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シナリオ詳細

再現性東京2010:小さな秋見つけた(読書週間)

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夜妖憑きの本、アリマス
「あー、なんかピーターパンっぽいですねー」
 妖精となったリーナはふわりと空に浮かんだ。周囲には自分と同じような妖精がたくさん浮かんでいる。
『リーナ、海賊船長はあそこよ!』
 初めて会ったはずの美少女妖精が親しげに声をかけてくる。
「はーい。アイツを倒せばいいわけですねえ」
 腰には針の剣が刺さっている。
(これで倒せるとは思えませんが、どういうお話でしたっけ……あっ、突いて落とすんでしたねー)
 きょろきょろと周囲を見渡す。
 妖精の数は百あまり──いや、多過ぎない?
 主人公たちもいることだし、自分が積極的に参加しなくても大丈夫だろう。
『痛い! なにするんだ!』
 海賊船長が悲鳴を上げる傍ら、リーナはひゅんひゅんと飛んで海賊船長の宝箱から上着のポケットの中から帽子の折り目まで捜索した。
「うーん、このシーンのハズなんですけどねー?」
 すこーんと転んだそのパンツのポケットから小さな影がひゅるんと飛び出した。
「ありましたね!」
 慌ててそれを捕まえると、リーナは取り出した消しゴムでゴシゴシと擦った。
「わああ」
 気の抜けた夜妖の声が響いて、リーナは本の外へと戻っていた。


 空き教室でリーナ・シーナ(p3n000029)はウーンと唸っていた。
 目の前の学校用机は口の字形に並べられている。
 ────机に囲まれた真ん中には何故か魔法陣が描かれている。
「こんなもんですかね……」
 彼女は学校側に頼まれて図書室へと納品する本を届けに来たのだが。
「しかし、ヨルですか。まあ、モンスターの一種なんでしょうけど」
 彼女が届けた本を一時的に仕舞っていた教室が悪性怪異『夜妖<ヨル>』に襲われてちょっとよくわからないことになっていた。
 口の字型に並べられたテーブルにページを開いた本が並べられていく。
 広げられた本には以下のようなシーンが描かれていた。



・探偵推理本の犯人を追い詰めるシーン
「いいですか、犯人は──この豆電球を緩めることができるほどの背の高い人です」
 セクシーな三人娘たちはそれぞれを見て私たちは違うわ! と叫んだ。
「次に、あの窓に映った影こそが犯行現場でした! つまり髪の短い人です」
 バンドマンが長髪頭をガリガリと掻いて「じゃあ俺は違う」と言い、髪の短いスポーツマンが顔を強張らせた。
「そして、最後に犯人は、犯行時に髪の短いこのカツラを被っていました。つまり、髪が短い人間が犯人だと思わせたい長身の人物、つまり──あなただ!」

・妖怪退治屋の侍の冒険活劇の戦闘シーン(漫画)
 そうして、侍は刀を抜いた。
「では我が娘を喰らったもののけは貴様か。ここで会ったが百年目、我が必殺の剣を受けてみよ!」
 日本刀が焔を吐き出す。
「フフフ、そんな技が効くか! ひとのみにしてくれる!」
 悪鬼大入道は喉を鳴らしてその身体を更に大きくすると、拳を侍に叩きつけた。危うし!

・大正浪漫風の大長編恋愛話一巻のパーティシーン
 洒落た西洋館の桜の花びらが舞う庭園にはたくさんのガーデンテーブルが用意された。そこには見目美しい菓子が用意され、高価な茶器が輝いている。
 洋装の出席者が多い中、彼女は着物姿で不安げに周囲を見回す。
 スーツ姿と隊服を着た紳士たちが歓談をしている。
「あの方だわ……でも、わたくしから声をかけるのははしたないかしら」



 きれいに並べた本を満足げに見渡したリーナは、部屋の隅の紙袋に気付いた。
「こんな感じで並べれば出入りもスムーズですし……あれ? こんな本ありましたっけ? 元々の備品かもしれませんが、ここにあったってことは対象物になっちゃってますしねー」
 そうして、彼女は見覚えのない薄い本も開いて並べた。



・同人誌
(???)



