からの毒は積極的に切り捨てねばならない。一族の繁栄は、温室の如くまとめ上げ、穏やかさを保った世界で為されるべきなのである。
――で、あるならば。
閉塞的な一族の中で生まれた『澱』はどのようにして取り除くべきなのか。
ワディム――本来の名をノアルカーラとする彼女の心に蟠った過去の過ちは、誰が認め掬い上げるのだろう。ああ、今もなお耳の奥で幻聴がこびりついて離れないのに、誰にも明かせぬというのに、何度も何度も語りかけてくるその声は。
その夜。
彼女は一族の者に一言も告げずに夜の森へと歩みを進め、そして……姿を消した。
●運命は予兆も見せず歩み寄る
「幻想種の誘拐事件の元凶、『ザントマン』の正体がオラクル・ベルベーグルスなる商人であることは皆さん既にご承知かと思います。そして、現状についても」
『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)はザントマン、と口にした時になんとも言えぬ嫌悪の表情を一瞬だけ垣間見せ、すぐさま鉄面皮のそれにすぐさま張り直す。彼女とて子がいてもおかしくない年齢の女性である。いるか、いたかは別として、気障な名乗りで奴隷商人をやるような連中を嫌うのは当然の感情と言えようか。
「彼が魔種であるという見方はほぼ確実であり、去るラサの合議の場でディルク氏が彼を糾弾したそうです。逃げ場の無い場所で、です。……ですが、彼は深緑に攻め入るべしとの意向を示し、商人を2派に割ったのです」
ディルク派とオラクル派に。悠久の契約か、莫大な利益か。……尤も、後者を炙り出すのが目当てだったディルクはこれ幸いとイレギュラーズにオラクル一派の制圧を依頼したのだが。
「この流れに伴って激化した深緑での幻想種誘拐事案にも、別の流れが生まれつつあります。今回の依頼は深緑のとある一族の首長、その失踪の調査……だったのですが、先刻入ってきた情報で状況が変わりました」
三弦は眼鏡を通して壁面に1人の幻想種の姿を投影する。褐色の肌で鋭い瞳。本人は気付いていないかもしれないが、どこか『タブラ・ラーサ』ノアルカイム=ノアルシエラ(p3p000046)の姿に似通っているようにも感じられた。
「ワディム=カシドラル。深緑でも歴史の長い一族の現当主です。集落付近で行方を眩ませた彼女が、『楽園の東側』の信者と共に集落に戻ってきて、人々を教化した――そんな情報を掴みました。今、一族の人間を抱え込んで肥大化したその集団は次の集落へ、その次の集落へと向かおうとしている。そのような筋書きらしいですね」
『楽園の東側』。『■■■■』の教えのもと、『華々しく素晴らしい死』を求める狂った考え方だ。なるほど、集落の頭を押さえてしまえば説得力も増そうというもの。さて、そのカラクリがなんであるかは知っておきたいところだが。
「こちらもつい先程確認できた情報ですが、どうやらワディムさんは『グリムルート』という特殊な道具で操られているようです。――ですが、おかしな話なのです」
何がおかしいのだろうか。操られている、というなら教義をまことしやかに語る事ぐらい、普通にするだろう。イレギュラーズの問いかけに、三弦は「いいえ、意識をそのまま『行動』を操るので言葉に深みが出ないと邪教徒として意味がありません」と否定した。もとより布教のアンテナには向かぬ道具、戦闘員用のはずなのだ。
「つまり、それって……」
「ええ。集落の皆さんが邪教徒としてついていってる今、詳細な情報を集めることはできませんが」
ワディムという女性は、なんらかの理由で死を、救いを受け容れている。それに相応しい程度の、なにかがあった。
「『グリムルート』は相手を戦闘不能にするか、破壊するかで解除できます。戦闘中に部位狙いでの破壊を試みるのは容易ではありません。かといって旧き幻想種の一族、その長相手に手抜きができる状況でもありません。なにしろ『楽園の東側』が殉教精神の塊のような面々なのですから、『救って』しまうのは避けたいですし」
ワディムが自ら死を率先して選んでいる理由。死を救いとして伝播するだけの動機。
その理由が明らかにならねば――最悪の事態だって、あるのだろう。
