シナリオ詳細
ポルホガンの願い
オープニング
●穏やかなるポルホガン族
鋭い牙。
鋭い目。
緑の鱗。
まるでワニのような頭と尻尾をもつ彼らはポルホガン族。ポルホガン沼地に暮らす獣種の一族である。
彼らは自然主義と大地信仰の強い部族だ。
朝は湖に半身まで浸かり、先祖と大地に感謝の祈りを捧げる。
昼には沼地へ狩りに出て魚をとり、それを食べて日々を過ごす。
温厚だが排他的で、沼地に他部族の者が立ち入ることを拒んだ。
それは彼らの暮らしを平穏無事に保つための努力であり、強い掟でもあった。
だがそんな彼らに、ある日事件は起きたのだ。
「族長様! 族長様!」
湿地に作られた竹藁の高床式住居に、ポルホガン族の青年が飛び込んだ。
銛を研いでいた男――族長アオノタがゆっくりと振り返る。
「騒ぎたてるんじゃあない。村の者が喧嘩でもしたか」
「それどころじゃないんだ族長。聞いてくれ、『沼の主』が暴れてるんだ!」
その言葉に、アオノタは思わず銛と研ぎ石を取り落とした。
「『沼の主』が……!?」
茂みをかき分けのぞき見ると、沼地を歩く巨大な物体が見える。
10mを超す二足歩行のシルエット。
石と泥をかき集めたような体表。
ずんぐりとした短足短腕。頭にあたる部分には、目を表わすように赤い光が灯っている。
体表からぼろぼろと落ちた土はほどなくして小さな四つ足走行のトカゲとなり、『ゲゲゲゲッ』と恐ろしい声で鳴く。
目のような光をぶわりと強めると、熱光線を右から左へと撫でるように放った。
一瞬遅れて照射地点でいくつもの爆発が起き、枯れ木が燃えていく。
「間違いない。沼の主――グエンナッハだ」
「なぜあんなに暴れて……ハッ、あれを見ろ!」
よく観察すると、沼の主グエンナッハの胸元に人骨(頭蓋骨)がちらりと見えていた。
「誰かが湖に人の死体を捨てたんだ! 沼の主は穢れをなによりも嫌う。一体誰がそんなことを」
「考えている暇は無いぞ。俺たちだけでは沼の主を止められん。戦える者を集めねば……!」
「しかし戦える者など……」
「おまえたち!」
どすどすと駆け寄ってくる族長アオノタ。
暴れる巨人を見上げて事情を察した彼は、荒い息で言った。
「心当たりがある。ギルド・ローレットを知っているか」
●沼の主グエンナッハ
「幻想の東にあるポルホガン沼地というところから依頼があったのです。
なんでも、怒り出してしまった『沼の主グエンナッハ』を止めてほしいそうなのです」
沼の主グエンナッハとは、ポルホガン沼地を代々守護してきたゴーレムである。
普段は神聖な湖の中に沈む1メートル程度の石なのだが、湖や沼が酷く荒らされると巨人の姿をとって暴れ出すという。
これによってポルホガン族は外部の侵略や攻撃から守られてきた。
「けれど今回は誰かが湖に人の死体を捨てたことで怒りだし、暴れている状態らしいのです。
グエンナッハは一度暴れ始めると言うことを聞かず、攻撃によって倒すかあたり一面を破壊し尽くすまで止まりません。
戦う力をもっていないポルホガン族にかわってグエンナッハと戦い、止めて欲しいということなのです!」
グエンナッハはその巨体から繰り出す腕力もさることながら、頭部から発射する爆破光線や体表から生まれる『泥蜥蜴』という恐ろしい武器ももっている。
「もししっかりとグエンナッハを止めてくれたなら、ポルホガン族は歓迎の宴を開いてくれるそうなのです。皆さん、よろしくお願いします!」
- ポルホガンの願い完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年02月23日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●車輪
二頭の馬が土の多い道をゆく。横広な箱馬車がどこかゆっくりとその後をついてゆれていた。
広い空に反響するように『ぶはははは』という笑い声がした。
「グエンナッハか、こんだけの大物は 久々だな」
