シナリオ詳細
大黒柱の首を繋げ
オープニング
●首の皮、一枚
幻想国内のとある村。
主産業は農耕と牧畜で、個人商店がぽつりぽつりと点在する、まさに「のどか」を絵に描いたような小さな村である。
そんな村の奥にどっしりと構えている豪奢な館は、この村の実力者で実質的な代表者とも言えるシャンバ男爵一家の居住する館だ。
その館から男爵の怒声が響いてきた。
「またか、ロイ! これで何度目になる! 貴様は儂を馬鹿にしているのかぁっ!」
「め、滅相もございません! 全力で走ったのですが囲まれてしまい……」
「言い訳をするな! ……いいか、次の運搬で失敗したら貴様のその首、刎ねてやる」
「……き……肝に銘じます……」
ロイは顔面蒼白で男爵の部屋を出た。
ロイはシャンバ男爵の使用人で、市場で仕入れた物資を男爵邸に運搬するのが専らの仕事だ。
給金は決して高くはないが、それでも妻と娘をどうにか養う事は出来ていた……これまでは。
ロイの生活は、市場と男爵邸を往復する街道に最近出没するようになった盗賊団によって脅かされていた。
と言うのは、ロイの荷馬車が度々この盗賊団に襲撃されているのだ。
ロイも決して馬鹿ではないので、仕入れの時間を変えてみたり自腹を切って用心棒を雇ってみたりと思い付く限りの対策を取ってはみたが、どれも失敗。
それもそうだ、市場と男爵邸を結ぶ道で荷馬車が通れるだけの幅を持つ街道は1本のみ、獣道はあっても幅広な抜け道や迂回路の類は無く、所々鬱蒼とした森や山中も通過しなければならない。
つまり、時間をずらそうがにわか自警団を結成しようが、奇襲も潜伏も可能にするこの街道は盗賊団にとって最高の「地の利」と言えよう。
そして、つい先刻ロイは5度目の襲撃に遭い、命からがら逃げ延びてきたのだった。
●一縷の望みを託す
「……と、まぁ簡単に言えばロイさんの荷馬車の護衛です」
ギルド・ローレットに出入りする情報屋がイレギュラーズたちに依頼を運び込んできたのは、ロイが最後――「最期」にならない事を祈るが――になるかもしれない仕入れを明日に控えた晩の事だ。
「出立は明日の早朝、暗いと危ないので日の出を待って出るそうです。シャンバ男爵邸と村中心部の市場を繋ぐ街道を荷馬車で往復しますので、それについてきて欲しいとの事です」
盗賊団に関する事、シャンバ男爵に関する事、ロイに関する事……すんなりと首を縦に振るにはまだこれらの情報が少な過ぎると思いきや、そこは情報屋、ある程度の事は聴取してきていた。
「ロイさんの目撃情報によると、盗賊団は10人弱くらいいるのではないかとの事です。正確な数を数えている余裕は無かったものの、恐らく片手の指では足りないだろうと。敵の武装については、銃撃音はこれまで一度も聞いた事が無いそうですが過去に馬の足に矢が刺さった事があったらしいので弓矢の類は持っていそうですね。剣は大小まちまちで所持していたとの事でした。それと、これはシャンバ男爵邸周辺の村人が囁いている噂なんですが……この男爵、身分と財力が自分より上の貴族や商人には媚びるくせに、明らかに格下の人間にはかなり高圧的で嫌味な態度に出るそうですよ。その上にすぐに激昂するらしくて、使用人も入れ替わりが激しいとか。入れ替わりが激しいだけならまだしも、完全に姿を消した……つまり物理的に首を刎ねられた人もいるとかいないとか。ロイさんは珍しく長続きしている使用人だそうですが、彼の場合は辞められない事情があって……持ち家も土地も無いロイさんは一家で使用人部屋に住み込んでいて、追い出されると家族全員が路頭に迷ってしまうんです。でも、そんなロイさんも次に失敗したら物理的に……という事になりかねないと」
ここまで聞くと、これは単なる荷馬車の護衛ではなくひとつの家族の命運が懸かった依頼だという事を痛感する。
出来るならばこの盗賊団を一網打尽にして二度と被害の無いようにしたい所だ。
