PandoraPartyProject

シナリオ詳細

八人のイレギュラーズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●自由と尊厳のために
 小さな塔があった。
 村の人々は塔を日々のよりどころとしていた。
 村人が結婚するときは塔の鐘を鳴らし、誰かが亡くなった時は塔に碑を納めた。
 子供が生まれれば塔に集まって祝い、年が明けるたびみな集まった。
 その塔に今日も、村人は集まっている。
 誰もが暗く俯き、ベンチに腰掛けていた。
「やあやあ諸君、お集まりいただいて光栄だァ」
 眼鏡をかけてひょろながい男が、砂の入ったガラス瓶を手に現われた。
「この瓶を見たまえ。中の砂は土地、上に乗っている石が諸君だ」
 瓶の中に金貨を放り込む。
「おっと、これは私の金だ。瓶を買うための金だ。つまり? 中に入っている砂も私のものだ。どうも小石が邪魔だなあ」
 ぱ、と手を離す。
 よく掃除された床にガラス瓶が砕け、砂が散らされる。
 それを踏みつけ、男は声高に言った。
「この土地は私のものだ。さっさと出て行きたまえ」
「そんなのはおかしい! 我々はずっと前から暮らしていたんだ。首長を酔わせてサインさせたって、そんなものは――」
「小石の意見は聞いていない」
 男がパチンと指を鳴らすと、塔にいくつもの火炎瓶が投げ込まれた。
 たちまちに炎があがり、塔を包み込んでいく。
 逃げ出した村人たちが振り返れば、傾き潰れていく塔があった。
「なんでこんなことをするんだ!」
 羊獣種の青年が涙をたたえて叫んだ。
 こんなことは許せない。そう言った彼女に、男は短く鼻息をついた。
 懐から銃を抜き、振り向いて撃つ。
 羊青年は胸からどくどくと血を流し、仰向けに倒れた。
「後日、傭兵たちに村を焼かせる。荷物をまとめておくんだな」
 男の後ろにはライフルや剣を持った傭兵たちが並んでいる。
 一人の女は青年にすがりつき、声をあげて泣いた。

 翌朝のことだ。
 焼け落ちた塔に集まる人々は、ただ顔を伏せていた。
 塔の前に、一人の女が立つ。羊獣種の青年にすがっていた、あの女だ。
「戦いましょう。傭兵を追い払って、村を守るのよ!」
 誰も顔を上げない。
「私たちは尊厳を奪われたのよ! 土地を、大事な人を、未来を奪われたのよ!」
 それでもまだ、顔を上げない。
 女は歯を食いしばり、麻袋を手に取った。
 彼女と青年が溜めた全財産だ。
 結婚資金であり、二人の住む家を建てるための金だった。
「いいわ、もう皆には頼まない!」
 女は馬に飛び乗った。
 行き先は王都――ギルド・ローレット。

●八人のイレギュラーズ
 ギルド・ローレットを通じて、依頼書が配られた。
 その数たったの八枚。
 幻想の資産家が土地住民を追い出すべく傭兵団を差し向ける。
 これを撃退されたし。
 そんなことをしてどうするんだ、と誰かが尋ねた。
 依頼主である女はただ一言、馬上から言った。
「誇りを取り返す」

 依頼書を手に入れた八人のうちひとりは……あなただ。

GMコメント

 いらっしゃいませ、プレイヤーの皆様。
 傭兵団と戦うべく、八人のイレギュラーズが雇われました。
 勝算は未知数、大金が手に入るわけでもない。
 それをよしとした、八人です。

【相談会場】
 この依頼を引き受けた八人は、おのずとさびれた酒場へと足を運びます。
 ウェスタンドアで仕切られた荒野の酒場。
 無口な店主がウィスキーやバーボンを並べ、数個の丸いテーブルとカウンターがあるだけの店です。
 この依頼の相談は、そんな酒場にあなたがやってきた所から始まります。
 ロールプレイを交えながら、どうぞこの世界をお楽しみくださいませ。

【依頼内容】
 『傭兵団の撃退』
 敵の戦力は未知数。
 沢山の村人を最悪皆殺しにしようとしているので、人数はそれなりにあるでしょう。
 相手はお金にうるさいヤツなので、戦闘能力の低い人員を沢山そろえていると思われます。もしものための手練れは少ない筈です。
 皆さんに配られているカードは『絶望した村人たち』『村の細かい地形』『八人のイレギュラーズ』だけです。
 これを使って敵の情報を探り出し、迎え撃ち、撃退しましょう。