●小さく秋見つける
 依頼を受けたローレットの面々は教室に並べられた本の前に立たされると、教卓に立ったリーナから説明を受けた。
「えーっと、この本は全部夜妖の術がかかっています。近づくと本の中に吸い込まれるのでご注意ください。この本の中にそれぞれ夜妖の本体が隠れているので」
 リーナはチキチキとカッターの刃を伸ばして、教卓の上で大きな消しゴムを人数分に切り分けた。
「これでゴシゴシして消して頂ければと。偶然に頼るかとは思いますが、本のシーンに合って適当に行動をして頂ければ自然と見つかるハズなので──」
 台詞の最後ででリーナはそっと目を反らした。


 教卓に隠された妖精たちの冒険本の一ページにはこう書かれていた。



 ────妖精リーナだけは違った。
「ここですかねー?」
 みんなが攻撃をしている合間を縫って海賊船長のズボンを引っ張ったのだ。すると、ずるっとお魚柄のパンツが丸見えになった。
「わああ」
 顔を赤らめた海賊船長の動きが止まると、みんな一丸となってその巨体を船べりから突き落とした。
 どぼーん!
「もう! リーナったら!」
 海賊船長のポケットから拝借したのだろうか、大きな消しゴムを持ったリーナは満足そうに笑っていた。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


●登場人物
リーナ・シーナ(p3n000029):何でも扱いどこでも行く商人。依頼の斡旋などもする。

●敵
・本に憑く夜妖<ヨル>:紙魚紙魚(しみしみ)
知らずに開いた読者を深い睡眠状態にするので、憑かれた本からは早急にこの夜妖を取り除くこと。
本の中に入る魔法陣と紙魚紙魚を消す消しゴムはセット販売されている。


●本の世界
スキル等の能力使用は可能能です。
本文に書かれた場面の直後からPCたちはその場に居て違和感ない形のモブキャラとしてはじめは登場します。
モブキャラですがPCたちの名前を登場人物たちは知っていますし、服装は(見た目は)その時代に合ったものになります。

PL情報:行動によって本文と結末が変わります(鋭いキャラはうっすらと危惧するかもしれません)
PCたちは元から本の世界にいたことになり、紙魚を捕まえた後はPCたちは本の世界から消えますが
『彼らの姿は消えた。旅立ったのだろうか』など本の人物たちが勝手に帳尻を合わせます。
話が変わるのはPCたちが入った一冊のみで他の本では話は元のままなので、改変を気にしないでOKです。
夜妖を消しゴムで消した後は一旦出て次の本へと飛び込みます。


●探偵推理本の犯人を追い詰めるシーン(略称:推理本)
登場人物は皆、青い影のような外見で顔がよくわからないが本人たちには区別がつくらしい
ステージ:夕方、密室となった無人島のホテルのロビー
PC立場:一般宿泊客
・NPC
探偵:探偵っぽいハンチング帽を被った二十代前半の青年。なぜか巻き込まれた上に推理している
セクシー三人娘:スポーツマンの取り巻きの同僚。長髪(名前:ヒメ)、ショートカット(オトメ)、肩までのミディアムパーマ(スズラン)
短髪のスポーツマン(オオサキ):犯人の妹をいじめた会社の上司
肩まで髪を伸ばしたバンドマン(メグロ):犯人。自殺した妹の復讐をしていた兄
被害者(シブヤ):出て来ないが犯人の妹を騙して捨てた遊び人の男


●妖怪退治屋の侍の冒険活劇の戦闘シーン(略称:侍活劇)
ステージ:夜中、人気のない古びた長屋の前
PC立場:通りがかりの旅人
・NPC
必殺技を出す中年の侍:主人公ではなくこのシーンで死ぬ仲間
悪鬼大入道:弱いふりをして隙を突く気満々の中ボス的妖怪
ステージ:夜中、人気のない古びた長屋の前


●大正浪漫風の大長編恋愛話一巻のパーティシーン(略称:浪漫本)
ステージ:昼間、立派な御屋敷のガーデンパーティ
PC立場:パーティの参加者
・NPC
主人公の娘:親を亡くした自分を援助してくれた若い少尉にお礼を言いたくて努力し出世するが、すれ違いが何度も起きて結局再会して結ばれるのは晩年
少尉:主人公の娘を想っているが下心有りの援助だと思われたくなくて悶々と悩んでいるうちにミラクルなすれ違いを起こしまくる。今回も主人公が戸惑っている間に他の娘に連れて行かれてしまって会えない。