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は竹皮の包みから大きな米のおにぎりを掴むと、それを大胆に頬張っていく。
重箱の蓋を閉じて手を合わせる『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)。
二人が見上げると、木々の間から突き抜けるようにして巨大な土人形のような物体が歩いているのが見えた。頭部にともった赤い光がまばたきでもするように明滅すると、強い光線を放って沼を爆発させていく。
「大物相手は望む所よ。剣の腕を磨いてオマケに人助けも出来るとなれば……まっ、悪くないんじゃないかしらね」
「腹ごなしに泥浴としゃれ込みますかねぇ、豚ゆえに!」
竜胆は長い黒髪をきゅっと後ろで結びなおし、ゴリョウはでっぷりとした腹を平手で叩いた。
容姿も振る舞いも対照的だが準備は万全、といった具合だ。
そんな彼らと向かい合うように座る全身鎧の者――もとい全身鎧そのものである『黒金の大鬼』無鎧(p3p002545)が、目元をぎらりと光らせていた。
自分の役目と特技をふまえてか、無骨で黒光りしたフォルムをしている。
「今回は難しい事は無しだ。我は全力で行かせてもらうぞ!!」
と言いつつ、難しいことは任せたぞとばかりに隣を見た。
隣ではお茶の水筒を持った『生き人形』雫(p3p002862)がその視線を受けてぴたりと止まる。
挟んで反対側からのぞき見る『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)。
二人ともがっちりとした鎧姿なせいか、小柄な日本人形であるところの雫をはさむのが奇妙な絵面になっていた。
「確か今回はスイッチ作戦……でしたね。初めての依頼なもので、動き方を確認してもいいでしょうか」
「構わないわ」
雫が広げたスクロールは墨筆で書いた作戦図だ。
図にはグエンナッハを中心としたおおまかな陣形が描かれているのが分かる。
「今回動き回るのはナシ。振り分けは――」
グエンナッハに張り付いて攻撃をするゴリョウと竜胆。発生する泥蜥蜴も含めた遊撃につとめるオリーブ。泥蜥蜴に張り付き駆除を優先する無鎧とアトス。
雫は超遠距離から泥蜥蜴の駆除に加わる。スタミナや体力の問題は蜜姫とコルザに任せ、ゴリョウたちはスタミナの続く限り攻撃を加え続ける。
そんな作戦だ。
「けれどスタミナ切れが起こったらグエンナッハへの攻撃役を交代するわ」
交代の際にそれまで張り付いていたメンバーが泥蜥蜴を含む集中攻撃に晒されてしまわないか。グエンナッハがそれらを無視して回復グループを攻撃しはじめないか。様々な問題を、雫たちはどうクリアしていくつもりであろうか……。
なるほど、と自分の立ち位置を再確認したオリーブは最後のおにぎりを頬張り、喉を強く叩いた。
そんな彼にお茶を差し出してやる雫。
一方その後ろの席。
干し魚をはむはむとやっていた『片割れ』アトス(p3p004651)がグエンナッハを見上げた。
「主さん、凄く怒ってるね」
「怒りに我を忘れて暴れ回って、守護してきた沼を自分がめちゃくちゃにしちゃうなんて……」
同じく見上げる『甘露』蜜姫(p3p000353)。
「正気に戻ったらきっと悲しくなっちゃうと思うの」
「うん。怒りを鎮めてあげないとね!」
おにぎりを食べきり、親指をぺろりと舐める『白仙湯狐』コルザ・テルマレス(p3p004008)。
「さて」
と立ち上がったところで馬車は止まった。
座席を下り、目の上に手を翳してグエンナッハを見つめる。
「君も、人を護ってきたのだね。なのに……」
コルザは指輪をした手をぎゅっと握りしめ、仲間たちと共に走り始めた。
「止めてあげよう。止めてあげねばならない。君も、『同じ』なのだから!」
●心あるものならば
沼を踏み荒らし、木々を焼き払っていく巨大ゴーレム『グエンナッハ』。
駆けつけた竜胆たちに反応し、方向転換を始めた。
「ちょっと、気づかれてるわよ」
「構わん。突っ込むぞ!」
