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シナリオ詳細

【楽園の悪魔】ジェイルと太古の果物
【楽園の悪魔】ジェイルと太古の果物

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●どうしてこんな甘味がこの世にあるのだろう。
 完全に成熟した実は手を添えるだけで枝から採れるという。
 その彼は、今日も自身の果樹園を見回り、最高に旬でとろけそうな果実だけを選り抜き、収穫する。ものによっては運搬するタイムラグを考えてハサミを入れる。キッチンに届く、ちょうどその頃に果実が十全で最大の威力を発揮するように。
 味覚! それこそが貧富も老若も男女も関係なく共通する感覚。そして最大の弱点。彼の果実に味覚を突かれた者は、もはや他のスイーツではものたりなくなり、ひたすらに彼の果実を求めるようになる。それはまるで呪いのように、ゆっくりと全身へ回る蛇毒のように。ただ舌に乗せる。それだけで全身を侵食されていく。
 それはここちよく、快楽に満たされた呪いだ。一度その味を知った者は誰もが彼の果実を欲しがり、その妙味に涙さえこぼす。ただ甘くみずみずしいだけではない、濃厚に野性味を残した味わいに、ある者は郷愁を誘われ、ある者はまだ見ぬ未知の世界を想う。
 ああ、いてもたってもいられなくなる。食の快楽を揺さぶられ、魂の真髄まで刻みつけられてどうしてじっとしていられよう。ため息のひとつもつきたくなるというものだ。一匙一匙、ゆっくりと記憶に焼き付けたいはずなのに、気がつけばまるで餓鬼のようにがっつき皿まで舐めている。胃は満腹を訴えている、だのにまだ欲しいまだ欲しいと体の芯からこみ上げてくる欲望。
 底知れぬ食の欲望に取り込み、己の果実をもって奉仕する、彼の名前は【楽園の悪魔】ジェイル・エヴァーグリーンという。

●悪魔は誰とでも契約をする。
 一同を館に招いたものの、上座のジェイルは(なんで上座なんだ、人を招いておいて)眉間に手をあてたままくりかえしため息をついている。
 知っている。これは、なんていうか、行き詰ってるやつ特有のため息だ。と、『雪中花蝶』斉賀・京司(p3p004491)は思った。
「僕たちを呼んだということは、何か悩みでもあるのかな?」
 京司がそういうと、『闇之雲』武器商人(p3p001107)も喉を鳴らして笑った。
「なにか厄介事があって呼んだのだろぅ? いいんだよぉ、なんでも言ってくれても。我(アタシ)とキミとの仲じゃァないか」
「いや、あんまりヘビーなのはごめんだけどね?」
 先に釘を差すのは、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。大きく美しい瞳をパチパチと瞬かさせ、ジェイルを見やる。
「んー、ヘビーというかライトというかぁ……」
 ジェイルの煮え切らない態度に、不安を煽られた『フランスパン(浴衣の姿)』上谷・零(p3p000277)はついつい前のめりになった。
「詳細を教えてください! まずはそれから!」
「そうそう、まずは話してみて。検討するのはそれからだからね」
『孤児院顔パス』辻岡 真はおだやかな笑みを浮かべてジェイルを安心させようとした。
「ふむん。まずは君達の前に置かれた、ジュエリー・フルーツ・シリーズの正直な感想を聞かせてくれないかなぁ」
 言われて一同は目の前の小皿を見た。旬の果物が器用に盛り付けられた小鉢だった。過去形なのは、ついつい匙が伸びてことごとくをカラにしてしまったからだ。
「……たいへんおいしゅうございました、というのが正直な感想だが」
 『戦場のヴァイオリニスト』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)がジェイルの目を見ながら言う。ジェイルは蛇の獣種らしい縦長の瞳孔を細め、指をぱちんと鳴らした。
「それなんだよぉ」
「……それがどうかしたんですかメェ……?」
『バーテンダー』ムー・シュルフ(p3p006473)は解せないという顔で首をひねった。バーテンダーを本業とする彼からしても、ジュエリー・フルーツは驚くほどの美味だった。百点満点で点数をつけろと言われたら、百二十点をつけたくなる品質だ。
 ジェイルは続けた。
「『おいしい』、じつにうれしい感想だよぉ。だけどねぇ、僕は『完璧』を目指したいのさぁ。完全や十全じゃダメなんだよぉ。この世に二つと無い、誰にも真似できない、そんな果実を作り上げたいのさぁ」
「実に欲深いね。嫌いじゃないよ」
『風来の名門貴族』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)はにやりと笑った。
「で、ワタシたちは何をすればいいのかなー? ふふふー」
 レイヴンに水を向けられ、ジェイルは姿勢を正した。
「君たちには、あるダンジョンを攻略してほしいんだよぉ。四部屋からなるシンプルなダンジョンで多くの挑戦者が居たけれど、誰もが最後の部屋のパズルに阻まれてしまったんだぁ。でも、最後の部屋には、太古の果物が保管されているという噂なんだぁ。僕はそれがほしい。ほしくてほしくてたまらないんだよぉ。きっとすばらしい果物なんだぁ」
 そう言ってジェイルは簡単な地図をテーブルへ広げた。なるほど、直線上に四つの部屋が並んでいて、最後の四部屋目がパズルの鍵によって守られているという構造だ。それまでの三部屋には魔物が巣食っているのだろう。体力などの配分を考えながら進まなければならないだろうが、シンプルと言えばこれ以上ないほどシンプルな構造だ。古代の食料庫か何かがそのままダンジョンと化したものだろう。
「三部屋まではオオコウモリとメギドスネークの存在が確認されているよぉ。どれだけの数出てくるかは運しだいかなぁ。まあ雑魚だからあんまり気負わなくていいよぉ。それよりも難問なのは最後のパズルさぁ」
 ジェイルがもう一枚羊皮紙を広げる。

