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シナリオ詳細

<Sandman>永遠に美しく

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●誰かの胸の内
 ちがうちがうちがうちがう。
 ちがうのちがうのちがうんだったら。本当なの信じて。
 私はただ強くなりたかっただけなの。同胞を守る力がほしかっただけなの。
 なのにどうして、私はこの力で……同胞を殺めているの。

●現実なんて見たくなかった
 空のバスタブに女が身を沈めていた。
 たっぷりとした大きな胸。くびれた腰。形のいい尻から伸びる肉感的なふともも。白い肌はまるで象牙のよう。長い黒髪は黒檀のごとく。唇は赤く、血のように。その全身から、少女ではけして持ちえぬ円熟した色香が立ち昇っている。
 女――グロリア――は顔をあげた。そのバスタブから見える位置に、祭壇が設けられていた、祭壇には何本もの溝が掘られ、バスタブへ向かっている。溶け残ったろうそくで汚れた祭壇には、縄で縛られたひとりの少女が横向きに倒れている。長い耳が恐怖のあまりひくひくと動いていた。ハーモニアだ。
 そして少女のすぐ隣に、死んだ魚の眼をした長耳の娘がいた。少女と同じく、ハーモニアで、砂で作られたような首輪をしている。違うのは、娘のほうが年かさで、その手に大きな両手剣を持っていることだろうか。
「はじめてちょうだい、ロベルタ」
 グロリアが嫣然と笑った。ロベルタと呼ばれた娘がびくりとふるえ、ゆっくりと両手剣を掲げる。少女の口からかすれた悲鳴が漏れた。
「やめて、やめてぇ……」
「ちがうのちがうの。私だってやりたくないのこんなこと。逆らえないの、あの女に!」
 ロベルタの意思に反して、両手剣は頂点まで掲げられた。そこから一気に。ざくり。ぱっと赤い花が咲いた。少女の口から呻きが漏れたが、それはただ肺に残った空気が喉を鳴らしただけにすぎなかった。ざくり、ざくり。ロベルタは真っ二つになった少女を、細切れにしていく。少女の血肉が祭壇の溝を通り、バスタブへ流れ落ちていく。
「ごめんね! ごめんねえ!」
 ざくり、ごきり、めきゃ。
「違うのよ! 違うのお! やめさせてよ、お願い!」
 ごしゃ、めきゅ、ぐちゅ。
「殺してえ! いっそ殺してよおおお!」
 ぐっちゃ、ぐっちゃ、ぐっちゃ。
 もはや原形もとどめない死体を両手剣が凌辱し続ける。バスタブにはたっぷりと赤いものが。陶然と微笑み、グロリアはどろりとしたそれを掬うとうっとりと眺めた。
「ああ、しみこんでいく。ハーモニアの血肉が。すてきね、カオスシードとは比べ物にならないわ、最高よ……ハーモニアの寿命と、美貌と、若さを手に入れて、私は永遠になる……」

●ローレットにて
 リリコは一枚のレポートを差し出した。顔写真付きで一人の女性の詳細が載っている。
『グロリア=ミナ=アルフォルト。ラサの奴隷商人。美貌と若さを保つため、少女の血肉を搾り取って浴びるという儀式をくりかえしていた。ハーモニアを仕入れるようになってからは、商売からは手を引き、もっぱら儀式に時間を割くようになっている』
 続けてもう一枚。ショートカットで長耳の娘だ。ハーモニアにしては珍しく挑むような目つきをしている。
『ロベルタ=パムナ 両手剣士。剣士としては並の腕前だがしぶとい。グリムルートの絶対服従により、グロリアの用心棒となっている』
 それから10人ものハーモニアの少女たちの名簿。誰もがここ数か月でグロリアが”仕入れた”少女たちだ。なんのためかは、考えたくもなかった。リリコがぽつりともらした。
「……グロリアは魔種。地下室にこもって、儀式を続けている……私にはわからない、どうして、そんなことをするのか」
 押し黙ってしまったリリコ。
 わからなくていい、あなたはそう思った。
 そして得物の感触を確かめると、戦場へと踏み出した。
 どうか無事に帰ってきて、そんなリリコの言葉を胸に秘めて。

GMコメント

みどりです。なんなんだこのテンションは。ハードですよ、気を付けてね!

