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シナリオ詳細

<DyadiC>崩壊する輪郭

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●オランジュベネ領トルタ
 その町、トルタの状況について語るには、まずオランジュベネ領について話をせねばなるまい。それほどまでにことは複雑で、単純極まるのだ。
 以前、イレギュラーズが、キング・スコルピオ率いる砂蠍の軍団と戦ったことは覚えているだろうか。そのとき、オランジュベネ領主イオニアス・フォン・オランジュベネは魔種に変じた。そして砂蠍側として挙兵し、イレギュラーズに倒された。敗れた彼、いや、魔種に人間扱いはふさわしくない、敗れたイオニアスは自らの所領オランジュベネへ潜伏。各地へ兵を派遣し、抜け目なく再興の機会を狙っていた。
 しかしその尖兵もイレギュラーズによって打ち破られ、イオニアスは手勢の多くを失った。進退窮まったイオニアスのとった行動は……。

●小さな町の大きな事件
 小さな農村トルタは、不穏な空気に包まれていた。突然村を訪れた武装した兵に、大人も子どもも関係なく中央の広場へ集められたのだ。兵たちの顔は兜に隠されて見えない。数は十二人。どいつも粗暴な雰囲気を放ち、濁った目をしていていて、妙に獣臭い。
 やがて、村人たちの前に一人の男が姿を表した。鎧に包まれた恰幅のいい男で、ていねいに整えられた口ひげには威厳さえ感じられる。ただその目は血走り、どこか虚ろだった。兵たちから兵士長と呼ばれた男は、部下の用意した台の上へ昇るなり、両手を広げて声を張り上げた。
「諸君! 出立の朝は来た! イオニアス様のもとへ馳せ参じ、北伐へと参加せよ。参加せよ、参加せよ、参集せよ! 邪悪なる特異運命座標は今も牙を剥き、我らの喉元を食い破らんとしている! 奴らを八つ裂きにし、畑へ鮮血を振りまくのだ! ヒースの実は果実にして果実にあらず。壮大なる鍋とラッパは絢爛豪華に道を歩み、輝きを同じくするコーヒーとミルクは分別して生首と共に掲げよ! 偉大な紙風船が諸君らの往く手を寿ぐ! 参集せよ! オランジュベネ! オランジュベネ! オランジュベネ!」
 兵士長は、もはや取り返しもつかないほど狂気に侵されていた。その熱狂は異様な速度で村人へ伝播し、誰も彼もが兵士長と同じ熱に浮かされた顔になりつつあった。
 けれど。
 イレギュラーズ。
 彼らが各地でイオニアスの魔の手から領民を救った話は、村人たちも既に耳にしていた。それが最後の砦となり、村人たちを狂気の波から守っていた。
 イレギュラーズは、イレギュラーズは味方ではないのか? 違うのか? どうなんだ? 何を信じればいい?
 ざわざわと困惑が広がっていく。

●ローレットにて
「……トルタって知ってる? オランジュベネ領にある農村」
【無口な雄弁】リリコ(p3n000096)は一枚のレポートを差し出した。それはトルタから逃げおおせた一人の若者から聞き取った調書だ。
『狂った兵士長に村人が洗脳されそうだ。トルタの住民を、救ってほしい。今なら間に合う。狂気の感染源、兵士長を倒してくれ』
 リリコは無表情のまま調書をめくった。彼女の大きな翠のリボンが、残念そうにぺたんとしおれた。
「……兵士長は、もうだめ。早く楽にしてあげて」
 それからリリコは、兵士たちが人間ではない可能性について触れた。
「……いちばん恐ろしいのは、トルタの住民たちが狂って兵士長に味方すること。兵士たちはきっと、兵士長をかばって戦闘を長引かせるはず。だからなるべく早く、そう、12ターン以内に兵士長を含めた13の敵を倒さないといけない。……できる?」
 リリコはかすかに唇を噛んだ。あなたを心配するように。
 あなたはリリコを安心させるように頭を撫でた。
 ローレットを出ていくあなたをリリコはいつまでも見送っていた。

