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シナリオ詳細

<冥刻のエクリプス>燻る信仰の心
<冥刻のエクリプス>燻る信仰の心

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


●冥刻のエクリプス
 探偵サントノーレとイレギュラーズたちの調査で様々なことが判明した。
 黄泉から還ったと噂された親しい人々は『月光人形』と呼ばれる故人とは似て非なるものであり、あれらは奇跡ではなく魔種ベアトリーチェによる醜悪な企みであった。
 そして、彼女が従える勢力はこの聖都フォン・ルーベルグの制圧に動き出した。
 押し寄せる魔種の軍勢。
 清く正しく生きて来たはずのわたしたちはこの事態に混乱した。
 それでも、イレギュラーズたちの、ローレットたちが示してくれた事実は前を視るための力を与えてくれた。

 ──わたしたちは天義の民として、国是である宿敵『魔種』へと立ち向かう。

 そう、決めたはずなのに。
 正義と理想を掲げし、我らが『天義』こと聖教国ネメシス。
 その身のうちを侵していた病が芽吹いてわたしたちを揺るがしているのだ。
 魔種が率いる軍団と時同じくしてこの都に剣を向ける天義の騎士や兵たち。
 市街地でも潜んでいた魔獣や魔種化した人々、狂人が暴れて混乱しているのだ。


●迷い

 ──わたしは『悪』になってしまったのだろうか。

 神へと祈るその傍らで、彼女は思ってしまった。
 十二歳になったばかりのヘルマは教会で育てられた心優しい少女だ。
 神を信じて敬意を払い、悪を許さず、正しくただしくと育てられた少女だ。
 それなのに、神への祈りのかたわらでそのような不敬な思いを抱いてしまった。
 それこそが、悪だと、彼女は教えられて来たのに。
 ──よくは知らないのだ。
 ただ、大人たちが交わす慌ただしい会話の欠片を集めたら、天義においての『悪』としか言えないことがあちこちに蔓延しているように思えるのだ。
 信じる者として恥ずかしくないよう厳しく自らを律し、清く美しかったはずのこの国、わたしたち。
 なのに、何故、この国の中で戦い争い合っているのか。
 この国はどうなるのだろう。
 ────わたしたちは、どうなるのだろう。
「……こんなこと、考えてはいけないわ」
 頭を振って、ヘルマはパンの詰まった籠を抱えた。

 争いは街の中でも起こっていた。
 月光人形は穏やかな日常の仮面を脱ぎ捨てて隣人に襲い掛かり、原罪の呼び声(クリミナル・オファー)を受けて魔種化した人々も現れている。
 この教会はいつしかそんな争いから逃げて来た無力な人々が集まっていた。
 しかし、皆ですぐ近くのもっと大きく安全な造りの集会所に合流するのだと言う。
 怪我人や老人を馬車に乗せ荷物運ぶ数時間、やんちゃな子供たちは教会の礼拝堂に集められて周囲を何人かの大人たちが警備していた。

 礼拝堂での祈りに集中できなかったヘルマは、聖堂で騒ぐ他の子供たちのためにパンと水を取りにきたのだ。
(私が一番のお姉さんなんだから、しっかりしなきゃ)
 食糧庫のドアを閉めようとして、ヘルマは小さな影が走り抜けたのに気付いた。
「……クンツ?」
 それは、教会の近所に住む四歳の少年だった。誰とも話さず、ここに来てからいつも二階で窓の外をずっと見ていた。
「ねえちゃんのところに行ってくる!」
 彼は笑顔でそう言うとそのまま裏口へと走った────。
「……お姉ちゃんって」
 恐ろしいことに気付いて、ヘルマは彼を追った。
 クンツの姉デリアはヘルマより年上の十五歳で、一年前に死んでいる。
 月光人形事件を知り、長女を亡くしたこの家族が件の人形に魅入られることを心配した神父が彼らをこの教会へと招いたのだ。
(大丈夫、もしそうだとしても、月光人形は魔物のような力はない……)
 食糧庫から持って来た延し棒を握り締めてヘルマは裏口へと向かった。
 ──そうであると思いたくなかった。けれど、それは起きていた。
「ねえちゃんだよ!」
 満面の笑みでヘルマを振り返るクンツ。
 内側からの鍵が外されて大きく開いた裏口のドアには穏やかな笑みを浮かべたデリア。
 それはヘルマの記憶の彼女とは何ら遜色なく。
「魔物が化けたニセモノよ、逃げて!」
 戦おうと思った延し棒とパンの入った籠を投げつけて、クンツを抱えたヘルマは一目散に礼拝堂に向かって必死に走った。