  ABC DEF GHI
 ┌───┬───┬───┐
a│4〇〇│〇〇〇│〇〇2│
b│7〇〇│〇〇5│3〇〇│
c│〇〇〇│18〇│〇〇〇│
 ├───┼───┼───┤
d│1〇2│〇〇9│7〇〇│
e│3〇4│〇〇6│〇〇〇│
f│698│〇〇2│15〇│
 ├───┼───┼───┤
g│915│268│473│
h│847│〇31│2〇5│
i│〇63│754│9〇8│
 └───┴───┴───┘

「この〇の部分に1から9の数字をいれること。ただし、一列、一行、一ブロックそれぞれにおいて同じ数字を使ってはならないというのがルールだよぉ。制限時間はないけれど、まちがえたらぁ……」
「間違えたらァ?」
 武器商人が合いの手を入れる。ジェイルが両手を組んで顎を乗せた。
「床が割れる」
「おや大惨事じゃないかい」
「部屋の広さから言って、ダッシュで入り口へ後退すればギリギリ間に合うんだけどねぇ。そうなると、最後の部屋の奥に隠されている太古の果物を手に入れることはかなわないだろうねぇ……」
「ようするにこのパズルが解けるかどうかがすべて、ということだねぇ」
 武器商人の言葉にジェイルはこくりとうなずいた。
「どうかなぁ、引き受けてくれるぅ?」
「味見をさせてくれるならね」
 一同はくすりと笑って、己の得物を手にした。

GMコメント

みどりです、こんばんは。シナリクありがとうございました。
パズル(数独)は、文字数食いまくるので罫線省略して、各人のプレイングへ分割記入しても大丈夫です。
あとOPで罫線ずれてたら指さして笑ってください。

ダンジョン
 各部屋の大きさは30m×30mとします。
 3部屋目までは、あわせて8匹以下のオオコウモリとメギドスネークが出現します。範囲攻撃を持っていくと有利でしょう。4部屋目はパズルを解かないと入れません。その奥にはジェイルの求めている太古の果物が存在しています。