- <Sandman>幻の先で君に逢えたら完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年10月10日 21時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●落葉
「死ぬのが救いとかひっどい宗教のたくらみは壊したいよ! ひどい話だよ!」
「死にたがりの宗教だなんて、はた迷惑だなあ。独りで勝手に死んでくれれば良いのに」
『猫さんと宝探し』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)がぷりぷりと憤りを露わにする傍らで、『特異運命座標』フィール・ティル・レイストーム(p3p007311)は心底迷惑そうに、そう吐き捨てる。
『楽園の東側』なる連中が掲げる教義は、罪悪感や無力感を抱える類の人間には本当によく効く。そんなものを広げることはアクセルも許しがたいと思うし、フィールもまた、それが深緑で広められ、同胞を危地に曝す為に使われていることが我慢ならない。誰かを道連れにせねばならぬ。つまり、1人で死ねないという弱さだ。誰かに死を知ってもらいたいという思いの楔だ。
「ワディム……さん。あの人が誰なのか分からないのに、とても懐かしい気がする」
『タブラ・ラーサ』ノアルカイム=ノアルシエラ(p3p000046)は依頼の説明を受けた時に見た相手の顔を思い出し、胸の奥が締め付けられる思いがした。ワディム=カシドラル。面差しに己と似たところを覚える彼女が、いま死を選ぼうとしている。心がざわつく。無視できない感情が、どこかに。
「各個人の宗教は否定致しません……私がここにいるのは、ただノアルを助けたい一心」
『エリーゼより、貴女へ』口笛・シャンゼリゼ(p3p000827)は厳かにそう宣言し、ノアルカイムの傍らを駆ける。メイドの『口笛・シャンゼリゼ』ではなく――一人の友人を想う、『エリーゼ・ミュニエ』として。彼女は友を助けたいと願うのだ。心の底から。
「『華々しく素晴らしい死』ね……。よく分からねえな、死んじまったら何もかもオシマイだろうによ」
『軍医』ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)には、命を好き勝手に投げ出すという心理が本当にわからない。何年も軍医として戦場を経験した彼には、投げ出せる命、無駄にできる命はないことが理解できるはずだ。『そうせざるを得ない命』なら掃いて捨てるほどありそうなものだが。
「本当に……本当に皆さんはそうなりたくて、そうなりたい理由があって…死にたがっているのでしょうか」
「そんな命があるものか。『華々しく素晴らしい死』なんて迎えさせない」
『勿忘草に想いを託して』羽瀬川 瑠璃(p3p000833)が僅かに抱いた疑念を、『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)はばっさりと切り捨てる。強固な意思とは、ときに当事者以外に明確な錯誤を誘発させる。だが、ポテトは知っている。死んでしまえば何もかも戻ってはこない。死を偽りのものとした天義の一件を経験したなら、命の価値と死の重みをよりはっきりと知覚できる。
だから、『命をかけるほどの理由などない』。それだけの願いがあるなら、生きるべきだ。
「ふぁあ……不思議デス……ナンダカ……」
――食べちゃ、イケナイヨウナ……?
『RafflesianaJack』オジョ・ウ・サン(p3p007227)は思考の奥深くに持ち上がった感情に、自身が戸惑いを覚えているようだった。この存在は基本、本能に忠実である。ほぼ植物なのだから当然なのだが、それに反する思考を持ち、選び取るという行為それ自体が非常に珍しくもある。尤も、その理由に至るほどの知性は獲得していないのだけれど。
「ワディム達の居場所や行動を教えてくれないか? ワディムについてわかる事も教えて欲しい」
ポテトは、精霊達にそう語りかけ、少しでも情報を得ようとする。だが、精霊達は(普段にも増して)断片的な情報しか伝えて来ず、また、ノアルカイムへ向けた視線はどこか畏れや驚きの混じったもの……で、あるように見えた。仲間には見えない。だからこそ、ポテトは訝った。既に、教化された幻想種の影響を受けているのか?