※メタ情報ですが、傭兵団を全て倒せばその雇い主(ひょろながい眼鏡の男)の目の前まで行って追い詰めることができます。

【村人たちと傭兵団】
 村人たちは『きっと勝てないだろう』と諦め、村を捨てるつもりでいます。
 彼らを奮起させることができたなら、彼らから強い協力を得ることが出来るでしょう。
 村人は戦闘力はそれほどありませんが、彼らの協力があれば大がかりな罠をはったり闇雲な一斉攻撃で敵集団を払うことだってできるかもしれません。

 傭兵団は村から離れた場所にキャンプをはっています。
 村人は顔が割れていますが、イレギュラーズたちは別です。
 なんらかの手段を使ってキャンプの内情を探ることができれば敵戦力を把握することができます。
 把握できたなら、自動的に『村に仕掛ける罠』『PCたちの戦闘能力』が効率化され各種行為判定にボーナスがかかります。

 PCたちのたてる迎撃作戦が整っていればいるほどうまくいく確率が上がります。
 また今回に関しては、PC全員のプレイングに作戦内容が記述されていなくても『ちゃんと共有されているもの』として判定します。逆に作戦内容を書いたPCがそれを共有し指示する者として判定されます。

【メタ情報】
 こちらはPCの知らないメタ情報です。相談中は『こんなことが起こるような気がする/あるような気がする』的な盛り込み方をするとクールになれます。
・敵の手練れは4人前後。がっつり戦うPCの数に応じて変化します。
・敵のキャンプは男ばかりです。村を襲う日まではやることがなく、みな退屈しています。
・村人たちはショックのあまり失意じょうたいにありますが、根っこのところには反抗心があるようです。けれど酷いこと(相手の男をリンチしたり)をしたいわけではないようです。
 彼らが本当に失っているのは誇りであり、依頼主の女が言うようにそれを取り返すことが目的のようです。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 八人のイレギュラーズ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月21日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シェリー(p3p000008)
泡沫の夢
はぐるま姫(p3p000123)
儚き花の
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
シェンシー・ディファイス(p3p000556)
反骨の刃
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)
一番の宝物は「日常」
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
再び描き出す物語
ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)
性的倒錯快楽主義者

リプレイ

●荒野の酒場、八人のイレギュラーズ
 砂の混じった風。
 軋むウェスタンドア。
 オレンジ色のランプに照らされたバーカウンターは刃物の跡が目立ち、壁は生焼けのホットケーキのごく弾痕を埋めた跡にまみれている。
 背の高い椅子に腰掛けた『泡沫の夢』シェリー(p3p000008)がグラスを傾れば、がらんと粗く削った氷がグラスの内面を打つ。
 その様子を横目に、『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)はグラスを置いた。
 タコ足をうつようにして椅子から立ち上がり、コインをカウンターに置く。
 店の真ん中にある円形テーブルについていた石動 グヴァラ 凱(p3p001051)はその様子を見て、すっくと立ち上がった。
 目を合わせるでもなく、ただ向かいに座ってコップに手すらつけていなかった『快楽殺人者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)もまた、立ち上がる。
 凱の右目に走った傷跡や袖口や首元に見える文様は彼の平穏とはとても呼べそうにない背景を物語り、一方でニエルの幼さがまるで無視されたかのような振る舞いや目つき、そして時折見える様々な傷跡が凱とはまた別の不穏さを物語った。言葉以上に、雄弁に。
 彼らが何かを小声のうちに示しあい酒場を出て行くのを視線だけで見送ると、『白衣の錬金魔導士』セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)は手にしていたコップをトンとテーブルにおいて周りを見た。
 見た目からは想像しにくい、どこか不思議な雰囲気をもったシェリー。
 見た目通りの雰囲気だが、どこか圧倒的な気高さをもったデイジー。
 甘い果実をもいであるいているような、楽しげな空気を隠しもしないセリカ。
 そして今し方出て行った凱とニエル。
 ひとりだって、フツウの人間なんていやしない。ラデリ・マグノリア(p3p001706)は鉄のカップを手にしたまま、狐そのものの口で低く笑った。
「誇り、か」
 テーブルの向かいに、置かれた球体関節人形――もとい『軋むいのちと虚ろなこころ』はぐるま姫(p3p000123)がきりきりと小さな音を立てて顔を上げる。
「いい言葉だが、苦手だ。匂いもせず、手で触れることも叶わない、曖昧なもの。だが、実際に誇りのため、戦おうとするものは、多い」
「そうね。知識としてしか理解できていない概念だけど。もし、それを奮わせる人々を目の前で見られたならば……」
 ラデリのモノクルが光る。
「興味が?」
「ええ」
 二人は笑っているのかいないのか。
「そのために、この人助けのような依頼を」
「人助け? 違うな。おれはただ、気にくわなかっただけだ」
 椅子を蹴るように立ち上がって、ずかずかと酒場を出る『反骨の刃』シェンシー・ディファイス(p3p000556)。
 ウェスタンドアを開いて外に出れば、砂と風と無情さが広がっていた。
 死んだ動物を鳥が喰っている。弱肉強食、適者生存。
 それが世の理だとするならば……。
「一方的に蹂躙するだけの輩に荒らし回られて、どうして黙っていられる」
 ふざけるな。ここで戦うことを選ばず、ただ負けるのを良しとするのなら、ただ生きているだけのヒトガタ。永遠に負け犬以下の弱者だ。
 それが嫌なら戦え。戦う意志を見せろ。最初から負けるつもりの馬鹿になど……。
「そうだ、気にくわなかっただけだ」
 焼けた塔が、ずっと遠くに見えている。

