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シナリオ詳細

Chase a Chase

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ハーモニアに迫る危機
 その日ローレットに足を運んだイレギュラーズは、情報屋の『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)から伝えられた内容に衝撃を受ける。
 曰く、『深緑に住まう幻想種』の拉致事件が最近に至って確認されているらしい。
 確かに以前にも似たような事件はあったが、どうやら今回は規模が違うということだった。
 調査すれば、連れ去られた幻想種は深緑の隣国、ラサに『奴隷』として流されているという。
「閉鎖的な深緑だけれど、例外的にラサとは同盟関係にあるわ。
 それをご破算にするような行いをラサが行うとは思えないのだけれど……事実奴隷として流されてしまっているからね」
 両国のトップとしても関係にヒビの入るこの状況を放って置くわけにはいかず、対処するために動き出したというわけだ。
「ラサからはいろんな国に奴隷が流されているわ。
 両国に跨がる問題に、他国にも広がる状況……となれば、ローレットの出番という訳ね」
 そこで、とリリィは依頼書を取り出しイレギュラーズに見せる。
「以前、奴隷となった幻想種をメイドとして雇い入れていた貴族サワージ・ヤーコンから情報をもらってね、奴隷商人の商品入荷スケジュールを知ることができたわ」
 それによれば、まさに近日中に新しい幻想種の奴隷を入荷する予定となっていた。
「いろいろ調べて見たけれど、どうやら深緑の迷宮森林のある場所に拉致した幻想種達を集めて、ある程度集まったらそこから輸送するようなの。
 肝心の場所が見つからなかったのだけれど……ある程度場所は絞れたから直接探索してもらうことになってしまうわね」
「連れ去られた幻想種は大人も子供も入り交じってる感じなのですか?」
 話を聞いていた『星翡翠』ラーシア・フェリル(p3n000012)が尋ねると、リリィは一つ頷き肯定する。
「子供の方が多いようだけど、よほど年寄りじゃなければ幻想種は若く見えるからね。あと特に女性が多いわね。まあ奴隷にするならば女性の方が高値が付くのでしょう」
「やっぱりそうですよね……ううん、許せません」
 幻想種たるラーシアが憤るのも、同じ幻想種たるリリィは良く理解できる。
「ラサまで逃げ込まれるともう追いつくことはできないと思うわ。
 勝負は深緑の国境までになるでしょうね。
 兎に角緊急性のある依頼だから、素早く幻想種達を見つけられればよいのだけれど……もし輸送が始まっていたのならば、追走してこれを止めるしかないわね」
 迷宮森林内での追走となれば、ルートを把握している奴隷商側に有利だろう。そうなるまえに片を付けたいものだ。
「今回は、私もお手伝い致しますね。
 森の中でも行動ならお任せください!」
 意気込むラーシアと依頼書を渡してくるリリィ。
 二人に頷くと、イレギュラーズは作戦を考え始めるのだった。


 真っ暗な室内に小さく嗚咽が響く。
 夏の陽射しもこの場所にまでは届かない。代わりにやや肌寒いひんやりとした室温が、自らの行く末を暗示しているかのようで不安になる。
 その場所には幻想種の大人子供が十五名。鮨詰めにされ肌を寄せ合っていた。
 その場にいる多くの者は、ちょっとした森林散歩をしている際に拉致された者達だ。なぜこんなことになってしまったのか、自らの不幸を嘆き、暗く沈んでいた。
 この先に待つのは、どう転んでも幸せとは結びつかないだろう。耳を切り落とされる、なんて噂に聞く目にも遭うかも知れない。
 恐怖に支配される中、僅かな希望に縋って救いを待ち続けていた。
 その時、天井から光が差し込んだ。
 希望の光とも思えたそれは、しかし次に聞こえた声に打ち崩された。
「出ろ、出立の時間だ」
 武装した奴隷商とその護衛の嫌らしく悪辣な声に、幻想種達は項垂れ為す術無く従うほか無かった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 ハーモニアの拉致被害が広がっています。
 輸送されるハーモニアを助け、奴隷商を退治しましょう。