「大丈夫、ボクは皆を傷つけない……だから、君達の知ってることを教えて」
他方、ノアルカイムは静かに自然へ語りかける。断片的な情報は、意思の乏しい植物だからこそ、上書きされるおそれが少ない。意思ある精霊よりは、いくばくか『自然に』知覚できるのだ。
断片的なその情報を纏め上げるのが、難しいのだが。
「奇襲が何時飛んでくるかもわからねぇ、周りに警戒……」
ウィリアムが言葉を全て吐き出すより早く、目の前に躍り出た鼠を凝視する。――彼の専門は人であったが、背筋を駆け上がる危機感と鼠に対する違和感が仲間達に散開するよう、彼に叫ばせた。
空気が焦げ付きそうな敵意を伴い、地面が揺れて木の根が鞭となってオジョウサンへと打ち掛かる。間一髪、なのか。根に打ち据えられたのはその疑似餌。本体はいささかの手傷も負ってはいない。
「なんデスカ、一体!」
「……なんて不憫。殺すつもりで裂いたのに、その形になってもまだ生きている。いえ、違う。お前は植物か」
ぷりぷりと怒りを露わにする(かわいい)オジョウサンの声に応じたのは、暗闇から木の根をけしかけた術の使い手のもの。木の陰から身を躍らせた『彼女』の姿に、ノアルカイムは息を呑んだ。
「……ワディム、さん?」
「お前、……は――」
ワディムとノアルカイムは言葉に詰まった。周囲の影からも、僅かばかりの動揺の空気が漏れ伝わってくる。おそらくは、いいや、間違いなく。
――彼らはノアルカイムを、2人の間柄を明確に知っている。
●乱れ吹く者
「……大丈夫ですか、ノアル」
エリーゼは冷静に構えを取りつつ、フィールとウィリアムを庇う姿勢を見せる。心ここにあらずの様子で首を縦に振る彼女は心配だが、エリーゼはその仕草を信じ、飛び来たった魔力をゼシュテルグレートで叩き落とす。
「ノアルが助けたいと思ってるヒトを陥れて命を奪おうなんて酷いと思うよ! 本当にさ!」
「おや。『此方側』で罪を重ね、手足が罪の楔で動かせなくなった御仁が救われる道を選び取る。そんな素晴らしい話だというのに、貴方はそれがいけないことだと?」
アクセルが憤りつつ、視界に収めた幻想種達へと神気閃光を放つ。それに合わせるかのように闇からぬうっと姿を見せたそれは、アクセルの喉元に返しのついた針を飛ばし、その皮を削り取る。多少なり、守りを固めていた彼の喉は薄皮を剥がれたように裂け、どくどくと鈍い勢いで血を吐き出していた。
「おっと。それ以上仲間に近付くことは許さないぞ、モーント。お前には罪をきちんと償わせる」
さらに追撃を、と距離を推し量ろうとした襲撃者……『楽園の東側』司教は、ポテトの果敢な前進により射線を阻まれる。そのまま彼の動きを抑えるように立ち回るその姿は、さぞや不快であったろう。
「オニさんおいで。死にたい?」
「なッ」
フィールの放った小さな星が、目標を見失ったモーントを打ち据え、怒りの感情を植え付ける。狙いを違えぬ精度のそれは、自らの優位を疑わぬ男には覿面に効いたらしい。
さりとて、ポテトが行く手を阻み、フィールに狙いが届こうとエリーゼが堂々と受け止める。
「ボクは、ノアルカイム=ノアルシエラっていいます。ワディムさんは、ボクのこと知ってますか?」
ノアルカイムは硝子の杖に魔力をこめ、悪意の混じった魔力を信者達に浴びせていく。次々と飛び来たり、荒れ狂い、吹きすさぶ魔力の応酬は当然ながら彼女の身をも例外なく傷つける。
「……知っている、と言ったらどうする」
「え……っ?」
ノアルカイムは息を呑む。相手の表情は険しいままだ。だが、なんだろうか。ノアルカイムはワディムの表情が、どこか、とても痛々しいもののように感じ取れた。
「ノアルーカイム、手を止めちゃダメデス!」
オジョウサンは神気閃光で信者達を狙いつつ、間合いに踏み込んできた信者をノーモーションで弾き飛ばす。相手の拳も反発する類だったのだろうか、両者の間に生まれた斥力は、その間合いを大幅に引き剥がす。
オジョウサンが態勢を整えるより早く、今度こそ確実に。ワディムの操る木の根がその本体を絡め取り、ぎちぎちと締め上げ、即座に緩んだ。
否、『緩めた』のだ。次の動きのため起き上がったオジョウサンは、続く信者達の術式に飲まれ、その意識を刈り取られた。
「私はお前を知っている。お前は私を覚えていない――思い出せないのか、思い出したくないのか。どちらなのだろうな?」
どこか寂しげな表情を垣間見せたワディムに、ノアルカイムは目を奪われた。だが、目の前で起きた出来事ばかりは否定できない……彼女は敵として、心変わりを見せはしない。
「嬢ちゃん……?!」
「…………!」
ウィリアムと瑠璃は、眼前で起きた刹那の出来事に驚愕を禁じえない。四方から舞い込む魔力、敵意、悪意の塊を読み取り治療に反映させるウィリアムはもとより、瑠璃も相応に状況を読み、治療に専念している。
加えてアクセルだ。回復だけ見ればまずまずの陣容であるように感じられるが……現実はそう、優しいものではない。
「狼狽えるな、回復は私が補う! 攻められる者はそちらに専念しろ! 大丈夫だ――勢いだけならこちらが押している!」
ポテトは味方を鼓舞するように叫び、魔力を練り上げる。モーントを切り崩せていない状態で回復に回るのは得策ではないものの、さりとて被害状況を鑑みればそうは言えぬ。
「ああ……ああ! 私達に死を与えず、諸君らはこの場で死を経験することはなく! そうやって他者のいのちの在り方を操ろうという傲慢! それもまた生き様でしょう!