>オオコウモリ(大人くらいあるコウモリ)
 回避高・命中高・EXA高
 吸血 物単至 失血・崩れ
 超音波 神扇R2 魔凶・暗闇

>メギドスネーク(3mほどの蛇)
 防技高・命中高・反応高
 蛇毒噛みつき 物単R1 混乱・狂気
 振り回し 物扇至 恍惚・不運

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 【楽園の悪魔】ジェイルと太古の果物完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年08月04日 21時35分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
流麗の翼
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
皆の翼
上谷・零(p3p000277)
出張パン屋さん
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
斉賀・京司(p3p004491)
雪中花蝶
辻岡 真(p3p004665)
旅人
ムー・シュルフ(p3p006473)
味覚の探求者

リプレイ


「なんでこのメンツでダンジョンアタックさせようと思ったかなあ、ジェイルはー!」
 ダンジョンへ入るなり、天井からぼたぼたメギドスネークが落ちてきて、『フランスパン(浴衣の姿)』上谷・零(p3p000277)は軽くブチ切れた。灯りのない室内、頼れるのは暗視ゴーグルと南京ランタンだけ。気づけば近寄っているオオコウモリに、見た目が普通に嫌なメギドスネーク。正直怖いしうっとおしい。
「……まあ、できない仕事はさせない…だろう…。…ジェイルだって、人を見る目は…ある……。」
 先手を取った『皆の翼』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)がストラディバリウスをかまえる。切ない旋律とともに緑色の光が灯り、女のすすり泣きが響いた。ヨタカの周りに数人の亡霊が浮かび上がる。ぼろぼろのフードを深くかぶり、しきりに目元を拭っている。その顔をのぞきこんではいけない。そんなことをすれば二度と現世へもどってくれなくなるだろうから。
「果実の為に遥々此処まで来たんだ…邪魔など…させない……。」
 ラ・ヨローナの葬送歌が二匹のオオコウモリを巻き込んだ。オオコウモリは天地を見失ったかのように翼を無様に羽ばたかせ、地面に落ちた。わずかな痙攣のあと絶命する。
「あ…倒しちゃった…。…思ってたよりずっと、弱い…。」
「ジェイルも言ってたわね。”雑魚だからあんまり気負わなくていい”って。そうは言っても油断は禁物だわ。獅子はネズミを倒すにも全力をだすというものね」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が口元に手をあて、オオコウモリの死体を見て言う。真秀へ魔力を注ぎ込んで灯り代わりにすると、近寄ってきたメギドスネークへファントムレイザーの一閃を叩き込む。不可視の刃が蛇の全身を引きちぎりばらばらにした。死体を輪切りにしてなおも余った魔力の奔流が空間を歪ませる。
「コンセントレーション!」
 つづけて身を乗り出した零が魔力の力を借りて精神を集中させる。斜め後ろから近づいてきたオオコウモリへ向かい、勢いよく両手を突き出した。