●依頼達成条件
 ハーモニアの救出。

■オプション
 奴隷商とその護衛の全滅。
 ハーモニア十五名の無事。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報は全て信頼出来ますが、情報にない出来事も起きるかも知れません。

●隠匿場所について
 迷宮森林の北東、大きく分けて三つの場所のどこかにハーモニア達が捕まっています。
 ハーモニアは全員同じ場所に捕まっていますので、一箇所だけが当たりとなります。
 絞れている場所は以下の三つ。

■廃屋
 迷宮森林北東の中でも特に北側にひっそりとある朽ちた小屋。
 屋根は崩れ、壁も朽ちているので隠れる場所には向いていないように思える。
 近隣の村からはホドホドに離れていて、迷い込む者も少ない場所だ。

■巨木
 近隣の村から一番離れた場所には目印となる巨大な木が立っている。
 この根元には大きな空洞が空いていて、中で休むこともできる自然の宿だ。
 国境に一番近い。

■廃村
 迷宮森林北東南部、今は使われていない廃村がそこにある。
 自然と同化した家屋は隠れるにはもってこいの場所といえる。
 多くの家屋が廃屋同様朽ちており、探索には時間が掛かるかも知れない。
 近隣の村から一番近い場所であり、国境までは特に遠い。

 どのように探索するかはイレギュラーズに一任されています。
 探索プレイング次第では、奴隷商達が輸送を始める前に取り押さえられるかもしれません。
 
●奴隷商と護衛について
 武装した奴隷商三名と、護衛に雇われたゴロツキ十二名の計十五名。
 武装していますが、奴隷商はそんなに強くありません。
 護衛の方はそこそこ腕が立つようです。一対一でもそれなりに粘ってくるでしょう。
 奴隷商は劣勢と見ると荷馬車に乗ってる分の奴隷と共に逃げ出すでしょう。
 ゴロツキ達は奴隷を人質にすることも考えるかもしれません。
 
●捕まった幻想種について
 大人五名、子供十名の計十五名。
 男女比二対八と言った所で、大人の男性はいません。
 全員最低限の食事しか与えられておらず衰弱しかけています。
 過度な運動や抵抗は出来ないものと考えて良いでしょう。

●同行NPC
 ラーシア・フェリルが同行します。
 同族を助ける為にいつも以上に気合いが入っています。
 森の道案内や、森での違和感などを見つけるのに長けているでしょう。

●戦闘地域について
 迷宮森林内での戦闘になります。
 様々な植物があり、障害物として利用することもできるでしょう。
 森の地形を把握していれば、荷馬車を追走することも可能でしょう。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • Chase a Chase完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月30日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)
戦場の医師