GMコメント

みどりです。12ターン以内に戦闘、あとちょっと説得。がんばってください。

魔獣 兵士たちの真の姿です。

ナロウベア*4
 森の王者、クマさんです。樹液で固めた毛皮は鎧のように堅く、物理攻撃とHPに優れます。
 反面、命中は低いようです。
  かばう 兵士長をかばいます
  パンチ 物至単 体勢不利
  ぶちかまし 物R1単 防無

ティッカバード*2
 長い髪の毛が翼と化している女性型のモンスターです。反応が非常に高く、音波による神秘攻撃をしてきます。
 抵抗は高いですが防御は低く、物理攻撃が有効です。
  争乱の歌 神R3扇 不吉 混乱 石化
  十六夜の歌 神R2貫 呪殺
  
ローンウルフ*6
 頭部と手足だけオオカミな獣人です。その爪から繰り出される斬撃は鋭く、重いでしょう。
 回避に優れ、物理と神秘両方を扱います。
  かばう 兵士長をかばいます
  遠吠え 神R2単 火炎 業炎
  引っ掻き 物R1単 移 連

兵士長 イオニアスに感化された人間です。魔物たちに自分を守らせています。
 激励 神R3単 BS回復&HP回復大
 兜割り 物至単 必殺

トルタの住民
 百人。大人も子どもも居ます。戦闘が13ターンに達すると発狂してイレギュラーズを攻撃するようになります。現在は、まだイレギュラーズへの信頼から地獄への一歩を踏み出さずにいます。
 彼らの目の前で兵士長を打ち取り、落ち着かせるための説得を行えば、狂気から抜け出すことができます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <DyadiC>崩壊する輪郭完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月28日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
武器商人(p3p001107)
闇之雲
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)
空気読め太郎