●御旗を掲げよ
 村の女が馬をひいて戻り、ローレットのイレギュラーズを雇ったことを述べたとき、村の人々は決して良い顔をしなかった。
 大人しく村を去れば殺されずに済んだはずだ、だとか、余計なことをしてくれた、だとか。口々に不満を漏らしては女をなじった。
 村の顔役たちは村長の家に集まり、村を出て行く手段について話し合うことになった。どれだけ財産を持ち出すことを許してくれるだろうか、だとか。そんな話し合いだ。
 そこへ一人の女――デイジーが踏み入った。
「辛気臭い顔が並んでおるのじゃ。なんじゃ、ここは葬式会場なのかの?」
 顔役たちを順繰りに見て、首を振る。
「いや、ここに並んでおるのは死体じゃな。自らの尊厳を踏みにじられてなお、そのように下を向く者なぞ死んでおるのと一緒じゃ」
 デイジーの言葉には奇妙な説得力があった。と言うより、『なにを』と思わせる種火のようなものがあった。
 思わず立ち上がった村長を、まっすぐに見据えるデイジー。
「誇りを、尊厳を、そなた達の手で取り戻すのじゃ。妾たちはただのよそ者かも知れぬが、力は強い。そなた達が己が矜持のため立ち上がるならば、必ずや勝利を約束するのじゃ」

 一方で、村の出口に当たる場所に女と馬がたっていた。
 村から逃げだそうとする者たちを阻むようにだ。
 馬車いっぱいに財産をつめた彼らは、そこをどけと乱暴に怒鳴った。
 ついには手を上げようとする者が現われたその時、馬の上からこんな声がしたのだ。
「皆さんの胸に、誇りはありますか」
 見上げれば人形。はぐるま姫が語っていた。
「彼らに焼き払われれば、この村の歴史は、そこで終わりです。塔も、祭りに語らった夜も。かつてここに村があったことすら、忘れられてゆくでしょう。この村の誇りは、永遠に死にます」
 はぐるま姫の言葉はかつての思い出や未来への希望をもっていた人々にしみこみ、そのことを諦めていた者たちは一度顔を伏せた。
「あなた達の誇りを守るのは、我らではありません。歴史を語り継ぐのも、我らではありません。胸の内に僅かでも誇りの欠片を残す者は、立ちなさい」
 はぐるま姫が顔を上げる。
 視線の先にある、やけ崩れた塔を、皆振り返った。
「己が誇りを剣とする者は、例外なく、この村という歴史を守った勇者となりましょう。そして誇りある勇者のためであれば、わたし達は命を賭して、あなた達の勝利を約束します」
 たちのぼる煙。
 折れた心と誇りの象徴。
 はぐるま姫にせかされるように、彼らの心に勇気の光がともった。
 たかたかと馬を進め、塔へ導くはぐるま姫。
「勇者たらん者は、我らが旗に集いなさい!」
 村を出ようとしてた村人たちは、歯を食いしばって馬を引いた。
 焼け落ちた塔へと。