リプレイ

●Abandoned village
 緊急の依頼ということであれば、この無辜なる混沌においてイレギュラーズほど適した人材はいないだろう。
 なぜか。それは空中神殿からの各地域への転移があるからに他ならない。
 此度の幻想種誘拐事件に際してもこの『特典』は十全に発揮され、比較的タイムラグのない状態で深緑は迷宮森林に入ることが出来た。
 依頼に参加した八人は迅速に移動する。
 第一のポイントは迷宮森林北東部、その南に位置する廃村だ。
 森の先導になれたラーシア・フェリルを先頭に、一行は廃村へと速やかに到着する。当然ながら道中に手がかりが残されていないか、潰して回って行っている。
「エネミーサーチには……引っかからないわね。
 それなりに広い村だけど見通しは悪く無いもの、見つからないとなると他の場所になりそうね……」
 エネミーサーチの感知範囲は広いようで狭い。広域の探索にはやや不向きであり探索範囲を広げるために足を使うほかない。
 『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)はとにかく足を使って村をくまなく探索する。
「廃屋になってる家のなかには誰もいないようだネ。これははずれかナ……?」
 『チアフルファイター』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)の言葉に同じく廃墟となったいえの中を探していた『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が胸を押さえる。
「この胸の奥を黒く握られるような感覚……嫌な、とても嫌な感じ。
 何か、何か手がかりは残っていないの?」
 その感情は――ココロには理解できないことかもしれないが――焦燥と呼べるものだろうか。
 イレギュラーズは感じている。
 手がかりがほとんど得られず広い村を探索すること。それによって最悪の展開を予期し背筋が冷えていく。
 焦燥感というのはその名の通り焦りだ。焦りは注意力を散漫にし、見るべき物を見逃す働きを齎す。
 しかして、イレギュラーズは努めて冷静だった。
 この廃村は第一点であるだけであり、作戦自体は臨機応変の形が強かったのだ。
「植物たちは僅かな手がかりを残している。大人、それも数人だ。
 見回り、周囲を確認して、見失う。
 そう、それは隠匿場所に使えるかの確認。そしてそれを行わなかった」
 判断を見誤る余裕はない。慎重に、的確に、迅速に行動が要される。『特異運命座標』ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)まさにそうした行動を体現していた。
「妾も同意見じゃな。
 森の動物達が幾人か目撃しておるのじゃ。どうも下調べにこの周辺を探索しておったようじゃの」
 『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)がジェラルドに頷き意見を言うと、イレギュラーズは次なる行動に向けて動き出す。
「そうなると木の空洞はもちろん、廃屋の”地下室”なんてのもあるかもしれないですね……。怪しそうなのはどちらでしょうか?」
 『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が尋ねると『夢終わらせる者』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が素早く答える。
「巨木へ繋がる道は、樹の根が、入り組んでいる。徒歩ならまだしも、荷馬車を使って、移動は、困難だろう」
「なら廃屋へ向かうべきだな……飛行で先行する。ラーシアさん方角を教えてくれるかな?」
「ええ、廃屋はこのまま森を北に。比較的道幅のある道が続いていますので、見つけやすいと思います」
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が集中し小型化すると飛行によって空から廃屋を目指す。