リプレイ

●疾風は魔獣の前に立ち
「ローレットだよ! そこをどいて!」
『幸福を知った者』アリア・テリア(p3p007129)の声が人ごみを割った。村人たちは遠巻きに兵士長らとイレギュラーズをながめている。そのまなざしには困惑と期待とわずかなとまどいがあった。誰もがこの農村でおだやかに暮らしてきたのだろう。それを突然狂気を振りまき、軍へ吸収しようとは。無辜の民の暮らしをなんだと思っているのだ。テリアは村人たちの暮らしを破壊しようとする兵士長らになみなみならぬ怒りを覚えていた。
「こんなの……こんなのひどすぎるよっ! 助けないとっ!」
 人ごみを通り抜け、兵士長を始めとする悪逆へ対峙する。彼らと自分たち、そして村人の間には十分な距離があった。多少無茶をしても村人は戦いには巻き込まれないだろう。兵士長が剣を抜いた。
「鯨の断末魔に粟を添えるがごとく小鳥が来て目をつつく! 紺碧の断崖は丸いシーツで覆い、諸君らはその上で小躍りせよ!」
「うはー、もうキメキメじゃん。何言ってるのかわかんねーよ」
『空気読め太郎』タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)は辟易した様子で口をへの字にした。
「これが村人に伝播したらどうなっちゃうんだ? マズ過ぎんだろ。こりゃ俺たちがなんとかするしかねーか。出戻りは美しいかもしれねーが、無理やり従えてんのはいただけねぇ。怒りに身を任せちまうのは獣の所業だ、人として堕ちきる前に全部終わらせてやるよ!」
 その言葉を引き金に、兵士たちの鎧がはじける。中からどっと闇が吹き出て、獣の姿を取る。どれも殺気立ち、理性も知性も感じられない。
『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は呆れ返って獣どもを見回した。
「過ぎた狂気は人格すら破壊しうるって? それにしたって酷い有様、従ってるのがほぼ獣の類じゃない。下手に狂気を伝播されても困るし、ちょっと本気でかからないとまずいかな」
 兵士長は変わらず意味不明の文言を叫び続けている。だがたしかにあれは狂気を拡散する魔術であり、正気を刈り取る電波塔なのだ。
「いち早く事態を沈静化して、住民を落ち着かせなきゃ」
 人々が狂気に駆られて濁流のごとく殺し合いへ参加する。そんな最悪の未来を現実にはしたくない。マルク・シリング(p3p001309)は村人の正気を慮る。彼らに戦う力はない。狂気から逃れる術はない。ならばこそイレギュラーズ、運命の特異点たる自分たちが立ち向かわねばならないのだ。大丈夫、僕たちにはそれができる。ファルカウ・ローブの襟をかき寄せ、マルクはやさしげな面立ちへ凛と覇気をみなぎらせた。
『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)と『闇之雲』武器商人(p3p001107)は静かに戦意を高めている。
「まったく、復讐のつもりだか知らないけれど、扇動して民間人を戦いに巻き込もうとするなんてね。正統な領主を気取るなら、守るべき存在なはずじゃないのかな」
「その扇動者も、たいしたことはないときた。憤怒と呼ぶにはあまりに軽い。憤怒というのは取分け扱いが難しいというのに。溶けた鉄のように煮えたぎる衝動と、冷え切った鉄の様に研ぎ澄ました理性が無いと憤怒に遠い。ましてや狂気に飲まれるなど、兵士長の旦那、器が足りないね」
「だけどまあ、かわいい弟子が持ってきたお仕事だ。格好悪いところは見せられないからね、今日はいつもより気合を入れていくよ」
「そうだね。あのコからこういう依頼は初めてだから頑張るとしよう」
 ふたりは少しだけ唇の端を持ち上げ、不穏な笑みを交わした。彼らにとってやることは簡単、ただ進み、粉砕するのみ。
「まったくもー嫌になっちゃうよね! 終わるなら周囲を巻き込まないでほしいよね!」
『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645) が両手をかかげて交差させる。彼女の両隣に精霊が召還された。奔放なるフィーネリアと制約せしジーナローズ、対極の属性を持つ夕の守護精霊だ。
「特に! こういう! 関係ない人たちを巻き込む形が一番、嫌!」
 嫌悪もあらわに叫ぶと、『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)が応じる。
「魔種に国を乱されるなんて、この前の天義動乱を思いだしてしまう。あのときに味わったつらさ、悲しさ、痛み、あんなものを、繰り返させるわけにはいかない! たとえ国が違っても! 守るに足る理由が私にはあるんだ!」
「そうだよ! 嫌だから、絶対に止めるよ! フルスロットルでいくよ!!!」
「ええ、天義の騎士見習いサクラ! いくよ!」
 ナロウベアが咆哮する。ティッカバードがその翼に似た髪をばさりとひるがえした。ローンウルフが戦闘の構えに入り、低くうなる。兵士長は口から泡を吹きながら真っ赤な顔で叫んだ。
「裁断せよ不埒者! 月の運行に影を差す拍手はおおげさに言って不透明! 常ならぬアドバイスの良識を調味して津波のごとく首を取れ!」
 魔物たちと運命に選ばれし者たちが激突する。