 塔には人々が集まっている。
 村の顔役。村を出ようとした人々。おびえ隠れようとしていた人々。
 シェンシーは炭とかした柱を蹴飛ばし、彼らを見下ろしている。
「お前らは馬鹿にされたんだ。負け犬にされたんだよ」
 シェンシーの目が、どこか怒りの光に燃えた。
「そんなことが許せるか? 許せないよな。金を払えば一方的になじっていいと、オモチャにしていいと思っている腐った奴に、家を、家族を、自らの臓物を好き放題にかき回されて――そんなことが許せるか!」
 柱を踏みつけ、踏み抜き、歯を食いしばって叫ぶ。
「おれは許せない。心の底からムカついている! 奴らも! お前らもだ! 諦めたい奴はここで死ね! 泥と炭を喰って死ね! 死にたくないなら、人でいたいなら――」
「「御旗を掲げよ!」」
 デイジーが、はぐるま姫が、集まった者たちに呼びかけた。
 落ちた塔の鐘が、若い青年の金槌によって打ち鳴らされる。
 不格好な鐘の音が、村に響き渡った。

●やがて塔を建て直さねばならぬ
 子供たちが、女たちが、老人たちが、あちこちの木々を担いでバリケードをこしらえる。
 男たちは猟銃や剣をとり、少しでも戦えるようにと練習を始めている。
 シェリーは村の地図を手に罠の仕掛けをこしらえていた。
 一人で作れない罠も、村の皆が力を合わせれば作ることができる。
 女たちが縄を引き、酒の詰まった樽を積み、スコップでひたすらに掘った穴にシートを引きずっていく。
 一方でセリカもまた酒や砂や小麦の袋といったあれこれを運ばせ罠を作らせた。
 セリカの指導を受けて村人たちは猟銃を撃ち、農具を振るい、炸裂弾の投げ方を覚えた。
 皆の罠を設計したのはラデリだ。
 彼は村人たちの力を使って見せかけのバリケードを作り、進入路の限定や誘導を狙っていた。
 なぜこんな依頼を? 誰かに尋ねられ、ラデリは帽子のつばをあげて応えた。
「確かに、我々イレギュラーズならば、傭兵達を打ち払うことは可能だろう。しかしそれだけでは、誇りを取り戻すという目的は達成できない。俺には、貴方たちの誇りの在りかなど、知らないのだ。誇りを知らぬ者に、この村の命運を委ねてどうする」
 そう言って、『つまりは人手が足りんのだ』と相手の背中を叩き、作業に戻すのだ。
「貴方たちには、撃たれた者の碑を納める役目が、残っているだろう。貴方たちは塔を、建て直さねばならない」
 焼け落ちた塔はまだそのままだ。
 だがあれが再び立ち上がる時があるのだとすれば。
 それは、村人たちが立ち上がったあとでなければならないのだ。

●悪党のならわし
 傭兵キャンプに訪れた凱を見て、村人の関係者だと思った者はいなかった。
「美味い、仕事が、あると、聞いて、な。俺か? 見ての通りのはぐれ、だ。其れでも、食い扶持は、稼がねば、な。其処の雑魚、を、数人雇う金、で安心を売ってや、る」
 雑魚と呼ばれた男が気分を害したのか彼に掴みかかるが、凱は相手の顔面を殴りつけ、しこたまに殴り蹴り許しを請うまでそれを続けた。
 やってきた眼鏡のひょろながは眼鏡を外し、『いいだろう』と言って契約書を書かせた。
「私はルシフという。私に危害を加えることと私の損になることはするな。金は働きで決めてやる。もめ事は起こすなよ」
 ルシフに認められた凱は、キャンプへと立ち入る許可を得た。
 見たところ統率などまるでとれていないごろつきの集まりだ。盗賊くずれや薬物中毒者、強盗の常習犯といったところか。
 戦士とはとても思えないが、罪なき村人を追い立てるには充分だろう。いざとなれば殺すことも出来るメンタルも持っている。
 凱は鼻で息をつき、時を待つことにした。