「なら妾が呼び出した小鳥で巨木の方を見てくるとしようかの。万が一見つけても迅速に引き返せるのじゃ」
「私も精霊達に協力してもらうわ。可能ならより上位の精霊を呼んで、足止めをしてもらいたいわね」
 デイジーとユウがそれぞれ予備策を講じて万全を期す。こうした細かい対応はこのような探索には必要不可欠であり、見事な対応だったと言えるだろう。
「それじゃ行こう! 空と地上両方から痕跡を追っていくよ!」
「南と北、対極の位置にあるので時間はそれなりにかかると思います。急ぎましょう」
 今一度、ラーシアがイレギュラーズを先導して森へと飛び込んでいく。
 事態は一刻の猶予を争う。
 今こうしている間にも、罪なき幻想種が拉致されようとしているのだ。

●Selection result
 緑青に包まれた世界を走る。
 木漏れ日が線となって此方より彼方へと流れていく。
 容易い道のりではない。森は侵入したものを閉じ込め方向を見失わせる。森の案内に長けたラーシアでさえも、気を抜けば行く手を見誤るということも十分にありえるのだ。
 例外なのは飛行しているサイズだろう。
 高度をそれほどとっている訳ではないが、木々に視界を迷わされることもなく、群緑の大海を見下ろし目的地へと向かえていた。
「やはり、荷馬車が通った、形跡がある」
 サイズ同様飛行をしているものの、エクスマリアの場合は足音を立てないことを前提にした低空飛行だ。迷路のような森を進むことに変わりはないが、代わりにこうした痕跡を見つけることができた。
 形跡の多くは草花を踏み荒らした跡であり、また荷馬車にとって邪魔と思われる伸びた木々の枝が切り払われているものだ。
 当然馬車の轍もそこには残っており、予想通りの痕跡を見つけられたと言っていいだろう。
「どうやら、間違いはなさそうだな」
 草花との自然会話で、不審な影の存在を認識するジェラルド。某かのフェイクでなければ、間違いなく廃屋に囚われた幻想種がいるはずだ。
「ラーシアもどうじゃ? なにか感じるかの?」
「ええ、皆さんのおっしゃるとおり、森が人為的に荒らされている印象を受けます。少なくとも深緑に住む幻想種はこういった”森の歩き方”はしないでしょう」
 その痕跡の進む先は廃屋へと繋がっている可能性が高いという。
「なら急ぎましょう。
 精霊達にもお願いしているけど、近くまで寄らないことには何も判断できないし」
「時間的に移動を開始し始めているかもしれません。
 最悪の場合は私が軍馬で追いましょう」
 ユウとココロの言葉にミルヴィは頷いて、上空のサイズに合図を送る。
 サイズは目を凝らす。
 森の中、微かに見える人工の廃木。廃屋の屋根と思われる朽ちた木だ。
「ここからじゃ荷馬車がいるかどうかはわからないな……だがもしいるなら――」
 サイズは先行して荷馬車が通るであろう未来予測線へと先回りする。
「皆さん、見えました」
 サイズの移動とほぼ同時、ラーシアが小声でイレギュラーズに合図する。
 木々の隙間から覗き込む光景は、まさに今幻想種達を奴隷として荷馬車に積み込み終える瞬間だった。
「廃屋の床下から引っ張り出してる……やっぱり地下室だったんだ」
 利香は薄汚れた幻想種達を見て、憤りを覚える。幻想種をまるで物のように扱う奴隷商達を許すわけにはいかなかった。
 すでに状況は逼迫していた。
 イレギュラーズが辿り着いた時点で、積み荷となる幻想種達はほぼ荷馬車に詰め込まれていた。
 最後の一人を乗せると、驚くほど素早い動きでその場を立ち去ろうとする。
 当然イレギュラーズもこれを逃すほど愚かではない。
「全員、いくよ!」
 合図と共に飛び出す。
「――! 邪魔者が来たようだな――ッ!」
 あまりにも手慣れている奴隷商はすぐさま護衛の連中を展開させる。
「馬車を狙って! 逃がすものですか!」
「馬車を守れ! すぐに出るぞ!」
 イレギュラーズと奴隷商、同時に指示が飛び交った。
 走り出す荷馬車。走り出すイレギュラーズ。
 深き迷宮森林での追走戦が始まった。

