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シナリオ詳細

旅の思い出のハーバリウム
旅の思い出のハーバリウム

完了

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ハーバリウムの作り方を、つい先日、遊びに行った植物園でお茶を飲みながら教えてもらった。
「なかなかいい感じに仕上がりましたよ。Pちゃん、会心の自信作にございます」
 ローレット競技場の管理運営責任者であるダンプPは出来上がった作品を自画自賛すると、事務所と称している部屋の窓辺に横置きした。
 背の高い六角形のガラス瓶に、アスパラガス・スプレンゲリーとカスミソウ、青い紫陽花のがくを、馬の形をした小さな木片とともに詰め込んだ。題して、『ターフを駆ける競走馬』だ。
「ポイントはこの白いカスミソウ。お馬さんが駆けて起こした風を現しております」
 陽を受けて角を光らせるボトルを猫たちが見上げる。どうやら新しいオモチャだと思っているらしい。後ろ脚で立ちあがり、体を長く伸ばして手を出す。
「コラ、でございます。これはネコちゃんたちのオモチャではございませんですよ」
 ――カシャリ。
 小気味いいシャッター音に気を惹かれ、ダンプPは足に猫たちをまとわりつかせたまま、窓の外へ顔を向けた。
 品の良さそうな老夫婦が立っていた。
 ご婦人が、「勝手に写しちゃってごめんなさいね」と頭を下げる。ご主人だろうか。白髪の男性は顔の前でカメラを構えたままだ。
 カシャリ。もう一枚。
 巨大な鉄玉子のような姿をしているダンプPが珍しかったのか、それともハーバリウムに目が留まったのか。
 老夫婦がどちらを被写体として選んだのかはすぐに解った。
「いや~、お洒落ですな」
「ありがとうございます。Pちゃん、本日のソックスは――」
「いえ、こちらのインテリアが」
 ああ、とちょっぴりがっかりしながらダンプPはハーバリウムを手に取った。老夫婦を手招いて、ハーバリウムを渡す。
「ハーバリウムという、ガラス瓶などにプリザーブドフラワーやドライフラワーを詰めて、専用オイルを注いだものでございます」
 先ほど猫たちに聞かせた作品のテーマと鑑賞ポイントを、もう一度、老夫婦に説明した。
「ほんとうに素敵……写真や絵葉書も旅の思い出になるけれど、こんなふうに物語になったインテリアもいいわね。燃えないし……これは、売りものですか?」
「申し訳ございません。ですが……、気にいっていただけたのであれば、喜んでお譲りいたしますよ。よろしければ、中でハーバリウムの作り方をお教えいたしましょうか?」
 老夫婦は顔を見合わせた。
「いえ、そろそろ宿に戻らないと。それに、わたくしも夫も、とても不器用なものですから」
 ご婦人は少し悲しそうな顔をして、手にしたハーバリウムを見つめた。
「あの、お願いしてもいいでしょうか……この他にも幾つか作ってお譲りいただけませんか。代金はお支払いします」
 実は、とご主人がしんみり語りだした。半年前、家が火事で焼かれ、夫婦で旅した思い出の写真が全て燃えてしまったのだ、と。
「わたしたちも歳です。旅に出るのは今回が最後になるでしょう。ですから、いろんな国をイメージした作品を、焼けてしまった写真の代わりに手元に置ければと思いまして」
「それは残念なことでございましたね。わかりました、失った写真のかわりになるようなものを、お作りいたしましょう!」


 ――思い出のハーバリウム作りにご協力願います。
 そんな呼びかけを耳にして、イレギュラーズたちはローレットの奥のテーブルまで足を運んだ。
 待ち受けていたのは鉄玉子ことダンプPだ。ダンプPはまず、ハーバリウムとは「何ぞや」から始まって、どうして作成に手伝いが必要なのかを説明した。
「ご夫婦は明日、練達にお戻りになられます。それまでにPちゃん一人では数が作れません。どうか、みなさん。ご協力くださいませ」
 イレギュラーズが作ったハーバリウムにもきちんとお金は支払われる。木のボトルキャップに作者の名前と作品名を刻印して、老夫婦に手渡すという。
「テーマは幻想国のみならず、海洋や天義などの他国でも構いません。旅人の方でしたら、元の世界をテーマに作っていただいて結構でございます」
 ちゃんと解るように、作品に解説もつけられる。
「旅好きなご夫婦のお部屋を飾る、素敵なハーバリウムをお作りくださいませ!」
 さあ、といってテーブルに掛けられた白い布を取り払う。
 色とりどりの花や草、様々な形のガラス瓶が並べられていた。ちいさな貝殻や、きれいな小石、木片、それにボルトやナットなどの金属類まである。
「え、いまここで作るの?」
「そうですよ。作り終えるまでお家に帰れませんので、悪しからずご了承くださいませ」