勝利条件
 魔種グロリアの撃破

戦場となる地下室の大きさは40m×40mとします。
正面中央壁側にグロリアとロベルタ。
左右の壁にはグロリアの奴隷であるハーモニアの少女たちが鎖でつながれています。

怠惰の魔種【永遠に美しい】グロリア
 あぶなすぎる趣味を持つ奴隷商人でしたが、ハーモニアの美貌と長寿に狂い反転しました。本人はバスタブから一歩も動きません。グロリアを倒せばハーモニアたちはひとまず解放されます。
 あくび 神中単 治癒 HP回復中
 投げキス 神遠域 ダメージ大
 副 瞬自付物無 グロリアが黄色く輝く
 副 瞬自付神無 グロリアが青く輝く
 ※副行動は、どちらか片方だけを付与します。両方同時に付与することはありません。

【悔恨の両手剣士】ロベルタ
 グロリアの剣です。グロリアが初めて買ったハーモニアであり、反転する原因にもなった存在です。両手剣を操る剣士で技量はそれほどでもないのですが、EXFがとにかく高く、復活する恐れがあります。
 流し斬り 物至列 飛
 唐竹割り 物至単 必殺

ハーモニアの少女たち
 合わせて10人が左右の壁につながれています。1ターンで動くのはランダムで2~3人です。誰が動くのか見当がつきません。
 破滅の唄 神中域 恍惚

グリムルート
 砂で作られているような首輪です。ハーモニアたちはこれによって絶対服従を強いられています。
 壊すことはできますが、非常に硬く、また首という繊細な部分へ装着されているため、相手を気絶させてから処置したほうが確実でしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <Sandman>永遠に美しくLv:10以上完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年10月10日 21時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
武器商人(p3p001107)
闇之雲
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
リトルリトルウィッチ
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

