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シナリオ詳細

納涼百物語「テケテケの首」
納涼百物語「テケテケの首」

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●さびしがりやの
 セレーデという少女について話をしよう。
 彼女はまだ5才だ。しかしその舌足らずな喋り方には理由がある。練達出身の彼女は、唯一の肉親である父親のフィールドワークに同行し、彼が魔種に変じるのを見てしまった。そのために幼児帰りをおこしてしまったのだ。紆余曲折あって、彼女は港町にある孤児院に迎え入れられた。だが彼女の心はひび割れたままだ。その傷口がふさがるのがいつになるのか、ようとして知れない。

●発端
 幻想の片隅にある港町ローリンローリン。そのメインストリートから外れて丘を登っていくと、空のあわいに溶けそうな小さな教会がある。そこは孤児院を兼ねた教会で、妙齢のシスターが八人の子どもたちを細腕ひとつで育てている。
 その道を下ってくる少女が二人。今日の買い物当番、セレーデとリリコだ。
「ふう、あついねリリコちゃん。じっとしてるだけであせがふきでてくるよ」
 セレーデがリリコへ話しかける。リリコはうなずくのみだ。もともと無口な子なので、セレーデは気にせず話を続ける。
「こんなひはね、れんだつではひゃくものがたりをするのよ」
 練達とは探求都市国家アデプトのことで、セレーデの出身地だ。このフーリッシュ・ケイオスへ召喚されたものの元の世界へ帰りたがっている旅人が集まり、知と技のかぎりを尽くして神の定めたもうた世界の掟に日夜挑み続けている冒涜的な都市国家である。しかしその科学技術は他国の及ぶところではなく、技術と引き換えに中立を維持している特異な国であった。その科学の国と、百物語なる珍妙な単語が結びつかず、リリコは首をかしげた。セレーデは得意げに続ける。
「あかりのないへやで、ろうそくだけをともして、くるまざになって、ひとりずつこわいはなしをするの。それでね、ひとつおはなしがおわると、そのひとはじぶんのろうそくをふきけすの。さいごのろうそくがきえたとき、おばけがでるの!」
「……おばけって何?」
「え? えーと、おばけはおばけだよ? 父さまはちみもうりょうってよんだりもしたわ。こわくてわるいものよ」
「……下級のデモンか何かの召喚式かしら」
「そうかも。おばけがでたらゴーストバスターズをよばなくちゃいけなくて、たいへんなんだって」
「……そう」
「ふふ、なつかしいな。なつになると、父さまたちはよくやっていたのよ。そのなかでもとくにこわいおはなしがあったの」
「……どんなの?」
「『テケテケのくび』っていうの」
「……『テケテケの首』……どんな話?」
「あのね、えーと……」
 セレーデは胸を張り、そしてまばたきをした。
「あれ? なんでかな。わすれちゃった。あんなにこわかったのに」
「……ふーん」
「あ、しんじてない。しんじてないでしょ。すっごくすっごくこわかったんだから!」
「……べつに信じてないわけじゃない。それより……出たの?」
「なにが?」
「……おばけ」
「あ、うん! くろいいぬをみかけたよ。すぐきえちゃったけど」
「……それだけ?」
「うん……」
 などと話しているうちに、二人は今日の目的地である魚屋についた。ねじりはちまきを締めた魚屋のおいちゃんが人好きのする笑みを浮かべて二人を迎える。
「おう、いらっしゃい、リリコちゃんにセレーデちゃん! 今日はゴールデンボンゴがおすすめだよ。こいつぁ今が旬。煮ても焼いても美味いぜ!」
「……それください」
 そう言ってリリコは持っていたバスケットをどさりと地面へ置いた。
「はいよう! ゴールデンボンゴ、カゴいっぱいね! あいかわらずシスターはよく食うなあ」
 魚屋のおいちゃんは大量の魚を手際よく積み上げていく。最後にはかりに乗せて、代金をリリコから受け取った。さて帰るかと言うところで、セレーデが一歩踏み出す。
「ねえおじさん。『テケテケのくび』っておはなし、しってる?」
 おいちゃんは手を止め、セレーデを見下ろした。
「おう知ってるとも。有名だもんな」
「……聞いたあと、なにか不思議な事は起こった?」
 リリコの質問においちゃんは顎をつまんだ。
「いや特には。ん? んー、強いて言えば黒い犬を見かけたことかな。この辺じゃ見ない犬だったな。けどすぐ消えちまったし、何をされたってこともなかった気がする。よく覚えてないわ。はっはっは!」
「じゃあ、『テケテケのくび』のおはなしはおぼえてる?」
「もちろんだとも、えーと」
 おいちゃんはバツが悪そうに、薄くなった頭をかいた。
「悪いなあ嬢ちゃん方。ど忘れしちまったわ。ぶわっはっはっは! また聞く機会があればちゃんと覚えておくぜ!」
 リリコはセレーデを見つめた。セレーデも同じ思いをしたようで、二人の視線が重なった。