無鎧がハンマーを担いで沼へと飛び込んでいく。
泥をはね、走り始める竜胆。
一方のグエンナッハは目をギラリと光らせ、赤い光を膨らませていく。
爆破光線が来る。オリーブや雫たちが身構えたその時。
アトスが声をはって歌をうたいはじめた。
単調で小さく、本来なら届くはずの無い歌声がグエンナッハへと響いていった。
「……想いが、わかる」
歌い出したアトスへ振り返った蜜姫は、自分の胸に手を当てた。
『胸元の穢れた骸を湖から取り除きに来たの。貴方と共に生きた民が滅びてしまう。どうか怒りを鎮めて』という気持ちが歌を通して確かに届いたのだ。
それは、グエンナッハとて同じことだったのかもしれない。
少なくとも事実として、光線を放とうとしていた目を明滅させ動きを止めたのだ。
「なんだぁ? 攻撃をためらったのか? もしかして……」
ゴリョウはマジかよという顔でグエンナッハとアトスを交互に見たが、その直後にグエンナッハによる踏みつけ攻撃に晒された。
「うおおやっぱ怒ってるじゃねえか! けどなんか効きそうだ! 歌い続けとけ!」
「うん……!」
沼をはって襲いかかる泥蜥蜴を踏みつけて破壊すると、アトスは胸に手を当てて再び歌い始めた。
アトスの歌を背景にして、沼地をざぶざぶと走り抜ける竜胆。
彼女を掴もうと繰り出したグエンナッハの手を跳躍によって回避すると、手首の上に着地した。
青い花飾りのついた鞘から刀をふたふり抜くと、顔面めがけて駆け上がる。
それをたたき落とそうとするグエンナッハの手をめがけ、竜胆は素早く刀で切りつけた。
大きくのけぞり、半歩下がるグエンナッハ。竜胆の攻撃も充分なものだが、そればかりではない。
グエンナッハのすねめがけて体当たりを仕掛けるゴリョウのパワフルさも見るべきだ。
ずん、と泥に両足をつけ、できる限りの全速力でグエンナッハへと突っ込む。
踏みつけようとするグエンナッハの足を飛び込み前転で回避すると、泥にまみれた無骨な棍棒で足を殴りつけるのだ。
そこへ兜できっちり顔を覆ったオリーブが追撃。
大きな剣を力任せに振りかざし、グエンナッハへと叩き付ける。
「あぶねえ!」
ゴリョウの声だ。突撃する筈だったグエンナッハの足が凄まじい速度で近づいている。打撃は入ったが、同時に自身への衝撃も走った。身体の自由がきかず、手足が宙をかく。自分がボールのごとく蹴り飛ばされたのだと気づいた時には、沼地をバウンドしていた。
そこへ好機とばかりに飛びかかっていく泥蜥蜴。
転がった剣に手を伸ばすより泥蜥蜴の襲撃が早いか――と思われた瞬間、凄まじい速度で飛んできた日本人形がまがまがしい魔力を放ち、泥蜥蜴を内側から破裂させた。
はっとして剣をとり、振り返る。雫が無数の日本人形を宙に浮かべ、それを次々に操っていた。
「走って。泥蜥蜴は私たちが引き受けるわ」
「そういうことだ!」
別方向から接近してきた泥蜥蜴。しかし無鎧が猛牛のごとく横から突っ込み、短く持った鎖トゲ鉄球でもって泥蜥蜴を粉砕した。彼のオーラが泥と混じって尾を引き、ぶわりと空気を熱くする。
「蜥蜴相手にこれ以上人手はいらん。行け!」
「そういうことだ!」
コルザも無鎧のまねをするように言うと、オリーブに手を貸して引っ張り上げた。彼女の手を通じて温かな力が伝わり、オリーブの傷が癒えていく。
片眉をあげ、くいっと顎でグエンナッハを示す。
一方で無鎧は鉄球を頭上でぐるぐると回しながら、新たに生成された泥蜥蜴へとかけだした。
ここはまかせろ。そんな熱い一体感がそこにはあった。
「……はい!」
オリーブはうなずき、再びグエンナッハへと走り出す。
「ぬおおっ!?」
ゴリョウが風に靡いていた。
より正確に述べると、グエンナッハに足を掴まれて振り回されていた。
遠心力をかけて放り出されるゴリョウ。
ごふうと言いながら沼に落ちたが、そんな彼を桜の花弁のようなオーラが包んでいく。
「こいつは……」
ふとみると蜜姫が両手を翳し、治癒の力を発動させていた。