「ええ、皆さんならそう考えると思ってましたよ。荷馬車の護衛が最優先事項ですが、余裕があれば盗賊団も捕縛なり撃退なりしちゃって下さい。と言うのも、その街道での被害状況を調べた所、ロイさん以外に襲撃されている人がいないんです。ロイさんはどう見ても自作自演出来る程器用な性格ではなさそうでしたし、そんな事をするメリットも無い。となると、この盗賊団の中か雇い主にシャンバ男爵への個人的な恨みを持つ者がいる可能性は否定できません。とっ捕まえて吐かせるのもアリだと思いますよ。勿論、根回しや後処理の心配には及びません」
少々頼りない一家の大黒柱・ロイの「首の皮」が繋がるかどうかは、イレギュラーズの活躍次第と言っても過言ではない。
- 大黒柱の首を繋げ完了
- GM名北織 翼
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年01月21日 00時40分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●序
日はとうに落ち、周辺の商店は店じまいの準備を始めていた。
「しかし、気になるな」
『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)が眉間に皺を寄せる。
「ロイ以外の奴が襲撃されてねぇって、まるで相手はロイかロイの主である男爵以外にゃ興味ねぇみてぇだな。男爵の評判聞く限りじゃ、男爵を個人的に恨む奴の仕業じゃねぇのか? ……ま、可能性の一部に過ぎねぇが」
情報屋の推測と同様、黒羽の言う「可能性」には他の者たちも同意見だった。
事前に盗賊団の意図なり彼らの背後なりを暴く事が出来れば、この依頼はより確実に、よりスムーズに解決する事が可能かもしれない。
ひいては、今後の被害を食い止める事にも希望が持てる。
夜が更けていくばかりのこの時間帯にどこまで情報収集が出来るかという懸念を抱えつつも、『愛に生きるお姉ちゃん』ココ・コヨト・ベルナールド(p3p001731)は、『ぼーだーぶれいく』設楽 U里(p3p003743)と『軋むいのちと虚ろなこころ』はぐるま姫(p3p000123)と共に、更けゆく夜闇の中「情報」を求めローレットを飛び出した。
3人はまだ誰かが残っている事を願い、まずは市場に直行する。
生鮮品や日用品の売買は大抵日中行われるもので、今から市場に行っても有力な情報は得られないかもしれない。
しかし、何もしなければそこまで、である。
当面の目的は「盗賊団の雇い主か事情を知る者を捜し出す事」、その為にはシャンバ男爵によって解雇され恨みを持つ元使用人などについて知りたい所だが……。
市場に到着すると、やはり人の姿は殆ど無かった。
だが、運良く露店を畳み帰ろうとする夫婦をひと組捜し出せたココは、声を掛けて何とか夫婦の足を止める事に成功する。
まずは、はぐるま姫がそれとなく男爵の評判や噂、解雇された使用人の事について訊いてみる。
「ここだけの話にしとくれよ? 男爵に睨まれるとあたしたちもここで商売が出来なくなるからさ」
と切り出しながら、妻の方が声を落として答えた。
「男爵のお怒りを買って暇を出された使用人なんてごまんといるよ。ただ、最近クビになった厩舎番の話はねぇ……」
「厩舎番ね。その人の事を詳しく教えて」
はぐるま姫が淡々と問うと、商人の妻は軽く頷いて続けた。
「馬の世話係をしてた若い男だそうで、噂だからどこまで尾ひれが付いて回ってきたか知らないけどね、随分可哀想なこったよ。何でも、男爵に杖で殴られて足が不自由になったとか」
「その元厩舎番は今どこに?」
ココが問うと商人の妻はお手上げのポーズを見せる。
「さあねぇ、男爵のお屋敷の近くにオンボロの家があるって聞いたことがあるけど、詳しい場所までは知らないねぇ」
荷物を抱えて帰る夫婦を見送りながら、3人は男爵邸の付近に移動した。
「姫ちゃん、U里ちゃん、夜遅くまで付き合わせてごめんなさーいっ」
謝るココに2人は気にするなといった表情で首を振り、共に元厩舎番の住処を探すが、ようやく辿り着いたその家は既に引き払われ完全に空き家と化していた。
それでも、この元厩舎番が一連の襲撃に関わっているかどうかの手掛かりを得ようと、3人は人が寝静まるギリギリの時間まで駆けずり回る。