●動揺
 集会所へ大きな乗合馬車が着く。
「はい、ただいま到着しましたー」
 御者台からリーナ・シーナ(p3n000029)が声をかけると、荷台から何人もの一般人が礼を言いながら降りていく。彼らはこの馬車が街中を走って集めた、ここへの避難を希望する人々だ。
「じゃあ、もう一週して……」
 リーナが馬車を出発させようとすると、真っ青な顔をした神父が駆け寄って来た。
「教会が襲われている!」
「え?」
 驚いたリーナはすぐさま幌の上に乗る。
「煙が出てますね。これは……」
 集会所から飛び出した人々が焦った顔で口々に叫ぶ。
「あそこには息子が!」
「急いで戻らないと!」
「警護してた奴らはどうしたんだ!?」
 内心、神の加護のある教会の方がよほど安全だと思っていた彼らの動揺は激しかった。
 怪我人・病人の移動はすでに済んでいて、あそこには十人の子供たちと二人の大人が残っているのだという。
「……はいはい! 了解です。では、ワタクシたちが向かいますので皆様は引続きここで守りを固めてください! ここには動けない人もたくさんいますからねー?」
 一瞬浮かべた険しい表情をすぐに消して、リーナは人々にそう言った。
「馬車には頼もしいローレットの皆様がいらっしゃいます。心配なのはわかりますが、皆で駆け付けた隙にこっちが襲われたら大変ですからね。大丈夫、安心してお任せあれですー!」
 そして、幌の中を覗き込む。
「それで、いいですかねー、皆様。すみません、嫌って言っても出発しちゃいますが!」

GMコメント

イレギュラーズはリーナの乗合馬車の警備として雇われ同乗していました。
集会所には大勢の人々がいますが、警備として充分な戦力はあります。
教会に残っていた大人たちも集会所ほどではないが腕自慢の大人たちもいましたが、
皆、倒れて戦闘不能状態です(死んではいません)
リプレイは教会到着後から開始です
(集会所での心情は回想という形になります)
主な目的は
・十人の子供の救出
・警備の怪我人の救出
・小火の消化
になります
怯える人々や子供たちのケアなどはお任せします


●ステージ:教会
背の高い礼拝堂とその左右に平屋の建物があり繋がっている

平屋(右):食糧庫があり、裏口がクンツによって開けられてしまっている
 ※外に警備の青年(マルコ)が倒れている
月光人形3名が中に入っている
礼拝堂:子供十名がカギをかけて閉じこもっている
 外に直接通じる立派な扉があるが閂がかけられていて子供の力では開けられない
 窓はあるがステンドグラスで開け閉めはできないただし、隙間があり声かけはできる
 ※暴徒×2が平屋(左)と礼拝堂周辺を交互に徘徊
平屋(左):裏口のドアは鍵がかかていて、暴徒による小火が起きている
 ※周囲に警備の男性(ショーン)が倒れている
 ※暴徒×1が近くを徘徊(ショーンとの戦いで小火を起こしてしまった模様)
周囲:暴徒3名(戦闘力・装備は一般兵士レベル)が周回している