それだけではない。よく見れば戦いがはじまってからこっち、沼や周囲の木々が壊されていないのだ。それも蜜姫が保護結界を使って守っていたからである。
怒りを静めた後、グエンナッハが悲しまぬようにだ。
「大丈夫? 体力、つらそうなの」
「余裕……とは言えねえな」
ゴリョウは顔の泥を手でぬぐい、フンと鼻息を強くした。
「そろそろアレをやるぜ。備えといてくんな」
「……頑張るの」
蜜姫はグエンナッハと距離をとるようにゆっくり後退をはじめた。
今一度その全身を見れば、胸には誰かの骸。目は怒りを示すように赤く光り、正体の分からぬ敵に抵抗するかのごとく手足を振り回して暴れていた。
「守ってあげるの」
沼も、そしてグエンナッハも。
●いと賢き『スイッチ』
竜胆やゴリョウたちが幾度グエンナッハに渾身の攻撃を叩き込んだことか。
彼女たちにも流石に疲れの色が見え始めてきた。
ゴリョウは頭を後ろに下げてどすどすと沼地を走りながら、大声で叫んだ。
「『スイッチ』だ!」
彼の一言を待っていたとばかりに、ほぼ全員が動きを変える。
グエンナッハのそばへ徹底的に張り付きインファイトを引き出し、増殖を無視できない泥蜥蜴をやや離れた仲間に潰させる作戦。
前衛まわりのメンバーにダメージが蓄積する危険はあったものの、HPやダメージ軽減能力に不安のあるメンバーを保護することに成功していた。
不安要素である泥蜥蜴の増殖も抑え、グエンナッハも足止めし、順調に進んでいるかに見えたこの作戦。しかしゴリョウたちのガス欠(AP不足)によって後半大きな遅延が生じ戦線が崩壊する危険ももっていた。
そこで満を持しての、『スイッチ』である。
ゴリョウと竜胆は一旦グエンナッハを離れるべくダッシュ。一方で無鎧とアトスが張り付き当初の状態を継続するというものだ。そのために彼らはAP消費の無い技で泥蜥蜴の処理をしていたのだ。
だが危険はいくつも存在している。
マークできないグエンナッハがアトスたちをまたいで竜胆たちへの追撃をはかる危険だ。
それに対しては――。
「こっちだ、かかってこい!」
緊張したオリーブが剣を大きく掲げ、グエンナッハに名乗り口上をあげ続けたのだ。
【怒り】状態を付与できればヘイトを強制的にとることができる。竜胆たちへの追撃を阻めるのだ。
さらには、アトスや竜胆をも無視して蜜姫たちが攻撃に晒される危険も継続して回避することができる。
そして第二の問題は――。
「ぐっ……!」
自分めがけて猛烈に突っ込んでくるグエンナッハである。オリーブも緊張で丁寧な口調が崩れようというものだ。
が、彼の口調を崩した原因はそればかりではない。10メートルを超える巨大な敵が迫るのに、後ろに走ることも、ましてその場に立ちはだかることもせず……。
ゴリョウの叫びを耳に、オリーブは兜を押さえた。
おさえ、ふみだし、走り出す。
グエンナッハが足を振り上げる。オリーブは顔を覆う兜の奥で、馬車の中でゴリョウや雫が語ったことを思い出した。
『いいか、相手に【怒り】を付与できれば攻撃対象を絞ることができる』
『けれどグエンナッハはあなたを追いかけ、掴みかかろうとするわ』
『もしその場に留まったり後ろに逃げたりすれば後衛陣まで素通りされる危険が出る』
『機動力が半減している状態で陣形の再構築は難しい』
『つまり最適解は』
「オリーブ、くぐれぇ!」
グエンナッハによる踏みつけを、飛び込み前転で回避。そのままごろごろと転がってグエンナッハの股下を抜けると、オリーブは全速力で駆け抜けた。
方向転換を始めるグエンナッハ。
そんな彼の背中に、雫の人形が無数に群がった。
魔力をねじ込み、広い背中をぼこぼこと破裂させていく。
それを無視してオリーブを追いかけるグエンナッハ。今度は腕を上げ、地面ごとかっさらおうと振り込んでくる。
オリーブは激しくターンして再び股下をくぐりにかかる。
が、グエンナッハの身体から落ちてきた泥の塊が『ゲゲゲゲッ』と恐ろしげな声をあげて鳴いた。泥蜥蜴だ。
泥蜥蜴がオリーブを阻むように立ち塞が――れない!