●chase a chase
 鬱蒼と茂る森の中を荷馬車が走る。
 それを追走するイレギュラーズ達。奴隷商の護衛達はそんなイレギュラーズの足を止めようとする。
 そんな中高い反応で護衛達の隙間を縫うようにして荷馬車へと飛び込んだ三名がいた。エクスマリア、ココロ、そして利香だ。
「逃げられる、とは、思わない、ことだ」
 木々が流れていく。
 飛行による足下の心配を受けないエクスマリアが荷馬車の前へと飛び出した。
「ちっ、どけぇ――ッ!」
 御者と共に前方に座る奴隷商が銃の引き金を引く。弾丸がエクスマリアの腕を掠めた。
 ユラリと、まるで炎が立ち上るようにエクスマリアの昏い金色の髪が揺れる。
「抵抗、するな」
 手にしたRinky-dinkの照準を絞る。狙いやすいのは馬だが、地形的な状況が狙いを絞りづらくさせる。ならば――
 放たれた見えない悪意は揺れ動きながら走る荷馬車、その御者へと向けて突進する。
 御者が苦しそうな声をあげて腕を押さえた。血が噴き出る。倒れ込むように蹲った。
「くそっ!」
 奴隷商が武器を捨て手綱を引く。荷馬車はまだ止まらない。
「そうですよね、御者が居なくなれば貴方達が手綱を引くしか在りません」
 軍馬を駆って並走するココロが手綱を引く奴隷商に狙いを定める。卓越した騎乗技術は地形的に難しい状況であっても並走し攻撃を加えることを可能にしていた。
 放たれる青き衝撃波が奴隷商を襲う。
「ぐわあ――!」
 直撃を受けた奴隷商がもんどり打って荷馬車から転げ落ちた。それなりの速度をもって走る荷馬車だ、転倒状況から見てしばらくは動けないだろう。
 すぐに荷馬車へと乗り移って手綱を奪いたいところだが、当然敵もそれを阻止しようと動く。
 積み荷側から躍り出た残る奴隷商二人が手綱を奪い、銃を構えてココロを狙撃する。
「あきらめの悪い――!」
 利香がココロをフォローするように奴隷商を魅了する。夢魔たる利香の本領発揮という奴だ。奴隷商達の気が逸れ付けいる隙を生み出した。
「護衛のやつらは何をしている!」
 奴隷商が悪態を吐く。このままでは全てご破算だと焦りが生まれていた。
 当然護衛達も荷馬車を狙うイレギュラーズを抑えたかったが、追走する他のイレギュラーズがそれを許さない。
「うじゃうじゃといるようだけれど、それはこっちにとっては好都合よっ!!」
 魔力が迸る。猛る雷が連なりうなり、のたうち回る。
 ユウの放つチェインライトニングが蛇の如く護衛達を飲み込んだ。肌を焼ききる痛みと痺れにゴロツキ達が悲鳴を上げる。
「もらった――!」
 ミルヴィが一足飛びに間合いを詰めて横薙ぎに儀礼曲刀を振るう。流麗たる身のこなしは混迷する戦場において輝きと共に注意を引きつけた。
「俺は医者だ! 自ら患者になるようなマネはすんじゃねぇぞ!
 お前らの悪事は明るみになっている! 大人しく投降しろ!」
 ジェラルドが声を上げ投降を促す。しかし相手は散々に悪事を重ねてきた手合いだ。そういった”優しい言葉”は返って逆効果でもある。
 案の定、医者ならば戦闘能力がないだろうと高を括ったゴロツキ達がジェラルドへと迫る。
「……もー! 来んなって言ってんじゃない! 馬鹿なの!?
 医者が戦えないと高を括ってると痛い目見るわよ!」
 唐突にオネェ口調になるジェラルドであるが、オネェではない。……ないはず。
 しかしそんなオネェなジェラルドだが、その身のこなしは本物だ。
 自ら間合いを詰めての格闘戦。ゴロツキの上段からの振り下ろしを素手で受け流せば、流れるように踏み込んで練り上げた格闘術式を叩き込む。
 細身の身体とのギャップに慎重になって間合いをとれば、薬学知識に通じた劇毒瓶が投げつけられた。
「やりおるのう。妾も負けておられんのじゃ」
 デイジーの歌い上げる絶海の海の歌は、ゴロツキ達を容易く飲み込み魅了する。呪殺伴うディスペアー・ブルーに多くの護衛達が膝を付いた。
「ほほほ、たいしたことないのう。
 ほれ、どうした、このままでは全滅必死なのじゃ」
「ちっ、テメェら、これを見ろ!」
 荷馬車に飛び乗った護衛の一人が、若い女性の幻想種に刃物を突きつける。わかりやすいほどに人質だ。
「手を出して見ろ! こいつら順に殺してやるからな!」
 それは護衛達の独断と言っても良いだろう。商品たる幻想種を殺すなど奴隷商からすればもってのほかだが、護衛達にとっては関係ない話だ。
 思わず手が止まるイレギュラーズだが、デイジーは注意深く様子を伺いながら、まるで気にした風もなく言葉をかける。
「好きにするがいいのじゃ。妾達もなにも全員助けろとは言われてないのじゃ。
 ともすれば、お主達の全滅の方が優先度高いとも言えるしの」
 護衛達の逡巡が窺える。本気なのかと訝しみ、しかしどう対応すればよいか迷っていた。
 そんな時だ、荷馬車が大きく揺れたのは。
「チャンスじゃ! 人質を守るのじゃー!」
 デイジーの声と同時にイレギュラーズ達は動き出している。護衛の手にした刃物を弾いて一気に荷馬車の中へと乗り込んでいく。
「良い感じにバリケードが役に立ったようだ……ついでに車輪もやらせてもらおうか」
 それは小型化し先行していたサイズのトラップ、そしてユウが精霊達に願った”いたずら”の合わせ技だ。それが大きく荷馬車を揺らして人質を助ける一助となった。
 続けてサイズは荷馬車の車輪を鍛冶道具を用いて破壊する。
「そのままでは横転してしまいますね――!」
 それに合わせてチャンスを窺っていたココロが軍馬から荷馬車へと飛び移り、利香に魅了されている奴隷商の隙をついて馬を切り離す。
 手綱を切られた馬達は我先にと走って逃げていった。
 慣性で進む荷馬車が止まるのはすぐのことだった。混乱する幻想種達が荷馬車から這い出てくる。
「くそう! 全て失って帰れるか!」
 意識ある奴隷商が幻想種の子供を抱えて逃げようとする。
「そうは行きませんよ!」
 利香が影の翼で先回りし、奴隷商の行く手を遮る。
 瞬時に奴隷商の瞳を睨めつけた。魔眼だ。
「さあ、人質を放しなさい。ついでにお仲間と顧客も洗いざらい吐いてもらいましょうか?」
「く、くそ……身体がいうことをきかねぇ……!」
 この時点で勝敗は決したと言って良いだろう。
 奴隷商達はほぼ行動不能となり、護衛達も劣勢から逃げ出し始める者達もいた。
「皆さん無事ですね……よかった」
 ラーシアが捕まっていた幻想種達の無事を確認し、戦いは終わった。
 国境までは、そう遠くない地点であった。