 長い帰路をよいしょよいしょと二人で運んだバスケット。その中身を見たシスターは歓びの声を上げた。
「まあなんて美味しそうなゴールデンボンゴ! おめめはきらきら、うろこはつやつや。アクアパッツァにぴったりね。それとも濃厚なソースと絡めて白ワインできゅっと? ん~迷うわねえ~」
 夢の国へ旅立っているシスターのすそをリリコがつまんだ。
「……シスター『テケテケの首』の話を知ってる?」
「知ってるわよ。怪談の定番ですもの。えーと、たしか、あら?」
 シスターはこめかみを人差し指でぐりぐり揉んだ。
「聞いたのがあんまり昔だから忘れちゃったみたい。ごめんなさいね」
「……じゃあ、なんでもいいから、なにか覚えてること、ある?」
「そうねえ。言われてみれば黒い犬を見かけた気がするわ。何か不吉なことが起きたわけでもないようだし、すぐに消えてしまったから、気のせいかも。けど『テケテケの首』の話はとっても怖かったわ。それだけは記憶に残ってるの。あーあ、忘れちゃうなんてわたくしも年かしら」
 なんて言いながらシスターはバスケットを抱え上げた。
 釈然としない思いで、リリコとセレーデはシスターについていった。

 その晩、ベッドの中でリリコが世界でただ一冊の絵本を広げていると、隣のベッドのミョールが声をかけてきた。
「聞いたわよ。誰も知らない怖い話のこと」
 リリコは絵本をぱたんと閉じてミョールを見つめた。ミョールは負けず嫌いでちょっと意地悪なところのある女の子だ。
「思いついたんだけど、イレギュラーズならなにか知ってるんじゃない?」
「……そうね」
 珍しくリリコはミョールに同意した。
「あ、ねえねえ、だったらさ」
 反対側のベッドのセレーデが起き上がった。
「イレギュラーズさんをよんで、ひゃくものがたりをしてみようよ。きっとおばけがでるよ。でもイレギュラーズさんがいれば、きっとあんしんだよ」
「おばけはどうでもいいけど、あたしはリリコの泣きっ面が見てみたいわ」
「……あっそう。おやすみ」
 リリコはかすかに眉を寄せて不機嫌を表すと、絵本と一緒に布団の中へもぐった。狭い暗闇の中で逡巡する。たしかにミョールの言うことには一理ある。何せローレットは『何でも屋』なのだから。

●さあ語りましょう
「やあ、こんにちは。この暑いのに依頼探しかい? 精が出るね」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)はあなたに笑顔を見せると、依頼カウンターの向こうに体を向けた。そこに立っているのはリボンのカチューシャをした幼い少女だ。トートバッグの中から色鮮やかな絵本がのぞいている。漏れ聞こえてくる会話から察するに、少女は『無口な雄弁』リリコ(p3n000096)という名前らしい。ショウは時間をかけて少女から言葉を引き出すと、手を打って笑った。
「『テケテケの首』ならイレギュラーズの手をわずらわすまでもない。俺が知ってる。たしかね……」
 そのままショウは固まった。冷や汗がたらりとつたう。
「まってまって、ちょっとまってね。少しばかり時間をくれないか」
 そう言いながらショウは後ずさりをして、山のような報告書をすさまじい勢いでめくりはじめた。情報屋の面目躍如というところか。
「あー、結論から言うと、『テケテケの首』なる名称の怪談は存在する。だが肝心の内容については報告があがっていない」
「……一件も?」
「一件も」
 リリコの問いに、ショウは眉間を押さえた。
「かく言う俺も聞いたことはあるんだが、記憶がすっぽ抜けている。なんでかな。話を聞いたあと黒い犬につきまとわれたのは覚えてるんだ。けど、なにかされたようなされてないようなとにかく記憶が曖昧で、それにすぐ消えちゃったんだよ。なんだったんだろう……」
 ショウは勢いよくあなたを振り返った。
「キミたちに依頼だ。港町ローリンローリンにある孤児院の百物語に参加し、『テケテケの首』なる怪談を披露してほしい」
 いや、知らんがな。そんなの見たこともなければ聞いたこともない。あなたがそういうとショウは首をすくめた。
「百物語ってのは、練達風の怪談座談会のことだよ。『テケテケの首』から連想して、なんかそれっぽい話をでっちあげればいいんだ。これだけ人数がいれば、どれかかするだろう」
 ええんかいな、そんな適当で。あなたがそう返すとショウはあなたにしがみついた。
「頼む。聞いた話を忘れたとあっては、情報屋の沽券に関わるんだ。お願いだから参加してくれ」
 そうは言われても何を語ればよいのやら。あなたの顔色を読み取ったショウは人差し指をちっちと振った。
「まあ『テケテケの首』と言われて何も思いつかなかったら、自分の知っている一番怖い話をネタに一席ぶてばいいんじゃないかな。百物語のメインは参加者、つまり孤児院の子どもたちをどれだけ怖がらせるかにあるわけだし」
 そういうもんかいな。まあ暑さも本格的になってきたことだし、ここはひとつ百物語で涼むというのもありかも知れない。
 あなたはショウに押し出されるようにギルドを出た。