そちらの幻想種の少年さえ仕留めれば、私が倒れた同志を身許へ送ったものを!」
「冗談きついよオジサン。死にたいなら精一杯そっちに近付けさせてあげるからさ」
フィールはモーントを挑発しつつ、内心で安堵と緊張の入り混じった溜息を吐いていた。星の魔術と精霊術を連続で使い、モーントの体力を着実に削っている実感はある。『楽園の東側』の教義だろうか、治療が行き渡っていないことも幸運だった――彼を放置しておけば、教徒達にどれだけの死が撒き散らされたことか。
「フィール様、私の後ろをついてきてください。ノアルも、フィール様も護りたいのです」
エリーゼはフィールにそう告げると、ノアルカイムの下へとじりじりと距離を詰める。ノアルカイムもまた、エリーゼが己を庇える位置へと動き出す。その間、モーントの暗器はエリーゼが叩き落とし、受け止め、構え、その思惑を奪い去る。
「ワディムさん……貴女の名前も、ワディムさんじゃないような気がするんです。そんな風に思うのは、ボクも貴女を知ってるからなのかな」
何人目であっただろうか。幻想種(どうほう)を威嚇術によって動きを止めたノアルカイムは、思わせぶりな言葉を紡ぎつつ容赦のない彼女の挙動に疑問を禁じえない。彼女を未だ狙わず、アクセルや瑠璃、オジョウサンらを優先して攻めにかかり、確実に戦力を削りにきているその態度から、『死を求めている』様子が希薄にすら感じられたのだ。
「……親はなくとも子は育つ、など考えたくもなかった。お前『達』の声が幻聴のままであればと幾度も思った。だが、誤魔化せぬのだな」
ワディムは魔力を練り上げ、深い呼吸を繰り返す。ノアルカイムを見る目には、泣きそうな、怒っているような、複雑な感情が垣間見える。
「私の本来の名は『ノアルカーラ』。『お前達』の母親だ」
●そして螺旋は逆流し
「ノアル、貴女は私が守ります。だから、どうぞ落ち着いて」
「……お、かあ、さん――」
エリーゼの言葉で僅かに踏みとどまりつつも、内心で確信していた事実を突きつけられるのは重い。『お前達』という言葉の意味を、彼女は知る由もない。だが、だからといってその言葉に膝を屈してはならないと、知っている。
「死んじまったらお終いだろ、違うか? 娘と再開できたなら尚更だぜ。どうだい嬢ちゃん、んな胡散臭ェ教義なんざ投げ捨てて未来に賭けてみるってのは!」
「私は我が子を守れなかった。我が子の幸せと集落の未来とを天秤にかけてしまった愚かな女だ」
ウィリアムは、ここが心変わりのチャンスだと強く感じた。親子だとはっきり認めたなら、彼女の絶望は和らぐのではないかと。だが、ワディムの表情は暗い光を残したままだ。
「ノアルカイム――ノアルシエラ。私は己が死ぬべきだと信じている。お前と私とで、同じ場所へ行きたいと思っている」
言葉を紡ぎながら、指で身振りで詠唱を肩代わりさせたワディムは一際大きな魔力をふるい、大魔術を行使する。己を中心として撒き散らされた小さい種が、敵を仲間を問わずして足元へ飛び散り、急激な成長とともに彼らを吹き飛ばす。疲弊した信者は避けられない。モーントは、動きを止めるより早く彼女のそれで命を落とした。
ポテトは両手を顔の前に掲げ、伸び上がる植物を受け止めた。ガリガリガリと不快な音が響くが、その堅牢な守りは些かも削れはしない。
エリーゼは、ノアルカイムとウィリアムを言葉通りに守り切る。運命の加護がなくば危険なラインだったが……彼女は、悪友(とも)を守るためなら躊躇なく運命を差し出す人種だ。
結論から言ってしまえば。ワディムの行使した『大魔術』は決意堅牢なイレギュラーズを攻めきること能わず、しかし死を求めた者、決意疎かな者を打つのに過大なほどの威を見せた。
「過去は変えられない、でも、未来は選べる! ノアルと一緒に、これからの道を歩いてくれないか?」
「『私』、貴方と話がしたいの。『私』の色んな話を聞いてほしい。貴方の話も聞きたい。貴方の声を聴きたい……だからお願い、生きて!」
ポテトがワディムに、これからの理想を手引きする。
ノアルカイム――『ノアルシエラ』が、だろうか。彼女もまた、ワディムに、『ノアルカーラ』に己の想いを強くぶつけた。多分、きっと、その言葉は間違いなく届いていたはずだ。