 それから暫くして、傭兵キャンプにとても風変わりな人間がやってきた。
 ニエルだ。きわめて幼い容姿でありながら恐ろしく扇情的な、そしてどう見てもまともではない容姿から、傭兵たちは彼女が自分たちの同類であることを察した。
「リーダーに会わせてくれたら、きっと気持ちいいことが出来るわよぉ?」
 そんな風に語る彼女を招き入れたのは、勿論彼女から似た空気を感じたからというばかりではない。傭兵(もといゴロツキ)の中にニエルのもつ『悪い噂』を知る者がいたからだ。
 ならば役に立つだろう。雇い主であるところのルシフは険しい顔つきでニエルと面談をした。
 面談で彼女は『誰でも良いから切りたいので協力したい』と言ってきた。そのうえ『襲撃するその時まで私の身体を好きにしても良い』とまで言う始末だ。
「見た感じ退屈してるみたいだしぃ、皆でいっぱいキモチイイコトしましょぉ? あなた達は性欲と退屈を凌げてハッピー、私も久し振りに気持ちいい事出来てハッピーだわぁ?」
 金でものを考えるルシフはニエルを侮ってかかり、すきにしろと言って雇うことに決めた。
 とはいえ傭兵キャンプは低俗な悪党のたまり場である。
 ニエルの気風はここの空気によくなじみ、短期間で一定のポジションを確立するに至った。
 傭兵たちのまとめ役が村を襲撃する手はずを大雑把に決めようとする時にも……。
「襲撃するにしても事前の調査は必要。情報を持ち帰ってくればそれで良し、帰ってこなかったのなら敵がいる証拠だもの。敵がいるなら固まって、数を見せてビビらせてやりましょう」
 といって、少数の手勢を先に送り込む計画を立てさせたのだった。

●反撃
 少数のごろつきが村の北側より近づいていた。
 バリケードの存在を知った彼らは突入すべき場所を変えるか無理矢理登るかを考えながら村をぐるりと回ろうとしたが……。
 彼らの接近を敏感に察知していたシェリーが物陰から現われ、彼らを剣で切り伏せた。
「始まるようですね。皆様、準備を」
 物陰からそれを観察していた村人たちは急いで村へ戻り、シェリーの指示した罠の準備にとりかかった。
 一方で斥候が戻らないことにしびれを切らしたルシフは傭兵たちに呼びかけた。
 村が用心棒を雇ったに違いない。邪魔者はかたづけて、残りは皆殺しだ……と。
「いい、だろう」
「これだけいれば充分でしょぉ?」
 凱とニエルは、傭兵のまとめ役や腕の立つ連中たちと共に村へと向かった。
 彼らと共に飛び出すは馬にのった無数のごろつきたちだ。
「北側はバリケードができてる。左右に回ろう」
「チッ、面倒くせえな!」
 傭兵集団は左右に分かれ、それぞれ村へと突入を始める。
 が、村の中央路にさしかかった途端、巨大な落とし穴が発動した。
 馬ごと落ちた彼らは落馬と地面に敷き詰められた即席槍によって次々と脱落していく。
 落とし穴に気づいて迂回しようとした連中やギリギリ助かった連中には、村人たちの一斉攻撃が待っている。
「今です」
 杖をかかげたはぐるま姫のマギシュートをきっかけにして、村人たちが猟銃や弓矢の一斉射撃を浴びせていく。
 一方で反対側。落とし穴の作りづらい道に駆け込む傭兵たち。彼らに応じて縄を切って無数の樽を転がり落とすと、レイジーはピッと手を翳した。
「今じゃ、火をはなてぃ!」
 一斉に投げ込まれる火炎瓶。
 爆発し、炎は酒樽に引火して更に破裂を起こす。大量の金属片や塩を含んだ高コストな即席爆弾は傭兵たちをまるごと吹き飛ばしていった。
「くそっ、罠だ!」
「こんな村、火でもつけちまえば一発だろう!」
 松明を持って村に火を放とうとするバリケード前の傭兵たち。
 そこの守りについていたセリカとラデリはそれぞれ武器を取り、魔法による射撃を開始した
「みんな、とにかく投げるだけ投げて!」
 バリケードで守られた村人たちは焼けた石をてこの原理で放ったり弓矢を闇雲に放ったりと傭兵たちを牽制する。
「土地を、砂の入った瓶に例えたか。ならば小石に躓かせてやろう、ついでにガラスの破片を顔いっぱいに打ち付ければいい」
 それにあわをくっている間に、ラデリとセリカは的確に傭兵たちをノックアウトしていった。
「どうなっていやがる。こんな抵抗があるなんて聞いてねえぞ!」
 ハンマーを持った大男がいらだち紛れに村へと飛び込んだ。
 立ち塞がるシェンシー。
 アンタの相手はおれだ、と言わんばかりの構えに、大男は思わず引きつけられた。
 ハンマーが脳天めがけて繰り出される。
 大きく踏み込むシェンシー。
 かわしきれない程の速度と勢いではあったが、無理矢理懐に潜り込んだ彼女の剣が、大男の腹をさいていく。