●麻のように乱れ
 先手を取ったのは魔獣どもだった。ティッカバードが前に出て争乱の歌を囀る。イレギュラーズの背筋を怖気が走った。つづいて四体のローンウルフがイレギュラーズへ襲い掛かった。引っ掻きを中心に複数のイレギュラーズへ傷をつける。一手目にしてすでに乱戦のきざしが見えていた。ローンウルフは引っかきの移動を使い、イレギュラーズの懐深くまで入り込んでいる。
 だがそれで臆するイレギュラーズたちではない。まず最初に夕が動いた。まぶたを閉じ、深く息を吸う。彼女の周りへ清浄な空気が集まっていく。それは実際に光子の翼となって夕の背後へ顕現する。
「……来たれ、甘い羽音よ、光翼乱破!」
 翼が光を放ち、羽ばたくと同時にガラスを割るように四散した。その破片はローンウルフへ降り注ぎ、その恩寵は暖かく仲間へと伝わっていく。仲間の失調を治癒し、同時にローンウルフへ混乱を振りまいた夕は、魔術の余韻にひたりながら目の前のローンウルフへ鋭い視線を投げかける。
「そのていどで私たちを追い詰めたつもりですか!? 反撃の一手に後悔しなさい!」
 事実イレギュラーズは士気顕揚。ローンウルフの重い一撃にも心折れることはない。とんと地を蹴り、テリアが動く。距離を調整すると彼女はティッカバードと未行動のローンウルフの群れへ魔力弾を撃ち込む。
「それは永遠の叙事詩、それは久遠の抒情詩、生まれ落ちたときより息絶えるその時まで普遍なる生きとし生けるものへの呪歌。そう、それは災厄の元凶、そう、それは紅き光の宝玉。誰もが心奪われずにいられない歴史の影にたゆたう狂気の権化……Ri-a-terria」
 撃ち込まれた魔力弾は魔獣たちの頭上で光り輝き、赤い光線を放った。光線に打たれた魔獣が棒立ちになる。さながら宝玉に魅了されたように。宝玉と化した魔力弾はダメージを与えることはなかったが、たしかに魔獣どもへ失調を植え付け、その足取りを重くしていた。
 ローンウルフと仲間が交差する中、メートヒェンが目視で敵との距離を探る。狙いはティッカバードだ。不調をばらまく相手から的確に倒す。それがイレギュラーズたちの作戦だった。一手一手の重みが問われる戦場において、賢明な選択であると言えよう。
 メートヒェンは悠々と腕を組み、つま先で軽く地を叩いた。こくびをかしげて斜に構えた視線を投げかける。
「こんなところでペットを暴れさせるだなんて躾がなってないよ、飼い主の程度が知れるね。そこの兵士長ともども、私が躾け直してあげるからかかってくるといいよ」
「ピギャア!」
 挑発に逆上したティッカバードどもと2体のローンウルフが襲いかかってきた。背後に入り込んだローンウルフどももぎりぎりと牙を慣らしている。若干射程が足りなかったか4頭のナロウベアは兵士長を囲み、様子を見ている。だが当初の予定通りティッカバードは釣れた。2体のローンウルフが爪を振るう。メートヒェンのメイド服が敗れ、機械の体から歯車がこぼれる。
「魔獣だけあってデリカシーの無いことだ。乙女の柔肌に傷をつけるなんてね。とはいえいつ何時も優雅に振る舞うのがメイドというもの。お返しはあとできっちり、三倍返しで」
 ウインクする余裕すら見せてメートヒェンはそのまま魔獣どもをひきつけた。
 武器商人がその怜悧な瞳にディープインサイトの輝きを乗せた。魔獣どもがまるで止まって見える。
「さあ小鳥が囀りだす前に仕留めてしまおうね。ここはおまえたちが居ていい場所じゃないよ、疾くお帰り」
 ティッカバードへ近づいた武器商人は、下投げで放るように手を動かす。ふわりと裾が揺れ、その下にある不定形な影がすさまじい勢いでティッカバードへ近づき、その身へ絡みついた。
「ピギ、ピィギ、アアア」
 みち、みちみち。肉が裂ける音が聞こえる。闇よりも深い影がティッカバードのすべてを包み込んでしまうと、ばきっ、めぎゅ、ぐりゅぅ、骨の砕ける音がこだました。“旧き夜”に飲まれた魔獣はその呪術的な重量に耐えることができず、縮こまるように形を無くしていき、やがて鮮血を滴らせる球になった。よく見ればその表面は言葉にすることもできない悍ましいものがぐるぐるとうずまいている。
「……食べていいよ」
 ティッカバードだった球は武器商人の影へ返った。「キャハハ!」うれしげな幼児の笑い声が響く。
「メイドさん、失礼するぜ! 俺の渾身の一撃、お前さんなら耐えきれるはずだ!」
 タツミが腰を落とし、構える。そのまま破壊の手甲リベリオンでまるで空気をかき混ぜるように手を動かし始める。始めはゆっくり、だんだん早く。メートヒェンのスカートが強風に煽られてひるがえった。
「旋竜翔嵐撃!」
 メートヒェンを中心に竜巻が起こった。呪力を帯びた緑色の竜巻がメートヒェンの髪をなびかせ、魔獣どもの体を深く抉る。
「ピギャ、ギャアアギャアア!」
「ウルゴオオオ!」
 魔獣どもが吠える。汚らしい血が地面を汚し、竜巻によって吹き上げられていく。風に煽られたティッカバードの死体が放物線を描いて地に落ちた。ズタズタに切り刻まれ、白目をむいている。竜巻がそよ風に変わった頃、残ったローンウルフが悔しげに吠え声をあげた。
「おお哀れなるティッカバード、混沌の愁いに沈み金色のオーパーツをランダムに組み合わせたなら!」
 兵士長が歯噛みして地団駄を踏んだ。
「ちょっと黙ってくれない、電波過ぎて頭が痛いんだけど。さっきから随分好き勝手に吹聴してくれるじゃない。そこまで堕落したの、お宅の領主はさ?」
 ルーキスが挑発するかのように兵士長へ声を投げかけ、片手で空を薙いだ。仲間に食いついているローンウルフが気になるが、今はナロウベアを狙ったほうがいいだろう。なにせ奴らは固くてタフ。そのうえ、兵士長をかばうのだから。できるだけ削っておきたいところだ。
 ルーキスは迷うことなくチェインライトニングの呪文を唱えた。標的は兵士長を含めたナロウベアども。
「こう見えて結構頭に来てるの。容赦しないからそのつもりでね」
 ドン! 青白い光の奔流が天と地をつないだ。ナロウベアの影に入り、直撃を免れる兵士長。
「やっぱりそう来ると思った。周りを犠牲にして自分だけ助かろうってあたりほんと腐ってるよ、キミ」
「そうだよ! あなたに村人たちの未来を任せるなんて、想像しただけでゾッとする!」
 サクラが打って出た。明鏡止水(偽)で己の能力を引き上げ、五月雨で間近のローンウルフを攻撃する。鋭い刺突。冴え渡る斬撃。獣人はかわしきることができず、その身に幾筋もの血の跡を刻む。乱戦の中、仲間の負担を減らすため、あえて単体への攻撃へ切り替えたのだ。ローンウルフはサクラの攻撃から逃れようと身をそらすが、五月雨の名の通りの太刀筋の読めない攻撃にしだいしだいに追い詰められていく。うがち、えぐり、切り落とし、サクラの聖刀がついにローンウルフの首を切り飛ばした。
 だがまだまだ相手はたくさんいる。マルクは両手を広げ、穏やかに息を吸った。まるで戦場の中とは思えぬ気高い空間が彼を取り巻く。
「兵士長さん、僕にはあなたが哀れに見えて仕方ないよ。だけど村人たちを地獄の巡礼へ巻き込むのだけは阻止しなくては」
 世界から貧困を無くしたい。その思いで日々を過ごす彼には、イオニアス一派の暴行は看過できなかった。
「さあ、全力で行くよ。地獄を褒めそやす者は災いである。その者らは同じ過ちを繰り返すからである。不正義はこの場から去らんことを。神気閃光!」
 雲を割ってまっしろな光玉が落ちてきた。それは落下とともにひび割れ、砕け、目映く激しい光線となって敵味方入り交じる戦場の中からローンウルフのみを貫いた。
「グギィエエエエアアアアアア!」
 この世のものとも思えぬ声が不協和音を奏でる。