●敵
〇月光人形:亡くなった信者の姿をしているが、最早ただ襲い掛かるのみ
子供たちや警護に当たっていた人々はその姿に動揺して対応できない
戦闘力は一般人レベルではあるが、少々特殊で耐久力が高く素早い
・デリア:棍棒を持っている
・老女:斧を持っている
・青年:剣を持っている
〇暴徒×3
原罪の呼び声によって混乱した一般兵士
教会に近づく者を攻撃する


●NPC
〇教会の子供たち(10名)
・少女ヘルマ(12歳)戦闘能力なし
・少年クンツ(4歳)戦闘能力なし
他8人の五歳~八歳の子供たち
少年:シシリー、ジョーン、ニケ、マック
少女:クルリ、ルナ―、リリ、ジーン

〇倒れた警護の人々(2名)
マルコ(青年):剣で突かれ血を流して意識を失っている。傷は深い
ショーン(中年男性):殴られて気を失っている

●乗合馬車(大型キャラバン)
8人のイレギュラーズと大人二人と十人の子供はギリギリ乗ります


突入して、怯える子供たちを救ってください。
よろしくお願い致します!

  • <冥刻のエクリプス>燻る信仰の心完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年07月15日 13時55分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

主人=公(p3p000578)
ハム子
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
秋宮・史之(p3p002233)
女王忠節
クーア・ミューゼル(p3p003529)
こげねこ
シュテルン(p3p006791)
こころの花唄
プラック・クラケーン(p3p006804)
幸運と勇気

リプレイ

●ヒーローたち
「どこもかしこも戦火、戦火、戦火! 魔種のヤロー、ふざけんじゃねぇぞ! クソがっ! っと、怒ってる場合じゃねぇ、早く助けに行ってやんねぇと……!」
 『幸運と勇気』プラック・クラケーン(p3p006804)は苛立ち拳を握った。
「なんてことだ。一刻も早く子どもたちを救わなくては。子供は未来を創る存在なのだから」
「急がねばなるまいな。これ以上の犠牲を出すわけにはいかぬ」
 『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)と『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)の言葉に、皆一様に頷いた。
「急ぎか。なら、僕も馬車を出そう」
 『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は軽やかにキャラバンから飛び降りた。
「こんな状況だ、帰りの車は多い方がいい。教会だな。すぐに追いつく!」
 ランドウェラを含めたイレギュラーズたちの顔を見渡すリーナ。
「忙しくなりましたが、これも依頼の一環で、よろしいですかねー?」
「この地には敬虔かつ純真な心を持って信仰を護る人たちがいることを、私は知っているのです。これまでのお仕事で、そういう人たちに逢ってきましたから。今こそこの手で彼らに報いるとき、彼らを助けるときなのです!」
 『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)がツートンカラーの瞳を真っ直ぐに向けた。リーナは二ッと笑う。
「流石、ワタクシのお得意様、ローレットの皆様。頼もしい限りです。それでは、よろしくお願い致します!」

 教会へ荷台の馬車が滑り込む。素早く降りた下呂左衛門が跳躍して背の高い樹にしがみつき、現場を見渡す。
「煙は左の平屋、右方は……随分荒れているようだな。左が危急でござろうか? ひとまず拙者はそちらに向かおう」
「次は私の番なのです。これで様子が見れるのです!」
 クーアの足元から使い魔にした子鼠が一匹、一瞬、礼拝堂へと駆けて行った。
 『ハム男』主人=公(p3p000578)が表情を引き締めた。
「馬車で決めた通りに別れて三隊で進む、それでいいかな? キミはどうする?」
 問われたランドウェラは右を指した。
「火の対応もできそうにないし、放火魔が居ても手加減が面倒だから僕はこっちだな。──おっと、行く前に」
 ランドウェラから赤の熱狂のバックアップを受ける。
 踏み出した下呂衛門が目を細めた。
「うん? 血の臭いもするな。右に向かう者は気をつけられよ」
「そっちもな! たっく、荒む気持ちは分かっけど、だからって暴れんじゃねぇよ……」
 プラックは黒煙を一瞥して吐き捨てた。