「くらえ、ってかくらってください頼む!《Bread bullet》!」
 音速で飛ぶフランスパンの弾丸。それらは超音波を吐こうとしたオオコウモリの口内へカウンター気味にめり込み、その巨体を吹き飛ばした。ばこん、と景気のいい音がして、壁にぶつかったオオコウモリがくってりと気絶する。
「あれ? もしかして俺らって強い?」
「…敵が弱いんですメェ…」
『バーテンダー』ムー・シュルフ(p3p006473) は踊るように優雅な動きで後ろ回し蹴りを放った。直撃を食らったメギドスネークが怒号を上げる。ムーは、とんと床を蹴って、半歩体幹をずらし、ステップを踏むように右、左、右とスネークの頭部へ蹴りを叩き込む。くらくらと頭を振るスネークへ、これでしまいだとばかりに軽くジャンプしてハルバードで斬首。首を切り飛ばされたメギドスネークは速やかに沈黙した。
「…ダンスはジェントルマンたるものの嗜みですメェ…」
「負けてられないな。てゆっか心残りが多すぎてこんなところで死んでられないよ。姉さんにチナナちゃんに……おっと」
 とびかかってきたメギドスネークの攻撃を避け、『旅人』辻岡 真(p3p004665) はスネークの長い体躯をつま先で引っ掛けて勢いを殺す。何をするのだと言わんばかりに鎌首をもたげたスネーク、それこそが真の思うつぼ。両腕を頭上で組み、丹田で練り上げた気功を重ねた掌へ集め、スネークの頭頂部へ垂直に叩きつける。
「いっけえ、爆彩花!」
 インパクトの瞬間、目もくらむ光が走った。光の中でスネークの頭部は砕け散り、反動で真も手を火傷する。傷口からじゅうじゅうと音を立てて崩れ落ちるスネーク。真はほっとして拳を握った。
「やった! 一撃で! この分だと奥までいけそうだぞ」
「……僕にもやれるだらうか。恐怖と相対するにはいまだ勇気が足りないが」
 後方に隠れていた『雪中花蝶』斉賀・京司(p3p004491) が顔を出した。利き手を掲げ、反対の手で不幸のノートをひらく、そこに書かれた恨みの言葉をつらつらと読み上げる。フオォォォオン……。不穏な音とともに赤い光が利き手へ集まっていく。
 イーリンが顔をひきつらせた。
「まさか……ストップストップ、オーバーキル!」
 ドゴォン!
 京司の放った魔砲をもろに食らったオオコウモリが蒸発した。雪崩れていく魔力の奔流が部屋を荒らし次の部屋へのドアを半壊させ、地面を大きくえぐって壁へ巨大な傷跡をつけた。一同、ぽかんとして京司を見る。その細い体のどこにそれだけの力が眠っているのだ。
 小石が跳ね、かつんと音を立てた。瓦礫の下からかろうじて射程から外れていた最後のオオコウモリが姿を表す。
「ふう、やっと我(アタシ)たちの出番かい」
「拗ねるな拗ねるな。みんなが素早いんだから仕方がない」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)と『風来の名門貴族』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066) が踏み出した。
 武器商人はやれやれとばかりに最後のオオコウモリへ破滅の呼び声で怒りを付与し……喜色の混じった声を上げた。
「あ、回避できる。回避できるよ、我(アタシ)の身のこなしでも」
「良かったね」
「やあ新鮮だねえ。てっきりいつもどおり噛まれたり叩かれたりするものだと思ってたのに。こうしてみると意外とかわいいやつだね」