GMコメント

●依頼条件
・旅の思い出のハーバリウムを作る。

ハーバリウムのテーマは『旅の思い出』です。混沌各国や召喚前にいた世界を思い出しながら、ガラス瓶の中にドライフラワーと小物で景色を再現してください。
ちなみにローレットの片隅に作業場所を借りています。作り終わるまで帰れません。ダンプPの見張りつきです。

●ハーバリウムの作り方
ハーバリウムとは、ガラス瓶にプリザーブドフラワーやドライフラワーを詰め、専用オイルを注いだインテリアです。
作ろうとしている風景や自分の心象に近い色をイメージカラーにして作るといいですよ。ハーバリウムには、さまざまな色の花をミックスしたものがありますが、ピンクとかブルーとか、メインカラーを決めて作りましょう。
バラやダリアなど大きな花を使うと、華やかでゴージャスな印象に。カスミソウやペッパーベリーなど、小花や実ものだけでまとめたものは繊細で品のいい印象になります。

●用意されているもの
アジサイの萼(がく)…白、青、紫、黄色などなど。7色あります。
その他、カスミソウなど様々な花や草が揃えられています。
底に敷き詰める貝殻や星の砂、様々な色の小さなビーズ、ドライフルーツもあり。
ガラス瓶の中に詰められるものならネジなどの金属もOKですが、メインは草花でこうせいしてください。
ガラス瓶は、円筒形、四角柱形、六角形などの一般的な形のほか、電球やウイスキー瓶などのちょっと変わった形のものが用意されています。
※オイルも道具も、作品作りに必要なものはすべて揃っています。

●その他
出来上がったハーバリウムに、『ターフを駆ける競走馬』などの『作品名』を是非つけてあげてください。
ガラス瓶の中に作ろうとしている景色を思い出して、「この先で海に落ちて、びしょ濡れになっちゃったのよね」とか「あの時、あの店でかき氷を食べたんだよな」、とかワイワイ言いながら作るといいでしょう。

例)
『ターフを駆ける競走馬』
 場所は幻影にあるローレット競馬場。ターフコースを気持ちよさそうに走るお馬さん……でございます。
 青い紫陽花で六月の陽光を、アスパラガス・スプレンゲリーでターフを、カスミソウでお馬さんが駆けて起こした風を現しております。お馬さんは白馬と黒馬の二頭、木片を彫刻して作りました。
 今年はPちゃんのミスでまだレースが行われておりません。せめて瓶の中では気持ちよくお馬さんたちに――(以下略)。

ご参加、お待ちしております。

  • 旅の思い出のハーバリウム完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年07月04日 22時00分
  • 参加人数 9/9人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(9人)

ノアルカイム=ノアルシエラ(p3p000046)
タブラ・ラーサ
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
守護する獣
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
猫さんと宝探し
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ヘリオトロープの黄昏
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
聖女の小鳥
風巻・威降(p3p004719)
悲劇を断つ冴え
エルナ(p3p007051)
星片の跡
ネーヴェ(p3p007199)