・同人誌(略称:同人本)×?冊
あなたが隠していた同人誌
・開いた頁の内容を100字以内でプレイングに書くこと
 (本全体の内容を百字ではなく、開いたページに描写されている場面中心に)
・参加していないPCの登場は不可、登場するPCは互いのプレイングにその旨一言お願いします
・規約に反する表現は禁止(固有名称・Rのつく表現は不可)


●GMより
お久しぶりです。
軽いお遊びシナリオです。好きな本の世界を冒険してください。
夜妖はその過程で(よほどおかしなことをしなければ)見つかります。
手分けしてそれぞれが本の世界で遊ぶもよし、それぞれの世界を軽く数行旅して行くもよし、です。
既存の作品の必殺技や台詞そのままは使わないでくださいね。
所々マスタリングが入ると思います。
PCたちが自分たちの行動による本文の変更を知らないため、情報精度はBとしています。
(リーナに聞いてもはぐらかしますし、隠した本は見つかりません)
宜しくお願いいたします。

  • 再現性東京2010:小さな秋見つけた(読書週間)完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年11月16日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)
書の静寂
ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)
無銘クズ
アイザック(p3p009200)
空に輝くは星

リプレイ


●本
「それはとってもワクワクなのですよ!」
 『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)は歓声をあげた。
「未知の世界がメイ達を待っているのですね!」
「そうだな。夜妖の仕業とはいえ……本の世界に入り込める、というのはワクワクするな。本の虫冥利に尽きる」
 表情を緩める『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)だが、赤羽から「おい大地、盛り上がるのは勝手だガ、本来の目的を忘れるんじゃねぇゾ?」と一言戒められる。
 そうして、彼らは楽しそうに本を選び始めた。皆やはりワクワクするのだ。
「本の中を冒険っていうとロマンチックに聞こえるけれど、これもお仕事だ。さて、どうしようかな……うん、俺は推理本を冒険するね」
 『鏡の誓い』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)は本の前に立った。
「ほほう、どの本も面白そうでありますが……やはり今の流行りは刀! 侍! 妖怪退治! でありますな!」
 『良い夢見ろよ!』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)のヘルメットのバイザー部分が期待を表す顔文字で輝く。
「推理に怪異は相性悪そうだし、恋愛はよくわからない。僕も一番まともに対応できそうなのは侍活劇かな。ただ、和装だけど夜だと頭が目立つね。ほっかむりみたいなのあると良さそうだ」
「服装はある程度フォローされますよ」
 『都市伝説“プリズム男”』アイザック(p3p009200)へリーナは答える。
 『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は元々冒険譚が好きだ。
「この練達で、再現されたと言う異世界の書物はとても、とても興味が惹かれるものです! お仕事でなければ、全て味わい尽くしてしまいたいトコロですが……。ところで、紙魚紙魚、と言いましたか。読者を深い睡眠状態にするようですが……私のギフトをもすり抜けるのですかね?」
 ドラマへリーナは今度は首を横に振ってみせた。
「それは危険ですから許可できませんね」
 本を眺めていた『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)は眼鏡を直して落ちた髪を整えた。
「手間のかかる方法ですが、本に込められた想いを考えれば、安易に本ごと処分というのも難しいのでしょう。それで、私はこの薄い……小説ですか? こちらに入ればよろしいのですね」
「ドージンシ? それってどんなジャンルだい?」
 アイザックの疑問にリーナが少し得意そうに答える。
「ジャンルではなく同好の士たちが個人的に作った本の事ですね。なにやら流行っていると聞いたのですが」
「……あら? この本は……」
 ドラマが二冊ある同人誌のうち一冊を読んでいると、『探究の冒険者』ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)が魔法陣を指さした。
「どちらかというと魔方陣が凄く気になるんだけど。こちらを研究や解析したいんだけどダメ?」
「あー、うちの商品なのでお断りしているんです」
「ダメか。ところでこの本なんだけど僕たちが行動した結果は反映しない?」
「えーと……あっ! そろそろ出発ですね!」
 ぽーんと背中を押されたルネはよろめきながら本の中に吸い込まれ、他の皆も慌ててそれを追う。
「お気をつけてー!」
 それから、フーっと息をついてリーナは額の汗を拭った。