GMコメント

みどりです。バ○オハ○ードは最初の扉が開けられず挫折したチキンです。
ラストに怖い画像貼るタイプの怪談は滅びればいいのに。

さておき、PCさんは『テケテケの首』なる縁もゆかりもない、タイトルだけでなんかそれっぽい創作怪談を語れという無茶振り依頼を受けました。さすがにハードルが高いのでオリジナルな怪談も歓迎です。

メインの判定は孤児院の子どもたちをどれだけ怖がらせるかです。あとはオ・マ・ケ。
似たような話が続くと子どもたちがしらけるので、かるく相談しておくとよいでしょう。

孤児院のこどもたち
 12才男ベネラー おどおど
 10才男ユリック いばりんぼう
 8才男ザス おちょうしもの
 8才女ミョール 負けず嫌い
 10才女リリコ 無口
 5才女セレーデ さびしがりや
 5才男ロロフォイ あまえんぼう
 3才女チナナ ふてぶてしい
 院長イザベラ くいしんぼう

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 とはいってもイージーなので、お気軽にご参加ください。

  • 納涼百物語「テケテケの首」完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年07月07日 22時00分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
皆の翼
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
聖女の小鳥
クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
薄幸の頭首
辻岡 真(p3p004665)
旅人
霜凍 沙雪(p3p007209)
迷子の雪娘
高槻 夕子(p3p007252)
クノイチジェイケイ

リプレイ

●百物語
「さーて! 怪談、都市伝説とくればJKの出番よっ!」
「JKってなに?」
「ジョシコーセー!」
「ジョシコーセー! なんか強そう!」
 わーすごーいとロロフォイが夕子を尊敬の眼差しで見上げる。
 舞台は講堂。長椅子を脇に寄せて作った空間に敷物を敷き、イレギュラーズ一人ひとりの前に取っ手のついた燭台が並べられている。クッションの上に陣取って、全員で車座を作り、ろうそくの明かりがゆれるたびに踊る影を見ているとそれだけで気分が高まった。まんなかには水盆がひとつ。真が仕掛けたものだ。
 今夜の密会に集まったイレギュラーズは八人。

『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)
『旅人』辻岡 真(p3p004665)
『迷子の雪娘』霜凍 沙雪(p3p007209)
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
『蒼焔のVirtuose』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
『聖女の小鳥』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
『薄幸の頭首』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
『闇之雲』武器商人(p3p001107)

 いずれ劣らぬ語り手揃いだ。
 夕子の隣にはロロフォイ、真の隣にはチナナ、レジーナの隣にはザス、沙雪の隣にはセレーデ、アストラルノヴァの隣にはユリック、ベルナルドの隣にはベネラー、クロサイトの隣にはミョール、そして武器商人の隣にはリリコが座った。シスターは少し離れたところで、ロザリオを手にしている。なにせここは幻想、何ごともなく終わればいいが……。
 みんなこれから始まる百物語に緊張している。そんな空気を吹き飛ばすように夕子が手を上げた。
「そんじゃトップバッターいっきまーす! 題して『天使のテケテケ様』!」