リプレイ


 ローレットの奥にスペースを借り、イレギュラーズたちはハーバリウム作りに入った。
「よぉーし、気合入れてつくっちゃうぞ!」
 『タブラ・ラーサ』ノアルカイム=ノアルシエラ(p3p000046)は、様々なガラス瓶が収まっている木箱に駆け寄ると、中から円筒形のものを手に取った。ハーバリウムで使用する瓶の中では一番よくつかわれている型だ。
「ボク、これにする」
 楽しそうに笑って席に着く。
「ん~と、オレはこれにするぜ」
 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は最初、フラット型の瓶を手に取った。丸い型だが奥行きが狭めの平面で、底になる面が二つあるが……。
「斜め置きがオシャレだけど、幅がなぁ……」
 作りたいもののイメージを最優先して、結局、一悟はフラスコ型の瓶を選び直した。
「旅の思い出か……」
 『追憶に向き合った者』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は、ふむ、と唸りながら木箱の中を覗き込んだ。
「(旅行というには近場だが息子、梨尾と行った自然公園の思い出をハーバリウムにするか)」
 ウェールは肩が丸く落ちた優しいフォルムのウイスキー型瓶を探し出すと、席に着いた。
「ハーバリウム……不思議なものもあるねー」
 『空歌う笛の音』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は ベーシックなボトル型のガラス瓶に決めた。基本は大事。それにこの瓶なら高さも出せる。メインとなるモチーフを引き立たせるために、高い空を作る必要があるのだ。
「アタシはどれにしましょう♪ ふふ、迷っちゃうわ」
 『ヘリオトロープの黄昏』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は、指を右に左に迷い動かした。さながら白い蝶が蜜を吸う花を選んでいるかのように。
「決めた。これにしましょう」
 四角柱形の瓶に指を絡ませ、すっと抜き取る。中に閉じ込めた美しき風景を損なわぬように、瓶は潔いほどシンブルなものを選択した。
「絵画以外の作品を作るのは久しぶりだな。ハーバリウムなんざ一生縁のねぇモンだと思ってたが……花で彩る芸術ってのも悪くない」
 『聖女の小鳥』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)はスキットル形の瓶を手に取った。目の高さまで持ちあげて、じっくりと眺める。
 さて、キャンバスに見立てたこの瓶の中にどんな絵を描くか……。
 椅子に腰を落ち着けると、テーブルの上に置かれた花かごに手を伸ばし、絵の具ならぬドライフラワー選びに入った。
「代わりになるか分かりませんが、一番綺麗だと思った景色を贈りたいですね」
 『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)は横置きを想定して、大きめの四角柱形を選んだ。
「さて、と。必要ものがあるといいけど……」
 なければないで、イメージに近いもので代用するか作らなくてはならない。 威降はテーブルに瓶をテーブルに置くと、小物入れを手前に引き寄せた。
 『星片の跡』エルナ(p3p007051)が選んだ瓶はノアルカイムと同じ円筒形だった。向かいにすわり、同じですね、と笑顔で話しかける。
「同じだね。ねえねえ、エルナは何を作るの?」
「ボクは湖をテーマに作ろうと思います」
「ボクは海! 瓶の形だけじゃなくテーマも似ているね」
 最後に残った一席に、フラスコ型の瓶を手にしたネーヴェ(p3p007199)が座った。
「わたくしは……一悟様と同じですね」
 お互いいいもの作ろうぜ、とテーブルの端で一悟が声をあげた。
「はい。頑張りましょう。ハーバリウム……、初めて作るのですが、やっぱり、どきどきします、ね」
 ウェールはウィスキー型瓶から目をあげて、ネーヴェを見た。
「大丈夫だ、ここにいるのは初心者ばかりだよ」
 ある程度は知識を持っていたものの、誰もが初めてハーバリウムを作る。
「失敗上等でございます。納得のいくものができるまで何度でもチャレンジしてくださませ~」
 鉄玉子はにやりと笑うと、後ろ手で扉を閉じた。