リプレイ


「ああ……『お湯』が冷めてきたわ。ロベルタ、新しい子を……」
「いや、いやよぉ、もういや、勘弁して」
 口ではそう言いながらもロベルタはゆっくりと壁際の少女奴隷に近づいていく。少女の顔が恐怖でひきつる。人形のようにかたかたと震え、逃れようとするも全身に力が入らない。返り血で真っ赤に染まったロベルタは、グロリアと同様におぞけの対象だった。ましてや己がこの先どうなるかを目の前で見せつけられては。
「ごめんね、ごめんねぇ……」
 ロベルタが少女を戒める鎖へ手をかけた。悲鳴にもならない声が少女の口からもれる。
 ――バン! ザッ!
 唐突に扉が開け放たれ、8人の影が並び立った。ロベルタが手を止め、グロリアはいっそ初心な小娘のように小首をかしげてみせる。
「イレギュラーズだ。狂った運命を終わらせに来た」
『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)が、扉を蹴り開けた足を下げ、臨戦態勢を取る。そのままざっと部屋をながめまわし鼻で笑う。
「風呂に入りながらの戦闘というのはずいぶん悠長な事である。……如何なる戦闘スタイルかはお前さんの自由ではあるが、そのバスタブごと真っ二つになっても……文句は受け付けんぞ?」
 グロリアが人差し指を唇にあて、ルージュを引くように血肉を塗りつける。肉厚な唇の整ったかんばせ、だがそれは捕食者が戦化粧をしたにすぎない。バスタブに沈むグロリアはその禍々しささえ無視すれば女神のようだ。なのにどこか蛇のような不気味さと執念深さを感じさせる。それは彼女が美と若さに固執しているからなのか。振りまく呼び声のせいなのか。
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はメガネを中指で押し上げた。
「Manners maketh man.それは淑女も然りです。たしかにあなたは美しい……だが胸焼けを起こしそうなしつこさだ。瑞々しい魅力が貴女に宿ることは、もはや永劫にありません」
「そうかしらそうかしら?」
 グロリアは嗤う。
「このハーモニアたちをすべて吸い尽くせば、私の美は絶頂を極めるわ。そう思わない?」
「いやぁ、ないない。そりゃ儂とて女じゃし、永遠の美とか追い求めちゃうのわかるけど。血はないよなぁ。……そこの武器商人殿の美を参考にしたほうがいいと思うぞ?」
 リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が呆れ返って返答する。グロリアがバスタブへ体を沈める。黒檀のような髪がねとりとした血を吸って広がった。
「そんなことないわ。……ぁ……こんなに、甘美なのに。全身の細胞がぷつぷつと生まれ変わっていく感触。より美しく、より完璧に……」
「魔種に変わっているだけだろう? 『かわいい』グロリア。もう元には戻れないし、戻る気もないのだろうね。老いを愉しむ器に欠けたかわいそうなコ」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が指先を自分の銀糸のような髪へ絡める。『プリティーリリー』咲花・百合子(p3p001385)は口元へ薄く笑みを乗せて、戦意を隠しもせず爛々と光る眼でグロリアを見据える。
「定命とは大変であるなぁ。吾は引退するまでずっと美少女である故、その辺の悩みはとんとわからぬ。でも目標に向かって努力するのはよいこと! ちゃんと自分を客観視して醜さを自覚できてる点も吾的には高得点! さぁどちらの美(強さ)が勝つか勝負といこうか!」
「……醜い? 私が? お目々はだいじょうぶ? そんな役に立たない目玉は抉り取ってカラスの餌にしてあげましょうか? でも私は寛大なの、失礼を詫びる謙虚な心があるなら、あなたもバスタブの一員にしてあげてもいいのよ」
「Nyahahahaha! 右へ行っても殺戮、左へ寄っても鏖殺。魔種の物語は単純至極にして脂っこい。これより真っ赤なバスタブは棺桶へと化ける。棺桶は何れ持ち主の魂を引っ掴み、掻っ攫うと願うべきか。兎角。醜い醜い魔の種よ。貴様は既に『美しい』を失った。怪物と罵られて物語を閉ざすが好い。此れが最も『美しい』死の在り方である。冗長は滅ぼさねば成らない」
『果ての絶壁』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)がその甲高い声で長口上を振るう。それはムチのようにグロリアを打ち、彼女のご機嫌を損ねた。
「ロベルタ。私のかわいい小鳥。このわからず屋どもを、可及的速やかに排除なさい」
「う、あ、うう、あ、あ……」
 ロベルタがグロリアの前に陣取り、両手剣を正眼に構える。その両足ががくがく震えていた。
「ごめんなさいごめんなさい、こんなことしたくないけど、ごめんなさい、私逆らえないの、あの女に」
 しかし、イレギュラーズたちは嫌なことに気づいた。ロベルタの瞳の奥に、喜悦の色が隠れていないか。無力な者をねじふせ蹂躙する暗い喜びが潜んでいないか。どちらにせよ、グロリア討伐を邪魔するのであれば、彼女も叩かねばならない。
 両壁に捉えられた哀れな少女たちに目を走らせ、『ピオニー・パープルの魔女』リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)は憤慨する。
「不老不死って魔女的に憧れるものはあるけど……これは論外なのよ……。こんな狂気溢れる場所にずっといる子達が可哀想だわ。なんとしても助け出してみせるのよ!」
「おっしゃるとおりでございます、リーゼロッテ様。他者の血を浴びて若返ろうなど、この手の人間は考える事が同じですね。……若さを追い求める狂人の感性とはそういうものなのでしょう。ともあれ私がすべき事はオーダーに従ってお掃除する事のみ。ゴミ掃除を頑張るとしましょう」
『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)は、ふわりと髪をかきあげた。そのつややかな美しさ。グロリアが欲してやまないもの。
「ロベルタ、男は要らないわ。女は切り刻んでバスタブへ。いい子よね。できるでしょう?」
「は、はいぃ……グロリア様」
 ロベルタは震えたまま両手剣を持ち直した。グロリアがうっそりと微笑む。それが戦の幕を切って落とした。