「女の子って可愛い物が大好きよね。可愛いあの子の持ってる物とか、欲しくなっちゃうよね」

「あるところにコリルちゃんとそのお友達のマイアちゃんという二人の女の子がいました。コリルちゃんはマイアちゃんの持っているバッグが可愛いと思いました。でもコリルちゃんのおこずかいじゃ買えません。でもコリルちゃんには味方がいます。可愛い子の味方、テケテケさん。朝の4時44分に合わせ鏡に青文字で書いた紙を写すと、書いた願いをかなえてくれる天使様。
 コリルちゃんは早起きしてこう願います。
『マイアちゃんの持っているバックと同じ物が欲しい』
 そうするとあら不思議。机の上にマイアちゃんの持っているのと同じバックがありました。
 コリルちゃんはどんどん願います。髪留め、手袋、靴下……」
 夕子が一息入れた。子どもたちはじっと聞き入っている。
「コリルちゃんの願いは止まりません。マイアちゃんと同じ物を持っていても、コリルちゃんはマイアちゃんほど可愛くならない事を知ってしまったからです。同じ物をもっても駄目なら……。コリルちゃんはついに4時44分にテケテケさんにお願いします。
『マイアちゃんのようなかわいい顔になりたい』
『おめめもおはなもおくちも、同じになりたい』
 願いは叶い、コリルちゃんはマイアちゃんと同じ顔になりました。
『あれ? じゃあ元の私のお顔は何処に行ったの?』」

「疑問に思うコリルちゃんは、机の上に丸い何かが転がっているのを見ました。
 いつも見慣れていた。自 分 の 首 を 」

「ひっ!」
 押し殺した悲鳴がセレーデからあがった。彼女はあわてて口元を抑え、首を振った。願えばなんでも欲しいものがもらえるなら……多分思い当たることが山程あるんだろう。
「はーい、そんじゃろうそくを吹き消しまーす。いくよっ!」
 夕子はろうそくへ息を吹きかけた。

「じゃあ次は俺ね」
 チナナを膝の上に乗せ、真は枕から入った。

「テケテケの首は武器商人さんの言葉を借りればマザリモノ。そしてレジーナさんと武器商人さん曰く、テケテケと牛の首が混ざっているから誰も覚えていないのだそうだよ」
 じゃあ黒い犬は?
 俺はね? 送り狼犬系のナニカだと思うんだよ。皆がそいつに遭って無事だったのはその時この黒い犬とも出遭って無事に送り届けて貰ったからこそじゃないかと思うんだよ」
 真は隣で寝ている真っ黒な「わんころ」の背を撫でてやった。

「さあ話そうか。これは昔俺が体験した話さ。その時俺は旅の途中で森を抜けようとしていたんだ。
 どれくらい歩いただろう? 黒い犬が現れてさ。俺についてくるんだよ。その犬は、肉は裂けて腐って妙な異臭はするし肉の間から白い骨が見える。俺を見てニタリと笑う。そいつはとても気持ちが悪い気味が悪いモノだ。
 でもその時、人恋しかった俺には憑いてくるそのコがとても可愛く思えてねぇ。それに、送り犬は家に帰るまで転ばなければ出遭った者を他の危険から守ってくれるんだってさ。

 ありゃ?」

 真は指を振って参加者の数を数えた。そしてこくびをかしげて困り顔を浮かべる。
「増えてるね。まだ……。ああ、皆がよんでるのかい? そりゃあ南無阿弥陀仏。わんころ? 俺にはお前が頼りだ。こりゃ無事に帰れるかな」
 えっえっ? と子どもたちがあたりを見回す。不安が蓄積していく。「はいはい、大丈夫大丈夫」と、真は笑顔を浮かべてみせた。
「今回は無事に百物語が終わるまで、俺が部屋の四隅に燭台で立てた結界から出ちゃダメだよ。真ん中の水盆見て。本当には起こってないことだから反応したらダメなのさ。 もし反応しちゃったら? その時は、あはは、ムシャリ♪ だね」
「笑顔で物騒なこと言うなでち~~~」
 半べそのチナナが真の胸を叩く。
「じゃあ、二本目、吹き消すね」
 フッと息を吹きかける真。暗闇が迫ってくる。