●『永久(とわ)に続くプラネタリウム』を『夕景に君と』、そして『梨尾の吐息』
 ジルーシャは手のひらで瞑色の玉を転がした。枝から零れたペッパーベリーの一粒だ。よく花屋の店先で売られているのは粒がきれいなピンク色をしているものだが、ジルーシャはこれから作作品にあわせて夕方のほの暗い色のものを特別にチョイスしていた。
「つまり、燃えて無くなった写真の分まで、思い出をあげられるようなものを作ればいいのね?」
 粒をテーブルの上に放ち転がすと、微かに胡椒の香りが立った。
 はい、と答えたダンプPに微笑みを返し、青から紫までの紫陽花を手前にそろえる。
「腕が鳴るわ♪ それにしても、夫婦であちこち旅行なんて素敵ねぇ……」
 ジルーシャは依頼を出した老夫婦に思いを飛ばした。ダンプPの話から仲の良い夫婦という印象を受けた。一日の終わりには、夫婦で空を眺め、旅の思い出話を語りあったりするのだろう。
「アタシも星空を見ていると落ち着くのよね」
 天井を見上げてつぶやく。
 時も場所も空間も、混沌より遥かに遠い生まれ世界だが、空の色や星の瞬きはどちらも変わらない。空だけは繋がっているような気がする。
 四角いガラス瓶の底に、桜と向日葵で朝焼けの色を敷き詰めた。夜明けに逃げ遅れた星の子をカスミソウの花と金のビーズで表現する。
 真ん中にペッパーベリーを入れて、夜の芯にした。ゆっくりと、天体の動きを再現するかのように、下から紫、青、藍色の紫陽花を積んだ。
「もう完成かな?」
 口角をあげるベルナルドに、ジルーシャは首を振った。
「仕上げにもう一工夫。オイルに特別に調香した香水を混ぜるわ」
 ここから先は企業秘密。ジルーシャは小さくウインクをすると、小さな一人用のテーブルへ移った。
「俺も少し手を早めるかな」
 ベルナルドは一悟に頼まれ、添付の説明書きに絵を描く約束をしていた。だから早めに作業を終わらせたい。
 透明のシートを取り出した。瓶に入れるオイルと屈折率が同じなので目立たない。これを使えばいとも簡単に、オイルに浮かぶ花を固定することができる。
 瓶の型に切り取った透明シートの上に、老夫婦をイメージした二輪のクレマチスを配しする。青とピンク、愛らしいベルの形をしたクレマチスの美しい姿を、エレガントにハート型の曲線の描く蔓でまとめたものだ。
「俺がこの街で好きな風景は、夕景に染まる街並みなんだ」
 クレマチスの周りに細かくちぎった赤紫のスモークツリーと白のカスミソウを交互に重ねて置き、夕焼け空を表現した。
「俺はスカイウェザーなんだが、空から見下ろすと、この街は煉瓦造りの赤や茶色の屋根の家が多くて。夕焼けの赤が混ざると綺麗な赤紫になったり、光を反射して白く煌めく光景が美しいんだ。」
 ビンの底にとても珍しい、黄色みががったクリーム色の紫陽花を敷き詰めた。
 スキットル形のガラス瓶の中央に花を張りつけたシートを立たせる。
「……クレマチスの花言葉は「旅人の喜び」。二人の最後のこの旅が最高の喜びになると願って――」
 瓶にゆっくりとオイルを注ぎ入れていく。
「よし。いい感じに仕上がった」
 瓶の仮フタを閉め、ナプキンを被せて隠す。ダンプPに作品のタイトルを書いた紙を渡し、席を立った。コルク栓に作品名を焼き入れてもらうためだ。
「さあ、富士山を描くぞ!」
 カタリ、と椅子が動いた音を耳にして、ウェールは目を開けた。明るい春の景色から一転、見慣れたローレットの壁が目に入る。
 爪先で鼻梁を斜めに走る傷跡に触れて、つかの間のとまどいを誤魔化す。小さく息を吐いてからピンセットを手に取った。
「うん、春に行ったからなるべく春の花を使おう」
 茶色のビーズを瓶の底に敷きつめたあとに、茎で編んだシロツメクサと葉を入れていく。四葉を見つけたので、それも入れた。黄色いタンポポと白くて丸いシロツメクサのバランスを見ながら整える。
「これでよし。次は……」
 ある花に目がとまった。
 まるでパールをまぶしたように光を受けて輝く純白の花びら、すっとした花姿は美しく、小さいながらも存在感がある。
「ネリネ、ダイヤモンドリリーでございますね」
「……秋に咲く花だが、梨尾の……息子の誕生花なんだ」
 頬にまつげの影を落としたウェールを見て、なにかを察したらしく、ダンプPは静かに去って行った。
 瓶の真ん中にすっと立たせて、花の下の周りに白いかすみ草をちりばめる。まるで吐息のように。
「自然公園へ行ったのは養子として迎えたばかりだからイメージが合うが……今はもう20代か……。元の世界に帰ったら、ダメ元で誘おう。会った時にまだ操られて生きていたかと刺されそうだが」
 上に白梅と勿忘草、瓶の首まわりに白いスターチスを入れて雲の白と青空を表現した。
 ――約束を守る、私を忘れないで。
 ――また会う日を楽しみに。
(「この混沌を救って、また梨尾と会って芝生で寝れますように」)
 最後にウェールが詰めたスターチスの花言葉は、変わらぬ心、途絶えぬ記憶……。