 ――ドン!
 イレギュラーズの目の前で、空間が破裂し、床が円形に凹む。石畳がえぐれ、粉々になっていた。強烈な力が炸裂したのが肌でわかる。グロリアがバスタブの縁にもたれかかった。
「今のは歓迎のキス。さあ、私の口づけを最初に受けるのは誰かしら」
「のんきなことをしておいでだ。今日の私の役目は狙撃手、手痛い反撃をお返ししましょう」
 最初に動いたのは寛治だった。グロリアからやや右方向、きっちりと距離を取り、ステッキ代わりに持っていた傘を広げる。ただの傘と思うなかれ。それは戦闘用に改造された紳士の武器。傘の内側は視界を妨げるどころか、彼の攻撃を補佐する様々な情報が表示されていた。グロリアへ狙いを定めると傘が反応する。距離40m、反応高、抵抗値不明……。
「ふむ、やはり魔種だけあってステータスが高い。ここはお嬢さんの方から狙うのが王道」
 解析しきれずアンノウンで埋め尽くされた情報欄をざっと視て、寛治は狙いをずらした。
「あ、ひ、やめっ」
 自分が的になっていることに気づいたロベルタが両手剣を盾のようにかまえる。だが所詮武器、守りの道具ではない。高命中の寛治からしてみれば裸同然だった。傘の内側でM.M.Mの文字が大きく表示され点滅する。射撃の用意ができた。
 攻撃へ集中して寛治が引き金を引く。ライフリングから押し出された弾丸がロベルタの右肩を貫通する。赤い花が咲いた。
「痛い……いや、痛い……いやいやあ」
 ロベルタはどこかぼんやりとしている。恍惚の影響だろうか。
「うふふ、私の小鳥、もっといい声で鳴いてちょうだいな」
 グロリアはどこか満足そうに傷を負ったロベルタを眺めている。ロベルタの傷が回復した。
「魔種の感性はわかりかねますね。強襲メイド、参ります!」
 ヘルモルトの姿が膨れ上がった。否、まるでそう感じるかのように素早く移動したのだ。ロベルタの眼前に。
「あ、ひぃ」
 ロベルタの顔に恐怖が走る。だがそれに流されているようではメイド失格。オーダーを完璧にこなしてこそのメイド。攻性メイドはロベルタの服を掴み、足を払った。支えを失い、短い悲鳴を上げるロベルタ。彼女を肩へ担ぎ上げるような体勢から、ヘルモルトは柳に吹く風のごとく一気に床へ叩きつける。
「きゃーあ! ああああ!」
 恍惚から一転、激しい痛みがロベルタの体を蝕み、じたばたと手足を動かした。ひっくり返ったセミのような無様な動き。彼女は歯ぎしりをしながらしぶとく立ちあがり、両手剣を振り回す。一応は剣士の端くれと言うべきか、流れるような動きだった。肉厚の刃がヘルモルトを襲う。
 ――パァン!
 横から剣の腹を打たれ、ロベルタが姿勢を崩す。
「そんな、流し斬りが完ぺきに入ったと思ったのに……」
「あえて突っ込まぬ。濁った太刀筋であるな。望んだ闘争でもなければそうもなろうが……それもこれまでである」
 美少女百合子が接近していた。立ち昇るオーラが白百合となって彼女の背景を彩っている。百合子はしとやかに長い髪を払い、静かな声でロベルタへ語りかける。
「明日から剣を捨てるか、それとも剣を握り続け何を成すか考えるがよかろう」
 美少女の持つ美しさと清らかさ。それはロベルタの心にはあまりにまぶしすぎた。
「あ、あ、あ、あなたなんかにぃ、な、なにがわかるのよぉ! こんなっ、く、首輪のせいでぇ、奴隷にされてえ! あなたなんかに、あなたなんかにぃ!」
 ロベルタが怒りのままに両手剣を掲げる。だがそれは無手の百合子にとって弱点をさらけ出す行為にほかならない。
「見るか、惑星(ほし)をも砕く拳を!」
 一歩踏み出し、拳を突き出す。その洗練された動き。ただスカートがささやかに揺れただけ。だが美少女力を練り上げた一撃が大宇宙の彼方から飛来する隕石を破砕するかのごとくロベルタの正中線へ吸い込まれる。肋骨の砕ける音がし、ロベルタは鮮血を吐いて地に沈んだ。
「はあ……はあ……」
 小さく震えながらロベルタは起き上がろうと全身に力を込め、自らの血の池ですべって転んだ。もう立ち上がることもできない。
 その隙にリーゼロッテは壁際へ寄った。鎖で繋がれた少女たちがリーゼロッテの方を見て短く悲鳴を上げる。彼女の煌きの羽ペンが魔法陣を描いていたから。少女たちが鎖を鳴らして少しでもリーゼロッテから遠のこうとする。やめて、何するの……ごめんなさいごめんなさい、痛いのは許して。
「わたし達を信じて眠ってて。次に目が覚めたらお日様の下なのよ!」
 心に痛みを感じつつも、リーゼロッテは魔術を完成させた。それは慈愛神の抱擁。痛みなく体力だけを奪う、莫大な攻撃力を持つ彼女だからこそ使役できる術。淡い光が一直線に進み、壁際の少女たちを照らし出した。
「ああ……」
 かくりとうなだれていく少女たち。痛みからも恐怖からも解放されたその安らかな寝顔。
「さあどう? 破滅の唄なんて悲しい歌は歌わせないのよ! 彼女たちの未来はわたしたちが守る!」
 力強く言い切るリーゼロッテ。グロリアはつまらなさそうに片肘をついた。
「やれるものならやってごらんなさい。無事にこの部屋から出ていけるものならね」
 