「次は私です」
 沙雪が軽く手を挙げ、とつとつと語りだした。
「ある吹雪の晩に、旅人が道に迷って山小屋を頼った……。
 誰もいない。
 猟師の休憩所と見えて、旅人はそこで休むことにした。炉に火を焚いて体を温め、食べるものもなく旅人はごろりと横になる。夜も更け、火も消え、真っ暗になった小屋の中、旅人は寒さに目を覚ました。火を灯しなおすため、炉の灰を掻き出す。
 すると妙な手応えを覚えた旅人、桶にそれを明けてみる。燃え残った薪ではない。燃えて真っ黒になった人間の右足だった。
 ギョッとした旅人はおののいて、薪置き場へと後ずさる。背中が積みあがった薪に当たる。薪の隙間から氷のように冷たい手が伸びる。旅人の口を塞ぐ。背筋も凍るような女の声「私の足を知らないか」仰天した旅人は、気づけば小屋で眠っていた。
 雪は降るが夜は明けている。悪い夢でもみたのかと、旅人が気味悪がって小屋を出る。
 道なき道を進む。すると女の声で。
「もし、旅の人」
 ぞっとして振り返る。木の陰に一人の女性。
 こんな人とすれ違ったかしらと不審に思っていると。
「私の足を知らないか」
 姿を見せると、女の右足がない。
 すると地面をはいずるようにして、女が恐ろしい速度で旅人に迫る。腰の抜けた旅人は動けない。そして女は旅人の右足をちぎって持って行ってしまった……」
 場が沈黙に包まれた。いささか温度も下がった気がする。
「おしまい。そっちのろうそく、けして」
 沙雪がセレーデにそうお願いすると、セレーデはこわごわとろうそくを消した。同時にひえきった冷たい手がセレーデの口元を抑える。低い声がボソリと耳元で。
「私の足を知らないか」
「~~~~~!」
 口を抑えていて良かった。でないとセレーデは絶叫していただろうから。そう沙雪は思った。

 レジーナは「「テケテケの首」とは違うものかも知れないけれども」と、前置きして話し出す。
「これはある人から聞いた本当の話なのだけれどね?」
 
「その人は昔、身寄りのない子供を預かって暮らしていたの。その人の職業は呪い師で、そうね、安産の祈願をしたり、縁起の良い名前を占ってあげたり。そう言う事をして生活していたの。
 当然その人の家には占いや呪いの本が沢山あったの。その人は子供たちに本を読むことを禁止していたわ。でもね、好奇心旺盛なその子供たちはその話をまるっきり聞いていなかったのだわ。ある日子供の一人がその中の一冊を読んでしまったの。
 家に帰って来た時、その人は本が一冊別の場所に置いてあったことでそれに気付いたのだけれどね。その人は慌てて子供たちを一人ひとり呼び出して本を読んだのは誰かを問いただしたの。

 その日を境に、その人の家で子供たちを見ることはなくなったそうよ。噂では、里親が見つかって皆家を出て行った、なぁんて言われているらしいけれども。
 ふふ……真相はどうなのかしらね?」

「うん? 本の内容はなんだったのかって? そうねぇ、我(わたし)は詳しくは聞いてないのだけれどね。確か犬の首をどうこうする話だったかしら。さてさて、不思議と忘れてしまったわ。
 でもその方が幸せかも。だって、この話を聞いた人は決まっていなくなってしまうのだもの。話を聞いたその人も、今は音信不通だし、ね?」

「え、聞いちゃったよ。どうしよう」
 ベネラーが世にも情けない顔をする。
「ふふふ、四本目だわねえ、ずいぶん暗くなってきたわね」
 またひとつろうそくが消える。

 次の語り手、アストラルノヴァは立ち上がるとヴァイオリンからわざと不快な音を立てた。
「これはトラツグミの鳴き声。そしてこの声で啼く妖怪が鵺という。頭は猿、背は虎、足は狸、暗雲に乗り不気味な声で啼く妖怪だよ」
「ようかい!」
 セレーデがくいついた。
 くすりと笑ってアストラルノヴァは続けた。『鵺の首塚』という名の物語を。ヴァイオリンがキィと鳴る。