●推理本
「夜妖は、どこに潜んでいるんだろう……」
 大地の呟きを掻き消すように緊迫した室内に探偵の声が朗々と響く。
 念の為にギフト『とべない烏』で気配を消したドゥーは大地と共に部屋の隅に佇んでひそひそと話す。
「今のシーンは……クライマックス?」
 ドゥーの囁きに大地も声を抑えて答えた。
「まさに。居合わせた人々や、関係者が集う緊迫のシーン。それに探偵の推理がこの目で見られるなんて。……だけどこの探偵、腕は確かなのかな」
 この本の人々は影のような姿で表情が読めない。飛び込む前に結末まで読んでおけばよかったのかもしれないが、追い立てられるように放り込まれてしまった為にそこまで気を回す余裕は無かった。
「探偵さんがキメるシーンなら邪魔をしない方がいいかな。俺も殺人事件の調査はしたことあるよ。その時は確か……霊魂操作や霊魂疎通で被害者の声を聞いた」
 ドゥーと同じく赤羽もまたそこに思い至ったようだ。
「こっそリ、幽霊花、死人花を用いテ、犠牲者の霊と接触してみるゾ」
 ドゥーもまた霊魂疎通を試み──見つけた、その時だった。
「なら……犯人候補は俺だけじゃねえよな」
 メグロは青ざめた顔でしかし確りと大地を指した。
 風も無いのにはらりと朱く染まった長い毛先が揺れる。
 ……これは大地たちが知っているストーリーとは明らかに違う。
「俺以外にもいるじゃねーか、|髪の長い奴《・・・・・》」
「か、彼は君ほど背は高くない」
「二人でさっきからコソコソと怪しいんだよ。共犯なんじゃねーの? 背の高さだけで犯人にされちゃたまんねーよ!」
 大地だけでなくドゥーもスキルを使っていたためにメグロの目に留まってしまったようだ。二人は顔を見合わせて苦笑を浮かべた。
「彼らはただの宿泊客だ」
 焦る主人公の台詞はもうボロボロだったが。
「そうダ。その推理は正しイ」
「俺たちは、推理ではなく、『お兄さん』に『彼女』からの伝言を伝えよう」
 赤羽の言葉を引き継いでドゥーは兄の後ろで必死に訴えている女性の言葉を伝えようとした。
 その瞬間、本の世界の演出なのだろうか。ドゥーたちから温かな光が広がり、メグロの後ろで眩い輝きへと変わった。
 白く浮き上がる彼女のシルエットは泣いていた。
「あなたは──彼女を泣かせたかったんじゃないよね?」
 メグロはかくりと膝を折った。
 悔いのない形で事件を終わらせてあげたい、それがドゥーの想いだった。
「それにしてモ、こんな場所で事件を起こすなんテ、やる方も逃げ場がねぇだろうニ。今ニ、大嵐だので島に閉じ込められても知らねぇゾ? ほラ、なんか窓もガタガタ言ってるしさァ……」
 赤羽の独白を聞きながら、周囲を警戒していた大地はいち早く気付く。
「夜妖!」
 その瞬間、室内の光は消え強い稲光が輝く。同時にロビーの壁に大きく奇怪な影が浮かび上がり、誰かの悲鳴が上がった。だが、飛び出した大地は手を伸ばし窓を這う夜妖を捕まえる。続けてドゥーも消しゴムを取り出した。
(本に住む怪異……か。うちの図書館でも、前にそういう騒ぎが起こっちゃったんだよなあ。もう、その本は俺達の手で鎮めたけれど)
 かつての事件が大地の脳裏をよぎる。
 大地の管理する『自由図書館』に寄贈された様々な人生を綴った短編集は、その実、気に入った人物を飲み込む魔本であった。
 ──どちらにしろ、この夜妖が、本を愛する人に危険を与えるならば。
「何も知らない読者を危険に巻き込むような本はいただけない」
 仮にも司書である大地がこれを見逃す訳には行かないのだ。
 うすれる夜妖を人々は固唾をのんで見守った。そして、それを消し切った彼らもその場から消えていたのであった。