「邪魔してんじゃねえ!」
ゴリョウや竜胆たちが泥蜥蜴に飛びつき、粉砕していったからだ。
はじける泥を浴び、再びグエンナッハの下を駆け抜ける。
それを何度やったことだろうか。
(クリーンヒットにならず何度か試したこともあって)オリーブのAPが底をつく。
「交代よ!」
そこからはAPを回復した竜胆とタッチを交わし、傷ついたオリーブは一旦攻撃範囲から離脱。ごろごろと沼地を転がる。
対して竜胆はグエンナッハに向けて呼びかけた。
「今度は私が相手になってあげる!」
グエンナッハが目をぎらりと光らせ、竜胆へと掴みかかった。
一回は刀で流すようにして交わし、側面を抜けて反対側へと駆け抜ける。
グエンナッハはそんな彼女を追うようにして手を伸ばすが、竜胆は逃げることなく防御の構えでターンした。
「剣士が簡単に背中を見せる訳ないでしょ!」
がしりと掴まれ、天高く放り出される。
だがそれでいい。
竜胆はわざと距離をとると、刀に最後の気力を集中させた。
「今よ!」
「……!」
竜胆の斬撃が飛び、グエンナッハへと浴びせられる。と同時に、アトスが盾を構えて思い切り体当たりをしかけたのだ。
膝を強制的に曲げられたグエンナッハはその場に崩れ、がくりと膝と片腕をつく。
『どうか怒りを鎮めて、沼を守護せし主よ』と気持ちを込め、歌の調子を強めていくアトス。
むくりと顔を上げるグエンナッハ。その頭上には、鎖鉄球を掲げた無鎧が立っていた。
全身全霊を込めたハンマーアタックにグエンナッハの頭が下がる。
転がり落ちた無鎧めがけ、地面ごと破壊せんばかりのパンチを繰り出してくる。
が、無鎧は退かない。
正面から打ち合うつもりだ。
あらゆる準備や作戦を経て、最後にたどり着くのはやはりここなのか。
無鎧の鎧が攻撃的な様子へとめきめき変化していく。
対して――蜜姫とコルザはそれぞれの顔を見合わせた。
競り合うなら今だ。
蜜姫は桜模様が描かれた扇子をばっと広げ、回復魔術を美しく詠唱した。
コルザは五指に通した指輪全てに神秘の光をともし、紋章どうしで光の回路を組み上げていく。
足下の沼地にずんと手を突くコルザ。
扇子を大きく振りかざす蜜姫。
二人の魔術が混じり合い、無鎧の鎧を湯気と桜の模様で包んでいく。
パンチとパンチが正面からぶつかり合う。
相殺。否、砕けたのはグエンナッハの腕のほうだ。
それまで魔力を自らの中に溜めていた雫は、改めて人形をぶわりと浮かべた。
おどろおどろしい軌道を描いて飛んでいく無数の人形。
それらは無防備になったグエンナッハの胸元へと集中し、そして骸を残して破壊した。
どん、という爆発にも似た音と共に、グエンナッハは沼へと沈み、ぼろぼろと形を崩していった。
●ポルホガン族
後日談ではない。
アトスはグエンナッハの核となっていた石に向けて歌をささげていた。
こたえはなく、動くことはなかったが……。
「美しい歌だ。この想いは必ずや、グエンナッハに届いただろう」
ポルホガンの族長を名乗る男が、アトスへと敬意を込めた礼をした。
グエンナッハから取り出された骸は蜜姫やポルホガンたちによって丁重に弔われた。
無鎧はグエンナッハの力やポルホガン族を調べたかったようなので途中で分かれたが、竜胆は弔う際に取り除いた骸の遺品を調べていた。
「なにかしら、これ」
手に取ったのは手帳。多くが汚れて読めなかったが、一部にこう書かれていた。
『嘘吐きサーカスが来る』
骸の正体とは? 沼にこの骸を捨てた者とは……?