そして、ワディムも当然無傷とはいかないし、死のみを以て邁進するならきっとノアルカイムを受け入れる余地はあったろう。
「私は幸せだ。罪と向き合って命を捨てる覚悟を決めていたが、ここに至って幸せを享受できた。素晴らしい話だ」
――だが、今のお前達には屈せない。首の『グリムルート』に触れた彼女は、いまだ健在な信徒達に視線を送り、言外に指示を出す。
「教義は捨てらんねェのかい」
「いいや、死だけを追い求める愚は理解したとも、愛しい娘の尊い仲間よ」
だからこそだ。
だからこそ、満身創痍のお前達と命を賭けて戦えない。また、次に。
……再び放たれた樹木の群れは、彼らを誰一人苛むことなく、ワディムと信徒達の退路のみを作ってイレギュラーズを阻んだ。
どこか虚ろな声でおかあさん、と呼ぶノアルカイムの足元には、季節外れの野萓草(のかんぞう)が、ひっそりと咲いていた。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
言葉も、決意も、そうと決めてかかった人のそれは素晴らしいものだと思いました。
ですが、決意だけで事態は動かないものです。
長々しく理由を述べる趣味はないので端的に述べると『探索力の綱引き』と『ワディムへの戦闘対処』、でしょうか。
MVPは仲間思いの貴女へ。
世辞ではなく割とマジで、倒れられたら全滅までありました。
GMコメント
最近頭おかしくなった? そう言われる事が増えましたが正常です。ふみのです。
注意点とか色々多い系で大変申し訳ないけど頑張ってくださいね。そんな依頼です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●達成条件
・『楽園の東側司教』モーント・オイレ撃破
・『楽園の階』ワディム=カシドラルの『グリムルート』破壊or戦闘不能or殺害
・『楽園の東側』信徒達の制圧
●『楽園の東側司教』モーント・オイレ
ひょろ長い、細身の人間種。布の多い服に身を包んでおり、戦闘力はそこそこ。基本的に暗器使いの暗殺術スタイルであり、『弱点』を伴う中~近距離のスキルを使用する。
スキルにはBS『致命』が伴う。
彼も教団の例に漏れず狂信者であり、死物狂いで死にたがるため、容赦出来る相手ではない。
●『楽園の階』ワディム=カシドラル
幻想種。『グリムルート』の支配により「『楽園の東側』の布教」「命を捨てた戦闘」を課せられているが、その支配だけで言葉巧みに相手を支配するなどまず無理だと考えられるので、本人がその教義に迎合しているフシがある。だが、その理由については不明。
例にもれず神秘系が強力で、特に「乱れ」系BSと「恍惚」を伴う古典魔術を使用する。溜2(+高速詠唱1使用)の大規模魔術も時折使用する。
(以下PL情報)
本名ノアルカーラ。ノアルカイム=ノアルシエラさんの母親であり、一族の習わしとの板挟みの結果、我が子を死なせた(と思っている)罪悪感と幻聴を抱え続けている。
リプレイでノアルカイムさんと接触した際、彼女が娘である事実には朧気ながら気付く公算が高いです。
言葉での説得でグリムルート解除は不可能ですが、教義に対して翻意を試みる成功率は未知数。
└『グリムルート』:かつて古代都市『砂の都』で流通していたとされる奴隷の首輪。ザントマンの支配力をアンテナする役割をもち、本人の意識は残したまま主人の命令通りに行動させる力を持つ。それなりに硬く、首輪であるため部位狙いで敢えて狙うのはかなり難儀するとみてよい。
●『楽園の東側』信徒×10
ワディムにより勧誘され教化された幻想種達。『グリムルート』非着用。ワディムが教義に翻意を見せれば兎も角、原則として強い宗教的希死念慮によりイレギュラーズに襲いかかってくる。
ほとんどが神秘による長距離戦を得意とするが、少数ながら肉体強化魔法+至近戦闘を行う者も居ます。
雑魚と侮るなかれ、死を覚悟した分容赦が全くありません。
●戦場
深緑の森林内での遭遇戦です。探索はある程度スキルでできますが、相手も神秘のエキスパートなので偽装ぐらいするかもしれません。
なお、【不殺】なしでも殺害回避は可能ですが、確実性は落ちるのでご注意ください。
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