 イレギュラーズたちの渾身の攻撃はローンウルフたちを倒し、なんと6ターン目で全滅させていた。潮目が変わる。ナロウベアがのっそりと焦げた体を動かした。その身はすでにルーキスのチェインライトニングで相応の傷を受けていた。重度の火傷から内臓がこぼれ落ちるも、あくまで主人を守ろうと陣形を固める。
「あァ、けなげだねぇ。どうがんばっても、もはや終わりは定まっているのにね。かわいそうな子どもたち。我(アタシ)のもとへおいで」
 武器商人の破滅の呼び声がナロウベアどもを引きつけ、兵士長を丸裸にする。
「パリサイのふもとで領主様のいわく「白桃は血の果実にして甘露」お触れを賜った身なら独孤顕正にてわずかにも凍えさせん!」
 最後の砦を失った兵士長が逆上して兜割りを仕掛ける。そこへ横合いから飛び込むメートヒェン。レジストクラッシュが兵士長の顔面を襲う。
「ばぶぅ!」
 のけぞり、たたらを踏む兵士長。メートヒェンがくすりと笑う。
「言っただろう、お返しは後できっちり。約束を守るのはメイドの嗜みだよ」
 兵士長が体勢を立て直す前にサクラの五月雨が彼を襲う。雨の如き逃げ場のない斬撃。
 サクラはわずかに眉根を寄せた。
(本当はあなたも被害者だってわかってる、だけど……)
「私欲、私怨で戦を起こす魔種イオニアスの手先! イレギュラーズは貴方達の勝手を許さない!」
 一瞬、心へ浮かんだ迷いを振り払うようにサクラは締の一閃を放った。
 兵士長は受けた衝撃のままにくらりくらりと体を振っている。まるでピエロが踊っているかのようだった。マルクの神気閃光が、夕のリンクメイトが兵士長を狙い放たれる。
「おおお領主様、領主様、我にサビリデメスの常識を……」
「回復なんてさせないからねっ!」
 口上の途中でテリアが飛び込む。叩き込まれるレジストパージ。
「さーてメインディッシュといこうか」
 ルーキスが高笑いしながら召喚したのは仮初の生命体、エメスドライブ。地上から打ち上げられた満身創痍の兵士長めがけ、タツミが飛び上がる。
「狂気に飲まれた奴のやることはいつも一緒だ、間違った流れに乗っかってそれが一番だと思ってやがる。選択肢は感情みたいにいくつもの類型でわけられはしねぇ、従わねえのも自由だろ、バカ野郎が!」
 渾身の力を込めて振り下ろされる真竜覇斬撃。それは兵士長の鎧の継ぎ目を突き、その首をへし折った。地に伏した男は、もはやただの肉塊に過ぎなかった。