●護衛開始
一夜明けて、男爵邸の厩舎には荷馬車を用意するロイと彼を護衛するイレギュラーズたちが集合した。
そこに、昨晩遅くまで情報収集に奔走した3人も合流する。
「良かった、遅刻しないで間に合った! ロイ君、最近クビになったここの元厩舎番の事は知ってる?」
ココが昨晩得た元厩舎番の事についてロイに確認すると、ロイは思い出したかのように瞼を上げ答えた。
「ああ、アーノルドの事ですか。彼にはいつも荷馬車の馬の世話をしてもらって、助かってたんですが……」
「何故クビに?」
ジョー・バーンズ(p3p001499)がペンとメモを手に問う。
「旦那様がたまたま落とされた懐中時計を、馬が誤って踏んでしまったからです……厩舎番のしつけがなってないと大層お怒りになって、アーノルドを杖で酷く打ち付けまして、アーノルドはそのせいで足が不自由に……何とも痛ましい事です。ですが、アーノルドは気立ての優しい青年でした。彼が荷馬車を襲うなんて……」
信じられないといった面持ちでそう答えるロイにジョーは質問を続ける。
「そのアーノルドとか言う元厩舎番の特徴は?」
「これといった特徴は……猫っ毛の金髪だった事くらいしか思い当たりませんが……あとは、今申しましたように足が不自由な事でしょうか……」
「成程な……」
メモを取るジョーと他のイレギュラーズたちに、ロイは
「皆さん、朝早くからお呼び立てして申し訳ありませんが今日はどうぞよろしくお願いします」
と頭を下げると、荷馬車の前に座り馬の手綱を握った。
道中ロイに聴取したところ、往路での襲撃に遭った事はこれまで無いそうだが、それに対し首を傾げたのは『ナンセンス』オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)である。
市場への街道は鬱蒼とした森の中を通り、小高い山を越える。
盗賊団がこれまで待ち伏せしていたという「難所」から、オーカーは確かに何者かの敵対心を感じ取っていた。
しかし、実際に相手が仕掛けてくる様子は無い。
更に、『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の女王(p3p000665)が召喚した鳥型の使い魔も、森の奥の上空で弧を描き何者かの潜伏を知らせる。
だが、レジーナが放ち先行させたファミリアは、これといった敵影や襲撃の音を感知しない。
それはファミリアと視覚・聴覚を片方ずつ共有しているレジーナにも伝わってくる。
ココも懸命に敵影を捜すが、それらしいものは現時点では見えない。
一行はひとまず市場への到着を優先し、復路での警戒を一層厳にする事にした。
●復路での襲撃と戦闘開始
往路で邪悪な気配を感じた事から一層の警戒態勢を取っていたイレギュラーズたちの予感は的中する。
往路とは明らかに潜伏者の息遣いが変わった事に、耳を欹て警戒していたジョーが気付いた。
「待て、さっきまでとは相手の動きが違う。一旦止まろう」
とジョーが警戒を促した直後、大剣を持った盗賊2人が街道の両側から姿を現す。
「死にたくなければその荷物、置いてけ!」
馬車の右前方に陣取り、ロイや馬の近くを巡回するようにして警戒していたU里は、素早くロイの前で盾となる。
更に、黒羽も防御重視の万全な体勢で荷馬車の前に立ちはだかった。
「ひ、ひええっ! で、出た!」
案の定、ロイは馬の手綱を握りしめながらガタガタと震えている。
大剣持ちの2人の背後からは、短剣1本を構える盗賊がそれぞれ2人ずつ出て荷馬車を囲むようにして走り出した。
その淀みない動きはいかにも手慣れたもので、大剣持ち2人が抵抗する者を相手取るうちに4人の短剣持ちが荷台を荒らすという作戦が彼らの常套なのだろう。
ここまで非戦闘状態だった為バイクとして荷馬車のすぐ後ろを走行してきていた『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)は、即座にその状態を解き、他のイレギュラーズたちの後方左翼側で武器を構えた。
ココも前衛に出る。