●mystery continues
「軽い打ち身と打撲と言った所か。
 痛いだろうが骨に異常はない。心配せずともよいだろう」
 傷を負った幻想種達をジェラルドが診察し、手当てしていく。
 戦闘の後、抵抗をやめた奴隷商達を拘束し、イレギュラーズは一息ついた所であった。
 普段なら、あとは自警団などに引き渡して終わりだが、今回は一つ確認しなければならないことがあった。
 即ち、幻想種を奴隷とする目的と黒幕の調査だ。
 今、大規模に幻想種の拉致が確認されている。
 裏にはなにかある。商品として幻想種を集める以外のなにか目的が。
「さあ、聞かせてもらいましょうか。幻想種を奴隷にして何をするつもりだったのか」
「別に対した目的なんざねーよ。
 『幻想種』特に『深緑』に住まう奴が高値で売れるんだ。へへ……そうさ、それだけさ」
 奴隷商は悪びれた様子もなく言う。しかしその態度はどうも何かを隠しているようでもあった。
 それが何かは、残念ながらわかることはなかった。
「オイシイとこ取りしようとしてルールを破るからこうなる。
 お前たちの他にもこんなことをしてるヤツらがいるんだろ? 吐けよ、黒幕は誰だ」
 ジェラルドが奴隷商の首を締め上げ言う。
 しかし奴隷商は知らぬ存ぜぬを繰り返した。あくまで自分達は金のためにやっていたと言い張るのだ。
  そんな奴隷商に一歩エクスマリアが近寄る。
「なるほど、金のため、それは間違いなさそうだ。
 だが、お前たちは、知ってるはずだ。聞かせて、もらうぞ。”ザントマン”のことを」
 その名を出したとき、奴隷商達の顔が一瞬変わったのがわかった。
「へへ……そいつを知ってどうするんだい」
「さてな。それは、聞いて、知ってから、決めることだ」
 エクスマリアは強く奴隷商達を問い詰める。或いは拷問のような方法を取る必要もあるかと考えたが、思いがけず奴隷商達は素直に口を割った。
「こいつがわかるかい? こいつは魔法の砂さ」
 奴隷商は拘束された手を器用に動かして隠し持っていた小瓶を取り出した。
「魔法の砂? 何に使うの?」
 利香の問いに奴隷商は得意気に話す。これを対象に振るえば意識を失わせることが可能だと。
「こいつを俺達にくれたのがザントマンさ。
 ――おっと、知っているのはそれだけだぜ。
 ザントマンって奴がこの砂をくれるってこと。俺達はそれで奴隷を集めて金を稼ぐってだけさ」
「本当にそれだけなのかのう?」
 訝しむデイジーに奴隷商は答える。
「本当さ、何も知らねぇし見たこともねぇよ。
 本名とも思えねぇさ。何て言ったって『ザントマン』は御伽噺の登場人物だからな」
 深緑に伝わる御伽噺。その登場人物であることは、深緑出身のものなら聞き覚えがあるものだ。
 イレギュラーズが視線を送れば、確かにラーシアが覚えがあると頷いた。
 奴隷商はそれだけ言うともう口を開くことはなかった。
 謎は深まる。
 ザントマンの目的とは一体。
 何かが始まる。そんな予感をイレギュラーズは感じ、覚えるのだった。

成否

成功

MVP

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王

状態異常

ミルヴィ=カーソン(p3p005047)[重傷]
剣閃飛鳥

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 MVPは利香さんに送ります。おめでとうございます。

 またのご参加お待ちしています!

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