●同人誌「ホラー」
 ──最期の時が迫って来ている。
 ドン、ドンと扉の所で音がしている。
 まるでヌルヌルとした巨体の持ち主が、体当たりを繰り返しているような音だ!
 だが、ここまで辿り着くことは……嗚呼!
 なんだ、あの手は! 窓に! 窓に!
 本にはそのような文章が綴られていた。
(……えぇと、この本は……ホラーの世界、なのでしょうか?)
 ドラマは息を殺して注意深く観察する。
(文体から、随分と切迫した状況だったようですが無事、ですか?)
 隣の部屋からは悲痛な主人公の声。
「……ダメそうですね」
 窓が歪んで、やがて音を立て硝子が砕けた。扉も激しく歪み……逆にこちらは音もなく開いた。
(何やら絶望の青に居た狂王種のような化物や、それを小さく人型にしたような化物が居ますね?)
 しかし、彼女も知を貪るように生きて来た本好き。物語に貴賤は無い。気持ちを切り替えてこの世界を寛容に受け入れた。
「誰か!」
 声を上げる主人公を後目に彼女は夜妖を探す。
「暗いですが、灯りを点けたりしては駄目なのでしょうね──あ!」
 彼女の白い肌にしゅるりと触手が絡みつく。そう、今の彼女もまたこのストーリーの一部なのだ。
 だから、ドラマは反射的に破式魔砲をぶっ飛ばした。
「たす──」
 触手に絡み取られて叫んでいた主人公がギョッとしてドラマを見た。壁はドラマを襲った怪異と共に消失していたからだ。続けざまにドラマは再び近付いた怪異へ破式魔砲を放つ。
 シュルシュルと後退する触手と共に主人公は外へと消えたが、他の怪物たちは数メートル離れてドラマを囲むものの動かない。
「うーん、部屋の主には申し訳ないですが」
 式神使役を使い紙人形に神秘を降ろすとドラマは共に部屋を漁り始めた。
「……」
「アレが紙魚紙魚ですか!」
 怪異たちが見守る中、彼女は冷静に見つけた夜妖に消しゴムをかけた。


●侍活劇本
 ネオンの無い夜を大きな月が明るく照らし出していた。
 輝きを隠すアイザックは頭巾を深く被った侍姿だ。
「本というか、お話は好きだよ。僕はそれから生まれたモノだからね。自身以外のお話に関わるというのは、今まで無かったことだから少し妙な気分だ。悪い気持ちではないけどね」
 網代笠を深く被り旅装束のジョーイがグッと拳を握る。
「おお、侍殿が今まさに炎の刀で鬼を退治しようと! いけ! そこだ──ああっ!」
 巨大化した妖怪の不意の一撃。
「なにっ!」
 それがマジックローブによって阻害された。気付いた侍が飛び退り、ジョーイの隣に立つ。
「かたじけない!」
(は!? とっさにマジックロープで助太刀してしまったですぞ! こういう時には冷静にアドリブを……)
「吾輩ジョーイ・ガ・ジョイと申すもの! 故あって助太刀いたす!」
 ジョーイがチラリとアイザックを見れば彼は怯えるモブを装って道端へ移動した。
(……ふぅ、ただの旅人役から謎の助っ人陰陽師に役割変更でありますな! ともあれこのまま戦いを続けつつ夜妖を探さねばでありますぞ!)
 夜妖を探す時間を稼ぐために持久戦を狙うジョーイは見得を切る。
「悪鬼大入道! 貴様に殺された我が師の無念、今こそはらしてくれようぞ!」
 そのまま雰囲気で印をきるジョーイの袖が大きく翻った。妖怪の巨体にオーラの縄が絡みつく。その隙に掛声を上げて斬りかかる侍の剣は深く食い込んだが、戒めを解いた妖怪はその巨体から地面を抉る拳を四方八方に振るう。
「おっと」
 運悪く、夜妖を探していたアイザックをその圧力が掠めた。
 光が路地を照らす。
「なっ、貴様も妖怪の伏兵か!?」
 驚く侍の剣先がアイザックに向いたことにジョーイが内心慌てた。けれども、アイザックは破れた頭巾を優雅に抑えて身を起こす。その時、崩れた門塀の中で輝きに照らされ小さな影がにょろりと動いたことに二人は気付いた。
「バレては仕方ない、今回は退散しよう」
「ぬぉ! 今の敵は仇たる悪鬼大入道! 目を離さぬよう!」
 ジョーイの一喝に侍は横へ跳ぶ。粉塵が巻き上げられ、その隙にアイザックは闇の深みへ飛び込んだ。
「侍殿! あちらは吾輩が引き受けますゆえ! ご武運を!」
「すまない!」
 ジョーイの走る先はアイザックと同じ、あの小さな夜妖の下だ。
「……さて」
 摘まむ指の先で夜妖は漏れ出るプリズムの光に照らされた。アイザックの静かな声が響く。
「本というのは記録する為、読まれる為に生まれたもので、読者を喰らうものではないだろう? その|法則《ルール》を乱す夜妖は“悪い子”だ。制裁として消えてもらおうね」