大剣持ちはイレギュラーズたちの能力など知る由も無くロイを両サイドから追い詰めるようにして近付き豪腕で剣を振り下ろすが、黒羽が1人の攻撃を鉄甲で受け止めロイを庇い、もう1人の攻撃はオーカーが剣で凌ぎその動きを封じる。
一方、荷馬車を囲むようにして陣取った短剣持ち4人は一斉に荷台に乗り込もうとしたが、それは妨害された。
荷物の中に潜んでいたはぐるま姫が、距離を詰められる前に短剣持ちたちに秘かに術式を発動させ抵抗したのだ。
盗賊たちは、いつもと何かが違う……と戸惑いを見せ始める。
●射手封じ
すると、そこに短剣2本を振るう双剣使いが敵後衛から姿を現した。
双剣使いは大剣持ちの猛攻を凌ぐ黒羽の足を狙い、体勢を低くし一気に間合いを詰める。
黒羽はダメージを覚悟したが、そこに眼前の短剣持ちの動きをひとまず封じ後退させたアルプスが助太刀に入り、全力で攻撃に出た事で難を逃れた。
すると、双剣使いは街道脇の茂みの方をちらりと見て、剣を不自然に動かす。
まるで何かの合図のように。
それをアルプスは見逃さなかった。
「あの双剣使い、何か企んでいますよ」
その声に反応したイレギュラーズたちが身構えると、茂みの中から矢が飛んできた。
矢はもう一方の大剣持ちと対峙するオーカーを狙うが、彼は盾で防御を固め何とか切り抜ける。
敵前衛が出現と同時に畳み掛けるように先手を打ってきた為序盤こそ受けに回ったイレギュラーズたちだったが、後衛の弓持ちが矢を放った事によりその位置や距離を読み取る事に成功、最優先で弓持ち目がけ反撃を開始した。
弓持ちもその姿を見せぬまま茂みから立て続けに矢を射るが、素早い反応が可能な状態のアルプスは矢を躱しながら、その軌道を辿り見極めた的を撃つ。
レジーナはあえて矢の射線上に入り自身を追い込み、その能力を向上させた所で弓持ちの撃破に集中し弦を引いた。
はぐるま姫も荷台から移動して弓持ちとの間合いを測りながら術による攻撃で徐々に追い詰めていく。
その間他の敵は黒羽らが食い止める。
双剣使いは短剣持ちらに合図を送り、弓持ちを狙うレジーナを始末するよう指示を出した。
「あの双剣使い、もしや奴がこの盗賊団のリーダーか?」
ジョーは、アルプスらの攻撃に合わせ弓持ちに対し遠距離から術を放ちながら、双剣使いの動きを警戒する。
茂みの中からはまたも矢が飛んできたが、今度の矢は完全に明後日の方に飛んだ。
イレギュラーズたちの攻撃を受け、手元が狂ったのだろう。
レジーナが今だとばかりに弓持ちの潜む茂みを正確に射貫くと、遂に茂みの中から痛々しい呻き声が聞こえ、それっきり矢は飛んでこなくなった。
●激化する戦線
すると、双剣使いの表情がガラリと変わる。
双剣使いはまるで親の仇を見るような目でロイとイレギュラーズたちを睨み、突進してきた。
その様子に2人の大剣持ちも半ば呆然としながらも従い、更にそれを見た短剣持ちも続く。
頭を抱えてうずくまりガタガタと震えているロイの周囲では、盗賊団とイレギュラーズたちがいよいよ乱戦を繰り広げ始めた。
レジーナやはぐるま姫が遠距離から攻撃を仕掛け、オーカーが大剣持ちを食い止めると、短剣持ちをココが拳で集中的に叩く。
遂に疲弊した大剣持ちにオーカーによる盾の強打が入り、大剣持ちは剣を落としその場に沈んだ。
この盗賊団にとっては大剣持ちの2人が攻撃の要だったようで、1人を撃破した事で盗賊団の陣形が崩れる。
残るもう一方の大剣持ちが獅子奮迅の働きを見せようと剣を振るうが、援護に入るべき短剣持ちはジョーの拳によって撃破され、気付くとアルプスたちに前後を固められてしまっていた。
大剣持ちは必死で足掻くように剣を振り回したが、黒羽はそれを受け止め、その隙にアルプスが背後から撃破した。
●決着
これで残るは双剣使いのみとなった。
「こんな事をするのはやめるんだ! 取り引きをしないか? 君が乱暴するのをやめるなら、僕は話し合いの場を設ける! こんな事をしても本当に困るのは恨んでいる相手じゃなくてロイさんなんだ! 文句は恨んでいる相手に直接言えばいい!」
実力的にも双剣使いが盗賊団のリーダー格と踏んだU里は必死で説得を試みる。