●けぶる焔
 焦げた煙の臭いが漂う中、火元を目指して四人は足を速めた。
「誰か、誰かいるか! もし、隠れているならば必ず助ける。下手に動かぬように! そうでなければ、声を上げよ!」
 敵の存在を危惧しながらも、下呂左衛門が声を張り上げる。
「礼拝堂へ入り込めるような場所は見つからないのです。ドアを探すしか」
 鼠の五感を使って探っていたクーアが呟く。
「まったく、ずいぶんとあちこちに混乱が広がっているみたいだね」
 周囲に目を配らせた『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は嘆息した。
「うん、国中が大変なことになってる……魔種による世界の滅びってのをこんなに実感させられるなんてね……あのサーカス団の時はまだ人同士の争いって感じが強かったんだけどな」
 この戦場を跋扈する魔種や聖獣、そして、月光人形に原罪の呼び声を受けた暴徒。
 申し訳程度の茂みを抜けて建物に近づく、その時。
「っ!!」
 クーアの身体が大きく跳ねた。
 その視線の先には兵士がいる。探していた警備の者ではないことは一目で解った。なぜなら、彼が振り回していたのは火の移った薪であったから。
 続く公、下呂左衛門、遅れてメートヒェン。
 相手が動くより早く、クーアの一撃がその身体に叩き込まれた。
「この炎の景色には美と救済はないのです!」
 そして、振り返りながら仲間達に告げる。
「むこうに誰かが倒れているのです! お願いします」
 倒れた人影へ駆ける公と逆に、敵へと一歩踏み出したメートヒェンが名乗りを上げる。
「私はメートヒェン! 未来ある子供たちの命を奪わせるわけにはいかない。この手で無事に守り通そう!」
「露払いに出遅れたか。ならば、拙者が消火を承ろう。まずは延焼を防ぐのが有効やもしれぬな。つまりはこういう事でござる! ──はあっ!」
 下呂左衛門が放った戦鬼暴風陣が炎の周囲を弾き飛ばした。
 高く弾けて落下する木片の下を潜って公は怪我人を抱え込んだ。
「大丈夫だよ! ボクに捕まって!」
「う、あ。助けて、くれ。礼拝堂に子供たちが……ッ」
「! ああ、もう大丈夫だ」
 脂汗を流した男はそのまま意識を失った。彼が恐らくショーンだろう。軽い装備はしているものの、その姿は普通の町人で。
 ──ああ、運命特異点としてこの世界に呼ばれたのはこういう時の為なんだ。この運命をボク達の手で打破しよう。
「助け出さなきゃ!」
 彼も、子供たちも。
 公は治癒の力を男へと注ぎ込む。