「はあっ。じょぉい殿……貴殿のお陰で私の無念は」
 斬り倒した仇の残骸の中で息を切らしながら侍はそう言い、はたと闇の中一人であることに気付いた。


●同人誌「反英雄譚」
 それは、かつての勇者が魔王になるまでの反英雄譚だ。
 勇者の快進撃をよく思わない別の勇者が周囲を扇動して暴徒と共に彼の故郷を蹂躙する場面。彼の育った家を守るため、両親と幼馴染の少女が戦い──そして死んだ。
「なるほど、私はモブの村人となっているわけですね。この地で抗い、倒れ、勇者の心に影を落とす引き金となれ、と」
 瑠璃は呟く。
 そういう事では仕方ないと思うのだ。役割を得た以上は。
「全力で、抵抗しましょう」
 シニカルに笑った。
 真っ直ぐに勇者の家を目指すその背後で暴徒たちの荒々しい叫び声が聞こえた。
「誰だ!」
「お手伝いします」
 到着するや否やそう言い放ち、彼女は眩術紫雲で暴徒たちの力を奪い去る。
「何者だ! なぜこいつらを助ける!?」
 叫んだのは元凶の扇動した勇者──いや。
「私は彼らを守ることの悪影響などは聞いておりませんでしたし――これ以上の悪事はさせませんよ、|元《・》勇者さん」
「!?」
 瑠璃の瞳法毒眼竜の力が元勇者を直撃し、更にぐらりと揺れた元勇者の身体を檻術空棺が拾い上げる。
「さあ、本物の勇者がここに来るまで持ちこたえましょう」
 目の前で起きた一方的な戦いに釘付けになっていた村人たちは瑠璃の声に慌てて武器を握る。
 ──もう、戦況は大きく変わっていた。
(勇者が来るかどうかは分かりませんが、例え夜妖を見つけても少しは残れるようですし、できればここを守って)
 飛んで来た下手糞な矢を裂けて、瑠璃はまた虹色の雲を作り出す。
「物語の中で無駄な行為かもしれませんが──虚構とはいえこんな悪意を、見過ごして帰れるほどには人間ができていませんので」