彼の説得に、双剣使いは唇を噛み苦しげな表情を覗かせた。
U里の説得が双剣使いの胸に響いているのは目に見えて分かったが、それでも双剣使いはイレギュラーズたちに突進、片方の短剣を突き出しながらもう片方の短剣をあろう事かロイの方向に投擲する。
しかし、ロイを守るように位置取っていた黒羽がそれを弾き落とした。
どう考えても、もう双剣使いに勝ち目は無い。
すると、直後に茂みの中から
「兄さん、もう止めてくれ!」
と、悲鳴に近い叫び声が聞こえてきた。
その声に、双剣使いの動きがぴたりと止まる。
茂みの草木が動き、警戒するイレギュラーズたちの前に現れたのは、片腕を押さえながら地を這うようにして出てきた弓使いだった。
弓使いの風貌は、ロイから聞いたそれに酷似している……そう、弓使いの正体は元厩舎番のアーノルドだったのだ。
●男たちの処遇
「アーノルド、お前は引っ込んでいろ!」
双剣使いはアーノルドに怒鳴るが、アーノルドの悲痛な叫びはそれに勝る気迫を持っていた。
「傷付くのは僕だけで十分だ! そこの人が言っていたじゃないか、『こんな事をしても本当に困るのはロイさんだ』って。僕は、兄さんが怒ってくれた、それだけで救われたんだ……こんな事をしなくても良かったんだよ……」
「君たちだって、ロイくんを手に掛けるのは本意ではないのだろう? 男爵に復讐したいのなら、やり方を考えるべきだったね」
ジョーが静かにそう告げると、双剣使いはその場に頽れる。
「男爵にでも憲兵にでも役人にでも、どこにでも差し出すがいい。だが、後生だ……咎を負うのは俺だけにしてくれ。他の盗賊は俺が雇った流れ者、弟は俺に従っただけだ」
双剣使いに抵抗の様子が見られず、レジーナは念の為ロイの荷車から借りていた縄を持つ手を下ろした。
更に、双剣使いの言葉を聞いたココは、
「ロイ君、彼らはあなたを苦しめた人だけど、あなたの苦しみを知る人でもあるよね。みんな、彼らをどうするかはこのお父さんの決定に従う事にしない?」
と、ロイと仲間たちに提案する。
イレギュラーズたちはココの提案に頷き、アーノルドとその兄の処遇をロイに一任する事にした。
ロイはアーノルドの前で膝を折り涙ぐむ。
「アーノルド……君のような心優しい青年が関わっていたなんて……でも、私も家族を持つ身だ、君の苦しみもお兄さんの悔しさも何となく分かるよ。私に地位と財力があれば今すぐにでも君とお兄さんを救ってあげられるのだが……」
そこまで言うと、ロイは悲しげに首を振った。
「私には、この一件を機に旦那様に釘を刺す事も君たちを救う事も出来ない……家族を養わなければならない以上、私は結局旦那様の下で働かなければならない……。だが、君とお兄さんには、この村を出て再出発する事が出来る。辛いだろうが、ここでの事は忘れて、どこか他の地でやり直したらどうだい?」
「ロイさん……」
アーノルドの双眸からぼろぼろと涙が零れ落ちた。
ロイは、今度はイレギュラーズたちの方を振り向き、土下座する。
「危険な目に遭わせてしまって、本当に申し訳ありませんでした。ですが、あなた方のお陰でこうして真実が分かり、これ以降の襲撃はきっと起こらないものと私は信じております。どうか、今回だけはこの者たちを見逃してやってはもらえませんか」
「俺たちはアンタに一任したんだ、今更どうこう言わねぇ」
オーカーの言葉に、ロイだけでなくアーノルドと彼の兄も頭を下げたまま暫く動かなかった……。
●歯痒いながらも
「皆さんには、本当にお世話になりました」
笑顔で礼を言うロイだが、ジョーには彼の今後が心配でならない。
「今回の件で男爵の酷さを改めて知った筈だ。そんな男爵の下で働き続けていて本当にいいのか?」
「……仰る通りです。ですが、私にはこれといった技能が無く、他でやり直す為の蓄えもありません。それに、旦那様はあのようなお方ですが、坊っちゃん……ご子息は大変ご立派で、皆が将来を期待しております。ですので、坊っちゃんの為にもあのお家をお支えしようと……」
「そこまで言うなら無理は言わない。けれど、もし困ったら私の所に来るといい」