「森の中にある不思議な場所。高い柵と古びたお札。その奥には不思議な塚。
 そこへは近づくなと言う村の掟を破った少年三人が夜、肝試しの為に柵を越え侵入する。何もないじゃないかと安心する間もなくざわつく森、只ならぬ雰囲気。三人の息が上がる。何かが近づいて来る。逃げないと、でも怖くて動けない。
 少年達の前に現れたのは、首だけで動き回る妖怪鵺。気味の悪い雄叫びを上げながら少年達を喰らおうと襲いかかる。
 逃げろ、走れ!
 もつれる足を振り絞り一人の少年は柵を越える事に成功、しかし二人目の少年の服が柵に引っかかる。三人目の少年が背を押す。あと少し、目と鼻の先に鵺の首が差し迫る。早く、早く……!」
 ごくりと固唾を飲む子どもたち。
「気が付けば少年達は村の入口で倒れていた。あれは……夢だったのか?
 その後三人は親に怒られるんだけど……皆もシスターの言い付けは必ず、守るんだよ…でないと……ん、俺の顔に何か付いてる……?」
 アストラルノヴァは口元だけくちばしに変えた。ヴァイオリンを使った演出に、さりげなく使われていたギフト、そして恐怖の二段落ちにさすがのユリックも肝を冷やしたようだ。
「は、ははは、最後の三人が逃げるとことか、カーチェイスみたいでおもしろかったぜ」
 おもいっきり強がり満載のセリフを吐くユリック。口元を人間形態に戻すと、アストラルノヴァは満足げに五本目のろうそくを消した。

「皆の話、大人が聞いても怖くねぇか? ……べっ、別に俺は怖くな……。びびびビビってねえ。次の話、行くぜ!」
 ベルナルドは恐怖を断ち切るように首を振り、大きなスケッチブックを取り出した。
 紙芝居だ。イレギュラーズと子どもたちがベルナルドの前に燭台を持って集まる。
「俺は芸術家として素敵な絵を描くために、色々な作品見てまわってるんだが、どうしても忘れられない一枚があるんだ」
 言いながらベルナルドは話にあわせてスケッチブックをめくっていった。

「あれとの出会いは、とある美術館。閉館時間も近い夕暮れ。残ってる客は俺くらいだし、そろそろ帰ろうと思った時。廊下の突き当たりにある絵画が気になって立ち止まった。というのも、その絵画だけ手前に掲示用のボードが立っていて殆ど隠れてたんだ」

「雑な展示の仕方にムッとしつつも、作品に近づいて覗き込んでみたら、それは鏡の破片を貼り付けて作られた、白黒の不気味な抽象画
 ふと、首元に生温い風を感じる。
 まるで吐息みたいなそれに一瞬気をとられると――」

 勢いをつけてベルナルドはスケッチブックをめくった。絵画の鏡ごしに映るベルナルドの背後に、おぞましい生首が浮かんでいる絵を見せる。その画力でもって書き上げられた不気味な絵に子どもたちは目を見開き硬直した。

「掲示用のボードの裏には、お札っぽいモンが貼られてた気がする。……が、細かい事を確認する余裕はなかった。俺は警備員の注意の声すらも振り切るように、美術館を飛び出したからだ。
 あの絵が何だったのか。生首が何だったのかも今は知るすべもない。
 ただ言えるのは、隠された物には隠される理由がある。怪しいものを見つけたら、自分で無闇に調べようとせずに、まずはシスターに聞いてみるんだぞ」
「「はいっ!」」
 一斉に返事が戻ってきた。自分の出し物は成功したのだと確信して、ベルナルドは六本目のろうそくを吹き消した。

「ついに残り二話となりましたねえ……鬼が出るか蛇が出るか。この時期、怪談話というのは良いものですね。私の悲劇を持ってお役に立ちましょう」
 クロサイトがミョールの頭をなでながら言う。
「皆さんはゴールデンボンゴという魚をご存知ですか?」
「「はーい」」
「そう、今が旬の美味しいお魚です。ある所に一匹のゴールデンボンゴがいました。
 彼は海の中から見上げる人間の世界に憧れており、仲間達に変な魚だと驚かれていましたが、そんな望みを聞きつけて、海の魔女が、彼に人間になれる魔法をかけてくれました。
『よくお聞き。その魔法は夜の内しか効かないから。完全な人間になるには、人間とのキスが必要だよ』
 忠告を聞いた後、砂浜に打ち上げられた青年は、浜辺に貝拾いをしに来ていた一人の少女に出会いました。頬に傷を持ちながらも、その少女は見目麗しく、彼女もまた、おめめはきらきら、髪はつやつやの青年に惚れ込み、虜になったのです。
 二人は夜毎に遊ぶ仲になり、ある日の夜、ついに思いを告げた少女と、彼はキスをしました。
 ――やがて夜は明け、日は昇り。人間になった青年は胸いっぱいの幸せと共に、一人で村へと歩き出しました。