「ペットはカピブタで十分だろう。次の部屋まで連れて行って、ワタシのルーン・Hでまとめてやってしまおうね」
 二人は次の部屋でたまったうっぷんを晴らした。ぼたぼたと死体が落ちる。
 地面へ転がったメギドスネークをムーがじっと見ている。
「どうしたんだいムーさん?」
 真の問いに、ムーは顔を上げた。ハルバードの刃がきらんと光る。
「…随分大きいですメェ…。…もしかして食べられますメェ…?」
「えっ、でもモンスターだろ!?」
「…食文化によりますが、コウモリも蛇も高級食材なのですメェ…」
 零の反応にムーが答える。レイヴンがいたずらっ子の笑みを浮かべた。
「ジビエだねー、ふふふー」
「…まあ、ちょっとだけにしますメェ…」
 そういうとムーはハルバードで器用にコウモリとスネークを切り分け、氷結の石の箱に入れた。
「あら、いいもの持ってるわね」
 イーリンが瞳を輝かす。
「…フルーツを持ち帰るのにいいかと思って持ってきたのですが、こんなところで役に立つとは思わなかったですメェ…」
「私もいいもの持ってるわよ」
 そう言うと彼女はイーリン・コレクションを取り出した。皆で火を炊き、車座を作る。イーリンのいれた紅茶をすすり、一息。真の火傷を治しながら、イーリンは一同を見回した。
「それにしても、こんな男女比の仕事は初めてだわ。確か日本(ヤポン)ではオトメゲーって言うのかしら?」
「あゝ、そうだね。こういう男女比率は乙女ゲームか逆ハーレムだ」
「これって珍しいんだ…?」
 くすりと笑みをこぼす京司。不思議そうに応じた零に、レイヴンが悪乗りする。
「そういえばローレットの依頼って割と男女比は均衡するよね。今回はレアパターンかな? どうです司書殿? より取り見取りですが?」
「えー、そんなこと言われても私困っちゃうなー。いい男多すぎー、なんてね」
「…オトメゲー…? …それはなんですメェ…? …私は只の枯れたバーテンダーですメェ…」
「まーたまた謙遜しちゃってー」
 真がケラケラ笑い、紅茶の残りを飲み干した。一同は焚き火を丁寧に踏みけし、最後の部屋への扉を開ける。
 武器商人がひとり、前へ進んでいく。闇の底から、あるいは天井から、背後から、メギドスネークとオオコウモリが武器商人の肉を噛みちぎらんとする。武器商人は気にもとめず前へ前へ。
「かわいいコたち。もっと愛でてあげたいところだけれど、時間には限りというものがあるからねぇ」
 好き勝手にたからせた魔物たちへいっそ慈愛に満ちた視線を向けると、武器商人はゲシュペンスト・アジテーターを強く振った。青い火が灯り、幻の蝶が舞う。それはただの灯りにあらず。自分に近づくものを黄泉の国へ送るためのビーコン。入り口へ立っていたレイヴンがアルテマ・ルナティックの弦を引く。武器商人ごと敵を吹き飛ばす算段なのだ。
「……ちょっと慣れてしまった感じがアレだが、後で文句言わないでよ!」
「どうだろうね、乱れた髪は櫛を通せばもとに戻るけれど、やぶれた裾はそういうわけにはいかないからなァ」
「はいはい、新しい服買ってあげるから!」
 引き絞ったアルテマ・ルナティックがぼんやりと輝き始める。大きく浮かび上がるのは装飾体で描かれたルーン文字。破壊を表す「ハガル」の紋。輝きが最大になったところで、レイヴンは天井へ向けて矢を放った。氷が砕ける音がして、拳ほどもある雹が降り注ぐ。鋭く、そして尖った雹だ。それはそれ自身の重量と加速度で力を得て、モンスターたちの体へ次々とめり込んだ。雹の雨がやんだとき、その部屋に立っているのは武器商人だけだった。