ジョーは別れの挨拶代わりに自身の商会がある場所をロイに教えた。
「……ありがとうございます。本当にどうしようもなくなったら、選択肢の一つとして考えてみます」
ロイはイレギュラーズの面々に深々と頭を下げた。
元使用人とその家族に一生消えぬ傷を刻んだ男爵こそが真に咎を負うべきで、その男爵が何も知らずにこのままこの村に君臨するのかと思うとどうにも歯痒さが残るのは否めないが、それでもロイの依頼である荷馬車の護衛は無事に達成し、ロイも少なくとも当面の危機からは救われ、その首も無事に繋がった。
イレギュラーズたちの働きがロイにとっては十分な結果をもたらしてくれた事は、ロイの安堵した顔が何よりも物語っていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
皆様、この度はシナリオ「大黒柱の首を繋げ」にご参加下さり、ありがとうございました。
そして、大変お疲れ様でした。
お陰様で、ロイは仕事をクビにならず、荷馬車を襲撃していた盗賊団も撃退出来ました。
もちろん、男爵がこれといった打撃を受けていない以上根本的な解決になったかと言うとそうは言えないのかもしれませんが、現時点でそこまで解決させるのは至難の業ですし、何より皆様の働きは十分だったと思います。
本当はもう少し台詞やアドリブで皆様をいきいきと動かしたかったのですが、皆様がどこまでそれを許して下さるだろうかという不安もございましたので、今回はこの辺りにとどめさせて頂きました。
それと、皆様のプレイングですが、総じてとても頑張られていたのが良く分かりました。
何よりさすがだなと思ったのは、様々な事態を想定してそれに応じた策を取られていた点です。
想定した事態が起きなければその策は描写されず、皆様にとっては少々物足りないかもしれませんが、その策が必要となるような事態にも関わらずプレイングで掛けられていなければ行動が失敗してしまいます。
今回重傷者も出ずパンドラ復活をせずとも依頼解決に至ったのは、皆様が様々なシチュエーションを想定し可能な限りのあらゆる策を講じていたからです。
シナリオを成功に導いて下さった皆様に、心より御礼申し上げます。
ご縁がございましたら、またのシナリオでお会い出来ます事を心よりお祈り申し上げます。
GMコメント
マスターの北織です。
この度はオープニングをお読み下さり、ありがとうございます。
以下、シナリオの補足情報ですので、プレイング作成の参考になさって下さい。
●依頼達成条件
ロイが引く荷馬車を護衛し、市場とシャンバ男爵邸の間を無事に往復させる。
●盗賊団について
〈確定している事〉
・人数は8人
※ロイは現場で狼狽し正確な人数を数えていられなかったので10人弱と言っているが、正確には8人。
・銃火器の類は所持していない
・8人のうち、弓と護身用のナイフを併用する者が1人、両手剣を所持する者が2人、短剣(単刀)所持が4人、短剣(双剣)所持が1人である。
・流れの盗賊団で、それなりの経験を積んできているためある程度動ける。
〈可能性の域を出ないが推測される事〉
・シャンバ男爵を個人的に恨む者が盗賊団の中にいるか盗賊団を雇ったかしているかもしれない。
●街道の様子
・男爵邸と市場を繋ぐ主要路で、荷馬車サイズの乗り物が通れる幅を持つ唯一の道。
・無舗装で小さな凹凸が散見される。
・所々で、鬱蒼と茂る森の中や小さな山中を通過しなければならない。
・街道ではあるが、元々人口の多くない村なので人通りはかなり少ない。
・人ひとりが辛うじて通れる獣道なら存在しているが、荷馬車が通れるだけの幅を持つ抜け道や迂回路は無い。
●その他周辺情報
・日の出後の出立なので暗闇による視界の妨げは無い。
※ただし、森の中や山中の鬱蒼とした茂みの中は薄暗い。
・天候は晴れ、降雨や降雪の懸念は無いが上着を羽織らないと寒い程度の気温。
皆様のご参加、心よりお待ち申し上げております。
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