「後退だ。ただ突っ込むだけでは勝てないぞ」
 傭兵たちのまとめ役が冷静に言った。
「奴ら、誇りは、失っていなかった、らしい」
 凱は呟き、きびすをかえすように見せかけて隣の傭兵を殴り倒した。
「てめぇ!?」
「然らば、俺も、仕事、を、せねば、な」
 喧嘩自慢の傭兵が殴りかかるが、凱は構うこと無く蹴りを叩き込む。
「仕事? お前、村のスパイ――」
 凱の正体に気づいたまとめ役。しかし彼の言葉は途中で途切れてしまった。
「言ったわよねぇ、誰でも良いってぇ♪」
 背後に忍び寄っていたニエルの仕業だ。
 まとめ役の男は剣を抜き、神をののしる言葉を吐きながらニエルへと襲いかかった。

 爆発がおき、悲鳴があがる。
 血が流れ、砂地がえぐれていく。
 そう長くない時間が経った頃、血まみれのニエルやシェンシーたちが、ある男を囲んで立っていた。
「こ、ころさないでくれ……」
 誰もが言うような台詞をはいて、ルシフは手をあげる。
「今日はちと寒いのじゃ。村が焼かれておったのならきっと暖も取れたのじゃろうが、それはなくなったしの」
 手を翳してわざとらしく首を振るデイジー。
 こいつを燃やせば暖がとれそうじゃ。笑って言う彼女に、ルシフは『金ならいくらでも出す』と叫んだ。
 ぴっとマッチをするデイジー。
「金貨で暖がとれるか。『誰かを騙してサインさせた紙切れ』でもあればのう」

●誇りと八人の物語
 塔の鐘が、やぐらの上に吊るされた。
 焼け落ちた塔のあとに、再び塔を建てるためだ。
「さて、依頼は終了しましたので帰るとしましょうか」
 そっけなさそうに立ち去るシェリーを村の顔役たちが追いかけた。
 金はないが礼がしたい。そんな風に言う彼らに、表情も変えずに振り返る。
「私は依頼を請け、それを遂行したのみです。お礼でしたら、私などよりも告げるべき方がいらっしゃるのでは?」
 シェリーのいわんとすることを察した彼らは恥に顔を伏せ、そして塔へと走って行く。
 それを見ていたシェンシーや凱、ニエルたちは何も言わずに村を去って行った。
 はぐるま姫を抱え、セリカが村を出る馬車へ乗り込む。
 その間際、依頼人の女が声をかけた。
 依頼を受けてくれてありがとう。けれど、なぜここまで?
 セリカはぱっと笑って振り返り……。
「わたしはみんなを元気に、笑顔にしてあげる為に旅をしてるんだ。だから、元気をなくして、笑顔でいられないみんなを何とかしたい。そのために一生懸命、やれる事を精一杯しただけだよ!」
 ほら、あなたも。
 セリカが指をさす先で、村の顔役たちが女へと集まっていく。
 塔を建て直す話をしているようだ。
 走り出した馬車。
 女はぱっと笑顔になって、セリカを振り返る。
 何かを言ったように見えたが、聞こえはしなかった。

 塔には、ある八人の名前が刻まれるという。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 眼鏡のひょろながい男ルシフは土地買収や傭兵の雇用といったお金をすべて無駄にしたせいで破綻をおこし、無残な末路をたどるものでしょう。
 しかしなにより重要なことは、村の人々が戦ったことあり、勝利したことであり、そしてこれからも戦い続けられるということです。
 考えの違いはあれど、皆様の行ないはある村の人々に誇りを取り戻させたのです。

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