 それからのグロリアの攻撃は熾烈を極めた。イレギュラーズは次々とパンドラを弾けさせ、猛攻に耐える。嵐のような攻撃を誰一人欠けることなく耐えしのぐことが出来たのは、オラボナとシグの功績だ。オラボナがその巨躯と抜群の耐久力でもって仲間をかばい、シグが的確に回復を飛ばす。相性最高のコンビネーション。
 グロリアが投げキスを飛ばし、オラボナの腹に大穴をあける。だがオラボナは体を揺すって笑い飛ばす。
「不老不死と美貌の為に幻想を奪うとは滑稽な。Nyaha!!! 好いか。我等『物語』に成り果てる事で人類は『その』領域に到達する。その方法とは『美しく』終わる事だ。何度も吐くが、貴様は役割を成せた。果てるだけだと解き給え。さあ。討つが良い。化け物は此処にも其処にも何処にも存在する」
「終わったりなんてしないわ。私はいつまでも生きるの。美しいままで、いいえより美しく進化しながら」
「やれやれ、そんな行為で美しさが得られると考える……実に『非科学的』である」
 シグのライフアクセラレーションがオラボナの傷を塞ぐ。
(オラボナの輪郭が滲んできたな。無理をさせるのは禁物か。いや、私が支えればいいだけの話だ)
 シグは複数回行動をすべて回復へ費やし、味方の傷を癒やしていく。
 前に出ていた武器商人が、とことこと数歩グロリアへより、両手を広げた。
「やァ、愛しに来たよ、気の毒なグロリア。負け続けるしか出来なくなった可愛そうなコ」
 前髪の下の目はゆるやかに弧を描き、視線は春のうららを思わせる。だがその口から出るのは吹雪のように辛辣な言葉の数々。
「がんばって儀式をしてきたんだねぇ。頑張り屋だ、グロリア、キミは。なのに気づいてしまったんだね。自分がどんなに努力したって「幻想種の美貌と長寿には敵わない」ってこと。つらかったかい? さぞかし悲しかったろう? だから幻想種にそんなに執着するのかな? 彼女らを切り刻むことで自分の下に置いて、ほっとしているのかい。哀れだねぇ。本当に気の毒だ」
 それは破滅の呼び声。怒りを呼び起こす声音。いま、グロリアは青筋を浮かべ、明確に標的を武器商人へ決定した。
「おまえだけは許さないわ。ミンチにしてやるから覚悟するといい!」
 鋭く放たれた投げキスが武器商人を襲う。武器商人の腰から上が吹き飛び、血肉が放射状に広がった。噴水のように溢れ出る血液、が、時間が巻き戻るように粉々になった上半身が元へ戻る。あっけにとられたグロリアへ、武器商人はヒヒと笑いかける。
「我(アタシ)もねぇ。しぶといんだよ。そこで気絶してるあのコよりも、ね」
「くっ!」
 グロリアの体が青く輝いた。武器商人のすさまじい粘りを目の当たりにして神秘攻撃を警戒したのだろう。
「残念、その読みは外れておる!」
 メーヴィンが腕をまっすぐ前に突き出した。そこへ装着されているのは練達式殲滅機導弓。存在しないはずの弦が、きらめきながら一筋の線としてつながる。機工がカシャカシャと音を立てて開き、メーヴィンの魔力を効率よく吸収する。取り込まれた魔力は圧縮され、凝縮され、限界まで収斂して、ひとつの物理的なコアと化して弾丸へ変じる。いま、装填されたは灰色の弾丸。放たれるは慈悲なき一矢。メーヴィンは弦を引き絞り、離す。星が煌く、彗星のごとく。灰色の弾丸はまっすぐに宙を駆け、グロリアの鎖骨を打ち砕いた。そのままびきびきと不吉な音を立てながら傷口ヘ根を張っていく。