●月光人形
 子供たちの感情を探っていた『星頌花』シュテルン(p3p006791)が開いた裏口の中を指し、その動きを止めた。
「おい! 大丈夫かよ!?」
「たす……けて」
 プラックが慌ててそこに倒れていた青年に近寄る。マルコだ。
「……アカ、は、苦手……なの……」
 でも。
 強張った腕を伸ばしたシュテルンが治癒魔術を発動させる。
 その足元をちょこちょことクーアの鼠がドアの向こうへと駆けこんだ。
「月光、人形……子供たち、まで……狙う……シュテ達が、守る、するっ! 絶対、助ける、しよっ!」
 シュテルンの英雄作成が仲間たちを包む。
 すると、怪我人の傍で屈んでいたプラックがすっと立ち上がった。
「おい、噂をすれば敵のお出ましだ。最速で最短でぶっ倒して皆を助けっぞ!」
 プラックの視線の先、開いたドアの向こうで老女と青年がぎこちない動きでこちらを振り向いた。
 シュテルンが叫ぶ。
「もう天義、虐めないでっ!」
 ランドウェラが呆れたように呟く。
「また月光人形か。そろそろ飽きてきたぞ……っと」
 勢いよく二人の間を史之が駆け抜けた。
「人の姿借りてんじゃねえ! 失せろ、今すぐ!」
 怒りを露わに彼は勇ましく青年の姿をした月光人形へと挑みかかると、その身体は簡単によろめき倒れた。
「!」
 視界が広がったその向こうで、開いた礼拝堂のドアにしがみついてこちらへ手を伸ばす少年と、その少年を必死に抑える少女の姿が目に入った。
「ねえちゃん、ねえちゃんも!」
「だめっ、駄目よ、クンツ! おねがいっ、たすけて!」
 涙目でクンツを無理矢理部屋に押し込みドアを閉めるヘルマ。
 その前で腕を伸ばす女の形をした人形……。
「……襲うだけの本当の人形か。つまらんな。でも、外におびき出すことは難しそうだから」
 自分のギフトから呼び出したシステムの影を追い払おうとふらふらと腕を動かす老女と、廊下途中にパンの散らばった倉庫のドアを見比べてランドウェラは呟いた。
「大事な食糧に何かされてたら嫌だろうし、やってしまおうか。遅い僕でも出来ることをね」
 紅目に強い力が宿る。
 一歩先に踏み込んでいた秋之の斥力発生が月光人形たちを飲み込む。
(月光人形!)
 握り締めた怒りをそれに叩き付ける。青年の人形が弾けた。
「……この程度の痛み、心を乱された家族に比べたら何でもない!」
 同時にプラックが流水を纏ったサルベーション・ブラックを叩き込む。
「悪ぃけど、お前らには天国へ帰って貰うぜ……!」


●花
「手伝うよ!」
「おっと!」
 飛び退る下呂左衛門。消火器を掴み確り大地を踏みしめて立つ公。
「行けー!!」
 ぷしゅうっと白い噴霧が周囲に満ち飛び出す。消火剤の勢いに負けまいと足を踏みしめて立つ。
「火は消えたよ! ショーンさんも一旦避難させたっ」
「では、先ずはここの安全を守るだけでござるな。──井之中流武者ガエル、河津 下呂左衛門参る!」
 軽く跳んだ下呂座衛門の影に両刃の剣が食い込み、彼は落下と同時に剣の主に組技を仕掛けた。
 クーアのを人間史上最強兵器SAKEによって昏倒した兵士がドサリと倒れた。
「新手かい?」
 尋ねるメートヒェンの目はすでに方々から駆け寄ってくる三つの人影を捕らえていた。
「あれだけ騒いだらそれもありうるのです。でも、私は一旦下がります。あの子が礼拝堂へ着きました!」
「了解だよ。あれも狂人だね。まだ戻って来られるのならむやみに殺すものでもないからね、出来れば救いたい」
 倒れた暴徒を飛び越えて、メートヒェンは新たな敵にメイド流戦闘術で挑む。
「こっちだよ! ここにローレットがいる!」
 敢えて礼拝堂の中に居る子供たちにも聞こえるようにメートヒェンは声を張った。
「ボクらがそれ以上させないよ!」
 公が放ったハイドロプレッシャーの高圧水流が残り一人の顔面を打つ。
「じゃあ、私はこの辺で」
 気を失ったショーンが見えるところまで下がったクーアは、鼠を通してテレパスで語りかける。