 最後のナロウベアを仕留めたタツミは、ざっと村人を見回した。村人たちは夢から覚めたようにざわついている。
 テリアがスピーカーボムにうららかな響きの声を載せた。
「大丈夫! 貴方たちを騙す人たちは私達ローレットが倒しましたっ! もう安全です!」
 その優しい声が、村人の合間へ染み通っていく。マルクも大きな声をはりあげた。
「落ち着いて! 貴方達が戦いに行けば、死ぬことになります!」
 そこから一転、穏やかに語りかける。
「イオニアスはただ、己の野心と狂気に駆られて戦争をしようとしているんです。大丈夫、トルタの村は我々が守ります。僕たちローレットは、イオニアスを倒します!」
 おお、と村人たちから声が漏れる。夕は両手を上にあげ、村人の注目を集めて一字一句ていねいに言葉にする。
「この兵士長は魔種のせいで頭がおかしくなっていたんです。
 でも。
 私たちが来たからには、もう大丈夫です! 私たちに任せてください!」
「私達は味方です! このような騒乱が起きてしまい不安でしょうが我々はすぐに魔種に落ちたイオニアス討伐に向かいます! ご安心ください!」
 サクラが笑みを浮かべる。武器商人が言う。
「ちょっと息を吸って、吐いて、それから周りを見てごらんよ。ほら、魔物の死体の山。さっきまで兵士のように振る舞ってたコらだ。キミたち、このコたちに付いて行ってたら一緒に討伐される所だったよ? でも大丈夫、我(アタシ)たちはキミたちの味方さ」
 ルーキスが一礼した。
「狂気に持ちこたえてくれてありがとう」
「貴方たちはいつもどおりに過ごしてほしい」
 メートヒェンがルーキスの後を継ぐ。
 ひとり、またひとり、村人は跪いていく。村長らしき年かさの男が進み出た。
「ありがとうございます。我々の命と、財産と、正気を守ってくださって。トルタの村はローレットの味方として出来得る限りのことを致しましょう」
 その瞳には深い感謝の念があふれていた。

成否

成功

MVP

タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)
空気読め太郎

状態異常

なし

あとがき

こんな書きやすい悪役は初めてだ(頭抱え)。
いいですよね、電波口上。それに立ち向かうイレギュラーズの姿がまたいいのです。

さて、MVPは兵士長にとどめを刺したタツミさんへ。
称号「神気の使い手」をマルクさんへお送りします。よろしくご査収ください。

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