「さて」
 武器商人はつかつかと歩いて、最奥にある扉、その前に頑然とそびえる岩へ近づいた。その表面にはいくつかの数字が描かれ、ぼんやりと緑色に光っている。これがいままで侵入者を拒んできたというパズルなのは明白だった。これこそが本番だ。
「数独とか、魔法陣とかは得手の部類だよ。この手の謎は深読みして手広く広げる必要が少ないから気が楽だね。ヒヒヒヒヒ……。さてさてDEF・defは849・516・372、と」
 武器商人は空いた部分を指先でなぞり、数字を書き入れた。
「この奥に太古の果実……。ん…とても楽しみ…。取れた暁には…ジェイルに美味しいスイーツにしてもらいたい…ものだ。」
 ヨタカが武器商人へ続けて入力する。
「ABC・def欄は152・374・698…。」
 まだまだ岩は沈黙している。真が進み出た。緊張した面持ちだ。
「床が割れたらごめんね。GHI・defは736・829・154」
 周囲は静まり返っている。真はほっと胸をなでおろした。
「…太古のフルーツですメェ…。…浪漫を感じますメェ…。…不肖ムー・シュルフ参りますメェ…。…GHI・ghiは473・265・918ですメェ…」
 ゼリーにするかプリンにするか迷いながら、ムーは入力を済ませる。
「太古の果物…ねぇ。……栽培できたりしないかな? 良い商品になりそうなものだけど」
 今度はレイヴンの番。彼は勢いよくささっと数字を書き込む。
「ABC・abcは431・786・529。ん? なんかこの岩、ちょっと光ってきてない?」
「だよな。正解に近づいてるってことか!」
 零がうれしげに岩へ近づき、指先を入力盤へ置いた。
「ABC・ghiは915・847・263。どうだ!?」
 入力盤を光の粒が流れはじめた。
「いい感じね。この調子で走り抜けたいわ。DEF・abcは697・425・183!」
 岩全体を緑の光が覆う。それは背後の扉まで続き、呼吸するように明滅している。
「それではトリ、いきます」
 京司がノートをひらいた。ここで間違えてはすべてが水の泡だ。
「DEF・ghiは268・931・754。GHI・abcは582・391・647」
 数字の並びが強く光り、消えた。地響きとともに、うしろの扉が開いていく。一同を包んだのは湿っぽい空気だった。次に一同が目にしたのは、いびつに捻じくれた巨木だった。いや、「木」ではない。何百というぶどうの蔦が絡み合って成長した姿だった。薄緑色の房がぽつぽつとぶらさがっている。部屋に入ってみると、荒れ放題だったこれまでの部屋と違って、どこか練達を思わせる人工物が並んでいた。天井からはまぶしいほどの光が降り注いでいる。
 部屋を見回し、遺物をのぞきこんだイーリンが口を開く。
「この部屋は苗のマザーを保管するためのもののようね」
「マザー?」
 零の声にイーリンは振り向いた。
「株分け用の元株よ。農作物の品質を管理するためによく使用される手段だわ。太古の昔にこれだけの技術があるとは驚いたけれど」
「ロストテクノロジーというやつだねぇ」
 武器商人はぶどうの木を眺めた。
「変わった形の実だね。ひらべったくて円形、コインが連なってるようで縁起がいい。安直だけれど、コインマスカットと名付けようか」
「それより試食試食……。」
 ヨタカが珍しく期待で目を輝かせている。
 武器商人は一房とると、全員にひと粒ずつ渡した。せーのでぱくり。