『あぁ。これで僕は人間だ!やっと食べる側になれる!』

 彼は仲間達を捕らえて食べる人間達を妬み羨んでいたのです。そしてその片手には、頬に傷のついた一匹のゴールデンボンゴが握られていたのだとか。食べられた彼女の亡霊は未だこの世を彷徨っているそうです……ほらこんな風に」
 窓際をすうっと人影が横切った。なんのことはない、ただの幻影だが、効果は抜群だった。パニックになりかけた子どもたちの対処にイレギュラーズは追われたが、やがてそれも落ち着いた。

 一本だけになったろうそくの前で武器商人がにたりと笑う。
「はて、さて、『テケテケの首』だったか。――本当に知りたい?
 ……よかろ。では語ろう。『テケテケの首』とは、

 鮟偵″迥ャ縺ョ蜷阪r縺ヲ縺代※ケ
 縺ヲ縺代※ケは螟ァ螻、蜿ッ諢帙′繧峨l縺溽堪縺ァ縺ゅj縲∽ココ髢薙↓諞ァ繧後k迥ャ縺ァ縺ゅ▲た
 どうして繧ゆココ髢薙↓謌舌j縺溘>縺ヲ縺代※ケは、荳サ莠コ縺ョ逡吝ョ医↓蜈・縺」縺溽尢莠コ繧呈ュ、繧悟ケクいと蝟ー繧阪≧縺ヲその逶嶺ココ縺ォ謌舌j莉」繧上▲た……」

 まるで異界の呪文だ。みんなぽかんとして、武器商人を眺めている。武器商人は気にせず続ける。リリコだけがなにかに備えるようにじっと暗闇を見ていた。

「蟾ア縺ョ蝎コ縺ォ縺ー繧捺$諤悶r謚アいた者に縺ッ、鬥悶r蝟ー繧阪≧縺ヲその莠コ髢薙↓謌舌j莉」る
 縺昴@縺ヲ縺イ縺ソ縺、縺瑚ヲ九▽縺九i縺ェいように、縺昴l莉・螟悶↓蟇セ縺励※縺ッ蟾ア縺ョ蝎コ縺ョ記憶縺ォ縺、いて蝟ー繧峨≧……――キミか」
「……あそこ」
 リリコがすっと暗闇の奥を指差す。わんころが突然立ち上がり、暗闇に体当たりを仕掛けた。続けてアストラルノヴァとクロサイトが何かを押さえつける。
 ギャワン! ギャンギャン!
 犬の鳴き声がする。それは不定形な影のような犬の姿をした何かだった。
「それじゃ種明かしをしようか。この犬は呪いに対するカウンターとして作られた存在でね、『テケテケの首』の話に関する記憶を食うんだ。
 牛の首は本来、「聞いた人が死ぬ」という呪いとして成立していた話だ。そこに誰かが「テケテケに襲われて死ぬ」という蛇足をつけたんだね。そして『テケテケの首』という呪話が生まれた。つまりね……」
 武器商人は続けた。

「おばけは二匹いるんだよ」

 皆がしんと静まり返った。廊下のほうから奇妙な音が近づいてくる。
 ……テケ、テケテケ、テケテケ。
 真の置いた水盆がにわかに沸き立ちはじめた。
「ほら来たよお、呪いの本体が」
 ――バン! バン! バン!
 イレギュラーズが立ち上がり、扉を開け放つ。攻撃スキルが乱れ飛び、真っ白な光を放って何かを焼き尽くした。

 ギャアアアアアアアア!

 あとには何も残らなかった。武器商人は全員を見回し、機嫌良く続けた。
「さ、今回はこれで大丈夫。黒犬くんは用無しだ。帰っていいよ」
 言われた通り黒い犬は大気に溶けていく。
「百物語なんてするもんじゃねえなあ」
 と、ベルナルドは大きくため息を付いたのだった。

成否

成功

MVP

クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
薄幸の頭首

状態異常

なし

あとがき

どのお話もたいへんすてきだったのでアドリブほぼなしでいかせてもらいました。
もっといろいろと書きこみたかったんですが、泣く泣く削る羽目に。
字数? ……いいやつだったよ。

MVPはお話がガチで怖かったクロサイトさんへ。
称号「孤児院顔パス」を武器商人さん、真さんへお送りしています。

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