その後、沼やグエンナッハの心をおもんばかってくれた蜜姫たちに感謝を込めて宴が開かれた。
オリーブやゴリョウたちは歓迎され、果実酒と魚料理を沢山振る舞われた。
お返しというわけではないが、ゴリョウは自分のもっている警備や統率の知識をポルホガン族へと教えた。
雫はどうしているのかと思ったら、湯をためた大きな木桶に入れられて徹底的にきれいきれいされていた。
どうやらポルホガン族には偶像を尊ぶ風習があるようで、雫はとりわけ丁寧に扱われていた。彼女の持っていた恐い顔をした人形たちも例外なく綺麗にされ、泥や砂がぬぐわれた。来たときより綺麗になったのではと思うほどである。
コルザはそんな彼らとのみかわし食べかわし、大盛り上がりの後に宴会を終えた。
夜通しさわいで眠って、翌の朝。
「どうかこんなことがあったからとグエンナッハを怖がらないであげて欲しいのだよ」
「勿論だとも。そちらも、今度は依頼や戦いとは別に遊びに来てくれ」
コルザたちは帰りの馬車で食べるようにとお土産の魚料理や芋料理を沢山貰って、沼地をあとにした。
成否
大成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
まずは皆様のお手際を褒め称えますと共に、ちょっと興奮したのでその内容を書かせてください。
こちらのシナリオ『ポルホガンの願い』は戦術パズルと不思議な背景設定によって作られた、食べるところの沢山あるお魚みたいなシナリオでございました。
戦術パズルは皆様がご経験された通り、偶然集まった八人のメンバーの能力バランスを見ながら『何を捨てて何を補うべきか』を決めるパズルでございます。
先に申し上げますと、70点を超えれば成功するパズルに皆様は100点のプレイングをお書きになられました。お見逸れしました。
まずマークブロックが通じないが感情的なグエンナッハに対して前衛複数で張り付くことでヘイトを稼ぎ、毎ターン沸く泥蜥蜴は他のメンバーに任せて確実に駆除し続けることで序盤の危険を取り払いました。
そして前衛チームのAPがきれたと見るや【怒り】を利用したヘイトコントロールに切り替え、逃げれば後衛まで破壊されそうな危険を見越して上手に立ち回られました。
更に言えば、範囲攻撃手段がほぼない現状で泥蜥蜴をどう対応するかが中盤の分かれ目になっていたのですが、これにしっかり人員をさくばかりかスイッチを意識してAPを温存するところにまで気がつかれたのは流石でございます。
更に更に言えば、グエンナッハがただの怪物でなく善なる守護者であることを考えて気持ちサイドでもアプローチをかけたり、沼の状態を維持しようとしたり、きっかけとなった事件にまで気にかける器の広さもまた、流石でございました。
ここまでキッチリとプレイングを整えられてしまっては、もはや大成功判定を出さざるを得ません。出させてください。
おまけといってはなんですが、魚や芋を主体とした香辛料つよめのポルホガン料理(非アイテム)を沢山お土産に配られましたので、お家に持ち帰ったりギルドの皆様に配ったりなさってください。
GMコメント
いらっしゃいませ、イレギュラーズの皆様。
お弁当は持ちましたか? メンバーがそろいましたら馬車が出ますので、どうぞ中でお待ちくださいませ。
【今回の依頼会場】
王都から八人乗りの大きな箱馬車が出ます。
八人そろったら出発しますので、がたんごとんと揺れる車内で相談をなさってください。
現地までは時間がかかりますので、お弁当をお持ちになってくださいね。
(当依頼では巡り会った仲間と街角感覚のロールプレイをはさんでの依頼相談をお楽しみ頂けます。互いのPCの癖や性格も把握しやすくなりますので、ぜひぜひお楽しみくださいませ)
【依頼内容】
『沼の主グエンナッハの停止』
巨大なゴーレムと化したグエンナッハと戦い、
HPをゼロにすることで停止させることができます。
【ロケーション】
沼地。
浅い水たまりがひろーくなったような所です。そのため地面が泥で歩きにくくなっています。
ペナルティとして【機動力-2】されます。
飛行できるとこのペナルティをスルーできます。
【戦闘目標】
●沼の主グエンナッハ
本来は勝手に暴れ出すことのないゴーレムですが、穢れた死体が神聖な湖に投げ込まれたことで怒り狂って暴れています。こんなことは滅多に無く、100年ほど前に一度あったきりだと言われています。
その時は当時ガチガチの戦闘部族だったポルホガン族の戦士たちが戦って沈静化させたそうです。
・サイズ補正:巨大なため『マーク・ブロック』ができません。
・泥蜥蜴生成:毎ターン1~3体の泥蜥蜴(機動力2、HP50固定)を生成します。泥蜥蜴は至近レンジの対象に通常攻撃を行ないます。
・インファイト(物近範【飛】):巨体で殴ったり蹴ったり、掴んで投げたりします。
・爆破光線A(神中域【業炎】):頭部から放つ光線です。照らした地面を爆破させる魔術です。
・爆破光線B(神超列【火炎】):爆破光線の長射程版。威力がちょっぴり落ちている。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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