●『思い出の浜辺』の向こうに『ずっとある雪山』、あるいは『富士山』
 長い耳がゆっくりとしなだれていく。
 ノアルカイムは瓶に鼻の頭がつくほど顔を近づけて、小さな貝殻を星の砂の上に置こうとしていた。
「こっち? それとも……ここがいいかな?」
 海洋国のクリアーな海の青に、熱い夏空の青さが反射したような鮮烈なブルー。以前の記憶は失ってしまったが、昨年行った海の記憶はちゃんと頭に残っている。楽しかった思い出を、まるっと瓶の中に再現したい。
「そうだ。あとでボクの分もつくっちゃおう!」
 それを見れば、また記憶を失くしてもすぐに思いだせるかもしれない。
ノアルカイムは砂浜の出来に満足すると、空と海づくりに取りかかった。瓶の中に濃淡の異なる青い紫陽花を入れていく。
「緑をちょっと入れたら青が映えないかな?」
 海のうねりを表現するために、花かごから細い草を選んでいくつか青い紫陽花の間に入れた。
「あとは……ニチニソウを入れたいな。ねえ、知ってる?」
 ニコニコと笑いながら、となりに座るアクセルに声をかける。
「ニチニソウ全般の花言葉でね、『楽しい思い出』っていうのがあるんだって。おじいさん達も海に行った事あるかな? 何か思い出してくれたら良いな」
「へえー、そんな花言葉なんだねー。そのピンク色のかわいい花は」
「白もあるよ。これで南国ビーチのキラキラした感じを表現するの。で、アクセルは何を作っているの?」
 アクセルは鋏を動かしながら答えた。チョキ、チョキ……。
「幻想にある、鉄帝近くの雪山をイメージしたハーバリウムだよー」
 作る雪山はアクセルにとっての原風景だ。助けられるまでの間、半ば野生児っぽい生活をそこで送っていた。ふるさと、というのは少し違う気がするが。
「まあ、思い出は思い出!」
 底に、緑色の紫陽花の葉とうすい青色の紫陽花を落としていく。その上に白い紫陽花を積み重ねて山の形にした。山の裾にも青い紫陽花を散らす。
「そうだ。雪も降らせないとねー」
山の周りにカスミソウを差し、空を現す鮮やかな青色の紫陽花を置く。
「おー、アルプスみてぇだな。この山、鉄帝近く?」
 一悟がアクセルのハーバリウムに見入る。
「そうだよー。今、そこの近くに住んでるから視界にずっと入るし、雪山から助けてくれた恩人のことを考えるとやっぱり心にもずっとあるよー」
「富士山と比べてどっちが登るのキツイかな?」
「うーん……オイラ、富士山もアルプスという山も知らないから、なんともいえないよー。一悟のそれが富士山?」
 一悟の前に瓶は二つあるが、どれもただ青と白の紫陽花か詰め込まれているだけで何が何だかわからない。
 ノアルカイムも首を傾げる。
「や、これは……次こそちゃんと富士山を作って見せるぜ」
「一悟くんって、不器用さんなんだね」
 ぐわーっと仰け反った一悟の横から、ベルナルドが一枚の絵をテーブルに滑らせた。
「これが富士山だ。いや、俺も実際に見たことはないが……」
 どれどれ、とみんなが集まって富士の絵を見た。
 真っ青な空を背景に、頂きに雪をかぶり、青い稜線を優雅に裾野へ流し広げる富士山が描かれている。手前で淡い桃を見せているのは桜だ。
「きれいだね」
「だろ? 富士は日本一、いや世界一の山なんだぜ」
「オイラの故郷の山も混沌一だよー」
 絵は美しいが、それをハーバリウムで表現できなければ意味がない
「だ、だから次は作るって……あ~、そうだ。ちょっと休憩しようぜ。オレ、何か飲み物とってくる」
「あ、飲み物はボク、オレンジジュース飲みたいでーす!」
 じゃあ、と次々にみんなから注文が入った。飲み物だけでなく、夜食の注文も入る。
 1人では大変だろうとネーヴェが手伝いを申し出た。
「奥州様、わたくしもお手伝いもします。わたくしは、グレイ様が、お持ち込みになった紅茶を。ノアルシエラ様は、オレンジジュースでした、ね。エルナ様にはお茶を」
「一悟くん達が飲み物用意してくれるなら、ボクは軽食を用意して持っていくよ」
「おう、ネーヴェもノアルカイムもありがとう。助かるぜ」
 