「「~~~っ!」」

「すっぱ!」
「いや、甘い?」
「すっぱあまい」
「俺この味知ってるぞ」
 その発言に皆が零を見た。零は自分の舌を信じて真剣に味わう。
「あ、ラムネだこれ。飲むほうじゃなくて、噛むやつ!」
 ラムネ! その瞬間「崩れないバベル」が大活躍して一同はラムネ味の何たるかを知った。
「最初は酸っぱさに驚いたけれど、慣れてみるとハマるわねこれ。眠いときとかに良さそう」
「イーリンさん食べ尽くさないで」
 真が袋を広げ、数房つんでいれた。
「根こそぎ持っていくのは盗賊のやることだ。次の人のために、なによりこの株のためにいくつかは残しておこう」
 レイヴンがそう言い、一同は部屋を出た。扉が自動的に閉まり、岩の表面には新たな数字の並びが浮かんでいた。
「こうやって、ずっとここを守っていたんだね」
 そう京司が言った。一同はおつかれさまと岩の表面を撫で、冒険を終わりにした。


 上座のジェイルはコインマスカットを口にするなり目を見開いた。
「この強烈な酸味! 凝縮された甘み! それでいてえぐみが感じられない、なんて洗練された味なんだろぉ。お手柄だよ諸君!」
 零がジェイルへ声をかけた。
「なあなあ、ちょっと分けてもらっても良い? パン作りの参考にしたいんだけど」
「もちろん君達が取ってきたものだから、その権利はおおいにある」
「あ、じゃあお土産にしちゃおうかな」
 真が機嫌よく足を組み直す。
「お土産といえば、ジェイルさん、お土産におススメのフルーツパイを。そうだね、2ホールで。サヨナキドリに僕を含めて三人、甘いもの好きであなたのファンがいるのだよ。だから2ホール」
「やあうれしいねぇ。あとで包ませておくよぉ」
「ジュエリー・フルーツ・シリーズは、どのスイーツも毎日と言っていい程食べたい、深く…それでいて魅力的な味だ…。特に以前頂いたアップルパイは…」
 饒舌にしゃべるヨタカは恋する乙女の瞳だ。人は味覚にだって恋をする。
「なんか、いい匂いするわ」
「これ、お肉の焼ける匂いだねえ」
 イーリンとレイヴンが言葉をかわし合い、皆で不思議がっていると、やがてキッチンから、ムーがお盆を持って現れた。ムーは全員の前に小皿とフォーク、それからライムが入った炭酸水、そして冷たいお茶を置いた。小皿には色の違う一口大の肉が二切れ。それぞれ半分に切ったコインマスカットが添えてある。
「…おまたせしましたメェ…。…メギドスネークとオオコウモリのステーキ、コインマスカットソース添えですメェ…。…スネークはノンアルコールのライムサワーで、コウモリは烏龍茶でお召し上がりくださいメェ…」
 えっ、食べるのこれ。みんなの心がひとつになった。
 最初にフォークをとったのは真だ。
「旅人たるもの、食べ物にケチはつけない、なんてね。半分は好奇心だけど」
「スイーツのことしか考えてなかったけれどぉ、こういう調理法もあるんだねぇ。勉強になるよぉ」
 ジェイルもフォークを取る。こうなると一同、後へは引けない。零だけがパニクって左右を見回している。
「食べるの!? まじで食べるの!? コウモリだよ! ヘビだよ!! 完全にゲテモノじゃん!?」
「……此処まで来たら……ムーの腕を信じるしかない……。」
 ヨタカが意を決してフォークをヘビ肉へ突き立てる。コインマスカットといっしょに口へ運ぶと……。
「あ、おいしい」
 イーリンが目をパチパチさせた。
「淡白な肉をパンチの効いたソースが包み込んで、新食感ね」
「…ヘビ肉はやや水分が多く、食感は魚肉に似ていますメェ…」
「なるほどぉ。コクの薄さをソースがうまく補ってるんだねぇ」
 武器商人がゆっくりと咀嚼しながら言った。京司は目を閉じて味わっている。
「噛めば噛むほど両者が交わり味がまろやかになって……」
 そしてライムサワーへ口を付ける。
「味覚が飽和した口内が爽やかなカクテルに洗い流される。これからの季節にふさわしい品だ」
「みんな食レポすごいな、俺なんかうまいくらいしか出てこないけど」
 零はコウモリ肉とコインマスカットを口中へ投げ入れた。
「あ、こっちのほうが肉って感じだ!」
「ほんとね、コウモリはヘビよりもコクがあるのね。新しい発見だわ」
「……帰ったら日記に書こう」
 食感の良さに驚くイーリンに続いて京司がつぶやく。
「…塩を多めにふり、ソースの味を調節してありますメェ…」
「珍味と美味は別物だと思っていたけれどそんなことはないんだね」
「料理人の腕次第、というところだねぇ」
「…お褒めにあずかり光栄ですメェ…」
 レイヴンと武器商人からの評価に、ムーはつつましく礼をした。
「お肉もいいけどぉ、やっぱりスイーツ!」
 ジェイルの一言に、アイデア出し合い大会になったジェイル邸の一室だった。

成否

成功

MVP

武器商人(p3p001107)
闇之雲

状態異常

なし

あとがき

冒険お疲れさまでした。初めて関係者依頼を担当させていただいたのですが、楽しいものですね。ジェイルくん、気に入ったのであと1~2本出します。くわしくはプロフィールページの予定欄をご覧ください。

さて、MVPは数独を解いた人に捧げなくてはなりますまい。武器商人さんへ。
速かったですね。びっくりしました。
称号「味覚の探求者」をムーさんへお送りしております。
また、全員へ「コインマスカット」を配布しております。
よろしくご査収ください。

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