●浪漫本
 大正浪漫感満載のドレスを着たメイがにっこりと笑う。
「ハイカラさんなメイなのですよ♪」
 一方、ルネは隊服姿だ。
「本物そっくりだね。本の中の料理でも味はするのかな」
「あっ、メイも!」
 切り分けられたクグロフを口に運び微笑むメイと楽しそうなルネ。
「手分けして探そうか。少し楽しみつつね」
 その提案にメイが乗らないはずは無かった。
「フフフー。他にも美味しそうなお料理いっぱいなのですよ!」
 クルクルと花のように回ってガーデンを散策するメイ。周囲の人々もそんな彼女を微笑ましく見守る。
「お嬢さん、かすてらは如何? ワッフルもあるわよ」
 頬を上気させたメイはお皿を抱えてあっちこっちのテーブルへとちょこちょこと動く。招待客たちも彼女へ声をかけるのでお皿の上は食べても食べてもすぐに料理で一杯になってしまう。
「あ、あっちにメイの食べたことが無いお料理があるですよ!? さっそく食べに……ハッ!?」
 メイが使命を思い出した頃、ルネは料理を楽しみながらも物に溢れたこの場所で夜妖を探す方法を考えていた。
(敢えてストーリーから外れてみるなんて、どうだろう?)
 すぐそこには長大な物語のヒーローである少尉がいる。後ろでは華やかな装いの令嬢が彼に熱視線を送っているところだ。思わずルネの口端が上がった。
「やぁ、少尉。パーティー楽しんでる?」
 隊服姿のルネに話しかけられた少尉は一瞬浮かべた戸惑いを隠す。
「ええ。そちらは」
「僕もだいぶ楽しませてもらってるよ」
 制服姿の二人が会話を始めてしまったので先程の令嬢は近くの歓談の輪に戻ったが、おそらく二人の会話が途切れたら改めて声をかけるつもりだろう。
 ルネはそっと声を顰めた。
「ところで、あそこにいるお嬢さんは確か少尉の知り合いだろ。女の子をパーティーで一人にするのは感心しないな。行ってエスコートしてきなよ」
 ヒロインに気付いた少尉はびくりと肩を揺らした。
「何故、彼女が……」
 先程まで悠然としていた彼が目を泳がせ耳も赤く染めている。ルネはそんな彼の背中を叩いた。
「何、付いて来て欲しい? 生憎僕はもう直ぐ会議だから一人で行ってきなよっと」
 逞しい筈の少尉の背がルネに押されてたやすく前へと送り出された。気付いたヒロインもまた一歩踏み出す──そんな光景を穏やかに見守りながら、ルネは夜妖の気配を探っていた。
「ルネさん!」
 メイが人混みを避けながら駆けて来た。
「見つけたのですよ! エネミーサーチで!」
「それがあったね」
「ええ。紙魚紙魚、お覚悟なのですよ!」


●イレギュラーズ
 帰還した特待生をリーナは笑顔で迎えた。
「彼らはあくまで登場人物だ。でも……俺は、犯人のお兄さんにいつか幸せになってほしい。もちろん反省もしてほしいけど……」
 結末を読もうとしたドゥーの手が止まった。開かれた頁に並ぶ文字の羅列が一度見たそれとは全く変わっていたからだ。
「これハ、推理じゃなくて怪奇モノだナ」
 一緒に覗き込んだ赤羽の皮肉めいた言葉もどこか温かい。
「……バディものの第一章かもしれないね」
 最終頁では刑務所へ面会に行った主人公が髪を切ったメグロと「妹さんのような不幸を減らす為にいつか一緒に戦おう」と約束していた。
「侍殿の戦いの続きを読まねばであります! いやー、あれでなんか結末変わっ」
「おや」
 陰陽師に助け出された侍は倒した仇の前で娘を想って涙を流した。すると、妖怪の屍が燃え上がり焔の膜に守られた幼子が降って来たのだ。懐かしい温もりに彼は涙滂沱として消え去ってしまった神使に感謝の言葉を述べていた。
「……」
 瑠璃もまた彼女の手元の|英雄譚《・・・》に密かに相好を崩す。
「じゃあ、メイたちの本は──あああっ!」
 すれ違いの大長編は、麗しく若々しい男女のたどたどしい抱擁で完結していた。たった一巻で終わってしまった物語は、しかし、二人のこれからの幸せを思い描けるラストであった。
「やっぱり。こんなことだろうと思ったよ」
 結末の変わった本たちを前にルネが小さく笑うとリーナもにまりと笑う。
「物語はイレギュラーな要素が介入した時点で行く先の可能性は無限に変化するのですね」
「この本はどうなるの?」
「すべて特別な同人誌として書庫の奥に並べようかと。そうですね、イレギュラーズの小さな冒険とでも題しましょうか」


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

本の世界、如何でしたか?
皆様に楽しんで頂けたら僥倖です。
これからも、イレギュラーズの皆様が素敵な物語を紡ぐお手伝いが出来ればと思います。

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