 礼拝堂のドアを閉めたヘルマは暴れるクンツを抱きしめながら、その場にへたり込んだ。
(デリアたちの向こうに、誰かが)
 内外の戦闘の激しい物音は礼拝堂の中にも聞こえている。
 怯えて身を寄せ合う子供たち。
「ひゃっ」
 もぞっと温い感触を感じてヘルマの肩が跳ねた。
『皆さん、ご無事なのです? ローレットのクーアなのです。今、一緒にドアからお邪魔させて頂きました。あ、今は鼠ですが本当はねこてきな者なのですが鼠さんの口をお借りしているのです』
 ぴくぴくと鼠の耳が動く。
『私たちが来たからには大丈夫なのですよ! 助けがそこに辿り着くまでしっかりドアや窓を閉めて待つのです』
 可愛らしい仕草の小さな鼠に、恐怖を忘れて子供たちが華やいだ声を上げる。
「わああ、かわいい!」
『ふっふっふ、もうちょっとですからね。この可愛い鼠さんと待つのです。ああっ、あまり乱暴にしないのですよっ』
 もふもふを撫ぜるくすぐったい小さな手を我慢しながらクーアはそう伝えた。


 三体の月光人形たちの力はそれほど強くなくその面ではイレギュラーズたちの敵ではなかったが、その素早い動きとタフさは人のそれではなかった。
「史之さん、盾役役割を引き継ぐぜ!」
「まだ、大丈夫だ!」
 乱戦の中、プラックの叫びを制して、青年の形をとったそれに最後の一撃を叩き込む史之。
 最後まで人の形を装うそれへの怒りを飲み込んで、彼は擦り切れた頬を拭った。
 囁くような唄が聞こえ、史之、プラック、そして最後にランドウェラが振り向いた。
「みんなの心……不安……早く行かなきゃ、ね」
 戸口に立つシュテルン。その後ろには意識を取り戻したマルコが立っていた。
「ありがとう。お陰で」
 礼を口にしかけたランドウェラがその動きを止めた。
 プラックと史之が同時に構えて振り返った。
 ──ねえちゃん。
 のろのろと倒れたはずのデリアが顔をあげて悍ましく笑った。
「呼び、声……! ダメ……皆連れてく……ダメなんだからっ!」
 構えるシュテルン──。
 薄暗い廊下にほんのりと光が灯った。
 白薔薇に似たそれは、唐突に堅い床板に花開いた。
 輝くそれはこの場には美しすぎて、幻であると、なんとなく感じた。
「させるかっ!」
 即座に放ったプラックの水切、次いでシュテルンの式符・毒蛇が月光人形を今度こそ完全に沈黙させた。
「……花、は……?」
「あれは……?」
 それは、エンピレオの薔薇による天助であった。


●帰宅
「あ、危ないのです!」
 敵の攻撃を交わすクーア。
 空振りした暴徒は続くメートヒェンの一撃で崩れ落ちた。
「もう他には居ないみたいだよ!」
 下呂左衛門と共に駆け付けた公がぼろぼろのクーアに治癒を施した。
「怯えていないかな」
 礼拝堂の方を見やるメートヒェンへ、くすぐったそうな顔でクーアが答える。
「大丈夫みたいなのです。こういう時に癒しがあって、それにお腹も満たされたら最強なのです」
 廊下の激しい物音がぴたりと止んで、耳を澄ましていた子供たちは不安げに顔を見合わせた。
 ──あの人たちは大丈夫なのだろうか?
 ヘルマは力が入りかけた鼠を持つ手を慌てて緩めた。
 膝の上のクンツは落ち着かない様子でヘルマとドアを交互に見ている。
「──あ」
 ぴたりと閉じたはずのドアの前に物質透過で通り抜けた史之が立っていた。
「やあ、イレギュラーズだよ。俺の名前は史之。君達よくがんばったね。怖い化物は俺たちが全部倒したよ」
 わあっと声を上げて駆け寄ってくる子供たちへ、史之は自分のギフトで出したホットミルクを配る。
 鍵を開けたドアからランドウェラ、プラック、シュテルン、そして、マルコが入って来た。
「みんな、怖い怖いだったね……もう、シュテ達居るから、大丈夫っ! いっぱい頑張る……みんな凄いよっ!」
 両手を広げてふわっと子供たちを抱きしめるシュテルン。
 だが、その前でひとり立ち尽くす少年がいた。
「……ねえちゃん、は?」
「クンツ、デリアはッ」
 不安そうな顔で首を傾げるクンツへ何か言おうとするヘルマを見て、ランドウェラたちは事情を察した。
 不意に温かな掌がクンツの髪を撫でた。史之だ。
「……あれは君のお姉さんじゃない。ただの魔物だ。だから倒した。わかってくれるね」
 少年の瞳から大きな雫が次々に流れ落ち、史之は黙って彼を抱きしめた。