「致命が通ったようじゃな。これで貴様は回復できぬ。美を追求して化け物以下に成り下がるとは無様よのう。ヒトの尊厳を捨ててまで目指すものじゃない。なりたきゃ一人で穢れた剥製にでもなっていろ下衆め!」
 吐き捨てるようにそう言い、メーヴィンはグロリアを憎悪の目でにらみつける。
「……認めざるを得ないようね。貴方たちは強い。これが運命に選ばれた者たちの力。でもね、私もね、魔種なのよ!」
 グロリアの顔からは余裕が失われていた。好機と見て寛治が距離を詰める。
「そのくだらないプライドを捨ててしまいなさい。これ以上醜くくなる前に」
 閉じたステッキ傘の柄の部分でグロリアの肘を引っ掛け、彼女の姿勢を崩す。そのままくるりと一回転させ、傘の部分を打ち下ろした。
「無礼者! 醜いくせに! ただのヒトのくせに!」
 グロリアが傘を手で受け止める。だが、パリン。音を立ててグロリアから青い輝きが剥がれて落ちた。寛治が我が意を得たりと唇の端を持ち上げる。
「その欲でどれだけのヒトを悲しませて……魔女の名において、あなたに裁きを与えるわ!」
 リーゼロッテの左の薬指が出血した。羽ペンはそれをインク代わりに魔法陣を書き上げる。血液は陣を媒介に何倍にも増幅され、鋭いムチとなってグロリアを打ち据えた。衝撃で背後の壁へ体を打ちつけるグロリア。
「まだ、まだよ、終わりたくない。終わりたくない。そんな、やっと、魔種になったのに、永遠を手に入れたのに、そんな、そんな」
「笑顔が消えているぞグロリア! 強さの伴わぬ美しさ等ハリボテよ! 吾は白百合清楚殺戮拳、咲花百合子! その美への執念に免じて、一瞬ではあるが、かつての姿に近しい吾を見せてやろう!」
 百合が咲いた。いや、百合子が咲いた。長い黒髪が芳香を漂わせ、軽やかに風に舞い踊る。瞳には星の輝き、水蜜桃のような頬へほんのりと戦いの興奮を乗せて。抱き締めて守りたくなるような、いっそ手折りたくなるような、相反する矛盾した、そして切迫した思いを抱かせる華奢で細い体。白魚のような指をそろえて、手を口元へ。そして彼女は、さんざんグロリアがそうしてきたように、キスを、投げた。
「あああああああああああああああ!」
 グロリアの体が破壊されていく。腕が折れ、足がもげ、黒髪が乱れ、ヒビの入ったバスタブが決壊した。真っ赤な液体があふれだし、かつてグロリアだったものを晒す。そこにあったのは、しわがれた老婆の遺体だった。

成否

成功

MVP

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳

状態異常

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)[重傷]
同一奇譚

あとがき

魔種との戦闘、おつかれさまでした。ロベルタと少女たちは皆さんのはからいで近くの病院へ運ばれました。
最後まで美へ執着し続けたグロリア、ある意味彼女は本懐を遂げたのかもしれません。

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