●『春爛漫』、『安らぎの場所』で『幸せの四つ葉を探して』
 徹夜になりそうだな。
 威降はあくびをかみ殺した。上半身をうんと伸ばしてから立ち上がり、仮眠をとる人たちにエルナが用意した毛布を掛けて回った。
「お疲れさん」
 一悟が生卵を入れたグラスを威降の席に置く。
「一悟はできた?」
 目の下にクマを作った一悟が、ふっと、息を抜くように笑った。出来上がったばかりの作品を親指で指す。
 フラスコの中に威降もよく知る気高き孤高の山が再現されていた。
「そーいや、初めて富士山に登った時、途中で高山病にかかっちまったんだよなぁ……」
 視線を遠くに飛ばし、懐かしそうに語る。病を気で抑え込み、がんばって登った山頂の景色はさぞ美しかったことだろう。
「ああ……めちゃんこよかったぜ。で、威降はできたのか?」
「もう少しで完成だ。これを飲んで頑張るよ」
 某映画の主人公のように生卵を一気に飲み胃へ下し、作業を再開した。作っているのはふるさと、城址公園の桜だ。
「すげー綺麗だな」
「富士に負けない……春の城址公園は天下第一の景色だよ!」
 紫陽花で作られた空のグラデーションに桜の花びらが舞い飛ぶ。その下、カスミソウの桜木は手前から紅色、一番奥に淡い桜色と、色移りで遠近感が出されていた。桜並木の間に、門と橋も入れられている。
「このカスミソウの中に、門と橋を置くのが難しかったんだ。埋もれてしまわないように、かといって門と橋が浮いてしまわないように……やっと納得のいくものができたよ。でも、一番の難関はここから」
 息を詰め、気泡が入らないように、オイルを瓶の縁に沿わせてゆっくりと流し込んだ。
「よし、完成だ!」
「ボクも頑張らないと、ほんとうに朝になってしまいそうですね」
 エルナはオニギリの最後の一口をお茶で飲みこんだ。
「ジルーシャはクッキーを、ノアルカイムはオニギリをありがとうございます。オニギリは初めて食べましたが……不思議と、温かな気持ちになりました」
 テーブルの向こうから、どういたしまして、と眠たげな声が返って来た。
「では、ご夫婦の為に精一杯、思い出を形に出来る様……頑張りましょう」
 エルナはピンセットを手に取った。紺色のビーズを敷いて湖底を作る。これまでにいくつか作っているので、手慣れたものだ。続いて紫陽花で湖を満たしていく。
 苦労しているのは湖に落ちる月の光の表現だった。
「昔、身を置いていた村に、大きな湖があって。お気に入りの場所だったんです。星空や月明かりが水面に映る……夜の時間が、特に好きで。ほんの偶に、遠くに住む同胞が訪れる事もありましたね」
 白いビーズとカスミソウを一つ一つ、思いを込めて瓶に詰めた。
「やっと表現できました! あとは……オイルを注いだら完成です」
「わたくしも、もう少しで出来上がります」
 そういったネーヴェの手元には、春の花畑があった。緑のビーズの草原に、白、ピンク、黄色の花が咲く小さな楽園だ。
「わたくしは、ここへ行った時……見るもの全部が珍しくて、とてもはしゃいでしまって」
 ネーヴェの意識はガラスを突き抜けて、遠い日の花畑へ飛んだ。
「幸せを呼ぶ、四つ葉をずーっと探してました。結局見つからなくて、泣いてしまったけれど……ふふ、懐かしいです。今探したら、見つかるでしょうか?」
「見つかるわよ、きっと」
 マスカットに似た温かな香気がネーヴェの鼻先をくすぐった。目の前にクッキーが入った小皿が差し出される。クッキーには四つ葉の焼き印が入っていた。
「グレイ様……ありがとうございます。紅茶、とてもよい香り、です。クッキーも美味しそう」
 クッキーを一枚手にとり、カップを持ち上げた。一番鶏の鳴き声が微かに聞こえる。
「ふふ……本当に徹夜になってしまいしたね」
 春の野に降り注ぐ日差しのように、ネーヴェは柔らかく微笑んだ。


「素敵……何とお礼を申し上げてよいか、言葉が見つかりません」
「本当に、本当にありがとうございます」
 イレギュラーズの力作を前にして、老夫婦は涙ぐんだ。
「長い夜も寂しい思いをしなくてすむわね、あなた」
「ああ、そうだね。さあ、新しい我が家へ帰ろう。腕いっぱいの思い出を抱えて」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

素敵な素敵な思い出をありがとうございます。
老夫婦はとても満足してくださいました。
徹夜作業、お疲れさま……。

またのご参加をお待ちしております。

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