「おつかれさまでした!」
 倒れたままのショーンを運ぶのを手伝いながらリーナはローレットの面々を労った。
「ショーン殿が乗れないようなら私は幌に乗ろう」
「二台あるので大丈夫です。数人、こちらに移ってもらうことになりますが」
 その言葉にメートヒェンはリーナの馬車に乗り込み、眠ったままのショーンを運び込むのを助けた。
「マルコさんもこっちくるか?」
「ああ、子供たちは皆さんにお任せするよ」
 プラックの手を借りたマルコも乗り込む。
「拙者もこちらにするか。──拙者はこんな外見でもあるし、子供の相手は他の者がする方が良かろう」
 軽い身のこなしで馬車へと入った下呂左衛門は、もう一台の馬車から満面の笑顔で手を振る数人の子供たちに気付いて少し笑った。
「……だが、よく生き延びてくれた。国全体で哀しい事件が起こっているが、強く生きて欲しい」


「さあ、家族の人たちが外の馬車で待ってる。そとの安全は確保したから今のうちに移動してしまおう」
 公の後を子供たちが転がるようについていく。
 食糧庫から運び出した食べ物を積み込んだランドウェラは馬車の中を覗いた。
「こっちも余裕がなければ降りて歩こう。疲れなんて気にしないよ」
「ぜんぜん余裕なのです。そもそもランドウェラさんが降りてしまったら、誰が馬車を運転するのです?」
 自分はしませんよ、とでもいうように笑うクーア。
「じゃあ、行くよ」
 御者台に座ってこんぺいとうを一粒頬張ったランドウェラの両脇から目を輝かせた子供たちが顔を突き出す。
「わっ!」
「いいなあ、それちょうだい!」
 すっかり元気になって騒ぐ子供たちから、少し離れたふたつの小さな人影。
 クンツと彼を膝に乗せたヘルマだ。
「……」
 ランドウェラにちょっかいをかけてはしゃぐ子供たちを抑えながら、クーアと公はふたりを心配そうに見る。振り向きこそしなかったがランドウェラもそれには気付いていた。
 クンツもヘルマも集会所には家族が待っていたし、助かった事に安堵する気持ちもイレギュラーズたちへ感謝する気持ちもあった。それでも、他の子供たちのようにはしゃぐことができなかった。
 デリアが亡くなったのは、この事件とは関係ない、すでに一度乗り越えたはずの悲しみだというのに。
(月光人形は……存在自体が許されざる罪だ)
 そんなふたりを見ながら、史之はもう一度拳を握り締めた。
 シュテルンはそっと、萎れた花を胸に抱いたクンツと──ヘルマを花ごと抱きしめる。
「……ふたりの花……悲しく、咲く、してる……無理しちゃ、ダメ……悲しい事……いっぱい泣こ?」
 他の友達に聞こえないように、少し抑えた子供たちの嗚咽。
 史之は過ぎ去る荒れた街の景色を見た。
「天義か、なんて哀しい国なんだ。心と法が乖離している」
 だけど。
 ──どうかこの乱で少しでもこの国が暮らしやすくなりますように。
 彼の小さな独白と願いは、この国の神に届くのだろうか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございます!
個人的な事情によりお届けが遅れてしまい、大変申し訳ございません。

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